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「#福岡市を博多市に ……って、何ね、これ?」通勤中の西鉄バスの車内で、なにげなく友人のツイートをのぞいて、かなめは思わず、本当の「つぶやき」を漏らした。やはり、博多市の怨念が現実世界に影響を与えているのだろうか。「ほら、かなめちゃんも、こればつけんね!」そう言って、先輩は、かなめにもマスクを差し出した。「黄色いマスク……。これって?」「知らんとね? 博多市実現運動の賛同者は、みんなこの黄色いマスクば付けるごとなったとよ。ほら、かなめちゃんもつけんね!」昼休み、いつも行く定食屋の前で、かなめは思わず立ち止まった。「博多区在住の方は割引」「博多市に賛成とレジで言えば割引」そんな看板が、当然のように出されていたのだから。
博の仕事は、順調に進みそうだ。だが、かなめは不安を拭えなかった。あの驛長という存在を、不穏な存在に感じてしまったからだ。「……もしかして?」9年前、住吉神社の歩射祭で、矢が射られた途端、目の前の着物姿の人物が忽然と姿を消した。その時、彼と一緒に見物に来ていたらしい、古めかしく、そして威厳を感じさせた制服姿の男性……。それが、あの驛長の服装そっくりだった。驛長が、あの忽然と消滅した着物姿の謎の人物の消滅と、何か関係があるのだろうか? このまま、カタハネたちが「博多市の怨念」を蓄積し続けたら、いったいどうなってしまうのだろう……。
「綱木博さん。再びこの羽片世界においでになった際には、ご協力いただけますか?」「私でよければ」驛長は満足げに頷くと、再び地の下に吸い込まれるように姿を消した。「ちょっと、博君、どういうつもりね!」かなめは博に食ってかかった。「カタハネとハンの者、どっちが正しいかなんてわからないだろう?それに、カタハネたちが博多市を実現しようって気持ちも、わからないわけじゃないしな」カタハネたちの行動を、是が非でも妨害しないといけない理由は、かなめにも博にもないのだ。「とにかく、かなめがハンの者に肩入れするんだったら、俺は逆にカタハネを応援する。かなめと協力するなんて、まっぴらゴメンだからな」「ちょ、ちょっと、待たんね!」かなめは逃げようとする博の手を握った。その時、再び、あの「声」が聞こえた。「このままじゃ、いかんばい……博多駅が……無うなって……」博がかなめの手をふりほどき、それ以上、言葉は聞こえなかった。
カタハネたちに迎え入れられた旧博多驛の驛長が姿を見せた。「せいもん払いでは、ハンの者たちに遅れを取りましたが、今回は見事に大量の怨念を集めましたね。あと少しです。あと少しで、念願の博多市が実現するのです!」「三年前の十一月七日……。私の力が及ばないばかりに、博多市の怨念が暴走し、現実世界に大きな影響を与えてしまいました」驛長は、後悔のにじむ声で、そう言った。「三年前の十一月七日って……」かなめがあと一歩で命を落としかけた、博多駅前の陥没事故だった。謎の事故の原因が、まさか博多市の怨念のせいだったとは……。
「博君! なんて事ばしでかしたとね!」いくら、禁断の「よかよ」を聞いたからって、やったことの影響が大きすぎた。「いい加減にせんね! 高校の頃のちょっとした失敗ば、いつまでも引きずってから。男らしゅうなかよ!」「お、お前、俺のことを弄んだくせに! それを……、それを、ちょっとした失敗だなんていうのか?」今までずっと、博の「よかよ」のトラウマは、「文化祭よかよ事件」のせいだと思っていた。だけど博にとって、それはきっかけに過ぎず、むしろかなめの「よかよ」が、決定的な引き金を引いていただなんて。かなめと言い争いになった博は「博多なんか、ぶっ壊してやる!」と言い残し、立ち去った。
ハンの者たちは、必死に花電車の進撃を止めようとする。だが、よみがえった花電車の力は強力で、カタハネたちのゴミ収集車の防御もあって、近づくことができない。
「どげんもこげんもならん! 花電車の力が強すぎるばい」
「負けっしもうた……」
ハンの者たちが、がっくりと肩を落とした。単に負けただけではない。集めていた怨念まで、根こそぎカタハネたちに奪われてしまったのだ。
カタハネたちのゴミ収集車は、怨念の光を満載して、意気揚々といずこかへと走り去った。一人、車から降りた博が、フラフラとした足取りで周囲を見渡し、座り込んだ。今になって正気に戻り、自分のやったことに愕然としているんだろう。
「博君! なんて事ばしでかしたとね!」
光り輝く「何か」が、陰の玉と共に、東から道路を突き進んできた。
「あれは……、どんたくの花自動車!」
「いや、あれは花自動車やなか……。花電車たい!」
「渡辺通りは、市電ば通すために渡辺さんが作った道路やけん、市電とは結びつきの強かとたい。もしかしたら、聖域に入れるかもしれん」
「渡辺通りば玉ば転がされたら、逆転されっしまうばい!」
「ハンの者たち! 今よ! 陰の玉ば!」
ハンの者のゴミ収集車が、陰の玉を飛ばした。福岡大仏に当たった瞬間、大量の怨念が、ゴミ収集車に吸い込まれていった。
ハンの者たちが圧倒的なリードを保ったまま、時計は朝の六時を回った。あと一時間ほどで、夜明けを迎える。
「博君も、ようやってくれたね。こいだけやったら、もう、よかよ」
ハンの者たちが、そう言って博をねぎらった。博は何も言わずに、姿を消してしまった。
「よかよ、だ! しまった!」
その時、カタハネたちの乗ったゴミ収集車が、猛スピードで東の方に向けて走り去っていった。
「あの先頭のゴミ収集車……。博君が乗っとったよ!」
かなめの言葉に、ハンの者たちは呆然としていた。
「博さんが、カタハネたちの側に寝返ったっていうこつか?」
先に進むにつれ、闇はよりいっそう、密度を濃くした。闇の奥で、「怨念」がざわめく。これ以上進ませまいと、襲いかかろうとする。
「ちょっと、博君、しっかり光ば守って!」
必死に踏ん張る博だったが、怨念の触手が、足先に巻き付いた。
「ああっ!」
博が転んだ。提灯が手を離れて、宙に舞い上がる。光が、消える!
「もう、何ばしよると!」
かなめは提灯の落下地点にスライディングして、何とか光を消さずに受け止めた。怨念が、今度はかなめを標的にして、足に巻き付いて引き倒そうとする。
「そうはさせんよ!」
かなめは、ポケットに入れていたものを、怨念にぶつけた。小さな砂粒ではあったが、効果は絶大で、怨念は熱湯でも浴びせられたように身を縮めて遠ざかった。
「よし、入るぞ」
博と共にゆっくりと、暗闇の中に足を踏み入れた。
「本当に、光が届かんねぇ」
「光を届ける、光を届ける……。う~ん……」
無い頭を振り絞ってうろうろするうちに、頭がこんがらがって、かなめはつまづいて、転んでしまった。
「何をやっているんだよ」
博が呆れたように言った。
「なんね! ちょっと、目がちょうちんしてしもうただけたい」
おばあちゃん譲りの古い博多のことわざを使ってしまった。
「目が提灯って何だよ……。待てよ、提灯、提灯……。そうだ! 提灯! 弓張提灯だ!」
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