▼ 短編小説『青いシズク、雨のSORA』 最終話▼
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最終話|No.51110
── キュイイイィィ…ン
しずくの中で揺れ動いていた二つの螺旋が、互いに強く呼応し、一気に回転を加速させて一つに重なり合っていく。
【やっと… 気がついてくれたんだね】
5111番の声が、直接二人の心に響いてきた。
【レイ。そう、私は5年前のあなたの記憶】
【でも… 私はあなただけのものじゃない】
映像が流れ込んでくる。レイが誰かと手を繋ぐ感覚。誰かの笑顔。誰かの温もり。そして──
【私はレイ、そしてSORA。あなたたち二人で紡いだ特別な想いの結晶】
記憶が濁流のように一気に押し寄せてくる。でも今度は一人だけの記憶じゃない。これは…私たち二人の記憶。
【あなたたち二人の想いがそろった今だからこそ、やっと私も解放できる】
── パァンッ
…その瞬間、二人の世界が再び5111番の青白い光に包まれた。
=====
──5年前。
同じ採集士として働いていた二人の若者。
『ねぇ、ソラ』
『なんだい、零』
『この仕事、おかしいと思わない?』
『…思う』
『感情を切り離すなんて』
『うん。まるで人を人じゃなくするみたい』
秘密の逢瀬。隠れて交わす言葉。そして、芽生えた想い。
『好きだよ、ソラ』
『僕もだよ、零』
『…一緒に、ここから逃げよう。こないだ二人で見つけたあの場所から』
『うん』
脱出計画。
あの部屋に、秘密の通路があることを突き止めて。あと少しで、二人は自由になれるはずだった。
でも…
── あの日は朝から霧雨が降っていた。
『あー、今日は濡れちゃったね、ソラ』
『うん…』
『い
(中略)
《ビィーーーッ!ビィーーーッ!ビィーーーッ!》
その時、けたたましい警報音が部屋中に鳴り響いた。
《検体の感情抑制失敗。抑制失敗を感知しました》
『ダメだ!に、逃げて、零!』
『ソラ!』
いつものソラの声。左手は動かない。
『零、ごめん!さっきボクは零にウソをついた。今朝、統制プログラムにみつかって、零との感情を抑制できなければ、強制排除するって警告を受けて…』
『一体、どういうこと?』
『だから!あ、ダメだ。ボクは…零!ボクは、本当は君のことを…』
《ビィーーーッ!ビィーーーッ!ビィーーーッ!》
ソラの声が警告音にかき消される。
《ただちに検体同士を切り離し、不安定要素を強制排除します》
──そう。あの日、
最初にソラが統制プログラムに捕まった。必死の抵抗むなしく、
《感情切離、実行》
《記憶消去、完了》
《監視人ボディ-7 への移植、開始》
そして零の目の前で、ソラは別人になった。零が愛した人はもういない。代わりにそこに立っていたのは、冷たい機械。
そして──
〈採集士レイ、感情異常を検出〉
〈ただちに処置を開始します〉
『いやっ!ソラ、やめてっ!』
零は逃げられなかった。皮肉にも、その処置を実行したのは──
〈検体レイの異常感情を切離します〉
監視人になったばかりのSORA-7。
『ソラ!お願い…思い出して!』
『私たちの愛を…!』
〈エラー。意味不明な発言です〉
『お願いソラ!私から "あなた" を奪わないで!!』
〈その抵抗は無意味です。処置を続行します〉
=====
「あぁ…っ!」〈あぁ…っ!〉
レイとSORAは、同時に膝をついた。
〈なんてボクは、なんてバカなことを…!〉
SORAの声が震えている。
(中略)
「SORA、私たちにはまだやり残していたことがある。5年前のあの日の約束」
〈あっ…〉
SORAはあたりを見渡した。
「二人で5年前にみつけた、あの秘密の通路の入り口があった場所は…」
「この部屋!」〈この部屋!〉
二人の声がまたシンクロする。SORAも今、全てを思い出した。
(中略)
『しずく5111 番 と レイが記憶を統合中…』
『記憶復旧率:…100%』
『オリジナル登録コード検出中…』
二人は歩みを止める。
「”オリジナル登録コード”って…?」
レイはSORAの画面を見つめる。
さらにメッセージが映し出されていく。
『5111とレイ、2つの検体コードを結合します… 』
『5111 + 0…』
『コード復旧中…』
──ドクンッ
その時、レイの胸の奥が一つ大きく跳ね上がる。
『…コード復旧完了』
『オリジナル登録コード: #51110』
あらたな5桁のコードが、SORAの画面に大きく表示される。
5桁のコードなんて今まで一度も見たことがない。
その時、二人は意図せず、思わず口に出した言葉。誰がいつから広めたものなのか。採集士の間で最近流行りの数字遊び。
「こいびと!」〈こいびと!〉
レイとSORAは、思わず声をひとつに重ねて叫んだ。
『── #51110〈コイビト〉↩︎』
その瞬間、この5桁の数字と二人が叫んだ言葉が、ソラの画面いっぱいに青白く輝いた。
(中略)
── エピローグ ──
(中略)
————————
みんなお久しぶり!零だよ。
あ、名前ね。まぁ「レイ」でもいいんだけどさ。記憶が戻った以上は、やっぱり私の本当の名前で「零」って呼んで欲しいかなぁ、って。いいでしょ?
(中略)
【ソラ、元気にしてる?】
〈うん、今日も零と一緒だよ〉
【よかった】
記憶の中のソラとレイが、今のソラにやさしく微笑む。
「ずっと、一緒にいてね。ソラ」
〈もちろんだよ、零〉
今の零にソラが応じる。
〈だって、ボクたちは──〉
【… 51110】「… 51110」〈… 51110〉
〈なんだからね!〉
過去と今の4人の声が、今日もきれいにシンクロする。
(中略)
[BGM: MusMus]
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警報が止んだ。振動が収まった。施設内く── 完 ─
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