・『特許判例百選(第5版)』掲載判例(事件:022)
・リサイクルと消尽
平成19年11月8日に最高裁判所第一小法廷によって言い渡された「インクタンク事件」判決(正式名称:平成18年(受)第826号特許権侵害差止請求事件)は 、特許権の消尽理論、特に特許製品のリサイクルや再製造の文脈におけるその適用範囲を明確化した画期的な判決として、日本の知的財産法において重要な位置を占めています。この判決は、特許権者が合法的に販売した製品について、その後の加工や部材の交換が「新たな製造」に該当するか否かという、リサイクル製品の法的評価に関する長年の論争に終止符を打つものでした 。
本件は、特許権者が一旦流通に置いた特許製品に対して、その後に第三者が施す加工や部材交換行為が、特許権の効力が及ばない「消尽」の範囲内にとどまるのか、あるいは特許権の効力が再び及ぶ「新たな製造」と評価されるのかという、現代社会におけるリサイクル活動と知的財産権保護のバランスに関する根本的な問いを提起しました。
最高裁判所は、この複雑な問題に対し、従来の類型的な判断枠組みを超え、多様な要素を総合的に考慮する新たな基準を提示しました 。この新たな基準は、特許制度が目指す発明の奨励と産業の発展という目的と、製品の再利用を通じた環境保護や市場競争の促進という社会的要請との間で、司法がいかに調和を図ろうとしたかを示すものです。