発表は2025年10月16日、Anthropicのエンジニアリングブログからでした。新機能「Agent Skills」は、業務の“段取り”や社内ルールをフォルダ構成で丸ごと渡し、Claudeが必要なときだけ読み込んで使う仕立てです。スキルは指示文とスクリプト、テンプレートを内包し、Claude.ai、Claude Code、API、Agent SDKのいずれでも動作。汎用エージェントを“自社仕様の専門家”へと一瞬で切り替える狙いが語られました。
仕組みの肝はSKILL.mdです。冒頭のYAMLメタデータ(name/description)だけを起動時にプロンプトへ常時ロードし、該当しそうな場面になったら本文や添付ファイルを追加で読む――この「段階的開示」により、長大なナレッジでも必要部分だけを都度取り込めます。さらに、Skillに同梱したコードはClaudeがツールとして実行でき、たとえば並べ替えやPDF解析のような処理を“トークン生成ではなくコード”で確実に回せる、と説明しています。
具体例として取り上げられたのがPDFスキルです。フォーム付きPDFの項目抽出を行うPythonスクリプトと、作業の手順を分離した構成で、Claudeは必要時にforms.mdだけを読みにいく設計。実物はGitHubの公式リポジトリに公開され、開発者ドキュメントには“どの面(Claude.ai/API/Claude Code)でも扱える”と明記されています。
提供範囲は初日から広く、Claude.ai、Claude Code、Agent SDK、Developer Platformでサポート済み。今後は作成・共有・発見・管理のライフサイクル機能も足していく計画で、外部ツール接続の標準であるMCPとは“役割分担で補完”する、と展望が示されています。技術ページにはクイックスタートとクックブックも用意され、すぐに社内流儀をSkill化できる導線です。
外部の受け止めも上々です。米The Vergeは「職場での実用度を高める“Skills”を導入」と報じ、企業の具体例や用途を紹介。SiliconANGLEも、特定作業に強いエージェント化を後押しする仕組みとして整理しています。生成AIが“汎用の会話相手”から“職能を持つ相棒”へ移行する潮目を映す動きと言えます。
同日に発表されたMicrosoft 365連携やエンタープライズ検索とも相性は抜群です。Skillで“どう働くか”の流儀を教え、コネクタでSharePointやOutlook、Teamsから“何で働くか”の素材を引き込む。管理者承認のもとTeam/Enterpriseで使えるという導入条件も明確で、現場はセットで活用するほど効果が出やすい構図です。
注意すべきはセキュリティです。Anthropicは“信頼できる出所からのみ導入し、同梱コードや外部アクセス先を必ず精査せよ”と明記。悪意あるSkillが環境に脆弱性を持ち込むリスクや、意図せぬデータ持ち出しを避けるための基本原則が示されています。
実務目線では、Skillは“再利用可能な社内資産”です。ブランドガイドの反映、Excel集計の作法、法務チェックの観点――散在するノウハウをフォルダに束ね、リポジトリで版管理し、チームに配る。結果としてプロンプトの都度指示が減り、出力の一貫性が上がり、コストも読みやすくなる。公式リポジトリとドキュメントが整っている今が、最初の一本を社内標準として育て始める好機でしょう。