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前編の最後にソキウスがキョンに投げかけた、「基礎」と銘打つならば、真偽を判断するような価値付けという理由付けの方法をより採用した方が良いのでは?
キョンは「作品そのものについて語る何か」として、当時何かしらの賞を受賞したなどの「データ」があること限定でそれに同意すると回答。
(また、(キョンもこの言葉が適切であるかどうかは不問にしたうえで)そのような「データ」が少ないものについては「根拠が薄い」とも述べている。)
「それはどうやって測るんだ?」「データとして分かりやすいものがあれば」などの言葉から垣間見えるのは、ここで挙げたような「データ」の絶対量が少ないことを理由に、真偽を判断するような価値付けを選択することをある程度諦めているキョンの態度。
それに対してソキウスは、適切な理由付けをそれに見合う根拠を持って行うのであれば、ここで挙がったような数値データ以外に質的なデータ(理由付けとして用いるのに適切だと判断された、当時の言説分析などといった数値では測定できないデータ)も基礎を考える上で利用することが出来るだろうという意見を持っています。
なおキョンはこのソキウスの意見に対して、「アニメの制作者側」の例を出して応答。これはコンテンツの「供給側」が語ったことを前提としているのではないかとソキウスは考えています。
ここで話題は、当時の肌感覚と現在までの影響力を考える例として(作品ごとの個別具体的な事情はもちろんあるとはいえ)『デジモンアドベンチャー』の主題歌である「Butter-Fly」のカラオケランキングでの変遷を取り挙げます。[松崎編 2009; カラオケの鉄人 2022]
まず始めに「Butter-Fly」はどちらかというと子供向けの作品の主題歌であること、そしてこの楽曲は現在は基礎的な立ち位置にあるものとして理解可能だということを確認。
それを踏まえてランキングを見ると、2008年のカラオケランキングに(その数年前に発売された)「創聖のアクエリオン」は入ってても「Butter-Fly」はTOP20の中にないというデータから、ソキウスは時間の経過とともに影響力が増大した一つの例としてこの楽曲の存在を挙げられるかもしれないという仮説を提示。
(ちなみにカラオケの鉄人調べでの「2021年カラ鉄年間アニソンカラオケランキング」では、「アニソン」とされる全楽曲が対象としてある中で9位を獲得している)
それを受けてキョンは、(この集計時期の頃のカラオケで自身が歌う曲の中に「Butter-Fly」は必ず入ってくるという言い方を用いて、)当時から歌ってた人はいるという理由で、この「影響力の増大」言説には少し懐疑的な立場。
このキョンの立場を聞いた上で改めてソキウスは、「Butter-Fly」に特に馴染みがある(主に放送当時「子供向け」の範疇に属してた)世代ではカラオケでもよく歌うだろうが、2008年当時にアニソンをカラオケで歌う層全体で考えると、この楽曲を当時歌う層が全体に対してトップクラスの影響力を誇っていたと考えるのは難しい。これが時間の経過とともに「Butter-Fly」の影響力が批評的に積み重なって増大し浸透していったのではないかと先ほどの仮説をより細かく言語化。
「当時」におけるニコニコ動画文化の隆盛の度合いが前提に入っているこの考え方に、当時その文化に深く慣れ親しんでいたキョンは引き続き懐疑的。キョンは「Butter-Fly」もその文化の中にメインとしてあったのではという肌感覚を持っています。
ソキウスはそういう肌感覚を持つのはある程度は妥当だとしながらも、ランキングのデータ的にそこまでメインだと評価していいのかは(現在の時点から踏まえるならば)微妙な立ち位置。
ここまで見てきたとおり「当時」に対する感覚の違いはあれど、ランキングでの色々な結果を聞くうちにキョンは、現在までの影響力、そしてそれの増大という意味では『円盤皇女ワるきゅーレ』の挿入歌「Agape」もそれにあたるだろうと指摘。その指摘にソキウスも納得。
(cf.「平成アニソン大賞」では、「Agape」が「ベスト楽曲」として選ばれている。[平成アニソン大賞 2019])
ここまでの話を受けてソキウスは、以前引用した「批評の新しい地図」を再度引き合いに出し、批評の「目的」の違いを取り挙げます。[難波 2019]
グラント[Grant 2013]による整理を参考に、知覚の伝達[Isenberg 1949]を目的に置く批評と、価値付け[Carroll 2009=2014]を目的に置く批評という形で、批評の中でも目指す目的によって違いがあることを確認。
(なお、グラントはこの2つに加えて「選択の手助け」と「説明」を批評の目的としている。)
これを踏まえてソキウスは、基礎という「目的」を掲げるのであれば、より価値付けの側面を重視した方が良いのではという自身の意見を再度提示。
最後にソキウスは、かつて歴史系の分野を専攻していたやすおに「歴史観(中心史観)」の話題、何を中心とみなすかのその「数」の違いについて話題を振ります。
やすおは、前編でやすおも一定程度同意していた「n人の参加者にn個の基礎がある」という考え方は、これまでの対話の内容(主に共同体内での「共通了解」の点)と照らし合わせながら考えると、必ずしもそうではないのではないかと考え方が変化してきたことを明かします。
(批評回から続くテーマでもある)「批評の目的」「批評の理由」の違いを、アニソン基礎ボードとそこで基礎とした楽曲の例を用いながら考えてみた回となった今回。
この回を聞き終えて、皆さんは何を基礎と考えますか?
毎回最後に1分以内で今紹介したい1曲を持ち回りで語ってもらう「本日の一曲」。
アニメソング/基礎/データ(量的データ・質的データ)/当時の肌感覚/現在までの影響力/カラオケランキング/「Butter-Fly」/ニコニコ動画/「Agape」/批評の理由/批評の目的/歴史観(「○○中心史観」)/石田燿子
Carroll, Noel, 2009, On Criticism, London: Routledge. (森功次訳, 2017, 『批評について――芸術批評の哲学』勁草書房.)
Grant, James, 2013, "Criticism and Appreciation," The Critical Imagination, Oxford: Oxford University Press, 5-28.
平成アニソン大賞, 2019, 「アニソン大賞」, 平成アニソン大賞公式ホームページ, (2022年2月5日取得, https://www.anisong-taisho.jp/heisei/).
Isenberg, Arnold, 1949, "Critical communication," Philosophical Review, 58(4): 330-344.
カラオケの鉄人, 2022, 「2021年カラ鉄年間アニソンカラオケランキング TOP10,000」, カラオケの鉄人公式ホームページ, (2022年2月5日取得, https://www.karatetsu.com/animegame/pickup/total/anime2021.php).
松崎憲晃編, 2009, 「Ranking Express: AniSong The Lateset Information 2008年下半期(7月~12月)」『アニソンマガジン 00年代「萌える音楽」総決算!』洋泉社, 133-135.
難波優輝, 2019, 「批評の新しい地図 : 目的、理由、推論」 『フィルカル : philosophy & culture : 分析哲学と文化をつなぐ』4(3): 260-301.