朗読少年

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By 朗読少年LeisureHobbies
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朗読少年 episodes

  • 朗読少年 ミサイル
    朗読少年 ミサイル 僕はミサイルです。細くて硬くて冷たいミサイルです。頭にたくさん爆弾を詰めて、お尻に火をつけると雲より高く飛んで目的の場所や建物を破壊します。そこは火の海になりあっという間に生き物のいない暗くて音のない世界になります。僕はとうとうあと1時間で出発するのですが、本当は行きたくありません。できることなら雲を超えてもまだまだ高く飛んで、星に近づいていき消えてなくなりたいなと思います。そして生まれ変わったら今度は風船になりたいです。風に任せてゆらゆら飛んで、子供がたくさん遊んでいる公園なんかにゆっくり降りて行き、そこでずっとゆらゆらしていたいです。
    3 min
  • 金のなる木
    金のなる木
    昔々ある山あいの小さな村に、太郎という若い男と次郎と言う男がそれぞれとなりどうしで一人暮らしをしておりました
    太郎はすっかり働き者で朝から働き者で朝から晩までせっせと山へ行って芝を刈ったり畑を耕したり
    海へ行って魚を釣ったりしておりました
    次郎に関してはあまり動き回るのが好きではないらしく朝から晩まで家の中でボーッとしたり、たまに山へ行って虫や小鳥たちをとってきてはぶらっと遊んだりしておりました
    そんな太郎と次郎の村に一週間ほどしばらく長い雨が続いて、真っ黒な雲が空を覆っておりましたところ
    その黒い黒い雲の上に雷様がドンドコドンドコ太鼓を叩いておりました
    雷様がドドーンと太鼓を叩くとピカピカドーン
    雷が一つすごく光っているのでした
    この雷様は力強くて恐い神さまでしたけども、心は大変優しい人でした
    ただちょっと、うっかりもので雷様がなんとかこの雷は人が住んでる家や畑や動物が寝ている木の上に落とさないように
    できるだけ海の上や村から遠く離れた山まんかにピカピカドーンピカピカドーンと太鼓を鳴らしながら落としているのでした
    ただこのウッカリ者の雷様はある時、ドコドコドーンドンドンドーン
    その日の1番大きな音で太鼓を叩いて大きな大きな雷を落としたところ、なんとうっかりして太郎と次郎の屋根の上に落としてしまいました
    あれ〜
    瞬く間に太郎と次郎隣り合わせの村家二軒があっという間に燃え上がって、家も囲炉裏も何もかも全てが灰になってしまいました
    太郎の家も次郎の家も柱と布切一枚残っているだけで何とかその晩の雨をしのいでなんとか寝ることができました
    さすがの雷様もありゃー、悪いことをしてしまったもんじゃ
    よし、太郎よ次郎よちょっと待っといてくれ
    太郎と次郎は家も何もかも持つものがなくなったけどもまぁそのうち何とかなるだろうとその晩はゆっくりいびきをかいて寝ておりました
    するとフクロウもこっくりこっくりする夜中の真ん中のそんな時間にまず太郎の枕元に雷様が立って1つ種を寝ている太郎の枕元に置いておきました
    そして太郎の一言話ました
    太郎やこれは金のなる木の種じゃ、朝起きるとな家の前の畑にこの種を一粒うえてそしてその日から朝昼晩と毎日毎日水をやるのじゃ365日毎日水をやるとな、この種は大きな金のなる木となってお前さんのおうちもくわも籠も畑も
    全部この金ですぐ買えるもんだから、必ず忘れずに朝昼晩と水をやるんじゃぞ
    そういうと雷様は今度は次郎の枕元に立って同じことを言いました
    太郎も次郎も朝起きると枕元に1粒の種があるので
    なんじゃろの?あれはほんとのことかいの?
    半信半疑で太郎も次郎も自分の家の前の畑に種を植えることにしました
    働き者の太郎はその日から朝昼晩と水をやっていたけども次郎のほうはなかなかそうはいかずに1週間ほど雷様の言う通りに水をやっていたけどもな
    とうとうそれもめんどくさくなって、水をやるのもやめてしもうたんじゃ
    しばらくするとな
    太郎も次郎の畑にも次郎ちっちゃなちっちゃなひとつの芽が生えてきて半年もすると太郎と次郎の背丈ぐらいある木になったんじゃ
    毎日 朝昼晩とな水をやっている太郎に村の子供たちや裏山のちっちゃな動物、たぬきや猪そして熊なんかもやってきて
    太郎どん、何やってるんじゃ
    太郎さん太郎さんまいみ水をやってるそうじゃなぁ
    面白そうなんでワシも手伝わせてくれや
    子供達も動物達も手伝ったりする様になったんじゃな
    一方次郎は何にもしなかったから木は元気になっていたけども
    子供達も山の動物達もなかなか声をかけずにいたもんじゃ
    そしてとうとう365日経った日の朝、次郎の家の前には立派な金のなる木が1本
    その木にはには大判小判がびっくりするほどなっていたもんでな
    それを見て次郎はありゃー、ワシは途中から水をあげてなかったけども雷様はワシにこんけのお金をさずけてくれたんじゃの、そして毎年この日が来ると金がなるんじゃのう
    そういってせっせとその木の大判小判を摘んで街へ買い物に出かけました
    一方働き者の太郎の家の前の木は、大判小判ではなくてイガイガの栗の実がたくさんなっていたんじゃ
    それを見た太郎は
    ありゃ?金のなる木と雷様が言っていたが栗がなったんじゃのう
    いやま、栗でも十分ありがたい
    早速とって手伝ってくれた子供たちと、裏山の動物たちに栗でも焼いて食べてもらおう
    そう言って大きな籠で栗を摘み始めました
    それを見ていて、おかしいなぁ…とつぶやいたのは雲の上の雷様です
    太郎の家にはなんで栗しかならんのじゃ
    そうつぶやきながら左手の指と指の間を見てみると、なんとまぁ金のなる木がひと粒手にくっついてるじゃないか
    びっくりした雷様は、ありゃこれは1年前に太郎にあげるはずの金のなる木の種じゃ
    と言う事はワシは、金のなる木の種と栗の木の種を間違えて太郎に渡したもんじゃな
    そうです。あの時雷様は太郎に間違えて金のなる木の種の代わりに栗の木の種を渡してしまいました
    しかしまぁ1年も経ってしまったので今更太郎に金のなる木の種を渡すこともできず雷様はそそくさと遠くの山の雲の上行ってしまいました
    栗をたくさんとった太郎は子供たちや裏山の動物たちとたくさん栗を食べて楽しんでおりましたが
    村の爺様や婆様、そしてお父さんお母さんも「いい栗じゃのう、ワシにもひとつおくれ」と言いながら
    毎日毎日太郎の家にやってくるもんですから太郎も大変人気が出てきました
    そして爺様や婆様ははあまりにおいしい栗だったのでもらいに来るたんびに畑でとれたイモや米、港でとれた魚など持ってきては太郎にあげて
    裏山の動物たちも力仕事なんかがいる時は太郎の手伝いをするもんでした
    そうやって人の流れがたくさんあり、毎日毎日作物いっぱいもらうもんだから
    太郎の家はゆっくりゆっくり栄えていきました
    一方で金のたくさんたくさんなった次郎の家は最初のほうは街の庄屋や若旦那
    そしていろんな国から商売人が来て豪華な反物やきらきら光る器なんかを持ってきては次郎に売り付けて
    人も賑わっておりましたが、なんとその次の年次郎の金のなる木は真っ黒に枯れてしまいました
    ずーっと水もやらなかった次郎の金のなる木は
    一度だけ頑張ってお金を実らせたけども
    次の年にはとうとう死んでしまったのです
    そうすると街の若旦那やいろんな国からの商売人はピターっと来なくなって
    次郎は毎日朝から晩までひとりでぼーっとするようになりました
    それから毎日次郎は枯れた金のなる木に向かって
    来年こそは実ってくれやの
    そう言って何年も何年もつぶやいているのでした
    となりの太郎の栗の木はと言うと、大きく大きく毎年実はたくさんならせてひっきりなしにやってくる村の人たちが持ってきたいろんなものも家に積み上がってそして山から手伝いに来る動物達のおかげで
    畑の作物もいっぱい実って、金は無かったけども仲間もたくさん出来て
    ずっと豊かに暮らしました
    この話はこれでおしまい
    20 min
  • ウミガメの恩返し
    朗読少年 ウミガメの恩返し 
    昔々あるところに清六という若い男が住んでおりました。
     海沿いの小さな村に一人で住んでいた清六は 村人達に知らない者はいないというほど 魚釣りが上手くて 、清六がすーっと海に竿を垂らすと すぐにアジやメバル、 タイやヒラメそしてタコやイカなんかどんな魚でもすぐにパクっと食いつくのでした 。
    清六は毎朝早くから片手に釣竿 そして背中には大きな籠を背負って 海に出かけます。
     そして夕方になると背中のかごがいつも魚でいっぱいになるのです。
     「清六どーん 今日もたくさん釣れたようじゃの」村人は清六に声をかけると
    「今日はの太いアジが釣れたんでな」と清六は大きく太ったアジをポイッと渡して
    「清六さんご苦労さんじゃったのう」村のばあ様が声をかけると 
    「ばぁ様これこれ」と清六はばあさまに小さなカレィを両手に余るほど渡しました 。
    海からの帰り道で清六は 村人たちに声をかけられるごとに 
    ほれ、ほれ、ほれ~と釣れた魚を 渡していくもんですから、家に着く頃には小さな魚が2、3匹しか残っていません。
     それでも清六は残った魚を小さな鍋に入れて くつくつと煮立たせてからなんとも嬉しそうに 食べるのでした。
    そして その日も朝から清六は海に出かけて行って たくさん魚を釣っていたら
     なんといきなり 釣竿がピーンと張ってものすごい力でひきがありました。
    あまりにも力強い引きなので清六は海に落っこちそうになったんですが、何とか踏ん張って 強く引っ張ったりたまに力を抜いてみたりしていました。
     しかしなかなか魚は顔を出してくれません。
    「 こいつは困った、よほどのでっかい魚なんだな。ゆっくり焦らず竿を引いていくとするか」
      そう呟いた清六は焦らずゆっくり 少しずつ竿を引いて、そしてやっとこさ釣り上げて陸にあげてみると なんと大人の背丈ほどもあろうかというでっかいでっかいウミガメが釣れたのです。
     びっくりして尻もちをついてしまった清六は
    「ウミガメの あんたを持って帰ってもわし一人で到底食べきれんから、海へ帰ってくれや 」と優しくつぶやいて 大きな大きなウミガメを海へ帰してやりました。
     何とも大きなウミガメのいるもんじゃのぉと独り言を言いながら、その日もいつもと変わらず釣れた魚を村人たちに配って帰りました。
     清六は半日大きなウミガメと戯れて 疲れてしまったので、その夜はいつもより早めに 眠ってしまいました。
     大きないびきをかきながら眠っていると コンコンコンと誰かが玄関の戸を叩く音で清六は目が覚めてしまいました 。
    もう 夜中で真っ暗で 、フクロウもうとうと寝てしまおうかと言うほど、そんな夜更けに
     「あれ誰だろうかこんな夜更けに」清六は不思議に思いながら 玄関の戸を開けてみると そこには 黒い服を着た 大きく真っ白の髭を蓄えた おじいさんが立っていたのです。
    「 清六さん、今日はウミガメを逃してくれてありがとうございました。ワシはそのウミガメの父親で 海の長老です 」
    清六は眠たい眠たい目をこすりながら 半分寝ぼけた頭で 何とも信じられないというふうな顔をしていますと
     「逃がしてくれたお礼にこれを差し上げます。 困った時は こいつを思いっきり吹いてください きっと清六さんの役に立つはずです」
     海の長老の差し出した手を見ると 手のひらくらいの小さなホラ貝の貝殻でした。
     その貝殻をそぉっと清六の手に渡すと 軽く頭をぺこりと下げて 海の長老のおじいさんは その場ですっと消えてしまいました。
     夜中に急に起こされた清六はもう眠たくて眠たくて 仕方なかったので 手の中にあった貝殻を枕元に置いといて またすぐにグゴグゴとイビキをかきながら 深い眠りに落ちて行きました 。
    それを屋根裏で見ていたのは ネズミの親子です。
     この二匹はいびきをかき始めた清六を見て 、枕元に転がっている貝殻をそぉっと持ち上げて、えっちらおっちらと 屋根裏へ持って行ってしまったのです。
    やがて朝になって
    清六が目をさますと 
    「しかし 不思議な夢を見たもんじゃ」 と貝殻のなくなっている枕元を見つめて一人呟きました 。
    昨夜の出来事が夢だと思ってしまった清六は またいつものように 釣竿を持って大きなかごを背中に担いで海へ出かけて行ったのです。
     そして
    かれこれ10年の月日が流れ 清六の家には働き者の嫁さんと 生まれて間もない可愛い可愛い赤ちゃんが授かっておりました。
     しかし その年の夏、 半年以上も雨が降らず 日照りが続いたもんで作物のすべて枯れてしまい とうとう井戸の水まで枯れ果ててしまったのです。
     しかし一向に雨雲の気配もなくて 村にも 食べ物 や飲む水さえもなくなって、とうとう 清六の家の赤ちゃんへ飲ませる 嫁さまの乳さえ出なくなってしまったのです 。
    「わしらの可愛い赤ちゃんや」 泣きながら子供を抱えている母親を見つめ 、途方に暮れていた清六の頭に、コツンと片手ほどの貝殻が落ちてきたのです 。
    その貝殻を見た清六は
    「あんれ? どこかで見た貝殻じゃの」
    とつぶやきましたが、 どこで見たのかは思い出せません。
     清六はにわかにその貝殻を拾って 
    「もしかしたら中に水が溜まっているかもしれんの 」そう思って そのホラ貝を赤ちゃんの口も取り寄せてみました 。
    するとその赤ちゃんは 貝殻の先をパクッと口にくわえ 
    「ブーブーブーブー」と言い始めました。
     するとなんとしたことでしょう、村じゅうにいや海の向こうにまで響き渡るような
    ブゥオー、ブゥオー、ブゥオーという大きな大きな音が そのほら貝から響いたのです 。
    すると急に、 あたり一面真っ暗になったかと思うと、ゴロゴロと雷が鳴り始め ザザーっと雨が降り出したのです。
     半年以上もお目にかかれなかった大粒の大粒の恵みの雨です。
     その雨は三日三晩続いて作物も 井戸の水も溜まって 清六の嫁様や赤ちゃん 、村人たちも元気を取り戻しました。
    「そういえばっ!」
     ここでやっと清六は そのホラ貝の貝殻を見て 昔逃がした大ガメのことや 、夜中に訪れた白い髭のおじいさんの事を思い出しました。
    「なんとまぁ、あれは夢ではなくて本当のことだったんだのぉ」そして元気を取り戻した清六は 、また次の日から海へ出かけ 帰りには たくさん釣れた魚たちを村人たちに くばる 毎日を過ごし始めました。
     清六の家には 働き者の嫁様と 可愛い赤ちゃん、 それから屋根裏には10匹に増えたネズミの家族が 暮らしています 。
    おしまい
    15 min
  • 宮沢賢治 風の又三郎 其のニ
    みんなもすっかり元気になってついて行きました。
    「だれだ、時間にならないに教室へはいってるのは。」一郎は窓へはいのぼって教室の中へ顔をつき出して言いました。
    「お天気のいい時教室さはいってるづど先生にうんとしからえるぞ。」窓の下の耕助が言いました。
    「しからえでもおら知らないよ。」嘉助が言いました。
    「早ぐ出はって来こ、出はって来。」一郎が言いました。けれどもそのこどもはきょろきょろ室へやの中やみんなのほうを見るばかりで、やっぱりちゃんとひざに手をおいて腰掛けにすわっていました。
     ぜんたいその形からが実におかしいのでした。変てこなねずみいろのだぶだぶの上着を着て、白い半ずぼんをはいて、それに赤い革かわの半靴はんぐつをはいていたのです。
     それに顔といったらまるで熟したりんごのよう、ことに目はまん丸でまっくろなのでした。いっこう言葉が通じないようなので一郎も全く困ってしまいました。
    「あいづは外国人だな。」
    「学校さはいるのだな。」みんなはがやがやがやがや言いました。ところが五年生の嘉助がいきなり、
    「ああ三年生さはいるのだ。」と叫びましたので、
    「ああそうだ。」と小さいこどもらは思いましたが、一郎はだまってくびをまげました。
     変なこどもはやはりきょろきょろこっちを見るだけ、きちんと腰掛けています。
     そのとき風がどうと吹いて来て教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、学校のうしろの山の萱かやや栗くりの木はみんな変に青じろくなってゆれ、教室のなかのこどもはなんだかにやっとわらってすこしうごいたようでした。
     すると嘉助がすぐ叫びました。
    「ああわかった。あいつは風の又三郎またさぶろうだぞ。」
     そうだっとみんなもおもったとき、にわかにうしろのほうで五郎が、
    「わあ、痛いぢゃあ。」と叫びました。
     みんなそっちへ振り向きますと、五郎が耕助に足のゆびをふまれて、まるでおこって耕助をなぐりつけていたのです。すると耕助もおこって、
    「わあ、われ悪くてでひと撲はだいだなあ。」と言ってまた五郎をなぐろうとしました。
     五郎はまるで顔じゅう涙だらけにして耕助に組み付こうとしました。そこで一郎が間へはいって嘉助が耕助を押えてしまいました。
    「わあい、けんかするなったら、先生あちゃんと職員室に来てらぞ。」と一郎が言いながらまた教室のほうを見ましたら、一郎はにわかにまるでぽかんとしてしまいました。
     たったいままで教室にいたあの変な子が影もかたちもないのです。みんなもまるでせっかく友だちになった子うまが遠くへやられたよう、せっかく捕とった山雀やまがらに逃げられたように思いました。
     風がまたどうと吹いて来て窓ガラスをがたがた言わせ、うしろの山の萱かやをだんだん上流のほうへ青じろく波だてて行きました。
    「わあ、うなだけんかしたんだがら又三郎いなぐなったな。」嘉助がおこって言いました。
     みんなもほんとうにそう思いました。五郎はじつに申しわけないと思って、足の痛いのも忘れてしょんぼり肩をすぼめて立ったのです。
    「やっぱりあいつは風の又三郎だったな。」
    「二百十日で来たのだな。」
    「靴くつはいでだたぞ。」
    「服も着でだたぞ。」
    「髪赤くておかしやづだったな。」
    「ありゃありゃ、又三郎おれの机の上さ石かけ乗せでったぞ。」二年生の子が言いました。見るとその子の机の上にはきたない石かけが乗っていたのです。
    「そうだ、ありゃ。あそごのガラスもぶっかしたぞ。」
    「そだないであ。あいづあ休み前に嘉助石ぶっつけだのだな。」
    「わあい。そだないであ。」と言っていたとき、これはまたなんというわけでしょう。先生が玄関から出て来たのです。先生はぴかぴか光る呼び子を右手にもって、もう集まれのしたくをしているのでしたが、そのすぐうしろから、さっきの赤い髪の子が、まるで権現ごんげんさまの尾おっぱ持ちのようにすまし込んで、白いシャッポをかぶって、先生についてすぱすぱとあるいて来たのです。
    7 min
  • 宮沢賢治 風の又三郎 其の三
    みんなはしいんとなってしまいました。やっと一郎が「先生お早うございます。」と言いましたのでみんなもついて、
    「先生お早うございます。」と言っただけでした。
    「みなさん。お早う。どなたも元気ですね。では並んで。」先生は呼び子をビルルと吹きました。それはすぐ谷の向こうの山へひびいてまたビルルルと低く戻もどってきました。
     すっかりやすみの前のとおりだとみんなが思いながら六年生は一人、五年生は七人、四年生は六人、一二年生は十二人、組ごとに一列に縦にならびました。
     二年は八人、一年生は四人前へならえをしてならんだのです。
     するとその間あのおかしな子は、何かおかしいのかおもしろいのか奥歯で横っちょに舌をかむようにして、じろじろみんなを見ながら先生のうしろに立っていたのです。すると先生は、高田たかださんこっちへおはいりなさいと言いながら五年生の列のところへ連れて行って、丈たけを嘉助とくらべてから嘉助とそのうしろのきよの間へ立たせました。
     みんなはふりかえってじっとそれを見ていました。
     先生はまた玄関の前に戻って、
    「前へならえ。」と号令をかけました。
     みんなはもう一ぺん前へならえをしてすっかり列をつくりましたが、じつはあの変な子がどういうふうにしているのか見たくて、かわるがわるそっちをふりむいたり横目でにらんだりしたのでした。するとその子はちゃんと前へならえでもなんでも知ってるらしく平気で両腕を前へ出して、指さきを嘉助のせなかへやっと届くくらいにしていたものですから、嘉助はなんだかせなかがかゆく、くすぐったいというふうにもじもじしていました。
    「直れ。」先生がまた号令をかけました。
    「一年から順に前へおい。」そこで一年生はあるき出し、まもなく二年生もあるき出してみんなの前をぐるっと通って、右手の下駄箱げたばこのある入り口にはいって行きました。四年生があるき出すとさっきの子も嘉助のあとへついて大威張りであるいて行きました。前へ行った子もときどきふりかえって見、あとの者もじっと見ていたのです。
     まもなくみんなははきものを下駄箱げたばこに入れて教室へはいって、ちょうど外へならんだときのように組ごとに一列に机にすわりました。さっきの子もすまし込んで嘉助のうしろにすわりました。ところがもう大さわぎです。
    「わあ、おらの机さ石かけはいってるぞ。」
    「わあ、おらの机代わってるぞ。」
    「キッコ、キッコ、うな通信簿持って来たが。おら忘れで来たぢゃあ。」
    「わあい、さの、木ペン借せ、木ペン借せったら。」
    「わあがない。ひとの雑記帳とってって。」
     そのとき先生がはいって来ましたのでみんなもさわぎながらとにかく立ちあがり、一郎がいちばんうしろで、
    「礼。」と言いました。
     みんなはおじぎをする間はちょっとしんとなりましたが、それからまたがやがやがやがや言いました。
    「しずかに、みなさん。しずかにするのです。」先生が言いました。
    「しっ、悦治えつじ、やがましったら、嘉助え、喜きっこう。わあい。」と一郎がいちばんうしろからあまりさわぐものを一人ずつしかりました。
     みんなはしんとなりました。
     先生が言いました。
    「みなさん、長い夏のお休みはおもしろかったですね。みなさんは朝から水泳ぎもできたし、林の中で鷹たかにも負けないくらい高く叫んだり、またにいさんの草刈りについて上うえの野原へ行ったりしたでしょう。けれどももうきのうで休みは終わりました。これからは第二学期で秋です。むかしから秋はいちばんからだもこころもひきしまって、勉強のできる時だといってあるのです。ですから、みなさんもきょうからまたいっしょにしっかり勉強しましょう。それからこのお休みの間にみなさんのお友だちが一人ふえました。それはそこにいる高田さんです。そのかたのおとうさんはこんど会社のご用で上の野原の入り口へおいでになっていられるのです。高田さんはいままでは北海道の学校におられたのですが、きょうからみなさんのお友だちになるのですから、みなさんは学校で勉強のときも、また栗拾くりひろいや魚さかなとりに行くときも、高田さんをさそうようにしなければなりません。わかりましたか。わかった人は手をあげてごらんなさい。」
     すぐみんなは手をあげました。その高田とよばれた子も勢いよく手をあげましたので、ちょっと先生はわらいましたが、すぐ、
    「わかりましたね、ではよし。」と言いましたので、みんなは火の消えたように一ぺんに手をおろしました。
     ところが嘉助がすぐ、
    「先生。」といってまた手をあげました。
    「はい。」先生は嘉助を指さしました。
    「高田さん名はなんて言うべな。」
    「高田三郎さぶろうさんです。」
    「わあ、うまい、そりゃ、やっぱり又三郎だな。」嘉助はまるで手をたたいて机の中で踊るようにしましたので、大きなほうの子どもらはどっと笑いましたが、下の子どもらは何かこわいというふうにしいんとして三郎のほうを見ていたのです。
    9 min
  • 宮沢賢治 風の又三郎①
    どっどど どどうど どどうど どどう
    青いくるみも吹きとばせ
    すっぱいかりんも吹きとばせ
    どっどど どどうど どどうど どどう
     谷川の岸に小さな学校がありました。
     教室はたった一つでしたが生徒は三年生がないだけで、あとは一年から六年までみんなありました。運動場もテニスコートのくらいでしたが、すぐうしろは栗くりの木のあるきれいな草の山でしたし、運動場のすみにはごぼごぼつめたい水を噴ふく岩穴もあったのです。
     さわやかな九月一日の朝でした。青ぞらで風がどうと鳴り、日光は運動場いっぱいでした。黒い雪袴ゆきばかまをはいた二人の一年生の子がどてをまわって運動場にはいって来て、まだほかにだれも来ていないのを見て、「ほう、おら一等だぞ。一等だぞ。」とかわるがわる叫びながら大よろこびで門をはいって来たのでしたが、ちょっと教室の中を見ますと、二人ふたりともまるでびっくりして棒立ちになり、それから顔を見合わせてぶるぶるふるえましたが、ひとりはとうとう泣き出してしまいました。というわけは、そのしんとした朝の教室のなかにどこから来たのか、まるで顔も知らないおかしな赤い髪の子供がひとり、いちばん前の机にちゃんとすわっていたのです。そしてその机といったらまったくこの泣いた子の自分の机だったのです。
     もひとりの子ももう半分泣きかけていましたが、それでもむりやり目をりんと張って、そっちのほうをにらめていましたら、ちょうどそのとき、川上から、
    「ちょうはあ かぐり ちょうはあ かぐり。」と高く叫ぶ声がして、それからまるで大きなからすのように、嘉助かすけがかばんをかかえてわらって運動場へかけて来ました。と思ったらすぐそのあとから佐太郎さたろうだの耕助こうすけだのどやどややってきました。
    「なして泣いでら、うなかもたのが。」嘉助が泣かないこどもの肩をつかまえて言いました。するとその子もわあと泣いてしまいました。おかしいとおもってみんながあたりを見ると、教室の中にあの赤毛のおかしな子がすまして、しゃんとすわっているのが目につきました。
     みんなはしんとなってしまいました。だんだんみんな女の子たちも集まって来ましたが、だれもなんとも言えませんでした。
     赤毛の子どもはいっこうこわがるふうもなくやっぱりちゃんとすわって、じっと黒板を見ています。すると六年生の一郎いちろうが来ました。一郎はまるでおとなのようにゆっくり大またにやってきて、みんなを見て、
    「何なにした。」とききました。
     みんなははじめてがやがや声をたててその教室の中の変な子を指さしました。一郎はしばらくそっちを見ていましたが、やがて鞄かばんをしっかりかかえて、さっさと窓の下へ行きました。
    10 min
  • 朗読少年 宮沢賢治 詩ノート 汽車
    汽車
    一九二七、二、一二、
             プラットフォームは眩ゆくさむく
             緑いろした電燈の笠
             きららかに飛ぶ氷華の列を
             ひとは偏狭に老いようし
             汽車近づけば
             その窓が Ice-fern で飾られもしよう
    車のなかはちひさな塵の懸垂と
    そのうつくしいティンダル現象
        日照はいましづかな冬で
        でんしんばしらや建物や鳩
             かゞやいて立つ氷の樹
             青々けぶる山と雲
             髪をみだし
             黒いネクタイをつけて
             朝の汽車にねむる写真師
    ……これが小さくてよき梨を産するあの町であるか……
    ……はい閣下 今日は多量の氷華を産して居りまする……
    ……それらの樹群はみなよき梨の母体であるか……
    ……はい閣下 あれは夏にはニッケル鋼の鏡をつるす
      はんの木立でございます……
    ……この町の訓練の成績はどうぢゃ……
    ……はい閣下 寒冷ながら
      水は風より より濃いものと存じます……
             けむりは凍えていくつにもちぎれて
             松の林に落ちこむし
             アカシヤの木の乱立と
             女のそのうつくしいプロファイル
        もう幾百 目もあやに
        風や磁気に交叉する電線と
    3 min
  • 朗読少年 宮沢賢治 詩ノート 霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ
    〔霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ〕
    一九二六、一一、一五、
    霜と聖さで畑の砂はいっぱいだ
       影を落す影を落す
       エンタシスある氷の柱
    そしてその向ふの滑らかな水は
    おれの病気の間の幾つもの夜と昼とを
    よくもあんなに光ってながれつゞけてゐたものだ
       砂つちと光の雨
    けれどもおれはまだこの畑地に到着してから
    一つの音をも聞いてゐない
    3 min
  • 宮沢賢治 詩ノート 病院
    七四四  病院
    一九二六、一一、四、
    途中の空気はつめたく明るい水でした
    熱があると魚のやうに活溌で
    そして大へん新鮮ですな
    終りの一つのカクタスがまばゆく燃えて居りました
    市街も橋もじつに光って明瞭で
    逢ふ人はみなアイスランドへ移住した
    蜂雀といふ風の衣裳をつけて居りました
    あんな正確な輪廓は顕微鏡分析ミクロスコープアナリーゼの晶形にも
    恐らくなからうかと思ふのであります
    2 min
  • 朗読少年 宮沢賢治 図書館幻想
    おれはやっとのことで十階の床ゆかをふんで汗を拭った。
     そこの天井は途方もなく高かった。全體その天井や壁が灰色の陰影だけで出來てゐるのか、つめたい漆喰で固めあげられてゐるのかわからなかった。
    (さうだ。この巨きな室にダルゲが居るんだ。今度こそ會へるんだ。)とおれは考へて一寸胸のどこかが熱くなったか熔けたかのやうな氣がした。
     高さ二丈ばかりの大きな扉が半分開いてゐた。おれはするりとはいって行った。
     室の中はガランとしてつめたく、せいの低いダルゲが手を額にかざしてそこの巨きな窓から西のそらをじっと眺めてゐた。
     ダルゲは灰色で腰には硝子の蓑を厚くまとってゐた。そしてじっと動かなかった。
     窓の向ふにはくしゃくしゃに縮れた雲が痛々しく白く光ってゐた。
     ダルゲが俄かにつめたいすきとほった聲で高く歌ひ出した。
    西ぞらの
    ちぢれ羊から
    おれの崇敬は照り返され
    (天の海と窓の日覆ひ。)
    おれの崇敬は照り返され。
    おれは空の向ふにある氷河の棒をおもってゐた。
    ダルゲは又じっと額に手をかざしたまま動かなかった。
    おれは堪こらへかねて一足そっちへ進んで叫んだ。
    「白堊系の砂岩の斜層理について。」
    ダルゲは振り向いて冷やかにわらった。
    3 min

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