とりあえず第一部はここで一旦終わりらしい。
結構あっけなく終わった印象。
玉依姫
大ヒットシリーズ第5巻が文庫化!
八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかに
高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か? ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる。荻原規子氏との対談収録。
これね、八咫烏シリーズとしてはとても異質な作品。なにせ、人間が出てくるからね。
そして、書かれた時期は一番最初。だから、八咫烏という物語の中に異物感がある。
第四章 糺す
いや、きっと悪い人ではないのだろうし、この人なりに、自分を愛してくれてはいるのだろう。だが同時に──もしかすると、本人さえも気付かない根っこのところで──志帆のことを、どうしようもない愚かな人間だと思っているのもまた、逃れようのない事実なのだ。
仕方ない。きっと、それが 普通 だ。でもこの人は、肉親の情があって、愛してはくれても、永遠に、志帆の理解者になることはない人間だった。
肉親の情、それだけでは足らぬということか。理解せず愛することに価値を置かないのか。そのへんは非常に難しい問題。「何があっても味方」ということに価値を置かない、となると愛情ベースの人間関係というのはとても維持不可能。
あの子の、頑固なところは自分譲りなのだ。頭ごなしに命令したところで、絶対に従わないことは、誰よりも分かっていたはずだったのに。
ジレンマだよね。そもそも自分が「命令したい」という気持ちに頑固だからね。
第五章 神名
「このままじゃ駄目だと分かっているけれど、これはそう、長くは続かないはずよ。今はあの子にとって、それが必要な時期なんだと思う。愛されている自信がないから、不安なの。何があっても、私が離れて行かない。もしくは、離れても関係がないくらい愛されていると思えれば、そういう話になっても冷静でいられると思う」
愛情を否定した志帆が愛情を語る。なんとも皮肉である。
「自分から損をしに行くなんて、なんて馬鹿なんだって言われるの。別に理解されなくたって構わないけれど、馬鹿にされた挙句、他人の価値観を押し付けられて素直に従う方が、よっぽど考えなしだと思わない?」
筋は通っているが、言っている側は親身なつもりだから厄介だね。どうでもいい人には言わないからね。しかしこの志帆の若さ。恐ろしくなるね。
「初代天皇とされる、 神武天皇のお母さんですよ。今の天皇家の、先祖に当たる神さまです」
急に現実との接点が出る。ちょっと気色悪い。多分、山内が完成されすぎていたからだろうね。急に現実的。
十二国記にも「蓬莱」という現実的な場面は出てくるけど、あれはファンタジーとしての現実だからな。急にリアルな天皇制の話をされると、ちょっとドキッとする。
第六章 落花
元来、山内は山神のための荘園であり、八咫烏達は、山神のための供物── 神饌 や神酒、幣帛を捧げ、神楽を奉じるために、人の姿をとれるようになった存在だったのだ。
どうも浮いた説明だ。これで納得はできません。やっぱりちょっと違和感がありますね。
「サヨは逃げてなんかいない」
断言した後、若者は痛みを堪えるように顔をしかめた。
「今でも── 骸 は、 沼の底 にある」
どうして山神は、今の今まで、サヨの死因などを追求しなかったのか。どうしても疑問です。
「ちくしょう、ちくしょう。何で戻って来やがった──次は、 彩香の番 なのに!」
弥栄の烏
累計130 万部の大ヒット和風ファンタジー
第一部完結!
松本清張賞史上最年少受賞のデビュー作『烏に単は似合わない』から一巻ごとに
読者を魅了して成長してきたシリーズの第一部完結の第6巻。
八咫烏の一族が支配する異世界・山内を舞台に繰り広げられる、お后選び・権力争い・外敵の進入。大地震に襲われた山内で、100年前に閉ざされていた禁門がついに開かれた。
崩壊の予感が満ちる中、一族を統べる日嗣の御子・若宮は、失った記憶を取り戻すことができるのか。そして、人喰い猿との最終決戦に臨む参謀・雪哉のとった作戦とは――。
一巻から周到に張り巡らされてきた伏線がすべて回収され、この世界の大いなる謎が驚愕とともに明かされるクライマックス。
大人気キャラの受難、神秘の謎とどんでん返しに驚愕した後に、
未知の感動が味わえる堂々完結の一冊。
巻末には、先輩の大作家・夢枕漠さんとの熱い対談を収録!
惰性で読んだ、というまでもないけど、とはいえ、一巻が最高すぎたのは間違いない。
第二章 断罪
そこでようやく、これまで自分に指示が求められていたのは、周囲の者に 面子 を立ててもらっていただけだと気付いたのだ。
──着物の色はこちらとこちらがありますが、どちらがよいと思われます?
そう訊かれて、そうね、こっちがいいでしょう、と、指さすだけなら、他の誰にだって出来る。 実際に布の手配をし、選択肢を用意したのは自分ではない。
一事が万事、そんな感じだった。
いざ、迅速な指揮が必要になった時には、まるで役立たずだ。何かしようとすると、菊野は顔色を変え、真赭の薄に対し、 桜 の 君 の傍にいてください、と言う。
一言でいえば、「プライドが傷ついた」ということなんだけど、それをこれほど丁寧に書くのは至難の業だと思う。いい仕事している。真赭の薄の悔しさがにじみ出た、素晴らしい場面。
第四章 迷走
「駄目です、姉上!」
ここにいてください、と。
強い口調で明留に止められ、ますます、何かがおかしいと思う。
ふと、ピィーッと、甲高い音が聞こえた。
それを聞いた参謀達が、来たぞ、と鋭い声を上げる。
天幕の横に置かれた太鼓を、兵が鳴らし始めた。
どおん、どおん、どおん、と、深く重い音が境内に響き渡る。
ほぼ同時に、山頂の方から、すさまじい勢いで飛んでくる騎影を捉えた。
猿、襲来。緊張感が高まる短文の畳み掛け。いいですね。
合戦のシーンはそれほど長くないんだけど、しっかり読ませる。
第五章 完遂
怯えたような奈月彦を見て、猿は馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「そうだ。お前は忘れた。だが、たとえお前が忘れても、わしらは忘れなかった。一時たりとも」
猿はずっと、報復の機会を窺っていた。
愛憎が入り混じった感情。ドロドロした感情を物語に混ぜるのは効果的。主人公側に瑕疵があるならなおさら、ね。
「だが、何もかも忘れて、幼子のように途方に暮れるそなたを見るのは楽しかった。自分の身内だけでも残そうと、あさましくこの世に 縋り付いた執着の残骸こそが──今のお前の、正体だ」
貴様は結局、自分の一族のことしか考えていなかった、と急に笑いをおさめ、冷やかな調子となって猿は言い放つ。
実は自分たちのほうが無神経だったのだ、という苦い結末。
大人な物語である。読了感をあえて悪くする仕掛け。
自分勝手に神話を解釈し、猿を悪と決めつけてきた。それが正当なことだったのか。
我々の実社会でもあり得る話ですよね。
その眼差しを受け、奈月彦が痺れた頭で思い出すのは、 勁草 院 の院生を誘拐して禁門を開くようにと迫った、小猿のことだった。
報復のために山神を化け物にしようとした大猿の企みに、小猿はきっと気付いていた。
猿側の葛藤もしっかり描く。ほんと、読了感を気持ちよくさせない。ただ、それもまた味わい。
カカオ多めのチョコレート、みたいな味わい。