われらの文学 レオンラジオ 楠元純一郎

170 中勘助 银汤匙 97(後編3②)


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ラジオ収録20230921

「レオンラジオ日の出」テーマ曲 作詞作曲 楠元純一郎 OP「水魚の交わり」、ED 「遺伝子の舟」司会 楠元純一郎 中国語翻訳・朗読 レオー(中国語講師・中国大慶の小学校美術教諭)読解者・朗読  松尾欣治(哲学者・大学外部総合評価者)読解者  福留邦浩(国際関係学博士)読解者 李亜老師(日本語言語文学博士) 聴講   劉凱戈、李可心、吉川佳太、沈苁怡

彼は体とつりあはない小さなそろばんの珠のひとつもないのをはすつかひにかけ気の向いたときにぶらりとやつてきて、いやになればお稽古ちゆうもなにもおかまひなしにさつさと帰つてしまふ。とかく己と段ちがひの劣弱者のみを愛憐するといふ人間一般のさもしい利己的な同情のもとにあつて天下に蟹本さんぐらゐ自由の天地をもつてるものはなかつた。

〈そろばん→珠算機。はすつかい→ 斜めにたすきがけに。おかまひなしに→周囲のことも考えずに。さもしい→心が汚く、卑しく、あさましい。天地→世界。

他总是斜背着一个和自己体形全然不成比例的算盘,上面的珠子已经掉得一颗不剩啦。高兴的时候,他忽然跑进教室;若是不高兴了,就算还没下课也毫不在意,只管利索地回家去。人总是只可怜无法与自己相提并论的弱小,这卑劣利己的同情心人皆有之,于是蟹本成了天底下最自由的人。

それでも生きてるかひには機嫌のいい日と悪い日があり、悪い日には大抵顔を見せないが、たまさか出てきてもにこりともしずに机

にうつむいてゐる。そのうちなにを考へだすのか急においおい泣きだして、思ふ存分泣きつくすまではどうしても泣きやまない。

<たまさか→たまに。俯(うつむ)いている→顔を伏せている。おいおい→声をあげて泣く。>

但人只要活着就有心情好和心情差的日子,蟹本心情差的时候基本上不会出门见人,偶尔来上学也板着脸趴在桌上。趴着趴着不知想起了什么,突然号啕大哭,就这么一直哭到痛快为止。 

さうしてその不幸な暗黒の胸に人しれず湧いて溜つた悲しみを遠慮のない大声に泣き涸らしてしまへばれいのそろばんを肩にかけてけろりとして帰つてゆく。そんな日にはどうかして言葉をかける者があつても不仕合せな一徳の気のよささうな笑ひ顔もせず ひぎやあ と鸚鵡みたいな声を出して相手を追ひはらふのが常であつた。併しどうかして御機嫌の麗しいときには頼みもしないのに

「あたいが馬になつてやらう」

なんといふこともあつたが、馬としては背は高し、力はあり、ぶくぶく太つて乗り心地のいい名馬だつたけれど、気がむかなくなると大将同士の組み討ちの最中でもなんでも棒立ちになつてしまふ手のつけられない悍馬でもあつた。

<涸(か)らして→枯渇させて。けろりとして→何事もなかったように平然として。鸚鵡(おうむ)。悍馬(かんば)→暴れ馬>

他那颗不幸而幽暗的心里蓄积奔涌着难过与悲哀,当它们被毫无顾虑地大声宣泄出去后,蟹本又将那算盘斜挎在肩上,很快便消失得无影无踪。就算这时有人和他搭话,他也不会露出不幸却温柔的笑容,而是常常像鹦鹉似的“嘎”地大声叫唤,把对方赶走。可如果他心情好,即使没人要求,也会主动说出“我来当你的马吧”之类的提议。蟹本个子高、力气大,人又壮实,确是一匹能让人坐得舒适的“好马”。他若是不乐意了,就丝毫不顾双方大将战得正酣,直接直起身子来,所以也是一匹让人拿他没办法的“悍马”。



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