映画のお話

110.映画「ファーストキス」都合の良いタイムリープで夢物語な薄っぺらい映画


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「感想」

「更新が空いてしまった……。」

ピーナッツが原因だった。3〜4ヶ月前に買ったやつ。食べられるだろうと思って口に入れたが、どうにも味がおかしい。とはいえ、腐っているわけではないと判断し、そのまま食べた。これが間違いだった。

2〜3時間後、猛烈な吐き気に襲われる。

最近1日1食ダイエットをしていたこともあり、胃の中にはほとんど何もない。ピーナッツが毒だったのか、胃が空っぽのせいか、どちらにせよ地獄の時間が始まる。

熱も出た。37〜38度。

翌日になっても気持ち悪さは抜けず、何も手につかない。映画を観に行くどころか、話すことすらできない状態になってしまった。

そして、そのまま時間は過ぎていき、ついに1週間が空いてしまった。

そんな体調不良を乗り越えて観た映画が『ファーストキス』だったわけだが、結果的にはこの映画自体が胃の不快感をぶり返させるほどの不愉快な作品だった。


「あらすじ」

映画『ファーストキス』は、松たか子演じる主人公が、過去に戻り亡くなった夫(松村北斗)の運命を変えようとする物語である。

夫はかつて古代生物の研究者だったが、経済的理由から不動産業界に転職。その結果、夫婦関係は次第に冷え込み、離婚寸前の状況に。

しかし、彼は電車事故で命を落としてしまう。

ある日、主人公は時空の歪みにより過去へ戻ることができ、若き日の夫と再会し、彼の未来を変えようと試みる。


「ご都合主義的なタイムリープの扱い」

本作のタイムリープ設定はあまりにも雑だ。

最近のSF作品では、タイムリープの扱いが非常に慎重になっている。例えばマーベル映画のように「過去に戻っても、元の未来は変わらず、新たな分岐が生まれる」という設定が主流になっている。

しかし、『ファーストキス』は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」方式を踏襲し、過去を改変することで未来が変わるという単純な構造を取っている。問題は、その改変方法があまりにも軽薄であることだ。

詳細は割愛するが、そんな些細なことで未来が変わるのなら、彼女が過去で行った行動はどれほどの影響を与えているのか? この物語の世界観では、歴史は繊細なのか大雑把なのか、どちらなのかすら曖昧で、設定が一貫していない。

そもそも「なぜ主人公だけがタイムリープできるのか」という説明が一切ない。首都高の事故が原因とされているが、それがどう彼女に影響を及ぼしたのかも不明なままだ。都合が良くタイムリープが発動し、都合の良い未来へと改変されていく。


「過去の恋愛美化」

この映画の最も危うい部分は、過去の恋愛を美化しすぎている点にある。

主人公は過去に戻ることで、再び若い頃の夫(松村北斗)と恋に落ちる。しかし、それは本当に「恋」なのか?

「あの頃の楽しかった思い出に浸っているだけではないのか?」

これは、DV被害者が加害者に対して抱く「昔の優しかった彼に戻ってくれるはず」という心理と似ている気もする。

「仕事が忙しくなったから」「夫婦関係が冷えたから」といった理由で関係が悪化したにも関わらず、「過去の彼はあんなにいい部分があったから、やっぱり愛したい」 という展開になってしまう。

しかし、現実の人間関係はそんなに単純ではない。たった1日過去に戻っただけで、冷え切った15年の関係がリセットされるはずがない。

人間はそんなに簡単に変わらない。

この映画は「過去の楽しかった思い出」にすがることで、現在の問題を無視するという、極めて危険な価値観を提示している。


「未来の自分が過去の自分を支配する映画の問題点」

映画のタイトルにもなっている「ファーストキス」。これがまた胸糞が悪い。

本来、過去の松たか子(20代)と松村北斗(20代)が交わすべきもの だった。

しかし、未来の松たか子(40代)がタイムリープし、彼とのファーストキスを奪ってしまうのだ。

「未来の自分が、過去の自分の権利を横取りする」

まるで『ドラえもん』の影が自分を乗っ取るエピソードのように、過去の自分の人生を未来の自分が好き勝手に改変していく。

この行為は、ある意味で「老害」の発想と変わらない。

「若い世代の大切なものを、年長者が平然と奪う」

そういう構図が透けて見える。

この映画を「素晴らしい恋愛映画」として評価する人々は、この歪んだ関係性をどう捉えているのか。


「恋愛至上主義の押しつけ」

この映画は、「幸せな結婚生活を送ることが何よりも重要」という前提で物語を進めている。


「幸せだから得られるもの」もあれば、

「不幸だからこそ得られるもの」もあるはずだ。


主人公が舞台美術の仕事に打ち込めたのは、夫婦関係が破綻したからこそかもしれない。しかし、この映画ではその可能性が完全に無視されている。


不幸な過去が新たなスタートにもなり得る。しかし、『ファーストキス』は、「恋愛=添い遂げなければならないもの」という価値観を無自覚に押しつけてくる。

その結論ありきの展開が、映画全体を陳腐なものにしてしまっている。

『ファーストキス』は、タイムリープものとしても、恋愛映画としても、極めて雑な作りになっている。

本作がヒットしていることは、日本における恋愛観がまだまだ「添い遂げることこそ正義」という価値観に囚われていることの証左なのかもしれない。

この映画を観ることで、むしろ「日本の未来の方が心配になった」というのが、率直な感想である。

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