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今回は、ワーナーの5年間の実験、劇場版の「格」、そして入場者特典・応援上映・長い劇場期間で日本の劇場が積み上げた「待てないもの」の設計を整理しました。TOHOシネマズの料金改定が示す「場所の値段」への転換までを、数字とともに読み解いていきます。
▼話したこと
・2021年ワーナー「Project Popcorn」の代償——ノーランは『オッペンハイマー』をUniversalへ持ち込み去った
・本丸は赤字ではなく観客の学習——「6週間待てば家で観られる」は5年経っても消えない
・StatSignificantの分析:配信専用作品は公開週1位でも翌週には会話から消える
・劇場版が付くと格が上がる理由——予算・宣伝・社内の扱いと最初の口コミの語り部
・日本の劇場が売るのは「待っても手に入らないもの」——コナンの日付入りイラストや応援上映
・『鬼滅の刃』無限列車編は配信まで約1,720日、アメリカの45日の約38倍という防波堤
・TOHOシネマズ7月改定で全国一律が終焉——「待てない」は設計でつくり輸出もできる
▼note記事
アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由
https://note.com/keke_ent/n/n5f2a2b4c6dd6
▼朝日けけ。SNS
note:https://note.com/keke_ent
X:https://x.com/keke_ent
substack:https://substack.com/@asahikeke
「ジャンプがもう漫画雑誌には見えないんです。」
単行本全2巻で完結した『タコピーの原罪』が、連載終了から3年近く経ってアニメになりました。一方で『とんかつDJアゲ太郎』は連載開始から約1年7ヶ月、『僕のヒーローアカデミア』や『ラーメン赤猫』は約1年9ヶ月でアニメ化。完結した小さな作品が何年も経って拾われ、走り出した作品はあっという間に空へ上がっていく。この落差は、いったい何なのか。
「アニメ化がいつ、連載何話・単行本何巻で、どういう閾値で決まるのか」を測ったものが見つからなかった。だから朝日けけは、週刊少年ジャンプ本誌と少年ジャンプ+、この10年で連載された214作品を、連載開始日・単行本発売日・アニメ化の発表時期と放送時期まで、ひとつずつ数えました。
そうしたら、ジャンプという場所が「漫画雑誌」には見えなくなってきた。閾値とは、これより小さいと反応しないが、これを超えると反応する、その境目のこと。ジャンプは当たってから動くのではなく、当たりそうな瞬間にもう動いている。鬼滅の刃はアニメ化発表時に単行本11巻、呪術廻戦は7巻、ヒロアカは5巻。どれも物語が完結するずっと手前での決定でした。
今回は214作の実測データから、アニメ化のタイミングと「5巻」という閾値、本誌26%とジャンプ+83%というアニメ化率の意味、そしてジャンプが「一体型のIP発射台」であることを、ロケットのメタファーで言語化しました。
▼話したこと
・連載開始からアニメ放送までの中央値は約3年半、最速はとんかつDJの約1年7ヶ月、最長は忘却バッテリーの約6年
・アニメ化は完結後ではなく、鬼滅11巻・呪術7巻・ヒロアカ5巻という序盤〜中盤の発表——現場では半年〜1年前から水面下で動いている
・本誌新連載のアニメ化率は約26%、2016年組は36%、2019年は9%——多くの年で7〜8割はアニメにならず終わる
・アニメ化率26%は選別がゆるいのではなく厳しいから——週刊連載・読者アンケート・打ち切りは超高速オーディション
・『5巻前後まで上昇できるか』が閾値——ロケットの第1段切り離しに成功した機体は8割超が軌道に乗る
・ジャンプ+主要作のアニメ化率は約83%——デジタルの強みは率ではなく、当たりを見抜く早さと正確さ
・タコピーの原罪に象徴される発見力と、連載→打ち切り→アニメ→Netflix/Crunchyrollへ続く一体型IP発射台としてのジャンプ
▼note記事
ジャンプ作品10年分214作を数えてわかった、アニメ化のタイミングと閾値
https://note.com/keke_ent/n/nd0932652b585
▼朝日けけ。SNS
note:https://note.com/keke_ent
X:https://x.com/keke_ent
substack:https://substack.com/@asahikeke
TikTokの話になると、だいたいこの筋書きで語られます。無名の子がスマホ1台で弾き語りを上げたら火がついて、事務所から連絡が来て、気づいたら紅白に出ていた、みたいなサクセスストーリー。
わたしもそう思っていました。でも前回の記事を書いていて気づいたんですが、どうもそう簡単じゃないらしいと。
だから、この3年で名前が広まった8組のアーティストは、火がつく前に何をしていたのか。それを1組ずつ調べたんです。デビュー日、最初の投稿日、それ以前の所属、過去に出した曲。
結果、素人は一人もいませんでした。
いちばん短い人でも、火がつくまでに1年半の助走がありました。長い人は10年です。しかも何人かは、バズる前にすでにメジャーデビューまで済ませてる。
先に書いておくと、仕込みだったという話ではありません。8組とも、火がついた瞬間は本人にも事務所にもタイミングは読めていません。ただ、火がついたときに立っていた場所が、全員素人ではなかったという話です。
このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。
imaseはバズる8ヶ月前にデビュー
「NIGHT DANCER」がTikTokで広がったのは2022年の夏です。そして翌2023年2月には、韓国のMelonでJ-POPとして初めて総合チャートのTOP100に入りました。のちに最高17位まで上がっています。日本の曲が海外で聴かれる流れを、いちばん象徴的に作った1曲だと思っています。
このとき、imaseさんはすでにメジャーデビューしていました。
デビュー曲「Have a nice day」の配信リリースは2021年12月19日です。「NIGHT DANCER」がリリースされたのは2022年8月19日なので、ちょうど8ヶ月前になります。つまり「バズって事務所に入った」ではなく、「メジャーデビューして8ヶ月後に当たった」なんですよね。順番が、違います。
ここでいうメジャーデビューは、配信シングル1曲です。
さらにさかのぼると、ギターを手にしたのが2020年11月ごろ、DTMを始めたのが2021年1月ごろ。TikTokに初めてオリジナル曲を投稿したのは2021年5月です。そのときのキャプションが、「音楽経験0の素人がオリジナル曲作ってみた(dtm歴4ヶ月)」でした。
このキャプションが、たぶん誤解の始まりです。本人は事実を書いているだけなんですけど、これを見た人は「素人が一発で当てた」と受け取ります。
実際には、初投稿から「NIGHT DANCER」のリリースまで1年3ヶ月あります。ギターを手にした2020年11月から数えると、TikTokで「NIGHT DANCER」が広まるまで1年6ヶ月です。この記事では、後者を助走と呼びます。
AKASAKIは、4本目で当たっている
AKASAKIさんも同じ構造でした。
ギターを始めたのが2022年、16歳のとき。TikTokに初投稿したのが2023年9月で、「曲名ください」というキャプションをつけたオリジナルの弾き語りでした。
そこからシングルを出していきます。2024年4月に1stの「弾きこもり」、7月に2ndの「波まかせ」、同じ7月に3rdの「夏実」。この「夏実」が先に少し伸びました。そして同じ7月に、4曲目となる「Bunny Girl」のサビをTikTokに投稿しています。曲としてのリリースは、3ヶ月後の10月2日でした。
当たったのは、4曲目でした。
「Bunny Girl」のリリースは2024年10月2日、ストリーミング累計1億回突破の発表が2025年2月5日です。Billboard JAPANの総合ソング・チャート「Hot 100」には10月9日付で40位で初登場しています。初投稿から数えると、当たるまでに10ヶ月。
ギターを始めた日から数えると、2年かかっています。
3本目で少し伸びて、4曲目で当たった。そういう順番です。でもわたしが見ているのは弾数のほうで、3曲出せる体制を先につくったから4曲目が撃てた、と読むほうが実務に近い気がするんですよね。曲を出すには録って、ミックスして、配信登録して、ジャケットを作らないといけません。それを4回まわせる状態にあったこと自体が、助走です。
同じ形は、友成空さんにもあります。2021年3月31日、高校生活最後の日に5曲入りの音源『18』でデビューしていて、2022年11月にはBiSHの「I」を作詞作曲で提供しています。「鬼ノ宴」のデモをTikTokに投稿したのが2023年11月で、その翌月にはエイベックスのcutting edgeから「改札」を配信。
デビューから数えて、2年8ヶ月目の火でした。
楽音は6年
いま日本と韓国でいちばん再生されている「mosi mosi?」の楽音(ささね)さんも、初めて表に出た人ではありません。
2020年からモデルとして活動していて、TikTokでカバー投稿を始めたのが2025年3月。約1年でフォロワーが50万人を超えました。そのうえで、2026年4月22日に初のオリジナル曲を出しています。
モデル活動の開始から数えると、6年が経っていました。
素人の1曲目ではありません。しかもこの曲は本人の宅録ではなく、向田民子さんという作家がプロデュースしています。向田さんの言葉では「単なる楽曲提供ではなく、楽音というアーティストの楽曲プロデュースをさせていただいた形」だそうです。
50万フォロワーという土台と、プロの作家。この2つが揃った状態で撃った1曲目が、初週でTikTok総再生4億回でした。4億!!!!!!
tuki.は13歳から
たぶん、この8組でいちばん「シンデレラ」に近いのがtuki.さんです。中学3年生の弾き語りが、Billboard JAPANのHot 100で1位まで行ったので。
でも、TikTokに弾き語り動画を投稿し始めたのは13歳からでした。約1年半でフォロワーが50万人を超えていて、いちばん伸びた動画は1,860万回再生です。
「晩餐歌」を投稿したのは2023年7月で、13歳から数えて2年目です。50万人にいつ届いたかまでは公表されていませんが、少なくとも「晩餐歌」が最初の1本ではありませんでした。オリジナルを出すより先に、聴く人のほうが積み上がっていた人です。
1年半以上、弾き語りを上げ続けた人が、その先で自分のオリジナルを出した。そう書くと、ぜんぜんシンデレラの話じゃないんですよね。
起点の取り方は人によって違うので、棒の長さそのものを比べる図ではありません。見てほしいのは、どこを起点にしてもゼロから始まっている人が一人もいないことのほうです。
ここまで並べてくると、8組に共通しているものが1つあります。全員、火がつく前に何かを1周終えている、ということです。才能はもともと8組とも一流です。そこに新しく加わったのが、その1周ぶんの時間でした。
モナキのセカンドチャンス
いちばんはっきり出ているのがモナキです。
純烈のリーダー・酒井一圭さんがプロデュースした「セカンドチャンスオーディション」から生まれた4人組で、開催は2023年10月。名前のとおり、一度どこかで順番が来なかった人が、もう一度立つ場所をつくるための企画です。メンバーの平均年齢は33歳でした。
デビュー曲のサビをTikTokに先行配信したのが2026年2月。メジャーデビューが4月8日。そして6月30日、TikTok上半期トレンド大賞2026で大賞を受賞しています。受賞理由に「デビュー前にして7億回再生を突破」と書かれていました。
ここで面白いのが、このバズがメンバーもスタッフも全員想定外だったと本人たちが言っていることなんですよね。
狙って当てたわけではない。偶然です。
でも、当たったあとが速かった。デビュー当日のイベントに約2,500人を集めて、8月にはZeppを3本押さえています。デビューから4ヶ月です。
平均33歳の4人が、なぜ4ヶ月でZeppを3本回せるのか。そこに至るまで、それぞれの場所で長く場数を踏んできた人たちだからだと思います。ステージの立ち方も、カメラの前での間の取り方も、イベントの動かし方も、もう体に入っている。
火がついた瞬間に、組み立てるほうが誰も慌てなかった。
M!LKの10年3ヶ月
同じことが、グループの側にもあります。
https://sd-milk.com/
M!LKは2014年11月24日に結成されて、「イイじゃん」の先行配信が2025年2月17日。10年3ヶ月です。この間に2023年10月22日には横浜アリーナで1万2,000人の単独公演をやっています。バズる前から、アリーナに立てるグループでした。
ME:Iは『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』から生まれた11人組ですが、番組シリーズ最多の1万4千人を勝ち抜いています。応募して選ばれなかった人が1万3千人以上います。この記事の後半で出てくる「順番が来なかった人」は、たとえばこの1万3千人のことです。番組がやっていたのは、要するに助走の圧縮でした。1万4千人ぶんの選抜と、最終回までの数ヶ月ぶんの露出を、まとめて11人に集めています。
こうして8組の助走を並べると、いちばん短い部類のimaseさんでも1年6ヶ月ありました。起点はそれぞれ違います。楽器を持った日、最初に投稿した日、デビューした日、オーディションを受けた日。
でも、どこを起点に取っても、ゼロから当たった人が一人もいないという結論は動きませんでした。
TikTokはダッシュキノコ
ここまでを一言にすると、こうなります。
TikTokは、まだ何もしていない才能を見つけているんじゃないんですよね。もうずっとがんばって走っていた人に、どんどんブーストしている。増幅しているんです。
昔の音楽業界には、順番待ちの列がありました。デモテープを送って、オーディションを受けて、事務所に入って、対バンを重ねて、動員が増えたらレーベルがついて、やっとシングルが出る。この列は長くて、しかも列に並べる人数自体が限られていました。
TikTokが壊したのは、この列の「順番」のほうです。列そのものは消えていません。imaseさんはメジャーデビューという列に並んでいました。AKASAKIさんはシングルを4本出す列に、モナキの4人は33歳まで、同じように並んでいます。
列から降りた人はいても、走るのをやめた人は一人もいない。ただ、並んでいる途中でいきなりスピードが超でるようになったんです。
だから「TikTokでバズれば人生が変わる」は、半分だけ正しいんですよね。半分です。たしかに間口は開いています。でも、そのダッシュキノコを手にいれるには、そもそも走り続けていないと取れないってことです。
停まっている人は、ダッシュできませんから。
わたしがこの8組を調べていていちばん納得したのは、当たった瞬間の速さが、全部その人の助走の長さに対応していたことでした。
モナキが4ヶ月でZeppを3本押さえられたのも、そうです。M!LKがバズを16万人規模のツアーの発表まで持っていけたのも、tuki.さんが初めての有観客ライブでいきなり武道館に立てたのも、助走、つまりそのダッシュの前に積み上げてきたものが、それぞれ違う形で効いています。
ここまでの話は、聴く側から見るとこうなります。いま推している人が「急に出てきた」ように見えても、たぶん急ではありません。あなたが見つけるより前にその人は何年も積み上げ続けていて、たまたまおすすめに届いたのが1本目だっただけです。
推しのアカウントを、いちばん古い投稿まで遡ってみてください。だいたい助走が見えます。いまとぜんぜん違う顔をしていることが多いので、そこはけっこう面白いですよ。
プロデューサー目線
事業として才能を探す立場から見ると、ここは考え方が変わるところだと思っています。
これまで「発掘」といえば、まだ誰にも見つかっていない人を先に見つけることでした。それが価値だった。でもいまは、見つける工程をTikTokがやってくれます。しかも、こちらが探すより速くて、母数も比べものになりません。
だとすると、次に会いに行くべきなのは「一度うまくいかなかった人」のほうです。すでに技術があって、場数もあって、でも順番が来ないままになっている人。この人たちは、こちらから探しに行かないと出てきません。
理由は人それぞれで、続けられない事情があった人も、いまは別の仕事をしている人もいます。少なくとも、TikTokを眺めているだけでは出会えない層です。
酒井一圭さんの「セカンドチャンスオーディション」がやったのは、まさにそこでした。あの企画がなければ、平均年齢33歳の4人がTikTokの大賞を取ることはなかったはずです。
火は偶然でしたが、火がつく場所に4人を連れてきたのは偶然じゃない。
日本のエンタメには、この層がかなり厚く眠っていると思います。アイドルを一度やめた人、バンドを解散した人、養成所を出たあと表に出られなかった人。ここに、もう一度撃つ機会と、撃つための曲と、当たったときに受け止める場所を用意できるかどうか。ここから先の10年は、そこで差がつくんじゃないかなと見ています。
それでは。
朝日けけ。
このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。
アニメの原作といえば、漫画か、ライトノベル。だいたいそのどちらかだと思っていませんか。わたしも、ずっとそう思っていました。
ところが、この6月に流れてきたアニメ化の発表を並べていて、新しい発見がありました。イラストレーターのnecoさんが描き続けてきた、武装する女子高生のイラストシリーズ『重兵装型女子高生』が、2027年にTVアニメ化。原作は、漫画でも小説でもありません。1枚のイラストから始まったシリーズです。監督は『プリンセス・プリンシパル』の橘正紀さん。
連載終了から13年がたった完結済みの少女漫画『電撃デイジー』が、世界累計発行部数500万部を引っさげて2027年にTVアニメ化。
そして海の向こうでは、ストーリーモードを持たない人狼ゲーム『Among Us』のアニメシリーズが、Paramount+で6月5日に突然配信開始。
1枚のイラスト。13年前に完結した漫画。物語のないゲーム。
ぜんぶ同じ「アニメ化」という4文字で報じられます。でも、種である原作が採れた畑は、ぜんぶ違うんですよね。
わたしはこれまで、エンタメ企業の事業統括・プロデューサーをしていました。マンガ・ゲーム・アニメの事業を通じて「どの原作に賭けるか」は、ずっと見てきた問いです。その目で見ても、「アニメの原作は、いまどこから来ているのか」に数字で答えた資料を、見たことがありません。みんな体感では知っています。なろう系が増えたよね、Web漫画が強いよね。でも、しっかりした資料は見たことがない。
なら、自分で調べればいい。
というわけで、2026年に放送が始まるTVアニメのうち、その作品として初めてアニメ化された146本を全部リストにして、原作の出自で分類しました。比較対象として、ちょうど10年あまり前、2015年の132本も同じ基準で数えました。
出来上がった地図は、わたしの予想を、けっこうな部分で裏切っていました。
このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。
2026年 アニメ原作の地図
結論から書きます。2026年に初アニメ化される146本の原作は、こういう畑から採れていました。
いちばん大きいのは紙の漫画誌で44本、30%。次が小説投稿サイト(小説家になろうやカクヨムのように、誰でも作品を投稿できるWebサイトのこと)の42本、29%。少年ジャンプ+やマガジンポケットのようなWeb漫画・漫画アプリが37本、25%。この三つで全体の8割を超えます。文庫の棚に並ぶ商業ライトノベルと文芸は、12本の8%まで縮んでいます。
で、この地図だけ見ると、こう思いませんか。
なんだ、紙の漫画誌が30%で、まだ一番大きいじゃないか。
そうなんです。単年の地図では、変化は見えないんです。10年前の地図と重ねたとき、はじめて景色が変わります。
※本記事は個人による収集・計測になるので、参考程度にご理解ください。
2015年との比較
2015年に初アニメ化されたTVアニメは132本。同じ基準で分類しました(出自を特定できなかったショート作品7本は、数えたことにせず除外しています)。同じ色で、10年前と並べます。
見てほしいのは、それぞれの数字より、緑の帯の厚みです。Web漫画と小説投稿サイトを合わせた「インターネット発」は、2015年には9本、全体の7%しかありませんでした。2026年は79本、54%です。
かわりに薄くなったのは、2015年に大きな顔をしていた二つです。商業ライトノベルの18%と、アニメオリジナルの23%でした。紙の漫画誌は31%で、ここは2026年の30%とほとんど同じ。紙だけが、10年間ずっと動いていないんですよね。
つまり2015年、アニメの原作はおもに三つの畑から来ていました。
紙の漫画誌の畑。ラノベ文庫の畑。そしてアニメスタジオのオリジナルの畑です。
一方で2026年、半分以上はこれらの畑を経由していません。
同じ「アニメ化」というニュースに見えて、種の採れる畑が、この10年でほぼ入れ替わっている。これが地図の一番大きな境目です。
商業ライトノベル原作アニメの減少
いちばん劇的なのは、小説です。
2015年、小説からアニメになった作品は26本。そのうち投稿サイト発は3本だけで、残りの23本はスニーカー文庫、ファンタジア文庫、GA文庫といった商業ライトノベルでした。編集部が新人賞で発掘して、イラストレーターをつけて、文庫の棚で育てる。あの王道のルートです。
2026年、小説からアニメになった54本のうち、投稿サイト発は42本。比率は78%です。10年で、商業レーベルと投稿サイトの立場が、そっくり入れ替わりました。
顔ぶれも少しだけ並べておきます。
なろう発の『穏やか貴族の休暇のすすめ。』『魔術師クノンは見えている』『領民0人スタートの辺境領主様』。
カクヨム発の『勇者刑に処す』『勇者のクズ』。
アルファポリス発の『最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?』。
なろうの女性向け姉妹サイト、ムーンライトノベルズ発のBL小説『異世界の沙汰は社畜次第』まで放送されます。
投稿サイトの中の、さらに細かい棚の作品まで、アニメ化が届いています。
数えていて、いちばん驚いたのがこれです。
「小説家になろう」を初出とする作品だけで、31本。
紙の雑誌でいちばん多かったのは週刊少年ジャンプと週刊少年マガジンで、それぞれ3本です。
10倍です。
もちろん、1誌と1サイトを並べるのはフェアではありません。なろうに投稿されている作品の数と、ジャンプの連載枠の数では、桁がいくつも違います。土俵がまるで別です。でも、「2026年にアニメの原作が採れた場所」として可視化すると、これが現実でした。
数字が等しく見える影響
なぜここまで一気に置き換わったのか。プロデューサー目線で見ると、答えは単純です。
投稿サイトの作品には、企画書に貼れる数字が、最初からついてくるからです。
たとえば『猫と竜』は、なろうに連作短編として投稿されて、短編としては異例の日刊ランキング1位(2013年9月時点)を取った作品です。『勇者のクズ』は第1回カクヨムWeb小説コンテストの受賞作。アニメ化の検討席に乗るころには、こうした作品は「読者がいることの証明」を4段も5段も積み上げています。
図(小説はこの10年で一番激しく入れ替わった)の下段は、その階段を1本だけ最後まで追いかけたものです。2026年4月に放送された『神の庭付き楠木邸』。なろうの連載開始から書籍化まで7か月、アニメまで5年。各段の数字を確認しながら上がっていったことになります。編集部がゼロから新人を当てにいく賭けと比べて、どの段でも降りられる。投資する側から見ると、これは設計として強いんです。
アニメ化の企画が動く場では、候補作の資料に必ず実績の欄がついてきます。発行部数、アンケート順位、SNSのフォロワー数。そして、その欄が空白に近い企画から順に、議題から落ちていきます。誰かが悪意で落とすわけではありません。アニメは製作委員会(1本の作品に何社もが一緒にお金を出す座組のこと)を組んでつくる巨大なプロジェクトで、数億円が動きます。「数字がまだない作品」に張る稟議は、どの会社でも、書いた本人がいちばん苦しいものです。
紙の時代、その数字は出版社・編集部の中にありました。重版の回数、誌面アンケートの順位。外からは見えない数字です。いまは、ランキングもPVもブックマークも、発掘されるより前から全員に見えています。誰でも、いつでも、無料で。
リスクの査定が、編集部の目利きから、先に見える数字に変わっていった。この視点で見ると、投稿サイトの29%はぜんぶ説明がつくんですよね。作品が良くなったから選ばれるようになったのではありません。選ぶ側が、良さを証明する数字を先に見られるようになった。それだけです。
漫画も半分はWebから
漫画も同じ方向に動いています。
紙の漫画誌は44本で、本数だけなら10年前とほぼ同じです。ジャンプの『あかね噺』『キルアオ』、週刊少年マガジンの『真夜中ハートチューン』、月刊少年ガンガンの『黄泉のツガイ』、花とゆめの『多聞くん今どっち!?』。紙の看板は、いまも最大の畑です(ジャンプの新連載がどれくらいの確率でアニメになるかは、214作品を数えた別の記事に書きました)。
変わったのは、漫画というくくりの中での勢力図のほうです。2015年、アニメ化された漫画の87%は紙の雑誌から来ていました。2026年は54%。残りの46%が、ジャンプ+の『正反対な君と僕』『マリッジトキシン』、マンガワンの『日本三國』、くらげバンチの『カヤちゃんはコワくない』、Souffleの『天幕のジャードゥーガル』といった、Web連載から来ています。
しかも、紙とWebの境界線そのものが溶けかけています。『デッドアカウント』は週刊少年マガジンで始まり、マガジンポケットに移籍したあとでアニメ化が決まりました。
白泉社は2026年の冬クールだけで、ヤングアニマルWebの『拷問バイトくんの日常』、マンガParkの『魔王の娘は優しすぎる!!』『シャンピニオンの魔女』と、Web側から3本のアニメ化を出しています。同じクールに花とゆめ発が2本ですから、紙の誌面とWebの誌面が、同じ編集部の両翼になっているわけです。
そしてそのWeb発の中に、さらに小さい単位が混ざり始めました。図の下に並べた4本です。
作者個人のXから書籍化に至ったものが3本、LINEマンガの投稿コーナー発が1本。編集部に持ち込まれる前に、タイムラインが先に読者を証明してしまった漫画たちです。2015年、この枠に当たるのはONEさんの個人サイト発『ワンパンマン』の1本だけでした。
ENHYPENと連動して累計2億ビューを記録した韓国発のWebtoon(スマホで縦にスクロールして読む形式の漫画)『DARK MOON -黒の月: 月の祭壇-』のように、原作が国境の外から来る例まで含めると、「漫画原作」という言葉の中身は、10年前とは別物だと言っていいと思います。
オリジナルアニメの減少
ここまでは、業界の人なら体感と合う話だと思います。わたしが数えて驚いたのは、アニメオリジナルの減り方でした。
2015年は29本、全体の23%もありました。『Charlotte』『プラスティック・メモリーズ』『コンクリート・レボルティオ』『ローリング☆ガールズ』。アニメスタジオ自身が新しい作品をゼロから生む枠が、およそ4本に1本あったんです。2026年は5本、3%です。イラストやキャラクター企画などの「その他」も、15%から3%へ落ちています。
おかしいと思いませんか。1枚のイラストがアニメになる時代なのに、イラストやキャラクター発の枠は、数の上ではむしろ減っています。
理由ははっきりしています。2015年は5分枠ショートアニメの全盛期でした。図の左に並べたとおり、ご当地キャラも、フィギュア企画も、ラジオ番組も、果てはパチンコ店のイメージキャラクターまで5分アニメになっていた。にぎやかで、ちょっとお祭りのような枠です。製作費が小さいぶん、数字の証明がなくても張れたわけです。
2026年、その枠はほとんど消えました。残った5本のうち2本は、キネマシトラスが設立15周年の看板として立ち上げた『さよならララ』と、1983年の『クリィミーマミ』から続くぴえろ魔法少女シリーズ6作目の『魔法の姉妹ルルットリリィ』でした。スタジオが社運や伝統を背負って張る、特別な席が中心になりました。
そのうえで、2027年の『重兵装型女子高生』がどう帰ってくるかを見てください。5分枠ではありません。フィギュアやプラキットの立体化を積み重ねて、ファンの数字を証明し終えたうえで、実績ある監督を立てた本格的なTVアニメの原作として帰ってきます。
イラスト発が増えたのではありません。イラスト発が、ショートアニメの枠から本流の原作の席へ、格上げされたんです。この地図で起きているのは量の変化ではなく、座席の変化です。
完結済み名作は「最強の安全資産」に
地図には、もうひとつ面白い筋が走っていました。
2026年の紙の44本の中に、連載をとっくに終えた作品の初アニメ化が8本も並んでいるんです。『花ざかりの君たちへ』は1996年連載開始、完結から22年。『少女コミック』で1995年から連載された『天は赤い河のほとり』はこの夏から放送中で、『LaLa』で1991年から連載された『彼方から』も秋から始まります。『LIAR GAME』も『神の雫』も『鉄鍋のジャン!』も連載終了済み。1995年の連載開始から31年たった『百鬼夜行抄』も初のTVアニメです。別枠で数えたリメイクも、北斗の拳、攻殻機動隊、魔法騎士レイアースなど6本並びます。
新しい種を探すだけでなく、書庫に眠っていた「読者の証明がとっくに済んでいる作品」を掘り起こす動き。2027年の『電撃デイジー』、世界累計500万部も、この筋の上にあります。配信が世界の既読層へ直接届く時代、完結済みの名作は、結末まで含めてリスク査定が終わっている、いわば在庫表の優良株です。ここは掘り始めると1本書けてしまうので、本記事は地図の筋として記すにとどめます。
次の10年のアニメ原作を、どう読むか
ここまで見てきたアニメ原作の地図は、実は1本の線でつながっています。
2015年の紙の雑誌、ラノベ文庫、オリジナル企画から、2026年の投稿サイトやWeb漫画、イラスト、完結済み名作まで。畑の名前やフォーマットは変わっても、つねに問われているのは同じです。「数億円をかけてアニメ化に張る側は、どんな根拠で“この原作に賭ける”と決めているのか。」
この10年で、その根拠の置き場所がどう動いたのか。そして、いまアニメの原作選びという行為は、何を測るものになっているのか。その答えをひと言で言うなら、
アニメの原作選びは「作品の良し悪し」を語る場から、「読者と数字がどこまでリスクを肩代わりしてくれるか」を測るものへと、静かに姿を変えつつある、ということです。
2015年、アニメの原作は出版社・編集部とスタジオの企画の畑から来ていました。2026年、半分以上はタイムラインから来ます。賭けの根拠は、目利きの確信から、誰でも見える数字へ移っていった。だから原作の最小単位が、どんどん小さくなっていきます。
雑誌という束から、アプリの1連載へ、投稿サイトの1タイトルへ、そして1枚のイラストへ。数字さえ証明できれば、種はどんな形をしていてもよくなったわけです。
原作の初出が小さいほど、そのアニメ化は読者の数字が押し上げた企画です。そして初出から発表までに何が積まれたか。書籍化、コミカライズ、立体化、海外配信。それをたどると、製作委員会が何を担保に数億円を張ったのかが透けて見えます。来期のアニメ発表リストが、ただの新作情報ではなく、業界がいまどこまでリスクを取れるかの定点観測に変わるんです。
図の下段に、『重兵装型女子高生』で実際に当ててみた手順を置きました。座組が担保にしたのは物語の実績ではなく、このキャラクターにお金を出すファンがすでにいる、という数字のほうです。物語はこれから、監督のチームが作っていきます。初出を見るだけで、企画の賭け方の輪郭まで読めてしまうんですよね。
ひとつ、書き添えたいことがあります。この変化を、編集部の時代の終わりのように読まないでほしいんです。紙の漫画誌は44本、いまも単独では最大の畑です。週刊連載という鍛錬の場が生む作品の密度は、数字では代わりが利きません。
投稿サイトのランキングも、見方を変えれば、編集部が何十年も担ってきた新人賞の機能を、読者全員が審査員になって回している発掘装置です。オリジナルが3%に痩せたことも、衰えではなく賭け方が変わった結果です。どの畑が上で、どの畑が下という話ではありません。種の生まれる場所と、それを拾う仕組みが変わっただけです。
読者が見つけた原作は、もう埋もれない
その昔、原作の数字は、編集部や権利元の中にしかない秘密でした。その数字に近づけることが、プロデューサーの腕の一部ですらありました。いまその数字は、ランキングとPVとフォロワー数というかたちで、世界中に公開されています。読者が先に見つけ、数字が証明し、座組はあとから組まれる。
これは見方を変えれば、日本のアニメ産業が、世界でいちばん開かれた原作の発掘網を手に入れつつあるということです。編集部の畑に届かなかった種も、もう地図の外には落ちません。紙の畑で生まれようが、タイムラインで生まれようが、書庫の奥で眠っていようが、読者が見つけた種にはアニメまでの道がつながっています。10年で、道の数がこれだけ増えた。数えてみるまで、わたしも知りませんでした。
2027年、1枚のイラストから生まれたTVアニメが放送されて、配信で世界に出ていきます。種の生まれる場所が変わったのなら、座組を設計する側が、その地図を正確に持っていること。
次の10年のヒットは、たぶんその地図の精度から生まれます。現場にいた人間として、そう思うんです。
そして、いま自分の畑で何かを育てている人にとっては、いい時代です。日本には、まだ地図に載っていない種が、たくさん眠っているんですから。
それでは。
朝日けけ。
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※本記事はWikipedia「日本のテレビアニメ作品一覧」の2026年8月8日時点/2026年6月12日時点の掲載分をもとに集計しております。※本記事は個人による収集・計測になるので、参考程度にご理解ください。
このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。
今回は、ワーナーの5年間の実験、劇場版の「格」、そして入場者特典・応援上映・長い劇場期間で日本の劇場が積み上げた「待てないもの」の設計を整理しました。TOHOシネマズの料金改定が示す「場所の値段」への転換までを、数字とともに読み解いていきます。
▼話したこと
・2021年ワーナー「Project Popcorn」の代償——ノーランは『オッペンハイマー』をUniversalへ持ち込み去った
・本丸は赤字ではなく観客の学習——「6週間待てば家で観られる」は5年経っても消えない
・StatSignificantの分析:配信専用作品は公開週1位でも翌週には会話から消える
・劇場版が付くと格が上がる理由——予算・宣伝・社内の扱いと最初の口コミの語り部
・日本の劇場が売るのは「待っても手に入らないもの」——コナンの日付入りイラストや応援上映
・『鬼滅の刃』無限列車編は配信まで約1,720日、アメリカの45日の約38倍という防波堤
・TOHOシネマズ7月改定で全国一律が終焉——「待てない」は設計でつくり輸出もできる
▼note記事
アメリカ映画4割減なのに、日本映画は史上最高の理由
https://note.com/keke_ent/n/n5f2a2b4c6dd6
▼朝日けけ。SNS
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「それって数字で説明できる?」
これはエンタメ企業で事業統括やプロデューサーをやっていた頃、何度も言われた言葉なのですが、会社にいると、これをほんとうによく言われますよね。だけど今日は、その逆の思考について書きます。
クリエイティブを殺さないほうが、結果的に儲かるし、成功するよね。という話です。
もちろん、「数字で説明しろ」が悪いわけじゃないんです。上司に、株主に、役員会に。説明でいちばん通りがいいのは、いつだって数字です。誰が見ても、同じ意味に受け取れる。感想やこだわりは人によってブレるけど、数字はブレない。大勢が同じ絵を見て動く会社では、数字がいちばん、全員が納得できるんですよね。だから、数字そのものは、悪者じゃないんです。
ではなぜ、才能を殺さないほうが儲かるのか。
どうやって才能は殺されていくのか
漫画を例に見ていきます。一巻の漫画を出したとします。
初版で刷るのは、いまの時代は新人作家ならだいたい5,000部から7,000部くらいと言われています。それが売れて、半分を過ぎたあたりで重版がかかる。悪くない滑り出しです。でも、会社として編集部として正直に言えば「ものすごく、すごいこと」ではありません。「良かった」くらいの話です。
この例から分かる通り、「良かった」「すごい」と評価するとき、いちばん手っ取り早いのは数字です。何部刷って、何部売れて、いくら回収できたか。全部、数字で出ます。出せてしまいます。外から見ていると、それで十分に思えます。売れたなら成功、売れなかったなら失敗。分かりやすい。
でも、わたしはその分かりやすさが、いちばん怖いと思うんですよね。数字はきれいに見える分、それだけ正解か不正解か、成功か失敗か、すぐに烙印を押されるからです。失敗したら終了、成功しても次の3巻でまた数字を見る。次は5巻。正しいんですが、その判断だけだと、結果的にほとんどの漫画がすぐに連載終了になってしまいます。
なぜか。「すごい」「過去最高」のような数字をつくる作品は、めったに出ないからです。だとすると、本当に見るべきなのは「その一巻でいくら売れたか」ではなくなってきます。
その一巻が、どれくらい話題になったのか。読者の中に何が残ったのか。作家性のなにを出せているか。など、つまりプロセスです。そしてもうひとつ、そもそも自分たちは、この一冊を「何をもって成功とするか」を決めていたのか。未来の成功の定義です。
プロセスと、未来の成功定義。このふたつは、初版の部数には映りません。
そして、ここを見極めるのに、数字的な視点だけではなく、クリエイティブの視点がいります。「この作家は、次にこう化ける」「この読者の熱は、こういう順番で育つ」。まだ数字になっていないものを読む力です。センスとも言いますよね。
ここが金融的なルール、つまり目先の数字を健全に伸ばせるかどうかだけで判断することに縛られすぎると、どうなるか。みんなが目の前の数字だけを追いかけるようになります。現場が、少しずつ息苦しくなっていきます。
そして、いちばん割を食うのが、クリエイター(作家含む)です。数字にならない工夫や粘りが評価されないので、クリエイティブな部分から順番に削られていく。最後には、クリエイター自身が生きづらくなって、離れていきます。
これが、じわじわ効いてくる殺し方です。でも誰も、殺したつもりがないのが一番怖いんですよね。
では、才能を殺さないためには、なにをどうやって見ていくべきか。先に結論を言うと、一発では見抜けません。二度目以降の打席で、差が出るからです。
ここから先は有料部分です。
ほぼ全員が二度目以降で当てている
残酷なようですが、まずデータの話をします。
ハーバードの研究者たちが、1万社を超えるベンチャー投資先を調べた研究があります(過去に成功した起業家は次も30%成功する。初回は18%)。一度成功した起業家が、次も成功する確率はおよそ30パーセント。初めて挑む人は18パーセント。ここでよくある物語は「一度失敗した人は、そのぶん次に当たる」ですが、データはそう言っていません。過去に失敗した起業家の次の成功率は20パーセントで、初回の18パーセントと、ほとんど変わらないんです。
つまり、失敗そのものは、次の成功を保証してくれません。
この研究がほんとうに示しているのは、別のことです。当たる人は、二度目、三度目の打席で当てている。実績は、打席の数だけ積み上がっていく。一度の数字で打席を取り上げてしまうと、その人がいつか当たる人だったのかどうかを、永遠に分からなくしてしまうのです。
漫画の世界だと、これがもう、笑ってしまうくらい、はっきり見えます。
久保帯人さんの最初の連載『ZOMBIEPOWDER.(ゾンビパウダー)』は、全4巻で終わりました。
事実上の打ち切りです。その次に描いた『BLEACH(ブリーチ)』は、全74巻、15年続く大ヒットになりました(『ZOMBIEPOWDER.』は未完で終わり、次の『BLEACH』が15年続いた)。
堀越耕平さんも、デビュー連載を打ち切られたあとに『僕のヒーローアカデミア』を描き、世界累計1億部を超えています。
田中靖規さんの初連載は15話で打ち切り。鍵人など複数本連載〜打ち切りを経験したのちに『サマータイムレンダ』を当てました。
これは、漫画にかぎった話ではありません。
イーロン・マスクのSpaceXは、ロケットの打ち上げに3回連続で失敗し、会社は倒産寸前まで追い込まれました。4回目で、ようやく軌道に届いた。もし3回目で打席を取り上げられていたら、いまの火星の話は、まるごと存在していません(SpaceXは3回失敗し倒産寸前で、4回目にやっと軌道に届いた話は有名ですね)。
ウォルト・ディズニーが最初につくった会社も、あっけなく倒産しています。彼はそのあと、汽車でハリウッドへ渡り、ミッキーマウスを生みました。
任天堂にいたっては、ゲーム会社になる前、タクシー事業もインスタントライスも、手を出しては外し続けていました。いま世界を動かしている名前も、たいていは二度目以降の打席で当てているんです。
ここまで来ると、「殺す」の正体も、はっきり見えてきます。
才能を殺す正体
つまり才能を殺すのに、一番シンプルなのは打席に立たせないことです。面と向かって、連載作品や事業計画への否定も、予算のカットも要りません。一度やって数字が伸びなかったから、その人にはもう任せない。二度目は金を出さない。投資しない。打席に立たせない。それだけでいいんです。それだけで、誰も手を汚さずに、才能を一人、静かに見送れます。
とはいえ、勘違いしてほしくないのは、才能を殺さないために、「何度でもお金を出し続けろ」という話ではないことです。上で書いたように、失敗そのものは、20パーセントしか保証しません。当てずっぽうに打席を配り続けるのは、ただの浪費です。
シリコンバレーで「何度でも挑み続けられる起業家に賭けろ」と言われるのは、理由が超単純で、一度失敗しても次の打席に立てる人が、そもそもめったにいないからです。投資を受けられるかどうか関係なく、そもそも失敗しても次の挑戦をする人が少ないんですよね。
失敗したから当たるのではありません。失敗しても続けられること自体が、まれな才能なんですよね。
だからこの事実の下には、二度目にたどり着けなかった、数えきれない一度目の打席があります。打ち切られた読み切り、日の目を見なかった企画。立ち上がらなかった事業。解散した会社や組織。そのひとつひとつは、才能がなかったから消えたのではありません。二度目の打席が、回ってこなかっただけです。
なぜ一打席目で終わってしまうのか
では、なぜ一度の数字で切ってしまうのが、これほどもったいないのか。ここも大事ですよね。いま、値段がぐんぐん上がっているものがあります。「センス」と「はじめる力」です。
反対に、値段が下がっているのは「調べればわかること」のほうです。論理的に正しい答え、データ上の正解。正しい判断。その手のものは、AIがどんどん安くしています。わたし自身、AIに調べさせ書かせる仕組みを日々まわしていて、昨日まで人が半日かけた正解が、今日は数十円で出る光景を、自分の手で起こしています。
正解が安くなるほど、正解では手に入らないもの、つまりセンスや、何度も打席に立つ力の値段は、相対的に上がっていきます。
さっきのデータが、それを裏づけていました。当てた人は、ほぼ全員が二度目以降で当てている。だからこれからは、才能のある人が、何度もはじめることで成功する。AIが、その流れをさらに加速させています。
ところが、会社のお金は、いまも「調べればわかること」の側にしか流れないようにできています。予算も、稟議も、投資も、ぜんぶ説明で動くからです。説明できないものには、お金がつかない。
つまり、これからいちばん値上がりするものに、いちばんお金が流れていない。
だから、才能を殺さないというのは、優しさの話じゃないんです。投資を正しい方向へ持っていく。結局才能に投資したほうが、結局儲かるよね、という話です。
才能を殺す人、生かす人の差
以上を踏まえて、才能を殺す人と、生かす人。差は一つだけです。
数字を大事にするかどうか、ではありません。数字は、どちらも大事にしています。違うのは、その「先」です。先を語れる人は、いま数字になっていないものが、これからどこへ値上がりしていくのかが見えている。だから、いま追う数字にちゃんと意味を与えられるし、一度の打席で人を切らずにいられます。
先を語れない人が上に立つと、渡せるものが「数字だけ」になります。行き先を示せないから、クリエイターに、ただ数字だけを要求することになる。クリエイターは、何のために削られているのか分からないまま、削られていきます。
とはいえ、「未来も語れて、数字も作れるスーパーマンになれ」という話ではありません。両方を高いレベルで持つ人は、そもそもほとんどいない。イーロンのような人は、例外中の例外です。あれを基準にすると、全員が失格になります。
でもね、1人で両方を背負う必要は、最初からないんです。ペアで持てばいい。
漫画がいちばん分かりやすいです。とんでもない世界を描く漫画家と、それを世に出す道筋を引く編集者(出版社)。片方が調べてもわからないことに賭けて、もう片方が、それを数字と締め切りの世界に着地させる。
会社も同じ形が組めます。未来を信じて語れるクリエイティブなトップと、それを事業として支えるCOOやCFO(経営や財務を担う役員)。役割を分ければいい。
このとき、支える側に要るのは、数字を締める力だけではありません。トップが見ている未来を、一緒に信じられること。ここが冷めていると、結局は「数字だけを求める人」になって、殺す側にまわってしまいます。
だから、才能を殺しているのは、数字を求める人ではないんです。数字しか語れないけど、それで才能を殺していると気づかずにいる人です。
これは「語れない人が悪い人だ」という話ではありません。悪意は、どこにもないんだと思います。正しいことをしようとしているから。悪意などないまま、殺せてしまう。だからこそ、一番やっかいなのだとも思います。
それに、先を語る力は、生まれつきの才能ではありません。いまは持っていないだけで、後から身につけられるものだと、わたしは思っています。
気づくと、取り込まれています
ここまで偉そうに書いてきたので、じつは自分がいちばん危ない、という話もしておきます。
わたし自身、油断するとすぐ数字の側へ取り込まれます。この記事を書いている途中でさえ、「この主張、裏づけの数字あるっけ」と手が止まったんですよね。数字を疑う記事を、数字で守ろうとしている。おかしな話です。
だから、意識して距離を置くようにしています。頭を使いすぎない時間を、わざと作る。論理で詰めるのではなく、感覚で「こっちがいい」と決めていい時間を確保する。放っておくと勝手に数字側へ引っぱられるので、意識的にやらないと、すぐ戻ってしまいます。
才能を殺さないほうが、結果的に、儲かる。
そう書いた以上、まず自分で証明しないと、格好がつきません。だからわたしは、まず自分が、とんでもなくかっこいいものを作ろうかと思います。
それでは。朝日けけ。
今回は、TikTokでバズったアーティストが世界に出ていく現象を、3つのステップで分析しました。「使いたくなる曲」で点火する第1ステップ、火をストリーミングに定着させ本人のファンに変える第2ステップ、そしてコピーできない「体験」につなぐ第3ステップ。この階段をのぼれるかどうかが、すべてを分けています。
▼話したこと
・Creepy Nuts、Tani Yuuki、tuki.らの通説「TikTokでバズったから」を一度疑ってみる
・第1ステップ「10万再生の壁」——聴かせる力より、二次創作を『させる』使いたくなる力で点火する
・AKASAKIの『曲名ください』、tuki.の弾き語りなど、運まかせにしない点火の設計術
・第2ステップ——火が消える前にプラットフォームを横断させ、ストリーミングに『定着』させる
・『マッシュル』やM!LK『イイじゃん』の流行語化など、大きなうねりの『隣』に並ぶ文脈の乗り方
・M!LKの『爆裂愛してる』総合1位——曲のバズを『本人のファンダム』に変換する仕組み
・第3ステップ——武道館・東京ドーム・16万人ツアーへ、コピーできない『体験』につなぐ二極化の時代
▼note記事
音楽が「TikTokでバズったら売れる」は、半分だけ本当。
https://note.com/keke_ent/n/n169024346dd1
▼朝日けけ。SNS
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前回、クールジャパン機構の540億円の赤字を解剖しました。溶けた金の6割超は、下手な投資ではなく、案件を選ぶ人間を雇い続けた「会議室の維持費」でした。わたしはそれを「会議室のお金」と呼びました。
そこで当然、こういう疑問が出てきます。じゃあ、うまくいっている国は、いったい何をしているのか。会議室で選ばないなら、どうやってお金を配っているのか。
本記事では、「なぜ稼いでいる国は、国が作品を選ばないのか」という問いを、4つの国の仕組みを並べて解いていきます。そしてもう一つ、日本にとって耳の痛い問いも一緒に置きます。この「会議室でしか配れない病」は、本当にお役所だけの病なのか、という問いです。
このsubstackでは「エンタメビジネス実況中継」と題して、エンタメやポップカルチャーについてビジネスとプロデューサー視点で発信しております。すこしでもこういった話題に興味があれば、ぜひ無料購読をよろしくお願いします。
稼ぐ国の共通点は、たった一つだった
先に、4カ国を見比べてわかった結論を言います。
答えをシンプルに言えば、稼いでいる国は、どこも国が個別の作品を選んでいませんでした。フランスも英国もカナダも韓国も、やり方は違うのに、この一点だけは揃っているんです。順番に見ていきます。
フランス、券売機が出資する国
フランスの支援を仕切るのは、CNC(国立映画映像センター)という組織です。その財源が、面白い。国の予算ではなく、映画館の入場料などにかかる目的税です。
つまり、あなたがパリで映画のチケットを買うと、その一部が自動的に業界の基金に入る。そのお金が、興行成績に応じて「次回作の資金」として製作者の口座に積み上がっていく。ヒットを出した人ほど、次に使える金が自動で増える設計です(フランス上院・2024年予算報告(映画)、CNC)。
誰かが会議室で「この企画は有望か」と審査する余地が、構造的に小さいんですね。券売機が、次の映画に出資している。わたしはこの仕組みを知ったとき、日本の会議室と比べて、思わずうなりました。
英国は税制、カナダは人件費で「自動で戻す」
英国は、もっと割り切っています。
2024年に導入した映像税額控除(AVEC)は、制作費を英国内で使ったら、その34%が自動で戻ってくる仕組みです。
アニメや子供向け番組なら39%(いずれも額面ベースで、実際の手取りはもう少し下がります)。年間の上限なし。制度の期限もなし。国は、どの作品が有望かを審査しません。使った制作費に応じて、機械的に還す。
この設計が世界中の大作を呼び込み、2022年の映画とハイエンドTVの製作費は過去最高の63億ポンド(約1兆2,600億円)に達しました(英国映画協会(BFI)ほか)。
カナダは、還付の基準を「人件費」に置きました。自国民に払った制作の人件費の一定割合を戻す。連邦の控除に州の控除を重ねられて、たとえばブリティッシュコロンビア州は基本40%。地方やVFXのボーナスを積むと、実質40〜60%に届きます。2022年の制作額は116.9億ドル(約1兆8,700億円)、雇用は約24万人です(カナダ・州政府資料。通貨はカナダドル)。
3カ国に共通しているのは、審査で選ぶのではなく、条件を満たせば自動で戻す、という発想です。
韓国だけ、少し毛色が違う
韓国は、国が前に出ている国だと思われがちです。実際、政策金融を2021年の5039億ウォン(約550億円)から2024年に1.74兆ウォン(約1,900億円)へ、3倍以上に積み上げました。
でも、中身を見ると発想は同じでした。コンテンツ振興院(KOCCA)の2025年の予算を機能別に見ると、大半は研究開発、輸出支援、人材育成です。作品への直接の投融資は、わずか42億ウォン(約4.6億円)しかありません。国は土台を作るほうに徹して、実際に世界で稼ぐのはHYBEやNaverといった民間に任せている。
どの作品が勝つかを選ぶ仕事は、市場に譲っているんです。輸出額は2024年に140.8億ドル(約2兆2,500億円)で過去最高になりました。
回路のお金、という考え方
ここで、前回の「会議室のお金」に対になる言葉を置きます。
回路のお金です。人が選ぶのではなく、ルールを満たせば自動的に流れるお金。
券売機の税、使った制作費への還付、人件費への還付。
呼び方は国ごとに違いますが、全部これです。
回路には、選ぶ人の会議室が要りません。だから、あの238億円のような固定費がつかない。
誤解のないように言っておくと、回路がタダという意味ではないんです。税額控除なら国の税収は減りますし、フランスでも「公的資金が民間の投資を押しのけている」という批判はあります。
ただ、かかるコストの種類が違う。案件を選ぶ人を雇い続ける固定費は、要らないんです。フランスのCNCが1946年の設立から80年も回り続けているのは、目利きが優秀だからではなく、目利きをほとんど必要としない回路だからです。
エンタメ事業を統括していたころ、海外の制作現場の予算の組み方を見て、驚いたことがあります。彼らは、税額控除で戻ってくるぶんを最初から計算に入れて予算を組んでいました。オフィスを借りる場所も、採用する人の要件も、返ってくるお金が制度で約束されているから、そこを前提に強気の絵が描ける。
日本で同じことをしようとすると、まず「補助金、通るかな」の相談から始まる。話せる人を探す、採択されるように調整する。
この差は、とても大きいんですよね。
そして、もっと耳の痛い話をします
ここまで読むと、「要するにお役所が回路を作ればいい」で終わりそうです。でも、話はそう簡単じゃありませんでした。
この「会議室でしか配れない病」は、実は官の専売特許ではないんです。ここが、今回いちばん書きたかったところです。
映画監督の是枝裕和さんたちは、まさにフランスのCNCをモデルに、映画チケット代の1%を業界で拠出して、制作現場やクリエイター育成に再分配する仕組みを提案してきました。
日本版の回路を作ろう、という話です。交渉の相手は、日本映画製作者連盟。大手のスタジオや配給が集まる団体です。
約1年半、話し合って、中断しました。
是枝監督の言葉は、こうです。
フランスは、チケット代の約11%が回っています。韓国は約3%。日本は、1%が通らなかった。
ここから先はわたしの推測です。
拠出する側、つまりすでに興行の上がりを取れている大手にとって、1%を出す痛みは確実で、見返りは不確実です。だから動く動機がなかった。回路を作ると、いま得している人が少し損をして、業界全体が長く得をする。
この「自分が少し損して、みんなが得をする」がいちばん通しにくいのは、実は役所より、民間の既得の側なのかもしれません。
回路がないツケは、いちばん立場の弱いところに流れます。映画制作の現場では、フリーランスのうち、映画の仕事による年収が300万円未満の人が6割強。6割以上が、製作側と契約書すら交わしていません(経済産業省「映画制作現場の実態調査」2020年)。
得する人、損する人
前回お渡しした物差しを、もう一度置きます。エンタメ支援など政策支援のニュースを見たら、「会議室のお金か、回路のお金か」で分けて見てください。
そこに、今回もう一目盛り足します。回路を作る話が出たら、「これに反対しているのは誰か」を見てください。役所とは限りません。回路は、いま会議室で得をしている人の取り分を、薄く広く動かす仕組みでもあります。だから、いちばん抵抗するのは、その席に座っている人だったりします。
作品を作る力なら、日本の民間はもう世界レベルで持っています。
足りないのは才能ではありません。稼いだお金が、薄く広く、現場まで流れて戻る「回路」です。そしてそれを、官も民も、まだ作れていないのが日本の現在地です。
では、その回路を、これから誰が、どうやって敷けばいいのか。次回、最終回で「選ぶから、流すへ」という具体を書きます。
朝日けけ。
「溶けたのは、作品を選ぼうとした会議室だった。」
2026年6月、クールジャパン機構の累積損失が540億円に達し、政府が廃止を含めた検討に入ったと報じられました。SNSは「だから言ったじゃないか」の大合唱。目利きの失敗、税金の無駄、お役所仕事——わたしも最初はそう思って読んでいました。
ところが決算書と国会答弁の数字を並べ直すと、「目利きに失敗して溶かした」という物語が半分しか合っていないと気づきます。かれこれ15年エンタメ業界にいて、国のお金が絡む案件も見てきたわたしには、残りの半分にこそ日本のエンタメがこれから稼ぐ急所が埋まっているように読めました。
2026年5月の参院決算委員会で経産省が示した内訳が決定的でした。投資そのものの損はマイナス35億円。含み損の先行計上が110億円。そして人件費や税金などの経費が238億円。赤字の6割超は投資の失敗ではなく、案件を選ぶ人間を雇い続けた「箱の維持費」だったのです。
本記事では「540億円の本当の死因は何だったのか」を、決算の数字だけを頼りに解剖しました。全3記事シリーズの1本目。エンタメ支援政策を見るための物差しまで、ビジネスとプロデュース視点でお届けします。
▼話したこと
・結論——540億円の赤字のうち投資でスった損はわずか35億円、6割超は「箱の維持費」だった
・亡くなった機構の履歴書:出資金1513億円の93%が国費、83件・約2040億円を支援した13年
・筋の悪い投資リスト——ワクワクジャパン44億円、マレーシア百貨店9.7億円、Spiber140億円の減損
・参院決算委で判明した内訳:投資損35億・含み損110億・必要経費238億という数字の意味
・「会議室のお金」という考え方——人が一件ずつ選ぶ方式は必ず固定費の人件費を連れてくる
・機構が眠る間に市場は自走:海外売上は1.4兆円から6.0兆円へ4.3倍、アニメは自動車に次ぐ輸出産業に
・次に使える物差し——「人が会議室で配る金か、ルールで自動分配される金か」で支援政策を見分ける
▼note記事
クールジャパンの540億円、本当の死因は「投資の失敗」ではない。
https://note.com/keke_ent/n/n1470edc4dd28
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「時の将軍が、12歳の少年の舞に夢中になった。」
約650年前の京都、時の三代将軍・足利義満が、観阿弥の息子・鬼夜叉のちの世阿弥、当時数え12歳ほどの舞に魅了されました。この鬼夜叉こそが、2026年7月2日に放送開始したTVアニメ『ワールド イズ ダンシング』の主人公です。原作は三原和人さんが「モーニング」で連載した同名漫画(全6巻)。第1話直後から「まるでアート作品」「作画が美麗」という声が並びました。
正直に言うと、能はいまの視聴者にとっていちばん縁遠い伝統芸能のひとつだと思います。わたし自身、世阿弥は「日本史で名前だけ習った人」でした。長く大きなエンタメ企業に勤めてきましたが、企画書や戦略資料は競合に手の内を見せないため基本的に外に出ない——そういう感覚で仕事をしてきた身です。
ところが作品の裏側を掘ってみたら、想像と違いました。制作の裏話も時代背景のトリビアも、たどっていくと最後はぜんぶ、世阿弥自身が600年前に書き残した言葉に戻っていくんです。『風姿花伝』は日本最古の演劇論とされ、しかも約500年間その存在すらほとんど知られていなかった社外秘の戦略書でした。
この記事では、その10個の話を書いていきます。「初心忘るべからず」の本当の意味、「秘すれば花」というサプライズ設計の理論、第1話の作画が崩れる演出、攻殻機動隊やパラリンピック開会式の作り手たち。知ってから見ると、同じ映像が少し違って見えるはずです。
▼話したこと
・1374年ごろ、将軍・足利義満と当代一の文化人・二条良基が、12歳の鬼夜叉に夢中になった
・「能楽」の呼び名は明治14年から——鬼夜叉たちの猿楽は当時の最新エンタメだった
・『風姿花伝』は一子相伝の秘伝書で、約500年間存在すら知られず1909年に初公開された
・「初心忘るべからず」の初心とは未熟だった過去の芸——一生かけて芸を更新する技術論
・「秘すれば花」はサプライズ設計の理論——第1話で作画があえて崩れる演出はその実演
・小倉宏昌・森山開次・松竹・CygamesPicturesという座組と、井上雄彦の系譜を継ぐ原作者
・ライバル犬王は湯浅政明監督『犬王』で既にアニメ化——72歳で島流しでも書き続けた世阿弥の花が600年続く
▼note記事
アニメ『ワールド イズ ダンシング』が10倍おもしろくなる、10個の話。
https://note.com/keke_ent/n/nd053aef0f51c
▼朝日けけ。SNS
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