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Jennykaede episodes

  • 松浦弥太郎《日々の100》——002
    《日々の100》 松浦弥太郎

    002 ヒノキの漆椀(うるしわん)と匙(さじ)

    カリフォルニア州東部のシエラ・ネバダ山脈を貫く(つらぬく)ジョン・ミューア・トレイルを歩いた。ジョン・ミューア・トレイルとは、シエラ・ネバダの大自然を歩き、その美しさに魅された人、ジョン・ミューア(1838-1914年)の自然保護思想と、国立公園の父としての偉業〔いぎょう)を記念してつくられた、およそ三百四十キロにおよぶ登山道〔とざんどう)である。標高四千メートル級の山岳地(さんがくち)を縦走(じゅうそう)するアメリカを代表するトレイルのひとつだ。

    トレッキングの行程(こうてい)は四泊五日(よんぱくいつか)。キャンプで自炊(じすい)するために、テント、シュラフ、着替え、食料といった二十キロ近い生活道具をバックパックに詰めて、一日に最低十五キロを歩いた。山歩きやキャンプは得意ではない。得意ではないから不安が募った(つのった)。何かお守りになるような道具を持って行きたいと思った。軽くて、壊れにくく、手仕事の暖かさがあり、美しさがあり、毎日使うものと悩んだ末、漆塗りの椀と匙を選んだ。

    漆椀の木地(きじ)は、元来(がんらい)ヒノキで作られるのが上等であるが、ヒノキで作れる職人が少なく、現在はほとんどの漆椀がケヤキを材料にしている。そうと知ると、ヒノキの漆椀と匙が無性にほしくなった。探し回ったところ、漆椀は佐川泰正(さがわやすまさ)さん作、匙は箱瀬淳一(はこせじゅんいち)さん作と、漆塗職人であるふたりを知った。僕はヒノキの漆椀と匙を持って山へと出発した。

    3 min
  • 坂本真绫欧洲游记——From Every Where 2-8
    【2日目】-8

    「真綾さんは、会社とか、そんなに長くお休み取れたんですか?」
    「そうですね、まあなんというか自由業なので、ある程度は融通がきくというか……」
    「この後、どこへ行くんですか?」
    「次は明後日の朝チェッコへ行くことだけは決まってて。そこから先はノリで。最後はポルトガルまで。」
    「ポルトガル!って、どこ?」
    「あはは、そうだよね。私もこの前まで知らなかった」
    この先、こうして誰かとテーブルを共にすることが、あと何回くらいあるのだろう。夜の9時過ぎ、外がようやく暗くなり始めたのを見て席を立った。ヨーロッパは今、日がとても長い。
    「気をつけて旅を続けてくださいね」
    「帰国したらお店にケーキ買いに行くね」
    ルーブル美術館の前の広場で一緒に写真を撮って、お互い反対方面行きのメトロに乗るため向かいのホームで手を振り合い別れた。うん、良い夜だった。メグミさんがいてくれたおかげで、長い長い一人きりの旅がゆるやかに、そーっと始まって、寂(さみ)しさを感じずにすんだ。彼女のこれから始まる新生活が素敵なものでありますように。と、心から思った。夜のメトロは人が少なくてちょっぴり表情が違う。しっかり気を抜かないでホテルまで帰らなくちゃと思っていたら、どうも見覚えのない駅名が続く。
    慌てて路線図を確認すると、どうやら逆方面に間違えて乗っているらしい!うわー、てことはメグミさんも!?悪いことしてしまったなあ……昨日からたった2日間の間に、私ったらいったい何回道や路線を間違えているかわからない。こんなに注意深くしているつもりなのに、ほんと方向音痴なんだよなあ。先が思いやられる。
    ホテルに戻ったのは夜の11時前。この旅のルールその2、暗くなってからはひとりで外を出歩かない。を、いきなり破った。反省。これが最初で最後。

    4 min
  • 日本の昔话14——じっと見つめていました
    むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
     そのきっちょむさんが、まだ子どもの頃のお話です。
     ある秋のこと。
     家の人はみんな仕事に出かけるので、きっちょむさんがひとりで留守番をすることになりました。
     出かける前に、お父さんが言いました。
    「きっちょむや、カキがもう食べられる。あした木から落とすから、今日は気をつけて見ていてくれ」
    「はい。ちゃんと見ています」
     きっちょむさんは、元気な声で返事をしました。
     でも、食べられるカキがいっぱいあるのに、だまって見ているきっちょむさんではありません。
     お父さんたちの姿が見えなくなると、さっそく村の中を走り回りました。
    「おーい、うちのカキがもう食べられるぞ。みんな食べに来い」
     これを聞いた村の子どもたちは、大喜びできっちょむさんの家にやってきました。
     そして、長い棒でカキを落とすと、みんなでお腹いっぱい食べてしまったのです。
     さて、夕方になってお父さんが家に戻ってくると、きっちょむさんは柿の木の下にすわっていました。
    「おまえ、一日中、そうやっていたのか?」
    「はい。だって、気をつけて見ていろと言うから、ジッと柿の木を見ていたんです」
    「そうか。えらいぞ」
     感心したお父さんが、ふと、柿の木を見上げてみると、カキの実がずいぶんとへっています。
    「おや? カキの実がずいぶんへっているな。これは、誰かが取っていったに違いない。おい、きっちょむ、これはどうしたことだ?」
     するときっちょむさんは、へいきな顔で言いました。
    「はい、村の子どもたちが次々と来て、棒を使ってカキの実をもいでいきました。私は言われたとおり、気をつけて見ていたからまちがいありません」
    「とほほ。・・・カキ泥棒が来ないよう、気をつけて見ていろと言ったのに」
     お父さんはそう言って、ガックリと肩を落としました。

    おしまい

    3 min
  • 松浦弥太郎《日々の100》——001
    《日々の100》
    松浦弥太郎

    001 レシピカードボックスと5x3カード

     無くてはならない日用品のひとつに、5x3(インチ)カードがある。
     
     トランプのカードのような硬さがあるメモ用紙だ。5x3カードは、アメリカでは誰もが日常的に使っているが、日本で使っている人を見ることはない。こんなに便利なのに、なぜ誰も使わないのだろう。
     
     たとえば使い方はこうだ。今日一日の予定、もしくはやるべきこと、忘れてはいけないことを、朝一番にこのカードに書いておいてポケットに入れておく。カードだから、折れたり、くしゃくしゃになったりはしない。仕事をしながらそれを確認し、終わったことからペンでチャックしていく。そしてまた、打ち合わせなどがあればノートではなく、このカードに必要事項を記入し、一枚で足りなければ二枚、三枚と書き足して、クリップやホッチキスでまとめておく。要するに、用件やプロジェクトを、ノートではなくこのカードに書き残していく。ノートに書いても、必要なときに書いた場所が見つけられなくて困ることがある。書いたカードは、丁度よく収まるレシピカードボックスに入れて、インデックスによって分類しておくと必要なときにすぐに見つけられて便利だ。

     僕は「idea」 「reminder」 「project」 「a day」 「word」 「etc」に分けてカードを管理している。
     
     5x3カードとスケジュール帳のみで、僕の仕事は充分足りている。

    3 min
  • 坂本真绫欧洲游记——From Every Where 2-7

    【2日目】-7

    それは我ながらすごく意外なことだった。だって普段なら、自分のペースを乱されることをとても嫌うのに。たとえ5分でも無意味な時間を過ごすことが許せなくて、だからいつもじっとしていられない。2つ以上のことを同時に進めていて当たり前。そんなせっかちな私が今は、来るかどうかもはっきり分からない人を、ただ待っている。それ以外にすることが何もない。だけど不思議と無意味だとは思えない。いや、とっても無意味だなあーと思っているのかもしれない。どちらにせよ、良い気分だ。
    「ごめんなさーい!!」
    メグミさんが来たのは7時半を過ぎてからだった。
    「キッチン用品とかを夢中で見て歩いてたらいつのまにかすごく遠くまで行ってしまってたみたいで、電話もなぜか繋がらなくて……!」
    申し訳なさそうに息を切らせて説明する彼女を、とっても愛らしいなと思った。
    「ぜーんぜん。なんかボーッとしてたら気持ちよかったー」
    待っていた時間は、今こうして彼女が来てくれたことより、一層素敵なものになった。
    「こっちのお菓子作りの道具ってすごくカワイイのがいっぱいあるんですよ。日本で買えるものもあるけど、こっちで買ったほうが断然安いんですよね」
    両手にたくさん袋を抱えてる。そっか、明後日の朝にはもう日本へ帰るんだもんね。まだ始まったばかりで先が長い私とは時間の捉え方が違う。私なんか今日、ほとんどぶらぶらしてただけで何もしていないもの。
    カフェのテラス席で夕食を食べた。彼女は26歳。歳よりも大人っぽく見えたのはきっと日々自分の腕を磨くことに向き合てきた、職人さんというお仕事のせいだろう。

    3 min
  • 日本の昔话13——運のいい鉄砲打ち
    むかしむかし、あるところに、腕のいい鉄砲打ちがいました。
     あるとき、鉄砲打ちが山へ出かけるしたくをして、家を出ようとすると、うっかり手が滑ってしまい、大切な鉄砲を石の上に落としてしまいました。
    「ああ! 鉄砲の先が曲がってしまった。・・・でもまあ、鉄砲の先が曲がっても、何か取れるだろう」
    と、そのまま曲がった鉄砲を持って、猟に出かけました。
     鉄砲打ちが出かけた山には大きな池があり、その池にはカモがいて、あちこちで羽を休めています。
    「ひい、ふう、みい・・・」
     数えていくと、全部で十六羽います。
    「まあ、これだけいれば、曲がった鉄砲でも一羽ぐらいは取れるだろう」
     そう思って、鉄砲打ちは一発撃ちました。
    ズドーン!
     すると、その鉄砲の玉はジグザグに飛んでいって、何と全部のカモに当たったあげく、岩に跳ね返って、やぶへ飛び込んでいきました。
    「こりゃあ、大漁だ! 曲がった鉄砲のおかげで、大もうけができたわい」
     鉄砲打ちは、ジャブジャブと池に入ると、十六羽のカモを残らずつかまえて、岸にあがりました。
     すると、ふんどしのあたりが、いやにムズムズします。
    「なんだ?」
     ふんどしをみると、大きなウナギとナマズが三匹ずつ、中であばれていました。
     ついでに、わらぐつの中もムズムズするので脱いでみると、中からカニやドジョウが出てきました。
    「何とも、こんな事もあるもんだな。さあ、もう帰るか」
     鉄砲打ちが引き上げようとすると、やぶの中で、何かが暴れています。
    「何だ?」
     見てみると、岩に跳ね返った鉄砲の玉が命中したクマが、苦し紛れに土を引っかいていました。
     クマが引っかいて出来た穴には、おいしそうな山イモがのぞいています。
    「ほう。ついでに、これも取っていこう」
     こうして鉄砲打ちは、山イモと、クマと、カニとドジョウと、ナマズとウナギと、十六羽のカモを背負って、山をおりていきました。

    おしまい

    4 min
  • 坂本真绫欧洲游记——From Every Where 2-6
    【2日目】-6

    何よりカルチャーショックだったのは、地下鉄の中まで犬を連れてる人がすごく多いこと。キャリーバッグに入れている人はほとんどいなくて、みんなリードをつけてそのまま歩かせて乗って来る。日本では盲導犬以外見かけない光景なので最初はかなりびっくりした。一度など、私が座っているボックス席の向かいの椅子に毛むくじゃらのモップみたいな犬を連れた女性がやって来たんだけど、そのモップ犬が私の靴の上にドカンと座ったのだ。「えーっ!」と、思わず声に出して言ってしまった。ありえない。私は動物が好きな方だからいいけど、世の中には嫌いな人もいるだろうし、アレルギーの人だって……でも飼い主の女性はまったく気にしないどころか、目を丸くしている私に、「うちの子かわいいでしょ」と言わんばかりにニッコリ笑いかけてきた。犬のほうもこっちを見上げ「お散歩嬉しいですー」みたいなのんきな顔をしてる。なんだか、細かいことを気にしている自分のほうがおかしいのかなという気になってくる。街中や駅のホームで立ってサンドイッチを頬張る人の多さも、私にはお行儀が悪いことに見えて非常識なんだけど、こっちでは当たり前のことみたい。誰も気にする様子はない。所変われば常識も変わる。
    メグミさんは、待ち合わせの7時を15分過ぎても約束の場所にやって来なかった。おかしいなあ。電話をかけても繋がらない。はて。道に迷ってるのかな。それとも気が変わっちゃったんだろうか。昨日たった数分間一緒にいただけの彼女、どんな髪型だったっけ、どんな服装だろう、所在なくあたりを見回していたけど、そのうち急に「ま、いいか」という気分になってオペラ座前の石段に腰をおろした。私の周りにはほかにもたくさんの人が誰かを待ちながら、同じように石段に座ってる。相手が来て去って行く人、明らかにイライラしている人、約束があるのかそれとも何も予定がないのかひたすら本を読みふけっている人。それぞれの理由、それぞれの待ち方。
    メグミさんは、きっとそのうち来るだろう。もし来なくても、それならそれで仕方ない。変だけど、今はこんなふうに誰かをただ待つという時間がそれだけでなんだかとても、楽しくて、懐かしい、心地のいいものだった。できればメグミさんがもっと遅れてくれたらいいなとすら思った。こんな宙ぶらりんな時間をしばらく味わっていたくて。


    5 min
  • 日本の昔话12——節分の鬼
    むかしむかし、ある山里に、ひとりぐらしのおじいさんがいました。
     この山里では今年も豊作で、秋祭りでにぎわっていましたが、だれもおじいさんをさそってくれるものはおりません。
     おじいさんは、祭りの踊りの輪にも入らず、遠くから見ているだけでした。
     おじいさんのおかみさんは、病気で早くになくなって、ひとり息子も二年前に病気で死んでいました。
     おじいさんは、毎日、おかみさんと息子の小さなお墓に、お参りする事だけが楽しみでした。
    「かかや、息子や、早くお迎えに来てけろや。極楽(ごくらく→天国)さ、連れてってけろや」
     そう言って、いつまでもいつまでも、お墓の前で手を合わせているのでした。
     やがて、この山里にも冬が来て、おじいさんの小さな家は、すっぽりと深い雪に埋もれてしまいました。
     冬の間じゅう、おじいさんはお墓参りにも出かけられず、じっと家の中に閉じこもっています。
     正月が来ても、もちを買うお金もありません。
     ただ、冬が過ぎるのを待っているだけでした。
     ある晴れた日、さみしさにたえられなくなって、おじいさんは雪にうまりながら、おかみさんと息子に会いに出かけました。
     お墓は、すっかり雪にうまっています。
     おじいさんは、そのお墓の雪を手で払いのけると。
    「さぶかったべえ。おらのこさえた甘酒だ。これ飲んであったまってけろ」
     おじいさんは甘酒をそなえて、お墓の前で長いこと話しかけていました。
     帰る頃には、もう、日もくれていました。
     暗い夜道を歩くおじいさんの耳に、子どもたちの声が聞こえてきます。
    「鬼は~、外! 福は~、内!」
    「鬼は~、外! 福は~、内!」
     おじいさんは、足を止めてあたりを見回しました。
     どの家にも明かりがともって、楽しそうな声がします。
    「ほう、今夜は節分(せつぶん)じゃったか」
     おじいさんは、息子が元気だった頃の節分を思い出しました。
     鬼の面をかぶったおじいさんに、息子が豆を投げつけます。
     息子に投げつけられた豆の痛さも、今では楽しい思い出です。
     おじいさんは家に帰ると、押し入れの中から、古いつづらを出しました。
    「おお、あったぞ。むかし息子とまいた節分の豆じゃあ。ああ、それに、これは息子がわしにつくってくれた鬼の面じゃ」
     思い出の面をつけたじいさんは、ある事を思いつきました。
    「おっかあも、かわいい息子も、もういねえ。ましてや、福の神なんざにゃ、とっくに見はなされておる」
     こう思ったおじいさんは、鬼の面をかぶって豆をまきはじめました。
    「鬼は~内、福は~外。鬼は~内、福は~外」
     おじいさんは、わざとアベコベにさけんで豆をまきました。
    「鬼は~内、福は~外」
     もう、まく豆がなくなって、ヘタヘタと座り込んでしまいました。
     そのとき、おじいさんの家にだれかがやってきました。
    「おばんでーす。おばんです」
    「だれだ。おらの家になにか用だか?」
     おじいさんは、戸を開けてビックリ。
    「わあーーっ!」
     そこにいたのは、赤鬼と青鬼でした。
    「いやー、どこさ行っても、『鬼は~外、鬼は~外』って、嫌われてばかりでのう。それなのに、お前の家では、『鬼は~内』って、よんでくれたでな」
     おじいさんは震えながら、やっとの事で言いました。
    「す、すると、おめえさんたちは節分の鬼?」
    「んだ、んだ。こんなうれしい事はねえ。まんずあたらしてけろ」
    と、ズカズカと家に入りこんできました。
    「ま、待ってろや。いま、たきぎを持ってくるだに」
     この家に客が来たなんて、何年ぶりの事でしょう。
     たとえ赤鬼と青鬼でも、おじいさんにはうれしい客人でした。
     赤鬼と青鬼とおじいさんが、いろりにあたっていると、またまた人、いえ、鬼がたずねてきました。
    「おばんでーす。おばんです」
    「『鬼は~内』ってよばった家は、ここだかの?」
    「おーっ、ここだ、ここだ」
    「さむさむ。まずは、あたらしてもらうべえ」
     ぞろぞろ、ぞろぞろ、それからも大勢の鬼たちが入ってきました。
     なんと、節分の豆に追われた鬼が、みんな、おじいさんの家に集まってきたのです。
    「なんにもないけんど、うんとあったまってけろや」
    「うん、あったけえ、あったけえ」
     おじいさんは、いろりにまきをドンドンくべました。
     じゅうぶんにあったまった鬼たちは、おじいさんに言いました。
    「何かお礼をしたいが、欲しい物はないか?」
    「いやいや、なんもいらねえだ。あんたらに喜んでもらえただけで、おら、うれしいだあ」
    「それじゃあ、おらたちの気がすまねえ。どうか、望みをいうてくれ」
    「そうかい。じゃあ、あったかい、甘酒でもあれば、みんなで飲めるがのう」
    「おお、引き受けたぞ」
    「待ってろや」
     鬼たちは、あっというまに出ていってしまいましたが、
    「待たせたのう」
     しばらくすると、甘酒やら、ごちそうやら、そのうえお金まで山ほどかかえて、鬼たちが帰ってきました。
     たちまち、大宴会のはじまりです。
    「ほれ、じいさん。いっペえ飲んでくれや」
     おじいさんも、すっかりごきげんです。
     こんな楽しい夜は、おかみさんや息子をなくして以来、はじめてです。
     鬼たちとおじいさんは、いっしょになって、大声で歌いました。
    ♪やんれ、ほんれ、今夜はほんに節分か。
    ♪はずれもんにも福がある。
    ♪やんれ、やんれさ。
    ♪はずれもんにも春がくる。
     大宴会はもりあがって、歌えや踊れやの大騒ぎ。
     おじいさんも、鬼の面をつけて踊り出しました。
    ♪やんれ、やれ、今夜は節分。
    ♪鬼は~内。
    ♪こいつは春から、鬼は内~っ。
     鬼たちは、おじいさんのおかげで、楽しい節分を過ごすことが出来ました。
     朝になると鬼たちは、また来年も来るからと、上機嫌で帰っていきました。
     おじいさんは、鬼たちが置いていったお金で、おかみさんと息子のお墓を立派な物になおすと、手を合わせながら言いました。
    「おら、もう少し長生きする事にしただ。来年の節分にも、鬼たちをよばねばならねえでなあ。鬼たちにそう約束しただでなあ」
     おじいさんはそういうと、晴れ晴れした顔で、家に帰っていきました。

    おしまい

    11 min
  • 坂本真绫欧洲游记——From Every Where 2-5
    【2日目】-5

    今日は午後から町の中を特に目的もないままあちこち歩き回った。

    観光スポットじゃなくたって、ただ通りを歩いているだけで心が躍る。大好きな映画の中で何度も見た憧れの街がそのままここにあるんだもの。ヒールをコツコツ音たてて歩く美しい女性の後ろを歩いてたら、なんだかまるでスクリーンの向こう側の世界の住人になったみたいで自然と背筋が伸びた。まあ、ウィンドウに映った自分の姿を見ると一気に現実に引き戻されちゃうんだけど。だってすれ違う人たちはみんな背が高くてあか抜けててかっこいいのに、私は眼鏡にジーンズに白すぎる新品のスニーカーのちんちくりん。うわあー、なんという野暮ったさ。いい大人なんだから、もう少しくらい格好つけて来ればよかったかなあ。

    東京の複雑な地下鉄に比べたら、パリのメトロは慣れてしまえばとても分かりやすい。1~14号線まで、難しい名前はついてなくて数字だけってところがシンプルで外国人にはありがたい。いちいち料金を確認しなくても市内ならどれだけ乗っても1.6ユーロ。メトロの切符の10枚綴りものをカルネと言う。

    でも何の予習もなしにいきなり乗り込んだ昨日は、初めてで新鮮なこともいっぱいあった。たとえば車内アナウンスがまったくないこと。ホームの看板には日本みたいに前後の駅名までは書いていないし、英語表記もない。車内には楽器を演奏しながら座席を回ってくるパフォーマーが次々乗り込んでくるし、そんなことに目を奪われているうちに今自分がどの駅にいるのかすぐ見失ってしまう。それからドアの開閉を乗客が自分で行うということも知らなかった。ボタンをチッと押すタイプもあれば、ガチャンとレバーを引く形のもある。

    4 min
  • 日本の昔话11——ネズミ経
    むかしむかし、ある山の中に、一人のおばあさんが住んでいました。

    おばあさんは大変仏さまを大事にしていましたので、毎日毎晩、仏だんの前で手を合わせましたが、お経の言葉を知りません。

     ある時、一人の坊さんがやって来て言いました。

    「道に迷って、困っています。どうか一晩、泊めてください」
    「ああ、いいですとも」
     おばあさんは坊さんを親切にもてなしましたが、ふと気がついていいました。
    「お願いです。どうか、お経の言葉を教えてください」

    ところがこの坊さんはなまけ者で、お経の言葉を知りませんでした。
     でも坊さんのくせにお経を知らないともいえないので、仕方なしに仏だんの前に座ると、なんと言おうかと考えました。
     すると目の前の壁の穴から、ネズミが一匹顔を出しました。
     そこで坊さんは、

    「♪ネズミが一匹、顔出したあー」
    と、お経の節をつけて言いました。
     すると今度は、二匹のネズミが穴から顔を出したので、

    「♪今度は二匹、顔出したあー」
    と、坊さんは言いました。
     さて次に何と言おうかなと考えていると、三匹のネズミが穴から顔を出して、こちらを見ています。
     そこで坊さんは、

    「♪次には三匹、顔出したあー」
     大きな声で言うと、三匹のネズミはビックリして穴から逃げ出しました。
     そこで、

    「♪それからみーんな、逃げ出したあー」
     坊さんはそう言って、チーンと鐘を鳴らして言いました。
    「お経は、これでおしまいです。
     少し変わったお経ですが、大変ありがたいお経です。
     毎日、今のように言えばいいのです」
     おばあさんはすっかり喜んで、それから毎朝毎晩、

    「♪ネズミが一匹、顔出したあー
    ♪今度は二匹、顔出したあー
    ♪次には三匹、顔出したあー
    ♪それからみーんな、逃げ出したあー」
    と、お経をあげました。

     ある晩、三人の泥棒が、こっそりおばあさんの家に忍び込みました。
     ちょうど、おばあさんが仏だんの前でお経をあげている時でした。
    「あのばあさん、何をしているのかな?」
     一人の泥棒が、おばあさんの後ろのしょうじからそっと顔を出すと、

    「♪ネズミが一匹、顔出したあー」
     おばあさんが、大声で言いました。
    「あれっ、おれの事を言ってるのかな?」
    「何をブツブツ、言ってるんだい?」
     もう一人の泥棒が、顔を出すと、

    「♪今度は二匹、顔出したあー」
     おばあさんが、また大きな声で言いました。
    「やっぱり、おれたちの事を言ってるみたいだぞ」
    「どれどれ」
     三人目の泥棒が顔を出すと、

    「♪次には三匹、顔出したあー」
     また、おばあさんの声がしました。
    「うへぇ、あのおばあさん、後ろに目がついているんだ。こわい、こわい」

    三人の泥棒はビックリして、あわてて逃げ出しました。
     そんな事は知らないおばあさんは、また、
    「♪それからみーんな、逃げ出したあー」
    と、大声で言うと、

    チーンと鐘を鳴らして仏だんに手を合わせました。

    おしまい

    5 min

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