
Sign up to save your podcasts
Or


📖『林の底』朗読 – はじめ鳥はみな白かった、月夜に梟が語る色のはなし🌙🦉
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『林の底』。
風もないしずかな晩、西のそらに古びた黄金の鎌がかかるころ、林の中の低い松の枝から、一羽のとしよりの梟が「私」に話しかけてきます。鳥の先祖が天から降って来たときは、どいつもこいつもみな白かったのだ、と。ところが「私」は、いつも頬をふくらせて尤もらしい顔をする梟を、あまり信用していません。この用のない晩に、大きな梟がどんなことを云い出すか、ぼろを出さずに辻褄をあわせて語れるものかどうか、なるべくまじめな顔でゆっくり聴いてみることにします。
みな白かった鳥たちは、うしろから声をかけても振り向くのが別の鳥だったりして、ずいぶん間ちがいが多かったのだそうです。そこで手の長いとんびが、川岸の赤土の崖の下に染屋を出しました。鳥たちはよろこんで、大きいのも小さいのも、めいめい注文をつけては染めて貰いに出掛けて行きます。どうしてめじろは眼のまわりが、頬白は両方の頬が、白いまま残っているのか。「肺が小さくて息がつづかないからです」と大まじめに説く梟に、「私」は、両方おなじ形におなじ場所に残っているのは工合がよすぎるではないか、と口をはさみます。すると梟はしばらく眼をつむり、また別の理くつをひねり出すのです。
とぼけた聞き手と、機嫌をよくしたり悪くしたりしながら語りつづける梟。話に調子を合わせたかと思えば、ふと心を別のことへ遊ばせる「私」。鉛のように重く青い月光に満ちた月夜の林で、二人のかわすふしぎな問答を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#人と動物 #月
📖『蜘蛛となめくじと狸』朗読 – 立派な選手だった三人の、それはそれは本気の競争🕷️🐌🦝
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『蜘蛛となめくじと狸』。
蜘蛛と、銀色のなめくじと、それから顔を洗ったことのない狸。三人はみんな立派な選手で、それはそれは実に本気の競争をしていたのだそうです。けれども、一体何の競争だったのか、語り手の「私」はよく知りません。胸に「ナンペ」と書いた蜘蛛文字のマーク、銀いろのゴムの靴、少しこわれた運動シャッポ。そんな三人の伝記が、ひとりずつ順にひもとかれていきます。
ある晩ふっと風に飛ばされて、森の入口の楢の木にひっかかった赤い手長の蜘蛛は、ひもじいのを我慢して「うんとこせうんとこせ」と、二銭銅貨位の小さな網をかけはじめます。銀色のなめくじは、林の中では一番親切だという評判で、立派なおうちを訪ねてくるものに「あなたと私とは云わば兄弟。ハッハハ」と、ふきのつゆやたべ物をふるまいます。そして顔をわざと洗わない狸は、きもののえりを掻き合せて、「なまねこ、なまねこ」と山猫大明神へのありがたい念猫をとなえています。
かげろうが哀れな声で歌う遺言のうた、「もう一ぺんやりましょう。ハッハハ。」とくりかえされる相撲、ポンポコポンポンとひびくはらつづみ。訪ねてくる小さなものたちとのやりとりを重ねながら、三人はそれぞれのやり方で、だんだん大きく立派になっていきます。そして楢の木の上の蜘蛛のところへは、時おり下の方から、へらへらした声や太い声で、からかいの歌が聞えてくるのです。
とぼけた語り手の口ぶりと、ふしぎな歌と、ハッハハという笑い声。にぎやかな声にみちた三人の選手の伝記を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#動物が主人公 #伝記 #蛙
📖『洞熊学校を卒業した三人』朗読 – いちばん大きく、いちばんえらく🕷️🐌🦝
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『洞熊学校を卒業した三人』。
赤い手の長い蜘蛛と、銀いろのなめくぢと、顔を洗ったことのない狸。この三人がいっしょに洞熊学校にはいり、洞熊先生のもとで学びます。そこで教わったのは、大きいものがいちばん立派だということ。三人はみんな一番になろうと競い合い、やがて学校を卒業して、それぞれ自分のうちへ帰っていきます。
表向きは仲よさそうに見えても、腹のなかで思うのは「これから誰がいちばん大きくえらくなるか」ということばかり。かたくりの花が咲き、眼の碧い蜂たちがぶんぶんと飛び交う春の入口に、三人それぞれの暮らしが始まります。森の入口に網をかける蜘蛛、林中で評判の高いなめくぢ、お寺でありがたいお経をとなえる狸。習ったことを「じぶんでほんたうにやる」ために、三人はそれぞれのやり方で、自分より小さなものたちと向き合っていきます。
訪ねてくるかげろうやかたつむり、兎とのやりとり。そのひとつひとつを重ねながら、「いまに見ろ」と大きくなることを目指す三人。ハッハハと笑う声、なまねこととなえる声——それぞれの声色のなかに、一番になろうとするものたちの姿が立ちのぼります。
春から夏、秋、そして冬へ。物語の折々には、眼の碧い蜂の群れがあらわれ、かたくり、つめくさ、蕎麦の花から蜜を集め、六角形の巣を築いています。競い合う三人のかたわらで、季節は静かにめぐっていきます。移りゆく野原の情景とともに紡がれるこの幻想的な物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#蛙 #動物が主人公
📖『マリヴロンと少女』朗読 – 秋の城あとにかかる虹と、才ある人へ捧げるおもい🌈🎼
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『マリヴロンと少女』。
秋も深まった城あとに、銀のすすきの穂が一面に風で波立っています。まん中の小さな山の上には、めくらぶどうのやぶが実をつけ、そのそばで、ひとりの少女が楽譜をもってためいきをつきながら草にすわっています。かすかな日照り雨が降っては霽れ、草はきらきらと光り、もずが銀のすすきの穂に一度にとまります。やがて東の山脈の上を風が通り、大きな虹が、明るい夢の橋のようにやさしく空へあらわれます。
そこへ、今夜市庁のホールでうたうというマリヴロン女史が、ライラックいろのもすそをひいて、みんなをのがれてやって来ます。少女は化石のようにすわったまま、この天の才ある人へ、ただ一言でも自分のおもいを伝えたいと願います。やがて、透きとおる声もどこかへ行って、しわがれた声を風に半分とられながら、少女はマリヴロンに呼びかけます。
どうか私の尊敬を受けとってほしい、あなたがもっと立派におなりになる為なら私は百ぺんでも死にます——そう訴える少女に、マリヴロンは静かにことばを返します。正しく清くはたらくひとは、時間のうしろにひとつの世界をつくるのだと。青いそらをとんでゆく一羽の鵠が、うしろにそのあとをもつように。
秋の城あとの風景と、そこに立ちのぼる一すじの虹。楽譜をもった少女と、うたい手であるマリヴロンとが、みじかいひとときだけことばをかわします。銀のすすき、めくらぶどうの雫、東へ飛び立つもず、空にかかる虹。詩的な情景のなかで、ふたりの声が静かに響きあいます。
秋の光と虹に満ちた城あとのひととき。少女とマリヴロンのみじかい対話を通して立ち現れるこの幻想的な物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#鼠 #芸術 #衝動
📖『めくらぶどうと虹』朗読 – 銀のすすきがゆれる秋の丘と、空にかかる一すじの虹🌾🌈
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『めくらぶどうと虹』。
城あとの草はらに、秋が深まっています。赤つめ草の花は枯れ、畑の粟は刈られ、崖には銀のすすきの穂が、いちめんに風に波立っています。その草はらのまん中の小さな丘の上、やぶには、めくらぶどうの実が虹のように熟れていました。
かすかな日照り雨が降ってはまた霽れ、東の灰色の山脈の上をつめたい風がふっと通ると、大きな虹が、明るい夢の橋のようにやさしく空にあらわれます。その姿を見上げて、丘の上の小さなめくらぶどうの木の青じろい樹液は、はげしく波うちました。今日こそ、ただ一言でもあの虹とことばをかわしたい——しわがれた声を風に半分とられながら、めくらぶどうは空に呼びかけます。やさしい虹は、西のそらをながめていた大きな碧い瞳を、丘の小さな木へ向けました。こうして、めくらぶどうと虹のあいだに、ことばが交わされはじめます。
銀色に光る秋の野原、虹のように熟れたぶどうの実、空にかかる一すじの虹。きらきらと光る草、音譜をばらまいたように飛びかうもず、刻々と色を変えていくそら。光と色に満ちた秋の野で、丘の上の小さな木が、はるかな空の虹を見上げています。
ひたむきに虹をうやまい、自分のいのちなど惜しくないと言うめくらぶどうに、虹はしずかにこたえます。虹の口から語られることばには、「かぎりないいのち」「まことのひかり」、そして野の百合といった、仏教やキリスト教を思わせるひびきがあります。詩のようなことばと幻想的な情景が織りなす、静かで瞑想的な世界。
宮沢賢治が描く、銀のすすきと虹に満ちた秋の風景。丘の上の小さな木を通して立ち現れるこの幻想的な物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#鼠 #植物
📖『みじかい木ぺん』朗読 – 雨あがりの樺の林と、灰いろの不思議な鉛筆🌳✏️
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『みじかい木ぺん』。
キッコの村の学校では、雨がふると子供たちが教室の中で胆取りと巡査にわかれてあばれます。そのなか、いちばん前のすみの席で、霜やけで赤くふくれた手に一寸ばかりの鉛筆をにぎりしめ、キッコはひとりにかにか笑いながら、しきりに何かを書いています。それは、新学期からずっと使ってきた、おじいさんと町で買った大切な木ペンでした。けれどもその日、そのみじかい木ペンは、いつのまにかどこかへ消えてしまいます。
課業がすんで外へ出ると、雨はすっかり晴れていました。あちこちの木がみな光り、山は群青にまぶしく見えます。けれども心もちをふさいだまま樺の林を歩くキッコの前に、灰いろのぼろぼろの着物を着たおじいさんが、大へん考え込んでやって来ます。「今日学校で泣いたな」と声をかけ、頭の上で鳥がピーと鳴くなか、おじいさんがキッコの手にそっと持たせたのは、心の色も黒くない、いかにも変な灰いろの鉛筆でした。
子供たちのがやがやした声や雨だれの音が響く古めかしい教室から、雨上がりの匂いがいっぱいの樺の林へ。群青にまぶしい山、おひさまにすけて金いろにかがやく木の葉、霜やけで赤くふくれた手、灰いろの鉛筆。色と光と音にあふれた風景のなかを、ひとりの小さな子供が歩いていきます。土地の言葉でかわされる子供たちのやりとりや、短くなってもまだまだ使える一本の鉛筆に寄せられた気持ちが、村の学校での何でもない日々を、いきいきと立ちあがらせます。
そして、見知らぬおじいさんから手わたされた一本の鉛筆。それを手にしたときから、キッコの毎日は思いがけない方へと進みはじめます。詩的な言葉と幻想的な情景が織りなす、宮沢賢治の不思議な物語の世界が、ここから静かに広がっていきます。
宮沢賢治が描く、雨と光と樺の林に満ちた、ある村の風景。キッコと灰いろの鉛筆をめぐって立ち現れるこの幻想的な物語を、朗読でじっくりとお楽しみください
#いじめ #傲慢 #少年 #方言
📖『貝の火』朗読 – 光る野原と、火をやどすひとつの珠🌿🔥
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『貝の火』。
草がきらきらと光り、樺の木が白い花をつける、よいにおいに満ちた野原。子兎のホモイは、うれしくてたまらず草の上を跳ねまわっています。そんなある日、ホモイは流れに落ちて押し流されてゆく小さな命を見つけ、こわさをこらえて水に飛び込み、岸へと助け上げます。
それからしばらくして、助けられた小鳥の親子が、一つの贈り物を携えてホモイのもとを訪れます。「貝の火」と呼ばれる、まんまるの宝珠。中では赤い火がちらちらと燃え、目にあてて空へすかせば焔は消えて天の川がすきとおる、不思議な珠です。手入れしだいでこの珠はどこまでも立派になる——鳥の王からの言伝てとともに託されたそれを、ホモイは毎日息をふきかけ、みがいて大切にすると心に決めます。
やがて、野原の生きものたちのホモイへの接し方が、少しずつ変わってゆきます。
火を抱いた珠は、ホモイの日々とともに、その輝きをさまざまに変えていきます。野原には、朝を告げるつりがねそうの鐘の音が高く響き、鈴蘭は風に葉を鳴らし、草には露がきらめきます。その明るい風景の中を、ホモイはひばりや、りすや、馬や、むぐら、そして狐といった生きものたちと行き交います。
「立派な人になった」と言われるようになったホモイ。そのまわりで、生きものたちの振る舞いも移ろってゆきます。ていねいに頭を下げる者、こわばってしまう者、調子よく近づいてくる者——さまざまな姿が、ホモイのかたわらに現れます。手のひらにおさまる小さな珠と、それを持つホモイのありようとが、物語の中でひそかに結ばれていきます。
火と光、霧とその晴れ間、野原にわたる鐘の音。きらめく情景と、ちらちらと燃えるひとつの珠。詩的な言葉とやわらかな描写が、子兎の一日一日をつつんでいきます。
宮沢賢治が描く、野原と生きものと、火をやどす珠の物語。ホモイと貝の火をめぐるこの不思議なものがたりを、朗読でじっくりとお楽しみください。
#狐 #動物が主人公 #いじめ #傲慢
📖『黒ぶだう』朗読 – 赤狐に誘われて忍びこむ別荘と、陽の射す部屋の黒いぶどう🦊🍇
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『黒ぶだう』。
退屈して頭をぶらぶら振っていた仔牛のもとへ、丘の上から赤狐が風のように駆けてきます。「散歩に出ようじゃないか」——柵を持ちあげてもらってその下をくぐり抜け、仔牛は林の方へと狐についていきます。やがて二人がたどり着いたのは、樺林の中にひっそりと建つ、ベチュラ公爵の別荘。煙突から煙も出ず、しいんと静まりかえって誰もいないようなその建物に、「ちょっとはいって見ようじゃないか」と、狐は身軽に足を踏み入れていきます。
書物ばかりの部屋、きものばかりの部屋。真鍮のてすりのついたはしごをのぼった先に開けていたのは、日が一ぱいに射して、絨緞の花のもようが燃えるように見える部屋でした。てかてかした円卓の上のまっ白な皿には、立派な二房の黒ぶだうが、冷たそうな影法師まで添えて置かれています。「さあ、喰べよう」——狐の声が、静かな部屋に響きます。
さっさと先を行く赤狐と、びくびくしながらあとを追う仔牛。「なあに僕は人の家の中なんぞ入りたくないんだ」と心の中でつぶやきながら、それでも足ががたがた鳴ってしまう仔牛。青ぞらを見上げてはタンと舌を鳴らす狐の身のこなしと、一歩ごとにためらいを抱える仔牛の足どりが、誰もいない別荘の中で並んでいきます。
日の光、燃えるような絨緞の花もよう、まっ白な皿にのった黒いぶどうの房。みずみずしい色彩と、蜂蜜やそばの花の匂い。きらびやかで、それでいて静かな空気が、誰もいない別荘の中に満ちています。
やんちゃで身軽な赤狐と、気は弱いけれど狐についていく仔牛。留守の別荘で交わされる二人のやりとりを、朗読でじっくりとお楽しみください。
#狐 #動物が主人公
📖『種山ヶ原』朗読 – 霧に沈む高原と、少年が迷い込んだ夏の終わりの一日🌫️🌾
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『種山ヶ原』。
種山ヶ原は、北上山地のまん中にある高原。東と西からの風や湿気がぶつかり合い、雲や雨や霧がいつもすぐそこに控えています。夏休みもあと一日となったその日、達二は、上の野原で草を刈るおじいさんと兄のもとへ弁当を届け、牛を連れて草を食ませに行くことになりました。楊の枝で鞭を拵え、ダー、ダー、ダースコ、ダー、ダーと、夏に町で踊った剣舞の囃子を口ずさみながら、達二は原への路をのぼっていきます。
ところが、原の入口で兄と落ち合ったのもつかのま、牛が不意に北の方へ駆け出します。達二は夢中で追いかけますが、せいの高い草を分けるうちに足はこわばり、深い草の中に倒れ込んでしまいます。気がつけば空は重く垂れこめ、冷たい霧が切れ切れに眼の前を通り過ぎていきます。牛の通った痕はかき消え、いくら呼んでも兄の返事は聞こえません。霧に閉ざされた高原で、達二はとうとう、どちらが帰り道かもわからなくなってしまいます。
霧は刻々と濃さを変え、晴れたかと思えばまたあたりを閉ざします。黒板から降る白墨の粉のような霧の粒、いくつもの細い手を振るすすきの穂、馬の蹄の痕でできた頼りない黒い道。そんな霧をくぐって、剣舞の太鼓の響きや、ふと耳によみがえる誰かの言葉、霧の向こうに浮かぶ大きな影が、かわるがわる達二を訪れます。
青黒い蛇紋岩や橄欖岩からできた種山ヶ原では、足もとを飲み込んでしまいそうな深い霧と、草の雫をきらめかせる陽の光とが、めまぐるしく入れかわります。光ったり陰ったりを繰り返すその懐で、達二はひとり、霧の中を歩いていきます。
達二の迷い込んだ一日を通して立ち現れるこの幻想的な物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #夢 #方言 #山男
📖『さるのこしかけ』朗読 – 栗の木のきのこにあらわれた小さな小猿と、不思議な遠出🌰🍄🐒
静かに語られる物語の世界へようこそ。今回お届けするのは、宮沢賢治の『さるのこしかけ』。
夕方、楢夫は裏の大きな栗の木の下へ行きます。幹には白いきのこが三つ。まん中のは大きく、両がわの二つは小さく低い。「ははあ、これがさるのこしかけだ」——こいつへ腰をかけるならずいぶん小さな猿だ、まん中にかけるのは小猿の大将で、両わきは兵隊にちがいない、どんな顔をしているか一ぺん見てやりたいものだ。楢夫がそうひとりごとを言ったその時、きのこの上にひょっこり三疋の小猿があらわれて腰掛けました。まん中のは軍服に勲章を六つばかり提げた、小さな小さな大将なのです。
握りこぶしほどの小猿の大将と、それを見おろす楢夫。手帳を取り出して尋ねてくる生意気な口のききようかと思えば、ふいに足をそろえてぺこりとおじぎ。「いい所へお連れしようと思って」と誘われた楢夫は、栗の木の根もとの四角な入口から、煙突のような幹の中へ入っていきます。電燈の列とはしご段が、ずっと上の方へ細い赤い線のようにのびて——その先で楢夫の目の前にぱっとひらける、ひるまの明るい草原。
時折ちらりと見える、笑いをこらえているような小猿の顔。草のしげみのうしろからきょろきょろのぞく沢山の小猿たちの気配。号令とともにはじまる演習。小さな小さな猿たちにかこまれて、楢夫はいったいどこへ連れて行かれるのか。きのこに腰掛ける三疋の猿という、ふとした空想から立ち現れるこの物語を、朗読でじっくりとお楽しみください。
#少年 #夢 #山男
From the publisher's feed