アマゾンは米国時間10月9日、業務の「調べる・見える化・動かす」を横断する新基盤「Amazon Quick Suite」を発表しました。目的は、これまで別々のアプリで行っていた情報収集、BI分析、チケット作成や承認などの実行作業を、エージェントが一気通貫でこなすこと。AWS公式ブログは、Quick Suiteを“仕事の質問に答え、行動まで移すエージェントの同僚”と表現しています。
中核は「Quick Index」。社内のドキュメントやメール、ダッシュボード、データベースに加え、Google DriveやMicrosoft SharePoint、Amazon S3、Snowflakeといった外部ストレージやSaaSも束ね、検索可能な知識土台をつくります。上に乗る「Quick Research」は、最初のプロンプトから調査計画を自動生成し、根拠付きで洞察を提示。「Quick Sight」は会話型で可視化や要約、シナリオ分析を行い、ダッシュボードからそのままワンクリックでチケット起票や通知といったアクションも可能です。
業務実行の手足となるのが「Quick Flows」と「Quick Automate」。前者は現場主導のノーコード自動化、後者は部門横断の複雑なプロセスをマルチエージェントでオーケストレーションします。役割管理や人手レビュー、監査証跡などエンタープライズ要件を備え、ブラウザ操作を自律的に行うUIエージェントも利用できます。
Quick Suiteは、旧「Amazon QuickSight」を中核に再編された位置づけで、UI/ブランドは順次Quick Suiteへ移行。新機能の初期提供リージョンは米東・米西・欧州(ダブリン)・アジア太平洋(シドニー)で、他リージョンは既存BI機能を保ちつつ新UIに切り替わる段階的ロールアウトです。日本の利用者も見た目は変わり、先行リージョンの新機能は順次展開される見通しです。
価格はサブスクリプション制で、Professionalが月20ドル、Enterpriseが月40ドル。後者はQuick Automateでの本格的な自動化作成や、高度なダッシュボード作成まで含みます。Quick Indexなど一部は従量課金が発生する仕組みです。全社導入の試算をする際は、ユーザー数とインデックス利用量の二軸で設計するのがポイントになります。
戦略面では、AWSはQuick Suiteを“Agentic AI”の本命と位置づけ、外部連携はオープン標準MCPも取り込み1,000以上のアプリ接続に踏み込む姿勢を明確にしました。春には自律エージェントに注力する新組織も発足しており、インフラ強者のAWSが業務アプリ層で主導権を狙う再配置が見て取れます。
一方で、足元の教訓もあります。社内レビューによると、前身の「Amazon Q Business」は初期に精度課題を抱えたと報じられました。AWSは幻覚抑制やエージェント型RAGなどの改善を重ねていますが、今回のQuick Suiteでは「索引の刷新」「根拠提示」「計画→実行の一体化」で信頼性と再現性を高める構成に振り切った格好です。導入企業は、権限継承や監査、ヒトの確認をどう組み合わせるかが成功の鍵になるでしょう。
人の動きでは、発表直前にQuick Suiteを率いたDilip Kumar氏の退任報道があり、実務面はAgentic AI統括のSwami Sivasubramanian氏が引き継ぐ形とされています。体制を固めつつ、エージェント市場でMicrosoftやGoogleと真正面から競う年末商戦に臨む、そんな構図です。