ちょいと小噺!

ちょいと小噺!

By 写楽斎ジョニーComedyStand-Up
Download on the App Store

ちょいと小噺! episodes

  • 石原立也監督アニメ『響け!ユーフォニアム シーズン3』感想 原作を超えた
    素晴らしいアニメ化の典型。

    ユーフォ、いよいよ“3年生編”へ――!2015年のTVアニメ放送開始から高校吹奏楽部の青春を描いてきた『響け!ユーフォニアム』シリーズ。 待望のTVシリーズ第3期が2024年4月より放送決定!総勢90名を超える北宇治高校吹奏楽部。 部長に就任した黄前久美子は、悲願の全国大会金賞に向けて、高校生活最後の部活動を駆け抜ける!2024年春――そして、次の曲が始まるのです!

    ちょいと小噺!おじさんの趣味のポータルサイト武田綾乃著『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編』 ...2025年4月17日最後まで読んで、1年生・2年生のときほどのドキドキはなかったかな。新しいことが起こらなかった。そしてやっぱり部長は久美子。あたくしはサファイア川島を推したいんだけどな。あすか先輩は前から見抜いていたらしい。それに優子先輩も乗っかったってことか。位置: 696「大丈夫だよ。絶対に楽しい高校生活になるから」告げた台詞は、あのころの自分がかけてほしかった言葉だったそんなふうに言ってほしかったんだっけな、あの頃。位置: 984「北宇治は毎年、多数決で目標を決めます。全国大会金賞を目指すか、それとも上を目指さず...

    ちょいと小噺!おじさんの趣味のポータルサイト武田綾乃著『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 後編』 ...2025年4月17日真由に悪役を押し付けなかったのが武田先生の矜持なんだと思います。しかし滝先生の真意はなんだったのか。位置: 742「私は、リズって欲張りだなって思ったよ」風が吹き、緑の芝生が波打った。目にかかる前髪を軽くかき上げ、真由は普段となんら変わらない声音で言った。「一緒に過ごしていた動物はほかにもたくさんいたのに、青い鳥だけに固執した。最初から欲張らなきゃ、お別れも寂しくなかったんじゃないかなぁ」「なんか意外。真由ちゃんって、結構ドライなところもあるんだこの感じ、真由ちゃんトラブルメーカー感あるじゃないで...

    15 min
  • 柞刈湯葉著『横浜駅SF』感想 程よくソフトSF

    短編集に続いて、柞刈湯葉先生。この人のSFは評判がいい。

    絶え間ない改築の続く横浜駅がついに自己増殖の能力を獲得し、膨張を開始して数百年後の日本。本州の99%は横浜駅で覆われ、SUICA を所有する人間が住み自動改札による徹底した監視下にあるエキナカの社会と、それ以外の僅かな土地に追いやられた人間の社会に分けられていた。青函トンネルでは、増殖を続ける横浜駅とJR北海道との終わりの見えない防衛戦が続いていた。非 SUICA 住民達の住む岬で暮らしていた三島ヒロトは、古代地層から発掘された「18きっぷ」を手に、五日間限定での横浜駅への侵入を果たすが…

    随所にSFへの愛が散りばめられていて、青々しい。増殖し続ける横浜駅が日本列島を覆う、というB級ぽい設定を真面目にSFしているのが面白い。

    4.あるいは駅でいっぱいの海

    位置: 1,362

    「ルイス船長の心肺停止が確認されたため、規定に基づき 貴方 が繰り上がりで船長となります。テイラー船長、よろしくお願いします」

    元ネタが分からない。映画『オデッセイ』のルイス船長?そしてテイラー船長は『猿の惑星』?

    ちなみにこの章題も面白いよね。まだ『牡蠣でいっぱいの海』読めていないんだよなー。Kindle版がまだ出版されていないので。kindle版はよ。

    位置: 1,379

    実際の滅亡は想像よりも 遥かにしつこく、嫌らしく、粘っこい。数百年にわたる冬戦争でじっくり文明を焦がし尽くした後に現れたのは、人間の手を離れ増殖する建築物と、それを海峡で何十年にも渡って食い止める人間たちだった。

    ヒリヒリする世界観。確かに「粘っこい」という表現が適切かもしれない。そんな気にさせてくれる。

    位置: 1,850

    スイカネットというものは、戦時中の領土みたいに獲得とか掌握とかいった概念があると聞いている。横浜駅の東日本側で最も多くのノードを掌握しているのがJR北日本だ。そして西側で支配を拡大していたのが、キセル同盟と呼ばれる謎の組織だ。だがそれも四年ほど前に消滅して、それ以来 音沙汰 がない。関西に本拠地があったらしいが、詳しいことは分からない。

    この栄枯盛衰感。

    ちなみに脱出のときにリニア使うの、すごく予想外で良かった。かつては開通していたんだろうな。実際にはどうだろうね。まだずいぶん揉めているけど。

    6.改札器官

    位置: 3,295

    太陽光も雨も届かず、気温変動の少ない横浜駅層状構造の下でも、気圧だけは律儀に自然界の法則に合わせて動いているのだ。

    この手の「この状況でも確かに自然界の法則は動いている」系の設定、好きなんだよなー。

    エピローグ

    位置: 3,479

    冬戦争末期にはほとんど人の住めない場所となった東ユーラシア沿岸部だが、その後の数世紀で土壌がどこまで回復したのかは、信頼に足るデータが無い。既に内陸からの民族大移動が始まっているという 噂 もあった。日本列島からの移住が行われるとなれば、早い段階でのイニシアチブ確立が必要なはずだった。だがJR福岡は、大陸への興味を持つことを「住民を横浜駅の侵食から保護する使命」からの逃避とみなして嫌悪していた。
    制度疲労。上層部のこの態度に対する大隈の感想はその一言だった。我々は長い間横浜駅と戦っている間に、その単一目的に最適化された組織へと変質し、それ以外の視点を失っているように感じられた。いずれ横浜駅が完全に崩壊すれば、この組織はその存在理由を見失って共に滅びるのではないか。

    また、この手の「世界が変革されても、人間はどこまでいってもマウントの取り合いをしていた」的なアポカリプス味も好きだなぁ。

    あとがき

    位置: 3,501

    横浜駅は大正四年にこの惑星に誕生して以来、百年以上に渡り一度たりとも工事が終わったことが無い。このため世間では「横浜駅は永遠に完成しない日本のサグラダ・ファミリアだ」と 揶揄 的に言われている。

    この指摘がまず面白すぎるよね。

    位置: 3,515

    イリヤ・プリゴジン(1917~2003)はこのように物質やエネルギーが絶えず流入・流出を続けることで全体の秩序が保たれる状態を「散逸構造」と呼び、その理論によって1977年のノーベル賞を受賞している。この考え方は科学思想にきわめて大きな影響を与えた。本作はそのような思想の潮流の上に存在するSF小説である。

    素晴らしいあとがき。そうなんだー。

    17 min
  • 谷口悟朗監督『無限のリヴァイアス』感想 量産型シンジ・綾波の時代

    それこそ24年ぶりに観たかも。

    人工衛星リーベ・デルタが、ゲドゥルトの海へと沈下し圧漬する事件が発生。リーベ・デルタで訓練を受けていた487名の少年少女たちは、謎の巨大航宙艦「リヴァイアス」に乗り込み、大人を失った状況下で救助が来るのを待ち続ける。だが、彼らは行く先々で攻撃を受け、生き延びるために戦うことを余儀なくされる……。

    十五少年漂流記や蠅の王をモチーフにしたSF作品とのこと。閉鎖的空間での人間関係ってめちゃめちゃ面白いよね。コメディにもしやすい。

    放送当時は録画技術が家庭にそれほど無く、一話を見逃したので他は観なかった記憶があります。

    41 min
  • 武田綾乃著『飛び立つ君の背を見上げる』感想 俺達の夏紀!

    ひたすらエモい。

    北宇治高校三年、中川夏紀。私は今日、吹奏楽部を引退した――。傘木希美、鎧塚みぞれ、そして吉川優子。四人で過ごした、最高にいとおしくて、最高に誇らしかったあの日々――。「響け! ユーフォニアム」シリーズの人気キャラ・中川夏紀の視点で、 傘木希美、鎧塚みぞれ、そして吉川優子を見た物語。 エモさ全開の青春エンターテインメント。 待望の文庫化です。単行本の初回特典だった、希美視点の「記憶のイルミネーション」も収録。

    この4人の代(他にもチューバの二人とか、加部ちゃん先輩とかいたはずなのに、圧倒的にモブ化されてる)は、やはりまた違うエモさがある。

    すべてはみんな大好き夏紀先輩のおかげである。未完成な愛おしさを存分に味わいました。

    第一話 傘木希美はツキがない。

    位置: 429

    自分の時間を他人に 盗られるのは嫌だ。だけど、すべての時間を自分に費やし続けるのはどこか 虚しい。

    子どもはいいぞ、と言いたい。あたくしにとっては子育てがその最適解だったね、人生において。ただ、この時点の人間には掛ける言葉がない。でも、あたくしも思っていたな。一人旅でも気付いたな。

    位置: 682

    世の中には、自分がいい方向に進んでいないと耐えられない人間がいる。努力しないことが嫌だ。怠惰に過ごすのが嫌だ。下手なままは嫌だ。このままでは嫌だ。
    その思考は間違いなく正しいが、窮屈だ。はみ出る人間が確実に出てくる。努力しないことに耐えられる人間は、耐えられない人間が何を不快に感じているのか理解できない。北宇治の三年生と一年生の隔たりの原因は、きっとここにある。

    あたくしはその部分を落語に委ねているんですが、しかしその人間の了見も、またその窮屈さも、ちょっと分かるんだよね。

    位置: 930

    夏紀は誰かに部活に誘われたからってそう簡単に受け入れるような人間じゃない。それでも希美だったから、その賭けに乗ることにした。相手が、希美だったから。
    冷静になんてなれるわけがない。そう言葉にできたらどれほどよかったか。だけど夏紀はそれを口に出したりはしない。八つ当たりで発した言葉たちがこれから先、希美を縛りつけるようなことになったらと想像するとゾッとする。

    無自覚なカリスマ、というやつか。それはそれで罪に思われちゃうんだよな。

    位置: 977

    「先輩らがアイツらを嫌がる気持ちは理解できます。でも、先輩らを信じてた部分を無視するのはあまりにひどいんとちゃいますか。アイツらのやったことと先輩らの仕打ち、全然釣り合ってへんと思うのは間違ってます?」

    クールな顔して、情には厚い。損するタイプでもあり、得するタイプでもある。でも、やっぱりみんな好きだよね。損得で動けない人が。

    位置: 987

    「かわいそうやなぁ。せっかく低音パートの一年は平和やったのに」
    一瞬、言われた言葉の意味がわからなかった。どうして夏紀個人の振る舞いに低音パートが出てくるのだろうか。そこまで考えて、唇からぎこちなく吐息が漏れる。
    自分はいま、脅されているのだ。

    しょーもない脅し。三年もまたセコい手を使う。

    位置: 1,027

    「最初からそうしてればよかったのに。そういう態度だから中川はみんなから嫌われてるんだよ」
    「はぁ、そうですか」
    まるで子供の喧嘩みたいだ。低レベルすぎる暴言に、夏紀は鼻白む。背中を丸めた夏紀の肩に手をかけ、あすかがわざとらしい仕草で目を丸くしてみせた。大きく開けた口に手を当て、「おやまあ」と芝居がかった台詞を吐く。
    「先輩ってば、そんなふうに自分を卑下しなくていいんですよ!」
    「はぁ?」
    警戒の色を露骨に濃くし、先輩があすかの顔を見上げる。視線を受け止め、あすかは 胡散 くさい笑みをよりいっそう深くした。
    「『私』は嫌い、が正しい日本語でしょうに。でも、自分なんかの台詞じゃ夏紀に届かないと卑下して、主語を『みんな』にしはったんでしょう? 先輩のそういう奥ゆかしいところ、めっちゃ勉強になりますわぁ」
    クツクツと喉奥を鳴らすあすかに、周りの人間はすっかり辟易している。とんでもない嫌みだな、とかばわれている夏紀ですらやや引いた。

    あすか先輩がこんなに嫌味なのは原作だけ。完璧超人キャラにアニメでは昇華されてるけど、もっと人間臭いのよね。

    位置: 1,096

    お伺いを立てるように、優子は夏紀の鎖骨辺りを軽くノックした。トントンと柔らかに刻まれたリズムが、夏紀の身体の内側から何かを引きずりだそうとする。
    「うちが辞めたら、希美の誘いがなかったことになるやんか」
    ずるり。四つに区切られた心臓の小部屋から、無自覚に抱き続けていた本音が漏れた。優子は双眸を目一杯開き、こちらの顔を探るように凝視する。
    「なかったことにはならんやろ。ってか、希美は夏紀が部活を辞めても気にしいひんと思うし」
    「そういうんじゃなくて、うちが嫌。希美の影響を受けた自分をなくしたくないというか」
    「ふうん」
    「何」
    「いや、似てるところもあるんかもしれんなって」

    鎖骨あたりをノック、ってどういうことだろう?仲良くてもそんなことするか?

    希美への憧れ、希美の行為への崇拝。一見みっともない行為を、夏紀は優子の前でさらけ出す。ずるり、という効果音もいいね。

    第二話 鎧塚みぞれは視野が狭い。

    位置: 1,493

    「希美はどうですか? あの子は南中では部長でしたし、優子とも付き合い長いですし」
    「無理無理。あの子は同じ時間を共有してへんから」
    「同じ時間?」
    「滝先生が来て、いままでの北宇治の常識が無茶苦茶に破壊されていったあの時間。傘木希美は所詮、軌道に乗ってから戻ってきただけのよそ者よ」

    あすか先輩の冷徹なところ。あたくしは原作のも好きだな。所詮よそ者、という言い方もいいね。コンクールは実力主義、でもチーム運営はそうじゃない。

    位置: 1,510

    「あすか先輩はうちを過大評価しすぎですよ」
    「そんなことないよ。うちはアンタをまっとうに評価してる」
    ぐっと、喉の奥から妙な音が漏れた。ちょろいと思われたくないのに、それでもこらえきれない喜びが噛み締めた唇からこぼれる。

    ずるい女。

    第三話 吉川優子は天邪鬼。

    位置: 2,177

    「香織先輩は相変わらず綺麗で、優しくて。うちが好きな香織先輩のままやったのに。たった一年で、こんなに人間って変わるんやなって」
    優子の指先が、弦の上をゆるゆるとたどる。夏紀はギターを軽く持ち上げると、伸ばした脚を組み替えた。 「コンクールに応援に来てくれたけど、見た目もそんな変わってなかったくない?」 「そりゃ香織先輩はずっと見目麗しいけど、そういうことじゃなくて、中身が違ったというかさ。もう高校生じゃなかった。大人やった。それがなんか、寂しいなって」

    ちょっと分かるんだよな。高校時代に尖りまくってた先輩が、久しぶりに会ったら普通の大学生になってたときの、ちょっとしたがっかり感。

    位置: 2,330

    「うちはさ、希美が副部長になればいいと思ったよ、あすか先輩に指名されたとき」
    「いや、普通に無理やろ」
    「なんで? 希美は有能やんか」
    「んー、自分でもそこそこ有能やと思うてるけど、優子が部長やとしたらやっぱり副部長は夏紀以外考えられへん。うちは優子のこと叱ってやれへんし」
    「あすか先輩も似たようなこと言うてた」
    「やっぱりな」

    希美の聡さと、希美の無知さと。両方を描けているから、武田綾乃先生はすごいと思うんですよね。

    位置: 2,444

    「アホやと思ってるのに、夏紀はそうやって助けてくれるんやもんなぁ」
    「あぁ?」
    「夏紀がほっといても、うちは多分、一人でなんとかできたよ」
    青い風が吹いた。夜の空気をにじませた、冷たい北風。柔らかな優子の髪が大きく翻り、整えられた前髪をぐちゃぐちゃにかき回した。自分の髪が乱れたことに気づき、優子はとっさに髪を手で押さえる。それでもすべて捕まえることなんてできなくて、彼女の指の隙間から、タンパク質でできた細い黒糸が漏れ逃げた。
    「やろうな」
    かぶったキャップをずり下げ、夏紀は優子の顔をのぞき込む。夏紀の髪はキャップのなかに収まっているから、突風なんかで簡単に乱れたりしないのだ。
    「でも、一人でなんとかしてる優子を見るのはムカつくからさ」
    「ムカつくって何よ」
    「こう……見てるとイライラする」
    「そんなこと言うのアンタだけやで」
    呆れたような声音のくせに、優子のまなじりは下がっている。軽く突き出された唇はすぐに笑顔へと変形し、大きく開かれた右の手のひらが空気を含んだ夏紀のダウンジャケットをぼすぼすと叩いた。

    このあたりは、あんまりよく分からなかった。いいシーンなんだろうけど、あたくしには飲み込めず。イライラする、って言葉が救いになるってこともあるんだな。

    位置: 2,477

    脳の海馬から、むわりとした熱気が染み出す。皮膚に染みついた 虫除けスプレーの匂い。草むらで鳴り響く虫の鳴き声。薄暗い廊下の先でぽつんと光る、非常口の誘導標式。
    これはあのときの記憶だ、と夏紀はすぐにわかった。高校三年生の夏休み中、吹奏楽部が許可をもらって校内で夜まで居残り練習していたときの記憶。

    夏の夜のあの熱気。読んでいて、自分の脳内の海馬からも出たわ。

    位置: 2,481

    その日の優子は、朝から部内の人間関係の調整に神経をすり減らしていた。Aメンバーに選ばれた一年生の不安に寄り添い、顧問の指示に従いたくない三年生の不信に心を砕き、パート内の揉め事で気を荒立てる二年生の不満を受け止めた。昼休みの二年生の相談はとくに長かった。相談会という理由で夏紀と優子と後輩の三人は空き教室で 対峙 したが、話をするのはもっぱら夏紀以外の二人だった。
    「いや、そこはアンタも悪いやろ。うちだってそんな言われ方したら腹立てるわ」
    「でも、先輩だってひどいんです。『頭冷やしてこい』なんて言い方」
    「ちゃんと気持ちを分けて考えなあかん。アンタは何に対して腹を立てたんや? いま、アンタが持ってる怒りのうち、百パーセントがその先輩のせいで生まれたんか?」
    「それは、」
    「ちゃうやろ。親に進路を反対されてムカついてて、さらに先輩に叱られて爆発したんや。先輩から見たらアンタが八つ当たりしてるように感じるわけよ」
    「あれ、私、部長に進路で親と揉めてるって言ったことありましたっけ」
    「言わんでも伝わってる。アンタが音大目指して頑張ってることも、楽器を家に持ち帰って毎日練習してることも、全部知ってる。アンタが努力家なところも、とっさのときに上手く自分の気持ちを言葉にできひんことも、誰かを怒らせることに不慣れでいまどうしていいか戸惑ってることもわかってる。全部ひっくるめて、うちはアンタのことを認めてる」
    「部長……」
    ぐすぐすと鼻をすすり出した後輩の手を、優子が強く握り締める。
    「誰かを怒らせても、アンタの居場所はちゃんとあるで」

    「おれはおまえを認めている」というフレーズがホモ・サピエンスに有効なのは間違いないね。奇しくもあすか先輩が「うちは正当に評価している」と夏紀に言ったのと同じ。人の承認欲求というのは満たしてあげるに限る。

    位置: 2,506

    部長である優子と副部長である夏紀の戯れのような言い合いは、場の緊張を緩和するのに明らかに役立っていた。夏紀のそばで好き放題言っているときの優子の態度は、完全無欠な部長が見せるわかりやすい隙だ。そのおかげで、後輩たちは優子のことを怖がりすぎない。隙のある相手に対して、人間は好意と安心を抱きやすい。

    人心掌握ですね。ギャップというか。

    ただ、それだけじゃない。優子にとっても、夏紀は必要なのだ。

    位置: 2,524

    『Love, the itch, and a cough cannot be hid』

    愛とかゆみと咳は、隠せない という意味ですね。

    ClairWorksト-マス・フラー 名言 愛とかゆみと咳だけは、どんなことをしたって、隠し通すこと...https://www.clairworks.com/words/detail/62ト-マス・フラーの名言 英語の原文と日本語訳 愛とかゆみと咳だけは、どんなことをしたって、隠し通すことのできないものである。

    トーマス・フラーという方、聖職者なんだとか。

    位置: 2,536

    「ずいぶんピリついてるな」
    夏紀の指摘に、優子は射抜くような眼差しをこちらに寄越した。だらりと下がった手の先、ジャージに触れる彼女の人差し指は小刻みに上下を繰り返している。
    「まじでどっか行ってくれへんか」
    「八つ当たりしたくないから?」
    「わかってるんやったら見て見ぬフリする優しさがあってもええと思うねんけど」
    「なんでうちが優子に優しくせなあかんの」
    「じゃ、ここにいるのは嫌がらせ?」
    「そうそう、ただの嫌がらせ」

    平然と言ってのける。それに優子が救われる。

    位置: 2,691

    久美子は泣いていた。あまりにもいとけなく。
    「私、感謝してるんです。本当に、夏紀先輩が先輩でよかった」
    こぼれ落ちる涙が彼女の頬を濡らしていく。あぁ、きっとこれが正解なんだろうと夏紀は漠然と思った。

    後輩としての久美子。正解だ。大正解だよ。

    位置: 2,800

    ひどくなる嗚咽をこらえようともせず、夏紀はただ泣き続けた。涙の条件は一人になることだったのかと、夏紀はようやく思い知った。

    燃え尽き症候群になった、と一人で自覚したとき。張り詰めていたものが解かれるのはその時だったんだね。あたくしも、そういえば風呂場なんかが結構泣きスポットだったなぁ。あれは緩んだときだったからかな。

    位置: 3,007

    「いくらでも代わりがいるなかで、うちはアンタを選んでこうやって一緒にいるワケ。代わりがないからじゃなくて、代わりがいくらあってもアンタを選ぶ。一緒に音楽やるのも、こうやって過ごすのも、夏紀と一緒がいいよ。それが悪いこととはうちにはどうしても思えへん」

    いいセリフ。承認欲求をガン満たし。

    31 min
  • 一穂ミチ著『スモールワールズ』感想 ズラし方に嗜好性を感じる

    カットボールのような、「ちょっとだけ芯を外す」のが上手い方という印象。

    「スモールワールド」というと羽貫さんを思い出す。

    2022年本屋大賞第3位

    第43回吉川英治文学新人賞受賞!
    共感と絶賛の声をあつめた宝物のような1冊。

    夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人ーー書下ろし掌編を加えた、七つの「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語が、読む者の心の揺らぎにも静かに寄り添ってゆく。吉川英治文学新人賞受賞、珠玉の短編集。

    ままならない、けれど愛おしい

    「小さな世界」たち。

    理不尽だの既得権だの家父長的だの、そういうのに対する忸怩たる思いを、ストレートではなくカットボールで料理する。その巧者ぷりがすごい。

    ネオンテトラ

    位置: 362

    『何でって、何でそんなこと言うの? 何でもない顔で、ふたりきりで泊まりなんか無理です。分かるでしょ。それとも、引きずってるのはわたしだけですか?』
    『そんなわけないだろ』
    『ほんとに?』
    『当たり前だよ。ふたりのことだから一緒に考えさせてよ』
    『嬉しい。大好き』
    ふざけんなよ。

    浮気LINEほど「ふざけんなよ」で一蹴すべきものはないよね。滑稽。

    位置: 373

    「それって、ホルモンバランス、すか」
    「そうそう」
    笑えている自分にほっとする。今頃、夫が広島でどんなふうに過ごしているのか知らない。不貞を知りながら 咎めなかったわたしは、もう黙認しているのと同じだろうか。貴史に 愛想 が尽きた? もうあんな男の子どもは産めなくてもいい? ──違う、あんな男だからこそ、子どもくらい手に入れなきゃ元が取れないのに。

    ズレてんだよな。そのズレ方が良い。サンクコストってのを、理論的に解説するのではなく、あくまで文学的に料理してる。上手い。

    位置: 384

    「何で、親切にしてくれるんすか」
    帰り道、笙一が緊張した面持ちで 尋ねた。
    「親切には責任が伴わないからじゃない?」
    前みたいなきれいごとを口走りたくなかったので、わざと冷淡に答える。彼の反応を見なくてすむよう、一歩先に進んで歩きながら。

    言葉選びがまた、いいじゃないですか。生々しいよ。

    これを生々しいと感じる人、どれくらいいるのかな。もしかしたらあたくしが思っているより当たり前の感覚ではないのかもしれない。

    花うた

    位置: 1,815

    また、親や子を奪われた悲しみに比べると兄弟姉妹は、誰もはっきりと言いませんでしたが「まだまし」みたいな空気を感じました。

    これ、あるよね。病気自慢、不幸自慢。

    そっと距離を取るのが正解なんだけど、なかなかね。

    位置: 1,819

    「新品のランドセルを一度も背負わないまま会えなくなった我が子」、「部活に打ち込んで誰からも好かれていた成績優秀な我が子」のエピソードは、「悲しむ権利の主張」に聞こえました。もう、あそこには行かないと思います。悲しみの深さを比べながら分かち合い、傷を癒し合うという器用なことができないから。

    『推し燃ゆ』のときも感じたけど、最近の若い作家はこの辺の感覚が実に上手く言語化できている。やはり文学は若い人のためのものでもある、と実感する。

    悲しむ権利の主張、か。それが全てじゃないんだけどね。

    位置: 2,107

    もしもわたしが秋生より先に死んだら、秋生は悲しむかもしれません。それは、わたしが兄を亡くした時の悲しみと同じかもしれない。わたしが秋生に悲しみを教えてあげられる、と思うと、とてもかわいそうで、少しだけ嬉しい。

    屈折しているけど、大切な、偽りない感情かもね。

    ただ、「それだけじゃないよ」という感覚は大切にしたい。これも一つの不幸による選民思想だから。

    愛を適量

    位置: 2,498

    「ふしぎなんだけどさ」
    佳澄の指が、顔についた毛をそっと拭い、眉を撫でつける。やはり、女の手つきだな、と考えてしまう。
    「他人にあれこれしてやりたい気持ちで、まず自分に手かけたら? 自分相手ならやりすぎも行き違いもなくて楽しいじゃん」
    「そんなの、本当にただの自己満足じゃないか」
    「それの何が問題? ……ほら、できた」

    自己満をちゃんと楽しめるかどうか、って大切よね。

    位置: 2,548

    「時間かけんのだるいって思ったらやめればいいし、今の自分を続けたいんならやればいい。ただ、生徒に笑われたからっていうのはNGな。あいつらがあんなこと言ったせいだってなっちゃうだろ。理由とか原因を他人に 紐 づけてると人生がどんどん不自由になる」

    正論である。この人、苦労してきたんだな、ってのが伝わる、いい台詞だ。

    位置: 2,648

    「『今まであんたみたいな変態とつき合ってやってただけで感謝してよ』って言われた。もし対面してあれをもっかい言われたら死ねる」
    自分が侮辱されたわけでもないのに、胃から喉まで土を詰め込まれたように声も呼吸もぐうっと詰まった。
    「友達は、前から『あの女やばい』って忠告してくれてたのに、聞く耳持たなかった。都合のいい言葉にだけ 縋ってたら結局誰も何も残らなかった」

    恋愛も、他人に自己評価を依存している人の行動という側面はあるよね。

    前述の台詞を言った人と同じ人が陥っているというのが面白い。

    位置: 2,766

    顔の上にぼとっと本を取り落とし、目の前が真っ暗になった。母親にも友達にも打ち明けられず、気安い間柄とはいえない父親にSOSを出すほど追い詰められていたのに、慎悟は「分からない」と娘を突き放し、背を向けた。また適量を間違えていた。変じゃないよ、心も身体も取り替えられないけど、これからどうすればいいのか一緒に考えよう。どうしてそう言ってやれなかったのか。

    「変じゃないよ。一緒に考えよう」

    これが自分にも言えるかどうか。自信ないけどね。本著を読んだことがあることが財産になりますように。

    式日

    位置: 3,067

    気持ちを、口に出したことはもちろんない。行動で表したつもりもないが、いつの間にか伝わってしまっていた。眼差しだったり、ふと交わした「おはよう」の抑揚だったり、割り勘のお釣りを渡す時の指先のためらいだったり、たぶんそういう儚い気配の積み重ねで。いつの間にか伝わってしまっていたことをいつの間にか確信していたし、いつの間にか確信していたこともいつの間にか伝わってしまっていただろう。
    「どうすればいいのかな、とは思ってた」

    好意を持っていることを、知られている関係の、微妙な間。

    その「間」のようなものを楽しむ。これが恋愛の楽しいところ。

    位置: 3,077

    「先輩、親いないって言ってたじゃん」
    「うん」
    「だから、俺が自分の黒歴史話したら、ドン引きして、何だこいつってちょっと嫌いになってくれるかなって、そういう期待もあった。だって、好かれるって恐怖だろ」
    「嫌われるより?」
    「嫌われたらそこで終わりじゃん。好かれたら始まっちゃうから、そっちのが怖いよ」
    分かるような、分からないような。そして、あいにく今でも、妊娠させた同級生を本気で好きだったのか訊けないほどには好きだった。ただ好きでいるだけの、何も始まらない好意だってあるよ、と思った。

    嫌いになってほしけりゃ、もっと単純な方法があると思う。

    だから、嫌いになって欲しいってのも100%の気持ちじゃないんだ。それを書かずに、読み手に分からせる。一穂さん、やるなぁ。

    位置: 3,108

    「『アルコール依存症は病気、お父さんのせいじゃない』って言われたことがある。じゃあ、俺がバイト代盗られて失神するまで殴られて真冬にパジャマ一枚で表に締め出されたのは誰のせいだよ。酒? そんな顔のないものを恨んだり怒ったりできないだろ。『立ち直るには支えが必要』って、俺の人生 捧げろって言ってるのと同じなのに」

    落語『子別れ』の台詞を思い出したよ。そうだよな。

    罪を憎んで人を憎まず、とは言うは易しだが、他人に適用するのは暴力的。

    やはりこの台詞は、自分に対して言い聞かすためにあるんだろうね。

    位置: 3,169

    「先輩といると、楽でいいなと思ってた。先輩には家族がいないから引け目感じなくてすんだし、あれこれ詮索してこないし……でも、それってものすごく一方的な理由で、自分のずるさがだんだんいやになってきた。もし俺が自分ちの事情打ち明けて、先輩が『それでも家族がいるだけうらやましい』とか、『お父さんと和解しなきゃ』みたいなこと言ったら、って想像して怖かった」
    「何で」
    「その地雷踏まれたら確実に先輩を憎むから。きれいごとしか言わない教師とか気まぐれで構ってくる近所の人とかいっぱい憎んできたけど、先輩だけは憎みたくなかった。大人になればどんどん自由になれると思ってたのに、逆だったな」

    好意をもっていた男からの突然の呼び出しが葬式への参列のお願い。

    その突拍子もない設定が徐々に明らかになっていき、それを共有する感じ。良作である。

    20 min
  • 西村寿行著『君よ憤怒の河を渉れ』感想 名前が秀逸すぎる

    まずタイトルが相当に秀逸。小説版は「ふんぬ」が正しい。映画は逆に「ふんど」らしい。

    東京地検のエリート検事・杜丘冬人は、新宿の雑踏で突然、見知らぬ女性から強盗殺人犯だと指弾される。濡れ衣を着せられたその日から、地獄の逃亡生活が始まる。警視庁捜査一課・矢村警部の追跡は執拗だった。杜丘は真相を求めて能登から北海道へ、そしてまた東京へ。自分を罠に陥れたのは誰なのか。滾るような憤怒を裡に、警察の大規模捜査網をかわし、謎を追い求め続ける。

    ハードロマンの代名詞的存在にして著者の記念碑的出世作。
    1976年、佐藤純彌監督によって高倉健主演で映画化された。この作品は1979年に『追捕』のタイトルで中国でも公開され、観客動員数8億人を超える大ヒットを記録した。

    中国で大ヒットだとか。面白い現象。高倉健は中国でもこれで有名らしい。

    突き抜けるようなスリルとテンポのいいストーリー!の部分もあれば、しっかりとダレるところもある。そして終わりはあっけない。謎の部分についてはこじつけ感はありますが、この物語の肝はそこではない、と踏み切れれば面白いと思います。

    タバコの煙うんぬんは、ちょっと謎の推進力としては弱いんじゃないかな。

    位置: 2,151

    「やめて! おねがいだから!」
    耐えかねて、真由美が泣いた。
    「やめんか、縁起でもない」遠波は真由美の肩を抱いた。「男には、死に向かって飛ぶことも必要なときがあるのだ。とくに、いまの杜丘君にはな。夜空も征服できん男に明日はない。では行きたまえ」

    笑うしかないよね、昭和の雰囲気だ。冒険に出る男と、それを止めようとする女。そしてそれを遮る理解者。

    位置: 2,912

    麻薬の中ではヘロインやモルヒネと並ぶコカインだが、中毒症状のはてに小動物の幻影をみるという点で、コカインはその無残さを際だたせていた。寝床の中に、食卓に、壁に、ありとあらゆるところに蛇やサソリ、クモ、蛙などが這いはじめるのである。

    ブラックジャックで観たような気がする。

    位置: 3,325

    ツグミと猿がアトロピンではなくコカインによる幻覚をみたのだと解ければ、武川、ツグミ、猿、そして殺害のキーワードは コカイン だとなる。
    ──だが、それなら、羆はどうする?
    羆がコカインを、などとは、とうてい考えられない。
    杜丘が知らずに触れていた犯行の傷口──

    羆がどうのこうの、っての、最後まで理解できなかった。こじつけ?羆が人間に飼われているみたいな描写もあったんだけど、どういうことだったんだろう。最後まで謎だった。

    位置: 3,656

    杜丘は便所をみた。セメントの四角い穴があいているだけの便器の底には、つねに逆流してくる汚水が溜まっていた。その水をアルマイトのコップで 汲んだ。悪臭が鼻をついた。看護人が薬を飲ませ、口の中を調べて去ってすぐ、杜丘はその汚水を、目をつぶって飲んだ。

    これは本作の最もエモいシーンです。読んでて震えた。

    38 min
  • 柞刈湯葉著『人間たちの話』感想 テッド・チャン味ある

    日本のテッド・チャンと聞いて。

    SFマガジンに掲載された「宇宙ラーメン重油味」「たのしい超監視社会」をはじめとした、『横浜駅SF』で話題の、SF界若手最注目の奇才による初短篇集。全六篇収録。

    確かに面白かった。好奇心を刺激されます。やっぱり定期的にSF読まないと、脳のSF理解筋肉が落ちる気がする。

    あらゐけいいち先生の絵、ちゃんと物語にそって描かれてて、すげーってなった。先生も好きなんかな。

    楽しい超監視社会

    位置: 607

    「豚兄弟をやっつけろ!」
    字幕と音楽に合わせて、道路を埋める群衆が叫ぶ。さっきまで 虚ろな目をしていた歩行者たちが、顔をキラキラと輝かせて手を振り上げる。 「豚兄弟」はオセアニアの最高指導者の 蔑称 である。

    まさに1984。オマージュですね。bigとpigをかけるとか、安直な気もしつつも、面白い。

    位置: 622

    「三分間ヘイティング」は群衆の声を使ったビデオゲームであり、声量とタイミングに基づいて地域ごとに得点がつく仕組みとなっている。
    順位が高くても特典はないが、国民はこの集団遊戯に熱心であり、中には個人用電幕を使って自主練に取り組む者もいる。

    先日、辻田真佐憲さんの本でも読んだんですが、戦中のプロパガンダには国民の積極的介入が、我々の思っているよりあったという話でしたね。

    1984よりポップに書かれている分、嫌な感じではある。

    位置: 649

    三分間ヘイティングについても、彼らがオセアニア軍に汚い言葉を投げかけるのはそれが集団遊戯のルールだからであり、映像が終わればすぐにイースタシア国内で完結した日常に戻っていく。監視社会における若者たちは皆、そういう分離可能な精神を身につけているのである。
    だが話はともかく街コンである。

    この「ともかく街コン」の感じ、怖いっちゃ怖いね。

    位置: 672

    「いつも見てますよ。小説、頑張ってください」
    「あっ、はい。どうも」
    薄井がぺこりと頭を下げると、能面男も首だけで礼をした。その体勢で数秒ほど黙っていると、話すべきことがないと相互理解を得たらしく、男は瓶を持ったまま別のテーブルへ消えていった。
    「任意監視か」
    頭上から大村が話しかけてくる。
    「……だろうね。見覚えないし。国民服だから学生じゃないんだろうけど」
    「貴様を任意で見る暇人がいるとはな」
    「馬鹿にすんなよ。僕には一七人いるぞ」

    この監視している人数がまた、承認欲求の対象になったりするんだろうね。怖い怖い。

    全体的なポップさが、逆にこええっていう。1984のオマージュでありながら、逆のアプローチで怖い。

    人間たちの話

    位置: 1,045

    図鑑や博物館で「奇想天外な動物たち」と紹介されている熱帯動物や深海生物、化石にのみ姿を残す絶滅種たちは、すべて造形が奇抜なだけの親戚にすぎない。生命世界はすべて同質であり、孤独な遠祖の単調な写し身だけがこの青い球面を満たしているのだ。彼はそのように理解した。

    この感覚、なんとなく考古学にも通じるんだよね。スケールは違えど。縄文人の前で歴史や文化の違いなんかは無価値だ、とかよく考えたな。

    位置: 1,065

    この父の見込みは間違っている。境平はなにも人間社会に対し広い視野を持っていたわけではない。むしろ逆で、彼にとって日本人と中国人はおろか、アジア人と白人の違いも理解できなかった。そういった国籍や人種の多様性といったものはすべて、彼にとっては「孤独な巨人」の構成要素にすぎなかった。

    日本の衰退を嘆く父と、それをなんとも思わない息子。面白いね。皮肉こそ最もわかりやすいSFの魅力じゃないかな。

    位置: 1,076

    境平は特別身体的に 脆弱 というわけではなかった。彼が宇宙飛行士を少年時代の夢としても考えなかったのは、宇宙に行くのが自分である必要性を感じなかったからだ。
    地球上の人類はDNAで見れば 99%以上同質であり、ほんの数万年前に分化した近い親戚にすぎない。そのうちの誰かが宇宙に行くのであれば、それは自分が行くのと本質的に同等だ。人間の業績は人間全体に帰せられるものであり、個人はそれぞれの適性に応じた役割を果たせばよい、と彼は思っていた。

    嫉妬みたいなものと無縁なんだよね。楽だろうな、生き方。こういう人間になりたいね。

    位置: 1,606

    境平が人生をかけて探している他者とは、すなわち、地球に生きる生命の兄弟なのだ。
    宇宙のどこかに他の生命体が存在することで、自分たちが生まれるべくして生まれたものだと、信じることができるのだ。
    もちろんそれは空想だった。宇宙の摂理は生命を愛したり 慈しんだりはしない。ただ、もうひとつの生命が存在しているという、その事実を確認するだけで、人間たちの存在が、必然性に基づいた結果だという空想に浸ることができるのだ。
    皆が皆、それぞれ求めている空想があるのだ。どうしてそれを否定することができるだろう?
    「帰ろう、累。僕たちの家に」

    科学の話と、人間臭い話の、妙な接地点をみて、不思議な気分になる。これぞSF。

    位置: 1,616

    有機分子と水を 湛えた多孔質の岩石は、相変わらず火星の地中に存在していた。
    地球から送られてきた無人の探査機が、いくつかの石をサンプルとして持ち帰ろうと、科学者たちがその分子組成にどんな意味を見出そうと、その事実がどれだけの人間の心を揺さぶろうと、それは彼らの預かり知らぬ話である。  これはあくまで、彼らとは無関係の惑星に住む、人間たちの話なのだ。

    ぐっと来る、最後の一行。

    宇宙ラーメン重油味

    位置: 1,699

    「銀河住民の調和と共生」をモットーに民主政を敷く銀河連邦だが、その選挙においてはトリパーチ星人の人口を内臓袋の数で決め、それぞれに選挙権を与えていた。連邦に複頭種が少ないゆえの差別的措置だった。このため内臓を共有する頭脳の政治的意見が食い違うと、それだけで非常なストレスとなり、心療内科的疾病の原因となっていた。
    それが課長の生まれる少し前、さまざまな政治闘争の末に「1頭脳あたり1人」として銀河連邦の市民権を得て、別々に選挙権が認められるようになったのだ。
    そういった歴史がある以上、部長の世代にとって自分たちを「ひとり」とみなされるのは、差別されていた過去への回帰であるとしてひどく 忌み嫌われていた。

    一身体一頭脳が前提の社会を当たり前に生きていると、こういう考えにならない。よき。

    位置: 1,731

    「地球人がトリパーチ星人向けと称してシリコーンを売る店は何箇所かあった。だがどれも工業繊維を申し訳程度に加熱しただけで、ゴワゴワで食えたしろもんじゃない出来だった。
    だがこの麵はどうだ。おそらく高圧下で分解し、結晶質と非晶質のバランスが絶妙に調整されている。ちゃんと消化管の歯で嚙み砕ける。
    ただのシリコーン麵じゃない、きちんとトリパーチ星人の生態を考えた麵だ!」
    どうやら彼は課長に話しかけているのではなく、心の叫びが内臓袋につながった神経系に漏れ出しているようだった。

    まるで美味しんぼ。これに比べれば山岡さんの鮎はカスや。この話、昨今のグルメコンテンツブームを揶揄するようで好き。

    記念日

    位置: 2,167

    つまりこの話を一般化するとこういう事になる。
    個々の存在が寄り集まって集合体を形成し、互いに強く依存するようになると、やがて全体のために個が死ぬという「機能」が獲得される。

    ゾットする話。

    位置: 2,246

    息子は父の背中を見て育つというが、もし父親の息子に対する義務が「生き様を見せること」であるとするならば、あの父はきわめて忠実にその義務を実行したといえる。
    「人間には死ぬ機能がある」
    という事実を僕はこの上なく納得し、受容し、満足した。もし本当に生命にとって「死」があらゆるリスクを取ってまで回避すべき事態であるならば、僕は生きることを死ぬほど苦痛に思ったに違いない。
    あれから 3 年が 経ったが、少なくとも今の僕にとって、生きることは苦痛ではない。大学の仕事は着々と進んでいるし、経済的にもまあまあ余裕がある。部屋に巨大な岩があることを除けば生活も平穏だ。

    「ではこの岩はなぜ?」と思わせる淡々とした描写。効果的。

    位置: 2,280

    うるかすのも面倒

    うるかす、って方言かな。調べたら北海道・東北だそうな。

    福島民友新聞社【これって方言だったの!?】「うるかす」伝わらず驚きhttps://www.minyu-net.com/serial/kokohore/FM20220113-678560.php#:~:text=「水に漬けておく,広く使われている。 県内の食文化や風習などを深掘りする「ココほれ!ふくしま」、今年もよろしくお願いします。新年初回の「ココほれ」は、共通語だと思って使ったけれど、伝わらず「これって方言だったの!?」と驚いたエピソードを紹介する。 今回も読者とふくしまFM「福空間~フクスペース~」リスナーから情報を募集し、多くのお便りをいただいた。その中で最も多く寄せられた「方言だと思わなかった言葉」ナンバーワンは「うるかす」だっ
    NO REACTION

    位置: 2,610

    要するに、これも一種の「不透明人間の透明化願望」だと思う。肉体の透明化を望む思春期の少年がいれば、精神の透明化を望む大人たちもいるのだ。

    しょうもないけど、これが人間だね。思うに、SFはこれが大事。舞台が現代でなくなっったときに、残った「人間ぽさ」がリアルかどうか、これが大切。

    あとがき

    位置: 2,909

    ■人間たちの話(書き下ろし)
    宇宙生命とのファースト・コンタクトは探査機による発見ではなく会議による認定だろう、という個人的確信にもとづいて書かれた宇宙生命SF。

    おもしれー発想。でも、そうかもね。

    位置: 2,918

    ■宇宙ラーメン重油味(初出:SFマガジン2018年4月号)  とある漫画雑誌の編集者から「漫画原作やりませんか」と誘われて「いま飯漫画ブームだから、SFグルメやったら売れる」という俗物きわまる発想で作られた企画。漫画には別の案が採用されたので、こちらは小説になった。

    逆かと思ったわ。「おれもグルメコンテンツやってみたい」かと。

    でも、結果、良いものが出来てる。

    22 min
  • 村上春樹著『国境の南、太陽の西』感想 こんなに胸糞悪い文学久しぶり

    村上春樹の中でも、かなり面白く、そして胸糞悪い長編ですね。

    あの日なら、僕はすべてを捨ててしまうことができた。仕事も家庭も金も、何もかもをあっさりと捨ててしまえた。――ジャズを流す上品なバーを経営し、妻と二人の娘に囲まれ幸せな生活を送っていた僕の前に、十二歳の頃ひそやかに心を通い合わせた同級生の女性が現れた。会うごとに僕は、謎めいた彼女に強く惹かれていって――。日常に潜む不安と欠落、喪失そして再生を描く、心震える長編小説。

    多分、全然胸糞悪くならない人もいるんだろうけど、あたくしには全く不愉快そのものでした。理由を後述します。

    位置: 463

    僕の読んでいる本や、僕の聴いている音楽を彼女はほとんど理解しなかったと思う。だからそのような領域のものごとについて僕らが対等の立場に立って語りあうことはまずなかった。そういう点では僕とイズミとの関係は、島本さんとの関係とはずいぶん違っていた。

    イズミ、最初から当て馬感すごいんですよね。島本さんの代替え感が拭えぬどころか、そのもの。島本さんに比べると美女ではないという設定も、底意地悪く感じるのはあたくしだけかな。

    位置: 511

    「ごめんね」と彼女は言った。
    でもそのかわりに彼女は僕のペニスを口に含んで、舌を動かしてくれた。彼女がそれをしてくれたのは初めてのことだった。彼女の舌が何度か僕の亀頭の上を這うと、僕は何かを考える余裕もなくすぐに射精してしまった。

    春樹作品に出てくる女性、かなり口淫に積極的問題、ある。

    そこに春樹の個人的な性嗜好がにじみ出ていて、あんまり気持ちのいい気がしない。

    位置: 722

    僕と彼女はたぶんそのような関係を何ヵ月か息つく暇もなく夢中になって続けたあとで、どちらからともなく遠ざかっていっただろうと思う。何故ならそのとき僕らがやっていたのは疑問をさしはさむ余地もない、きわめて自然で当然な行為であり、必要な行為だったからだ。愛情や罪悪感や未来といったようなものがそこに入り込む可能性は最初から閉ざされていたのだ。

    だから許される、とは一言も言っていないが、開き直ってるという印象ではある。きわめて自然で当然だとしても、罪悪感が入り込む可能性がないというのはあまりにサイコパス過ぎやしませんかね。

    位置: 739

    僕は彼女になんとか説明をしようと試みた。できるだけ正直に、丁寧に言葉を選んで、僕は自分の気持ちをイズミに伝えようとした。僕と彼女の従姉とのあいだに起こったことは決して本質的なことではないのだと。それは本来の道筋で起こった出来事ではないのだと。それは一種の物理的な吸引力のようなものであって、僕の中には君を裏切ったというやましささえほとんどないんだ。そのことは僕と君の関係に対しては何の影響力も持たないんだと。
    でももちろんイズミはそんなことは理解しなかった。そして僕のことを汚らしい噓つきだと言った。それはたしかにそのとおりだった。

    認めてんじゃん。やっぱサイコパス感あるよね。「常識ではそうなんだろうな」という意識がありながら、一応言い訳はするあたり、みっともない。

    位置: 1,180

    僕は妻が妊娠しているあいだに何度か軽い浮気をしたことがあった。でもそれは深刻なものではなかったし、長くも続かなかった。僕は一人の相手とは一度か二度しか寝なかった。多くてせいぜい三度だった。正直に言って、僕には自分が浮気をしているという明確な自覚すらなかった。僕が求めていたのは「誰かと寝る」という行為そのものだったし、相手の女たちもまた同じようなものを求めていたのだと思う。

    なんなら、「セックスをスポーツ感覚で楽しむ俺かっこいい」アピールすら感じる。

    位置: 1,326

    『ブルータス』に僕の名前と写真が載ったことで、それから十日ほどのあいだに何人かの昔の知り合いが僕を訪ねて店にやってきた。

    時代だ。雑誌に乗って一躍有名店。まだ雑誌が強かった頃だな、と思える。

    位置: 1,739

    「僕はそうは思わないね。君はいろんなものを生み出しているような気がするな」
    「たとえばどんなものを?」
    「たとえばかたちにならないものを」と僕は言った。僕は膝の上に置いた自分の両手に目をやった。

    詭弁にしては下手だ。これをかっこいいと思えるのかどうか。クソダセェと思うのはあたくしだけか。

    位置: 2,021

    「こんなことが起こるだろうというのはわかっていたのよ」と島本さんは自分に言い聞かせるように静かな声で言った。「私がいると、そのまわりでは決まってろくでもないことばかり起こるの。いつものことなの。私が関わるだけで、何もかも駄目になっていくの。それまでは何の問題もなく運んでいたものが、突然みんなうまく行かなくなるの」

    悲劇のヒロインに浸ってるなぁ。痛い女だ。

    位置: 2,378

    「ねえ島本さん、十六のときには、僕だって自分のことしか考えていなくて、女の子のスカートの下に手をいれることしか頭にないがさつな男の子だったと思うね。間違いなくそうだった」
    「じゃあ私たちはその頃に会わないでよかったのかもしれないわね」と島本さんは言って、にっこりと笑った。「十二で離ればなれになって、三十七でまたこういう風に出会って……、私たちにとってはそれがいちばん良かったんじゃないかしら」
    「そんなものかな」

    社交辞令が悲しいね。最大限ポジティブな社交辞令。その場の最大公約数を作ることに長けた大人のやつ。

    彼女はネイヴィー・ブルーのピーコートを着て、マフラーを首に巻いていた。その体には涙と哀しみの匂いが漂っていた。僕は今でもその匂いを嗅ぐことができた。隣では妻が静かな寝息を立てていた。彼女は何も知らないのだ。僕は目を閉じて首を振った。 彼女は何も知らないのだ。

    知らないと思っているのはお前だけだぞ、の件。しかし、春樹はこれを書いて何を伝えたいんだろうか。男のうぬぼれ?

    位置: 2,613

    普通の人間はね、満員電車に揺られて毎日会社に行って、出来るかぎりの残業をしてあくせくと一年間働いたって、八百万を稼ぐのはむずかしいんだ。僕だって八年間そういう生活を続けていた。でももちろん八百万なんていう年収は取れなかった。八年間働いたあとでも、そんな年収は夢のまた夢だった。君にはそれがどういう生活なのかきっとわからないだろうね」
    有紀子は何も言わなかった。彼女は唇を固く結んで、テーブルの上の皿をじっと見ていた。僕は自分の声がいつもより大きくなっていることに気がついて、声を落とし

    こいつ、挙句の果てに妻に説教。そりゃ、倫理的にどうなの、というのはあるけど、だったら浮気は倫理的にOKなのか、というダブスタもある。そりゃ全然別だよ、というのは昭和では通用したかもしれないけどね。

    位置: 2,652

    でももちろん僕は何も言わなかった。有紀子に今そんなことを打ち明けたところで、何の役にも立ちはしない。おそらく我々全員が不幸になるだけだ。

    そういう場面、ある。若いときはそれでも「打ち明けたい」という気持ちに勝てず、その後のことを考えずに打ち明けたりしてた。若かったなぁ。

    位置: 2,667

    島本さんのイメージは娘たちのそれよりもずっと強いものだった。島本さんのことを考え始めると、もう他の何かを考えることはできなくなった。

    倫理を語る資格なし。分かるけどね、若いときはそんなこともあった。

    位置: 2,739

    「ごめんなさい、とにかく。何か連絡くらいするべきだったのね。でも私は、ある種のものは手つかずにしておきたかったの。完全なまま保存しておきたかったの。私はここに来るか、あるいはここに来ないかなの。ここに来るときには私はここに来る。ここに来ないときには──、私は 余所 にいるの」

    落語じゃないんだからさ。いただきますればいただきます、いただきませんければいただきません。そんな身勝手な生き方を良しとして、厚顔無恥に生きていく。そんなの嫌だわ。

    位置: 2,890

    「そしてある日、あなたの中で何かが死んでしまうの」
    「死ぬって、どんなものが?」
    彼女は首を振った。「わからないわ。何かよ。東の地平線から上がって、中空を通り過ぎて、西の地平線に沈んでいく太陽を毎日毎日繰り返して見ているうちに、あなたの中で何かがぷつんと切れて死んでしまうの。そしてあなたは地面に鋤を放り出し、そのまま何も考えずにずっと西に向けて歩いていくの。太陽の西に向けて。そして憑かれたように何日も何日も飲まず食わずで歩きつづけて、そのまま地面に倒れて死んでしまうの。それがヒステリア・シベリアナ」

    シベリア人のヒステリー?よく分かんねぇ。一変、シベリア人に怒られたほうがいい。

    位置: 2,931

    でももしあなたがそういうのは嫌だ、二度と私にどこにも行ってほしくないというのであれば、あなたは私を全部取らなくてはいけないの。私のことを隅から隅まで全部。私がひきずっているものや、私の抱え込んでいるものも全部。そして私もたぶんあなたの全部を取ってしまうわよ。全部よ。あなたにはそれがわかっているの? それが何を意味しているかもわかっているの?」
    「よくわかってるよ」と僕は言った。

    本当に、本当に、本当に覚悟は出来ているのか。「よくわかってるよ」というセリフが空虚にしか思えない。

    位置: 2,946

    そしてその部分はいつも飢えて、乾いているんだ。その部分を埋めることは女房にもできないし、子供たちにもできない。それができるのはこの世界に君一人しかいないんだ。君といると、僕はその部分が満たされていくのを感じるんだ。そしてそれが満たされて初めて僕は気がついたんだよ。これまでの長い歳月、どれほど自分が飢えて渇いていたかということにね。僕にはもう二度と、そんな世界に戻っていくことはできない」

    そこまで言って委員会だよ。全く。

    「じゃあそんな世界に戻らなくちゃならなくなったら死ねよ」と言いたくもなるよね。

    位置: 3,045

    少しあとで僕は彼女の口の中に射精し、彼女は手を動かすのをやめて目を閉じた。そして僕の精液を最後の一滴まで舐めて吸った。
    「ごめんね」と島本さんは言った。
    「謝ることはないよ」と僕は言った。
    「最初はこうしたかったの」と彼女は言った。「恥ずかしいけど、一度こうしないことには、どうしても気持ちが落ちつかなかったの。これは私たちにとっての儀式みたいなものなの。わかる?」

    分かるわけない。男の身勝手な欲望を島本さんに体現させているようで、心底気持ち悪い。

    位置: 3,181

    仕方ないわよ。だから他の女の人を好きになったことで、私はあなたを責めているわけじゃないのよ。本当のことを言うと、怒っているわけでもないのよ。不思議だけど、そんなに腹も立たないの。私はただ辛いだけよ。ものすごく辛いだけよ。そういうことになったらたぶん辛いだろうなとは想像してはいたけれど、想像をはるかに越えて辛いわね」
    「悪かったと思う」

    「女をつらい目に遭わせる、おれカッケー」的な「やれやれ」感をヒシヒシと。あたくしが斜に構えすぎてるのかな。

    位置: 3,203

    それから二週間ばかり、僕は果てしない記憶の再現の中に住みつづけた。僕は島本さんと過ごした最後の夜に起こったことを、ひとつひとつ思い出し、その中に何かの意味を見いだそうとつとめた。

    恋愛は追うほうが楽しい、っての、しみじみ思うよね。そして追われる側になるのを嫌う。こいつ、ほんとクズやで。

    位置: 3,273

    結局のところ何もかも演技に過ぎなかったのではないかと思うこともあった。僕らは自分たちに振り当てられた役柄をひとつひとつこなしてきただけのことではなかったのか。だからそこから大事な何かが失われてしまっても、技巧性だけでこれまでと同じように毎日を大過なく過ごしていくことができるのではないか。そういう風に考えると辛かった。このような空虚で技巧的な生活はおそらく有紀子の心を深く傷つけていることだろう。でも僕にはまだ彼女の問いに答えることができなかった。

    結論を先延ばし。ハーレムアニメの主人公のmoveですよ。クソ野郎です。

    位置: 3,363

    でも今こうしてイズミを前にすると、僕には彼が言わんとしたことをはっきりと理解することができた。 彼女の顔には表情というものがなかったのだ。いや、それは正確な表現ではない。おそらく僕はこう言うべきだろう。 彼女の顔からは、 表情という名前で呼ばれるはずのものがひとつ残らず奪い去られていた、と。

    そして昔の女を見出し、「おれのせいで表情がなくなった」と悦に入る。どうしようもない。

    位置: 3,369

    彼女はおそらく僕を見つめていたのだと思う。

    女は上書き保存。忘れてるよ。

    位置: 3,498

    「でもとにかく私が死ななかったのは、私がとにかくこうして生きていられたのは、あなたがいつかもし私のところに戻ってきたら、自分がそれを結局は受け入れるだろうと思っていたからなのよ。だから私は死ななかったの。それは資格とか、正しいとか正しくないとかいう問題じゃないの。あなたはろくでもない人間かもしれない。無価値な人間かもしれない。あなたは私をまた傷つけるかもしれない。でもそんな問題じゃないのよ。あなたには何もきっとわかってないのよ」

    そして有紀子には母性を見出す。ママと恋人と元カノに囲まれて、幸せにくらしましたとさ、てか。

    31 min

About ちょいと小噺!

From the publisher's feed

おじさんの趣味のポータルサイト