📖『台川』朗読 – 水にゆれる光の網と、青葉の谷をさかのぼる明るい半日🌿✨
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『台川』。
生徒たちを引率して、釜淵まで行く朝です。さあ出かけましょうと声をかけても、まだ姿を見せない者がいます。もう二十分も待ったのだから仕方ない。来たい者だけを連れ、みちばたの草に腰をおろした校長を残して、おれは歩きだします。
乾いた粘土のみちの両側は、小松と若い林ばかりです。向うの崖に黒い岩が突き出ているのを見つけると、おれはさっそくそれがどうしてそこに在るのかを説明します。言いおわってから、かえって混ぜかえしただけだと思いなおし、言葉をあらためてもう一度云う。けれども生徒たちは黙って歩いているばかりでした。
坂がひどくなり、下の方で水の鳴る音がしはじめます。急な崖を木につかまって下りきっても、目あての瀑にはまだ届きません。おれは靴をぬぎ、水の中の石を動かして、みんなの渡れる足がかりをこさえてやることにしました。
生徒たちに向かって云う言葉のうしろでは、おれの独りごとがひとときも止まりません。いまの説明はどうだったか、云わずにおけばよかったのではないか。この石は何というのかと方言で問いかけてくる声も、そこへまぎれこんできます。
水の中を歩いていくと、足もとでは日の光が網になってゆれつづけています。それは歩きだしたときから、木の間にも生徒たちの足なみにも、おなじようにゆれていたものです。鉄槌を大きく振って川をあるくのは、もう何年ぶりかわかりません。
青葉の谷を水づたいにさかのぼる、引率の教師の半日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #方言