毎朝欠かさず、家族のためにお弁当を作ってくれているお母さん。ご家庭によっては、お父さんや兄弟姉妹が作ってくれるところもあるかもしれません。
いつもお世話になっている家族に、面と向かって感謝を伝えるのはなんだか気恥ずかしいですが、たまには「ありがとう」と感謝を伝えたいですよね。
そんな皆さんにぜひ読んで欲しいお便りが届きました。
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6年生の三学期。「高くて買えない」と言っていたはずなのに、お母さんが「びっくり弁当」をもたせてくれるようになりました。食べたいものを願いながら蓋を開けると、願った食べ物がポンッ!と出てくるのが「びっくり弁当」です。しかも食べたいものは全て出来立ての状態。複数のおかずを一度に出すこともできる、魔法のようなお弁当箱です。再利用するためには一度洗う必要があるので、仮に1日3食「びっくり弁当」で済ませたい場合は食べ終える度に弁当箱を洗う、もしくは「びっくり弁当」を3つ買う必要があります。
土日の塾でクラスが一緒なモネちゃん。モネちゃん家はお金持ちなので、土日の塾は「びっくり弁当」を3つ持ってきます。「いただきます」を言う前に、両手を合わせて食べたいものを願っているモネちゃんの姿はとっても可愛いです。でもそんなモネちゃんを見るたびに羨ましいな〜と思ってしまいます。2学期の終わりには、モネちゃんだけじゃなくて学校のクラスのみんなも「びっくり弁当」を持ってくるようになりました。私の通っている学校ではほとんどの生徒が中学受験をするので、6年生の間だけ給食か弁当かを選択出来るようになっています。特に夏休み以降は学校に来ないで塾に通う子が多くなります。なので、給食費は食べた分だけ支払う仕組みです。私も中学受験に向けて毎日一生懸命勉強を頑張っています。塾代は高いので、土日だけ「私立中学受験特訓コース」に通っています。お父さんもお母さんも私のことを一生懸命サポートしてくれているのであんまり贅沢なことは頼めません。だけど、クラスのみんなが「びっくり弁当」を食べているのを見ると、ものすごく羨ましくなってしまいます。樹 (いつき)君は、毎日ニコニコしながら熱々ジュージューなハンバーグを食べていて、マチちゃんはトロットロで優しい黄色の卵がのったオムライス、朝陽 (アサヒ)君は、私の嫌いな甘すぎるキッズカレーライス、彩葉 (イロハ)ちゃんは子供なのにいつも「カツオのタタキ」とかいう変な名前のお魚料理を食べています。一方私は、三学期が始まるまでずっと学校の給食でした。美味しくないわけではなかったけど、その時食べたい物が食べれる「びっくり弁当」をずっと食べてみたいと思ってました。それにお母さんは、「毎日食べるものがあるってすごく幸せなことなのよ?」とよく言ってくるので「びっくり弁当が欲しい!」なんてことは口が裂けても言えませんでした。
それなのに、3学期になった今、急に「びっくり弁当」を持たせてくれるようになったのです。「びっくり弁当」なだけにすごく「びっくり」です。クラスのみんなは優しいから口に出しては言わないけど、「びっくり弁当」を持ってくる人はお金持ちな家族なんだって、きっと心の中で思ってるはずです。私もそうでした。だから「びっくり弁当」を持っていけることで、自分もお金持ちの仲間になれた気分がしてちょっぴり嬉しかったです。でもちょっぴりです。「びっくり弁当」はとても高いです。お父さんとお母さんは、小学校最後の思い出作りと受験応援の意味を込めて、「びっくり弁当」なんて高すぎて買えないのに無理して買ってくれたんだと思います。嬉しいけど、心がグッとなりました。もっと勉強を頑張って絶対に志望校に受かる!と決心しました。
「びっくり弁当」は本当に凄いです。初めて「びっくり弁当」を試した日、私はいただきますをする前に「美味しくて外がカリカリした唐揚げ」をお願いしました。弁当を開けるとびっくり玉手箱!本当に外がカリカリで美味しそうな匂いのする唐揚げが入っていました。3学期は毎日「びっくり弁当」を食べるのが楽しみで仕方がありませんでした。お金持ちなモネちゃんみたいにオシャレでカタカナのたくさんついた料理は知らないけど、私が好きな料理をたくさん食べることができました。うなぎ、お寿司、焼肉、カルボナーラスパゲッティー、とんかつ、、、ラーメンも食べることが出来ました。とんこつラーメンはなんだか生臭くて鼻がムズムズしてしまうので、醤油ラーメンが私のお気に入りです。麺は波々の形をしている方がチュルチュルできて楽しいので、ラーメンをお願いするときは麺の形までしっかり想像しました。クラスのみんなは嫌いみたいだけど、焼き鯖も何回か食べました。白ご飯と一緒に食べるととっても美味しかったです。
でも、楽しいお弁当の時間はあっという間に過ぎていきました。いよいよ三学期も残り1日。クラスでお昼ご飯を食べる最後の日になってしまいました。学校で「びっくり弁当」を食べるのも今日で最後です。いつもと同じように、いただきますの前に食べたいものを願ってお弁当箱を開けます。最後のメニューには唐揚げを選びました。唐揚げは初めて食べた「びっくり弁当」のメニューです。だから私にとっては大切な思い出の味です。カリカリの唐揚げを想像するだけで、箱を開ける前から口の中は唾でいっぱいになります。ストッパーを取り外して蓋を開けました。
弁当箱の中は空っぽでした。私の唐揚げはどこにいったの?。その代わりに弁当箱の中には一枚の紙が入っていました。メッセージが書かれていました。
「『ほぼ』毎日完食してくれてありがとう。たまに残してある飾り用のブロッコリーを見て、『今日は食べる時間がなかったのかな?』とか、米粒の残り具合でその日の多恵ちゃんの元気レベルを想像してました。最後の最後に、お母さんからの『びっくり弁当』でした。今日のおかずはこのお弁当箱に入りきれなかったので、田村先生に渡しておきました。」
ランドセルの中に空っぽでピカピカの「びっくり弁当」を突っ込んで、両手をブンブン振りながら走って家に帰りました。本当はリビングに入る前に手を洗わないといけないけど、今日は例外です。
「おかあサァーーーン!今日の『びっくり弁当』のおかず、大きすぎて食べきれなかったよ!」
今では「びっくり弁当」は我が家の鉄板ネタになりました。あ、「ネタ」といっても食べ物ではなくて「話のネタ」の「ネタ」です。つまるところ、私は生きてこのかた20年間、一度も公式の「びっくり弁当」を食べたことはありません。
小学校で食べていた「びっくり弁当」。それは、お母さんからのありったけの愛情でした。その時に私が食べたいものをどうやって当てていたのか、お母さんに聞いても絶対に教えてはくれません。
「あなたがいつかお母さんになったときにきっと分かるわよ、フフフ」 いつもこう答えるだけです。
二十歳になった私は、大人だけどまだ子供みたいなものです。だけど、小学6年生からはグンと成長したと思います。時々「びっくり弁当」のことを思い出すたびに目頭が熱くなります。お母さんは、毎日私にバレないように早起きして、「びっくり弁当」を作ってくれていたのです。そして、決して「びっくり弁当」に使われている食材がその日の朝ごはん、晩御飯に並ばないように綿密に献立を考えてくれていたのです。でも、私がお昼に食べたいものをどうやって当てていたのかは未だに不明なままです。それにラーメンだって出来立てで熱々だったし、一体どうやって温めていたのでしょう?
小さいころ、なんでも出来るお母さんのことを魔女と思っていたことがありました。もしかしたら私が食べたいものを当てることができる秘密の魔法を使っていたのかもしれません。そういえば、たまに飾り付け用に茹でたブロッコリーが入っていることがありました。ブロッコリーを食べたいなんて一度も願ったことはなかったので、変だなぁ〜と思っていたらやはり、お母さんの仕業でした笑。正直いうと、ブロッコリーは今でもそんなに得意ではないです。醤油かマヨネーズをかければ食べれますが笑。小学校最後の『びっくり弁当』のおかず、それは溢れんばかりの愛のこもった手紙でした。お母さんの愛は大きすぎていつになっても完食できそうにないです。
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