飛騨高山の風を感じながら、ラジオの向こうに広がる世界へ。
『ナビゲーターの奇跡』は、高山のFM局「Hits FM」の若手ナビゲーター・エミリが巻き起こす、不思議で心温まるサクセスストーリーです。
飛騨高山で生まれ育ち、この街をこよなく愛するエミリ。彼女の声が、思いがけない出会いと奇跡を引き寄せていきます。
地方FM局のナビゲーターが、ある日突然、全国ネットのFMプロデューサーに声をかけられたら? その先に待つのは、東京進出か、それとも地元愛を貫く道か…。
ラジオが持つ“声の力”が、人と人をつなげ、運命すらも動かしていく。
高山の美しい街並みとともに、彼女の選んだ道を、ぜひ最後まで見届けてください。
さあ、奇跡のナビゲーションが、今始まります——(CV:桑木栄美里)
【ストーリー】
<『ナビゲーターの奇跡』>
[シーン1:朝の番組終わりで】
■SE/ステーションジングルの終わりで
『それではみなさん、また来週!
今日も元気に・・・Have A Nice Day!Bye bye HIDA〜!!』(※英語っぽく)
■SE/少人数の拍手
「みんな、おつかれさま!」
「タニグチちゃん、さっきのジングルのタイミングかっこよかったぁ!」
『ホント?ありがと!”ポン出し”難しい曲だったけどね』(※谷口さん)
「ヤマシタさん、スポンサーのパブコメ、あれでよかった?」
『バッチリバッチリ!”オトクイ”、”生”聴いててめっちゃ喜んでたわ』(※山下さん)
番組スタッフといつものアフターカンファ。
とは言っても、短いポイントのチェックだけ。
番組は朝7時から11時までだから、月イチでランチってのもありだけど。
ま、放送事故でもない限り、来週のテーマの確認くらいで終了。
「ねえ、来週の木曜は世界観光の日でしょ」
「八幡祭のティザー的な意味もこめて
”高山のチートコンテンツを見直す”なんてのはどう?」
「OK?ありがと!じゃあ私、週明けまでにまとめとくわ」
そっか、八幡祭=秋の高山祭までもう3週間もないんだ。
時間が経つのって、あっという間だな。
私の担当番組は、毎週木曜の朝番組『Morning Call from HIDA!!』
春からスタートしてもうすぐ半年。
最初は早朝からドタバタで緊張の連続だったけど、
最近はスタジオに入るのが楽しくてしょうがない。
それもこれも・・・
『エミリちゃん、ちょっといいかな?』
「あ、はい!」
『お昼ご飯でも食べながら、ちょっと話せない?』
そう、このプロデューサー宮ノ下さんに声をかけられたから。
半年前の私は、高山市内のデザイン会社で働くグラフィックデザイナー。
メインの仕事はHits FMのタイムテーブルのデザイン。
宮ノ下さんと色稿をチェックしているときに、
いきなりしゃべってみないか、って。
めちゃくちゃ驚いたけど、私って昔から好奇心旺盛なのよねー。
その場で即答。
今に至る、って感じ。
あとから仲のいいナビゲーターに聞いたんだけど、
その番組、ホントは宮ノ下さんが喋るはずだったんだって。
プレッシャー半端ないし。
聞かなきゃよかった。
[シーン2:ランチMTG】
■SE/飲食店内のガヤ
『時間大丈夫だった?』
「うん、時間は問題ないけど、逆に大丈夫なんですか?
こんなハイエンドの飛騨牛のお店で」
『大丈夫大丈夫。松喜うしは馴染みだから。
なんでも好きなの頼んでいいよ』
「ええええええ?じゃあ、A5ランクの飛騨牛フィレ、シャトーブリアン・・・」
『え?』
「・・・ってウッソー。ビーフシチューにしま〜す」
『ビックリした』
「ごめんなさい。で、お話ってなんですか?」
『うん。
エミリちゃんって番組スタートしてもうすぐ半年だよね』
「え〜、まさか、番組打ち切りとか?」
『なわけないでしょ。
あのね、ほかの曜日も少しずつやってみないかな、って』
「え?10月からの改編ってもうプレスに出てましたよねー?」
『出したよ。じゃあ・・
夜帯の編成をあと2時間伸ばして21時-23時で新番組を作る話は知ってるでしょ』
「そこって確か、AIによるインフォメーションと
夜系のミュージックミックスにするんじゃ・・・」
『そのつもりだったよ。
それが、ここだけの話だけど・・・
このタイミングでスポンサーが、やっぱり、ヒトの声がいいって』
「で、私のこの・・」
『癒し系セクシーボイスを発揮してみないかってこと』
「マジで?」
『考えてみて』
「考えてもいいですけど」
『あれ?即答じゃないんだ』
「だって、私、Hitsでしゃべってるけど、
まだデザイン会社に席はあるんですからね」
『そっかそっか。ま、前向きに考えてみてよ』
細くキュートな目をさらに細くして、笑顔で推してくる。
きっとまた、この笑顔に負けちゃうんだろうな、私。
[シーン3:古い町並】
■SE/古い町並のガヤ
宮ノ下さんとは結局、関係ないアニメの話でそのあと盛り上がり、
お店を出たのは午後2時近かった。
帰り道。
いつもは人混みを避けてショートカットで帰るんだけど、
なんとなく、今日は古い町並をぶらっと歩いてみた。
食後のおやつにみだらしだんごを食べながら歩いていると、
『ちょっとすみません』
唐突に声をかけられた。
明らかに地元民ではない格好をした紳士。
『さがしましたよ』
え?
新手のナンパ?
いや、全然違っていた。
「全国ネットFMのプロデューサー!?」
思わず大きな声が出る。
「え?どういうこと?」
「SNSで見かけて、その声質とトーンに興味を持った?」
「生放送を一度聴きたくて東京から高山へ?」
「放送を聴いてから、すぐここへ?なんで?」
「私のSNSでよくアップされているお団子屋さんだから?」
なるほどね〜。鋭いけど。
で、私になんの用?
「できれば?東京へ来て?全国ネットのFMで?しゃべってみないか?」
「うっそおおおおお」
「いつから?」
「10月〜〜〜〜〜〜〜!?」
「まさか、AIの代わりなんじゃ?」
『えっ!なんで知ってるの?』
これって神様のいたずら〜?
それともさるぼぼの悪ふざけ〜?
全国ネットのFM局なんて。
なんだか夢のような話。
私でホントにいいの?
■SE/風鈴の音
そのとき、さるぼぼのぬいぐるみが飛んできて私の体に当たった。
え?
お土産屋さんの軒先から飛ばされてきたみたい。
なんか、あざとい伏線っぽいなあ。
でもそうだ・・・
「お誘いいただいてありがとうございます。すごく光栄です」
「ただ、私、高山を離れることはできません」
「私のSNSを見られたのなら、わかりますよね」
「私がどれほど高山を愛しているか」
「この街を離れて東京へ行くようなこと、したくないんです」
「それに私、この10月から地元のFM局で新しいプログラムにたずさわるんです」
おっと。まだ正式にオファーを受けてないけど・・・
『そうか・・・それは残念だなあ。じゃあ・・・』
と言って、あきらめるかと思ったら。
「新幹線で〜?日帰りで〜?」
「そうすれば、通いでナビゲータできるって?」
そりゃそうだけど・・・
『とにかく考えてみてほしい。時間は全然ないけど・・』
そう言って、彼は、さっさと高山駅の方へ歩いていった。
ううん。
考えたって、答えなんて決まってる。
誰になんと言われても、私は高山ファースト。
だって、彼の言ってる番組を担当したら
今日宮ノ下さんからオファーされた新番組受けられないじゃん。
それに、私のレギュラー番組ともかぶってる。
やっぱり、ちゃんと、彼が東京へ帰る前にメールで断っとこう。
人気FM局のロゴマークが印刷された名刺を見ながら、
彼のアドレスへ断りのメールを送った。
はあ〜。
なんか今日、すごい1日だったなあ。
こういうのを、昭和なら、
盆と正月がいっぺんに来た、って言うんだろうな、きっと。
[シーン4:早朝のHits FM】
■SE/朝のイメージとHitsFM内のガヤ
翌日。
東京の声優がやっているボイスドラマの収録を見ようと
Hits FMへやってくると・・・
なんだか、局内が騒然としている。
「おはようございまぁす」
「どうしたんですか?みんな集まって」
私が挨拶したとたん、場が静まり返った。
みんながホワイトボードに貼られたプレスリリースを指さす。
私も思わず視線を送る・・・
えっ?
東京の広域FMステーションと、Hits FMとのスペシャルコラボプログラム!?
うそ?なになにそれ?
『すごいじゃないか、エミリちゃん』
宮ノ下さんが満面の笑みで、ナビゲーターの輪の中から現れる。
『昨日の夕方、東京のFM局のプロデューサーから電話があったんだ』
『エミリちゃんを起用して、FMの新しい番組を作りたいって』
『でもエミリちゃんが高山を絶対に出ない、って言ってるから』
『高山発で、東京のFM局とHits FMとのネット番組をスタートさせたいって』
『最初は、うちの夜帯からスタートして、来春の改編では
夕方のドライビングゾーンに入れたいって』
うっそぉ!信じらんない!
ホントにコレ、盆と正月だよ。
『こうなったら今日も松喜うしにランチいこう!
A5ランクの飛騨牛フィレ、シャトーブリアン食べない!』
まだまだ残暑の高山。
来週は、絢爛豪華な八幡祭が、肌寒い秋の訪れを告げる。
こよなく高山を愛し続けてきた私に答えるように、
一足早く、秋の奇跡が駆け抜けていった。
■SE/高山祭の喧騒でシメ