前回は、「ドラッグリポジショニング」というお話をしました。
既に治療薬として使われているお薬を、別の病気に適用するようなお薬に開発・製品化するということで、医薬品の「温故知新」と言われているというお話でした。このドラッグリポジショニングには、メリットとデメリットがあります。そのメリットとしては、開発期間と開発に掛かる費用を大幅に削減出来るということが挙げられます。一方デメリットとしては、全くの新薬ではないため、薬価が低く抑えられることがあり製薬会社が開発を行う上でのインセンティブが低くなることが挙げられます。
今日は、実際にドラッグリポジショニングによって生まれたお薬と、そもそもどうやって生まれたのかについてはお話します。
最初の事例です。
元々「てんかん」という病気の治療薬として使われていた『ゾニサミド』という日本の製薬会社で開発されたお薬があります。このお薬が、実はパーキンソン病という手足の震えや筋肉の強張りの運動機能に障害が現れる神経変性疾患に効果を示すことが分かりました。現在は、てんかん治療薬に加えて、新たにパーキンソン病の治療薬としても厚生労働省から認可されています。
では、何故てんかんのお薬がパーキンソン病に効果があるのか分かったかというと、パーキンソン病の患者さんがてんかんを併発したところ、このお薬を投与したところ元々あったパーキンソン病の症状が改善されたという事例があり、これを機にこのお薬のドラッグリポジショニングが行われて、最終的にはパーキンソン病にも効くということでパーキンソン病にも使用できるお薬になったわけです。
CMでよく宣伝されている発毛剤の「リアップ」をご存知ですか?このリアップも元々は高血圧の治療薬として開発されていました。ただ、本来目的としていた血圧を下げる作用よりも、毛髪が増量するというある意味副作用の方が顕著に見られたため、開発の方向性を変えて現在は当初の目標とは異なる「発毛剤」として販売されています。
これまでこのようにドラッグリポジショニングが意図的に別の治療薬の開発を狙ったというわけではなく、偶発的に発見されたいわゆるセレンデピティ(serendipity)的要素が強いものでした。しかし近年、偶発的ではなく、薬のデータや臨床試験のデータ、遺伝子の働き方など様々な医学的薬学的なデータを統合したビッグデータを、AIを用いて解析することで、効率的にどのお薬がどんな病気に効果を示すかを発見、実用化する取り組みが進められています。正に最先端のテクノロジーを駆使したドラッグリポジショニングが行われています。
新型コロナウイルス治療薬として、既存薬が効果を示す可能性は先日お話したアビガン以外にも目にすることがあると思いますが、それらの中には現在版のドラッグリポジショニングの開発戦略で同定されたものも含まれています。
今までの治療薬のビッグデータを基に、これが新型コロナウイルスの治療薬として活用できるのではないかという取り組みが行われています。現在、ドラッグリポジショニングの市場規模は拡大傾向にあり、2019年に全世界でおおよそ253億ドル、日本円で2.7兆円。2027年には330億ドル、3.6兆円までの規模に成長するとも予想されています。欧米のスタートアップ企業は、製薬会社と各々契約して開発中の薬剤や開発中止となった薬を対象に、目的とする疾患以外にも新たな効果を発見して開発に繋げる取り組みも行っています。
実は開発中止になったお薬はたくさん眠っています。開発していた時には、今のようなテクノロジーも進化していなかったわけですから、分からなかったものも多くあります。残念ながら当時は日の目に出なかった薬が、最新のドラッグリポジショニングの技術を使って、実は違う薬病気への効果が認められ新たに日の目を見るということも可能性は十分にあります。これによって、製薬会社の方は今まで気づかなかった疾患領域に進出することも可能になります。
将来、皆さんが薬を飲むときに「あれ、この薬はこの病気の薬だったかな」と思う様な薬がもしかして現れてくるかもしれません。
いずれにせよ、この新型コロナウイルスに対する治療薬というのも本当に今製薬会社は一生懸命開発しているでしょうけれども、早く有効な治療薬が出て来るといいなっていう風に思いますね。
では、今日のまとめです。
既存の薬を新しい疾患に適用するドラッグリポジショニングは、以前は偶発的に発見されるケースがほとんどでしたが、近年ではAIやビッグデータを駆使して戦略的に研究開発することで導出されるケースが増えています。またそれを専門にしたスタートアップ企業も多く生まれています。