初めて訪れる街で、この地ほど落ち着かない場所はないだろう。
夏の陽射しがこれでもかと照りつける琵琶湖のほとりの小さな街。
この街はいたるところに「大津」の文字を掲げているのだ。
駅はもちろん、病院も、学校も、スーパーも、すべてだ。
まるで自分の夢の中で無邪気に作り出してしまった架空の都市に舞い降りた気分だ。
幻想都市から逃げるように、僕は必死で自転車を漕いだ。
150kmの道のりを2日もかけて漕いだ果てに、目の前に現れた交通案内に「大津」の文字が見えた時の僕の気持ちを君はわかるかい?
「お前はどんなに走っても運命から逃げられないんだよ」と言われているようで、僕はみじめな気持ちになった。
達成感とも、諦めともつかない感情を乱暴に詰め込んで、僕は京都へと帰るのだった。