戦争が遺したものは、痛みだけではありません。
2024年の夏、高山駅に降り立った少女エミリは、ひいおばあちゃんの遺品を整理する中で、時を超えた愛のメッセージと出会います。
『STATION2/ひいおばあちゃんの宝もの』は、戦時中に交わされた恋文と、その想いを受け継いだ現代の少女の物語です。
この物語は、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Appleなどの各種Podcastプラットフォームでお聴きいただけます。また、小説版は「小説家になろう」でも掲載しています。
過去と未来を繋ぐ、ひとつの恋の軌跡(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
<『STATION2/ひいおばあちゃんの宝もの』>
【資料/高山本線の歴史】
https://www.pref.toyama.jp/8001/kendodukuri/koukyou/koukyoukoutsuu/takayamahonsen/kj00017031-027-01.html
[シーン1:2024年夏の高山駅/到着した孫娘=名前は同じエミリ(カタカナ)]
■SE/特急ひだが高山駅に到着した音/高山駅の雑踏/自動改札の音
「あぢい!」
えー、高山って雪国じゃないの〜!
フツーにあっついじゃん。
まあ、ずうっと乗りたかったHC85系に乗れたからいいけど〜。
同じ85系でもやっぱハイブリッドは違うわ〜。
私はエミリ。
おわかりのようにちょびっとだけ鉄オタ。あ、乗り鉄の方ね。
東京に住んでるんだけど、高山はママの実家。
ひと月前に、高山のひいおばあちゃんが亡くなった。
私は期末テスト真っ最中で帰れなかったんだ。
志望校を高望みしてるから何としてもいい点とらないと。
ママはずっと実家に帰ったまま。
パパの面倒は私が見てる。
と言っても、朝トースト焼いて目玉焼き作るのと、
夜パパの帰宅に合わせてウーバーイーツだけ。へへ。
ママがいないのをいいことに、ハンバーガーとか焼肉とか肉ばっかり食べてる。
だって〜、ママはヴィーガンだから、毎日精進料理なんだもん。
成長期の中二にはけっこう辛いのよねー。
でもね、パパだってガッツリ食べてるじゃん。
■SE/高山駅の雑踏/自動改札の音
ひいおばあちゃんちは、高山駅の西側。
古い町並とか観光エリアとは逆なんだよね。
夏休みだから、陣屋とか観光スポットをいろいろ見ておいで〜
ってママ言ってたけど。
”あづぐで無理〜”
ホントにこれで冬、雪が降るのぉ〜?
さっきママにLINEしたから西口のタクシー乗り場で待ってよっと。
■SE/クラクションの音「ビビッ」
あっ、ママだ。
はっや〜。
そっか、ひいおばあちゃんち、こっから近かったっけ。
前に来たのって小学生のときだったから全然おぼえてないや。
アルプス展望公園の近くだって言ってたけど。
それってなんか、山の中っぽい。
うち、インドア系だから大自然とかアウトドアじゃなくてもいいんだけど。
[シーン2:ひいおばあちゃんち/アルプス展望公園 スカイパークの近く/高台の一軒家]
■SE/セミの声(ミンミンゼミとクマゼミ)
「ひいおばあちゃんち、ひろ〜い!」
東京のマンションが狭すぎるのか、って思うくらい広々として開放的。
造りは古いけど、昔ながらのいい感じ。
「ひいおばあちゃん、ただいま」
最初にひいおばあちゃんにご挨拶しなさい、ってママに言われ仏間へ。
大きな仏壇の中には、笑顔のおばあちゃんがいた。
その横にいるのは・・・だれ?
これって学生服だよね・・・
なんか軍服みたいな詰襟を着た男の人。
でも・・・すごいイケメン!
なんでひいおばあちゃんと並んでいるの?
まさか、これがひいおじいちゃん?
ママ、この人は?
”ひいおばいちゃんのカレシ”
カレシ〜〜〜〜〜〜!?
うそぉ。
どういうこと?
”ひいおばあちゃんは正式に結婚していなかったの”
え?
それって・・・
すごくない!?
カッケー!
え?でも、カレシはどうなったの?
”おばあちゃんを生む前に戦死したのよ”
戦死・・・
じゃあ、ひいおばあちゃんは・・・
”あの時代、女が1人で子供を育てていくなんて
並大抵の苦労じゃなかったはずよ”
それで、おばあちゃんを育てて、おばあちゃんがママを産んで、ママが私を・・・
ひいおばあちゃんが、がんばってがんばってがんばって、
私の命が授かったんだ。
鳥肌が立った。
”あんたに見せたいものがあるの”
ママに連れられて、ひいおばあちゃんの部屋へ。
”これ”
と言って手渡されたのは・・・手紙?
セピアに変色してる。
いいの?読んでも。
ママが小さくうなづく。
『栄美里様おかわりありませんでせうか』
あれ?ひいおばあちゃん、私とおんなじ名前だっけか?
それに、
「せうか」
って?
昔の文語?
ああ、「ありませんでしょうか」ってことね。
そっかそっか、学校で習ったわー。
『高山駅にはきっと出征兵士たちを見送るおめでたい光景があふれていることでしょう。
わが皇軍勇士は日々華々しい戦果をあげ続けています。
勝利の日も近い。そう実感する毎日です。
栄美里様も高山の工場でお国のためにたゆまず働いてください。
銃後を守り、亜細亜をひとつにして、いざとなれば死をも恐れずに。
”夜更けまで語らう者のともしびは ふるさと遠き夏の夜の月”
祖国のため、この命がお役にたてれば人生に悔いなし。
再び高山へ戻ることはなかろうとも、魂は祖国へ帰り、
岐阜から高山本線でふるさとの空へ。
そのあと高山駅から靖国へとまいります。
いつか、靖国での再会を楽しみにしております。
栄美里様なら、わが胸のうち、ご理解いただけるものと信じております。
お国の為、みごとに散ってまいります!
栄美里様もお元気で』
ふうん。
戦争って、こんな風に思ってみんな戦地へいくのね。
”そう思う?”
え?どういうこと?違うの?
”わかんないけど、ひいおばあちゃんはすごく頭のいい人だったのよ”
”それに誰より戦争を憎んでたから”
”そのひいおばあちゃんのカレシ、おばあちゃんのお父さんがこんな手紙書くかしら”
じゃあ、この手紙は別の人?
”さあ、どうかしら”
”遺品整理がまだ全部終わってないから、あんたも手伝いなさい”
はあい。
そのつもりで高山きたんだし。
もともと私インドア派だし。
よいしょっと。
ひいおばあちゃんの遺品、整理するうちに気づいたけど、
おばあちゃんってハイカラだったんだぁ。
だってこの丈の短いパンツ、ばら?の刺繍してあるし。
え?モンペ?なにそれ?へえ〜
長持の一番下にあったのは、色無地の着物。
だいぶん色褪せてるけど、上品な薄紅色。
私の好きな色だ。
これは捨てちゃだめよねえ。
ん?
なにか縫い付けてある。
着物の内側、胸のあたりのところ。
系をほどくと・・・手紙?
じゃなくて、メモが出てきた。
日記の切れ端じゃないかな。
ひいおばあちゃんの文字だ。
『私、あなたほど聡明じゃないから、
約束したこと、こっそりとどめておきます』
あなた、って言うのはきっと写真のイケメンね。
『これはいわば暗号解読書』
そう始まった文章に書かれていたのは、手紙の本当の意味を
読み解く言葉の手引き。
それは、走り書きでこう書かれていた。
『文字はすべて正反対の意味』
『”お国のため”は・・・”栄美里のため”』
『”散ってまいります”は・・・”帰ってくるよ”』
『”お元気で”は・・・”愛してる”』
え?
じゃあ、さっきの手紙・・・
私は解読文と見比べながらあわてて手紙を確認する。
こういう・・・意味?
『高山駅は今でも出征兵士の見送りで悲しみに埋め尽くされていることだろうね。
心配しなくても、こんな戦争はもう終わるよ』
(ゴクリ)思わず唾を飲む。
『子どもの頃から共に過ごしてきた栄美里と、
これからもずっと一緒にいたい』
『どんなに離れていても、栄美里への想いは変わりません』
『なつかしい高山駅。もう一度あのホームに降り立ちたい』
『高山本線は1日も早く、また飛騨の希望を乗せて走ってほしい』
『そうしたら、高山駅から新婚旅行に出かけよう』
『栄美里へ、心からの愛と誓いを込めて』
「ママ!」
手紙と日記を見つめて、わなわな震える私。
ママはうなづきながら、
”ひいおばあちゃんらしいわ”
”おしゃれで、ハイカラで、愛に溢れてる”
ひいおばあちゃんたち、どうして、こんな・・・
”戦地からの手紙なんて全部軍部に検閲されてたからね”
”それを見越して2人で暗号を作ったんでしょ”
ひいおばあちゃん、凄すぎる!!
”さあ、送り盆よ。
私たちでひいおばあちゃんを送ってあげましょ”
そう言ってママと私は玄関へ。
ママはだまって送り火を焚いた。
「ママ、この手紙と日記、私にちょうだい」
”え?”
こんな素敵な恋がこの世にあったこと、消し去りたくないの。
栄美里ばあちゃん、私に見つけてほしかったんでしょ。
だって、おんなじ名前なんですもの。
今ならわかる。
こうやって、正しいこと考える人たちがいたから、
今の私たちがあるんだわ。
私、栄美里ばあちゃんたちの代わりに
2人の思いを心にこめて、いつか高山駅から新婚旅行へ出かける。
”あらあら、いつの話になるんでしょ”
まず、ひいおじいちゃん以上のイケメンを見つけなきゃ。
”それが一番難しいわね”
(笑