翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク

翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク

By 相川浩之(ジャーナリスト)Society & Culture
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翔べ!ほっとエイジ〜人生100年時代の歩き方トーク episodes

  • 第31回は、司法書士の福村雄一さんに聞く(上)成年後見、家族信託などで認知症の親を持つ家族を支援

    今回のゲストは、「お金の人生会議」を実践する司法書士、福村雄一さん(ふくむら・ゆういち)さん。

     福村さんは、2023年司法書士法人福村事務所を設立。2022年に日経BPから共著で「ACPと切っても切れないお金の話」、2024年4月にGakkenから「相続・遺言・介護の悩み解決 終活大全」を出版した。司法書士として、遺言作成支援、死後事務委任契約、任意後見契約、家族信託などに取り組むだけでなく、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)にも詳しく、医療介護職との連携も進めている。
     ACPは、人生の最終段階に医療、ケアをどういうふうにするのかというのを家族や医療従事者と話し合うということ。もともと医療従事者が使っていた言葉だが、最近では『人生会議』というネーミングで一般の人にも広く知られるようになっている。法律手続きを手掛ける司法書士の福村さんが、そのACPに関心を持っているのはなぜか。
     福村さんは言う。「誰しもエンディングに向かっていくわけなんですが、その中で何を大切にしていて、どうしていきたいかというところは、医療やケアの選択に密接に関わってくる」。この、何を大切にしていて、どうしていきたいかというところが、司法書士が手掛けるALP(アドバンス・ライフ・プランニング)で、ACPとは切ってもきれない関係にあると福村氏は指摘する。
     福村氏は「繰り返し、繰り返し、若いころからーー40代とか、60代とか、退職手前といった段階から、第2の人生、今後の人生をどのように積み重ねていきたいかということを自分自身で考え、そして、自分が大切にしている方々と共有する必要がある」と主張する。
     繰り返し、繰り返しということに関しては高齢者が認知症になり、判断能力が衰えても、後の判断が優先されるのか。
     これについて福村さんは「尊厳死宣言の証書が仮に残っていたとしても最終段階においてご本人が意思を発せられ、それが明確に届くものであればそちらが優先されると考えます」とし、遺言についても「認知症という診断が下りていたとしても、新たに遺言書を作成することは可能です。判断能力が低下して、成年後見制度を利用中の方は、一定の条件をクリアしていれば、遺言を残せると民法で定めています。医師の立ち会いが必要といった条件はあるのですが。法律上も予定されていることなので、認知症になった後も有効な遺言書が作れ、そちらの方が日付が後であれば日付が後の方が優先されますので、結論としては認知症になった後の遺言に従って誰に何を、どれだけ残すかと言った意思を手続きに乗せていくことは可能だと思います」と答えた。

     『成年後見』については、成年後見、介護保険と共に制度がスタートして20年以上経っているのに、一般の人たちにあまりなじみがない。それはなぜなのか。  

     成年後見制度が広がらない理由について福村さんは理由は2つあると言う。1つが費用負担の問題。「お持ちの資産によって、大体いくらになるという幅があり、それを家庭裁判が決定するという形になります。後払いなのですが、だいたい月額にすると、2万円とか3万円になります」。
     もう1つが管理の期間、つまり報告をしなければならない期間が長い。「家族の立場として そんなに毎月毎月、動きがあるわけではないのに、どこまで報告するんだっていう気持ちの負担が大きいのかなと思ったりします」。
     親の財産などを管理する手法としては家族信託もある。

     福村「例えば、親の所有する建物が親の名義のままで、親が高齢になって判断能力が衰えてくると、いざ売りたいと思ってもそれが難しくなったりします。そんな時は後見制度を利用するという解決策もありますが、家族信託も解決策になります。親が子供と家族信託という信託契約を結ぶと、建物の名義が子供になります。これは贈与とか売買ではなく、『子供に託しました』という形で契約をし、持ち主を変えます。不動産登記で子供が持ち主になりますので、子供の判断で、適切な時期に必要となった時に建物を売却したり、他の人に貸したりできるようになります」。






    42 min
  • 第30回は、澁谷智子成蹊大学教授にヤングケアラー支援の法制化について聞く
    今回のゲストは、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子(しぶや・ともこ)さん。
     政府はヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義。09年に成立した「子ども・若者育成支援推進法」を改正して、国や自治体が支援に努める対象にヤングケアラーを追加する考えだ。改正案は今国会に提出された。ヤングケアラー支援が法制化されるとどうなるのか。
     澁谷さんは「最終的には人の問題」と話す。
     「話をちゃんと聞いて、何が必要となってくるかということをほぐして、子どもたちが選択肢を持ち、頑張れる環境というものを確保できるように、(仕組みを)どう作っていくか。法制化はそうした後押しになると思う」。
     澁谷さんは「学校という場を効果的に使っていくことが必要」と強調する。
     「なんでもかんでも先生がやるというのは、先生の働き方改革が進む中で難しくなる。でも、学校というのは、子どもたちのことを中心にして考えられた場で、子どもにとっては“行くのが不自然にはならないところ”。子どもたちにとって、この先、生きていくときに役に立つ情報というものが教えられたり、先生たちが新しい制度について知ったりケアを実際に経験したことのある人の話を聞いたりして『子どもがこういう状況になった時にどういうサポートができるだろうか』ということを具体的に思い描くこともできる。授業の一環として、みんなで考えて調べてみることもできる。子どもを通して、アップデートされた情報が親に届く可能性もある。学校という場を上手に使っていくというのはすごく大事だと思う」と語る。   ヤングケアラーは「18歳未満」と定義されることが多かったが、今回の法案では、18歳以上の「若者」も支援対象に加えられた。
     「こども家庭庁のヤングケアラーの定義などでは、18歳未満という年齢を明記しないようになってきた。ヤングケアラーの子どもたちが18歳を過ぎるとケアが終わるかと言うとそういうことはなく、18歳以降もケアは続く。また、大学生に対する調査結果なども加味すると、大人への移行期にもある程度サポートが必要ではないかという話になって、18歳未満と言わなくなった」と澁谷さん。
     「一方で、ヤングケアラーのライフステージや関心事は、中高生のときと18歳を過ぎてからはちょっと違ってくる。18歳を過ぎると、親の家を出るとか、進学あるいは就職をどう考えていけばいいのか、というときの情報収集や相談や決断の後押しが必要になる。ケアを抱えながらも高等教育機関でやっていけそう、働くことと両立できそう、という見通しを持つことがとても大事。そうした相談が学校の中で完結していた中高生時代とは違う。イギリスなどでは18歳から25歳くらいまでを『ヤングアダルトケアラー』と呼んでいる」。
     澁谷さんは2024年に出版された『コーダ 私たちの多様な語り』(生活書院)についても言及。「聞こえない親を持つ聞こえる子どものことを指す「コーダ」という言葉が広まる一方で、コーダのイメージが固定化してきていると感じたので、コーダには多様な生き方があり、ヤングケアラーではないコーダもいる、そうしたことを理解してもらうために本を書いた」と語った。
    24 min
  • 第29回は、澁谷智子成蹊大学教授に、なぜヤングケアラーに注目が集まっているかを聞く
    今回のゲストは、ヤングケアラー研究の第一人者である成蹊大学文学部現代社会学科教授の澁谷智子(しぶや・ともこ)さん。
     澁谷さんが「ヤングケアラー」という言葉に出会ったのは2005年の学会。自身が子育てと仕事の両立で悩んでいた時に、学校と母親のケアをどうにか両立させたいとしている10代の子どもの手記を読んで、「胸を打たれた」と澁谷さん。   
     「私は大人なので保育園の情報とかを自分で探すこともできたが、ヤングケアラーは情報をどこで得ればいいかもわからない。周りの子とちょっと違う状況になっているんだけれども、誰に相談すればいいかもわからない。まず彼らのことがしっかり伝わるように書いてみたいと思った」と振り返る。
     「ヤングケアラーが今、これだけ注目されているのはなぜ?」という問いに対し、澁谷さんはデータなども示して解説してくれた。
     「子どもの頃、『おしん』というドラマを見たが、おしんの時代は子どもが働いたり子守りをしたり、もっと言うと児童労働していることも普通にあった。でも、その後、日本が高度経済成長で豊かになっていくと、家族の中での分業が進むーー」。
     「お父さんがメインで働いて、お母さんが家のこと、子どものこと、あるいは地域のことを受け持つ。子どもは自分のために時間を使えて、勉強とかいろいろな体験を広げることが望ましい、という考え方が広がる。そうした形が「標準的」な家族の姿として共有されていく」。
     「そこでは子どもが介護を担ったり、子どもがきょうだいの世話をしたりするのが、以前のように共有されなくなった。子どもが介護やきょうだいの世話をすることが驚かれる時代になって、話をしても『それは大変だね』と言われるだけで、話す機会、聞いてもらう機会がなくなっていった」。
     そして4枚のスライドで、澁谷さんは、子どもが家の中の仕事を受け持たざるを得なくなった状況を詳しく説明した。
     澁谷さんは昨年、こども家庭庁が行ったヤングケアラー支援の効果的取り組みに関する調査事業に携わった。
     「ヤングケアラーとその家族が利用してよかったサービスについて聞いたところ、“話を聞いてもらったことが精神的な面で大きかった”という答えが中高生に多かった」と澁谷さん。
     「小学生くらいの子どもだと、お母さんがどうしたら楽になるかということを考えているので、“家事”といった答えが多かったが、中高生くらいになると、“母親の話を聞いてくれる”あるいは“子どもである自分の話を聞いてもらうことによって、親が『子どもが相談できている相手がいる』と思うことで安心する”、“自分自身の進学や進路を、こんなふうに考えたらどうかとか、学校に行くのは無理と思っていたがこういう方法がある、といった相談ができた”という答えが多かった」と言う。
     一方で、支援に繋がったことによって、ありがたいと思う半面、「ヤングケアラー」という言葉を聞くのはすごくつらいという親の声もあったという。
     澁谷さんは「子どもにケアをしてもらっているところはあるかもしれないけれど、親として子どもの話を聞いたり、子どもが望むことをしてあげたいという気持ちを持っていたりする部分もある。それが完全に『ケアを受ける側』とされてしまうのは、納得がいかないところがあるかもしれないと思う」と語る。
     「子どもが親を思って、親が子どもを思ってきた家族のこれまできたあり方を、大事にしたいと思っているヤングケアラーやその親の関係が、大事にされるようなサポートのあり方があるといいなと思う」。
     ヤングケアラーが取り上げられると、マスメディアではすぐに「支援をどうする」という話になることが多いが、澁谷さんは「支援と言われると『いや、大丈夫ですから』みたいな答えになってしまう。『もう少し時間あったらどうしたいの?』といったふうに、何気なく聞いてくれたときに初めて、子どもたちは『自分は何したいんだろう』みたいなことを考えるきっかけができたりする。日常的なやり取りの中で自分をほぐしていくとか整理していくきっかけができるのが嬉しいと答えるヤングケアラーは多く、そういう場が増えていくといい」とヤングケアラーをめぐる環境の変化に期待する。                <プロフィール>澁谷智子(しぶや・ともこ) 1974年生まれ。東京大学教養学部卒業後、ロンドン大学ゴールドスミス校大学院社会学部Communication, Culture and Society学科修士課程、東京大学大学院総合文化研究科修士課程・博士課程で学ぶ。学術博士。日本学術振興会特別研究員、埼玉県立大学非常勤講師などを経て、成蹊大学文学部現代社会学科教授。専門は社会学・比較文化研究。著書に『コーダの世界』(医学書院、2009年)、編著『女って大変。』(医学書院、2011年)、『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書、2018年)、編書『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院、2020年)、『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書、2022年)、編著『コーダ 私たちの多様な語り』(生活書院、2024年)など。
    35 min
  • 第28回は、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢さんが地域包括ケアと在宅医療を検証する!
    今回のゲストは、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢(いいじま・かつや)さん。  飯島さんは2020年より東京大学高齢社会総合研究機構・機構長、および未来ビジョン研究センター教授。老年医学、老年学が専門で、特にフレイル予防を軸とした超高齢社会の総合まちづくり研究、在宅医療・介護連携推進を軸とする地域包括ケアシステムの構築などの研究で実績をあげている。  後半のテーマは「地域包括ケアシステム」。  「地域包括ケアシステムは、パッケージがあってそれを導入しせんか?というものではなくて、自分たちでその意味や、やるべき方向性を考えて作る、というのが一番重要」と飯島さん。  目の前にあるものでどうにかうまくやっていかなければならず、当然都心部の地域包括ケアと地方での包括ケアは全く異なるものになる。  「医師の連携も2011年ごろは悪かった。在宅利用をしている医師からみると、なぜ病気がここまで悪化する前に地域に委ねてくれなかったんだというクレームがあったし、病院の医師からは、地域に送り出したのに、すぐ再入院させるというクレームがあった」と振り返る。「しかし、地域包括ケアシステムも成熟してきたのか最近はそうしたクレームはほとんどなくなり、互いをパートナーと見るようになってきた」という。  飯島さんは、診る相手が病人である前に生活者だということを実感するある体験を語る。  患者の生活の場を知ることがいかにその人を診ることに役立つか。地域包括ケアの原点を見たという。  それをきっかけに東大の医学部の外生に在宅医療を体験させる実習を設けた。  病院と地域の連携というテーマで避けて通れないのが、入院関連機能障害(Hospitalization-Associated Disability:HAD)の問題。病気の症状は改善したが、入院により日常生活動作が低下、ほとんど寝たきりになってしまうような状態を指す。なぜ病院で退院後の暮らしをイメージするようなケアができないのか。  飯島さんは「10年、20年前よりは、病院のドクター陣もHADを意識し始めていると思うが、もっと生活に戻すということを中心的なテーマとして考える必要があるが、そこまではいっていない」と話す。「あまり機械的なルールを設けたくはないが、そこはある程度義務として取り組まないとダメな気もしている」。  また、病院と地域の連携も必ずしもうまくいっていない実例も多い。  飯島さんは「病院は、在宅医療という言葉は知っていても、全体の医療上のコントロールの中の重要な選択肢にはなっていないのかもしれない」とも語る。  話は「かかりつけ医」にも及び、かかりつけ医についての議論も交わされた。  外来の医師にしても在宅の医師にしても患者や家族が「医療は先生に委ねているんです」というくらいの関係になることが医療というものに携わる以上不可欠ではないかと飯島さんは見る。  そういう医師のイメージについて、飯島さんは言う。  「訪問医療ならば、その先生が来てくれることが楽しみになる。先生はいろいろな愚痴も聞いてくれる。しかし、いや、それは違うとびしっと発言もする。硬軟取り混ぜて、フランクに何でも相談できる」  そして地域連携がうまくいくためにはすべての職種が必要だが、「あえて言えば、訪問看護師とケアマネジャーはサッカーのツートップに当たる」と飯島さん。医学部の学生も医師だけでなく、多職種の方に同行。「学びは多かったようだ」と言う。  「患者、家族と医療チームが治療方針について随時話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)についても、終末期だけでなく、少なくとも50代くらいから行うべき」と飯島さん。その際は認知症になってしまったとき、資産はどう管理するかといった問題なども幅広く関係者で論じておくといい」と言う。  飯島さんはいま、多職種で使える簡単なQOL指標を作ろうとしている。  この場合、ライフには三つの訳し方があるという。  一つ目が、生命、命。  二つ目が、生活、暮らし  三つ目が、人生、生きがい    この三つのうちどれか一つではなく、どれにも配慮したQOLを多職種が連携するときにあたっては頭に置いて話をする。この三つを常に確認し合って目の前の生活者でもある患者と向き合う。  飯島さんは、「在宅療養の底力、魅力、意義を唱えると同時に客観的なエビデンスも出していきたい」と抱負を語る。「病院医療や最先端医療だけでなく、在宅医療についてもエビデンスを積み重ねていくことが大学のアカデミアの役割」として、地域の人たちとデータを集めていきたい考えだ。「在宅療養が医療の大きな選択肢になるようにしたい」と言う。  飯島さんは「在宅の分野でもう少しテクノロジーの発展を期待したい」とも言う。「介護福祉ロボットなども有用なものが出てきてほしいし、必要な情報がすぐに得られるICT環境もほしい」。
    1 hr 1 min
  • 第27回は、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢さんにフレイルとその対策について聞く
    今回のゲストは、東京大学高齢社会総合研究機構・機構長の飯島勝矢(いいじま・かつや)さん。
     飯島さんは2020年より東京大学高齢社会総合研究機構・機構長、および未来ビジョン研究センター教授。老年医学、老年学が専門で、特にフレイル予防を軸とした超高齢社会の総合まちづくり研究、在宅医療・介護連携推進を軸とする地域包括ケアシステムの構築などの研究で実績をあげている。
     東京大学高齢社会総合研究機構は2009年に設置され、東大の全学部から高齢社会に精通した研究者が集まっている。
     人は高齢になると必ず「虚弱」になるが、「虚弱」という日本語には抵抗がある人も多い。そこでFrailty(フレイルティ)という英語から「フレイル」という言葉を作って、前向きに予防などについての意識を高めてもらうことにした。
     フレイルになる原因を探っていくと、ほかの人との関係が希薄になってくることがきっかけになって心身の衰えが始まることがわかってきた。社会性を意識した健康管理が重要だ。
     飯島さんが治療を担当しているある一人暮らしのおばあちゃんは「一人だとコンビニ弁当やスーパーの惣菜を買うことが多くなるし、料理を作っても食べきれなくなる」というが、「おばあちゃんの友人が何人か集まって食事すると、ちゃんと残さず食べ切れる」。
     メタボやフレイルを予防するためには様々な工夫が必要だが、難しいのは65歳から74歳までの「前期高齢者」。メタボ対策が必要なのかフレイル対策が必要なのか迷う。
     飯島さんは「悪玉コレステロールの値は下げる必要はあるが、それだからといって粗食にすればいいというものではない。筋肉が衰えて、これからの生活に支障がでてくる」という。
     「薬を飲んでコレステロールの値を抑えるというのも、必ずしもお勧めできない」という飯島さんは「大事なのは、ライフスタイルの前向きなアレンジ」を勧める。努力というよりは「アレンジ」といった感覚で、体を整え、「それでも届かない部分があれば、薬にも頼ればいい」と話す。
     生きがいを持っていろいろなことをしてみる。その結果、他の人にも喜ばれ、社会性も高まる。そんなフレイル対策が大切だ。
     フレイルには可逆性があると飯島さんは言う。
     「フレイルの兆候が出てきたら、もう歳だからなどといって諦めるのではなくすぐ対策に務めてほしいと考えているから、可逆性があると強く訴えている」と飯島さんはその狙いを明らかにする。
     日本老年医学会は、日本老年歯科医学会と日本サルコペニア・フレイル学会とともに、「オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント」を4月1日発表した。
     本ステートメントでは、新たなオーラルフレイルのチェック項⽬「Oral frailty 5-item Checklist:OF-5」を紹介した。検査機器がなくてもセルフチェックができる。OF-5の5項⽬のうち、2項⽬以上に該当する場合にはオーラルフレイルに該当する。
     5項目とは以下の通り。
     ・自身の歯は,何本ありますか? 20本以上は非該当
     ・半年前と比べて固いものが食べにくくなりましたか?
     ・お茶や汁物等でむせることがありますか?
     ・口の渇きが気になりますか?
     ・普段の会話で,言葉をはっきりと発音できないことがありますか?
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    <プロフィール>飯島勝矢(いいじま・かつや)  医師、 医学博士、 東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長、 未来ビジョン研究センター 教授。1990 年東京慈恵会医科大学卒業、千葉大学医学部附属病院循環器内科入局、東京大学大学院医学系研 究科加齢医学講座 助手・同講師、米国スタンフォード大学医学部研究員を経て、2016 年より東京大学 高齢社会総合研究機構教授、2020 年より同研究機構教授・機構長、および未来ビジョン研究センター 教授。 ◆内閣府「高齢社会対策大綱の策定のための検討会」構成員 ◆内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員 ◆厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員 ◆厚生労働省「国民健康・栄養調査企画解析検討会」構成員 ◆厚生労働省「安全で安心な店舗・施設づくり推進運動の広報及び運動習慣定着支援等事業」企画検 討会 構成員 ◆厚生労働省「全国在宅医療会議」構成員 ◆厚生労働省「人生 100 年時代に向けた高齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」構成員 ◆日本学術会議「老化分科会」「高齢者の健康分科会」ボードメンバー ◆International Alliance of Research Universities (IARU)- Ageing, longevity and health (ALH) board member ◆2022 年 2 月 遠山椿吉賞(第 7 回健康予防医療賞)受賞 【専門】老年医学、老年学(ジェロントロジー:総合老年学)、特に健康長寿実現に向けたフレイル 予防を軸とした超高齢社会の総合まちづくり研究、在宅医療介護連携推進を軸とする地域包括ケアシ ステム構築、高齢者の就労、情報システム活用によるスマートシティ、等 【近著】 『在宅時代の落とし穴 今日からできるフレイル対策』(KADOKAWA、2020 年) 『地域包括ケアのまちづくり-老いても安心して住み続けられる地域を目指す総合的な試み』(共著、 東大出版会、東京大学高齢社会総合研究機構 編、2020 年) 『東大が調べてわかった衰えない人の生活習慣』(KADOKAWA、2018 年) 『健康長寿 鍵は“フレイル”予防 〜自分でできる3つのツボ〜』(クリエイツかもがわ、2018 年) 『老いることの意味を問い直す 〜フレイルに立ち向かう〜』(クリエイツかもがわ) 『オーラルフレイル Q&A-口からはじまる健康長寿-』(共著、医学情報社) 『マンガでわかるオーラルフレイル』(共著、主婦の友社)
    54 min
  • 第26回は、緩和ケア医の山崎章郎さんに、末期がんなどの患者とどう向き合うかを聞く
    今回のゲストも、緩和ケア医の山崎章郎(やまざき・ふみお)さん。
     山崎さんが「病院で死ぬということ」を著したのが1990年。外科医だった経験をもとに、終末期の患者がどのような最期を迎えるかについて「物語」を描くことによって、自らの最期を患者自身が決めることができない病院医療の問題点を明らかにし、反響を呼んだ。それから34年。がん医療を取り巻く環境は大きく変わっている。
     まず情報提供の面では、以前はがんの告知は一般できでなかったが、患者には人生の自己決定権があるということで、インフォームド・コンセント(informed consent)やインフォームド・チョイス(informed choice)が当たり前になってきた。
     また、患者たちは一人の医師だけでなく他の医師にも自分の置かれた状況について聞くことができるセカンドオピニオンも保証されるようになった。
     がん治療に関しても、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤など新しいものが多々出ており、治療法の発展は日進月歩。
     また、かつては亡くなる前でも蘇生術を施したり、人工呼吸をしたりする延命至上主義だったが、いまはそれも是正されてきている。
     末期がんの患者などにはACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要と言われるが、必ずしもうまくいっていないが、山崎さんは患者とのコミュニケーションも丁寧に行っているという。
     在宅医療をしていても最終的に入院することになる最大の理由は、家族介護の限界。
     がん患者の場合では在宅療養をやめて入院する場合、2〜3週間で亡くなるケースがほとんど。逆に言えば、看取りまでの2〜3週間、自宅で介護できる体制が築ければ、在宅での看取りも可能になる。
     ケアタウン小平の場合、家にいたいと言った患者の8割は在宅で看取ることができた。
     終末期にはスピリチュアルケアが重要になる。人間は人として肯定されなくなったときにスピリチュアルペインを感じる。そんな時は、その人の存在を肯定してあげるようなケアが必要。 ケアタウン小平が子育て支援に取り組んだのも、自己肯定できなくなった子どもだちが学校に行きたくないと思うようになるからだ。その意味でスピリチュアルケアは重要だ。
     死んだ後についての不安はもちろんあるが、それについては在宅で看取った多くの人が「死後の世界はある」と考えていた。  山崎さんは「死後の世界はある。ないと困る」と思っていると言う。そして「死後の世界での次のビジョンも考えている」と打ち明ける。
     山崎さんは2009年4月から2013年3月まで武蔵野美術大学で「死の体験授業」を行った。
     まず、大切なもの20個を書いてもらう。「大切な人」「大切な物」「大切な自然環境」「大切な活動」をそれぞれ5つずつ、合計20個。
     そして、静かな音楽を流しながら山崎さんがシナリオを読む。
     体調が悪く、病院に行き、検査を受ける。するとがんと判明する。新しい事実がわかるたびに大切なものを1つあるいは2つ消していく。
     最終的に大切なものが一つ残る。
     「たいていは大切な人が残る」と山崎さん。
     死ぬ過程と言うのは身近な自分の大切なものを一とつひとつ失っていく過程ということを学ぶ。
     期末テストは「あなたの人生があと3ヵ月だと仮定して、大切な人に別れの手紙を書きなさい」というもの。
     山崎さんは「疑似体験でも、人生にとって何が大事なのかということが見えてくると、その大切なもののために生きようと思う」と語る。
    1 hr 1 min
  • 第25回は、緩和ケア医の山崎章郎さんに、がん共存療法への取り組みについて聞く
    今回のゲストは、緩和ケア医の山崎章郎(やまざき・ふみお)さん。
     名著『病院で死ぬということ』を1990年に著した後、緩和ケア医として活躍してきた山崎章郎さん。2500人を超える終末期がん患者を看取ってきた。その山崎さんが2018年に大腸がんを宣告された。抗がん剤治療を受けるものの、強い副作用が出たため治療を中断。自身ががんになったことによりいくつかの問題に気づく。抗がん剤治療を選択しない患者さんに十分な医療保険のサポートがなく、がん治療が終了すると空白の時間があり、多くの「がん難民」が不安な日々を送っているーー。
     そこで、山崎さんは「がんを消すのではなく、これ以上大きくしないようにすれば、すぐに命に関わることはない」という考えのもと、普段どおりに生活しながらできる治療、しかも高額な費用がかからず誰もが受けられる「がん共存療法」を目指す。
     その経緯をまとめた「ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み」 (新潮選書)について聞く。
     がん共存療法に取り組む山崎さんに対し、医療者からはプラスだけでなくマイナスの反応もあった。
     批判は、個人的な体験に過ぎないのではないかというもの。そこで、治療の結果を普遍化するために臨床試験に取り組み始める。
     山崎さんは「緩和ケアでは、 従来の方法だけでなく、新しいアプローチや選択肢も積極的に検討していく姿勢が大切」と訴える。
     がんの症状の悪化は止められないが、それを織り込んで、大事な人生の時間に集中できる支援をしている「がん共存療法」。こうした支援は緩和ケアそのものだと山崎さんは言う。
     臨床試験は既存の治療法を組み合わせたものであり、新薬の治験とは異なる。  ケアタウン小平クリニックは、山崎さんの体調のこともあり、2022年6月1日より、医療法人社団悠翔会に継承され、山崎さんは同クリニック名誉院長として、訪問診療に従事している。その経緯についても聞いた。
     悠翔会の佐々木淳医師とは緩和ケアについて思いを共有できたため、クリニックを託すことにしたという。
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    <プロフィール>山崎章郎(やまざき・ふみお) 1947年、福島県出身。緩和ケア医。1975年千葉大学医学部卒業、同大学病院第一外科、国保八日市場(現・匝瑳)市民病院消化器科医長を経て、1991年聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科部長。1997年~2022年3月聖ヨハネホスピスケア研究所所長を兼任。2005年在宅診療専門診療所(現・在宅療養支援診療所)ケアタウン小平クリニックを開設したが体調のこともあり、2022年6月1日より、同クリニックは医療法人社団悠翔会に継承され、2022年9月現在は同クリニック名誉院長として、非常勤で訪問診療に従事している。認定NPO法人コミュニティケアリンク東京・理事長。著書に『病院で死ぬということ』(主婦の友社、文春文庫)、『続・病院で死ぬということ』(同)、『家で死ぬということ』(海竜社)、『「在宅ホスピス」という仕組み』(新潮選書)など。
    55 min
  • 第24回は、在宅医の佐々木淳さんに、在宅医療を体験して感じた疑問を聞く
    今回のゲストは、在宅医療専門クリニックを運営する医療法人社団悠翔会の理事長、佐々木淳さん。
     佐々木さんは2015年に医療・介護多職種連携のための学びのプラットフォーム「在宅医療カレッジ」をスタート。認知症ケア、高齢者ケア、地域共生社会の学びなど幅広い分野でセミナーを実施している。その内容をまとめた「在宅医療カレッジ・地域共生社会を支える多職種の学び21講」(医学書院)は、超高齢社会における医療・介護の実践的知識を学ぶための必読書になっている。
     今回のインタビューは、訪問医や訪問看護師らの協力で在宅で義理の母親を看取ったキャスターの相川が、実際に在宅医療に接して感じた思い、疑問などを、この分野の第一人者である佐々木さんにぶつける形で進めた。
    ーー痰の吸引や胃ろうからの栄養補給など、訪問看護師に頼ればいいと甘く考えていた。実際は退院直後の医療保険で訪問看護師に来てもらえる時でも1日2回が限度。夜中には妻と交代で寝ずの番をして、私たちで痰の吸引を行った。自宅に戻ったのでひ孫にも会えるなど、豊かな時間は過ごせたが、家族も相当ケアに絡まなければならず大変だった。
    佐々木 在宅医療は大変な側面もあるが、栄養や水分摂取など工夫次第で楽にする方法もある。
    ーー在宅医療をどのタイミングで始めるべきだったのか。リハビリ病院を経由したが、リハビリはほとんどできない状況になってしまっていたので、急性期病院から直接在宅というルートもあったのかと思う。
    佐々木 実は急性期から自宅に直接帰るというルートは、今普通に存在する。「この状態で家では面倒をみられないだろう」と思うが、家に帰ると、環境の力で、病院で騒いでたおばあちゃんが普通のおばあちゃんに戻る。
    ーー回復の見込みがない段階での延命治療はしないと決めていたが、酸素飽和度が下がり、酸素吸入の必要があった。在宅クリニックの当直医の到着が時間がかかるため救急車を呼び、救急隊に酸素吸入を行ってもらった。在宅医療で救急対応は十分?
    佐々木 在宅医療には、5分〜10分で来るという機能は残念ながらないので、日頃からの備えをやっておくというのがすごく重要になる。
    ーー医師も働き方改革が必要と言われる中、24時間診てくれとは言わないが、さきほどまで診察に来ていて、出してくれた薬をどうするかみたいな質問さえケータイで答えてくれず、当直医任せだった。家族としては信頼できなかった。 佐々木 やっぱりふだん診てくれる先生が最後まで診るというのが見てくれるのが、患者さんにとっては一番。ですが、1人の先生がずっと24時間対応し続ける、それを何十年も続けるというのはやはり難しい。お医者さんにとっても持続可能で、家族や患者さんにとっても安心な形でなんだろうなって思った。
     一つは先生たちも休みが必要。そういう日だけは僕らのようなクリニックのお医者さんがバックアップするような仕組みがあれば、先生も頑張れるときは頑張る。  二つ目の方法としては、我々のような僕たちも大規模在宅クリニックですけが、できるだけ地域に密着しようというふうに考えて、今例えば東京だと、案件に3キロのエリアしか我々カバーしない。 そうだとしても、夜知らない先生が来て、全然話が通じないというのは、やはり困る。どうすればいいのかーー。 ここで必要なのは二つあって、一つはやっぱり主治医の先生が、患者さんご家族と信頼関係を築き、何でも相談できるっていう関係性を作ること。
     確かに主治医は夜は対応できないかもしれないけれども、その代わり患者さんたちが夜、不安におののくことがないように、昼間のうちに診療を完結させる。  在宅という、お医者さん、看護師さんが普通はいない環境であっても、安心感を高めるための工夫はできるし、そもそも医者というものは単に病気を治療しに行ってるだけではなくて、患者、家族の安心を支えに行ってる、納得できる生き方を一緒に考えるために患者さんの家に行く。
    ーー地域包括医療病棟というものが新設されるそうですが。
    佐々木 急性期病院で治療する力はすごく強いのだけれど、ケアする力がとても弱い。だから少し足腰が弱っている人が弱らないようにケアをしていくというのが苦手なんです。
     急性期病院とケアのちょうど間ぐらいの機能を持った役割のところが今後必要なんじゃないかっていうことで多分考えられたんだと思います。何かあったら救急車で大きい病院に運ばれるのは、安心感はあるかもしれないけど、お年寄りは、そのまま寝たきりになる。 だからそうじゃなくてもうちょっと高齢の方々の生活に近いところで、ケアもできて、ある程度医療もできという新しい医療が提供できる病院ってのが必要なんじゃないかってことで新設するようだ。   〈プロフィール〉佐々木淳(ささき・じゅん)1998年筑波大学医学専門学群卒業。社会福祉法人三井記念病院内科/消化器内科、東京大学医学部附属病院消化器内科等を経て、2006年に最初の在宅療養支援診療所を開設。2008年 医療法人社団悠翔会に法人化、理事長就任。2021年より 内閣府・規制改革推進会議・専門委員。現在、首都圏ならびに愛知県(知多半島)、鹿児島県(与論町)、沖縄県(南風原町・石垣島)に全24拠点を展開。約8,000名の在宅患者さんへ24時間対応の在宅総合診療を行っている。
    43 min
  • 第23回は、楊井 人文さんに、デマに踊らされない方法について聞く
    今回のゲストも、ファクトチェックを自ら手掛けるとともに、ファクトチェックの普及・推進にも務めてきた楊井人文(やない・ひとふみ)さん。
      私たちがデマや不正確なニュースなどにだまされないためにはどうすればいいのか。 楊井さんは「SNSの時代になって、昔は影響力を持たなかった本無名な人たちのつぶやきさえ、一瞬で世界に広がるようになった。新しい技術によって、こういう現象が生まれた」とその背景を説明した上で、「不安だとか、憤りだとか、敵対心とか、そういったものが原動力になって、そういった情報が広がりやすい。これは昔も今も変わらない」と話す。
     「人間の不安とか、怒りの感情を煽るようなものには、特に注意が必要」だ。  ネット上に溢れるデマや怪しい情報をファクトチェックで防ぐことはできるのか?  楊井さんは「社会的な影響力、特に負の影響を及ぼす恐れの高いもは優先的にピックアップしてチェックするしかないが、現実にはファクトチェック団体、ファクトチェッカーのリソースは限られている。そして、難しいものよりも簡単、比較的やりやすいものを選んでチェックする傾向もある」と限界を認める。
     怪しい情報には近づかない、拡散しないということを各人が肝に銘ずるべきという意見もあるが、楊井さんは「人間はコミュニケーションが大好き。SNSのビジネスモデルには情報を拡散させる工夫も織り込まれている。SNSのビジネスモデルはそれをいかに拡散させるかで、成田ビジネスとして成り立たせた面があって、安易に書き込みを信じるなと言っても、人は自分が信じている人、親しみを持っている人の情報は、信じてしまうもの」と「初めから疑ってかかる」ことの限界を感じている。
     一方で楊井さんは「ただ拡散しないという消極的な態度もだけではなくて、ちょっとこれは事実と違うのではないですかと積極的にいうことも必要」という。
     旧Twitter(X)はコミュニティノートというツールも用意している。「メディアやファクトチェック団体への情報提供も一つの方法だと思う」(楊井さん)。  しかし、異議を唱えたりすると攻撃される心配はないのか? 「Xのコミュニティノートは、指摘した人が攻撃を受けないように、ノートのメンバーは匿名で怪しいツイートに対して、異議を申し立てられる」(楊井さん)。  コミュニティノートに書かれたことに意義を唱えるノートもあり、匿名同士の泥仕合になることも。しかし、楊井さんは「冷静に議論を行うのであれば、大事な場」とみる。
     楊井さんは「既存の伝統的なメディアの役割は大きい」と話す。「テレビや新聞も疑わしいところもあるが、情報のベースにはなる。そこでリテラシーを身につけた上で、ネット情報の海に入らないと、溺れてしまう。伝統のメディアはもっと信頼され、重要なのだと気づいてもらうべきで、だからこそ伝統メディアはきちんと情報を伝えることが必要」と伝統メディアの役割を強調する。
     「ジャーナリズムをもっと強くしなければならない、というのが大元にある。ジャーナリズムがきちんと機能するかどうかで、社会は大きく変わる、それだけ責任も大きい」「特にコロナ禍では、全体主義的な空気に包まれ、メディアや専門家の言説に社会が支配され、検証ジャーナリズムがあまりにも機能していないと感じることが多かった。言説中心型ファクトチェックの枠をを超えて、独自の調査、データ分析、法的視点からの検証にもとりくんできた」(楊井さん)。
     「コロナ禍では、メディアもファクトチェックも機能不全に陥っていた」と楊井さんはみている。「いろいろなものを、モグラたたきのように調べてはいたが、本質的なところを、きちんと検証できていたのか疑問」という。 そんな中で、個別の言説・情報に焦点を当ててその内容が正確かどうかを検証する「言説中心型ファクトチェック」が現在の主流だが、議論のある現実の問題にフォーカスを当てて人々の理解に役立つ事実を検証する「問題中心型ファクトチェック」も提唱されている。「まだやっているところはあまりないが」(楊井さん)。
     例えば、福島原発のタンクから放出される処理水の問題の全体像を明らかにするファクトチェック。「気をつけなければいけないのは、政府が言ってることを整理すればいいというものではない。政府や東電の公式情報も疑ってかかということも含めて、ファクトチェックすることをやるべきだが、残念ながらまだやれていない」(楊井さん)。
     最近注目されている生成AIはどのようにファクトチェエクに絡んでくるのだろう。 楊井さんは「画像が本物か、改ざんされているかを見破るといったAIが得意な分野は、AIにある程度頑張ってもらうことは今後あり得るが、AIが言ってることに最終的に責任を持つのはやはり人間。それを忘れてしまうと、AIの出した情報に人間が振り回される」と注意を喚起する。
     熊本地震でライオンが放たれたという情報はフェイクだったが、それがAIによって判明したとしても、本当に熊本地震で、ライオンが動物園から放たれていないという証明にはならない。ジャーナリストならば必ず動物園に取材するだろうし警察にも確認する。必ず人間の作業が残る」(楊井さん)。  ファクトチェックは誰が担い手になるべきなのだろうか。  楊井さんは「ジャーナリズムが中心になるべき」とみる。
     ネットにデマが溢れ、偽情報問題がっていうのがクローズアップされてくると、G7とかでも、声明にも盛り込まれたり、国連がこのテーマに取り上げるなど、偽情報対策の必要性が、世界中で叫ばれるようになってきた。楊井さんは「これは正直危機感を持っている」と話す。  「偽情報自体も問題だが、あまりその危機を過大視するのもを危機」と思っている。「偽情報対策を行政が前面に出て行うということには、気をつけなければいけない」。  何が本当なのかというのは、そう簡単に答えの出る問題でないことが多い。  スモールファクトですら、真偽が議論になることもあるくらいなので、安易にこれが偽情報と政府などが公的な立場で言い切ると、みんなそちらの方に流れてしまう」。   総務省のプラットフォームサービスに関する研究会でも偽情報対策を議論してきたが、楊井さんは「ずっとファクトチェックは民間で主導で、じっくりやっていくべきだと主張してきた」という。しかし、最近、政府が前面に出るようになってきたという。 「ここ数年、コロナは厚生労働省、ウクライナ危機など安全保障の問題では内閣官房が中心になって、行政が自ら偽情報対策という名のもとで、いろいろな動きをしている」。楊井さんは「これをメディアはほとんど無批判に報道するが、これはちょっとまずいことだと思う。政府が偽情報対策に乗り出すというとき、一体何をするのかを注意深く、ジャーナリズムは見ていかないといけない。それが政府の言論統制に繋がる可能性もあるからだ」と危惧する。  楊井さんは「ファクトチェックはまだ試行錯誤の段階。ただ、10年近くファクトチェックの活動に携わってきて、課題も見えてきたので、私なりにいろんな危機感もありますのでそれをどうやって一般社会の向けて発信していくか考えている」と話していた。
    56 min
  • 第22回は、楊井 人文さんに、ファクトチェックについて聞く
    今回のゲストは、ファクトチェックを自ら手掛けるとともに、ファクトチェックの普及・推進にも務めてきた楊井人文(やない・ひとふみ)さん。
     楊井さんはファクトチェックの普及・推進活動を行う非営利団体であるファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の発足から事務局長を務め、2023年6月に任期満了で退任。 「これからは、より自由な個人の立場でファクトチェックのあり方について考察や支援を行っていく」とのこと。
     「ファクトチェックとは、ある情報が本当かどうかを一から調べ直すこと。一言でいえば『真偽検証』と楊井さん。 「世の中で広がっている言説、情報の内容が事実に基づいているかどうかを調査し、真偽を判断し、調査した結果を人々に順序立てて解説する活動」だ。
     関心を持ったきっかけは、「2011年の東日本大震災と福島原発事故」。大きな不安の中、政府やメディアに対する不信が高まり、ネット上に様々な情報を飛び交った。「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)をめぐる誤報 もあり、 メディアの信頼低下を痛感した」という。
     「メディア報道の正確性・品質を高めるための第三者検証機関が必要ではないか」と考えた楊井さんは 日本報道検証機構(GoHoo=ごふー)を立ち上げて、全国紙を中心に誤報を検証・可視化する活動を展開した。
     楊井さんは、「もっと遡ると、産経新聞記者時代(2002〜2003)に、イラク戦争で大量破壊兵器疑惑を報じたメディアのあり方に強く幻滅した」と振り返る。  しかし、楊井さんは「GoHooだけでは力不足」と考え、「ファクトチェック・ジャーナリズム」を日本にも広げていく必要を感じ、 2017年 FIJを立ち上げた。  FIJはメディア出身者やアカデミズムの人、実務の人などが集まって発足した。  2019年にGoHooは活動を閉じることになった。ファクトチェック実践と人材育成も兼ねて、共著を出したNHK出身の立岩陽一郎氏率いるNPOメディア「InFact」に参画。ファクトチェック部門を立ち上げ、田島輔(現チーフエディター)、大谷友也(リトマス編集長)を引き入れて養成した。楊井さんは、FIJの事務局長に専念するためInFactを1年余りで離職した。
     InFactは今年、IFCNという国際ファクトチェックネットワークの際団体に正式認証も受けた。
     ネット誕生のはるか前に、メディアの事前チェックの営みとしてのファクトチェックが1920年代のアメリカで生まれたと言われている。
     現在のファクトチェックは、ネットが誕生してまもない1994年ごろに生まれたSnopesという様々な噂を検証するサイトが先駆け。
     2000年代に入り、大統領候補など、政治家の発言を検証するポリティカルファクトチェックが盛んになった。代表的なのがFactcheck.org、ポリティファクト。2010年代に入り、世界各国にネット言説を検証するファクトチェックが広がった。
     ファクトチェックには3つのジャンルがあり、「公的言説」「社会的言説」「無名言説」に分けられる 現在「無名言説」のファクトチェックが主流になりつつあるが、個人的には「公的言説」「社会的言説」の方が重要ではないかと考えている。  楊井さんによると、「公的言説」「社会的言説」のチェックは相当難しいが、専門家の力を借りたり、インターネットで情報を集めることで、かつてよりファクトチェックはしやすくなっている。  ファクトチェックをするにあたっては、「IFCNファクトチェック倫理綱領」が5つの原則を定めている。
    ① 非党派性・公正性
    ② 情報源の基準と透明性
    ③ 資金源・組織の透明性
    ④ 方法論の基準と透明性
    ⑤ オープンで誠実な訂正
    の5つだ。
     これらの原則は3つのエッセンスにまとめられる。
    ①公正 Fairness
    ②透明 Transparency
    ③誠実 Integrity (Honestness)
    だ。
     Fairnessは、基準を作ってファクトチェックするということ。いろんなファクトチェックをするにあたって、どの立場であっても、同じ基準で検証するということだ。どちらかに肩入れするとか、どちらかを厳しくしたり甘くしたりするといったことはしないでファクトチェックするというのがFairnessだ。
     Transparencyとは、ファクトチェックをしている人間は、どういう身分で、どういう背景でファクトチェックをしてりる人たちなのかを、きちんとオープンにするということだ。
     ファクトチェックだからといって100%正しいわけではない。間違った場合は、訂正をきちんとオープンにやっていかなければならないという考え方だ。
     これらはファクトチェックをするにあたっての心構えだが、実際にファクトチェックを行うに際しては、3つのの基本ルールがある。
    ①事実と意見を切り分け、検証する事実問題の範囲を特定する。
    ②特定の見解・立場に依拠せず、いずれの立場からみても公正に検証。
    ③調査結果の情報源を明示し、再検証できるようにする。
     ただ、「何をファクトチェックするのかっについては、あまりルールがなく、ファクトチェッカーとして何をファクトチェックするかのの判断は、それぞれのファクトチェッカーが決めているのが現状」という。
    <プロフィール>楊井人文(やない・ひとふみ)慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長を6年近く務め、2023年退任。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。翌年から調査報道NPO・InFactのファクトチェック担当編集長を1年あまり務める。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。
     キャスターは町亞聖&相川浩之
    49 min

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