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あたくしが10代女子だったら狂ったようにハマったろうな
長沼範裕氏は監督とシリーズ構成を兼任。そのおかげか作品の統一感・空気感はシリーズして一貫していたような気がします。ばらつきがあるの、それはそれで好きなんだけどね。
音楽は神前暁さんなど。引き算の音楽であったという印象。最低限、だけどしっかり役は果たす。決してメインには出てこない。素晴らしい。
何と言っても本作はマオマオの魅力でしょう。体格の優れた男子や性悪女史たちにも、自分の芯をもって、やり過ごしたり対立したり。その強さというのは憧れちゃうだろうな。自分が女子だったら(きっと自意識と厨二病を大変にこじらせた扱いづらい人間だったろうから)、間違いなくフェイバリットな作品になっていたでしょう。
残念ながら現実では40代おじさんなので、「クオリティ高いなー」くらいしか感想はなかったですけどね。
こういうのでいいんだよ、と言いたくなりますね。
ある日、ブエノスアイレスに有毒の雪が降り、何百万人という人々を死に至らしめた。生き延びたフアン・サルヴォと仲間たちは、異世界からやってきた見えざる脅威に立ち向かう。Netflixで2025年4月30日に配信開始。
アルゼンチンの友人からのオススメ。
このジャンルでは古典的といって良いものらしく、なんと1950年代に書かれた漫画が原作なんだとか。
確かに核戦争がもっと身近だった時代の雰囲気があって、「死の灰」だの「無線」だの「鉄道」だのが生き生きと現実感をもって描かれています。ただ、コロナを経験した人類からすると、若干雑さは感じますかね。原因不明の大量死を前に、そんな気軽に出かけられる?
また、現代の日本人からみると、だいぶ擦られすぎた設定すぎて、目新しさは感じづらいかも。こっちが本家なんだけどね!と代弁してあげたくなりますね。
昔、NHKのアニメは観ましたけどね。すっかり忘れています。
「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。
村上春樹の最新刊。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のパラレルワールドなのか?
村上春樹、6年ぶりの最新長編1200枚、待望の刊行!
その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。
やはり気になるのは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とのつながり。あの物語の後日談?書き直し?気になりながら読んでみると……
位置: 203
父親は地方公務員だったが、きみが十一歳のときに何か 不手際 があって辞職を余儀なくされ、今は予備校の事務員をしているということだ。どんな「不手際」だったかは知らない。でもどうやら、きみがその内容を口にしたくないような 類 いの出来事であったようだ。実の母親は、きみが三歳の時に内臓の 癌 で 亡くなった。記憶はほとんどない。顔も思い出せない。きみが五歳のときに父親は再婚し、翌年妹が生まれた。だから今の母親はきみにとって継母にあたるわけだが、父親に対してよりはその母親の方に「まだ少しは親しみが持てるかもしれない」という意味のことを、きみは一度だけ口にしたことがある。
「きみ」の複雑な家庭環境。父親を毛嫌いしていることだけは分かる。やはり内田樹氏がいうところの父の不在ということなんだろうか。
位置: 1,556
ときおりそのような暗黒の川筋から迷い出てきたらしい不気味な姿の魚が、川岸に打ち上げられた。そんな魚たちの多くは目を持たなかった(あるいは小さな退化した目しか持たなかった)。そして太陽の下で不快きわまりない異臭を放った。とはいえ、実際に私がそのような魚を目撃したわけではない。ただそういう話を聞いただけだ。
これはおそらくやみくろたちが崇拝していた神の姿かと思われる。本作では匂わせただけで全く関係なかったけどね。
位置: 1,782
亡くなった母親と、現在も生きている父親は、わたしのことを本当の娘だと思っていますが(思っていましたが)、それはもちろんまちがった幻想です。わたしは遠くの街から風に吹き寄せられてきた、誰かのただの影に過ぎないのです。
正直、統合失調症かパーソナリティ障害を疑う発言。
ただ、彼にとっては唯一無二の存在である「きみ」。このへんの歪んだ愛情というか、思い込みの激しさというのは若いときの特権でもあり、危なっかしさだよね。そして彼はこれをありのままに受け入れているようにみえます。大した包容力だ。
位置: 1,784
彼らはそのことを知りません(知りませんでした)。そしてわたしのことを本当の自分の子供だと信じていました。そのように 誰かに 信じ込まされていたのです。つまり、記憶をそっくり作りかえられていたのです。だからわたしがそのことで(自分が誰かのただの影に過ぎないことで)どれくらいつらい思いをしてきたか、彼らには想像もつかないのです。
うーん、この発言も別の意味でキツい。あたくしも父親ですからね。娘にそう思われていたらと考えると頭抱えたくなりますね。
位置: 2,001
でも実際には逆なんじゃないか。壁の外に追いやられたのは本体の方で、ここに残っている連中こそが影なんじゃないか──それがおれの推測です」
その問は実に面白い。ただ、最初から最後まで感覚的なんだよなー。それがね、「結局何いってんだこいつら」を最後まで破れないんですよね。偽りの記憶をすり込まれた、とか言うけど、何から何まで想像でしかなく、無根拠に無根拠を重ねた九龍城を見せられている気持ちになる。
位置: 2,317
「いいですか、この街は完全じゃありません。
影の狂人具合が、前著に比べて本著では強調されている気がします。どういうことなんだろ。壁も喋りだすしね。
位置: 2,843
私は小さなコンビニエンス・ストアで熱いコーヒーを買って、その紙コップを手に、駅の近くにある小さな公園で時間を潰すことにした。
村上春樹にしてはとても現代的な描写。コンビニで紙コップのコーヒーを買えるのはここ10年くらいじゃないかな。同時代性を感じるのは彼の著作の中では初めてかもしれない。あたくしの経験不足なだけかもしれませんが。
位置: 3,171
私は顔を上げ、川の流れの音が聞こえないものかと、もう一度注意深く耳を澄ませた。しかしどんな音も聞こえなかった。風さえ吹いていない。雲は空のひとつの場所にじっといつまでも留まっていた。私は静かに目を閉じ、そして温かい涙が 溢れ、流れるのを待った。しかしその目に見えない悲しみは私に、涙さえ与えてはくれなかった。
涙にならない悲しみ。これをどう表現するのか。
村上春樹は巧みだと思いますね。深い悲しみをそのまま、あまり調理せず描写している。同じような言葉を同じように、あるがままに紡ぐ。芸というのではない慎重さを感じます。
位置: 3,252
「でもいずれにせよ、彼女はよほど素敵な人だったのね?」
「どうだろう? 恋愛というのは医療保険のきかない精神の病のことだ、と言ったのは誰だっけ?」
調べたら、『ダンス・ダンス・ダンス』にそんな描写があるらしい。添田さんのセリフ。
位置: 3,321
図書館にはWi-Fi設備などは設置されていなかったから、私が自分のコンピュータを使えるのは自宅に限られていた。
村上春樹作品にWi-Fiが出てくるとはね、、、、、
位置: 3,333
慶賀すべきものなのか、慨嘆すべきものなのか
こんな難しい、やや衒学的な言い回しが出てくるとはね、、、、、
位置: 519
いったん混じりけのない純粋な愛を味わったものは、言うなれば、心の一部が熱く照射されてしまうのです。ある意味焼け切れてしまうのです。とりわけその愛が何らかの理由によって、途中できっぱり断ち切られてしまったような場合には。そのような愛は当人にとって無上の至福であると同時に、ある意味厄介な 呪いでもあります。
これは、親から子への愛は純粋ではない、ということかしら。割と多くの人が、焼け切れた状態になるはずだけど。
そうじゃないとしたら、とても的はずれな推量に思えますね。いささか悲劇のヒロイン気質にすぎるというか。
位置: 3,238
「『コレラの時代の愛』」と彼女は言った。 「ガルシア゠マルケスが好きなの?」
出てきました。ガルシア・マルケス。苦手だぜ。
後半は、前著とは全く別の展開なんだが、「何か起こりそうだけど何も起こらないだろうな」もしくは「何か起こってもきっと大した理由もなく起こるんだろうな」という予感はあり、そしてそれがほぼ当たっています。因果関係の不明確な物語、苦手。
結局、ペンフレンドの彼女も、消えたイエローサブマリンの少年も、世界の終りの謎も、何もかも分からないまま、終わる。もう諦めてはいたけど、それでもやっぱり読後感に物足りないものを感じます。
そもそも、この手のパラレルワールドものが苦手でね。
詳しくはpodcastを聞いてくださいませ。
2019年にも収録しています。
まったく記憶にはありません。
↓その音源
果たして、人間は成長できているのか。
一気にかけぬけました。
とりあえず第一部はここで一旦終わりらしい。
結構あっけなく終わった印象。
あとはスピンオフをどうするかね。
大ヒットシリーズ第5巻が文庫化!
八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかに
高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か? ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる。荻原規子氏との対談収録。
これね、八咫烏シリーズとしてはとても異質な作品。なにせ、人間が出てくるからね。
そして、書かれた時期は一番最初。だから、八咫烏という物語の中に異物感がある。
位置: 2,293
いや、きっと悪い人ではないのだろうし、この人なりに、自分を愛してくれてはいるのだろう。だが同時に──もしかすると、本人さえも気付かない根っこのところで──志帆のことを、どうしようもない愚かな人間だと思っているのもまた、逃れようのない事実なのだ。
仕方ない。きっと、それが 普通 だ。でもこの人は、肉親の情があって、愛してはくれても、永遠に、志帆の理解者になることはない人間だった。
肉親の情、それだけでは足らぬということか。理解せず愛することに価値を置かないのか。そのへんは非常に難しい問題。「何があっても味方」ということに価値を置かない、となると愛情ベースの人間関係というのはとても維持不可能。
位置: 2,325
あの子の、頑固なところは自分譲りなのだ。頭ごなしに命令したところで、絶対に従わないことは、誰よりも分かっていたはずだったのに。
ジレンマだよね。そもそも自分が「命令したい」という気持ちに頑固だからね。
位置: 2,371
「このままじゃ駄目だと分かっているけれど、これはそう、長くは続かないはずよ。今はあの子にとって、それが必要な時期なんだと思う。愛されている自信がないから、不安なの。何があっても、私が離れて行かない。もしくは、離れても関係がないくらい愛されていると思えれば、そういう話になっても冷静でいられると思う」
愛情を否定した志帆が愛情を語る。なんとも皮肉である。
位置: 2,388
「自分から損をしに行くなんて、なんて馬鹿なんだって言われるの。別に理解されなくたって構わないけれど、馬鹿にされた挙句、他人の価値観を押し付けられて素直に従う方が、よっぽど考えなしだと思わない?」
筋は通っているが、言っている側は親身なつもりだから厄介だね。どうでもいい人には言わないからね。しかしこの志帆の若さ。恐ろしくなるね。
位置: 2,559
「初代天皇とされる、 神武天皇のお母さんですよ。今の天皇家の、先祖に当たる神さまです」
急に現実との接点が出る。ちょっと気色悪い。多分、山内が完成されすぎていたからだろうね。急に現実的。
十二国記にも「蓬莱」という現実的な場面は出てくるけど、あれはファンタジーとしての現実だからな。急にリアルな天皇制の話をされると、ちょっとドキッとする。
位置: 3,132
元来、山内は山神のための荘園であり、八咫烏達は、山神のための供物── 神饌 や神酒、幣帛を捧げ、神楽を奉じるために、人の姿をとれるようになった存在だったのだ。
どうも浮いた説明だ。これで納得はできません。やっぱりちょっと違和感がありますね。
位置: 3,319
「サヨは逃げてなんかいない」
断言した後、若者は痛みを堪えるように顔をしかめた。
「今でも── 骸 は、 沼の底 にある」
どうして山神は、今の今まで、サヨの死因などを追求しなかったのか。どうしても疑問です。
位置: 3,342
「ちくしょう、ちくしょう。何で戻って来やがった──次は、 彩香の番 なのに!」
偽らざる本音。ただしちょっと露悪的ね。
累計130 万部の大ヒット和風ファンタジー
第一部完結!
松本清張賞史上最年少受賞のデビュー作『烏に単は似合わない』から一巻ごとに
読者を魅了して成長してきたシリーズの第一部完結の第6巻。
八咫烏の一族が支配する異世界・山内を舞台に繰り広げられる、お后選び・権力争い・外敵の進入。大地震に襲われた山内で、100年前に閉ざされていた禁門がついに開かれた。
崩壊の予感が満ちる中、一族を統べる日嗣の御子・若宮は、失った記憶を取り戻すことができるのか。そして、人喰い猿との最終決戦に臨む参謀・雪哉のとった作戦とは――。
一巻から周到に張り巡らされてきた伏線がすべて回収され、この世界の大いなる謎が驚愕とともに明かされるクライマックス。
大人気キャラの受難、神秘の謎とどんでん返しに驚愕した後に、
未知の感動が味わえる堂々完結の一冊。
巻末には、先輩の大作家・夢枕漠さんとの熱い対談を収録!
いうほどどんでん返しでもなかったけどね。
惰性で読んだ、というまでもないけど、とはいえ、一巻が最高すぎたのは間違いない。
位置: 1,415
そこでようやく、これまで自分に指示が求められていたのは、周囲の者に 面子 を立ててもらっていただけだと気付いたのだ。
──着物の色はこちらとこちらがありますが、どちらがよいと思われます?
そう訊かれて、そうね、こっちがいいでしょう、と、指さすだけなら、他の誰にだって出来る。 実際に布の手配をし、選択肢を用意したのは自分ではない。
一事が万事、そんな感じだった。
いざ、迅速な指揮が必要になった時には、まるで役立たずだ。何かしようとすると、菊野は顔色を変え、真赭の薄に対し、 桜 の 君 の傍にいてください、と言う。
一言でいえば、「プライドが傷ついた」ということなんだけど、それをこれほど丁寧に書くのは至難の業だと思う。いい仕事している。真赭の薄の悔しさがにじみ出た、素晴らしい場面。
位置: 3,023
「駄目です、姉上!」
ここにいてください、と。
強い口調で明留に止められ、ますます、何かがおかしいと思う。
ふと、ピィーッと、甲高い音が聞こえた。
それを聞いた参謀達が、来たぞ、と鋭い声を上げる。
天幕の横に置かれた太鼓を、兵が鳴らし始めた。
どおん、どおん、どおん、と、深く重い音が境内に響き渡る。
ほぼ同時に、山頂の方から、すさまじい勢いで飛んでくる騎影を捉えた。
猿、襲来。緊張感が高まる短文の畳み掛け。いいですね。
合戦のシーンはそれほど長くないんだけど、しっかり読ませる。
位置: 3,835
怯えたような奈月彦を見て、猿は馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「そうだ。お前は忘れた。だが、たとえお前が忘れても、わしらは忘れなかった。一時たりとも」
猿はずっと、報復の機会を窺っていた。
愛憎が入り混じった感情。ドロドロした感情を物語に混ぜるのは効果的。主人公側に瑕疵があるならなおさら、ね。
位置: 3,872
「だが、何もかも忘れて、幼子のように途方に暮れるそなたを見るのは楽しかった。自分の身内だけでも残そうと、あさましくこの世に 縋り付いた執着の残骸こそが──今のお前の、正体だ」
貴様は結局、自分の一族のことしか考えていなかった、と急に笑いをおさめ、冷やかな調子となって猿は言い放つ。
実は自分たちのほうが無神経だったのだ、という苦い結末。
大人な物語である。読了感をあえて悪くする仕掛け。
自分勝手に神話を解釈し、猿を悪と決めつけてきた。それが正当なことだったのか。
我々の実社会でもあり得る話ですよね。
位置: 3,894
その眼差しを受け、奈月彦が痺れた頭で思い出すのは、 勁草 院 の院生を誘拐して禁門を開くようにと迫った、小猿のことだった。
報復のために山神を化け物にしようとした大猿の企みに、小猿はきっと気付いていた。
猿側の葛藤もしっかり描く。ほんと、読了感を気持ちよくさせない。ただ、それもまた味わい。
カカオ多めのチョコレート、みたいな味わい。
引き続き、マツオ氏とドハマりしております。
八咫烏が支配する世界〈山内〉を揺るがす危険な薬と人喰い大猿。
故郷の危機に敢然と立ち向かう世継ぎの若宮と元近習・雪哉は危険を顧みず――。
人気シリーズ第3弾!
大猿登場が三巻。正直、一巻と二巻を読んでいる頃は、まさか外敵が現れるとは思いませんでした。
位置: 528
「雪哉の、大切なものを守りたいという気持ちに噓はない。その気持ちを無下にしてしまっては、あまりにあの子が可哀想だ」
雪哉殿は馬鹿ではない、それは貴方が一番よくお分かりだろうと、慰めるように墨丸は言う。
「私は、本人の意思に任せるのが一番だと思う。雪哉殿は聡明であると同時に、とても頑固でもあるから、きっと、他人に何を言われようが気にしないだろう。その代わり、本当に護りたいもの、やり遂げたい目標が見つかれば、君が今まで心配していたのが馬鹿らしくなるくらい、自由に羽ばたいて行くのではないかな」
兄の思いやりを描く、いいシーン。兄は見抜いていたのだ、ぼんくら次男の本質を。
当たり前だといえばそうだけど、ちょっとほっこりするよね。
位置: 1,605
火熨斗
恥ずかしながら、火熨斗を知りませんでした。
https://iwaki-museum.com/commentary/9
今で言うアイロンなんですって。
位置: 1,672
「それが、 綻びだ。綻びは、山の端と同じで、そこから外へ出てしまえば、八咫烏は二度と山内へ戻って来られなくなる」
危険なので、綻びのある場所には山寺を設置し、誰も入り込めないようにしているのだと若宮は説明した。
「……そんな事、十五年間この山内で生きて来て、初めて知りました」
力なく言った雪哉に対し「無理も無い」と若宮は軽い調子で答えた。
「皆が皆、お前のように故郷を愛している者ばかりではないからな。かつては外界に憧れて、綻びへ自ら飛び込んで行く八咫烏もいたのだ」
しかし、正式な手順を踏まずに外へ出たところで、八咫烏は八咫烏ではいられない。ただのちっぽけな二本足の烏になり、外界で、一生をそのままの姿で生きなければならなくなるのだ。
この設定、そのうち生きてくるんだろうなぁと思っていましたが、最後までそれほど生かされず。こういうところ、ちょっと勿体ないなぁと感じる貧乏性。
位置: 1,701
「朝廷でのいざこざは、そもそも金烏の本分ではない。勿論、八咫烏の安寧を守るという意味で必要な部分ではあるだろうが、もともと金烏の本分は、 八咫烏を守る事 だ」
権力争いは、厳密に言えば専門外だと言う。
「では、金烏とは、真の金烏とは、何なのですか」
雪哉は狼狽していた。今まで、曲りなりにも慣れ親しんでいたはずの若宮が、突然、全く知らない人物になってしまったような気分だった。
「金烏とは、八咫烏全ての父であり、母でもある」
とても大切な設定、「金烏とは父であり母である」
位置: 1,988
蘇芳 に染められた 袙 に 下襲 と、一枚一枚に袖を通して行くにつれて、自分が自分ではなくなってしまうような、不思議な感覚に雪哉は陥った。
豪奢な袍を着て、最後に、 雉 と唐花が刺繡された 平緒 を巻き、若宮から預かって来たという飾り太刀を 佩いた。
袙(あこめ)だの下襲(したがさね)だの、言うことがマニアックだ。ルビなしじゃ普通に読めない。本作を格調高くしているけど、ちょっと衒学的とも思えます。
位置: 2,726
だとすれば、山内は外界を模して作られた箱庭であり、 人形 の八咫烏は、外界における人間の代わりである。
どうして八咫烏が人形をとれるか、のアンサー。意外と簡単な理由だという印象。
位置: 3,495
「あの子は、確かに正しい事をしなかったかもしれません。けれども、自ら進んで八咫烏を害そうとしたわけでもないでしょう。ここで見捨てなければ、まだ、まっとうに生きる道はあります。罰とは、しかるべき方法で罪を 償う事であって、ここであの子を突き放すのは、単に 私怨 を晴らす事にしかなりませんよ」
大切な視点だよね。罪を憎んで人を憎まず、じゃないけどさ。
位置: 3,954
「当然だ。お前に賛同を得るまでもなく、それは明らかなのだ」 思い違いなどしていない、と自分の言った言葉を何度も 反芻 しながら、長束はぎろりと路近を睨みつけた。 「だから──そのしたり顔を、今すぐ止めろ!」 不愉快だと吐き捨てても、路近は表情を変えなかったし、長束の気持ちは一向に晴れなかった。
ちょっとお兄ちゃんのキャラが柔和になってきています。やられ役。
兄も相当な人物のはずなんだけどね、ちょっと危機対応能力に難あり。
しかし路近はそんな兄貴を支持する。なんだろうか。彼の真意とは。
位置: 4,008
だが実際は、その逆なのだ。
「逆……?」
「うん。真の金烏が生まれたから、災厄が起こるのではない。災厄が起こる時、それに対処するために生まれるのが、真の金烏なのだ」
日照りや大雨などは、ただの八咫烏では対処出来ない 禍 である。
天災、あるいは病の 蔓延 などによって、八咫烏という種が存続の危機に立たされた事が、山内の歴史では何度かあった。そんな時に決まって現れるのが、その時々の危機を打開するための力を持った能力者──すなわち、真の金烏なのである。
そういう大事なことは積極的に広報するべきだと思うけど。『逆なんだ』ってね。
位置: 4,103
束の間の沈黙の後、不意に顔を上げた浜木綿は、鋭い眼光で雪哉を射抜いた。 「あいつ自身がそれを自覚出来ないからといって、あいつは、何も感じないわけではない」
それを肝に 銘じておけと厳しく言われ、雪哉は姿勢をただし、真面目な面持ちで頷いたのだった。
浜木綿のいい女っぷり。
位置: 909
「山内衆は時に、文官に代わって力を行使する権限を持つ。君達は、ただの兵になるのではない。『礼楽』において君達が学ぶのは、力の付け方ではなく、身に付けた力をどう行使するか──つまりは、力の使い方だ」
まあ、それはこの授業に限らず、学問全般に言えると思うがと感慨深げに呟いた時の顔つきは思慮深く、若者達の侮りを一切寄せ付けないものだった。 「君たち自身が力になってはいけない。それでは、まるで意味がない」
よき暴力装置、というやつですね。これが警察と反社を分ける最たる理由だと、あたくしも思っています。
位置: 3,385
「俺にとって、南橘家は敵だ。だが── お前は、 そうじゃない」
ふわあ、うおお、と雪哉と茂丸から素っ頓狂な歓声が上がった。
「ただ、けじめだ。金は返す」
「……お前の稼ぎでは、何年かかるか分からないぞ」
泣き笑いを浮かべる明留に、千早は頷いた。
「ああ。坊ちゃんにとってははした金だろうが、俺にとっては大金だ」
これから、長い付き合いになるな、と。
千早が言った瞬間、今度は三人が揃って悲鳴を上げた。
エモいシーン。ツンデレですね。精一杯デレている千早の可愛さたるや。
『「……だが、お前は特別だ」構文』は人類の急所かもしれません。
位置: 3,802
「君は、『化け物を倒すためには、己も化け物になるしかない』と思っている。違うかい?」
咄嗟に何かを言い返そうとした雪哉は、結局、何も言えないままその場に立ち尽くした。それを、どこか悲しそうに清賢は見つめる。
「化け物でも構わない、と君は言うかもしれない。だが、化け物ではない君も、確かに存在するのだということを、決して忘れないでほしい」
じっと清賢を見つめ返した雪哉は、不意に、途方に暮れたような 表情 になった。
「……だったとしても、それを僕が言うのは、許されないでしょう」
国を担う者としての、強烈な自負と責任感。これはシビレます。
エモい展開が続きますが、果たしてここまで広げた風呂敷、どうたたむの?
これは間違いなかった。
べた褒め。
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