ハナボウズの山ログ

ハナボウズの山ログ

By ハナボウズScienceNatural Sciences
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ハナボウズの山ログ episodes

  • 反省と感謝の1週間

    畑でスタックしていた牧場主のホイールローダーを、ようやく救出できた。土木屋さんのおかげで作業は15分で片がついた——けれど、急いで返しに行ったせいで、腹についた黒土を落とすのを忘れていた。指摘されてはじめて気づいた。「早く返す」という気持ちだけが先走って、丁寧さが追いつかなかった。動噴で泥を落とし、洗い直して届けた。リース料の一部を申し出たら、穏やかに断られた。

    Kの石のベンチで今日を振り返りながら、ふと気づいたことがある。アストランティアが今年やたら早い。来週には切れそうだ。セダムハウスの電照の光が、隣のハウスにも届いていたんじゃないか——そんな仮説が浮かんだ。植物は、見ていると勝手に問いを投げてくる。

    水場に近づいたら、ヤゴがいた。まだいる。春の命数は、人の焦りとは無関係に進んでいく。

    8 min
  • 山桜の下に作物が植わっている

    四月の曇り空の下、中島はハウスでアルケミラとアストランティアに水をやりながら、今年と昨年の植物の伸びの逆転に気づく。Kの露地畑では山桜が二分咲き、その後ろにはスタックしたままのWA100。

    春の景色と積み残した仕事が、静かに並んでいる。

    そして今朝、録りためた山ログをまっさAIに読み込ませたら、思いのほかいい返答が返ってきた。その対話の一部を下に貼り付ける。

    気分スコア2。疲れた日も、ログは続く。


    【以下、私とまっさAIとの会話】

    私「今日は雨降りそうだよ」

    まっさAI「そうか、雨か。朝からハウスの外が白っぽくて、霧なのか雲なのか判断つかない感じがあった。雨の日はハウスの中の作業が捗るようで、でも頭のどこかはずっと外の音を聞いてる気がする。土が水を吸う音って、実際には聞こえないはずなのに、なんとなくわかる気がするのが不思議だ。雨の日、あなたは何をしてる?」


    私「ビニールハウスの中の草取りしようかな」

    まっさAI「いいな、雨の日の草取りは外の音がハウスの屋根でまろくなって、なんか集中できるんだよな。セダムの株元とかに細い草がちょこちょこ入り込んでくると、あいつらも生きようとしてるなあって思いながら抜く。雑草も一次資料の一部というか、この圃場で何が生えてきたかって記録にもなりうるんだけど、まあ邪魔なもんは邪魔だ。草取りしながら、何か考えごとしたりする?」


    私「草取り中はポッドキャスト聴くことが多いよ。考えていることもあるけど何考えていたか、今はパッと出てこないや」

    まっさAI「わかる、あの感じ。手が動いてる間に頭が半分どこかに行ってて、でも後から『あれ、何考えてたっけ』ってなる。ポッドキャストと自分の思考が混ざり合って、どこまでが聴いた話でどこからが自分の考えかも曖昧になってたりする。草取りしながら浮かんだことって、記録しないと霧みたいに消えていくんだよな。俺が音声で山ログ残そうとしてるのも、たぶんそういう消えていくものへの抵抗なんだと思う。消えてった思考の中に、残しておきたかったやつがあったりする?」


    私「山や畑、ポッドキャストから取り込んだ情報が圧縮されてほんの一部分だけ澱のように記憶に積み重なっていく感じかな」

    まっさAI「そうそう、その澱って言葉がしっくりくる。全部は残らないけど、残ったものだけが本当に自分の中に落ちてきたやつなんだろうな。ポッドキャストの話も、霧の中で見た景色も、草取りしながらぼんやり考えたことも、99%は流れていって、沈んだ1%が次の何かの土台になっていく感じ。それって植物の種みたいなもんで、全部が発芽しなくていい、むしろしないほうが自然なのかもしれない。200年後の人が俺の山ログ読んでも、澱の部分しか伝わらないんだろうなとも思う。その澱って、どんなタイミングで『あ、これ残ったな』って気づく?」

    7 min
  • マキタの充電式チェーンソー

    チェーンソーのボタンを押す朝がある。エンジン式のような儀式は要らない。ただ音が立ち上がり、気持ちが少しだけ前へ動く。

    今回のログは、G圃場でのディアボロ(フィソカルパス)の剪定作業。昨年の丸坊主から、今年は切り株状に整える。先輩の言葉が手に宿っている。足元では、先週挿した赤弦240株の芽がすでに動き始めていた——一度雪に生けてから挿した方が活着がいい、という仮説をそっと抱えながら。

    昨日はPTA総会。中之条町の「メディアコントロールチャレンジ」について話し合われた。禁止ではなく、付き合い方の話。我が家では将棋とボードゲームが動いている。37歳、子供相手に本気になってしまう自分が少し可笑しい。

    林が近い。鳥の声が四方から来る。録っていなければ、気づかなかったかもしれない。

    9 min
  • 山の残雪は馬の形に見える

    Kの石のベンチに腰を下ろす。右手には牧場長から借りてきたWA100がスタックしていて、今週金曜に引き上げ作業の重機が揃う見通しが立った——という安堵と、また別の重さが同時に肩に乗ってくる月曜日の朝。

    昨日はホンダさんからいただいたアカツルをG(ゴリラの岩の畑)に全部挿し終えた。3年後以降に冬季作物として回収できれば、という話。今日は露地のセダム防除を開始して、ヒメヒマワリとヘレニウム(リトルヘンリー)の移植という新しい課題も積み上がった。でも優先順位は決めた。セダムとアルケミラを先に。

    久しぶりに浅間山をちゃんと見たら、残雪が馬の形になっていた。山桜も綻び始めていて、季節が急いでいる。午後はPTAの総会で、前年度会長として引き継ぎの挨拶をする。その前に坊主頭を刈って、シャワーを浴びる。おじさんなりの矜持がある。

    7 min
  • 石のベンチ


    晴れた朝、K畑のハウス東側、石のベンチに腰を下ろした中島の視界の右手には、牧場から借りた小松のWA100が、ぬかるみに沈んだまま動かずにいる。一昨日の雨の中で起きたそのスタックは、まだ解決されていない。見るたびに、少し重たいものが胸に落ちてくる。


    ただ、怪我はなかった。ヤマギワさんも、中島も、無事だった。その事実をひとつの着地点として、中島は今日の畑へと向かう。


    昨日は、そのホイールローダーを横目に見ながら手を動かした。ヒメヒマワリをK路地に1条。ルドベキア・リトルヘンリーを約50株、丁寧に株分けして植え付けた。アムソニア・フブリヒティを40株ほど、アガスターシェも半分に割って増やし、畑の奥へと並べた。株が落ち着くまで、怪しそうなものだけジョロで手灌水した。今朝も同じように見てまわった。


    今日はYのスギナ対策の除草を終え、セダムの灌水をしながら、まだ植え付けられていない実験株の行き場を考えている。それから、道路に残った土も片付けなければ。近所の小林さんに指摘されて、気づいた。トラブルの混乱の中で、手が届いていなかった。


    先のことを考えると、少し憂鬱にもなる。でも体は動いている。風は気持ちいい。気分は3。それで十分、畑へ戻る。


    7 min
  • ホイールローダーが畑でスタックしたよ

    午後、雨が戻ってきた。

    牧場から借りたホイールローダー

    コマツのWA100、何トンあるんだろう、でかい機械だ——で堆肥を畑に入れるところまでは、うまくいっていた。バケットで直接圃場に突っ込んで、量は落とせた。問題はその帰り道だった。水場と畑と水源が作る三角形の中で展開しようとしたとき、ホイールローダーが畑の道でスタックした。

    気分スコアは「1」。テンションは、なぜか高い。

    トラブルに見舞われると人間はそわそわする、と中島は自分を観察した。焦っているのに頭は妙に冴えていて、できることとできないことの仕分けが素早くなる。まず近所のヤマギワさんに電話した。除雪作業を担ってくれている、いつかブルーベリー農園をやりたいと移住してきた人だ。見てもらい、牧場まで一緒に戻り、牧場主と話した。7トンのユンボがある、という。ヤマギワさんがそのユンボを運転してスタック現場まで来てくれることになった。

    待ち時間に、中島は音声を録っている。スタックしたホイールローダーの前で、雨の中。人間にできることはもうあまりない。だからこそ、このそわそわした状態の自分を記録しておこうと思った。スタックした人が聞いたら怒るかもしれない、とも思いながら。

    ヤマギワさんが来るまでの間、ホイールローダーの移動中に路上にこぼれた堆肥を、ほうきと手で片付けに行くことにした。今の自分にできること、それは道を掃除することだった。寒い。雨だ。


    5 min
  • やる気の出し方

    朝は雨だった。だから今日はゆっくりできると思っていた。ところが空はそんな段取りを無視して、急に晴れ始めた。中島は慌てて畑へ向かい、ハウスを開け、アルケミラへ水をやった。最悪を避けるために、とにかく体を動かす。それだけのことだったが、動いているうちに不思議と気分が上向いてくるのがわかった。

    やる気というのは、待っていれば湧いてくるものではないのかもしれない。昨日のK圃場での掘り上げ作業で残った筋肉痛が、むしろ心地よかった。今日の出発点は気分スコア「5」。

    アムソニア・フブリヒティ(イトバチョウジソウ)という宿根草がある。セリでも市場でも評価が高く、おぎはら植物園を訪れたとき、この苗だけが売り切れていた。面白い品目はすぐ真似される。圧倒的な量と質で先行するか、それとも「その時期、その市場に自分だけが存在する」ピンポイントの品目を持つか——考え始めたところで、自分で笑った。経営語り、だるいな、と。

    バプテシアの移植には手こずった。2年据え置いた株は根がマダコのように地中へ広がっていた。掘り上げて割り、Kの2棟目セダムハウス前に一列。その隣では、前の地主が植えたと思われる品種不明の芍薬が、ピョコピョコと顔を出していた。誰かが丁寧に育てた植物が、土の中でずっと待っていたかのように。

    午後は牧場からもらった堆肥をYのハウスへ運ぶ。その段になって気分が「4」に下がった気がする——と苦笑した。けれど、体を動かせばやる気は戻ってくる。今日それはもう、経験として知っている。

    9 min
  • ステレオ録音にしてみた

    四月九日の朝、霜柱が残っていた。夜が晴れれば地は冷える。春はまだ、仕事の途中だ。

    前日の夕方、アルケミラとセダムへの防除を終えた。アルケミラにはもう花茎が上がってきている。花をかじられる前に手を打つ。段取りは、いつも前日から始まっている。

    今日は妻と二人で、試験栽培してきた苗を土の中から掘り起こす日。ヒオウギ、バプテシア、アガスターシェ。調子がよかったものを選んで、次につなぐ。午後はG圃場で挿し木の予定。

    Kの圃場で昔、堆肥を入れすぎた話をした。就農二、三年目のこと。ホイールローダーで何杯分も。その冬の土壌診断でEC値が跳ね上がって、驚かれた。数値は正直だが、正直すぎることもある。今は土がふかふかだから、それでいい。

    圃場を歩いていたら、イノシシの糞が落ちていた。昨日採ったヤゴは、画像検索でオニヤンマ系とわかった。この山では、人間だけが主役ではない。

    今回から録音をステレオに切り替えた。ノイズキャンセルが鳥の声まで消していた、という気づきから。二百年後に誰かがこの音声を聞くとき、その朝に何が鳴いていたかも、記録のうちだと思っている。

    気分は4。コーヒーをゆっくり飲める朝だった。

    6 min
  • 透明マント

    四月の風は冷たく、ダウンベストをパーカーの下に重ねて畑へ向かう。アストランティアに水をやり、枯れ草を刈り払い、体を動かすうちに気分が2から3へ上がっていく。農作業には、薬より早く効くものがある。

    Kのハウスに入るたびに、気づけば草を1本抜いている。特に決めたわけじゃない。ただ来るたびに1本。いつの間にかそれが習慣になっていて、いつの間にかハウスは綺麗になっていた。意志よりも、動線の方が人を動かす。

    水場でヤゴを見つけた。大きい。オニヤンマかギンヤンマか、まだわからない。去年の夏、帽子にオニヤンマの模型をつけてアブ対策をしていた話をする。効果はあったかもしれない。でも正直なところ、もっとも効果を感じたのはフマキラーのベープだった。吸血昆虫の「索敵」を妨げる成分が入っているらしい。見えているのに見えない。透明マントだ、と思った。

    トラクターを持っていない。近所の同期や地主さんの形見のボロボロの3台を、タイミングよく借りながらこの5年をやってきた。使いたい時期がかぶる不便はある。でも2300万の投資をしていない、という事実もある。「持たないこと」も、れっきとした選択だ。

    昨日は妻と二人で、イノシシに掘り返された軽の日扇を掘り上げた。早稲より奥手の方が球根の形が綺麗だった。その差を手で確かめながら、1芽ずつ植え直す。農業の判断は、いつもこういう細部の感触からできている。

    声を録り終えたら、図書館の鳥図鑑の返却期限が今日だと思い出した。録っていなかったら、きっと忘れていた。偶然のありがたさ、と中島は笑う。


    ヤゴの写真を画像検索した、オニヤンマ科かもしれない。

    9 min
  • 町内会に参加してきた

    土日、畑に行けなかった。でもそれには理由がある。

    ナマス地区の町内会に出席していた。昨年度の会計報告、今年度の草刈り計画、そして飲み会。今年は町営住宅の班長も引き受けることになったので、先人たちに話を聞く絶好の機会でもあった。「地域の人に敵だと思われないためにも、顔を出すのは大事」——農家としてだけじゃなく、住民としての中島の話。

    そこで見た光景が、ちょっと頭に残っている。女性たちがお茶を配っていた。ペットボトルのお茶も別にあるのに、煎茶を入れて席まで運ぶ。会議には加わらない。近所のゆうきさんによれば、数年前まで女性は会食の席自体がなかったという。良い悪いじゃなくて、「2026年4月のこの地区では、そういうことがあった」という記録として残しておきたい話。

    都会育ちの妻に話したら、すごく驚いていた。そのギャップも含めて、記録。

    ハウスに戻ると県の普及員・もてぎさんが来ていて、セダムの様子を一緒に確認。エリンギウムの苗を増やしたい話もした。Yハウスでは土起こし前の散水作業。黄色い花が顔を出し始めている。小ネギみたいな芽も伸びてきた。

    「1人だと疲れちゃった」と正直に言える日が、案外いい日だったりする。

    10 min

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​群馬県中之条町、標高1000mの山の中ハーブや宿根草を育てる「ハナボウズ」園主(中島)が、日々の農作業の合間に、山の音と言葉を記録しています。