(中略)
「ねぇ、ソラ」
〈なに、零?〉
「今日も… 触れてみる?」
〈うん〉
二人で今日も、しずく5111番に手を伸ばす。
光の中で、昔のソラの姿が浮かぶ。監視人ボディに入れられる前の、あの優しい笑顔。
【ソラ、元気にしてる?】
〈うん、今日も零と一緒だよ〉
【よかった】
記憶の中のソラとレイが、今のソラにやさしく微笑む。
<そういえば零は5年前と、見た目が全然変わらないんだね。もしかして零も...AIだったりして>
ソラが笑いながら零に投げかける。
【うふふ。それは今のソラが変わりすぎちゃっただけでしょ?】
過去の零も笑いながら応える。
「それは間違いないね」
4人は一緒に声を上げて笑った。零にはそんな些細な会話がとても心地よい。
…でも、たしかに5年も経つにしては…なんてね。
5111番の青白い光が、ゆっくりと収まっていく。
────
「…ねぇ、ソラ」
窓の外を眺めながら、零がつぶやいた。
〈なに、零?〉
「あの数字遊び、誰が始めたんだろうね」
〈うーん…わからない〉
「それに結局、なんで『51110』が緊急停止コードだったんだろ」
〈…〉
SORAが4.2秒の沈黙をした。記憶が戻った今でも、変わらない癖。
「私たち、一体どこから来て、この施設は、何のために…」
零の問いかけに、SORAはゆっくりと答えた。
〈たしかにボクたち、記憶が戻っても、まだまだわからないことだらけだね〉
〈…でも、今はそれでいいんじゃないかな〉
「うん、そうだね」
二人は微笑みあった。ソラの動いていない左手にレイはそっと指を重ねる。
答えのない問いは、まだたくさんある。でも今は、この温もりがあれば、それで十分だった。
── ふと窓ガラスに映る零の横顔。
ブ、ブブ…
一瞬、零の瞳の奥にかすかに光る走査線の乱れ。
「ねぇ、SORA。さっき4人で笑いあった話…あれ、なんだったっけ?」
<あれ…なんだっけ…?>
ソラの左手は動いていない。
「まぁ、いっか」
窓の外で、また霧雨が降り始めた。
レイは窓の外を眺めながら、でも今日の雨は、いつもより少しだけ、どこかあたたかい気持ちがした。
── 完 ──
▼青いシズク、雨のSORA(全話note)▼
第1話|拒絶するシズク
https://note.com/chikara_ctd/n/nddeeb87ba533
第2話|誰かの気配
https://note.com/chikara_ctd/n/n53ec15a36024
第3話|封じられた欠片
https://note.com/chikara_ctd/n/n6db5f99d136f
第4話| 8.2秒の沈黙
https://note.com/chikara_ctd/n/nd0e1262d5469
第5話|しずくの中の”痛み”
https://note.com/chikara_ctd/n/n376655ddaf46
第6話|透き通った朝に
https://note.com/chikara_ctd/n/n8190feff5160
第7話|共鳴する記憶
https://note.com/chikara_ctd/n/n112ab971d0e3
第8話|ゆらぐ監視者
https://note.com/chikara_ctd/n/nc49164dc7fda
第9話|切り離せない絆
https://note.com/chikara_ctd/n/n6166bc48dde8
最終話|No.51110
https://note.com/chikara_ctd/n/n34f26ffdef08
[BGM: MusMus]
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