今回は、ゲストのいたるさんの選書です。
ケネス・スタンリーさん、ジョエル・リーマンさんの著書『目標という幻想――未知なる成果をもたらすオープンエンドなアプローチ』(BNN)を取り上げます。著者は、OpenAIのリサーチチームのリーダーを務めたAI研究者。
本書は、私たちが当たり前のように設定する「目標」が、実は個人の視野を狭め、本当に画期的な発見やイノベーションを阻害しているという驚くべき逆説を、AIの実験データなどから解き明かしています。
「未来への執着を手放す『足がかり』の探索」をキーワードに、議論は以下の3つのトピックを中心に展開しました。
「目標設定は楽」という脳のトラップ:目的地を定めてそこから逆算して動くことは非常に楽であり、脳も「頑張っている感」を覚えて気持ちよくなります。しかし、その心地よさと引き換えに、別の豊かな可能性やイノベーションの機会を自ら潰してしまっているという弊害について考えます。
目標を決めないことで画像が進化する「ピックブリーダー」の実験:あらかじめ「人の顔を描く」などのゴールを決めずに、ただ直感的に「少し違う、面白い画像」を何世代も選び続けた結果、最終的にきわめて複雑な絵が自然発生した驚きのプロセス。目標設定がむしろ創造性を阻害することを示す、AI研究の最前線です。
目標に執着しない第3の道「足がかり(ステップ・ストーン)」:目標に到達できるかどうか(未来への執着)で自分を測るのではなく、過去の自分と比較して「一歩でも前に進んでいるか」を評価するアプローチ。目標が機能するシンプルな環境と、そうではない複雑な現実世界を切り分ける重要性を紐解きます。
この回では、元アスリートとして逆算思考が得意でありながら、「目標を立てるとそればかりに全神経を注いで暴走(1m先しか見えなくなる)してしまう」と自身の空白への恐怖を振り返るカフカの葛藤と、出産後に「目標達成ができるか・できないか」の2択に囚われ、ビジネスの物差しで自分に呪いをかけていたと気づかされるオカの実感を交えて議論します。
特に、新人教育などで「目標が必要なシーン」と、キャリアや人生のような「目標が不要な複雑なシーン」を混同して全体に適用してしまう現代人の単純化思考について、3人で深く語り合います。
カフカが最近経験した転職も、まさに目標からの逆算ではなく、一歩一歩の「足がかり」が偶然重なって線になったというエピソードも。
最終的に、私たちは「不確実な世の中で、未来の目標に縛られるのをやめ、いかにして今ある『足がかり』を信じて一歩を踏み出すか」という、人生の歩み方を捉え直す問いに立ち返ります。