認知症研究者の佐野俊春さん(@tsano321)に、アルツハイマー型認知症のAβ仮説の歴史と論拠、最近の基礎研究・臨床試験の動向、今後の展望について教えていただきました(9/3収録)
佐野さんタンパク質構造疾患研究チーム岩坪研PhD時代の仕事(の一部)博士論文の要旨神経変性疾患のプリオン様伝播仮説生活習慣病と認知症のレビュー by 佐野さんAβの治験が上手くいかない:Aβを標的とする抗体医薬の治験失敗が続く中で2018年に出たコメンタリー抗Aβ抗体医薬が効かない原因の考察を含むSelkoe達によるAβ仮説レビューAβ*56捏造疑惑に関する記事Aβ*56捏造疑惑が出た時のAlzforumの反応Aβオリゴマーが神経細胞毒性を有する富田先生によるアルツハイマー病の歴史の表1984年 アルツハイマー病患者の脳内の血管壁に沈着したAmyloid βを単離老人斑の主要構成成分はAmyloid β1987年 APPのクローニング1992にamyloid cascade hypothesisというタイトルのperspectiveがscienceに2012年のプロテクティブ変異(アイスラインド変異)の論文Dale Schenkがワクチン療法を考え、合成ヒトAβ42をマウスに注射AN-1792ワクチンの臨床試験、髄膜脳炎、すぐ中止Aβをターゲットにした臨床試験のまとめ軽度ADに限ればsolanezumabは認知機能低下を抑制(訂正:複数の試験ではなく、この研究しかありませんでした)aducanumab論文(Phase1b)認知機能正常な高齢者や認知機能低下が緩やかな高齢者由来のB細胞ライブラリーを用いて開発(Reverse Translational Medicine) 2019年の中間解析で中止になったが、中間解析の後に入ってきたデータを含めて再解析すると、2つの試験のうち1つで効果が出ていた(効果としてはかなり小さい)Phase3が進行中のエーザイの別のAβ抗体(lecanemab)(収録後に試験結果が発表され、承認申請予定とのこと)血液バイオマーカーによる早期発見の研究、レビューその他のAβ抗体としては、Eli LillyのdonanemabがPhase3進行中治験が失敗続きなのにいまだにアミロイドβ仮説が信じられている理由、アミロイドβ仮説の背景、アルツハイマー病の研究対象としての面白さなどを伝えられたら嬉しいです。 と思っていましたが、まさか収録後にレカネマブの主要評価項目達成という大事件が起きたのは予想外でした。このニュースでアミロイドβ仮説に対する世間の風向きも変わったかも?(佐野)「僕は病気に関しては無知なので」と口走ってしまっていますが、当然進行を考えた上でのポーズです(ので「お前MD持ちだろ」とかつっこまないように!)。(萩)一口にアミロイドβ仮説と言っても色々なものがあるということ、それに至るまでの歴史や登場人物が学べて非常に面白かったです。佐野さんありがとうございます!(脇)