同じ内容について、noteでも公開しました。
普通の麻酔科医が、「第1回日本医療政策学会学術集会」で感じた危機感
こんにちは、麻酔科医の松田祐典です。
突然ですが、皆さんは「医療政策」について、どれくらい関心がありますか?
「忙しくて政策なんて考える余裕がない」
「現場のことは現場が一番わかってる」
「政治家や役人が決めることでしょ?」
もしそう思っているなら、ちょっと待ってください。
その「他人事」感が、実はぼくらの首を絞めているかもしれません。
2025年6月28日に参加した、「第1回 日本医療政策学会 学術集会」で、そんな危機感を抱いたお話をします。
- 普通の麻酔科医が、「第1回日本医療政策学会学術集会」で感じた危機感
- きっかけは、フライト先生のメルマガ
- 集約化は計画的に。
- 無痛分娩の「理想」と「現実」のギャップ
- 行政の「本音」を聞けた貴重な機会
- 医療と「食」— 意外な気づき
- 結局、医療政策を動かすのは「人」
- これから、一緒に考えることが大事
ことの始まりは、新生児科医の今西洋介先生(通称フライト先生)のLetter。周産期医療関連のサブフォーラムで座長を務めると知り、「これは行かねば!」と即ググって慶應義塾大学三田キャンパスへ。
大会長の後藤励先生は、「そんなに来ないと思っていたので、ひとまわり小さめな講堂を抑えていたんですが、事前登録で300人を超えたので、急遽大きな場所に変更しました。」と、多くの人が医療政策に関心を持っていることが伝わってきました。
個人的に最も注目していたのは、「日本の周産期医療の未来」をテーマにしたサブフォーラム。
登壇者は豪華で、元厚労省の前中隆秀先生、参議院議員の自見はなこ先生、成育医療研究センターの五十嵐隆総長、産婦人科の宋美玄先生そして司会の今西先生という顔ぶれ。
議論の中で印象的だったキーワードが「計画的集約化」でした。
地方では分娩施設の閉鎖が相次ぎ、自然発生的に集約が進んでいます。
でもこれって、あくまで"成り行き"ですよね。妊婦さんが困ってから「じゃあ隣の市まで行こうか」では、あまりにも後手後手。
政策として、どう計画的に導いていくか—— ここが問われていました。
現場にいると「また施設が閉鎖した」「人手が足りない」という現象面ばかり見がちですが、その背景にある構造的な問題と向き合う必要性を痛感しました。
麻酔科医として気になったのが、セッション最後にふいに出てきた「無痛分娩」。
理想はもちろん、すべて麻酔科医が担当する体制です。
でも現実には、帝王切開すら全例カバーできていないのが今の日本。
無痛分娩だけを麻酔科医主導にするのは、現時点では非現実的。
大事なのは、「理想」と「現実」のギャップを冷静に捉え、そこをどう埋めるか。
「麻酔科医を増やせばいい」
「産婦人科医が研修すればいい」
どちらも正論ですが、それだけでは解決しません。
産婦人科・麻酔科・行政が連携して、段階的に仕組みを構築していく戦略が必要だと個人的には考えています。
午後のセッションでは、厚生労働省の医務技監である迫井正深先生が登壇。
「医療はインフラであるが、民間主導でないとうまくいかない」
これは戦後日本の医療政策の大きな方針転換の背景だそうです。国が全部コントロールするのではなく、民間の活力を活かしながら必要最小限の規制をかける——言葉にすると簡単ですが、実際の舵取りは相当複雑。
「今」抱えている課題だけを考えるのではなく、「過去」についても知る必要がある。
地域差の問題一つとっても、地価の高い都市部の報酬を高くすれば、ただでさえ都市部で働きたい医療者が、どんどん都市部に集中してしまい、地方はますます人手不足になる。
現場の私たちが「なんで国は○○してくれないんだ!」と文句を言うのは簡単ですが、その背景にある複雑さを理解せずに批判だけしていても建設的じゃないな、と改めて知ることができました。
次の、オイシックス代表・髙島宏平さんの講演も印象的でした。
「良い食事に正解はない」と語る髙島さん。病院、介護施設、学校など、場面に応じて提供すべき食の形は異なります。
塩分控えめの食事を出しても、まずければ食べてもらえない。喫食率と栄養のバランスをどう取るか——これって医療従事者としても深く考えるべきテーマ。
帝王切開後の「回復食」など、周術期管理における食の可能性についても考えさせられました。麻酔科医として、術後回復の質を上げるためにできることは、まだまだありそうです。
最後の企画シンポジウム「日本の医療のグランドデザインを考える」では、代表理事の津川友介先生、日本医師会の横倉義武先生や、公共政策学者の杉谷和也先生、経済学者の中室牧子先生らが登壇。
この学会は、いろんな方々が話し合う「場」を作るのが目的。
津川先生のそういった言葉で始まり、日本医師会の歴史や、EBPMにエビデンスは必要なのか、どうやって受動喫煙対策が行われてきたか。
どうやってアカデミアの持つ「考え」を社会へ実装していくか、その難しさや障壁などについて、改めて知ることができました。
そして、全体を通して一貫して思ったこと。
医療政策も、制度設計も、突き詰めれば「人の感情」が原点だということ。
エビデンスで武装しているように見えても、実際の判断や行動の起点には、想いや信念がある。人の集まりである組織の動きもまた、感情に左右されます。
だからこそ、現場の声を届けることが大切だし、逆に政策立案者の想いを理解することも重要なんだと思います。
今回の日本医療政策学会は、まだ第1回にもかかわらず、非常に濃密で刺激的でした。現場・行政・学術、それぞれの視点が交錯することで、多様な課題が立体的に見えてきます。
医療政策は「誰かがやってくれるもの」ではありません。
ぼくら一人ひとりが当事者です。
だからといって、いきなり政治家になれとか、厚労省に意見書を送れとか、そんな大それたことを言いたいわけではありません。
まずは「知ること」から。
そして「考えること」から。
できれば「話し合うこと」から。
来年は6月に京都で第2回が開催される予定です。
一度でも参加してみると、きっと社会の見え方が変わります。
麻酔科医は今、手術室の外にも活躍の場が広がっています。
ICU、緩和ケア、ペインクリニック、そして無痛分娩。
医師数の増加に伴い、単に"こなす"存在ではなく、政策や仕組みづくりにもコミットしていくフェーズに来ていると感じます。
そのためには、現場の延長線だけではなく、俯瞰した視点を持つことが必要。医療政策のような"面倒くさそう"なテーマにも、少しずつでも関わることで、次のステージが見えてくるはず。
あなたも一緒に、日本の医療の未来を考えてみませんか?
目次きっかけは、フライト先生のメルマガ集約化は計画的に。無痛分娩の「理想」と「現実」のギャップ行政の「本音」を聞けた貴重な機会医療と「食」— 意外な気づき結局、医療政策を動かすのは「人」これから、一緒に考えることが大事