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離れていても、家族の絆は変わらない——
そう信じていても、やはり時間の流れは、少しずつ私たちを変えていきます。
後編『花火/食卓の愛』では、夢を叶えた娘と、そんな娘を支え続けた父の再会が描かれます。
父の言葉に背中を押され、東京で新たな人生を歩む娘。
それでも、彼女の心のどこかには、いつも「帰る場所」のことがあったのかもしれません。
夏祭りの賑わいの中で、ふと感じる懐かしさ。
屋台の金魚すくいに、小さな頃の思い出がよみがえる——
そんなとき、そっと差し伸べられる大きな手。
本作のクライマックスを、どうぞ最後までお楽しみください
【登場人物】
・女性(5歳/8歳/25歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる(CV:桑木栄美里)
・男性(45歳/48歳/65歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します(CV:日比野正裕)
<シーン1/娘5歳/花火大会にて>
(SE〜遠くに聞こえる花火の音)
娘: 「パパ、早く早く!」
父: 「そんなに急がなくても、花火はまだおわらないよ」
娘: 「でも、少しでも近くで見たいんだもん」
父: 「ようし、じゃあ堤防までスキップだ!」
◾️BGM(イメージ)/ルージュの伝言(荒井由実)
娘: 父に手をひかれた5歳の夏。
いつも家ではつま先歩きをしているけど、今夜は特別。
目の前で花火を見たいからついつい早足になる。
(SE〜花火の音/より近く)
娘: 「わあ〜」
父: 「きれいだねえ」
娘: 「うん、おっきなまんまる」
父: 「折りたたみの椅子、持ってきてよかったな」
娘: 「もっと下の方へいきたい」
父: 「土手の方かい?」
娘: 「うん」
父: 「いいけど、椅子は安定しないから、草の上に座ろうか」
娘: 「やったあ」
(SE〜土手を降りていく音)
娘: 「よいしょっと」
(SE〜花火の音)
父: 「すごい迫力だな。火の粉が降ってきそうだね」
娘: 「パパ、おひざに座ってもいい?」
父: 「どうぞ」
娘: 私は父の膝の上に腰をおろし、胸にもたれながら
大迫力の打上花火を楽しんだ。
クライマックスはスターマインと尺玉の競演。
二人とも夜空を見続けて首が痛くなってしまった。ふふふ。
<シーン2/娘8歳/バレエ教室にて/花火大会の日>
(SE〜遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン)
娘: それから3年後。8歳の夏。
窓の向こうには、大輪の花火が夜空に広がっている。
花火大会の日、私はバレエ教室でレッスンを受けていた。
バレエのコンクールは夏におこなわれることが多い。
コンクールに向けたレッスンで毎日のようにバレエ教室へ通っていた。
そもそもクラシックバレエを習いたいと言い出したのは私。
私には、3歳の頃からバレエダンサーになりたいという夢があった。
ママに連れていってもらったバレエの舞台を見て
すっかり夢中になっちゃんたんだ。
演目は有名な「白鳥の湖」。
でも私が魅せられたのは、白鳥のオデットではなく、黒鳥。
ライトを浴びる黒鳥オディールの怖いほどの美しさ。
回り続ける漆黒の煌めきから目が離せなくなった。
このときから、私の夢はいつかファーストソリストになって
黒鳥を舞うこと。
花火大会も夏祭りも大好きだったけど、それよりも夢を優先した。
若干8歳の女の子が。
ちょうど花火大会が終わる頃。
私は、バレエ教室の先生から声をかけられた。
”パリのオペラ座バレエ学校を受けてみない?”
パリ・オペラ座バレエ学校。
世界一の水準と言われるパリ・オペラ座バレエ団に入る
多くのダンサーはここへ通う。
そうか。確か8歳から入学は可能だ。
しかも国籍に関係なく、優れたダンサーであれば誰でも応募できる。
もちろんすごい競争率に勝たないといけないけど。
柔軟性、筋力、スタミナも含めた身体的能力が求められる。
”私の身体能力なら大丈夫”
なぜか、先生は太鼓判を押してくれた。
「行きたい」
だけど、だけど、パパやママと離れるのは絶対にいや。
8歳の小さな心は葛藤した。
<シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる>
(SE〜セミの声と風鈴の音)
娘: 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」
父: 「なんだい、それ?」
娘: 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」
父: 「へえ」
娘: 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」
父: 「ほう、いいじゃないか」
娘: 「でも、パリって遠くない?」
父: 「パリ!?」
娘: 父は口をあけたまま言葉が続かなかった。
変な顔をして不自然に笑っている。
そりゃそうよね。
いきなり8歳の娘がパリへ行くなんて言ったら。
食卓は家族が集まって今日あったことを話す場所。
私最近、学校のことより、バレエの話の方が多いかも。
食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。
中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。
大きさは大小さまざま。
この5年の間に、夏祭りの屋台からすくってきた私の戦利品だ。
1匹も死ぬことはなく父が大切に育ててくれている。
娘: 「すっごく考えたんだけど、私ね」
父: 「うん」(※つばを飲む)
娘: 「いかないよ」
父: 「え?」
娘: 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」
父: 「そ、そうか・・・」
娘: パパ、ごめんね。
今はいかないけど、いつか、私行くと思う。
ママは教室の帰り道で
”一緒に行こう”
って言ってくれた。
私はホッとするパパの顔を見ていると
幸せな気持ちになって口元がほころんだ。
<シーン4/場面転換/娘12歳/空港にて>
(SE〜飛行機の離陸音)
娘: 結局、その4年後に私はパリへ旅立った。
受かるとは思ってなかったけど
パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格しちゃったんだ。
ママはすぐにパリのアパルトマンを借りてくれた。
私は18歳までレッスンしながらキャリアを積む。
パパ、ちゃんとお盆とお正月には帰ってくるから。
ごめんね。ごめんね。
<シーン5/娘25歳/東京のバレエ教室にて>
(SE〜遠くに聞こえる花火の音/ダンススタジオのレッスン)
娘: 25歳の夏。
子供たちにバレエを教えながら、ちらっと窓を見る。
あの日と同じように、ガラス越しの夜空に花火が上がっている。
私は、パリ・オペラ座バレエ学校を18歳で卒業したあと
オーディションを受けてパリ・オペラ座バレエ団に入団した。
プルミエ・ダンスールとなり念願の黒鳥を舞ったのは、20歳の夏。
夢を叶えた私は、もう何も思い残すことはなく帰国した。
(なのに、地元へは帰らず東京にいる。
それは、パパのこの言葉があったから)
父: 「オペラ座バレエ団であんな素晴らしい舞台にたったダンサーが
こんな田舎にいちゃいけないよ」
娘: パパの言葉に背中を押されて、私は東京へ。
有名なバレエ団が運営するバレエ教室で子供たちを教えている。
やがて花火大会が終わった。
地元の花火大会の方がすごかったな・・・
パパ・・・
<シーン6/娘25歳/八幡神社の夏祭り>
(SE〜祭り囃子と雑踏)
娘: 来ちゃった。
パパいるかな、と思って直行で夏祭りへ。
そんな都合のいいこと、ないよね。
神社は相変わらずすごい人。
灯篭に灯のともった参道を歩くと・・・
あ、金魚すくい。
その10分後。
私の左手には金魚が1匹入ったビニール袋が揺れていた。
このあと、どうしようかな・・・
いきなり帰ったら、パパもママもびっくりするよね・・・
もう少しお祭り見ていこうかな・・・
そう思った瞬間、私の右手を大きな手が包み込んだ。
父: 「おかえり」
娘: 「パパ!」
■BGM〜「インテリアドリーム」
娘: そのあとは、もう言葉にならなかった。
父も同じ思いだったに違いない。
かろうじて、しぼりだした言葉は、
父: 「そろそろ帰ろうか」
娘: 「うん」
父: 「今まであったこと、いろいろ話してくれるだろ?」
娘: 「うん」
あの食卓で。
早く家に帰って、食卓に座りたい。
ずうっと開けていてくれている、私の場所へ。
「ただいま」
幼い頃の夏祭りの思い出を覚えていますか?
屋台の光、響き渡るお囃子、夜空を彩る花火——そんな情景の中に、大切な人との思い出が詰まっているのではないでしょうか。
本作『夏祭り/食卓の愛』の前編では、幼い娘と父の、夏祭りを中心とした心温まる日々を描きます。
バレエに打ち込む娘と、そんな娘を見守る父。
そして、いつか訪れる「旅立ち」の瞬間。
家族の絆は、離れてもなお続いていくもの。
けれど、だからこそ「食卓」の温もりがどれほど大切なのか、改めて気づかされます。
この物語を読んで、誰かと過ごした大切な時間を思い出していただければ幸いです
【登場人物】
・女性(5歳/8歳/15歳)・・・子供の頃から夏祭りが大好き、雷が超怖い、3歳からクラシックバレエを習い10歳でソリスト。パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し発表会ではプルミエ・ダンス―ルまで上り詰めた。その後パリ・オペラ座バレエ入団のオーディションは辞退。現在は東京のバレエ団で子供たちの育成に心血を注いでいる(CV:桑木栄美里)
・男性(45歳/48歳/55歳)・・・遅くに生まれた末娘を溺愛。娘と一緒に夏祭りへ行くことが一番の楽しみだった。娘がパリへ行ってからは娘の帰郷を心待ちしている。ストーリーは前編後編で交錯します(CV:日比野正裕)
■資料/バレエダンサーの階級
https://www.noaballet.jp/knowledge/term/%20prima.html#:~:text=バレエ団に所属し,とどんどん上がってきます。
【Story〜「夏祭り/食卓の愛/前編」】
<シーン1/娘5歳/バレエ教室の帰り道〜夕立>
(SE〜雷の音/夕立の雨)
娘: 「きゃあっ!」
(SE〜雨の中早足で歩く足音/玄関の扉を開いて閉じる音)
娘: 「雷こわいよ〜!!」
父: 「ようしよし、こわかったね。
よくがんばった、えらいぞ。
もう大丈夫。
パパがついているから」
娘: 「パパ!大好き!!」
◾️BGM(イメージ)/やさしさに包まれたたなら(荒井由実)
父: 5歳の娘が私の胸に飛び込んでくる。
2年前から習い出したバレエ教室。
その帰り道で突然の夕立にあってしまったらしい。
泣きながら、妻のデニムジャケットに顔をうずめて帰ってきた。
娘: 「カミナリ、もういなくなった?」
父: 「うん、どっか行っちゃったよ」
娘: 「ああ、よかったぁ」
父: 「さ、もう心配ないから夕ごはんrr を食べよう。
食卓に座って」
娘: 「はあい」
父: 「今日は、おまえの大好きな卵焼きだぞ」
娘: 「やったぁ!」
父: 「今日のバレエ教室のこと、パパに教えてくれる?」
娘: 「うん。また先生に褒められちゃった」
父: 「そりゃすごいな」
娘: 「ワタシのタンデュがとってもキレイだって」
父: 食卓に座り、バレエ教室の様子を楽しそうに話す娘。
先ほどまでカミナリで取り乱していたのが嘘のようだ(笑)
妻は、娘の横で何も言わずに微笑んでいる。
まるで、絵に描いたような、幸せなひととき。
食卓は家族の絆の象徴だった。
<シーン2/八幡神社の夏祭り>
(SE〜祭り囃子と雑踏)
娘: 「パパ、牛串とパイン串食べたい!」
父: 「あれ?さっきも食べてなかったけ?」
娘: 「いいの!夏祭りなんだから」
父: 浴衣姿の無邪気な笑顔が夜店の間をかけていく。
妻も私もついていくのに必死だ。
娘: 「早く早く!」
父: 「走っちゃ危ないよ」
娘: 「わかってる〜」
父: 家の近くの八幡神社。
参道に並ぶ灯篭に灯りがともり、屋台が軒を連ねる。
ヨーヨー釣り、金魚すくい、輪投げ、射的、千本つり・・・
娘は2本の串を両手に持って、あっちの屋台からこっちの屋台へ。
帰り道、私の右手には2匹の金魚が泳ぐビニール袋。
妻の左手に揺れているのは、白地に赤い模様のヨーヨー。
両手をつなぐ娘の顔には、少女アニメのお面が笑っていた。
<シーン3/娘8歳/網戸から風が入ってくる>
(SE〜セミの声と風鈴の音)
娘: 「パパ、オペラ座バレエ団って知ってる?」
父: 「なんだい、それ?」
娘: 「すごく有名なバレエ団なの。学校もあるのよ」
父: 「へえ」
娘: 「バレエの先生がね。その学校を受けてみたらって?」
父: 「ほう、いいじゃないか」
娘: 「でも、パリって遠くない?
8歳から入学できるからって」
父: 「パリ!?」
父: 驚く私の隣で妻が頬を緩める。
娘8歳の夏。
なんか知らないうちに大きくなったものだ。
食卓で今日あったことを話す娘。
この頃、学校のことより、バレエの話の方が多くなってきた。
食卓の端っこにちょこんと置かれた金魚鉢。
中には紅白模様の金魚が7匹泳いでいる。
大きさは大小さまざま。
この5年の間に、祭りの屋台から娘がすくってきた戦利品だ。
娘: 「すっごく考えたんだけど、私ね」
父: 「うん」(※つばを飲む)
娘: 「いかないよ」
父: 「え?」
娘: 「パパとママと、離れ離れになるのなんて絶対にいや!」
父: 「そ、そうか・・・」
父: 安心すると同時に、
なんだか娘の夢の足枷になっているような気がして心が落ち着かない。
妻の笑顔を見ていると、
”背中を押してあげなさい”
と言っているように思える。
私の心中を知らない娘は無邪気に笑っていた。
<シーン4/場面転換/娘10歳/空港にて>
(SE〜飛行機の離陸音)
父: 結局、その2年後に娘はパリへ旅立った。
なんと、パリ・オペラ座バレエ学校のオーディションに合格。
妻と二人でパリのアパルトマンを借りた。
18歳までレッスンしながらキャリアを積むのだそうだ。
とにかく、体だけは壊さないように。
父の願いはそれだけだった。
<シーン5/八幡神社の夏祭り/娘15歳>
(SE〜祭り囃子と雑踏)
父: 妻と娘が旅立ってからはや5年。
盆や正月くらいは帰ってくると思っていたけど
なかなかまとめて休みをとれないようだ。
世界的なパンデミックもあって、
顔を見られないまま5年が経ってしまった。
もちろん、いつもTV電話の画面越しには顔を見ているけど。
2人がいなくなったあとも
私は毎年、夏祭りに足を運んでいる。
いや別に感傷にひたるとかそんなんじゃなくて、
子供の頃から縁日が大好きなんだ。
でもrrtt参道を歩くと、
どうしても娘と歩いたあの日を思い出してしまう。
男親っていうのは、きっとみんなそうだろう。
大切な人と離れ離れになるとこうやって恋々とする。
右手にはビニール袋に入った金魚が1匹。
私は、毎年金魚すくいで1匹ずつ金魚をとってきた。
この子たちは大切に育てないと。
娘が帰ってきたとき、増えている金魚を見つけて驚かせたい。
それだけで口元が緩んでしまう。
私はなるべく金魚の袋を揺らさないように参道をゆっくりと歩いた。
鳥居のところまで来たとき、なにかが左手に触れた。
娘: 「パパ!」
父: 「うん?」
娘: 「ただいま!Je suis à la maison(ジャ・シザ・ラ・メゾン)」
父: 「あ・・・」
■BGM〜「インテリアドリーム」
父: 娘の右手が私の左手を握っていた。
その横で妻が愛おしそうにうなづく。
娘: 「帰ってきたよ!」
父: 「お、おかえり!rは、早かったな」
娘: 「正確にはね、一時帰宅。学校からまとまった休みをもらったの」
父: 「そうか、よかったな」
娘: 「パパ、褒めて!
今度の発表会で私、プルミエ・ダンス―ルになったの」
父: 「プ、プルミエ・・・ダンス―ル?」
娘: 「日本でいうと、ソリスト。おっきな役がついてソロで踊るの」
父: 「すごいじゃないか」
娘: 「そのご褒美で休みがもらえたんだもん」
父: 「さすが、私の娘だ」
娘: 「でしょう。
直行でここに来たのよ。パパ絶対いると思った」
父: 「ははは、ご名答。
お祭りは?もう楽しんだかい?」
娘: 「ううん、それより早く家に帰りたい。
食卓で、いろいろ報告したい」
父: 確かに。
家族3人で久しぶりに過ごす夕餉(ゆうげ)。
私の娘も妻も、ついつい早足で家路を急いだ。
娘の好きな卵焼きと豚汁を作ってやろう。
美味しそうに頬張る娘の笑顔を想像して、思わず顔がほころんだ。
前編から3年——。『遅れてきた春』の続編、『June Bride/KICHI』へようこそ。
3年の月日は、人を変えるには十分な時間です。彼女はキャリアコンサルタントとして子どもたちの未来に向き合うようになり、彼は主任教諭となりさらに教育に情熱を注いでいます。そして、二人は大切な時間を重ね、ある「決断」の時を迎えようとしています。
そんな二人の物語の舞台となるのは、再び「ねむりデザインLABO」。3年前に偶然出会った場所で、今度はどんな物語が紡がれるのでしょうか。
結婚、人生のパートナー、そして「眠り」という日常の大切な時間。それらが交錯する、少し大人なラブストーリーをお楽しみください
【登場人物】
・女性(28歳)・・・前編から3年後。変わらずVチューバーを続けながらダンスの公演を定期的におこなっている。アバターを使ったキャリア授業は小中学校で広がり、現在は週に6コマを受け持つ。でも実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)
・男性(30歳)・・・30歳を迎え主任教諭になった。キャリア教育には特に熱心でドローンや生成AI技術などの専門家を呼んでさまざまな授業を取り入れている。彼女とは付き合いはじめて3年目を迎えプロポーズを考えている。子供が大好き(CV:日比野正裕)
<シーン1/小学校の教室>
(SE〜学校のチャイム/小学校の教室)
彼女: 「はい、今日の授業はここまでにしましょう。
みなさん、生成AIの使い方はしっかりマスターしましょうね」
(SE〜小学校の教室/子供たちの返事)
彼: 「みんな、テキストを使った生成方法はもう理解したな。
来週は全員に発表してもらうぞ」
彼女: 「次回はフリーハンドで描いたイラストを生成AIで仕上げてみましょう。
それを3Dプリンターでフィギュアにしてもいいわね」
(SE〜小学校の教室/子供たちの歓声)
◾️BGM/
彼女: 初めてこの学校へきてからちょうど3年目。
最初に教壇に上がったときは覆面のVチューバー。
臨時のキャリア講師だった。
転機は去年。キャリアコンサルタントの国家資格を取得したこと。
いまは、いろんな学校でキャリアタイムを企画・実施している。
もちろん、素顔で。
実務は、子どもたちの進路相談に乗ったり、キャリア形成の支援。
今だから言うけど私、ホントは昔から、子どもって少し苦手だった。
彼と真逆なの、ふふ。
子どもたちの前で素顔を見せなかった理由には、それもあるんだ。
でも、こんな小さな子たちが真剣に将来に向き合う姿を見ているうちに
ああ、子どもも大人もないんだなって。
それにみんな、なんでも私に相談してくれるから可愛くって・・・
あれ?
じゃあ私、なんで子どもが苦手だったんだろう。
(SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか)
(SE〜LINEの着信音/会話の間にも着信音が鳴る)
彼女: ふふ。まるで定時連絡。
マメな彼から今日の予定が送られてくる。
彼: 『おつかれ!
今日はこのあと職員会議だから夕食、1時間後でどう?』
彼女: 私もルーティンで返信する。
『オッケー。私も教育委員会に顔だけだしてくるから』
彼: 『じゃあ待合せはいつものカフェで』
彼女: 『その前に行きたいとこあるんだけど』
彼: 『どこ?』
彼女: 『ねむりの悩みを相談できるとこ』
彼: 『あー了解。じゃあ待合せ場所を変えよう』
彼女: 『いいの?』
彼: 『僕も行きたいと思ってた』
彼女: 彼はいつもテンションが高いけど、
なんだか今日は私に気を遣ってる感じ。
私は返事を絵文字で返して、学校をあとにした。
<シーン2/ねむりデザインLABO>
(SE〜店内の雑踏/小走りの足音)
彼女: ああ。ハイヒールってちょっと走りにくい。
市が主催する定例のキャリア会議。
私の提案が白熱して長引いてしまった。
提案したのは「木工」。
いまの子どもたちに、木工の技術を知ってもらいたいの。
Vチューバーの私が「木工」って、なんかヘンな感じだけど
子どもの頃から木の温もりって好きだったんだ。
タブレット上でキャラクターを作って動かすだけじゃなくて
自然の木から形あるものを作るってこと教えたかったの。
家具屋さんの知り合いもいるしね(笑)
(SE〜街角の雑踏/小走りの足音)
余裕で間に合うと思ってたけど、
閉店まで1時間を切ったかな。
小走りで駆け込む店内。
向かうのは私たちの間でお約束。ベッドコーナーへ。
彼がスリープアドバイザーとなにか話してる。
顔は笑ってるけど、いつもよりまじめっぽい。
なんだなんだ?
彼: 「おつかれ。結構時間かかったね」
彼女: 「ごめんなさい。
委員会で、生成AIの授業をもっと深掘りしよう!
っていったら激論になっちゃって」
彼: 「はは、君らしいな」
彼女: 「あなたはなに話してたの?」
彼: 「もちろんベッドの話だよ」
彼女: 「どのベッド?」
彼: 「うん、どれもこれも迷っちゃうんだけど、
これからのこと考えるとポケットコイルのマットレスかな」
彼女: 「そう?どうして?」
彼: 「だって、君は硬めのマットレスがいいって言ってただろ」
彼女: 「うん。ちゃんと覚えててくれたのね」
彼: 「寝返りもうちやすくて」
彼女: 「そうそう」
彼: 「体圧分散性も重要だって」
彼女: 「うん。でもそれはあなたもでしょ」
彼: 「そうさ、だからポケットコイルのマットレスがいいなって」
彼女: 「あなたも買うの?」
彼: 「2人一緒に買うんだよ」
彼女: 「どういうこと?」
彼: 「こういうこと」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼女: そう言って彼は胸ポケットから小さな赤い箱をとりだした。
彼: 「聞いてくれる?」
彼女: 「ちょっとちょっと。待ってよ。ここで?」
彼: 「そうだよ。だって3年前、2人の物語が始まった場所じゃないか」
彼女: 確かに。
それに、閉店前でお客さんも周りにはちょうどいない。
さっきまで彼と話していたスリープアドバイザーも
ベッドの向こうで背中を向けている。
ふふ。
別に、見届けてくれればいいのに。
彼: 「僕たち、まだ3年だけど、もう3年でもあるよね」
彼女: 「そうね」
彼: 「ここから先はずっと、2人一緒にいたいんだ」
彼女: 「うん」
彼: 「だから、このポケットコイルのベッドとともに
一生そばにいてくれる?」
彼女: 「はい。います」
彼: 「ありがとう」
彼女: 「でも・・・」
彼: 「え?」
彼女: 「一生ベッド買い替えないつもり?」
彼: 「あ、いや、そうじゃないけど・・・」
<シーン3/結婚式場>
■BGM〜ウェディングマーチ
(SE〜拍手と歓声/「おめでとう」の声)
彼女: そして私は、6月の花嫁になった。
私たちの新居には、マットレスが2台並んでいる。
1台は硬めにアレンジされた私用、
もう1台は柔らかめが好きな彼のベッド。
2台とも体圧分散性に優れたポケットコイルのマットレス。
木製のフレームが心地いい。
人生の1/3は睡眠。
睡眠の質を上げて、人生を豊かに。
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼: 「いつまでも幸せにするよ」
彼女: 「ありがとう」
彼: 「僕の方こそ。
最高の人生にしてくれてありがとう」
彼女: 「うん・・・。
いつまでも大切にしてね。
私も、ベッドも」
彼: 「またそれを言う」
彼女: 「ずうっと言い続けたらだめ?」
彼: 「いや。ずうっと言ってほしい。
必ず約束を守り続けるから」
彼女: 「あなたのそういうところ、好きよ」
照れながら見せる白い歯。
私、3年前、そのまぶしさに魅せられたの。
いつまでも笑顔でいられるよう、
2人で人生を作っていきましょ。
実は、今日は私、Vチューバーとしての最後のステージ。
だけど、舞台に立つのは一人ではない。
モーションキャプチャー用のマーカーをつけた
ウェディングドレスとタキシード。
結婚式場の大型ディスプレイに映し出された
私たち2人のアバターが照れくさそうにキスをした。
『遅れてきた春/ねむりデザインLABO』は、異なる世界に生きる二人——小学校の教師とVチューバーの女性が、キャリア授業を通じて出会い、「眠り」をきっかけに心を通わせる物語です。
春の訪れは誰にでも平等ですが、そのタイミングは人それぞれ。子どもが苦手なVチューバーと、子どもが大好きな教師。正反対の二人が偶然の出会いを重ね、やがて特別な時間を過ごすようになる。そんな「少し遅れてきた春」の物語をお楽しみください。
この物語は、家具とインテリアの「ねむりデザインLABO」を舞台に描かれ、眠りの悩みや快適な睡眠環境についても触れています。物語を楽しみながら、あなたの「眠り」についても考えるきっかけになれば嬉しいです
【登場人物】
・女性(25歳)・・・Vチューバー。この春4月から名古屋市内の小学校で始まったキャリア授業でアバターのキャラクターを作りスーツを着て動かす授業を担当する。実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)
・男性(27歳)・・・22歳の新卒時に教員免許を取得。小学校で五年生の担任をつとめるとともに課外活動やボーイスカウトも含め積極的にいろいろな活動に取り組んでいる。この春新任の女性教諭にキャリア教育をお願いしている。子供が大好き(CV:日比野正裕)
【Story〜「遅れてきた春/ねむりデザインLABO/前編」】
<シーン1/小学校の教室>
(SE〜学校のチャイム/小学校の教室)
彼女: 「みなさん、はじめまして。
私はVチューバーです」
(SE〜小学校の教室/「おお〜」というどよめきがおこる)
彼: 「なんだ、みんな知ってるのか?
一応、先生からも説明しておくぞ」
◾️BGM/
彼: 小学校五年生の教室。
男の子も女の子も、みんな興味津々だ。
今回お願いしたのは、女性のVチューバー。
顔出しはNGなので覆面をしている。
元々は、お芝居とかダンスをするのが生業(なりわい)だそうだ。
それでも最近は、芝居よりVチューバーの方が忙しいという。
黒板と、生徒たちとの間には小さな衝立。
彼女はその向こう側へ移動して覆面を脱いだ。
事前にセッティングされたカメラの前に立つと
大型モニターの中のキャラクターが目覚める。
彼女の動きに合わせてキャラクターが踊りだした。
クラス中に歓声が上がる。
私は学年主任でこのクラスの担任教諭。
春からスタートしたキャリア教育の授業を担当している。
子供たちの視線を一斉に浴びながら
キャラクターがポーズを決める。
エンターテインメント満載の授業。
1コーラスのボカロミュージックに合わせたダンスのあと、
彼女は再び覆面をして生徒たちの前に立った。
彼女: 「今度はみんなにもキャラクターを動かしてもらいましょ」
どよめきと大歓声。
そのあとは、順番争いが起きるほど、大いに盛り上がった。
(SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか)
彼: 「先生!」
彼女: 「あ、はい・・・」
彼: 2コマ連続の授業。
終わって帰ろうとするVチューバーを呼び止めた。
彼女: 「なんでしょう?」
彼: 「今日はどうもありがとうございました」
彼女: 「いえ、こちらこそ。
あんな感じでよかったのかしら」
彼: 「はい。
子供達があんなに目をキラキラさせたの、ホント久しぶりです」
彼女: 「そうですか」
彼: 「よかったらお茶でも飲んで少しお話しませんか?
あと15分でホームルーム終わりますから」
彼女: 「ありがとうございます。
でも、ちょっと今日は・・・先約がありますので。
また誘ってください」
彼: 「そうですか・・・
わかりました。じゃあまた今度。きっとですよ」
彼: 考えるより先に言葉が出てしまった。
ちょっと強引すぎたかな。
彼女は曖昧な笑顔で校門をあとにした。
<シーン2/ねむりデザインLABO>
(SE〜店内の雑踏)
彼: 放課後のホームルームが思ったより早く終わったので
いつもの家具屋さんへ足を向ける。
行き先はこれまたいつものベッドコーナー。
ねむりデザインLABO、というらしい。
最近ずうっと寝不足で体調が悪い。
枕を変えて少しは眠れるようになったけど、
首・肩・腰の痛みは慢性的になってきてるなあ。
そんなことを思いながら、
デザイン的に並べられたベッドを見ていたとき。
電動ベッドに横になる女性に目がいった。
くつろいで目を瞑るスレンダーな寝姿。
思わず近寄っていくと・・・
彼女: 「あ・・・」
彼: 「あれ?
先・・生?」
彼女: 「え?」
彼: 「僕です。今日キャリア授業でお世話になった小学校の・・・」
彼女: 「ああ、担任の。
いやあね、こんなところを見られちゃうなんて」
彼: 「いえいえ、それにしても奇遇ですねえ。
先生も家具屋さんにいらしてるなんて」
彼女: 「はあ・・・。
あのう・・・」
彼: 「はい」
彼女: 「その、”先生”と呼ぶの、やめていただけません?」
彼: 「え」
彼女: 「私、そんな、先生なんて呼ばれるような人間じゃないので」
彼: 「や、これは失礼。
講師としてお招きしているのでつい」
彼: しまった。なんか気まずいかな。
彼: 「以後気をつけます」
彼女: 「あ、いえ、そんなつもりじゃないので」
彼: 起きあがろうとする彼女を制して声をかける。
彼: 「あ、そのままそのまま。
ところで先生、じゃなくて、
あ、あなたもベッドを探しているんですか?」
彼: 彼女は小さく微笑みながら、うなづく。
彼: 「ひょっとして眠りの悩みがあるとか?」
彼女: 「はい。Vチューバーって仕事がら首・肩がいつも凝っちゃうんです」
彼: 「ああ!実は僕もなんです!」
彼女: 「先生も?」
彼: 「授業って立ちっぱなしでしょ。
しかも黒板って、割と上を向いて書いたりするので」
彼女: 「へえ〜」
彼: 「首・肩と、腰、かな」
彼女: 「全部じゃないですか」
彼: 「そうなんです。だからよくここへきて相談してるんです」
彼女: 「相談?」
彼: 「はい。スリープアドバイザーに」
彼女: 「まあ。先生も・・・」
彼: 「え?ってことは・・・」
彼女: 「ええ。私もスリープアドバイザーに相談してます」
彼: 「そうなんだー」
彼女: 「先週は、頭の形を測ってもらいました。
首のS字の深さもわかるので、枕を変えてみたんです」
彼: 「あ、僕もそれやりました。
今使ってる枕の高さ、
全然合ってなかったのがわかって、ショックだったなあ」
彼女: 「おんなじですね」
彼: 「ほんとですね!
実はいま、ベッドも買い換えようかと思ってて」
彼女: 「どんなベッドを検討してるんですか?」
彼: 「なんか、いろんな種類があるみたいなんで、迷ってます」
彼女: 「体圧分散してくれるのがいいって聞きました」
彼: 「体圧分散!
僕、骨太なんで、それすごく重要です。
電動ベッドはどうですか?」
彼女: 「すっごく気持ちいい。
宙に浮いてるみたい」
彼: 電動ベッドの足と背中をリクライニングさせながら
うっとりした表情で彼女が答える。
彼: 「あ、それいいかも」
彼女: 「じゃあ、一緒にスリープアドバイザーに相談してみましょうか」
彼: 「はい!」
彼女: 「そんな、敬語っぽい話し方じゃなくていいですよ。
先生の方が、年上なんですから」
彼: 「ああ、わかりました。
じゃあ、僕からもひとつ、いやふたつお願いしていいですか?」
彼女: 「なんでしょう」
彼: 「僕のことも”先生”って呼ぶの、やめてください」
彼女: 「え、だって、先生じゃないですか」
彼: 「いまは先生じゃないですよ」
彼女: 「なんて呼べばいいんですか?」
彼: 「なんでもいいです。先生以外なら。名前でも・・・」
彼女: 「え?」
彼: 「あ、いえいえ。なにも」
彼女: 「もうひとつのお願いは?」
彼: 「ああ、えっと、
このあと、お茶でもしながら、もう少しだけお話しませんか」
彼女: 「あ・・・」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼: あ。言っちゃった。
1日に2回も断られたら立ち直れないなあ。
でも、彼女から返ってきた答えは、僕の不安を吹き飛ばした。
彼女: 「お茶っていうより、もう食事の時間ですね」
彼: 「それならもちろん!」
彼: おもわず満面の笑みで答えてしまう。
遠くで僕たちを見ていたスリープアドバイザーが優しく微笑んでいる。
きっとものすごくわかりやすい表情をしていたのだろう。
彼女はベッドをリクライニングさせたまま吹き出した。
この日、この瞬間から、僕と彼女の物語はスタートした。
小学校の教師とVチューバー。
出演キャラの組み合わせとしては異色になるのかな・・・
遅い春の予感は、僕の胸にときめきを運んできた。
彼女の仕事は、やりがいがありながらも決して楽なものではありません。
そんな彼女の支えとなるのは、老人ホームの仲間たち、そして遠くから見守る彼でした。
仕事に、夢に、そして恋に——。
新しい季節の風が吹き抜ける中、彼女の心は少しずつ未来へと向かっていきます。
「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
この言葉が、彼女にどんな決断をもたらすのか・・
【登場人物】
・彼女(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・・(CV:桑木栄美里)
・彼(25歳)・・・広告会社に勤めて足かけ4年でこの春起業した。Web解析士の資格を取得してホームページ制作・管理とSNSマーケティングの仕事で走り回るが・・・(CV:日比野正裕)
<シーン1/堤防沿いを歩くカップル>
(SE〜小川のせせらぎ)
彼女: 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
彼: 「なんだい、それ?
そんなアニメもあったっけ」
彼女: 「もう〜。
マーケターならそのくらい知っててよ」
彼: 「知ってるよ。詩だろ」
彼女: 「そう。ポール・ヴァレリーの詩。
うちの入所者さんに、この詩が好きな人がいるの」
◾️BGM/
彼: 彼女は、この春から養護老人ホームで働いている。
仕事はやりがいがあるって言ってたけど、実際には大変そうだ。
肉体的にも精神的にも。
だって、彼女が働き出してから、デートしたのは今日がはじめて。
もう5月だというのに。
体壊さないといいけど。
彼女: 「なあに?黙っちゃって。
あ、また、私の仕事のこと考えてるんでしょ」
彼: 「いや、そうじゃないけど」
彼女: 「うそばっかり。
働き方改革に逆行した ブラックな業界だって言いたいんでしょ」
彼: 「そんなこと思ってないって」
彼女: 「だって、顔に書いてあるんだもん」
彼: 「ひどい誤解だな。
福祉の業界が大変だってことくらいわかってるよ」
彼女: 「じゃあ、なんでそんな、眉間に皺が寄るの」
彼: 「君は僕が起業したこと、忘れてない?」
彼女: 「忘れているわけないじゃない。
一緒にお手伝いしたんだもの」
彼: 「うん。すっごく嬉しかった。
書類作るのとか手伝ってくれて。
この恩は一生忘れないよ」
彼女: 「おおげさだなあ。
それで、順風満帆なんでしょ」
彼: 「まあだいたいはね。
いい風が吹いてるよ」
彼女: 「さわやかな大気が海より湧きあがり、
わたしに魂を返す」
彼: 「お!ポール・ヴァレリー。
まあ、そうなんだけどね。
一人でやっていくのは大変なんだな、やっぱり」
彼女: 「そうなの」
彼: 「うん。営業も、データの分析もすべてひとりだからな」
彼女: 「ふうん」
彼: あんまり細かく語り出すと、ただの愚痴になっちゃうからなあ。
実際には、自分の労務管理とか経理とかやらなきゃいけないし。
外で打合せしてオフィスに帰ってきてからデータの分析して
レポート作ってると夜中の12時を回っちゃう。
この前なんて目を充血させて打合せしてたら
クライアントが僕の目ばっかり見るもんだから、話が全然進まなかったからなあ。
彼女: 「あ?ひょっとして・・・眠れてないんじゃない?」
彼: 「え」
彼女: 「図星でしょ」
彼: 「あ、まあね。そりゃこのライフスタイル見てたらわかるよなあ」
彼女: 「実は私もついこの前まで不眠症に悩んでいたんだ」
彼: 「そうなの?」
彼女: 「うん。今はぐっすり眠れているけどね」
彼: 「ホント?なにをしたの?」
彼女: 「なら、いまから治療にいきましょうか」
<シーン2/インテリアショップ>
(SE〜インテリアショップのガヤ)
彼: 彼女が連れてきてくれたのは、
病院ではなく、なんとインテリアショップ。
放射状にディスプレイされたベッドの前で
スリープアドバイザーがわかりやすく説明してくれる。
不眠の症状について。うん。
寝つきが悪く、ベッドに入っても30分以上眠れない。(眠れない)
途中で目が覚めて、なかなか寝付けない。(寝付けてないな)
朝早く目が覚めてしまう。(うん)
ぐっすり眠った気がしない。
彼女: 「ちょっと〜、やばくない。
全部あてはまってるじゃん」
彼: それから、不眠の原因。
痛みをともなう関節炎やリウマチ。
花粉症や蕁麻疹。
そして、ストレス。
彼女: 「やっぱストレスだよね」
彼: で、不眠の対処法。
花粉症やアレルギー性鼻炎は薬を処方してもらってる。
ストレスは根本的な原因が自分だから
ライフスタイルを変えるしかない、、、か。
彼女: 「あとできることは、寝具のチェックだね」
彼: そう言って、彼女はウインクした。
片手に測定器を持ったスリープアドバイザーが僕の頭の形を測る。
そうか。
僕の頭、こんな形をしていたんだ。
彼女: 「ひょっとして、枕が高いんじゃない?」
彼: あ、そうかも。
毎朝起きたときに、首とか肩が凝ってるもんなあ。
スリープアドバイザーは僕にフィットする枕をチョイスしてくれた。
マットレスと首の角度が5度っていうのが、快眠へ誘うんだって。
実際に寝てみても、うん首が疲れない感じ。
あぁ、そういうことなんだな。
彼女: 「あなた、オフィスに泊まってたりしてない?」
彼: 「うん。遅くなると帰るの面倒だから」
彼女: 「ってことは、ソファベッドで寝てるでしょ」
彼: 「うん、だって、オフィスにはそれしかないもん」
彼女: 「ソファベッドは仮眠用よ。ちゃんとお家のベッドで寝なさい」
彼: 「うん、わかってる」
彼女: 「そのマットレスも要検討かな」
彼: 「え?なんで?」
彼女: 「まあまあまあ。このベッドに寝てみて」
彼: 言われるまま横になる。
あれ?(笑いなども演出)
ふにゃふにゃってわけじゃないのに、体が包み込まれる感覚。
彼女: 「どんな感じ?」
彼: 「(うん)力がすうっと抜けていく感じ」
彼女: 「ポケットコイルって言うんだって」
彼: 「へえ〜」
体圧分散性が高い、というのが売りらしい。
確かに、骨の部分がゴツゴツあたる感じも全然ないし、自然な寝心地。
彼女: 「硬さも選べるらしいよ」
彼: 「僕は硬めがいいな」
彼女: 「ふふふ」
彼: 「(ん?)どうしたの?」
彼女: 「私とおんなじ」
彼: この感覚、すごく気持ちがいいな。
今日家に帰ったら、思い出して比べてみよう。
彼女は無理にすすめるわけでもなく、ただただ僕をみつめて笑っていた。
<シーン3/公園のベンチに佇むカップル>
(SE〜小鳥のさえずり)
彼女: 「で、結局マットレスはどうしたの?」
彼: 「うん、ナイショ」
彼女: 「もう〜」
彼: 「でも、不眠は治ったよ」
彼女: 「え?じゃあ・・・」
彼: 「今度、うちへ遊びにおいでよ」
彼女: 「ふふ。社会福祉士の試験に合格したらね」
彼: 「んー、試験っていつだっけ?」
彼女: 「来年の春よ」
彼: 「そうか。
それじゃあ僕もそれまでにいろいろ準備しなきゃ」
彼女: 「まだやらなきゃいけないことがあるの?」
彼: 「ああ。すっごく大事なことがね」
彼女: 「なあに?」
彼: 「うん、それも内緒」
彼女: 「ひどーい」
彼: 「まず最初にしないといけないのは・・・」
彼女: 「もう〜。もったいぶらずに教えてよ」
彼: 「君の家にご挨拶にいく」
彼女: 「え・・・」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼: 「ご両親、お付き合いを認めてくれるかな」
彼女: 「・・・いきなりだとびっくりするかもね」
彼: 「あ、じゃ君からマーケティングリサーチしておいてよ」
彼女: 「やあねえ、その言い方」
彼: 「ちなみに、お父さんってこわい?」
彼女: 「私にはすっごく優しいわよ〜。
きっと彼氏には ちょっと強面だけど」
彼: 「強面、、、うん、ようし。
風を思いっきり吸い込んで立ち上がるぞ。
風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
彼女: 「ふふ。ありがとう」
彼: 彼女の表情は終始明るかった。
僕は自分の胸に誓う。
これからもその笑顔のために生きねばならぬ。と。
新しい環境、新しい出会い——春は希望と不安が入り混じる季節。
主人公は新社会人として養護老人ホームで働き始めたばかり。そこで出会ったのは、ポール・ヴァレリーの詩を口ずさむ老人でした。
仕事に追われ、睡眠不足と戦いながらも、彼女は前へ進もうとします。日常の中で見つけた、小さな「気づき」が彼女を大きく成長させていく——。
「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
この言葉が彼女の心をどのように支えていくのか—
【登場人物】
・女性(22歳)・・・この春から新社会人一年生。養護老人ホームで働きながら来年社会福祉士の資格をとり、市の社会福祉協議会へ転職したいと考えていたが・・(CV:桑木栄美里)
・老人(70歳)・・・5年前に長年勤めた不動産会社を定年退職。古希を迎えたのを機会に娘夫婦のすすめで養護老人ホームへ入居したが・・(CV:日比野正裕)
<シーン1/老人ホームのエントランスロビー>
(SE〜老人ホーム=病院のガヤと朝の小鳥)
彼女: 「おはようございます!」
◾️BGM/
彼女: 養護老人ホームのエントランス。
掃除の行き届いたロビーを通って 今日も元気に出勤する。
老人: 「お、今朝も元気だねえ」
彼女: 「あ〜、元気だけがとりえだって思ってるんでしょ」
老人: 「ちゃうちゃう。今日も元気をもらえて若返るなあってこと」
彼女: 「やだ、私の若さを持ってかないで〜」
老人: 「あはははは。
風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
彼女: 入居者の中で一番若いおじいちゃん。
いつもポール・ヴァレリーの詩を口にする。
この春入居したばかりで 元気いっぱい。
私も今年卒業して 施設で働き出した新人だから
なぜか気が合うんだなあ。
だけど・・・
実は、元気がいいのは朝の出勤時だけ。
夕方近くなってくると だんだんテンション下がってくるんだよね。
肩と腰の疲れもピークになってくるし。
これって・・・五月病?
あ〜ん。もう〜だめだめ。そんなこと考えちゃ。
気持ちだけでもテンションあげてかないと。
にしても・・・
やっぱ疲れの原因は睡眠不足かなあ。
いやいや。
睡眠不足だから五月病になるわけで・・・
あ〜。
どっちにしても負のループ。断ち切らないと。
老人: 「今日は早番かい?」
彼女: 「そうよ〜、この笑顔を見られるのも夕方までってこと」
老人: 「まあ、毎日一生懸命で疲れているだろうからな。
残業なんかはせずに帰ってゆっくり休みなさい。」
彼女: あ。
やっぱりわかっちゃうのかなあ。
疲れは顔に出るもんねー。
とはいえ 私にはちゃんと目標がある。
1年間老人ホームで働きながら勉強して、
来年、社会福祉士の資格をとる!
合格率30%という 難関の資格だけど、がんばらなくちゃ。
私が卒業した四年生大学は、福祉系じゃなかったからね。
どうしても 1年以上の実務経験が必要になってくるんだ。
施設に入ったら すぐに初任者研修を受けて、いまはヘルパー。
社会福祉士になったら、市区町村の社会福祉協議会で働くつもり。
介護を受けたい人の相談を聞いて、少しでもお役に立ちたい。
まあ、今の仕事も同じだけどね。
老人: 「あ、来年の社会福祉士試験のこと、考えてるな」
彼女: 「なあに言ってるの?」
老人: 「頑張るんだよ。応援してるから」
彼女: 「ありがとう」
彼女: こう言われるたびに うるっとしちゃう。
それを気づかれないようにして、食堂へ急いだ。
ラジオ体操のあとは 食事の介助。
みんなが朝食後 食卓でくつろいでいる間に お部屋を掃除する。
あら〜、入居者のベッド、だいぶんヘタってきてるなあ。
所長は新しいベッドに買い替えなきゃって言ってたけど
50人分もあるから大変だわ。
腰が痛い人、肩こりがひどい人。
柔らかいマットレスがいい人、硬いマットレスじゃないと眠れない人。
高い枕が好きな人、低い枕しか受け付けない人。
もう、たいへん。
みんなのリクエストに答えることができるのかなあ。
それと気がかりなのは、私自身、最近ひどい不眠症。
仕事はやりがいがあるけど、時間が足りなくて。
なのに 働き方改革で早く帰りなさいって言われるし。
ストレスがどんどん溜まっていく。
なんとかしないといけない。
<シーン2/インテリアショップ>
(SE〜インテリアショップのガヤ)
彼女: 「え?そうなんですか!?」
仕事帰りにふらっと立ち寄ったインテリアショップ。
ベッドコーナーで スリープアドバイザーに相談したら・・・
彼女: 「枕やマットレスが 不眠の原因になっているかも?」
そういえば、朝起きたら腰が痛かったり、
寝てるとき寝返りばっかりうってるかも。
ここんとこずうっと、ぐっすり眠れたことなんてないもの。
スリープアドバイザーは 測定器で 私の頭の形を 正確に測ってくれた。
あ、確かに首の深さに対して、今の枕は高すぎるかも。
彼女: 「ポケットコイル?」
最近よく聞くようになった、マットレスの素材名。
体圧分散性?どういうこと?
寝ているときに体にかかる圧力を分散する?
ゴツゴツした感じじゃなくて、包み込むような感じ?
へえ〜。
硬さも選べるんだ。
私は少し硬めがいいな。
お、私の給料でもなんとか買えそうだわ。
5年保証もついてるし。
よし。これに決めよう。
睡眠は 人生の1/3。
貴重な時間を 睡眠不足なんかで無駄にはできないもの。
私の人生を豊かにするためのベッドってこと。
あ、ちょっと待って。
これ、老人ホームのみんなにもいいんじゃない?
こんなベッドなら、腰だの肩だの痛いって人にもいいかも。
私はすぐに所長に連絡を入れた。
<シーン3/老人ホームの食堂>
(SE〜老人ホーム=病院のガヤ)
老人: 「ありがとう。おかげでぐっすり眠れるようになったよ」
彼女: 「ホント?よかったあ」
老人: 「朝起きたときに、体が疲れてないってのはいいもんだな」
彼女: 「実は私もなんです。
枕とマットレスを変えてから 五月病も吹っ飛んじゃった」
老人: 「なんだ、五月病だったのかい?」
彼女: 「あ、しまった」
老人: 「あんたはちゃんと目的を持ってるから。
五月病なんかには負けるわけがないよ」
彼女: 「やだなあ。買いかぶりすぎだって」
老人: 「そんなことはないさ。
だって、来年の今頃はここにはいないんだろ」
彼女: 「うん・・・」
老人: 「社会福祉士になって」
彼女: 「うん・・・」
老人: 「役場や役所で」
彼女: 「うん・・・」
老人: 「高齢者や病気の人の相談にのってくれるんだろ」
彼女: 「うん」
老人: 「なんてたっけなあ、えっとソーシャル・・・ソーシャル・・・」
彼女: 「ソーシャルワーカーよ(笑)」
老人: 「おうおう、そう、それそれ。
その、なんとかワーカーになって走り回ってほしい」
彼女: 「もう(笑)」
老人: 「ここからいなくなっちゃうのは寂しいけど
み〜んなあんたのこと、応援してるからな」
彼女: 「ありがとう。がんばる」
老人: 「まあ、もう一年くらい先延ばしにしてもらってもかまわんけどな」
彼女: 「先延ばしになんてしません。ぜ〜ったい 来年受かってみせるから」
老人: 「そうそう。その意気その意気」
彼女: 最近 入所者のみんなと話をすると必ずこの話になる。
応援してくれるのは嬉しいけど、プレッシャーも大きいんだぞ。
な〜んて 口が裂けても言えないけどね(笑)
老人ホームのみんなに背中を押されて
仕事と勉強の 春夏秋冬が 通り過ぎていった。
<シーン4/老人ホームの朝の風景>
(SE〜老人ホーム=病院のガヤと朝の小鳥)
彼女: 「おはようございます!」
老人: 「やあ、おはよう」
彼女: 「なあに?ニヤニヤして。
私の顔になんかついてる?」
老人: 「いやいや、ちょっと、こっちへ来てくれないか」
彼女: 「え〜。
これから申し送りしなきゃいけないし、レクの準備もあるから」
老人: 「いいからいいから、はいこっちきて」
彼女: 「どこ行くの?
そっちはデイルームじゃない?」
老人: 「そうだよ。さ、中入って」
彼女: 「もう・・・」
(SE〜扉を開ける音「ガラガラガラ〜」)
彼女: 「あ」
全員: 「おめでとう!」
(SE〜20〜30人くらいの拍手)
■BGM〜「インテリアドリーム」
老人: 「晴れて社会福祉士だな」
彼女: 「そっかぁ・・・合格発表今日だったんだ」
老人: 「なんだなんだ。こんな大事な日を忘れてたって?」
彼女: 「だって、毎日バタバタだったんだもの」
老人: 「おい所長、聞いてるか。
こき使いすぎじゃないか〜」
彼女: 「え・・所長もいたの!?(笑)」
入所者の輪の中から所長が恥ずかしそうに顔を出す。
デイルームには 風船やら紙テープやらで
手作りの装飾がほどこされている。
中央の窓際には、横断幕に、
『社会福祉士おめでとう!』の筆文字。
ああ、そういえば書道の有段者もいたんだった。
老人: 「昨夜(夕べ)、消灯時間超えてまでみんなで作ったんだよ」
彼女: 「だめじゃない。そんなことしちゃ。
定時の見回りとかこなかったの?」
老人: 「いや、所長さんも一緒になって手伝ってくれたから」
彼女: 「ええっ?」
頭をkきながら、所長が入所者たちと一緒に笑っている。
老人: 「風立ちぬ。さあ生きねばならぬ」
彼女: そうね。
やっぱり、もう少しだけここで生きていこうかな。
前編から時は流れ、あれから10年——。
彼女と彼は、結婚し、娘とともに新たな生活を送っています。
家族の形、仕事の変化、ライフスタイルの選択。
10年前、桜の木の下で交わした約束は、どのように育まれてきたのでしょうか。
インテリアを選ぶことは、家族の未来を描くことでもあります。
そして、変わりゆく生活の中で、変わらない想いがあることを、二人は改めて知るのです。
新しい家、新しい暮らし、そして、家族としての10年目の節目。
前編で交わした和歌が、後編ではまた違う意味を持ち、二人をつなぎます。
桜の季節に紡がれる、家族の物語
【登場人物】
・妻(32歳/42歳)・・・一部上場企業の企画・広報部チームリーダー。今年8歳になる娘の母親。最近のライフスタイルはヴィーガン食で家族もそれに倣っている(CV:桑木栄美里)
・夫(32歳/42歳)・・・大学院の人工知能科学研究科を修了し、先端ITC企業から請われて入社。AIによる社会貢献を進めている(CV:日比野正裕)
・娘(8歳/18歳)・・・小学校3年生/大学1年生。寡黙だが、SDGs意識高い(CV:桑木栄美里)
<シーン1/夜桜の公園>
(SE〜花見の風景)
妻: 「今日(けふ)のためと、思(おも)ひて標(しめ)し、あしひきの、
峰(を)の上(へ)の桜(さくら)、かく咲きにけり」
◾️BGM/
夫: 「それは・・・まだ聞いたことのない歌だ」
妻: 「じゃあ、もう一首。
あしひきの、山の際(ま)照らす、桜花(さくらばな)、
この春雨(はるさめ)に、散(ち)りゆかむかも」
夫: 「どういう意味?」
妻: 「最初の歌は、
今日のために目星をつけておいた桜が咲いてくれた。
2つ目は、
山間を照らすように咲いている桜の花が春の雨で散っちゃうのはやだなあ。
って意味。
桜、きれいだねえ。
桜さん、ありがとう。
雨が降っても散らないでね。
ってことだよ。ねっ」
夫: 妻の横で娘が、何も言わずに微笑む。
8歳の娘は、妻の詠む和歌が大好き。
意味もわからず、ニコニコ聞いている。
いや、いつも説明されてるから意味はわかっているのかな。
10年前。
まだ結婚する前に、妻と2人で歩いた桜並木。
世の中がどんどん変わっても毎年、美しい花を咲かせてくれる。
妻: 「和歌を詠むと、桜が一層美しく見えるよね」
夫: 娘が大きくうなづく。本当にそう思っているのか。
半分疑りながら
娘を真ん中にして、3人で手をつないで歩く。
幸せに包まれる瞬間。
妻: 「今日はね、10年前 にパパとママがデートしたところへ行くのよ」
夫: デート?
そうか、あれはデートだったんだな。
娘がはしゃぎ始めた。
妻: 「さあ、桜のトンネルを抜けていくわよ」
夫: 妻が娘の手をひく。
私はその手にひっぱられるように、早足で花曇の並木を歩いていった。
<シーン2/インテリアショップ>
(SE〜インテリアショップの雑踏)
娘: 「わぁ〜すごぉい」
夫: 初めてきたインテリアショップに驚く娘。
エリアごとに再現された部屋に感動している。
まるでテーマパークにきたみたいに。
妻: 「でしょう。
ここはいろんなお部屋がたくさんある、家具のテーマパークなのよ」
夫: なるほど。うまい表現だな。
さすが、大学で国文学を専攻してただけある。
っていうより、企画部のチームリーダーだもんな。
妻: 「ほら、プリンセスのお部屋も」
娘: 「ほんとだ。ピンクがかわいい」
夫: はしゃぎまわる娘に目を細める妻。
実は、私の方が妻より嬉しいのだが。
今日の目的は、新生活の家具選び。
とは言っても、10年前のように一人暮らし用ではなく、家族のため。
実は、もうすぐ新しい家が完成するんだ。
そう、新築の新居。
妻のこだわりで、作りつけの収納は、あえて最小限にした。
自分たちで家具を選んで、イメージ作りをしたいらしい。
娘の成長に合わせた節目節目で、イメージチェンジもするのだという。
そういうライフスタイル いいものだなあ。
妻: 「ねえ、自分のお部屋はどんな風にしたい?」
娘: 「不思議の国みたいなお部屋」
妻: 「そうかあ。じゃあこっちの部屋かな」
娘: 「あ〜」
夫: そこは、キュートでおしゃれなプリンセス系インテリアのお部屋。
シャビーシックなピンクと白を基調にしたアイテムが可愛らしい。
プリンセスを象徴する天蓋付きのベッド。
壁にはラインストーンで彩られた名画が煌めいている。
妻: 「ママとパパのお部屋はこっちよ」
夫: 「おお、いいねえ、ナチュラル系かい」
妻: 「今までのお部屋はナチュラルだったけど、新しいおうちは、
ナチュラル系をベースに、シンプルな和モダンのテイストにしたいの」
夫: 「落ち着いた空間だね」
妻: 「それに居心地のいい空間」
夫: 「気分が上がるなあ」
妻: 「あ、あと、キッチンも見なくちゃ」
娘: 「やったぁ」
夫: そうだった。
妻は子どもが生まれてから、ヴィーガンのライフスタイル。
ヴィーガンというのは、動物性食品を一切食べず、
動物由来の製品も使わない。
肉も魚も乳製品も卵もとらないし、レザーや羽毛も全然持っていない。
私も妻の影響でスローライフを実践したら、
健康診断の結果が驚くほど良くなった。
もちろん、娘の食生活も同じ。
生まれてこのかたアレルギー知らずだ。
妻: 「和モダンのキッチンってスローライフにピッタリね」
夫: シンプルでオシャレなキッチンを前に、妻の顔がほころぶ。
妻と娘が2人、並んで料理する姿を想像して、私も笑顔になる。
いやいや 、忘れちゃいけない。
私も料理にはちゃんと参加するから。あまり役には立たないが。
<シーン3/10年後のキッチン>
(SE〜料理をする音/包丁で野菜を切る音)
娘: 「ママ、塩こうじで豆乳マヨネーズ作ったから毒味してみて」
妻: 「やあね。毒味じゃなくて味見でしょ」
夫: 新築の家に引っ越してから10年。
大学1年生となった娘が、キッチンで妻に話しかける。
今や、ヴィーガンのレシピは妻よりも豊富だ。
娘: 「パパ、今日の料理はぜんぶ私が作ったのよ」
夫: 「へえ、珍しいな。大学で実習でもあるのかい」
娘: 「そんなじゃないんだなあ。
さ、2人とも座って」
夫: 妻と2人、ダイニングチェアに座る。
10年前に購入したダイニングテーブルは
年とともに深い味わいを醸し出している。
娘: 「比べこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」
20年目の婚約記念日、おめでとう」
夫: 「え」
妻: 「ああ」
■BGM〜「インテリアドリーム」
娘: 「10年前にパパとママが教えてくれたじゃない。
20年前の今日、パパがママにプロポーズしたこと。
ちゃんと覚えてるんだよ」
夫: 「そうか。そうだったな」
夫: 妻は目に涙を浮かべて微笑んでいる。
娘: 「さっきの歌、わかった?」
妻: 「ずうっと伸ばしてきた私の髪が、肩より長くなりました。
あなた以外にこの髪を結い上げてくれる人などいません」
娘: 「さすが、ママ。正解。
伊勢物語ね。プロポーズの歌」
夫: こんなに素晴らしい母と娘と、一緒にいられる幸せを
私はかみしめていた。
ありがとう。
春は新たな始まりの季節。桜が咲き誇る中、22歳の彼女は大学を卒業し、一部上場企業のマーケターとして社会へ踏み出します。彼女の隣には、高校時代からの恋人で、大学院でAIを研究する彼の姿。
学生から社会人へと変わる瞬間、彼女が見つめるのは未来か、それとも過去か——。
この物語は、そんな彼女と彼が、新しい生活の中で「選ぶこと」と向き合いながら、未来を描いていく物語です。
家具を選ぶことは、単なるインテリアの話ではなく、自分らしさや人生をどうデザインするかということ。
春の夜、桜の下で交わされた言葉、そして二人が訪れたインテリアショップでのひととき。
その先に待っている未来とは——。
新たな門出を迎えるすべての人に、この物語が寄り添えますように
【登場人物】
・彼女(22歳)・・・大学4年間で国文学を専攻しこの春から新社会人に。一部上場企業の企画・広報担当のマーケターとして採用された。彼は高校時代から付き合っている同級生(CV:桑木栄美里)
・彼(22歳)・・・大学4年生ののち、大学院の人工知能科学研究科で最先端のAIと社会のつながりを研究している(CV:日比野正裕)
【Story〜「桜花抄/新社会人と新生活/前編」】
<シーン1/夜桜の公園>
(SE〜花見の風景)
彼女: 「桜花(さくらばな)、時は過ぎねど、見る人の、
恋(こ)ふる盛(さか)りと、今し散るらむ」
◾️BGM/
彼: 「なんだい、それ?」
彼女: 「万葉集よ。
まだ散るときじゃないけど、
愛でてくれる人がいるうちに散っちゃおうかなぁって。
そんな桜の花の気持ちをうたった詩(うた)」
彼: 「へえ〜。さすが国文学専攻」
彼女: 「またぁ。すぐそうやって茶化す。
でもこの詩、いまの私の気分かも」
彼: 「どうして?全然散ってなんかいないじゃん」
彼女: 「気持ちの話よ。
私、本当は純粋にもっと大学で国文学を勉強してみたかったんだ。
でも、愛でてくれる人がいるうちに社会に出てみようかなーって思ったの」
彼: 「愛でてくれる人って?」
彼女: 「やだもう。ばか」
彼: 「そんなんいいじゃないか。
一流企業の企画・広報部なんて、なりたくてもなかなかなれないぜ」
彼女: 「そうだけど」
彼: 「君の好きな国文学の知識をマーケティングに生かせばいい」
彼女: 「簡単に言うんだから」
彼: 「いや、ホントにいいと思う。
万葉集って去年、SNSでバズってるし」
彼女: 「まあねー。
なんか、AIでビッグデータとか研究してるあなたらしい答え」
彼: 「あ、そっちこそ、そうやって茶化す」
彼女: 「私は尊敬してるの」
彼: 「僕だって尊敬してるさ、君のこと」
彼女: 「ありがとう。
ねえ、花篝(はなかがり)が灯る前に付き合ってほしいとこがあるの」
彼: 「ああ、もうそんな時間かあ。
で、どこいきたいの?」
彼女: 「私、就職が決まってアパート借りたんだけど、
まだ何にもない部屋なんだ」
彼: 「そうなんだ」
彼女: 「さ、行こ」
彼: 「え、だからどこへ?」
彼女: 「もう〜。いいから、きて」
<シーン2/インテリアショップ>
(SE〜インテリアショップの雑踏)
彼: 「そっかあ。家具屋さんか」
彼女: 「家具だけじゃなくて、雑貨や絵画も置いてあるから、インテリアショップね」
彼: 「インテリアスタジオ。うん、確かにわかりやすいネーミングだ」
彼女: 「うちの会社、リモートが多いからホームオフィスのインテリアも選びたいな」
彼: 「うん、どんな感じの家具がいいの?」
彼女: 「木の手触り感とか、木目の色合いとか、自然のテイストが好き」
彼: 「僕もナチュラルな家具が好きだな」
彼女: 「大学院の研究室にそういう意識調査するAIとかないの」
彼: 「あるよ。ちょっと待って」
彼女: 「あるんだー。お、タブレット登場?」
彼: 「えっと・・・コロナ禍で在宅時間が増えて、
6割以上の人がインテリアにこだわるようになったんだって」
彼女: 「ああ、確かにそうかも」
彼: 「で、好きなインテリアのテイストは、『ナチュラル』が1位。
さすが。トレンドリーダーじゃん」
彼女: 「ふーん、2位はなに?」
彼: 「2位はね、『北欧風』。あとは『モダン』、『和モダン』」
彼女: 「みんないいわね」
彼: 「『ナチュラル』を選ぶ理由は、飽きがこなくて、落ち着くからだって」
彼女: 「わかるー」
彼: 「20代、30代はインスタ見て参考にしてるそうだよ」
彼女: 「そうそう。私もインスタでずうっとチェックしてたもん」
彼: 「で、どこまで揃えるの?」
彼女: 「えっと、私の部屋、収納も少ないから、ベッド、ソファ、ダイニング、
TVボード。あとは収納できる家具かな」
彼: 「全部じゃん」
彼女: 「そうよー。お部屋のカラーに合わせてテイストを統一したいの」
彼: 「部屋のカラー?」
彼女: 「うん。白を基調にした明るい木目調の色合い」
彼: 「ようし、じゃあ、この家具の森の中から、探し出そう」
彼女: 「りょーかい」
<シーン3/彼女の部屋>
彼女(モノローグ):
結局、私の部屋は、明るいトーンのインテリアに彩られた。
壁が白、柱周りやアクセントに木目という部屋のカラー。
家具たちは、まるで最初からそこにあったかのようにしっくり佇んでいる。
ベッドは、彼が開発したAIコーディネーターのオススメでリクライニングに。
フレームの木目がすごく落ち着いていい感じ。
ダイニングは小さめのテーブル。
彼と2人で食事するのにちょうどいいサイズ。
2人のチェアは長時間座っても疲れないダイニングチェア。
ホームワーク用のデスクは、少しだけ濃い目のトーン。
オンオフの切り替えもできるから満足している。
(SE〜紅茶を注ぐ音+食器を置く音)
彼: 「小さいけど、いい部屋だね」
彼女: 「そう?ありがとう」
彼: 「家具たちもなんか嬉しそうだ」
彼女: 「あら、AIの研究室にいる人にしてはメルヘンチックなセリフね」
彼: 「僕はもともとロマンティストなんだ」
彼女: 「そうですかー」
(SE〜花瓶を置く音「コトッ」)
彼: 「なにそれ?」
彼女: 「花瓶よ。桜を生けてみたの」
彼: 「枝を折ってきたの?」
彼女: 「そんなことするわけないじゃない。
お花屋さんで買ってきたのよ」
彼: 「え?花屋さんに桜が売ってるの?知らなかった」
彼女: 「季節になると、桜も梅も売ってるよ。
でも、開花してるとすぐに散っちゃうから蕾の桜。
お部屋の中でじっくり短い春を楽しむの」
彼: 「花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに」
彼女: 「プッ。やだー。らしくない。どうしたの?」
彼: 「僕が知ってる花の和歌はこのくらいかな。
万葉集にはきっとたくさんあるんだろうけど」
彼女: 「その歌は万葉集じゃなくて古今集。
小野小町の作でしょ。小倉百人一首とかで詠まれてるじゃん」
彼: 「なんか、小野小町って、君と重なっちゃって」
彼女: 「それは、絶世の美女ってこと?
それとも、売れ残っちゃうのを焦るとこ?」
彼: 「焦ってるの?」
彼女: 「焦ってません。でも、この歌は刺さったな」
彼: 「え?」
彼女: 「だって、以前お花見で私が詠んだ歌の真逆だもん。
覚えてる?あの歌?」
彼: 「ああ。
桜花、時は過ぎねど・・・ってやつだろ?」
彼女: 「そう。
桜花、時は過ぎねど、見る人の、恋ふる盛りと、今し散るらむ。
盛りのうちに散っちゃおう、っていう歌よ。
盛りが衰えていくのを悩んでいる小野小町とは対局ね」
彼: 「きみはどっち?」
彼女: 「私はウジウジしたくないから前者かな」
彼: 「そう思った。じゃあ・・・はい」
彼女: 「え・・・なにこれ?」
彼: 「フレグランスランプだよ。
この部屋に合う香りってベルガモットかなって。
君の就職祝い。遅くなってごめんね」
彼女: 「やだ。サプライズ?」
彼: 「いや、サプライズはそっちじゃなくて」
彼女: 「えーなになに?」
彼: 「こっち」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼女: 「あ・・・」
彼: 「僕の気持ち、受け取ってくれる?」
彼女: 彼は、胸ポケットから小さな赤い箱を取り出した。
箱の中には、まばゆい光を放つブリリアントカット。
彼女: 「ちょっと。こんなとこで片膝つかないで」
彼: 「だって、これはセレモニー」
彼女: 「じゃあ、歌で返す。返歌、返し歌よ。
『忍ぶれど色に出でにけりわが恋は
ものや思ふと人の問ふまで』
知ってるでしょ」
彼: 「うん。聞いたことある」
彼女: 「隠していた私の恋心が顔に出てしまったわ。
恋の悩みでもあるのかって人から尋ねられるほどに」
彼: 「それって、Yes、だよね?」
彼女: 「もちろん」
彼: 「ありがとう!」
彼女: 彼は少しぎごちない仕草で、その思いを私の指にはめる。
小さな石に映るまばゆい光は、私の心を照らしていった。
「Anniversary」後編は、大学を卒業し、それぞれの道を歩み始めた二人の姿を描いています。忙しい毎日を過ごしながらも、かつての想いを大切にし続ける彼と彼女。その関係は、4年前とはまた違った形に変化しています。
今回のテーマは、インテリアブランド「ねむりデザインLABO」。睡眠の大切さを再認識しながら、互いの未来を見据える二人の姿に注目してください。そして、最後に待っている「サプライズ」は、どんな形で訪れるのでしょうか?
【登場人物】
・彼女(25歳)・・・売り出し中の若手声優。毎日スケジュールに追われ、アニメやゲームのアフレコに追われ、オーディションに追われ、寝る間もなく活動している(CV:桑木栄美里)
・彼(25歳)・・・大学卒業後、内定していた就職先を辞退して、2浪してこの春から獣医になる。今はペットクリニックで働いている。誕生日は彼女と同じく3月(CV:日比野正裕)
<シーン1:カフェ>
(SE〜カフェのガヤ〜紅茶を飲む音)
彼女: 「合格おめでとう」
彼: 「ありがとう」
彼女: 「晴れて春から動物のお医者さんね」
彼: 彼女は獣医のことを”動物のお医者さん”と言う。
そういえば、昔、そんなアニメかマンガがあったような。
いま売り出し中の若手声優の彼女。
まだレギュラーのアニメや映画出演があるわけじゃないけど
僕から見ても、表現のレベルは相当高いし、センスもいい。
3歳の頃から朗読の勉強をはじめていま25歳。
まあ20年以上のキャリアがあるようなもんか。
だからかな、
アニメやゲームのアフレコ、PVのナレーション、Vチューバーと
休みなく活動している。
今日彼女と会えたのも、2か月ぶりだ。
彼女: 「顔を合わせるのって、久しぶりね」
彼: 「56日ぶり」
彼女: 「なかなか会えなくてごめんね」
彼: 「いいことじゃないか。
それだけ君に需要があるっていう意味だから」
彼女: 「そうかなあ」
彼: 「そうだよ」
彼女: 「声優人気がハンパない今のうちに、フル回転させられてるって感じ」
彼: 「そんなことないさ。
どんなロジックでも売れていくことはいいことだろ」
彼女: 「たまに思うんだよね。
私じゃなくてほかの声優さんでも結果は同じじゃないかって」
彼: 「合否の結果は同じでも、
君じゃなければ世に出るものの価値がまったく違う」
彼女: 「そう?」
彼: 「僕はこっち側の人間だからね。
受け手として感じたままを正直に言ってるだけ」
彼女: 「そういうとこ、理系の彼氏でよかったわ」
彼: 「今はブームのせいで作品も表現者も粗製濫造のイメージだけど
あっという間に淘汰されていくと思うよ」
彼女: 「ありがとう」
彼: いつの間にか、僕はいっぱしのコメンテーター気取りだ。
伴走者のつもりで彼女と会話をするうちに
声優業界についても妙に玄人はだしになってしまった。
久しぶりの逢瀬は、彼女がエスプレッソ3杯、僕がアールグレイ4杯。
3時間たっぷりと話し合った。
このあとは、いつものルーティン。
4年前のあの日以来、僕たちのデートコースに組み込まれた場所があるんだ。
<シーン2/インテリアショップ(ねむりデザインLABO)>
(SE〜インテリアショップのガヤ)
彼女: 「このお店、もう私たちの定番コースね」
彼: 屈託のない笑顔で彼女が、口角を上げる。
ここは、いつものインテリアショップ。
4年前、初詣の帰りにふと立ち寄った家具屋さんだ。
あの頃いつも見ていたのは、
まばゆいインテリア雑貨とアート。
まるで『不思議の国』のような世界に夢中だった。
でも、最近は・・・
彼女: 「やっぱり真っ先にベッドコーナーに行くのね」
彼: 「ベッドコーナーじゃなくて、ねむりデザインLABOだよ」
彼女: 「ラボ、だなんて、あなたの口から出るとすっごい説得力」
彼: 「本当にラボ、研究所じゃないか。
獣医の国家試験に合格するまで、僕はずうっと睡眠障害だったのに」
彼女: 「私だって何年も不眠症に悩まされていたけど」
彼: 「スリープアドバイザーに相談してよかっただろ」
彼女: 「そうね。私も知らなかったわ。
睡眠障害が、枕やマットレスで改善されるなんて」
彼: 「まあ、それは厚労省のサイトにも明記されているけどね」
彼女: 「わあ、また理系っぽい話し方」
彼: 「すぐそうやってバカにする」
彼女: 「してないわよ。
だって、睡眠の質が人生の質をあげるんでしょ」
彼: 「もちろんさ。人生の1/3は睡眠時間だしね」
彼女: 「お互いに、ステップアップしていかなきゃ」
彼: 「そうだな。
ちゃんと快眠できれば、獣医としての仕事の質も上がる」
彼女: 「私もベストコンディションでスタジオに入れるもの」
彼: 「早く次のステップへ行きたいな」
彼女: 「それは仕事?私たちの関係?」
彼: 「どっちも。だって両方大切だろ」
彼女: 「うん。でも・・・」
彼: 「なに?」
彼女: 「ううん、なんでもない」
彼: 次のステップ。
彼女が考えるステップは何を表す言葉だろう。
果たして僕と彼女の思いに齟齬はないだろうか。
あ、また、”齟齬”だなんて言葉を使ったら彼女に注意されるかな。
<シーン3/街中を歩く2人>
(SE〜街角のガヤ〜2人の足音)
彼女: 「ねえ、今日はアパートでご飯食べない?」
彼: 「え?」
彼女: 「なんか、外食もう飽きちゃった」
彼: 「でも、食べるものあったっけ」
彼女: 「適当にデリバリーすればいいじゃない」
彼: 「あ、そうか、いいよ」
彼女の横顔が僕から視線をはずす。
少しだけ口元が緩んだように見えたのは気のせいかな。
彼女とはお互いのアパートを行き来する関係。
今日は僕がオペで遅くなったから
クリニックの近くで彼女が待っていてくれた。
こうやって何気ない会話をしながら、
一緒に歩いて家に帰るってのもいいもんだな。
やがて、アパートが見えてきた。
彼女は・・・
なんだか、笑いを殺したポーカーフェイスみたいに見えるけど。
僕たちは、腕を組んでエントランスからエレベータに乗る。
13階で降りれば、部屋はすぐ目の前だ。
彼: 「あ?灯りがつけっぱなしだ
朝、そのままで出ちゃったのかなあ」
慌ててロックをはずし、部屋の中へ。
彼: 「え!」
食卓の上に、豪華な料理が並んでいる。
料理の横には2つのシャンパングラス。
驚いて振り返ると・・・
彼女: 「サプラ〜イズ!!」
(SE〜シャンパンのボトルを開く音)
彼: 彼女がシャンパンのコルクを抜く。
片手に瓶を持ち、満面の笑みで
彼女: 「ハッピーバースデー!!」
彼: 「あ・・・」
彼女: 「4年前のリベンジよ」
彼: 「そうか・・・
忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。
今日は・・・」
彼女: 「自分の誕生日も忘れてたでしょ」
彼: 「うん・・・」
彼女: 「もう大変だったんだから。
あなたが帰る時間を逆算して一生懸命料理を作ったのよ」
彼: 「ありがとう・・・」
彼女: 「ふふん、お礼はまだ早いと思うけどなあ」
彼: 「え・・・」
彼女: 「寝室へ入ってみて」
彼: 慌てて寝室の扉をあけると、
「あ!」
彼女: 「もうひとつサプラ〜イズ!!」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼: 僕のほしかった電動ベッドがそこにあった。
彼女: 「これが、私からのバースデープレゼント」
彼: 「そんな・・・こんな高いもの」
彼女: 「なに言ってるの。
先月のお給料が入ったばかりだし。
いまの電動ベッドは私のギャラでも十分買えるわよ」
彼: 「嬉しくて言葉が出ないよ・・」
彼女: 「スリープアドバイザーに相談してセミダブルにしたの。
リクライニングソファのように2人寝そべってアニメ見られるわよ」
彼: 「もうすぐ君が主演するアニメを見られそうだね」
彼女: 「だといいけど」
彼: 「来週の君の誕生日、サプライズしようと思ってたのに」
彼女: 「え、言わないでよ!ネタバレはなし」
彼: 「了解」
彼女: 「さ、料理、冷めちゃう前に、食べましょ」
彼: 「ああ」
僕は、ずっと胸ポケットにしまってある小さな箱に手をあてた。
ネタバレなしなら仕方がない。
来週の彼女の誕生日に、ひざまづいてサプライズしよう。
「Anniversary」は、大学生活最後の春を迎えた二人が、偶然の出会いをきっかけに心を通わせていく物語です。卒業を間近に控えた彼女と彼、それぞれが未来に向けた夢や不安を抱えながらも、大切な「今」を紡いでいく姿を描きました。
今回は、インテリアブランド「IROTTA CHIC」のきらめく世界を舞台に、二人が共有する特別な瞬間を綴っています。家具やアートに囲まれた空間が、彼女の心にどんな変化をもたらすのか——ぜひ、彼女の目線で楽しんでください。そして、最後に待ち受けるサプライズの瞬間、あなたも一緒に驚いていただけたら嬉しいです。
【登場人物】
・彼女(21歳)・・・女子大学4年生。モダンダンス部に所属。自主講演を中心として幅広く活動中。ダンスと同時に声優の勉強も独学で始め将来の道に悩んでいる。誕生日は3月(CV:桑木栄美里)
・彼(21歳)・・・大学4年生。野生生物研究会。彼女とは彼女が通う女子大の大学祭で知り合った。月1回の野外観察と彼女の合宿が重なった。誕生日は彼女と同じく3月(CV:日比野正裕)
【Story〜「Anniversary/IROTTA CHIC/前編」】
<シーン1/コテージ>
(SE〜森の小鳥ー冬の鳥/シジュウカラやヤマガラなど)
(SE〜ドアを何度もノックする音)
彼女: 鳥のさえずりしか聞こえない静かな森。
私たちのコテージ周辺に不審者出没の情報がとびこんできた。
◾️BGM/houseparty-347242533.wav
うそでしょ・・・
冬眠から目覚めたクマじゃないの。
いや、そっちの方が怖いか。
私は、女子大の舞踊教育学コース4年生。
モダンダンス部の友だちと小旅行に来ている。
10月の自主公演、11月の大学祭と、大学生活最後の年を満喫した。
いまは卒業を来月に控えて友だちとの思い出作り。
こんなところに不審者?
私は震えながら、部屋の戸締りを確認する。
そういえば彼は?
確か、この近くでサークルの野外活動をしていたんじゃないかしら。
まさか、不審者って彼のことじゃ・・・
なわけないか。
私と同じ市内で理系の大学に通う、3年生。
彼と私はうちの大学祭で知り合った。
<シーン2/大学祭〜フランクフルト屋台>
女子大の学祭名物、フランクフルト屋台。
私は給仕をしながらお客さんのリクエストでダンスを踊る。
なのに、そんな私には目もくれずに
夢中でフランクフルトを食べ続ける彼。
その食べっぷりが面白くてじっと覗き込んでしまった。
彼は、
彼: 「僕の顔になにかついていますか?」
彼女: とつぶやき、その言葉もツボにはまって
笑いが止まらなくなっちゃったんだ。
結局、笑い過ぎたお詫びに私から彼をお茶に誘い、
それからたま〜に連絡するようになって今に至る。
その彼も野生生物研究会の活動でこの森に来ているはずだ。
といっても、今年の1月以来彼の顔は見ていない。
就職先の研修やら卒業論文やらで忙しく走り回っている。
こんなときなのに、彼と最後に会った日のことを思い出してしまう。
あれは・・・
初詣のあとに立ち寄ったインテリアショップ。
<シーン3/インテリアショップ(IROTTA CHICコーナー)>
(SE〜インテリアショップのガヤ)
奥に囲まれたコーナーへ彼が吸い込まれていった。
彼: 「ちょっと、こっち来てよ」
◾️BGM/after-all-347727614.wav
彼女: 「なあに?」
彼: 「なんか、このエリア、煌めいてないか」
彼女: 「え?・・・わあ〜」
彼女: そこは白とピンクを基調にした、プリンセス系のお部屋。
シャビーシックなピンクで彩られた壁紙とラグマット。
ラメを散りばめた白いダイニング、ソファ、ロッキングチェア、ベッド。
彼女: 「まるでお城に住んでいる、お姫様のお部屋みたい」
彼: 「はは、さすが声優を目指しているだけあって、表現力が豊か」
彼女: 「眠っている間に異世界召喚されて、こんなお部屋で目覚めたい」
彼: 「出たな、異世界召喚アニメフェチ」
彼女: 「だってやっぱり憧れちゃうもん」
彼: 「まあ、僕はこっちの部屋かな」
彼女: 「うわ、楽しそう」
彼: 「この巨大なホワイトタイガーのぬいぐるみと一緒に
カラフルなソファで寝転びたいな」
彼女: 「ふふ、あなたらしい」
彼: 「ゴリラとかバイクのオブジェもあるんだよ(ぜ)」
彼女: 「おもしろ〜い」
彼: 「なんか、みんなキラキラしてるね」
彼女: 「家具屋さんなのに楽しい」
彼: 「お、この部屋もすごい」
彼女: 「どれ?」
彼: 「ほら」
彼女: 「絵画?」
彼: 「みたい。
彼女: 「絵画だけど、全ての絵がキラキラしてる」
彼: 「ホントだ」
彼女: 「クリスタルかな」
彼: 「しかも名画や風景から映画の1シーンまでいろんなのがある」
彼女: 「うん」
彼: 「この映画って、好きだったんじゃない?」
彼女: 「あ・・・」
彼女: 私の目の前に現れたのは、
『ティファニーで朝食を』のラストシーン。
黒いドレスのヘプバーンが早朝のニューヨークを歩いている。
しかも等身大のアート。
ドレスの部分にはラインストーンが散りばめられている。
彼: 「遊び心満載だなあ。
ほら、バンクシーもあるよ」
彼女: 彼はきらめくアートに囲まれて、テンションがMAXになっている。
私は、それよりもヘプバーンにもう釘付け。
ドレスの裾をひらめかせ、目の前でポーズをとる美しき妖精。
こんなアートが自分の部屋にあったら、
毎日がどんなに素敵になるだろう。
私は時間を忘れて、ヘプバーンの前で立ち尽くしていた。
<シーン4/コテージ>
(SE〜森の夜/フクロウなど)
(SE〜部屋の電話のコール音)
彼女: 不躾に鳴り響くコール音。
私は束の間の現実逃避から、現実世界へ呼び戻された。
(SE〜受話器をとる音)
彼女: 「もしもし・・・」
彼女: 電話は一緒に来ているモダンダンス部の仲間。
なんと、不審者が館内にいるかもしれないと告げて電話を切った。
不安と緊張のボルテージは一気に最高潮に達する。
と、そのとき・・・
(SE〜ドアを激しく何度もノックする音)※以下何度も使用
彼女: 「うそっ!?」
彼女: 私は他人(ひと)から見たらおかしいほどに狼狽える。
ドアから一番離れたベッドに背中を押し付け、身構えた。
そこへ、友人の声で、
”早く開けて!”
”急いでここを出るの!”
という、焦って慌てた怒鳴り声が耳に飛び込んでくる。
け、警察!
そうだ、警察に電話しなきゃ。
”ねえ開けてよ!”
彼女: 「待って、先に警察に電話するから」
”それよりここを出なきゃ!”
彼女: 友人の緊迫した声に気圧されて、思わず扉を開ける。
(SE〜扉を開く音/と同時にクラッカーの音と歓声)
全員: 「サプラ〜イズ!!」
彼女: 「え?」
彼女: 扉の向こうには、モダンダンス部の仲間たちが勢揃いしていた。
(SE〜クラッカーの音と拍手・歓声)
全員: 「ハッピーバースデー!!」
彼女: 「あ・・・」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼女: すっかり忘れていた・・・
そうか、今日は私の誕生日・・・
彼: 「誕生日おめでとう」
彼女: 「え〜!?」
彼女: 整列した仲間たちの後ろから現れたのは、ヘプバーン!
3か月前にインテリアショップで見たアートを抱えた彼だった。
彼女: 「やだ・・・」
彼: 「事情を話したら家具屋さんがここまで運んでくれたんだ」
彼女: 「あ、ありがとう・・・」
彼: 「ここから君のアパートまでは一緒にクルマで持っていこう」
彼女: 「うん・・・」
彼: 「新しい君の1年が最高の1年になりますように」
彼女: 「もう・・・これ以上泣かせるようなこと言わないで」
彼女: 頭の中が整理できないほど、あまりにドラマティックな演出で、
私の21歳のアニバーサリーが過ぎていった。
(SE〜拍手と歓声)
全員: 「おめでとう!!」
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