ちょいと小噺!

ちょいと小噺!

By 写楽斎ジョニーComedyStand-Up
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ちょいと小噺! episodes

  • 阿部智里著『玉依姫』『弥栄の烏』感想 読後感をあえて悪くする

    一気にかけぬけました。

    とりあえず第一部はここで一旦終わりらしい。
    結構あっけなく終わった印象。

    あとはスピンオフをどうするかね。

    玉依姫

    大ヒットシリーズ第5巻が文庫化!
    八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかに

    高校生の志帆は、かつて祖母が母を連れて飛び出したという山内村を訪れる。そこで志帆を待ち受けていたのは、恐ろしい儀式だった。人が立ち入ることを禁じられた山の領域で絶体絶命の少女の前に現れた青年は、味方か敵か、人か烏か? ついに八咫烏の支配する異世界「山内」の謎が明らかになる。荻原規子氏との対談収録。

    これね、八咫烏シリーズとしてはとても異質な作品。なにせ、人間が出てくるからね。
    そして、書かれた時期は一番最初。だから、八咫烏という物語の中に異物感がある。

    第四章 糺す

    位置: 2,293

     いや、きっと悪い人ではないのだろうし、この人なりに、自分を愛してくれてはいるのだろう。だが同時に──もしかすると、本人さえも気付かない根っこのところで──志帆のことを、どうしようもない愚かな人間だと思っているのもまた、逃れようのない事実なのだ。
     仕方ない。きっと、それが 普通 だ。でもこの人は、肉親の情があって、愛してはくれても、永遠に、志帆の理解者になることはない人間だった。

    肉親の情、それだけでは足らぬということか。理解せず愛することに価値を置かないのか。そのへんは非常に難しい問題。「何があっても味方」ということに価値を置かない、となると愛情ベースの人間関係というのはとても維持不可能。

    位置: 2,325

     あの子の、頑固なところは自分譲りなのだ。頭ごなしに命令したところで、絶対に従わないことは、誰よりも分かっていたはずだったのに。

    ジレンマだよね。そもそも自分が「命令したい」という気持ちに頑固だからね。

    第五章 神名

    位置: 2,371

    「このままじゃ駄目だと分かっているけれど、これはそう、長くは続かないはずよ。今はあの子にとって、それが必要な時期なんだと思う。愛されている自信がないから、不安なの。何があっても、私が離れて行かない。もしくは、離れても関係がないくらい愛されていると思えれば、そういう話になっても冷静でいられると思う」

    愛情を否定した志帆が愛情を語る。なんとも皮肉である。

    位置: 2,388

    「自分から損をしに行くなんて、なんて馬鹿なんだって言われるの。別に理解されなくたって構わないけれど、馬鹿にされた挙句、他人の価値観を押し付けられて素直に従う方が、よっぽど考えなしだと思わない?」

    筋は通っているが、言っている側は親身なつもりだから厄介だね。どうでもいい人には言わないからね。しかしこの志帆の若さ。恐ろしくなるね。

    位置: 2,559

    「初代天皇とされる、 神武天皇のお母さんですよ。今の天皇家の、先祖に当たる神さまです」

    急に現実との接点が出る。ちょっと気色悪い。多分、山内が完成されすぎていたからだろうね。急に現実的。

    十二国記にも「蓬莱」という現実的な場面は出てくるけど、あれはファンタジーとしての現実だからな。急にリアルな天皇制の話をされると、ちょっとドキッとする。

    第六章 落花

    位置: 3,132

     元来、山内は山神のための荘園であり、八咫烏達は、山神のための供物── 神饌 や神酒、幣帛を捧げ、神楽を奉じるために、人の姿をとれるようになった存在だったのだ。

    どうも浮いた説明だ。これで納得はできません。やっぱりちょっと違和感がありますね。

    位置: 3,319

    「サヨは逃げてなんかいない」
     断言した後、若者は痛みを堪えるように顔をしかめた。
    「今でも── 骸 は、 沼の底 にある」

    どうして山神は、今の今まで、サヨの死因などを追求しなかったのか。どうしても疑問です。

    位置: 3,342

    「ちくしょう、ちくしょう。何で戻って来やがった──次は、 彩香の番 なのに!」

    偽らざる本音。ただしちょっと露悪的ね。

    弥栄の烏

    累計130 万部の大ヒット和風ファンタジー
    第一部完結!

    松本清張賞史上最年少受賞のデビュー作『烏に単は似合わない』から一巻ごとに
    読者を魅了して成長してきたシリーズの第一部完結の第6巻。

    八咫烏の一族が支配する異世界・山内を舞台に繰り広げられる、お后選び・権力争い・外敵の進入。大地震に襲われた山内で、100年前に閉ざされていた禁門がついに開かれた。
    崩壊の予感が満ちる中、一族を統べる日嗣の御子・若宮は、失った記憶を取り戻すことができるのか。そして、人喰い猿との最終決戦に臨む参謀・雪哉のとった作戦とは――。

    一巻から周到に張り巡らされてきた伏線がすべて回収され、この世界の大いなる謎が驚愕とともに明かされるクライマックス。
    大人気キャラの受難、神秘の謎とどんでん返しに驚愕した後に、
    未知の感動が味わえる堂々完結の一冊。
    巻末には、先輩の大作家・夢枕漠さんとの熱い対談を収録!

    いうほどどんでん返しでもなかったけどね。

    惰性で読んだ、というまでもないけど、とはいえ、一巻が最高すぎたのは間違いない。

    第二章 断罪

    位置: 1,415

     そこでようやく、これまで自分に指示が求められていたのは、周囲の者に 面子 を立ててもらっていただけだと気付いたのだ。
     ──着物の色はこちらとこちらがありますが、どちらがよいと思われます?
     そう訊かれて、そうね、こっちがいいでしょう、と、指さすだけなら、他の誰にだって出来る。  実際に布の手配をし、選択肢を用意したのは自分ではない。
     一事が万事、そんな感じだった。
     いざ、迅速な指揮が必要になった時には、まるで役立たずだ。何かしようとすると、菊野は顔色を変え、真赭の薄に対し、 桜 の 君 の傍にいてください、と言う。

    一言でいえば、「プライドが傷ついた」ということなんだけど、それをこれほど丁寧に書くのは至難の業だと思う。いい仕事している。真赭の薄の悔しさがにじみ出た、素晴らしい場面。

    第四章 迷走

    位置: 3,023

    「駄目です、姉上!」
     ここにいてください、と。
     強い口調で明留に止められ、ますます、何かがおかしいと思う。
     ふと、ピィーッと、甲高い音が聞こえた。
     それを聞いた参謀達が、来たぞ、と鋭い声を上げる。
     天幕の横に置かれた太鼓を、兵が鳴らし始めた。
     どおん、どおん、どおん、と、深く重い音が境内に響き渡る。
     ほぼ同時に、山頂の方から、すさまじい勢いで飛んでくる騎影を捉えた。

    猿、襲来。緊張感が高まる短文の畳み掛け。いいですね。
    合戦のシーンはそれほど長くないんだけど、しっかり読ませる。

    第五章 完遂

    位置: 3,835

     怯えたような奈月彦を見て、猿は馬鹿にするように鼻を鳴らした。
    「そうだ。お前は忘れた。だが、たとえお前が忘れても、わしらは忘れなかった。一時たりとも」
     猿はずっと、報復の機会を窺っていた。

    愛憎が入り混じった感情。ドロドロした感情を物語に混ぜるのは効果的。主人公側に瑕疵があるならなおさら、ね。

    位置: 3,872

    「だが、何もかも忘れて、幼子のように途方に暮れるそなたを見るのは楽しかった。自分の身内だけでも残そうと、あさましくこの世に 縋り付いた執着の残骸こそが──今のお前の、正体だ」
     貴様は結局、自分の一族のことしか考えていなかった、と急に笑いをおさめ、冷やかな調子となって猿は言い放つ。

    実は自分たちのほうが無神経だったのだ、という苦い結末。
    大人な物語である。読了感をあえて悪くする仕掛け。

    自分勝手に神話を解釈し、猿を悪と決めつけてきた。それが正当なことだったのか。
    我々の実社会でもあり得る話ですよね。

    位置: 3,894

    その眼差しを受け、奈月彦が痺れた頭で思い出すのは、 勁草 院 の院生を誘拐して禁門を開くようにと迫った、小猿のことだった。
     報復のために山神を化け物にしようとした大猿の企みに、小猿はきっと気付いていた。

    猿側の葛藤もしっかり描く。ほんと、読了感を気持ちよくさせない。ただ、それもまた味わい。
    カカオ多めのチョコレート、みたいな味わい。

    20 min
  • 阿部智里著『黄金の烏』『空棺の烏』感想

    引き続き、マツオ氏とドハマりしております。

    『黄金の烏』

    八咫烏が支配する世界〈山内〉を揺るがす危険な薬と人喰い大猿。
    故郷の危機に敢然と立ち向かう世継ぎの若宮と元近習・雪哉は危険を顧みず――。
    人気シリーズ第3弾!

    大猿登場が三巻。正直、一巻と二巻を読んでいる頃は、まさか外敵が現れるとは思いませんでした。

    位置: 528

    「雪哉の、大切なものを守りたいという気持ちに噓はない。その気持ちを無下にしてしまっては、あまりにあの子が可哀想だ」
     雪哉殿は馬鹿ではない、それは貴方が一番よくお分かりだろうと、慰めるように墨丸は言う。
    「私は、本人の意思に任せるのが一番だと思う。雪哉殿は聡明であると同時に、とても頑固でもあるから、きっと、他人に何を言われようが気にしないだろう。その代わり、本当に護りたいもの、やり遂げたい目標が見つかれば、君が今まで心配していたのが馬鹿らしくなるくらい、自由に羽ばたいて行くのではないかな」

    兄の思いやりを描く、いいシーン。兄は見抜いていたのだ、ぼんくら次男の本質を。
    当たり前だといえばそうだけど、ちょっとほっこりするよね。

    位置: 1,605

    火熨斗

    恥ずかしながら、火熨斗を知りませんでした。
    https://iwaki-museum.com/commentary/9
    今で言うアイロンなんですって。

    位置: 1,672

    「それが、 綻びだ。綻びは、山の端と同じで、そこから外へ出てしまえば、八咫烏は二度と山内へ戻って来られなくなる」
     危険なので、綻びのある場所には山寺を設置し、誰も入り込めないようにしているのだと若宮は説明した。
    「……そんな事、十五年間この山内で生きて来て、初めて知りました」
     力なく言った雪哉に対し「無理も無い」と若宮は軽い調子で答えた。
    「皆が皆、お前のように故郷を愛している者ばかりではないからな。かつては外界に憧れて、綻びへ自ら飛び込んで行く八咫烏もいたのだ」
     しかし、正式な手順を踏まずに外へ出たところで、八咫烏は八咫烏ではいられない。ただのちっぽけな二本足の烏になり、外界で、一生をそのままの姿で生きなければならなくなるのだ。

    この設定、そのうち生きてくるんだろうなぁと思っていましたが、最後までそれほど生かされず。こういうところ、ちょっと勿体ないなぁと感じる貧乏性。

    位置: 1,701

    「朝廷でのいざこざは、そもそも金烏の本分ではない。勿論、八咫烏の安寧を守るという意味で必要な部分ではあるだろうが、もともと金烏の本分は、 八咫烏を守る事 だ」
     権力争いは、厳密に言えば専門外だと言う。
    「では、金烏とは、真の金烏とは、何なのですか」
     雪哉は狼狽していた。今まで、曲りなりにも慣れ親しんでいたはずの若宮が、突然、全く知らない人物になってしまったような気分だった。
    「金烏とは、八咫烏全ての父であり、母でもある」

    とても大切な設定、「金烏とは父であり母である」

    位置: 1,988

      蘇芳 に染められた 袙 に 下襲 と、一枚一枚に袖を通して行くにつれて、自分が自分ではなくなってしまうような、不思議な感覚に雪哉は陥った。
     豪奢な袍を着て、最後に、 雉 と唐花が刺繡された 平緒 を巻き、若宮から預かって来たという飾り太刀を 佩いた。

    袙(あこめ)だの下襲(したがさね)だの、言うことがマニアックだ。ルビなしじゃ普通に読めない。本作を格調高くしているけど、ちょっと衒学的とも思えます。

    位置: 2,726

     だとすれば、山内は外界を模して作られた箱庭であり、 人形 の八咫烏は、外界における人間の代わりである。

    どうして八咫烏が人形をとれるか、のアンサー。意外と簡単な理由だという印象。

    位置: 3,495

    「あの子は、確かに正しい事をしなかったかもしれません。けれども、自ら進んで八咫烏を害そうとしたわけでもないでしょう。ここで見捨てなければ、まだ、まっとうに生きる道はあります。罰とは、しかるべき方法で罪を 償う事であって、ここであの子を突き放すのは、単に 私怨 を晴らす事にしかなりませんよ」

    大切な視点だよね。罪を憎んで人を憎まず、じゃないけどさ。

    位置: 3,954

    「当然だ。お前に賛同を得るまでもなく、それは明らかなのだ」  思い違いなどしていない、と自分の言った言葉を何度も 反芻 しながら、長束はぎろりと路近を睨みつけた。 「だから──そのしたり顔を、今すぐ止めろ!」  不愉快だと吐き捨てても、路近は表情を変えなかったし、長束の気持ちは一向に晴れなかった。

    ちょっとお兄ちゃんのキャラが柔和になってきています。やられ役。
    兄も相当な人物のはずなんだけどね、ちょっと危機対応能力に難あり。

    しかし路近はそんな兄貴を支持する。なんだろうか。彼の真意とは。

    位置: 4,008

     だが実際は、その逆なのだ。
    「逆……?」
    「うん。真の金烏が生まれたから、災厄が起こるのではない。災厄が起こる時、それに対処するために生まれるのが、真の金烏なのだ」
     日照りや大雨などは、ただの八咫烏では対処出来ない 禍 である。
     天災、あるいは病の 蔓延 などによって、八咫烏という種が存続の危機に立たされた事が、山内の歴史では何度かあった。そんな時に決まって現れるのが、その時々の危機を打開するための力を持った能力者──すなわち、真の金烏なのである。

    そういう大事なことは積極的に広報するべきだと思うけど。『逆なんだ』ってね。

    位置: 4,103

     束の間の沈黙の後、不意に顔を上げた浜木綿は、鋭い眼光で雪哉を射抜いた。 「あいつ自身がそれを自覚出来ないからといって、あいつは、何も感じないわけではない」
     それを肝に 銘じておけと厳しく言われ、雪哉は姿勢をただし、真面目な面持ちで頷いたのだった。

    浜木綿のいい女っぷり。

    『空棺の烏』

    位置: 909

    「山内衆は時に、文官に代わって力を行使する権限を持つ。君達は、ただの兵になるのではない。『礼楽』において君達が学ぶのは、力の付け方ではなく、身に付けた力をどう行使するか──つまりは、力の使い方だ」
     まあ、それはこの授業に限らず、学問全般に言えると思うがと感慨深げに呟いた時の顔つきは思慮深く、若者達の侮りを一切寄せ付けないものだった。 「君たち自身が力になってはいけない。それでは、まるで意味がない」

    よき暴力装置、というやつですね。これが警察と反社を分ける最たる理由だと、あたくしも思っています。

    位置: 3,385

    「俺にとって、南橘家は敵だ。だが── お前は、 そうじゃない」
     ふわあ、うおお、と雪哉と茂丸から素っ頓狂な歓声が上がった。
    「ただ、けじめだ。金は返す」
    「……お前の稼ぎでは、何年かかるか分からないぞ」
     泣き笑いを浮かべる明留に、千早は頷いた。
    「ああ。坊ちゃんにとってははした金だろうが、俺にとっては大金だ」
     これから、長い付き合いになるな、と。
     千早が言った瞬間、今度は三人が揃って悲鳴を上げた。

    エモいシーン。ツンデレですね。精一杯デレている千早の可愛さたるや。
    『「……だが、お前は特別だ」構文』は人類の急所かもしれません。

    位置: 3,802

    「君は、『化け物を倒すためには、己も化け物になるしかない』と思っている。違うかい?」
     咄嗟に何かを言い返そうとした雪哉は、結局、何も言えないままその場に立ち尽くした。それを、どこか悲しそうに清賢は見つめる。
    「化け物でも構わない、と君は言うかもしれない。だが、化け物ではない君も、確かに存在するのだということを、決して忘れないでほしい」
     じっと清賢を見つめ返した雪哉は、不意に、途方に暮れたような 表情 になった。
    「……だったとしても、それを僕が言うのは、許されないでしょう」

    国を担う者としての、強烈な自負と責任感。これはシビレます。
    エモい展開が続きますが、果たしてここまで広げた風呂敷、どうたたむの?

    19 min
  • 谷口悟朗監督アニメ『プラネテス』感想 ゼロ年代を代表する横綱アニメやで

    やっぱ好きやねん。

    主人公ハチマキ(星野八郎太)はサラリーマン。 宇宙ステーションでデブリ(宇宙ゴミ)回収を仕事にしている職業宇宙飛行士だ。 自分の宇宙船を手に入れるため、 同僚のユーリやフィー、 新人のタナベとデブリを回収する日々。 今年で4年目を迎えた25歳、 そろそろ自分の生き方を考え始めてきた。

    2075年。 地球、 宇宙ステーション、 月の間を、 旅客機が普通に行き交う世界で、 ハチマキはどう想い、 成長していくのか。
    ハチマキは今日も仕事に出掛けていく。

    ハルヒもあったし、らき☆すたもあった。けいおん!もあった。でもあたくしはこれが好きだな。

     

    25 min
  • ガルシア・マルケス著『百年の孤独』感想 10年ぶり2度目。しかし不思議な話だ

    本の面白さ自身もマジックなところがあります。

    奇妙な寒村を開墾しながら孤独に生きる一族。その宿命を描いた、目も眩む百年の物語。

    1967年にアルゼンチンのスダメリカナ社から刊行されて以来、世界の名だたる作家たちが賛辞を惜しまず、その影響下にあることを公言している世界文学屈指の名著。現在までに46の言語に翻訳され、5000万部発行されている世界的ベストセラー。「マジック・リアリズム」というキーワードとともに文学シーンに巨大な影響を与え続けている。2022年にはNETFLIXが映像化の権利獲得を発表、大きな話題を呼んた。蜃気楼の村マコンドを開墾しながら、愛なき世界を生きる孤独な一族の歴史を描いた一大サーガ。解説=筒井康隆

    ミクロとマクロを往来する、「物語」にしか成し得ない奇跡。――西加奈子(作家)

    想像力の限界を超えた作品。この本がなければ、ぼく自身が小説を書けなかった。――小川哲(小説家)
    毎晩この本を10ページ読んで、南米の魔法に酔いしれよ!――齋藤孝(明治大学文学部教授)

    新潮文庫から出た文庫版。文庫で1,000円を超えるので少しためらいましたが、購入。齋藤孝さんのいうとおり、毎日10ページ読みました。じゃないと、長すぎて読まなくなっちゃうよね。一月以上かかりましたが、なんとか読了。

    実は10年以上前に一回読んでるんですよね。ただ、当時はあまり分からなかった。果たして今回は。

    p41

    同情した ウルスラは死人がかまどの鍋の蓋を開けているのを見かけた次の機会には彼を探しているものの見当が即座についたので、それからは 家のあちこちに水を張ったカナダライを並べておくことにした

    死人がタンポンをしめす水を求めて彷徨う、などの不思議な描写が沢山。ナンセンスなのか?

    p56

    ホセ アルカディアはそんなものには目もくれなかった。 蝮男に対する くだらない質問が続いてる間に 彼はジプシー娘のいる 最前列まで人混みを 掻き分けていき、その後ろに立った。そして娘の背中に ピタリと身を寄せた。娘は離れようとしたが 、ホセ・アルカディオ はますます強く 体を押し付けた。それで 娘は感じた。急に大人しくなって彼にもたれ、隠しようもない あの一物の存在が信じられないのか、激しい 驚きと不安に震えていた。

    本書に度々でてくる巨根マジック。上品なモノを持つあたくしとしては何だかなぁと思う。

    p58

    「あんたこの子に怪我させちゃダメよ」
    ホセ・アルカディオの相手がそっとしておいてくれと頼むと、2人はベッドのそばの床に横になった。他人の情欲が ホセ・アルカディオの熱を掻き立てた。最初の接触で娘の骨はドミノの箱がきしむような 乱れた音を立て、今にもバラバラになるのではないかと思われた

    巨根半端ない描写。思わず笑っちゃうけど、卑近な例を出してお茶を濁された感じもする。笑っちゃうけどね。

    p145

    彼は数カ国語の文句が赤や青で刺繍された信じられないような逸物をカウンターに乗せて一同に披露した。

    これもそう。そこにばかりマーカーをひくあたくしも品がないけれども。

    p189

    [しまった!」 今頃になって彼は思いついた。「女が生まれたら レメディオス とつけるように言っておくんだった」。 そして 身を裂かれるような激しさで 一生苦しめられ同士だった恐怖を再び 感じた。

    この辺の表現を、どう解釈して良いのかが全くわからん。これ、面白い箇所なのか?ただただ意味不明なんだが。

    p234

    これまでも、彼は絶えずアマランタを追い求めてきたのだ。 占領した町や村の暗闇で、 そして 特に暗い寝室の中で、彼女の面影を思い浮かべた。負傷兵の包帯にこびりついた血の匂いに、死の危険に対する一瞬の恐怖のうちに、 つまり 四六時中、 至るところに彼女の存在をまざまざと感じたのだった。彼女の元を去ったのも、 ただ遠く離れるというだけでなく 、戦友たちが無謀とさえ 呼んだ 勇猛さを発揮することで 、その思い出を消し去るためだった。ところが ゴミ捨て場のような洗浄に彼女の面影を捨てようとすればするほど、 戦い そのものがアマランタに似ていった

    山崎まさよしはこれを歌にしたのか?的な。

    ちなみにこれの主語であるアウレリャノ・ホセはアマランタの甥。近親相姦の家系なんだね。ガルシアはこれが言いたかったために、この600ページを超える長編を書いたのかしら。

    p258

    誰にも、 ウルスラ にさえ、 3M 以内に近づくことを許さなかったのは その前後のことである。 行く先々で幕僚にチョークで描かせ、そこへは自分しか入ることを許さない輪の真ん中に立って、簡潔 だが反抗の余地のない命令によって 万事を思い通りに処理してった

    ここの部分を抜いて「これが一族の孤独の例だ」という書評を読みました。確かに、大佐は病的なところがありましたね。

    p357

    しかし、小町娘のレメディオスがこの用心を知ったらお腹を抱えて笑ったに違いない。この地上にとどまっていた最後の瞬間まで 、男 心を狂わす女という、自分ではどうにもならない宿命が毎日のように悲劇を呼び起こしていたとは、露知らなかったのだ

    ちょっとおもしろいんだよな、この小町娘のレメディオス。男心を無意識にただ狂わす女。最後はシーツといっしょに空へ飛んでいく。なんのこっちゃ。

    p383

    しかし 我が子に対する評価の肯定感はかえって 彼女の心に、当然といえば当然だが、深い 同情を不意に目覚めさせることになった。一方、 あれやこれや考えてあげく、その心の冷たさに呆れ、その激しい 苦しみようが彼女にとっても苦痛の種だった アマランタ が、実はこの世で最も心根の優しい 女であることを悟った。

    人間の評価は見方一つでだいぶ変わる、つーことは実際にもよくある話で。それぞれがそれぞれの正義で生きている。

    p616

    だが死者たちの横行にはしばしば 夢を破られた。一族の地を絶やすまいとして自然の掟と戦う ウルスラ、偉大な文明の利器という夢を追い続ける ホセ・アルカディオ・ブエンディア、 ひたすら 神に祈る フェルナンダ、兵戦の夢と魚の金細工の中で呆けていくアウレリャノ・ブエンディア大佐、バカ騒ぎの中の孤独に苦しむ アウレリャノ・セグンド。彼らの声を まざまざと聞き、 激しい 執念は死よりも強いことを知った。現在、昆虫たちが人間から奪おうとしている惨めな楽園であるが、未来の別の種類の動物がそれを昆虫たちから奪った その後も、亡霊となって愛し続けるのだと確信することで、2人は幸福感を取り戻すことができた

    ちょっとした回顧録というかまとめになっている文章。そうそう、そうだったね、という気持ちで読める。

    しかし、変な物語でしたね。これを純粋に楽しめるというのは、相当に読書慣れしていて、かつ特殊な想像力がある方だと思いました。普段はまったく使わない、だから鍛えられていない、そんな読書筋肉を必要とする本でした。

    26 min
  • 芦名みのる監督アニメ『スナックバス江』感想

    ギャグアニメというのは豊かさの象徴ですからね。

    北海道最大の繁華街すすきの――から5駅離れた北24条。

    この町の「スナックバス江」は、
    バス江ママと、チーママの明美さんの楽しいお店。
    彼女たちと珍妙な常連&一見さんが織りなす笑いで、
    あなたもきっと、いつしか笑顔。

    やはり、あたくしの心の中には森田が住んでいる。

    26 min
  • 恒川光太郎著『夜市』感想 「酔歩する男」現象

    日本の怪談はこうじゃなくっちゃ。

    妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた――。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング! 魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。

    絶妙な味付けの怪談。あたくしの好きなやつで、大満足。恐怖と外連味と面白さの調合が絶妙でした。

    夜市

    位置: 205

    「無理よ。どこから来たのか知らないけれど、あなたは夜市の仕組みをわかっていない。ここに迷い込んだら、買い物をするまで出ることはできないの」
    「誰が決めたんです?」
    「そういう仕組みなのよ。誰かが決めたのではなくて、そういう風になっているの」

    村上春樹か!ってツッコむよね。

    位置: 270

    「野球選手の器は、とにかくぼくが野球選手の器と名づけたその形のない商品は、 人攫いが売りに出していた。なぜ、人攫いとわかるかというと、どこからどう見ても人攫いだったからだ。彼はぼくにいった。〈坊や、お金がないなら、その連れている子で代わりに支払ってもいいんだぜ。そうすればすぐにここから出られるし、問題は何もなくなる〉ぼくは本当にどうかしていた。でも、どうにもできない状況だった。品物を買わなければならない。そうしなくては出られない。

    「なぜかというとどこからどうみてもそうだったからだ」という村上春樹手法。外連味だよなぁ。そして背筋が凍る提案。これこれ、このブレンド。

    位置: 359

    「逃げださなければプロ野球選手になれたんじゃない?」
    「たぶん無理だったろう。あるいはなれたかもしれないけれど、一流の選手にはなれなかったと思う。ぼくが得た、野球選手の器は、野球が下手くそなぼくの野球に対する能力を高める、そういうものだった。誰にも負けない一流の能力を約束してくれるものではなかった。甲子園ですら、ぼくよりも能力のある選手は何人もいた。他でもない自分のことだからわかるよ。

    弟を売っても、そのくらいにしかならない。残酷だよ。

    位置: 378

    「明るくならないの? 最悪だわ」
    いずみは泣きだした。
    裕司は目を伏せて、じっと黙っていた。

    いずみは考える。

    才能が買えるなら自分なら何を買うだろうか。何を買っても同じなのかもしれない。

    最悪だ、と泣きながら、次の瞬間「自分ならなにを買うか」を考える。人間ぽい。

    位置: 425

    歩きながら老紳士がいった。
    「売るとか売られるとかの話だが、売られる方がそれを受け入れなければありえん話だよ。犬や猫ではないのだから」

    と、いうことは、かつて弟はそれを受け入れた、ということだ。面白い設定。

    位置: 491

    「はい。残念ながら。夜市では詐欺もありえるのですか?」
    「うん。詐欺は夜市においては罪だからめったにはないと思う。だが、ありえるな」

    夜市自体に意思がある、というのも面白いよね。

    位置: 557

    「理解してくれ。それに……気がついてた? このままなら君はここからは出られないんだ。お金をたいして持ってきていない君が夜市から出るには、ぼくを売るしか、この方法しかないんだよ。君がぼくの弟を買えば、君は取引をしたことになる」
    「私は、嫌よ」
    いずみは答えながらひどく動揺した。

    震えるね。自らの命と引換えに弟を生き返らせるつもりだったんだ。他人を巻き込んでの捨て身の特攻。いずみにとっちゃ災難すぎる。

    位置: 566

    「もちろんさ。ぼくはひどい男なんだよ。君がどれほど善人ぶろうとも、ぼくを変えることはできない。二つに一つだ。ぼくを売ってあの子を買い、ここから出るか、一人ここに残るかだ。君がいいというのなら、代わりに君を売ったっていい。それでも弟は戻ってくるだろう。変な良心を出すのはやめてくれ」
    「ずるい、嫌よ、あなたを売ってわけのわからない子供なんか買いたくない!」
    いずみの両目に涙が 滲んだ。たぶん、彼は最初からこのつもりだったのだ。アパートで、お金はある? ときいたときから。

    絶望するなー。たまんない。「お金ある?」がこんな形で生きてくるとは。

    位置: 893

    男が出口を通り抜けようとしたその瞬間、男の右手を握っていた感触がするりと消えた。
    入れ代わりに手に何かを握らされ、背中を押された。果てしなく遠い最後の声は、
    (あなたの幸運を祈る)

    キレイなラストではあるが、何とも言えぬ読後感である。

    風の古道

    位置: 995

    カズキは私のクラスメートで親友だった。球技をやらせると手に負えないぐらい下手という点で、彼は私と共通していた。休み時間にサッカーや野球をする話が出ると、私とカズキはクラスメートの輪から外れ、自然に二人で遊ぶようになった。

    後ろ向きな友情。

    位置: 1,189

    話をしている間に、夜を旅する異形のものたちがテーブルの前を通り過ぎた。やたらに頭が大きい真っ赤な顔色の男が、 下顎 から 牙 の生えた毛長牛をひいている。
    「あんまり見るんじゃないぞ」青年が声を潜めて注意した。「からまれたらどうするんだ」
    提灯 をぶら下げた 骸骨 の一団も通った。骸骨の一団はぼろぼろの着物を身につけて、茶店には目もくれずに通り過ぎた。彼らには彼らの旅路があり、どこから来てどこにいくのかは青年も知らなかった。

    百鬼夜行感。ちょっと楽しくなっちゃうよね。

    位置: 1,574

    さあ、どうするか。
    地名を調べて、電車に乗って家に帰ればいい。レンも、口にだす機会は逸したようだが、そのつもりで私を送りだしたのだ。これは確信できる。ハンバーガーを買ってこさせるためじゃない。
    私が一緒にいても足手まといになるだけだし、私などおまけのようなもの。  カズキだってここで私が帰ったからといって責めはしないだろう。彼はもう死んでいるのだ。

    私がファストフードの袋、新しい運動靴その他の紙袋を抱えて、ビルの隙間の十字路に戻ってきた時、レンは驚いて目を丸くしていた。

    そりゃそうだ。主人公もよほどカズキに責任を感じていたのか。それとも、ちょっと楽しかったのか。

    位置: 1,772

    「子供だからだよ。〈 綻び〉の微妙な空気の流れと外界の匂いを、本能的に 嗅ぎ取ったんだろう」

    「つのつくうちは神の子」という言葉もありますからね。

    位置: 1,973

    翌朝、まだ暗いうちに出発した。土にも草にも、全てに夏が染み込んでいるような八月の朝の気配があたりに満ちていた。
    道は深い森に入った。植物でできたとても長いトンネルだった。枝や 蔦 が幾重にもなってアーチ状の 天蓋 を作っている。
    夏の強い日差しもそこでは遮られ、 斑 の影を落としている。薄暗くも心地よい道だった。
    道はところどころで分岐していた。入ることはなかったが、なかには地面に開いた暗い穴に下りていくような道もあった。 苔むした大樹の根に開いた穴からは、冷気が漂っていた。
    死者の国へ続く道かもしれない。
    植物のトンネルの道は 二股 に分かれ、交差点になり、登っていくかと思えば下っていった。レンは分岐が現れる度に足を止めて、慎重な顔つきでノートを眺めた。

    なにげに、シンプルな描写がリズミカルなんですよね。描写しすぎない気持ちよさがある。「全てに夏が染み込んでいるような8月の朝の気配」なんて、読んでいて香ってくるようだ。

    位置: 2,012

    「金ならあるんだ。だが……」
    「だが?」僧侶はため息をついた。「他の二つがない。そうですね。気付いておられるとは思うが、方法は一つ。この子がカズキ君の身代わりになり、レン、あなたが育てればいい」
    レンが何かいおうと口を開いた。が、彼の口から言葉はでてこなかった。
    僧侶の表情が厳しくなった。
    「それはできませんか」
    長い沈黙がおりた。
    僧侶が静かにいった。
    「いかなる奇跡を用いようとも、生を得るとはそういうことではないのですか? そのはじまりから終りまで、覚悟と犠牲を必要とする。さあ、お引き取り願おう」
    私はぼんやりと畳に手をついた。
    僧侶は腰をあげた。

    簡単にはいかない。

    15 min

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