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登場人物
・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里)
・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕)
(SE〜拍手と歓声〜そこにまざってドラムロールの音〜F.O.)
娘: ステージに立つ7名のファイナリストたち。
その中に立つ私は、ゆっくりと目を閉じる。
やがて歓声とドラムロールの音が、私の耳からすうっと消えていった。
私の頭の中に蘇ってきたのは、幼い日の父の背中。
★娘7歳/父39歳
父: 「いいかい、大きくなっても、温もりを忘れちゃいけないよ」
(BGM〜inspiring-piano-300473695)
娘: 父は家具職人。
幼い私をよく自分の工房へ連れていってくれた。
木目もあざやかに、磨かれた木材が所狭しと並ぶ小さな工房。
父は、工具や木工機械で私が怪我をしないよう、
背中越しに見ているよう言い含めて、いつも私を気遣った。
ある日、1枚の白木を手にとった父は私を手招きして、
(SE〜工房の雑踏)
父: 「ほら、この木をさわってごらん」
娘: それは、家具に生まれ変わる前の白木(しらき)。
無垢の清らかな香りが漂ってくる。
父: 「あったかいだろう」
娘: そこには、スチールやプラスチックをさわったときとは全然違う
やわらかくてあったかい感触があった。
父: 「木の温もり、っていうんだよ」
娘: 「木の温もり・・・」
父: 「木は私たち人間と同じで、呼吸しているんだ。
だから木には体温がある。
この木で作る家具にも、そのまま温もりが残るんだよ」
(BGM〜seventeen-street-346951958)
娘: 確かに父が作る木の家具には、冷たい感触はまったくなかった。
学校で辛いことがあっても、家に帰って木の家具に囲まれていると
冷えた心がほんわり暖かく溶けていくような・・・。
父: 「この椅子を見てごらん」
娘: それは背もたれの曲線が美しい木製のアームチェア。
左右の肘掛けにシンメトリーに浮かび上がる木目を見ていて思わず、
「きれい・・・」
とつぶやいた。
父は顔をほころばせて、
父: 「そうだろう。
これは”匠”が作った椅子だから」
娘: 「たくみ?」
父: 「ああ、たくみさ。
むかーしむかしに飛騨から都へ送られてお寺とかお城を作った職人だよ」
娘: 「へえ〜」
父: 「座ってごらん」
娘: 「はい」
座った瞬間、木の温もりに包まれる感じがして、
心がふわっと軽くなっていった。
父: 「気持ちいいだろう?」
娘: 「うん・・・」
父: 「匠が作る家具はね、毎日のストレスを和らげて、
安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」
娘: 「ふうん」
父: 「だから、おまえ自身も、いつだって温もりをなくしちゃいけないよ」
娘: 「わかった」
私の方へ振り返ったまま、満足気に微笑む父の笑顔と背中のあたたかさ。
今でも鮮明に覚えている。
東京で一人暮らしを始めるときに選んだのも、すべて木の家具たち。
あ、そうだった。気づかないうちに、私、温もりに包まれていたんだ。
★娘24歳/父56歳
(SE〜会場の大きな雑踏〜そこにまざってドラムロールの音〜F.I.)
娘: 父と家具たちを思い出しながら
自分でも不思議なほど落ち着いて、私はゆっくり目をあけた。
ドラムロールが途切れた次の瞬間、
私の名前を呼ぶ大きな声が、耳に飛び込んでくる。
嬉し泣きの声は、歓声と拍手があっという間にかき消していった。
(BGM〜インテリアドリーム)
(SE〜拍手と歓声、それにまじってオフで父の「おめでとう」の声)
娘: 壇上でトロフィーを手にした私が顔をあげると・・・
客席の一番後ろには父の姿があった。
笑っているような、でも泣いているようにも見える表情で
大きく手を叩く父。
昨日名古屋へ帰るって言ってたのに・・・
おとうさん、私、おとうさんのような匠になりたい。
一切妥協せず自分の技能を信じて誇りに思う、職人のような声優。
大丈夫。私、できるよね。
匠に、なる。
だって、私はおとうさんの子どもだから。
登場人物
・娘(24歳)・・・声優を目指す女性/実家から離れて東京で一人暮らしをしている(CV:桑木栄美里)
・父(56歳)・・・家具職人/若い頃から飛騨の匠の元で修行して家具職人となった(CV:日比野正裕)
【Story〜「木の温もりと飛騨の匠/飛騨の家具/前編」】
(SE〜コンビニの雑踏)
娘: 「おつかれさまでしたぁ!」
(SE〜スニーカーで走る足音)
父: 娘がバイト先のコンビニを出たのは、午後7時10分。
慌てて走り出そうとする娘を私が制する。
娘: 「あれ?お父さん!?なんで!?」
(BGM〜the-springs-peaceful-347491831)
父: 疑問符を連発する娘に静かに声をかける。
父: 「明日、大事な声優オーディションなんだろ?」
娘: 「うん・・・え、それでわざわざ東京まで来てくれたの!?」
父: 「いや、たまたま東京のお客さんと打合せだったんだよ」
娘: 「あ、そう・・・」
父: 「えっと、あ〜実は、ちょっと、軽く弁当作って持ってきたんだ」
娘: 「え、うそ?」
父: 「父さんの手作りだから美味くはないけど。
よかったらで一緒に・・・」
娘: 「私、今日は早く帰って発声練習とルーティンの課題をこなしておかないと」
父: 「そうか、そうだったな、じゃあ、もう帰るから。父さんも明日仕事早いからな」
娘: 「そんな・・・」
父: 「なあ、あんまり生き急ぐんじゃないぞ。
たまには歩みを止めて、深呼吸しなさい」
娘: 「わかってる・・・」
父: 「明日がんばってな」
娘: 「うん・・・」
(SE〜街角の雑踏)
父: 娘は私の顔をチラリと見てからアパートへ向かった。
私は反対方向へ歩き出す。
さて、このあとはどこか適当な居酒屋で夕食を摂るか・・・
娘が名古屋を出て東京で一人暮らしを始めたのは6年前。
あのときの娘と私は、一緒に家具屋へ行くほど距離が近かった。
★娘18歳/父50歳
(SE〜インテリアショップの雑踏)
娘: 「お父さん、口だししちゃいやだよ。私が選ぶんだから」
父: 「わかってる」
(BGM〜inspiring-whisper-347314386)
父: 私の仕事は、家具職人。
だから家の中は、私の手による、まさに一点ものの家具に囲まれていた。
食卓も、箪笥も、学習机も、ベッドも、すべて木の家具だった。
娘からはよく、どうして木の家具しかないの、って訊かれたっけ。
それは、匠の心と木の温もり。
むかし、飛騨の匠たちが都へ呼ばれて、宮殿や寺院を建立したときも
きっと木の温もりを感じながらノミをふるっていたに違いない。
娘は自分の部屋にどんな家具を選ぶのだろう。
インテリアショップで楽しそうに見てまわる、娘の笑顔。
いつまでもこの笑顔を忘れずにいてほしい。
(SE〜インテリアショップの雑踏)
娘: 「選び終わった」
父: 「早いなあ」
娘: 「だって、小さな部屋だもん。そんなに家具必要ない」
父: 「どれどれ・・・」
(BGM〜sunrise-300537095)
父: 娘の選んだ家具を見て、思わず息を呑んだ。
いや、まあ、当たり前と言えば当たり前か・・・。
食卓、ソファ、ベッド、デスク。そのすべてが木の家具。
手触りも滑らかで柔らかく、デザインは真っ白だ。
まるで声優になりたい、という夢への挑戦を表現するかのように。
娘: 「どうかな・・・」
父: 「い、いいんじゃないか。全部木の家具・・・なんだな」
娘: 「うちの家具だって、みんな木じゃない」
父: 「ああ」
娘: 「お父さん、いつも木には”温もり”があるって言ってたでしょ」
父: 「うん」
娘: 「だから、新しい生活をはじめるときも
寂しくないように、温かくて優しい木の家具にするんだ」
父: こうして、木の温もりに包まれた娘の新生活がスタートした。
あれからもう、6年になるのだな・・・
娘はコンビニでアルバイトしながら、声優を目指して日夜頑張っている。
★娘24歳/父56歳
(SE〜街角の雑踏〜走ってくる靴音)
娘: 「おとうさん」
父: 「あ、どうしたんだ?バイト先にわすれものか?」
娘: 「ううん。
やっぱり・・・一緒にごはん食べない?」
父: 「ん?」
娘: 「久しぶりにおとうさんのまずい料理食べたくなって(笑)」
父: 「そうか・・・(笑)」
(BGM〜インテリアドリーム)
(SE〜歩き出す2つの靴音)
父: 「あ、なあ、知ってるか。
木の家具って、釘とかビスとか冷たい金属は表面に見えないだろ?」
娘: 「なあに?とつぜん」
父: 「だから、日常のストレスを和らげて、安らぎと温もりを与えてくれるんだよ」
娘: 「そっか。私、気づかないうちに、温もりに包まれていたんだ」
父: 「おまえも、これから仕事がどんどん忙しくなっていって、
息つく暇もなくなって、心に余裕がなくなっていっても、
温もりを忘れずにいるんだよ」
娘: 「うん」
父: 「心のあったかい声優になれるといいな」
娘: 「おとうさん、実はね、
私が目指してるのは、・・・”匠”なんだ」
父: 「え?」
娘: 「おとうさんが思ってるような、可愛いだけの声の声優じゃなくて」
父: 「そんなこと思ってないけど」
娘: 「さりげなくやっていることの一つ一つが高度で緻密、しかも的確。
納得できるクオリティに仕上げるまでとことん探求する。
一切の妥協も許さない」
父: 「ああ・・・」
娘: 「なりたいのは、そんな声優。
それって・・・」
父: 「”匠”だな」
娘: 「お父さん、やっぱりわかってる」
父娘: (笑い合う)
登場人物
・娘(5歳/18歳)・・・小学校入学前/東京の大学へ入学が決まる(CV:桑木栄美里)
・兄(6歳/19歳)・・・小学校入学直前/東京の大学で先に一人暮らしをしている(CV:日比野正裕)
【ストーリー】
娘: 「おにいちゃ〜ん!」
兄: 新入生を迎える在校生の最前列に並ぶ僕を見つけて、妹は大きく手を振った。
左右に並んだ家族席では、父と母がいまかいまかと待っている。
いつものように大きな声で応援する父と、
あ、おかあさん、また泣いてる・・・
母の涙に気づいた父は、笑いながらハンカチを手渡す。
そう、母は1か月前の卒園式でも、3年前の入園式でも大粒の涙を流していた。
僕も妹も、そんな母が大好きだった。
無口で口数は決して多くないけれど、誰よりも僕たちを愛してくれる母。
そんな母の代わりにいつも僕たちを励まし、守ってくれたのは、男気のある父だ。
僕たち兄妹は、両親の大きな愛に包まれて育っていった。
2年前、僕たち家族4人でインテリアショップへ出かけたとき、
(SE〜インテリアショップの雑踏)
兄: 「お前が好きな学習デスク、あるといいな」
娘: 「うん!あ、でも今日は、お兄ちゃんのデスク選ぶんでしょ」
兄: 「いや、オレはゲームしてるから」
娘: 「え、いいの?」
兄: 「気に入るの見つかるといいな」
娘: 「やったぁ!」
兄: 僕たちの会話を聞きながら、父は優しく微笑む。
父の横に立つ母はもう目が潤んでいる。
娘: 「ママ、泣いてるの?悲しいの?」
兄: 「ううん、そうじゃないんだよ。
ママはね、嬉しいと涙がとまらなくなるんだって」
娘: 「ふうん」
兄: 「さあ、このいっぱいの学習デスクの中から、
お前のデスクを早く見つけ出してこい」
娘: 「わかった!」
兄: 父と母に手をひかれた妹は、じっくりと、本当にじっくり、
ひとつずつ手で触れながら学習デスクの森を歩いていく。
そのなかのひとつ、白い色の学習デスクに触れた瞬間、妹は目を輝かせて叫んだ。
妹: 「私、これがいい!」
兄: それは、大好きな生クリームのように真っ白な木製のデスク。
触ると、柔らかくてあったかい、木の優しさが伝わってきた。
父は笑顔でうなづき、母は目を潤ませて、妹の頭を撫でている。
妹: 「あ、でも、こっちも・・・」
兄: 最初に見つけたのは左側に置いてある、エッジに茜色のラインが入ったデスク。
その右側には藍色のラインが煌めくデスクも置いてあった。
妹: 「どうしよう、決められない」
兄: 「じゃあオレが、もう片方のにするよ」
妹: 「え〜」
兄: 結局、父は学習デスクを2台購入した。
妹が選んだのは茜色のラインが入ったデスク。
そして、僕が藍色のラインの方になった。
(SE〜階段を上ってくる小さな足音)
兄: 「お〜い、もう夕ご飯の時間だぞ」
妹: 「もうちょっと・・・」
兄: 「しょうがないなあ、また学習デスクに座ってるのか」
妹: 「だって、楽しいんだもん」
兄: 「あーあー、お菓子こぼしちゃって・・・
あー、アニメのシールまで」
妹: 「だって・・・」
兄: 「来年小学校へ入るときは汚れちゃってるんじゃないか」
妹: 「そんときはキレイにするからいい」
兄: 学習デスクは、妹にとって、自分だけの特別な場所になっていった。
(SE〜朝の雑踏)
妹: 「行ってきます!」
兄: 笑顔いっぱいの妹が、入学式に出かけていく。
出かける前、部屋の扉越しに声をかけたのは・・・
いつも座っていた自分の学習デスク。
そう、入学前の1年間、家にいるときは毎日学習デスクに座り、
デスクに話しかけながら過ごしてきたのだから。
なんだか、学習デスクも、
行ってらっしゃい、
と返事をしたように見えた。
(SE〜小学校入学式の雑踏/「おめでとう!」という声があちこちでから飛ぶ)
兄: ぶかぶかの制服に身を包んだ妹が、会場のステージに向かって歩きながら
父と母に大きく手を振る。
その姿を見て、また母が涙ぐむ。
その横で、父が母を見て笑う。
その2人を見て、妹が手を振りながら笑う。
僕は、妹と父母を交互に見ながら、より幸せな気分になっていった。
(SE〜家庭内の雑踏)
妹: 「じゃあ、もう行くね・・・」
兄: あれから12年。
妹は念願の東京の大学に受かり、家を離れることになった。
一人暮らしの小さな部屋に学習デスクは連れていけない。
最後に家を出るとき、妹は学習デスクにそっと触れた。
そう、まさにあの時、インテリアショップで
初めてこのデスクに出逢った時と同じように。
妹: 「いつも寄り添ってくれてありがとう・・・」
兄: 使い込んだデスクの表面には、インクの染みとシールを剥がした痕。
それは、デスクが長年連れ添ってきた無二の親友である証だった。
もう一度、デスクの表面を愛おしそうに(やさしく)撫でながら、妹が呟く。
娘: 「いままで、本当にありがとう・・・私の大切な家族」
登場人物
・娘(4歳/18歳)・・・小学校入学前/東京の大学へ入学が決まり名古屋を離れることに(CV:桑木栄美里)
・父(49歳/62歳)・・・建築関係の会社を経営/いつでも末娘が愛しくてたまらない(CV:日比野正裕)【ストーリー】
娘: 「いままで、本当にありがとう・・・」
娘: インクの染みとシールを剥がした痕が残る学習デスク。
私は木製の白い表面を撫でながら、13年前のあの日を思い出していた。
(SE〜インテリアショップの雑踏)
娘: 「わあ!学習デスクがいっぱい・・・」
父: 「あんまり目移りしてると、決められなくなるよ」
娘: 「まるでデスクの海みたい」
娘: 初めて父と母に連れてきてもらったインテリアショップ。
波間をただよう舟のように、学習デスクの海の中を
父と母と、手をつないで見てまわる。
私の足が止まったのは、2台並んでディスプレイされたシンプルな木製のデスク。
真っ白に磨かれた天板がキラキラと輝いて見えた。
左側のデスクはエッジに茜色のラインが入り、
右側のデスクには藍色のラインが煌めいている。
どちらかを決めるのは、4歳の私にとって簡単ではなかった。
父: 「決められないのかい?」
娘: 「うーん・・・」
父: 「わかった」
娘: 小さな頭で悩む私の横で、父は店員さんを呼ぶ。
父: 「この2台、ください」
娘: 「え?」
娘: 父は訳あり顔で笑うと、私の肩越しに兄を指差した。
学習デスクコーナーのすみっこでゲームをしているのは、私の1つ上の兄。
そうだった、今日はこの春小学校に入学する兄の学習デスクを見に来たんだ。
兄に聞こえないように、少し声を落として父が、
父: 「君(お前)が好きな方を選ぶんだよ」
娘: と言って、優しく微笑む。
娘: 「ありがとう!」
父: 「大切に使おうね」
娘: こうして、小学校へ入学するよりも前に、
学習デスクは私の元へやってきた。
入学するまでの1年以上、
私は、宿題もないのに、毎日学習デスクに座って本を開いた。
私だけの特別な場所。
そこは私にとってかけがえのない空間だった。
(SE〜扉を開ける音〜デスクにかばんを置く音)
娘: 「ただいま」
娘: 小学校から中学、そして高校へ。
いつだって、家に帰ると自分の部屋に直行して、まず学習デスクに声をかける。
疲れていても、学習デスクが優しくつつんでくれる気がした。
私の学生生活は、放課後、夕方から放送部、
そのあとバレエスタジオで夜までバレエのレッスン・・
家に帰ると、学校の宿題、テスト勉強、受験勉強・・・。
時には机の上で寝落ちてしまい、知らず知らずインクの染みで
汚してしまうことも。
(SE〜扉を開ける音〜デスクに小皿を置く音)
娘: 「あ・・・」
父: 「(これ )母さんから」
娘: 学習デスクの上で食べる夜食がホントに美味しくて・・・
美味しくて涙が出るなんてあるんだ、って知った。
(SE〜扉を開ける音)
父: 「風邪ひくぞ・・・」
娘: 寝落ちした私の肩に毛布をかけてくれた父。
優しい声は頭の中の片隅で聞いていた・・・
嬉しい時、悲しい時、楽しい時、辛い時。
学習デスクは私の表情を全部知っていて、どんな時も私のそばで見守ってくれた。
私の学習デスクは、私の家族の一員だった。
そして・・・
(SE〜大学キャンパスの雑踏)
父: 「おめでとう」
娘: 第一志望の大学に合格し、上京することが決まったとき、
一人暮らしの小さな部屋に、学習デスクは連れていけなかった。
家を出る日、私はもう一度学習デスクに座った。
最後にその暖かい感触を確かめるように。
インテリアショップで初めて出会ったときのピカピカのイメージは消え、
使い込んだデスクの表面には、インクの染みとシールを剥がした痕。
それもいまは、ぼんやりかすんでよく見えない。
あの日、学習デスクの海の中でひたすら輝いていた、私のデスク。
あの日と同じように、もう一度、そっと触れる。
初めて出会ったあの瞬間のときめきを、一筋の寂しさに変えて。
娘: 「いままで、本当にありがとう・・・私の、大切な家族」
登場人物
・彼女/城田(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。スポーツジムで働きながらミュージカル女優を目指している(CV:桑木栄美里)
・彼/一ノ瀬(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。コンビニでバイトしながら演劇を続ける劇団員。城田とは同級生で友達以上恋人未満(CV:日比野正裕)
【ストーリー】
彼: 「おつかれ!終わったな!!」
彼女: 「おつかれさま!」
彼: その日は大学演劇部の卒業公演だった。
卒業公演が終わったら芝居とは一切縁を切る、という部員も多い。
恋人役の彼女が手を差しのべてくる。
彼女は、高校時代から友達以上恋人未満。
どちらかと言うと、ほとんど友達なんだけど。
彼女: 「あとは卒業式ね」
彼: 「来月からはオマエ、社会人か」
彼女: 「あなたもでしょ」
彼: 「オレの本業は役者。昼の顔はただのアルバイトさ」
彼女: 「私だって目指すのは、ミュージカルの舞台よ」
彼: 「まあいいさ、これからは別の道を歩くってこと」
彼女: 「そっか・・・」
彼: 2人ともたぶん同じことを考えているのだろう。
卒業したら、それぞれ家を出て一人暮らしをする。
それでも、2人の間から恋人というワードは遠ざかり、
今よりもっと友達の方へ傾いていくに違いない。
彼: 「なあ」
彼女: 「なあに?」
彼: 「家具、見にいかないか?」
彼女: 「え」
彼: 「オレもオマエも、これから一人暮らしするんだろ」
彼女: 「うん」
彼: 「オレ、まだなんにも準備してないんだよ」
彼女: 「じゃあ、あのアウトレットの家具屋さん行く?」
彼: 「ああ、高校時代にオマエが背景係だったとき、よく行ってとこだよな」
彼女: 「あのあとアウトレットからインテリアスタジオに変わって
オシャレなインテリアがいっぱいあるのよ」
彼: 「へえ」
彼女: 「あなた、センスないから、
コーディネーターさんにコーディネートしてもらった方がいいと思う」
彼: 「悪かったな」
彼女: 「ふふ・・・」
(SE〜家具店の店内)
彼: 「新生活応援?」
彼女: 「応援してもらったら?」
彼: 壁に大きくディスプレイされた「新生活応援」のPOP。
ベッド、ホームワーク用のデスク、カウチソファ、TVボード・・・。
彼女が大好きな北欧スタイルのディスプレイから、
今流行りのブルックリンスタイルまで、見ているだけでワクワクするもんだな。
彼女: 「家具を選ぶ基準って、なんだと思う?」
彼: 「え?っと、耐久性とか機能性だろ?」
彼女: 「もちろん、それもそうだけど、一番大事なのは”夢”じゃないかしら」
彼: 「夢?」
彼女: 「頭の中で、自分の部屋に、あなたが気に入った家具を置いてみて」
彼: 「う〜ん、・・・よし、置いた」
彼女: 「その家具の中で暮らせば、”夢”を失わずにいられる?」
彼: 「ああ・・・、そうか・・・」
彼女: 「難しいけど、それが選ぶ基準じゃないかしら」
彼: たいせつなものは目に見えない、ってことか。
”夢”がなかったら、生きていく意味もない。
それは、彼女だって同じだろう。
お気に入りの家具に囲まれて、”夢”をつかむためにがんばる2人。
そんな姿を頭に描きながら、
新生活をディスプレイした家具から”夢”を探していった。
(SE〜観客の大歓声/舞台のイメージ)
【BGM〜インテリアドリーム】
彼: 大学卒業から10年。
彼女の夢はついに叶った。
昼間、スポーツジムで働きながら、夜オーディションを受ける日々。
やがて、ミュージカル劇団から声がかかり、
ブロードウェイでも上演される有名な作品に出演が決まった。
ステージのセンターに立ち、満員のオーディエンスの前で歌い、踊る。
客席の最前列で祝福するオレの声は歓声にかき消されていく。
カーテンコールのあと、舞台裏からオレのところまで走ってきた彼女は、
彼女: 「今度はあなたの番よ!」
彼: 「ああ!そうなったら、君との新生活へ誘うよ!」
彼女: 「なにそれ」(笑)
彼: 目には見えないたいせつなもの。
今度はきっと、オレが手にいれる。
登場人物
・彼女/城田(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。スポーツジムで働きながらミュージカル女優を目指している(CV:桑木栄美里)
・彼/一ノ瀬(16歳/18歳/26歳)・・・高校の演劇部出身。コンビニでバイトしながら演劇を続ける劇団員。城田とは同級生で友達以上恋人未満(CV:日比野正裕)
【ストーリー】
彼: 「なあ、アイス食べて帰らないか?」
彼女: 舞台メイクを残したまま彼がアイスクリームショップへかけていく。
高校の部活帰りにいつも寄り道していたのは、私と、私の親友、そして、彼。
演劇部の仲良し3人組だった。
ただ、今日はたまたま彼と私の2人だけ。
彼: 「今日は見にいかないのか?」
彼女: 「・・・なに?」
彼: 「大道具だよ、というか・・・家具だけど」
彼女: 私たちの芝居は、朗読劇が多かったから、基本は立ちっぱなし。
でも今稽古してるのは、舞台に2つの椅子と1つの机をおいて
男女の掛け合いがすすんでいく、という実験的な即興劇だった。
私はいつも背景係だったから、
画材屋さんと家具屋さんはもう顔馴染み。
アイスを食べ終えた私たちは、私の行きつけ、アウトレット家具のお店へ。
店内のPOPに描かれた「新生活応援」の文字。
私、卒業したら一人暮らしして、もっとお芝居の勉強したいな。
彼女: 「あ、こんにちは」
優しそうな店長がいつもの笑顔で迎えてくれる。
彼: 「へえ、お前も、ちゃんと挨拶できるんだな」
彼女: 「え・・・」
彼: 「だ、だってお前いつも・・・」
彼女: 「なに」
彼: 「い、いや、なんでもない・・・」
彼女: そう。
私って、演劇部とは思えないほど、内向的で、内気な少女。
でも、舞台に上がれば、違う自分になれる・・・。
そう思ってがんばってるんだけど、そんなに簡単じゃないんだな。
彼: 「そういえば知ってるか?
今度の舞台が終わったら、次の朗読劇、『Little Prince』だって」
彼女: 「Little Prince?」
彼: 「知らないのか、星の王子さま」
彼女: 「名前は聞いたことあるけど・・・」
やっぱりだめだなあ、私。明日、図書館行って借りてこよう。
彼: 「お、この椅子いいじゃん。座り心地いいし」
彼女: 彼が選んだのは、ちょっと派手目のウィンザーチェア。
ホントはもっとシンプルな椅子の方がいいんじゃないかしら。
彼: 「よし、これにしよう」
とまどいの表情の私を店員さんが気遣ってくれる。
私は苦笑いで応えながら、チェアを抱える彼のあとをついていった。
(SE〜観客の拍手)
彼女: 即興劇は大成功で終わった。
舞台の上、ウィンザーチェアの前に立つ彼は、喝采に笑顔で応える。
背景係の私は、舞台袖から彼の後ろ姿を見ていた。
彼: 「みんなお疲れ〜」
彼女: おどけて舞台裏へ戻ってきた彼は、
袖で緞帳を操作していた私の元へ近寄ってくる。
彼: 「なあ、オマエ。次の朗読劇、主役狙ってみろよ」
彼女: 「え?」
【BGM〜インテリアドリーム】
彼: 「たいせつなものは目に見えない」
彼女: 「あ、それ・・・」
彼: 「ああ。この言葉、なんとなくわかってきたような気がするんだ」
彼女: 「でも・・・」
彼: 「目の前に見えているものだけが真実じゃない」
彼女: 「・・・」
彼: 「知ってるんだぞ、いつも図書館で演劇の本読んでること」
彼女: 「あ・・・」
彼: 「いつも背景係で舞台を支えてくれているお前だけど、
見えている姿だけがお前じゃないんだろ」
彼女: 「・・・」
彼: 「それに、オマエのセリフ、いっぺんちゃんときいてみたいんだ」
彼女: 「え・・・」
彼: 「あ、いや、違う違う。誤解するなよ。
オレはただ、いろんな人のいろんな表現を見てみたいだけだから」
彼女: ふふ。なんか、焦って饒舌になった彼の方が、本当の彼らしい。
目には見えないたいせつなもの、私も探してみようかな。
登場人物
・彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/ストレスによる不眠症気味
・彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ
【Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/後編」】
(SE〜機内音+機内アナウンス「ポーン」)
アナウンス:
皆さま、当機207便をご利用くださいましてありがとうございます。
日本までの飛行時間は11時間10分を予定しております。
ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。
それでは、ごゆっくりおくつろぎください。
彼: シートベルト着用のサインが消えると同時に
微かな、本当に微かな寝息が聴こえてきた。
いや、失礼のないように言っておくと、多分一般の人には聴こえない音。
睡眠外来で働く医師でないととらえられない音階かもしれない。
音の主は、通路を挟んだ反対側に座る・・・キャビンアテンダント・・・?
ああ、確か・・・デッドヘッドだったか。
勤務中の移動のため、乗客として搭乗する、ってあれだっけ。
紺色のカーディガンの下から覗く航空会社の制服がそれを物語っている。
小さな寝息のリズムのなか、不定期に訪れる不協和音。
睡眠障害、かな。
CAって、きっとストレスも多いのだろう。
知らず知らず、彼女に視線を向けた刹那、瞳がゆっくりと開いた。
彼: 「あの・・・」
自分でも信じられないことだったが、通路越しに彼女に声をかけてしまった。
彼女: 「はい」
彼: その気怠げな声に思わず気圧(けお)される。
不眠症と思しき彼女に対し、気づけば私はひどく饒舌になっていた。
彼女: 「それではまた・・」
彼: 一期一会に感謝して、会話を終わらせると、
もう彼女の方へ向き直る勇気などあるはずもない。
夜間飛行の機内音が子守唄になり、いつしか眠りに落ちていった・・・。
(SE〜飛行機の機内音)
(SE〜店内のガヤ)
彼: 帰国してすぐ、私はインテリアショップに足を向けた。
そこには眠りに関する私の論文が展示されている。
不眠の原因や、睡眠の大切さを表示しながら
快眠を誘(いざな)う寝具の選び方。
壁一面に、わかりやすいグラフィックとともにディスプレイされた
眠りの情報たちは、まさにラボ(研究所)のようだ。
その前にたたずみ、ゆっくりイラストや文字を目で追う一人の女性。
白衣、ではなく白いコートを着こなすその姿は・・・
なんと、信じられない偶然が、またしても私の心を震わせた。
彼女: 「あら」
【BGM〜インテリアドリーム】
彼: 「こんな偶然って、あるんですね」
彼女: 「ホントに」
彼: 「ひょっとしたら、あなたの不眠を救え、という暗示なのかもしれませんね」
彼女: 「うふふ」
彼: 「不眠の原因って、」
彼女: 「ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよね?」
彼: 「あ、はい・・・」
2人: (笑)
彼: 彼女は笑うと小さなえくぼが現れる。
その笑顔の眩しさに、思わず目を伏せた。
彼女: 「私、寝姿がよくないんです」
彼: 「え?」
彼女: 「っていうか、寝相がとっても悪いの」
彼: 「そ、それは・・・」
彼女: 「これも睡眠障害の原因?」
彼: 「あ、そ、そうかもしれません・・・」
彼女: 「寝返りばっかりうってるし」
彼: 「大丈夫、寝返りにもちゃんと役目があるんです」
彼女: 「枕が合わないっていうのもあるのかしら」
彼: 「枕の高さも大切ですよ」
彼女: 「あとは・・・」
彼: なんだか、私を質問攻めにして、彼女は楽しんでいるように見える。
人生の1/3は睡眠時間。
私はいつもその時間が快適に過ごせるよう、睡眠障害の患者さんに接してきた。
でも今日からは、残り2/3に幸せを見つけるのも悪くない。
登場人物
・彼女(34歳)・・・10年目の客室乗務員。独身/ストレスによる不眠症気味
・彼(54歳)・・・睡眠外来勤務医/妻とは死別。眠りメカニズムの講演で全国へ
【Story〜「ナイトフライト/ねむりデザインLABO/前編」】
(SE〜機内音)
彼女: それは夢だとわかっていた。
霧深い森の中を私は彷徨っている。
このところ、毎晩同じ夢を見る。
確か、ドリームキャッチャーをベッドの上にかけておいたはずだけど・・・。
彼女: 「・・・はっ」
後輩のCAが私の肩に優しく触れる。
そうか。今日はデッドヘッド。ナイトフライトの機内だった・・・。
デッドヘッドというのは、業務外、移動の時間のこと。
後輩は音を立てないよう、静かに会釈をして通路を歩いていく。
そうね、私ったら制服を着たまま微睡むなんて・・・。
彼: 「あのう・・・」
彼女: 「はい?」
話しかけてきたのは、通路を挟んだ反対側のシートに座る紳士。
顔だけこちらに向けて、申し訳なさそうに口を開く。
彼: 「もしかしたら、不眠症ですか?」
彼女: 「え?」
彼: 「いえ、不躾に話しかけたりしてすみません。
実は私、睡眠外来で働いているんです」
彼女: 「お医者様、ですか?」
彼: 「はい。小さなクリニックですが」
彼女: 「どうして私が不眠症だと?」
彼: 「微かな音でしたが、呼吸の乱れがありましたので」
彼女: 「まあ、お恥ずかしい・・・」
彼: 「いえいえ。すみません、つい職業病で」
彼女: 「ふふ・・・。いいんです。その通りですもの」
彼: 「機上の人だから、ストレスとかもいろいろあるのでしょうね」
彼女: 「ええ、でもそれじゃ、プロとして恥ずかしいわ」
彼: 「いいえ、大丈夫。今や日本人の20%が不眠に悩んでいますから」
彼女: 「はあ」
彼: 「ストレスだけじゃなく、ベッドとか寝具が原因のこともあるんですよ」
彼女: 「さすが、お詳しいですね」
彼: 「あ、いや・・失礼しました。お疲れのところを長々と・・・」
彼女: 「大丈夫です。勉強になりました」
彼: 「またいつか、どこかでお会いしたら、この続きをお話ししましょう」
彼女: 「はい、ありがとうございます」
彼: 「こちらこそ」
彼女: はにかみながら向き直った彼は、雑誌を開いて視線を落とした。
すっかり睡魔が消え去った私は、さきほどの夢を思い出していた。
あれはなんだったんだろう・・・
首を傾げるそぶりをしながら、右側を見ると、
お医者様は雑誌を開いたまま、夢の世界の住人になっていた。
(SE〜飛行機の走行音)
(SE〜店内のガヤ)
久しぶりにまとまった休みがとれた土曜日。
私はまっさきにインテリアショップに向かった。
不眠の原因がベッドかも、という彼の言葉が脳裏に焼きついていたからだ。
壁にディスプレイされた睡眠の雑学を読んでいると、
聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
彼: 「こんにちは」
【BGM〜インテリアドリーム】
彼女: ドラマじゃあるまいし、こんな偶然ってあるのかしら。
そう、話しかけてきたのは、空の上で見かけたあの笑顔。
彼: 「ベッドですか?」
彼女: 「あ、はい。あなたは・・・?」
彼: 「このコーナーで僕の論文を紹介してもらっているんですよ」
彼女: 「まあ」
彼: 「よかったら、この前の話の続き、いかがですか?ちょうど寝具の前だし」
彼女: 「はい。よろこんで」
彼: 「じゃあ、まずは重要なポイント。枕の高さについて・・・」
彼女: 夢の中と同じ笑顔で、彼は寝姿の話とか、マットレスの構造の話とかを
丁寧に話し始める。
考えてみたら、最近夢でうなされることはなくなったような気がする。
あとは寝具を整えれば・・・
うふふ。
人生の1/3は睡眠時間。
1/3が快適なら、残りの2/3も、きっと素敵な時間になりそうね。
登場人物
・彼女(26歳)・・・医薬品メーカー勤務のMR/社会人4年目。仕事に追われる毎日(CV:桑木栄美里)
・彼(24歳)・・・システムエンジニア/社会人2年目。彼女と暮らし始めて半年(CV:日比野正裕)
(SE〜街角の雑踏/クリスマスイメージ)
彼女: 「がんばってなるべく早く帰るから・・・」
<BGM〜fantasy-harp-and-irish-300504334.wav>
彼: TV電話に映る彼女の表情は、申し訳なさでいっぱいだった。
彼女は、医薬品メーカーに勤めるMR。
この時期、病床使用率が上がってくると、どうしても忙しくなってくる。
だから、僕たちのクリスマスは、おうちで過ごす”二人だけのクリスマス”。
料理の担当は、もちろん、僕だ。
彼女: 「料理、無理しないでね。私、帰ってから作るから。
クリスマスに怪我なんてしちゃ、いやよ」
彼: ふふん。馬鹿にしないでほしいな。
この日のために、ここ毎日先に家に帰って練習していたんだから。
僕は念入りに部屋の清掃をすますと、クリスマスの食材を探しに街に出た。
断続的に流れる車の中から、煌めくイルミネーションに目をとめる。
そこは、彼女と喧嘩をした日に、偶然見つけたインテリアショップだった。
彼女: 「イルミネーションって、見ているだけであったかくなる」
彼: 「そうだね。喧嘩して凍てついた心も溶けるほどに」
彼女: 「あら、別に私の心は凍りついてないけど」
彼: 「そういうことにしておこうか(笑)」
彼女: 「ユニコーン・・・」
彼: 「え?」
彼女: 「ほら、この絵、ユニコーンじゃない」
彼: 「僕には普通の白馬に見えるけど」
彼女: 「ユニコーンってね、清らかな乙女にしか近寄らないんですって」
彼: 「ふうん」
彼女: 「ノアの方舟にも乗ってたのよ」
彼: 「そうなんだ」
彼女: 「私の元にも来てくれるかしら」
彼: 「も、もちろんだよ。君ならきっと、ユニコーンの背に乗ることだってできるさ」
こうしてクリスタルの白馬、いや、ユニコーンの絵は、
ぼくたちの家にやってきた。
雪解けの笑顔を思い出しながら、僕は駐車場へハンドルを切った。
(SE〜ドアが開く音)
彼女: 「ただいま・・・」
「遅くなっちゃって、ごめんなさい・・・」
「もう、寝てるよね・・・」
彼: 息をひそめた僕に気づかず、彼女はライトのスイッチをつけた。
(SE〜スイッチの音)
彼女: 「あ・・・」
【BGM〜インテリアドリーム】
彼: 「メリークリスマス。
どうかな・・・ホワイトクリスマスに・・・なったかな」
光の中。舞い散る雪のように、煌めくユニコーン。
そしてその横、ひときわ大きな、もうひとつのキャンバス。
ピクチャーレールからワイヤーフックで固定されているのは、
彼女: 「・・・ヘプバーン!」
彼: それは、ユニコーンと同じく、クリスタルで装飾されたヘプバーンの肖像画。
まるで雪が舞っているように、光の結晶が踊っている。
彼女の表情にもみるみる光がさしてきた。
彼: 「君、いつも、ヘプバーンみたいになりたいって言ってたよね」
彼女: 「うん・・・」
彼: 「賢者の贈り物にならないといいんだけど」
彼女: 「ありがとう・・・」
彼女: 「じゃあ私も・・・」
彼: 「え?」
彼女: 「Happy Holidays(ハッピーホリデイ)」
彼: 「これって・・・」
彼女: 「どう?」
彼: 「スマートウォッチ?」
彼女: 「だって、賢者の贈り物になるといけないでしょ」
彼: 「ありがとう」
彼女: 「あなた、プログラマーなんだから役に立ててね」
彼: 僕のピクシーがいたずらっぽく笑った。
クリスタルの光が部屋の温度を上げていく。
今夜は冬の妖精と過ごすあたたかいクリスマスになりそうだ。
登場人物
・彼女(26歳)・・・医薬品メーカー勤務のMR/社会人4年目。仕事に追われる毎日(CV:桑木栄美里)
・彼(24歳)・・・システムエンジニア/社会人2年目。彼女と暮らし始めて半年(CV:日比野正裕)
【Story〜「聖夜の奇跡/IROTTA CHIC/前編」】
(SE〜街角の雑踏/クリスマスイメージ)
彼女: 「眩しい・・・」
<BGM〜a-dark-silent-night-346733592.wav>
思わず口を衝いて出た言葉に、周りを見回した。
ジングルベルの洪水のなか、誰もが足早に家路を急いでいる。
それはショーウィンドウの中で煌めく1枚の絵。
描かれた街にはクリスタルの雪が舞っている。
気がつくと、いつしか私は、絵の中の街を歩いていた。
腕を絡めて歩くのは・・・あ、パートナーの彼。
え?彼と私、さっきまで喧嘩してたんじゃなかったっけ?
彼: 「疲れてない?」
彼女: 「大丈夫」
彼: 「この先にあるお城のライトアップを見に行かないか?」
彼女: お城?ライトアップ?
そんなもの、この街にあったっけ?
彼: 「しっかりつかまって」
彼女: え?バイク?
いつの間にか私たちは、クリスタルに包まれたバイクに乗っている。
彼: 「少し飛ばすよ」
(SE〜バイクのエンジンをかける音〜バイクの走行音)
※ここはイメージなのでバイク音にかぶっても大声で話さなくてよい
<BGM〜christmas-eve-347253497.wav>
彼女: タンデムなんて、何十年ぶりかしら?
よかった、スキニージーンズを履いてて・・・
ってあれ?私、今日、仕事だからスーツだったはず。
まあ、いっか。
彼がエンジンブレーキをかけるたびに、
クリスタルが散らばり、街が煌めいていく。
彼女: 「きれい・・・」
彼: 「だろう?でもお城はこんなもんじゃないからな」
彼女: 「ねえ」
彼: 「なんだい?」
彼女: 「さっきはごめんね・・・」
彼: 「なに?」
彼女: 「電話で喧嘩、しちゃって」
彼: 「え?なんのこと?」
彼女: 「クリスマスの約束のこと」
彼: 「クリスマスの約束?」
彼女: 「とぼけないでよ。 来週のクリスマスを白銀の世界で過ごすって約束。
私、仕事でいけなくなっちゃったから」
彼: 「なにを言っているんだい?クリスマスは今日だろ。
ほら、こうして一緒にいるじゃないか」
彼女: 「え・・・」
<BGM〜christmas-fairytale-346742679.wav>
ほどなく、煌めきに満ちたクリスタルのお城へ到着した。
夜空に舞うのは、クリスタルの雪。
彼の肩に頬をよせながら、私の意識は光と同化していった・・・。
(SE〜街角の雑踏)
彼: 「お嬢さん、そんな格好じゃ風邪ひきますよ」
彼女: 「あ」
【BGM〜インテリアドリーム】
彼女: クリスタルの夢から私を連れ戻したのは、やっぱり彼だった。
彼: 「さっきは、電話でごめんね」
彼女: 呆然と立ち尽くしていた私の後ろで
落ちかけた私のジャケットをかけ直しながら、
彼: 「考えたんだけど、クリスマスはおうちで過ごさないか?」
彼女: 言葉に出しながら、彼がはにかむ。
彼: 「何時になってもいいから、一緒にクリスマスを祝おう」
彼女: 凍てついた私の表情もゆっくりと溶けていく。
彼: 「あ、料理も僕が準備する」
彼女: 「ホワイトクリスマスにして」
彼: 「え」
彼女: 「あれ」
彼: 「ああ!」
彼女: 視線の先にあるクリスタルの絵を見て彼の顔がほころぶ。
彼: 「オッケー。さあ、寒いからお店の中に入ろう」
彼女: 入口にディスプレイされた煌めく絵画たち。
まるで宝石のような光の中を抜けて、
私たちはインテリアショップへ入っていった。
彼女: 「こたつも必要かも」
彼: 「あったかいクッションも」
2人: 笑
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