9月29日、Microsoftは“Vibe Working”という新しい働き方の合言葉とともに、Microsoft 365 Copilotに二つの大きな機能を発表しました。ひとつはExcelとWordに組み込まれる「Agent Mode」。もうひとつはCopilotのチャットからプレゼンや文書を一気通貫で作る「Office Agent」です。発表では、従来の“指示→単発生成”を超えて、AIがマルチステップで計画・実行・検証を回し、ユーザーは舵取り役に徹するコラボレーション様式を前面に掲げました。
まずExcelのAgent Modeは“Excelを母語のように話すAI”を標榜します。表や関数、ピボット、グラフといったアプリ固有のオブジェクトを理解し、必要に応じてコードを実行してワークブックを直接操作。結果を自己点検して不具合を修正し、検証が通るまで反復する――という“計画・実行・内省”ループを備えています。Microsoftの技術解説では、ワークブックの要約をJSON/Markdownで生成する“文脈プロデューサー”、簡易テストを仕込む“検証駆動生成”、品質を底上げする“AIグレーダー”など、実務で通用させるための工学的工夫が具体的に示されました。
性能面では、公開ベンチマークSpreadsheetBenchの全912タスクを用いた社内評価で、Agent Modeが57.2%の正答率を記録したと説明されています。同社は“ベンチ最適化ではなく実務最適化を重視する”とも明記しており、会計表の作成やローン計算、家計管理などのプロンプト例とともに、生成過程の可視化と再現性を意識したつくりをアピールしました。
WordのAgent Modeは“会話で仕上げる執筆体験”に振り切っています。要約や追記の指示を出すと、Copilotが原稿を下書きし、スタイルや強調、社内ルールの反映まで提案しながら一緒に磨き込む。意図のすり合わせを挟みつつ、最終的にはアプリ内のスタイルで整ったドキュメントに落とし込む、という流れです。PowerPoint対応も“近日”と予告されました。
もう一方の主役、Office Agentは“チャットから作品を完成させる”ためのマルチエージェントです。まず意図を確認し、ウェブでの情報収集と推論を行い、途中経過をプレビューしながら、完成度の高いPowerPointやWordを吐き出します。基盤はAnthropicのClaudeモデルとオープンソースのオーケストレーションを組み合わせ、見た目の質感まで作り込むためにTDD(Taste-Driven Development)を導入。社内で蒐集した良質な作例から“味の青写真”を抽出し、レイアウトやタイポグラフィの一貫性を保つ仕組みが語られました。
提供形態は段階的です。Agent ModeはExcel/WordともにMicrosoft 365のFrontier Programで本日から順次ロールアウト。現時点ではWeb版が対象で、デスクトップは今後対応予定。Office Agentはまず米国のMicrosoft 365個人向け(Personal/Family/Premium)で英語・Webから開始し、商用対応はこれからとされます。
戦略の底流にあるのは“マルチモデル化”です。MicrosoftはCopilot Studio経由でOpenAIに加えてAnthropicのClaude(最新のSonnet 4.5など)を選択可能にしており、用途に応じて最適な推論エンジンを組み合わせる設計を鮮明にしています。Office AgentがClaude、Agent Modeが最新の推論モデル群とそれぞれの強みを生かし分けることで、生成の質と業務への当て込みやすさを両立させようという意図が読み取れます。
実務の肌感で言えば、ExcelのAgent Modeは“数式・表・グラフが絡む一連の作業”を任せやすく、監査可能なワークブックを残す作りが現場に効きそうです。WordのAgent Modeは月次レポートや顧客報告の“推敲の同伴者”。Office AgentはRFPのたたき台や経営会議の説明資料など、ゼロ→イチの“見せ物”を素早く形にする使い所が合います。いずれも、人が意図と基準を握り、AIが作業を走らせる――という役割分担が前提。社内のスタイルガイドや根拠データを整理しておくほど、効果は出やすくなるでしょう。