Lithium-associated adverse drug reactions: characteristics, possible etiologies, and preventability
Clinical Toxicology, 2026, DOI: 10.1080/15563650.2026.2685018
本研究は、リチウム治療に伴う副作用の重症度、転帰、および予防可能性を明らかにすることを目的とした後方視的横断研究である。タイのバンコクにある三次救急大学病院において、2012年から2022年の間に血中リチウム濃度が治療域(1.2 mmol/L)を超え、副作用を呈した15歳以上の患者91名を対象とした。副作用の予防可能性は、3名の独立した評価者(内科レジデント、精神科医、臨床薬剤師)が6段階のリッカート尺度を用いて評価し、4〜6点を「予防可能群」、1〜3点を「予防不可群」として分類した。
解析の結果、対象者の64.8%(59名)が予防可能群に分類された。予防可能群は予防不可群と比較して、年齢が有意に高く、ベースラインの推定糸球体濾過量(eGFR)が低く、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった併存疾患を多く持っている特徴があった。予防可能と判断された主な原因は、血中濃度のモニタリング遅延(55.9%)、脱水(39.0%)、および薬物相互作用(17.0%)であった。一方、予防不可群で最も多かった原因は、リチウムの用量調整(37.5%)であった。
副作用の症状としては神経学的影響が最も多く、震え、構音障害、意識混濁などが報告された。重症度の評価では、予防可能群の方が予防不可群よりも中等症および重症の割合が有意に高かった。本研究は、リチウムによる副作用の多くが予防可能であり、特に高齢、腎機能低下、併存疾患を持つ患者に対して、定期的なモニタリング、相互作用の確認、脱水予防の指導を徹底することで、重篤な転帰を回避できる可能性を示唆している。
内的妥当性本研究の強みは、副作用の予防可能性や重症度の判定において、専門職(医師、薬剤師、毒性学者)による独立したレビューと、検証済みの評価尺度(リッカート尺度、Modified Hartwig and Siegel scale、WHO PSS)を用いている点である。評価者間の一致率も高く、判定の客観性が確保されている。制限事項としては、単一施設での後方視的チャートレビューであるため、カルテの記載漏れやデータの欠落がある可能性を排除できない。また、サンプルサイズが91例と比較的少数であるため、統計的な検出力が十分でない可能性がある。自殺企図による過量服用例が除外されているため、意図的な中毒における予防可能性については評価されていない。
外的妥当性タイの三次救急病院という、専門家によるコンサルテーションが24時間体制で可能な環境で実施された研究である。そのため、リソースの限られた一般病院や、異なる医療提供体制を持つ地域にそのまま結果を一般化できるかは慎重な検討が必要である。また、対象患者の94%が特定の医療機関の受診者であるため、人種や地域的な偏りがある可能性がある。しかし、高齢者や腎機能障害がリスク因子であるという知見は、リチウムの薬物動態に基づいた普遍的なものであり、臨床的な注意喚起としての汎用性は高い。今後、より広範な地域や施設での前向きな検証が待たれる。