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📖『若い木霊』朗読 – 雪の消え残る枯草の丘と、胸の高鳴る春さきの一日🌾💓
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『若い木霊』。
雪もほとんどとけた、枯草の丘です。若い木霊は、木を見かけると近よっていって、もう春だから起きろと、大きな声で呼びかけます。けれども、幹に耳をあててみても、なかはしずかで、木はまだ目をさましていません。
丘を下りた窪地まで来たとき、一匹の蟇の言葉が聞こえてきて、木霊ははっと立ちどまります。鴾の火だ、もう空は青くない、と蟇はつぶやいているのです。
若い木霊がひとりで丘をめぐる、春さきの一日です。空は澄みわたり、日の光をうけた枯草が、どこまでも明るく光っています。丘のあいだの窪地では、黒い土がぬくもり、早い花も咲きはじめています。
木霊の胸は、空を見あげたときから、なぜだかどきどきと鳴っています。春のきざしに出あうたびに、その音は高くなり、息まで熱くなってきます。ふん、と言ってはみても、胸の鳴るのはおさまりません。
雪の消え残る丘に、春の光のあふれる一日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#冒険 #植物
📖『十月の末』朗読 – 霜の朝の明るい豆畑と、青い月のかかる晩秋の夜🍂🌙
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『十月の末』。
霜のおりた、つめたい朝です。お母さんとおばあさんは支度をして、山の畑へ出かけるところです。通いなれた路を、小さな嘉ッコはひとあし先に走っていきます。
豆畑に着くと、むこうから、となりの善コがお母さんといっしょにやって来ます。並んで座った二人は、両手で耳をふさいではまたひらく遊びをはじめました。すると、水が流れているような、ふしぎな音が聞こえてくるのです。
豆の取り入れでいそがしい家の人たちのそばで過ごす、嘉ッコの一日です。風はつめたく、お日さまは、ときどきうすい雲にかくれては、また明るく照ります。日が暮れてからは、赤く燃える火のまわりに、みんながいます。
嘉ッコは、見るものにも聞くものにも、すぐに夢中になります。となりの善コとは、畑にいても家にいても、大きな声で呼びかわします。おとなたちも、よく笑います。
霜の朝から月の夜まで、十月の末の一日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #方言 #月 #柱
📖『十六日』朗読 – 谷川の音と日の光にみちた、夫婦の盆の休み☀️🏞️
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『十六日』。
盆の十六日は、鉱山ではたらく嘉吉と、おみちの夫婦にとって、年に二日だけの休みの日です。おみちは朝のうちに、ごちそうをすっかりこしらえてしまいます。
嘉吉がそれを食べはじめたところへ、若い学生がひとり、ものをたずねにやって来ます。たずねられたことに答えるうちに、嘉吉は、おみちの見ている前で、もっと話をしてみせたくなります。そこで学生を引きとめて、いっしょに食べていくようにすすめます。
この一日を、夫婦は、子どもにかえったようにして過ごします。小屋の外には日の光がしずかに降り、谷川の音までが、きょうはたのしく聞こえます。
おみちは、嘉吉が親たちを説きふせてもらった娘で、いっしょになって三年になります。その顔は、ぱっと赤くなったり、ぼんやりしたりして、この日のうちに何べんも変わります。嘉吉は、その顔をじっと見ています。
盆の十六日、小屋に過ぎていく夫婦の一日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#衝動 #方言
📖『紫紺染について』朗読 – 山男を待つ町の夕暮れと、酒のまわる九月の宴🌇🍶
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『紫紺染について』。
工芸学校の先生が、紫紺染のつくり方をさがしています。草の根をつかうこの古い染めものは、いちどすたれてしまい、もう知っている人がいないのです。むかしの記録を調べるうちに、先生は、紫紺の根を町へ売りに来て、酒を買って帰った山男のことを見つけます。
たずねられる相手は、もう山男のほかにいない。先生は町の人たちと相談して、山男に手紙を出し、食事の席に招くことにしました。九月の夕暮れ、みんなは、ほんとうに来てくれるのかどうかを案じながら待っています。
町の人たちと山男とが、ひと晩だけ、同じ食卓をかこみます。山男は、黄金いろの眼をした大きな男です。むかえる人たちがならんで頭を下げると、山男のほうでも、ていねいに礼を返します。
思いがけないもてなしを、山男はたいそうよろこんで、いくらでもお酒を呑みます。席はにぎやかになり、夜の更けるまでつづきます。
ひとつの染めものがよみがえるまでの、苦心のひとこま。山男をむかえた町の一夜を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#山男
📖『台川』朗読 – 水にゆれる光の網と、青葉の谷をさかのぼる明るい半日🌿✨
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『台川』。
生徒たちを引率して、釜淵まで行く朝です。さあ出かけましょうと声をかけても、まだ姿を見せない者がいます。もう二十分も待ったのだから仕方ない。来たい者だけを連れ、みちばたの草に腰をおろした校長を残して、おれは歩きだします。
乾いた粘土のみちの両側は、小松と若い林ばかりです。向うの崖に黒い岩が突き出ているのを見つけると、おれはさっそくそれがどうしてそこに在るのかを説明します。言いおわってから、かえって混ぜかえしただけだと思いなおし、言葉をあらためてもう一度云う。けれども生徒たちは黙って歩いているばかりでした。
坂がひどくなり、下の方で水の鳴る音がしはじめます。急な崖を木につかまって下りきっても、目あての瀑にはまだ届きません。おれは靴をぬぎ、水の中の石を動かして、みんなの渡れる足がかりをこさえてやることにしました。
生徒たちに向かって云う言葉のうしろでは、おれの独りごとがひとときも止まりません。いまの説明はどうだったか、云わずにおけばよかったのではないか。この石は何というのかと方言で問いかけてくる声も、そこへまぎれこんできます。
水の中を歩いていくと、足もとでは日の光が網になってゆれつづけています。それは歩きだしたときから、木の間にも生徒たちの足なみにも、おなじようにゆれていたものです。鉄槌を大きく振って川をあるくのは、もう何年ぶりかわかりません。
青葉の谷を水づたいにさかのぼる、引率の教師の半日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #方言
📖『車』朗読 – 松脂かおる松林の道と、木洩れ日ゆれる夏の一日🌲☀️
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『車』。
籠を頭にのせて町角に立っていたハーシュは、その日の午前中、仕事にありつけずにいました。弁当を食べはじめたところへ赤い髭の男がせかせかとやって来て、兵営の普請に使うテレピン油を工場まで取りに行ってくれと頼みます。渡された名刺と、よぼよぼの車を引いて、ハーシュは道を歩きだします。
楊の並木を過ぎ、白い杭のところで道を折れると、松脂の匂いのする松林にさしかかります。そこで水色の服を着た小さな男の子に呼びとめられ、車に乗せてほしいとせがまれます。乗せてやると、車はがたがたと揺れ、狭くなっていく道をハーシュはゆっくりと引いていきます。
そのうちに車輪のくさびが一本ぬけているのに気づき、ハーシュは近くの百姓家で縄を借りようとしますが、おかみさんにきつく断られてしまいます。腹を立てるのはもっともだと思い直したハーシュは、来た道を戻ってくさびを探しあて、車をなおして再び歩きだします。小さな川を渡ると、まもなく松林のはずれにテレピン油の工場が見えてきます。
仕事のなかった朝のうめ合わせに、こんなにも愉快な道のりが待っていようとは、ハーシュ自身思いもよらないことでした。
松の香りと木洩れ日に満ちた、ひとりの男とひとりの子どもの小さな旅を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#兵隊 #冒険
📖『氷と後光』朗読 – 雪と月あかりを走る夜汽車と、氷にきらめく朝の光🌙❄️
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『氷と後光』。
雪と月に照らされた夜の中を、汽車が北へと進んでいきます。赤い頭巾をかぶった幼い子どもは毛布にくるまれ、窓ぎわでぐっすりと眠ったまま。網棚に積まれたりんごの香りが車室いっぱいに満ちるなか、若い父と母は、山の上に見える白いものが雲か凍った雪煙かと言葉を交わしながら、次々に流れていく電信柱を眺めています。夜中を過ぎるころ、車室を暖めていたスティームが急に止まって冷えこみ、窓は氷でくもります。父と母は風邪をひかせまいと子どもに毛布を着せなおし、汽車が峠の頂上を越えて下りにかかると、明かりも暖かさももとに戻って、二人はまどろみながらかわるがわる子どもの寝顔をのぞきこみます。
夜が明けるころ盛岡に着くと、霜で真っ白になった毛皮や襟巻をまとった人たちが乗りこんできます。窓にはらんの葉のような形の氷の結晶がびっしりと広がり、そのすきまから東の空にほのかな琥珀色がのぞきはじめます。目を覚ました子どもに母が乳をふくませるころには、車室のまわりはしだいに明るさを増していきます。
氷にとざされた車室の中を、汽車はゆっくりと夜から朝へ運ばれていきます。窓をおおう氷の色も車内の温度も、そのつど移り変わっていきます。
そのあいだ、父と母はただ静かに子どものそばに寄り添いつづけます。眠っては目を覚ます子どもをはさんで過ごす、汽車の中だけの時間です。
氷の結晶にいろどられた夜汽車の一夜を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#鉄道 #月 #柱
📖『二人の役人』朗読 – 萱の穂の光る九月の野原と、きのこをさがす日曜の朝🌾🍄
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『二人の役人』。
九月の野原は、草の穂と小さな林とでいっぱいでした。私は藤原慶次郎といっしょに、毎日そこへきのこや栗をとりに出かけます。ある日曜の朝、いつもの入口まで来ると、白い立札が一本立っていて、きょうはえらい人が来るから中へ入ってはいけない、と書いてありました。
それでも二人は、そのえらい人の顔を見てやろうと、野原でいちばん奇麗な林まで走って行き、草のなかにかくれます。待っていても人の来る気配はなく、こわさはいつのまにか薄れて、二人はきのこをさがしはじめました。そこへ慶次郎が耳もとで、来たよ、と云うのです。草の間からすかして見ると、二人の役人が、みちを外れてこちらへまっすぐ近づいて来るところでした。
つかまるものと覚悟した二人は、とったきのこをそっと棄てます。ところが役人たちは、子どもらのいることに気づきもしないで林の前に立ちどまり、かかえてきた袋の口を解きはじめるのでした。
草のなかにひそんでいるあいだ、聞こえてくるのは大人たちの声ばかりです。息もつまるようだった時間は、その声とともにだんだんほどけていきます。はんのきの下には日ざしが点々と落ちて、九月の光はどこまでも明るいのです。
いまその野原は、畑や練兵場になっています。それよりもっと立派だったころの、青い萱と栗の木の林にみたされた九月の一日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #冒険
📖『耕耘部の時計』朗読 – 雪あかりの白い農夫室と、暮れて雪になる冬の一日❄️✨
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『耕耘部の時計』。
雪の照りかえしで白びかりのいっぱいな、冬の農場の農夫室。まん中の大きな釜からは湯気が盛んにたち、農夫たちは脚絆を巻いたり藁沓をはいたり、はたらきに出る支度をしています。そこへ俄かに戸があいて、赤い毛布でこさえたシャツを着た若い男が、きょうからこちらで働くようにと云われて参りましたと告げてはいって来ました。みんなの仕度ができるのを待つあいだ、男はふと、室の正面にかかった円い柱時計を見あげます。青じろくてつるつる光る、どこでも見たことのないような盤面です。
自分の腕時計とくらべて、あいつは十五分進んでいるな、と男が竜頭を引いて針を直そうとしたとき、そばで見ていた子供の百姓がくすりと笑いました。するとどう云うわけかみんなも一斉に、その青じろい美しい盤面を見あげながら、どっと笑ったのです。玉蜀黍の脱穀がひとくぎりついた昼どきにも、午の食事がすんだあとにも、男はこっそり自分の腕時計に目を落とします。時計はそのたびにちがう顔をしていて、そのたびに、農夫室には気のよさそうな笑い声が起こるのでした。
窓ガラスの向うでは、うるんだ白い雲が、額もかっと痛いようなまっ青なそらをあてなく流れていきます。炉を囲んで、郷里はどこだ、いつまでこっちに居るつもりだい、と低いやりとりがつづき、今夜は一尺は積るな、帝釈の湯でまた熊が捕れたそうだ、と話は移っていきます。雪を渡ってカランカランと鐘の音がとどけば、そりを牽いて来た馬が、きれいに歩調を踏んで厩の方へ歩き出すのです。
日暮れからはすっかり雪になりました。農夫室には電燈が明るく点き、火はまっ赤に熾って、外ではちらちらと雪が降っています。停車場まで酒を呑みに出掛けた人たちも、もう行くのはやめたろうと思われるような降りかたです。
湯気と炭火と、降りつむ雪。冬の農場に過ぎていく一日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#柱
📖『さいかち淵』朗読 – ぎらぎら光る河原と、川に明け暮れる夏休みの眩しい日々☀️🌊
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『さいかち淵』。
夏のあいだ、村の子どもらは毎日のようにさいかち淵へ通います。「ぼく」と、いちばん仲のいいしゅっこも、きょうもいっしょに出かけて行きました。河原は白く焼けて、木も草も日ざしにぐったりし、淵の水だけが深くつめたく澱んでいます。そこへ、発破をかけて魚をとる大人たちがやって来ました。真先に気づいたしゅっこは、みんなを下流へさがらせて、何も知らないふりをして遊んでいろと云いつけます。やがて川の底から重い音がひびいて、淵の水がもちあがりました。
魚を囲っておいたところへ、見なれない身なりの人が通りかかります。子どもらの魚をかきまわし、そのまま浅瀬を行ったり来たりしてなかなか去らないので、木の上にならんだ子どもらは、しゅっこの合図で声をそろえて文句を云いました。その人は困ったような顔をして、崖をのぼって畑のほうへ消えてしまいます。あとには、なんだか気の毒なような、がらんとした心もちが残りました。
次の日、しゅっこは、もっといいことをして見せると云って、小さな子どもらまで残らずさそって歩きます。蝉の声のふりしきる林を抜け、匂いのむっとする河原を通って、みんなで淵へ急ぐ。東の空には雲の峰が高く湧きあがり、遠くの山がぎらぎら青く光っていました。しゅっこの手には、紙に包んだ青い石があります。それを卑怯だと思った「ぼく」は、そのさそいには乗りませんでした。
川べりは、いつもこどもらの声でいっぱいです。呼び名も、はやし立てる声も、水音と日ざしのなかに混ざって、どこまでも眩しい。日が高くなるほど石は焼けて、水はいよいよ冷たく、そのまん中には、底の知れない淵がしずかにたたえられているのです。
光る河原と、まっ青な空と、深い水。さいかち淵で過ごされた八月の二日を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #冒険
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