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ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。
今回のテーマは「中小企業のWeb・IT・デジタル人材不足に、副業人材は本当に解決策になるのか」です。
ここ数年、特に2024年前後から「副業人材」「越境副業」といった言葉をメディアで目にする機会が増えました。採用や育成のコストは重く、社内にWeb・ITの専任を置く余裕もない。その中で「副業で力を貸してくれる人を活用できないか」と考えるのは、ごく自然な流れだと思います。
ただ、現場でいろいろな企業のご相談を受けている立場からいうと、「副業人材さえ採れれば一気に解決する」というような状況には、まだなっていないと感じています。今回は、その理由と、代わりにどのような選択肢が現実的なのかを、できるだけ具体的にお話ししていきます。
人材に関する悩みは、どの会社にとっても簡単ではありません。人口が減っていく中で、今までのように「フルタイムの正社員を増やして組織を大きくしていく」だけでは立ちゆかなくなる場面も増えていきます。
私自身は、「みんなが正社員としてフルタイムで働けるなら、それが一番分かりやすい」という感覚も持っています。ただ、現実としては、それだけでは立ち行かない場面が増えている。だからこそ、フリーランス、副業、プロジェクト単位の関わり方など、いくつかの選択肢をミックスしながら、会社を強くしていく必要があると考えています。
まず前提として、「なぜ社外の人材が必要になるのか」を整理しておきます。
中小企業でWebやデジタルを任せられる人を採用しようとすると、かなりのコストが掛かります。求人広告費、採用にかける時間、入社後の教育コスト。それだけ負担をかけて採用しても、数年で辞めてしまうこともあります。
しかも、多くの会社では「Webにフルタイムで張り付いてもらうほどの仕事量」は、まだ積み上がっていません。経営的にも、そこに人件費を固定で投下するのはためらわれる。結果として、「必要なときに、必要な分だけ、外部の誰かにお願いしたい」というニーズが生まれます。
少し前までは、ここに対しては主に「フリーランスにお願いする」という文脈で語られていました。そこに、ここ数年で「副業人材」という言葉が乗ってきた、というのが流れです。
「副業人材」という言葉は、メディアの中でフワッと使われがちですが、ここでは次のようなイメージでお話しします。
特徴として大きいのは、「現役の会社員として組織の中で働いている」という点です。日々、社内で決裁を通したり、関係部署と調整したり、人事や経理とのやりとりを経験している。こうした「組織の感覚」を持っていることが、副業人材に対して期待されている部分だと思います。
一方のフリーランスは、多くの場合、次のような働き方です。
フリーランスの中にも、以前は会社員として組織で働いていた人もいれば、最初から会社員経験がほとんど無い人もいます。どちらが良い・悪いという話ではありませんが、「会社という組織の力学を経験しているかどうか」は、プロジェクトの進めやすさにかなり影響します。
社外の人にお願いするとき、多くの会社では次のような体制を理想としています。
ところが現場では、そこまで社内の体制が整っていないことも多く、「社内を説得する資料を作ってほしい」「社内の人たちに説明する場をファシリテートしてほしい」といった、組織に踏み込んだサポートが必要になるケースがかなりあります。
そのときに、「組織の中での経験がどのくらいあるか」は効いてきます。「この会社でこの資料を通すなら、こういう構成で、まずこの人を味方につけた方が良さそうですね」といった提案ができる人は、フリーランスの中でも非常に重宝され、報酬も高くなっていきます。
技術スキルを持っていて、言われた作業をきちんとこなす人は、探せば一定数います。しかし、中小企業が本当に求めているのは「会社を動かして結果を出すところまで一緒にやってくれる人」です。その意味で、組織経験のある副業人材は、概念としてはたしかに魅力的です。
ここからは、少し現実的な話をしていきます。
副業人材は、本業も副業先も「雇用契約」で働くことが多くなります。この場合、本業と副業の労働時間は足し算で考えられます。原則として、1日8時間・週40時間を超える部分は、時間外労働としての扱いが必要になります。
そこから先は、36協定(時間外・休日労働に関する協定)や割増賃金、健康管理など、企業側の管理の話になっていきます。単純に「土日なら好きなだけ働いてもらえばよい」という話ではなく、本業側と副業先の企業、両方にとって「長時間労働になり過ぎないようにすること」が前提になります。
そのため、副業人材として動くには、例えば次のような調整が必要になることがあります。
こうした調整を、本業の会社側がすんなり許可してくれるかどうか。これは、その人が会社の中でどれだけの役割や信頼を持っているかにかなり左右されます。社内での発言力がある程度ないと、そもそも副業として外に出ていくこと自体が難しい、という現実があります。
もうひとつ見落としがちな視点があります。それは「副業人材を送り出す側の会社が、どう感じるか」です。
会社から見れば、その社員には給料だけでなく、社会保険料の会社負担分や、さまざまな福利厚生のコストをかけています。さらに、教育やOJTにも時間とお金をかけて育てているわけです。
そういう人材を、「競合の可能性もある外の会社」のために、労務管理のリスクも負いながら外に出すかどうか。理屈の上では「副業を認めて、人材の活躍の場を広げていきましょう」という流れですが、現場感覚でいうと、多くの会社にとってはまだハードルが高いところです。
実際、副業人材の成功事例としてメディアで紹介されるのは、知名度の高い大企業のケースが多いです。副業として関わる先も、「この会社で働いてみたい」「ここに関わること自体に意味がある」と思われるような、有名企業であることがほとんどです。
そうすると、中小企業が同じような条件で副業人材を集めようとしても、そもそも応募が集まりにくい、という現実があります。
副業人材の事例としてよく取り上げられるのは、ラインやイオンのような大企業など、有名な企業が中心です。これは単純に、メディアとして取り上げやすいこともありますし、「そこに関わること自体がキャリアになる」と見られやすいからでもあります。
一方で、自治体や中堅・中小企業が、副業人材のマッチングサービスを試している動きも出てはきています。ただ、全体として見れば、「どの会社でも簡単に副業人材を活用できる」という段階には、まだ到達していないというのが、現場から見た感覚です。
副業人材を送り出す側・受け入れる側の両方で、就業規則や労働時間の管理、報酬の決め方、情報管理などを含めた仕組みづくりが必要になります。このあたりの体制は、今も整備が進んでいる途中という印象です。
ここまで副業人材についてお話ししてきましたが、現時点で中小企業にとって現実的なのは、「組織の感覚を持ったフリーランス」や「そうした人材を抱えている専門会社」と組むことだと考えています。
先ほども触れたように、中小企業が外部に求めているのは単なる技術ではなく、「会社を動かして成果が出るところまで一緒にやってくれること」です。
こういった動き方ができる人は、フリーランスの中でも数が多くありません。だからこそ、そういう人が一度社外に出ると、かなり高い報酬でも引き合いが来ますし、仕事の枠もすぐに埋まってしまいます。
フリーランスの場合、一般的には会社員のような形で労働基準法の労働時間規制がそのままは掛かりません(多くは業務委託契約です)。もちろん、実態として会社の指揮命令のもとで働いていれば、労働者として判断されるケースもありますが、少なくとも「別の会社との雇用契約を二つ持つ」という副業人材よりは、時間の調整がしやすいのが現実です。
そして、法人格を持っているフリーランスや、小規模な制作会社であれば、プロジェクト単位の契約にも慣れていることが多く、契約書のやり取りもスムーズに進む傾向があります。
ここからは少し余談になりますが、フリーランス市場自体もだいぶ二極化が進んでいると感じています。
「フリーランスになりませんか」という広告や、フリーランス向けのスクールがかなり増えました。これは裏を返すと、「スクールを出たばかりで実務経験がまだ浅いフリーランス候補」が毎年たくさん出てきている、ということでもあります。
そうすると、市場は次のような構造になりがちです。
その中間に位置する、「それなりに経験もあり、単価も現実的で、企業側から見るとちょうどいい層」が薄くなってきているように見えます。下の層の人たちが育つ前に市場から抜けてしまい、上の層は価格的にも手が届きにくい。結果として、多くの会社が狙いたい中間層だけが取り合いになっている、という状況です。
実際、「誰か良いフリーランスを知らないか」と相談されることがよくありますが、「今すぐ紹介できます」と言える人はほとんどいません。腕の良い人は、どこかの会社に社員として入ってしまったり、自分で会社を立ち上げたりしていて、そもそもフリーランスとしての枠が空いていないのです。
このような状況なので、もし今すでに「信頼して仕事をお願いできるフリーランスや小規模な会社」とつながっているなら、その関係はかなり貴重です。できるだけ長く付き合っていけるように、関係性を大事にした方がよいと感じます。
また、個人に直接お願いするのが不安な場合は、Web制作やWeb運用を専門にしている会社で、プロジェクト単位・月単位でサポートしてくれるところを探すのも選択肢です。そういった会社の多くは、人の枠が決まっていて、「これ以上は仕事を受けられない」というラインを設けています。
当社もそうですが、新規のご相談を受けるときは、既存のお客さまとの兼ね合いを見ながら、枠が空いたタイミングでないとお受けできないことが多いです。どこも「人」というリソースには上限があるので、検討を始めるのであれば、少し余裕をもって動いておく方が現実的です。
ここまでを一度まとめると、現時点では「副業人材に過度な期待をかけすぎない方が良い」というのが、私の正直な感覚です。
副業人材を送り出す側・受け入れる側のどちらも、就業規則や労働時間管理などの仕組みを整えつつある段階で、大企業や一部の企業を除けば、まだ本格的に活用できているところは限られています。
とはいえ、2024年以降も国のガイドライン整備や制度面の見直しは続いています。収録当時から今後5年ほどの間で、社会全体の捉え方や制度が変わっていく可能性は十分にあります。その意味では、「将来の選択肢として情報だけはフォローしておく」という姿勢は持っておいてよいと思います。
ただ、「人材不足が厳しいから、今すぐ副業人材に頼れば何とかなる」という期待を持ってしまうと、現場とのギャップに戸惑うことになるはずです。現実的には、今はまだ「フリーランスや専門会社をどう選ぶか」が主戦場だと考えた方が、足元の手を打ちやすくなります。
もうひとつ、とても大事だと感じているのが、「フリーランスが働きやすい会社になっておく」という視点です。
これからは、リモートで働く人や、複数の会社と関わる人が増えていきます。そのときに、「この会社とは一緒に仕事をしやすい」「この会社なら、また関わりたい」と思ってもらえるかどうかで、集まってくる人材の質も変わってきます。
例えば、次のような点はフリーランス側から見てとても大きい要素です。
今すでに付き合いのあるフリーランスの方がいるなら、「うちと仕事をしていてやりにくいところはどこか」「こうなったらもっとやりやすいと思うところはあるか」と、率直に聞いてみるのも一つです。
そして、そうした声を踏まえて、社内のルールやフローを少しずつ整えていくことで、「この会社なら、また仕事をしたい」と思ってもらえる環境に近づいていきます。結果として、良い人ほど長く関わってくれるようになり、人材不足のダメージを和らげることにつながります。
人材マッチングサービスやプラットフォームも、もちろん便利な面はあります。ただ、長く一緒にやっていきたい相手と出会えたなら、どこかのタイミングで「中抜きされない形」にしていくことも考えた方が良いと感じています。
ここでいう「中抜き」とは、間に入る仲介会社が一定の手数料を取り続ける構造のことです。短期の案件ならそれでもよいのですが、長期的なパートナーとして付き合っていきたい相手であれば、お互いに直接契約を結べる形にした方が、両者にとってメリットが大きいケースが多いです。
そのためには、最初からプラットフォームだけに頼るのではなく、人づての紹介や、信頼できるネットワークの中でつながりを広げていくことも意識しておくと良いと思います。
最後に、今回の話をあらためて整理します。
人材に関する悩みは、どの会社にとっても簡単ではありません。人口が減っていく中で、今までのように「フルタイムの正社員を増やして組織を大きくしていく」だけでは立ちゆかなくなる場面も増えていきます。
私自身は、「みんなが正社員としてフルタイムで働けるなら、それが一番分かりやすい」という感覚も持っています。ただ、現実としては、それだけでは立ち行かない場面が増えている。だからこそ、フリーランス、副業、プロジェクト単位の関わり方など、いくつかの選択肢をミックスしながら、会社を強くしていく必要があると考えています。
当社では、最終的には社内で自立して運用していける状態を目指して、「ずっと居座らないコンサル」を方針に、プロセス(進め方)そのものを一緒に組み立てていくプロセスコンサルテーションという考え方でお手伝いをしています。
もし、今回お話ししたような人材面の悩みがあり、「自社の場合はどう考えればよいか」を整理したいと思われたら、無理のない範囲で構いませんので、一度ご相談いただければと思います。
こちらのフォームへどうぞ。 https://forms.gle/Lvy4nVauyJ2SRhJM7
株式会社ラウンドナップ(ラウンドナップWebコンサルティング)
代表取締役・コンサルタント 中山陽平
Webサイト:https://roundup-inc.co.jp/
投稿 第537回:中小企業のWeb・IT・デジタル人材不足に、副業人材は本当に解決策になるのか? は 中小企業専門WEBマーケティング支援会社・ラウンドナップWebコンサルティング(Roundup Inc.) に最初に表示されました。
By ラウンドナップ・Webコンサルティング 代表 中山陽平ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。
今回のテーマは「中小企業のWeb・IT・デジタル人材不足に、副業人材は本当に解決策になるのか」です。
ここ数年、特に2024年前後から「副業人材」「越境副業」といった言葉をメディアで目にする機会が増えました。採用や育成のコストは重く、社内にWeb・ITの専任を置く余裕もない。その中で「副業で力を貸してくれる人を活用できないか」と考えるのは、ごく自然な流れだと思います。
ただ、現場でいろいろな企業のご相談を受けている立場からいうと、「副業人材さえ採れれば一気に解決する」というような状況には、まだなっていないと感じています。今回は、その理由と、代わりにどのような選択肢が現実的なのかを、できるだけ具体的にお話ししていきます。
人材に関する悩みは、どの会社にとっても簡単ではありません。人口が減っていく中で、今までのように「フルタイムの正社員を増やして組織を大きくしていく」だけでは立ちゆかなくなる場面も増えていきます。
私自身は、「みんなが正社員としてフルタイムで働けるなら、それが一番分かりやすい」という感覚も持っています。ただ、現実としては、それだけでは立ち行かない場面が増えている。だからこそ、フリーランス、副業、プロジェクト単位の関わり方など、いくつかの選択肢をミックスしながら、会社を強くしていく必要があると考えています。
まず前提として、「なぜ社外の人材が必要になるのか」を整理しておきます。
中小企業でWebやデジタルを任せられる人を採用しようとすると、かなりのコストが掛かります。求人広告費、採用にかける時間、入社後の教育コスト。それだけ負担をかけて採用しても、数年で辞めてしまうこともあります。
しかも、多くの会社では「Webにフルタイムで張り付いてもらうほどの仕事量」は、まだ積み上がっていません。経営的にも、そこに人件費を固定で投下するのはためらわれる。結果として、「必要なときに、必要な分だけ、外部の誰かにお願いしたい」というニーズが生まれます。
少し前までは、ここに対しては主に「フリーランスにお願いする」という文脈で語られていました。そこに、ここ数年で「副業人材」という言葉が乗ってきた、というのが流れです。
「副業人材」という言葉は、メディアの中でフワッと使われがちですが、ここでは次のようなイメージでお話しします。
特徴として大きいのは、「現役の会社員として組織の中で働いている」という点です。日々、社内で決裁を通したり、関係部署と調整したり、人事や経理とのやりとりを経験している。こうした「組織の感覚」を持っていることが、副業人材に対して期待されている部分だと思います。
一方のフリーランスは、多くの場合、次のような働き方です。
フリーランスの中にも、以前は会社員として組織で働いていた人もいれば、最初から会社員経験がほとんど無い人もいます。どちらが良い・悪いという話ではありませんが、「会社という組織の力学を経験しているかどうか」は、プロジェクトの進めやすさにかなり影響します。
社外の人にお願いするとき、多くの会社では次のような体制を理想としています。
ところが現場では、そこまで社内の体制が整っていないことも多く、「社内を説得する資料を作ってほしい」「社内の人たちに説明する場をファシリテートしてほしい」といった、組織に踏み込んだサポートが必要になるケースがかなりあります。
そのときに、「組織の中での経験がどのくらいあるか」は効いてきます。「この会社でこの資料を通すなら、こういう構成で、まずこの人を味方につけた方が良さそうですね」といった提案ができる人は、フリーランスの中でも非常に重宝され、報酬も高くなっていきます。
技術スキルを持っていて、言われた作業をきちんとこなす人は、探せば一定数います。しかし、中小企業が本当に求めているのは「会社を動かして結果を出すところまで一緒にやってくれる人」です。その意味で、組織経験のある副業人材は、概念としてはたしかに魅力的です。
ここからは、少し現実的な話をしていきます。
副業人材は、本業も副業先も「雇用契約」で働くことが多くなります。この場合、本業と副業の労働時間は足し算で考えられます。原則として、1日8時間・週40時間を超える部分は、時間外労働としての扱いが必要になります。
そこから先は、36協定(時間外・休日労働に関する協定)や割増賃金、健康管理など、企業側の管理の話になっていきます。単純に「土日なら好きなだけ働いてもらえばよい」という話ではなく、本業側と副業先の企業、両方にとって「長時間労働になり過ぎないようにすること」が前提になります。
そのため、副業人材として動くには、例えば次のような調整が必要になることがあります。
こうした調整を、本業の会社側がすんなり許可してくれるかどうか。これは、その人が会社の中でどれだけの役割や信頼を持っているかにかなり左右されます。社内での発言力がある程度ないと、そもそも副業として外に出ていくこと自体が難しい、という現実があります。
もうひとつ見落としがちな視点があります。それは「副業人材を送り出す側の会社が、どう感じるか」です。
会社から見れば、その社員には給料だけでなく、社会保険料の会社負担分や、さまざまな福利厚生のコストをかけています。さらに、教育やOJTにも時間とお金をかけて育てているわけです。
そういう人材を、「競合の可能性もある外の会社」のために、労務管理のリスクも負いながら外に出すかどうか。理屈の上では「副業を認めて、人材の活躍の場を広げていきましょう」という流れですが、現場感覚でいうと、多くの会社にとってはまだハードルが高いところです。
実際、副業人材の成功事例としてメディアで紹介されるのは、知名度の高い大企業のケースが多いです。副業として関わる先も、「この会社で働いてみたい」「ここに関わること自体に意味がある」と思われるような、有名企業であることがほとんどです。
そうすると、中小企業が同じような条件で副業人材を集めようとしても、そもそも応募が集まりにくい、という現実があります。
副業人材の事例としてよく取り上げられるのは、ラインやイオンのような大企業など、有名な企業が中心です。これは単純に、メディアとして取り上げやすいこともありますし、「そこに関わること自体がキャリアになる」と見られやすいからでもあります。
一方で、自治体や中堅・中小企業が、副業人材のマッチングサービスを試している動きも出てはきています。ただ、全体として見れば、「どの会社でも簡単に副業人材を活用できる」という段階には、まだ到達していないというのが、現場から見た感覚です。
副業人材を送り出す側・受け入れる側の両方で、就業規則や労働時間の管理、報酬の決め方、情報管理などを含めた仕組みづくりが必要になります。このあたりの体制は、今も整備が進んでいる途中という印象です。
ここまで副業人材についてお話ししてきましたが、現時点で中小企業にとって現実的なのは、「組織の感覚を持ったフリーランス」や「そうした人材を抱えている専門会社」と組むことだと考えています。
先ほども触れたように、中小企業が外部に求めているのは単なる技術ではなく、「会社を動かして成果が出るところまで一緒にやってくれること」です。
こういった動き方ができる人は、フリーランスの中でも数が多くありません。だからこそ、そういう人が一度社外に出ると、かなり高い報酬でも引き合いが来ますし、仕事の枠もすぐに埋まってしまいます。
フリーランスの場合、一般的には会社員のような形で労働基準法の労働時間規制がそのままは掛かりません(多くは業務委託契約です)。もちろん、実態として会社の指揮命令のもとで働いていれば、労働者として判断されるケースもありますが、少なくとも「別の会社との雇用契約を二つ持つ」という副業人材よりは、時間の調整がしやすいのが現実です。
そして、法人格を持っているフリーランスや、小規模な制作会社であれば、プロジェクト単位の契約にも慣れていることが多く、契約書のやり取りもスムーズに進む傾向があります。
ここからは少し余談になりますが、フリーランス市場自体もだいぶ二極化が進んでいると感じています。
「フリーランスになりませんか」という広告や、フリーランス向けのスクールがかなり増えました。これは裏を返すと、「スクールを出たばかりで実務経験がまだ浅いフリーランス候補」が毎年たくさん出てきている、ということでもあります。
そうすると、市場は次のような構造になりがちです。
その中間に位置する、「それなりに経験もあり、単価も現実的で、企業側から見るとちょうどいい層」が薄くなってきているように見えます。下の層の人たちが育つ前に市場から抜けてしまい、上の層は価格的にも手が届きにくい。結果として、多くの会社が狙いたい中間層だけが取り合いになっている、という状況です。
実際、「誰か良いフリーランスを知らないか」と相談されることがよくありますが、「今すぐ紹介できます」と言える人はほとんどいません。腕の良い人は、どこかの会社に社員として入ってしまったり、自分で会社を立ち上げたりしていて、そもそもフリーランスとしての枠が空いていないのです。
このような状況なので、もし今すでに「信頼して仕事をお願いできるフリーランスや小規模な会社」とつながっているなら、その関係はかなり貴重です。できるだけ長く付き合っていけるように、関係性を大事にした方がよいと感じます。
また、個人に直接お願いするのが不安な場合は、Web制作やWeb運用を専門にしている会社で、プロジェクト単位・月単位でサポートしてくれるところを探すのも選択肢です。そういった会社の多くは、人の枠が決まっていて、「これ以上は仕事を受けられない」というラインを設けています。
当社もそうですが、新規のご相談を受けるときは、既存のお客さまとの兼ね合いを見ながら、枠が空いたタイミングでないとお受けできないことが多いです。どこも「人」というリソースには上限があるので、検討を始めるのであれば、少し余裕をもって動いておく方が現実的です。
ここまでを一度まとめると、現時点では「副業人材に過度な期待をかけすぎない方が良い」というのが、私の正直な感覚です。
副業人材を送り出す側・受け入れる側のどちらも、就業規則や労働時間管理などの仕組みを整えつつある段階で、大企業や一部の企業を除けば、まだ本格的に活用できているところは限られています。
とはいえ、2024年以降も国のガイドライン整備や制度面の見直しは続いています。収録当時から今後5年ほどの間で、社会全体の捉え方や制度が変わっていく可能性は十分にあります。その意味では、「将来の選択肢として情報だけはフォローしておく」という姿勢は持っておいてよいと思います。
ただ、「人材不足が厳しいから、今すぐ副業人材に頼れば何とかなる」という期待を持ってしまうと、現場とのギャップに戸惑うことになるはずです。現実的には、今はまだ「フリーランスや専門会社をどう選ぶか」が主戦場だと考えた方が、足元の手を打ちやすくなります。
もうひとつ、とても大事だと感じているのが、「フリーランスが働きやすい会社になっておく」という視点です。
これからは、リモートで働く人や、複数の会社と関わる人が増えていきます。そのときに、「この会社とは一緒に仕事をしやすい」「この会社なら、また関わりたい」と思ってもらえるかどうかで、集まってくる人材の質も変わってきます。
例えば、次のような点はフリーランス側から見てとても大きい要素です。
今すでに付き合いのあるフリーランスの方がいるなら、「うちと仕事をしていてやりにくいところはどこか」「こうなったらもっとやりやすいと思うところはあるか」と、率直に聞いてみるのも一つです。
そして、そうした声を踏まえて、社内のルールやフローを少しずつ整えていくことで、「この会社なら、また仕事をしたい」と思ってもらえる環境に近づいていきます。結果として、良い人ほど長く関わってくれるようになり、人材不足のダメージを和らげることにつながります。
人材マッチングサービスやプラットフォームも、もちろん便利な面はあります。ただ、長く一緒にやっていきたい相手と出会えたなら、どこかのタイミングで「中抜きされない形」にしていくことも考えた方が良いと感じています。
ここでいう「中抜き」とは、間に入る仲介会社が一定の手数料を取り続ける構造のことです。短期の案件ならそれでもよいのですが、長期的なパートナーとして付き合っていきたい相手であれば、お互いに直接契約を結べる形にした方が、両者にとってメリットが大きいケースが多いです。
そのためには、最初からプラットフォームだけに頼るのではなく、人づての紹介や、信頼できるネットワークの中でつながりを広げていくことも意識しておくと良いと思います。
最後に、今回の話をあらためて整理します。
人材に関する悩みは、どの会社にとっても簡単ではありません。人口が減っていく中で、今までのように「フルタイムの正社員を増やして組織を大きくしていく」だけでは立ちゆかなくなる場面も増えていきます。
私自身は、「みんなが正社員としてフルタイムで働けるなら、それが一番分かりやすい」という感覚も持っています。ただ、現実としては、それだけでは立ち行かない場面が増えている。だからこそ、フリーランス、副業、プロジェクト単位の関わり方など、いくつかの選択肢をミックスしながら、会社を強くしていく必要があると考えています。
当社では、最終的には社内で自立して運用していける状態を目指して、「ずっと居座らないコンサル」を方針に、プロセス(進め方)そのものを一緒に組み立てていくプロセスコンサルテーションという考え方でお手伝いをしています。
もし、今回お話ししたような人材面の悩みがあり、「自社の場合はどう考えればよいか」を整理したいと思われたら、無理のない範囲で構いませんので、一度ご相談いただければと思います。
こちらのフォームへどうぞ。 https://forms.gle/Lvy4nVauyJ2SRhJM7
株式会社ラウンドナップ(ラウンドナップWebコンサルティング)
代表取締役・コンサルタント 中山陽平
Webサイト:https://roundup-inc.co.jp/
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