中国のテクノロジーは今、どうなっているのか? かつての「深圳ブーム」以降、米中対立やコロナ禍を経て、最前線の情報は日本に届きにくくなっています。しかし、その間にも中国の技術革新は止まることなく、新たなプレイヤーが次々と登場し、独自の進化を遂げています。
今回は、中国を専門とするジャーナリストで千葉大学客員准教授の高口康太さんをゲストにお迎えし、情報のベールに包まれがちな中国のテクノロジーとネットの「今」を深掘り。社会現象を巻き起こした生成AI「DeepSeek」の実態から、知られざるサイバーセキュリティ事情、そして米中技術覇権の未来まで、等身大の中国像に迫ります。
■□ハイライト □■
- 沸騰する中国AI最前線:「AI四小龍」に代わる「AI六虎」の台頭や、ダークホース「DeepSeek」が引き起こした社会現象、さらに人型ロボットなどディープテック企業群「杭州六龍」の勃興まで、中国AIのダイナミックなプレイヤー交代と進化の実態を解説します。
- 知られざるサイバーセキュリティ事情:「世界最大のサイバー攻撃被害国」と主張する中国。独自の「サイバーセキュリティ法」や市場の実態、日本企業が現地でビジネスを行う上で知っておくべき特有のルールやプレイヤーについて語ります。
- 米中技術覇権の行方:シンギュラリティを目指す米国と、実用・社会実装を重視する中国。AI開発における根本的な思想の違いが未来をどう左右するのか。そして、なぜイーロン・マスクの事業と中国の国家戦略は奇妙に一致するのか、その深層を読み解きます。
- "ポスト"深圳ブームの担い手たち:2010年代のビジネスモデル主体のイノベーションから、博士号を持つような研究者たちが起業するディープテックの時代へ。中国の技術がより「深く」なっている現状を、具体的な企業名を挙げて紹介します。
<ゲスト・プロフィール>
高口 康太(たかぐち・こうた)さん
ジャーナリスト。 中国の経済、企業を中心に取材、執筆活動を行う。 企業の視点や消費者の視点から中国を捉えるアプローチに定評がある。 近著の『ピークアウトする中国』(文春新書、神戸大学・梶谷懐教授との共著) など多数。雑誌の連載やメディア出演も多い。
1976年、千葉県生まれ。ジャーナリスト、千葉大学客員教授。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国・天津の南開大学に中国国費留学生として留学中から中国関連ニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。中国経済と企業、在日中国人経済を専門に取材、執筆活動を続けている。 著書に『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界 』(文春新書、共著)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、共著)、『中国S級B級論』(さくら舎、共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、共編、大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)、『習近平の中国』(東京大学出版会、共著)など。
■□ 収録後記 □■
収録を終え、メディアで日々報じられる政治的な側面とは全く異なる、ダイナミックで多層的な中国のテクノロジーエコシステムを改めて実感しました。
高口さんのお話から見えてきたのは、かつての体力勝負やアイデア勝負の時代から、博士号を持つ人材がキーとなる「ディープテック」の時代へと、中国のイノベーションが質的に大きく変化している姿でした。「AI六虎」や「杭州六龍」といった新しい言葉と共に語られる企業の多くが、AIやロボティクスといった高度な技術を核にしているという事実は、その象徴でしょう。
特に印象的だったのは、米中のAI開発における思想の違いです。シンギュラリティという壮大な目標を追う米国に対し、中国はより実用的で、社会実装のスピードと手数を重視する 15。どちらが未来の覇権を握るのか、技術の優劣だけでは測れない複雑な競争の構図が浮かび上がりました。
また、サイバーセキュリティに関しても、「攻撃側」というイメージが強い中国が、実は「世界最大の被害国」でもあり、独自の法制度で国内の防御を固めているという話は、非常に興味深い視点でした。
好き嫌いやバイアスを排し、中国の「今」を等身大で捉えることの重要性。高口さんのお話は、情報が届きにくくなっている今だからこそ、私たちが中国と向き合う上で不可欠な視座を与えてくれます。今回の放送が、皆様にとって、中国のリアルな姿を知る一助となれば幸いです。
(ホスト:JCGR 川端隆史)