♪第3話:レアがコンサートマスターになった理由…理事長が見抜いた彼女が奏でる音色の魅力
あらためまして、こんにちは。
CMSLシンフォニックオーケストラ、コンサートマスターの風華レアです。
なぜ、私のような経験もない人間が、このような大役に就いているのでしょうか?
多くの方は疑問に思うかもしれません。
他でもない私自身も、未だにこれについては心から納得していません。
私をコンサートマスターに任命したのは、オケのセバスチャン・ガロ理事長です。
私と理事長はパリのストリートで出会いました。
その頃私はパリに音楽留学中で、ある日、仲間に誘われ街頭でモーツァルトの弦楽四重奏を弾く機会がありました。
偶々そこに通りかかったガロ理事長は、私たちの演奏をずっと見ていたようです。
その日の演目が終わると理事長は私のもとに近づき、「連絡先を教えてくれませんか?」と言いました。
オケの理事長兼、音楽事務所CMSLの代表でもある彼は、それが記載された名刺を私に渡しました。
特にあやしい気配もなかったので、私は連絡先のみを彼に伝えました。
その後、数週間が経ち日本に帰国していた私のもとに「ぜひ一度お会いして話がしたい」と理事長からメールがありました。
「オーケストラに関する重要な事柄なので、直接会って伝えたい」とも書いてありました。
私はよくわからないまま、とりあえず理事長に会ってみることにしました。
所定の場所に行くと、既に到着して待っていた彼は開口一番「オケのコンマスになってほしい」と切り出しました。
しばらく頭が真っ白になった私は、正気に戻るとすぐに「嫌です、できません。意味がわかりません」と答えました。
「なぜ私なんですか?他にもっとふさわしい方がいると思います」と言うと彼は「あなたのヴァイオリンにはいい意味で哀しみがある。人の心の奥底に潜む解決されない痛みを引き出し光をあて、浄化する音色だ」と言いました。
さらにこうも付け加えました。
「音楽の大きな使命のひとつは、人の痛みを浄化するカタルシスにある。モーツァルトがなぜあれほどに人気があるかわかりますか?彼の音楽こそまさに"カタルシス"そのものだからです」
「でも、一般にモーツァルトの音楽は明るく天真爛漫で、まるで天国の調べのようだといわれています」と私が言うと理事長は「それはあまりに一面的な見方だ。モーツァルトの音楽はあたかも、目に涙を浮かべながら精いっぱいの微笑みを見せているようなものだ。そこに人々は強く惹かれるんです」と私の目を直視して言いました。
そこまで言われると私は返す言葉もなく「わかりました、どうなるかわかりませんが、とにかくやってみます」と答えました。
「レア、君がコンマスになることで、CMSLはきっと私が理想とするオーケストラになる。少しずつでいい。できることから始めてほしい」と理事長は言葉を残し、その場を去っていきました。
ヴィヴァルディの四季は私がコンサートマスターを務めるにあたって、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と共に、最初に弾いてみたいと思った曲です。
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一般には春の第1楽章が知られていますが、私は冬の第1楽章が好きです。あの楽章の厳しさと凛とした佇まいに心惹かれます。何よりそこが表現できるように心がけました。
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集 Op.8 『四季』より「冬」 第1楽章 [2023]
Antonio Lucio Vivaldi
The Four Seasons - 'L'inverno' ("Winter") - Violin Concerto in F minor, RV297
I. Allegro non molto [3:33]
Vivaldi-TheFourSeasons-Winter-1st-2023.mp3
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▼オーケストラを構成する楽団員たち