飛騨高山の街には、古き良き伝統と、未知の未来が共存している。
そんなこの町の片隅で、私は「彼女」に再び出会った。
5歳のとき、最愛の親友を事故で失った——はずだった。
でも、高校生になった私は、彼女とそっくりな転校生と再会する。
その名は「ミア」。
彼女はなぜ、ここにいるのか?
どうして、過去を知らないのか?
市役所の地下15階に隠された、政府の極秘機関「TACEL」。
そこで私は、科学の禁断の扉を開けてしまう。
バイオテクノロジー、ナノセル技術、再構築された生命。
倫理を超えた「未来」の向こうにあるものとは?
この物語は、架空の世界の話でありながら、
私たちがいつか直面するかもしれない「現実」の一端かもしれない。
さあ、物語の扉を開いてほしい。
飛騨高山の夜風とともに——(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
[シーン1:幼稚園時代】
■SE/急ブレーキの音
「いやぁ!ピリカぁ!」
5歳のとき、親友が事故でこの世を去った。
その年齢(とし)で親友と言うのはおかしいかもしれないけど・・
私にとって、初めてできた友だちがピリカ。
幼稚園で、私とピリカはいつも一緒だった。
ママの迎えが遅くなったとき、
ピリカはピリカのママと一緒に待っててくれる。
お休みの日は、ピリカのおうちでバーベキュー。
フウフウしながら、2人で分厚い肉を食べたっけ。
きっとこの先、小学校も、中学、高校も
ずうっとピリカと一緒にいられると思ってた。
なのに・・。
このことがあってから、私の心から笑顔が消えた。
顔を上げて誰かと話すこともできない。
友だちを作るのが怖くなった。
ピリカの家族が遠くへ引っ越していっても
目を閉じると、見えてくるのはピリカの笑顔。
聴こえてくるのは透き通った笑い声。
それを、急ブレーキの音が消していく。
毎日毎日、この繰り返し。
きっと、一生これが続いていくのだろう。
私は、トラウマに囚われていた。
[シーン2:高校時代】
■SE/学校のチャイム
中学から高校へ進学しても、トラウマは消えていなかった。
心療内科へ通っているけど、改善の兆しは見られない。
そんなある日、
■SE/教室の環境音〜扉が開く
(※宮ノ下さん)
『席について。今日は転校生を紹介するからな』
ふうん。そうなんだ。
なんの興味もなく、いつものように窓の外を眺める私。
頭の後ろ、黒板の方から、聴き覚えのある声が響いてきた。
『ミアといいます。よろしくお願いします』
えっ?
先生の横に立っていたのは、忘れようにも忘れられない顔。
ピリカ!
幼い表情はそのままで、高校生になったピリカが立っていた。
黒板に書かれたフルネーム。
知らない苗字。知らない名前だけど・・
「美」しくて「愛」らしい・・『ミア』という名前にはなぜか惹かれるものがあった。
私は、彼女を見つめて呆然とする。
瞳からはとめどなく涙が溢れてきた。
慌てて机に顔を伏せる。
その日の授業は、なにも頭に入ってこなかった。
[シーン3:放課後】
■SE/学校のチャイム〜放課後の環境音
放課後。
頭の中が混乱したまま校門を出ると、
私の横をミアの自転車が追い抜いていった。
途中まで同じ道。
ってか、ほとんどの学生は万人橋まで一緒だ。
橋を渡ったところの信号を左へ。
ここまでは私と同じルート。
尾行してるわけじゃないけど、少し距離を保って彼女のあとを走る。
ママがうちのトイプーを連れてくトリミングルームを越え、
パパいきつけの理容店も過ぎた。
うわあ、これってうちの方角じゃん。
セレモニーホールを越えたところでミアは自転車を停めて周りを見渡す。
私はちょうど電柱の影で見えなかったから、
また安心したように走り出した。
次の角を右へ。
そっちは市役所の方だよなあ。
ミアは市役所の自転車置き場に自転車を停め、中に入っていった。
なんだろう?
転校の書類とかとりにきたのかな?
なぜか私は気になり、自転車置き場が見える路地でずうっと待っていた。
なのに。
1時間経っても2時間経っても、ミアは出てこなかった。
夕方の5時。あと15分で市役所は閉まってしまう。
しびれを切らした私は、とうとう市役所の中へ。
でも・・
ミアの姿はどこにもなかった。
エレベータも動いていない。
その中の1基だけ、階数の数字が点滅していた。
[シーン4:翌日の放課後】
■SE/学校のチャイム〜教室の環境音
翌日。
どうにもミアの行動が気になって仕方ない。
今まで、誰とも関わらず、何にも興味を持たずに生きてきたのが嘘のように
脳が活性化している。
「ミア、よろしくね。エミリだよ」
自分から誰かに声をかけるのなんて、何年ぶりだろう。
『うん、よろしくね。ミアよ。あ、昨日自己紹介したっけ』
ミアは屈託のない笑顔で答える。
「ミアはどこに住んでるの?」
『市内よ。エミリは?』
「私も市内」
って、市内に決まってるじゃん。
高山ってどんだけ広い町だと思ってんの。
まあ、いいや。
「いつか、おうちに遊びに行ってもいい?」
『嬉しい。ああ、エミリのおうちにも行きたいな』
「そっか。じゃあ今度」
だめでしょ。
ミアの顔を見たら、きっとママも青ざめちゃう。
「一緒に帰ろうか?」
『ありがとう。でも私、今日塾だから、お先にね』
そう言って、そそくさと教室を出ていく。
私はあせらず、席に座って考える。
きっとミアは、今日も市役所へ行くんじゃないかな。
よし。
私は学校を出て、別ルートを猛ダッシュ。
桜山八幡宮の参道を通り、先回りして市役所へ。
ミアとは反対側から中に入り、柱の影からじっと待つ。
ほどなくしてミアが入ってきた。
セーラー服のまま待合の椅子に座り、じっとエレベータを見てる。
ロビーに誰もいなくなったとき、ミアは立ち上がった。
エレベータに近づき、ボタンを押して乗り込む。
扉がしまったエレベータは階数表示が点滅し始めた。
どういうこと?
故障?
ミアがいなくなったエレベータホールで立ちつくす私。
そのとき、突然後ろから、肩を叩かれた。
(※宮ノ下さん)
『なにしてるんだい?』
「きゃあ!」
(※宮ノ下さん)
『エミリ』
「せ、先生!」
立っていたのは、担任の教師。
でもいつもの表情ではなく、笑い方が怖い。
(※宮ノ下さん)
「遅くなる前に説明するから、一緒についてきてくれる?」
そういった瞬間、玄関の扉が閉められた。
5時15分になったんだ。
(※宮ノ下さん)
「さ、エレベータに乗って」
扉が開き、担任は有無を言わせぬ圧力で
私を先にエレベータに乗せた。
慣れた手つきでカードキーを空中へかざす。
すると・・
なんということ。扉の反対側が開き、中に別のエレベータが現れた。
うそ!?
そっちへ乗り移れと、目で合図する。
ちょっと、先生。怖いって。
(※宮ノ下さん)
『シャドウエレベータだよ』
そんな、昭和っぽいネーミングあり?
もう一度カードキーをかざすと、エレベータは降下し始める。
地下1階、2階、3階・・・
え?
どんだけ降りてくの?
ってか、こんなの市役所の中にいつ誰がつくったの!?
地下15階を表示したところで、エレベータは停まり、扉が開いた。
「ミア!?」
そう。エレベータの前で待っていたのは、ミアだった。
『やだなあ、2日も連続で私を尾けるなんて』
「ど、どういうこと!?これって」
『私から説明するわ』
担任を制してミアが語り出す。
その内容は、想像をはるかに超えていた。
まず、この場所。この部屋。
ここは、高山市役所の地下15階にある
政府のAI秘密研究組織
Takayama AI Cyber Electronic Labo、略してTACEL(ターセル)。
せ、政府〜!?うっそぉ!
見たこともないような無機質な銀色の壁。
壁全体が超高性能ディスプレイで
施設内部の全データを映し出せるんだって。
床は、一見すると透明なガラスみたい。
でもよく見ると無数のナノマシンが休むことなく動き回っている。
人が歩くたびに床の色やテクスチャが変わり、柔らかな振動が足元に伝わってきた。
まるで床そのものが生きていて、訪問者を見守っているかのような感覚。
部屋の中央には、円形のプラットフォーム。
周囲にはホログラムが浮かび上がっている。
そのホログラムは・・・ピリカ!
『ナノセル・リコンストラクションというバイオサイエンスよ』
なに、それ〜!?
『死後の細胞組織を完全に再生成する新しい技術』
「クローンってこと?」
『違う。細胞をナノレベルで再構成するの。完全に新しい生命体を生み出すのよ』
「細胞・・」
『そう。私は亡くなったピリカの細胞から生まれたけど、別人格の人間』
「そんな・・」
『5歳のときにここで再構築され、今まで育ててもらったの。
ごめんね。黙っていて』
私は驚きよりも、ピリカの細胞が生きていることに感動し、
涙が止まらなくなった。
『ちょっと。やめてよ。私、ピリカじゃないんだから』
「ごめんなさい。でも・・」
(※宮ノ下さん)
『それよりどうする?
ここまで話した以上、このまま帰すこともできないだろう』
担任が超怖い表情で私を睨む。
『私が監視する』
(※宮ノ下さん)
『なに?』
『エミリの家、ここから近いし、これから行き来するって決めたから』
うちの場所、知ってんじゃん。じゃあ、聞くなよー。
『今日だってこれ以上遅くなると家の人が心配するから』
(※宮ノ下さん)
『どうするんだ?』
『私が送ってくわ』
なんか、勝手にいろいろ話が進んでいく。
まあ、でも、命を奪われるよりはよかったわあ。
政府の秘密機関って、めっちゃ怖いんだな・・・
※続きは音声でお楽しみください。