1.論文のタイトルAntibody-Drug Conjugates: The Toxicities and Adverse Effects That Emergency Physicians Must Know
2.CitationAnn Emerg Med. 2025; 85: 214-229.
論文内容の要約
抗体薬物複合体(ADC)は、特定の抗原を標的とするモノクローナル抗体、リンカー、そして細胞毒性を持つ薬剤(ペイロード)の3つの要素で構成される新しいタイプの抗がん剤です。がん細胞を特異的に攻撃することで全身への毒性を抑えるよう設計されていますが、使用の拡大に伴い、救急外来で管理が必要となる特有の副作用や合併症が報告されています。救急医は、これらの薬剤が引き起こす一般的および希少で深刻な毒性を早期に認識し、適切に対処することが求められます。
間質性肺疾患(ILD)および肺臓炎は、ADCによる死亡の主要な原因の一つです。特にトラスツズマブ デルクステカン(T-DxD)やミルベツキシマブ ソラブタンシン(MIRV)で多く見られ、乾性咳嗽、呼吸困難、発熱などの症状を呈します。診断には高分解能CTが有効であり、管理には酸素投与、換気補助に加え、ステロイド治療が不可欠です。
肝毒性については、ゲムツズマブ オゾガマイシン(GO)やイノツズマブ オゾガマイシン(InO)において、**肝類洞閉塞症候群(SOS)**という致死的な合併症が知られています。急速な体重増加、腹水、黄疸、肝腫大が初期症状として現れるため、救急外来での輸液管理や、重症例に対するデフィブロチドの早期投与が重要です。
神経学的および精神的合併症として、ブレンツキシマブ ベドチン(BV)やポラツズマブ ベドチン(Pola)では、ウイルス感染による**進行性多巣性白質脳症(PML)**が報告されています。認知機能低下や運動障害を伴い、進行性の悪化をたどります。また、ベドチンを含む薬剤では末梢神経障害が高頻度で見られ、デュロキセチンによる症状緩和が推奨されています。
代謝・その他の合併症では、エンフォルツマブ ベドチン(EV)やBVによる高血糖および糖尿病性ケトアシアシドーシス(DKA)に注意が必要です。糖尿病の既往がない患者でも発症する可能性があるため、標準的なDKA治療と水分補給を行います。その他、MIRVやチソツマブ ベドチン(TV)による角膜症や視力障害、GOやPolaによる腫瘍崩壊症候群(TLS)、輸液反応(アナフィラキシー様反応)、心機能低下、重篤な出血などが救急外来で遭遇しうる副作用として挙げられています。
ADCの毒性は、使用される抗体、リンカーの安定性、ペイロードの量や種類によって異なります。救急医は、患者がADC治療を受けていることを把握した際、標準的な処置を行うだけでなく、腫瘍医と密に連携し、特定の薬剤に応じた精密な診断・介入を行うことが救命に繋がります。