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街灯はたくさん立っているのに、目の前の通りが真っ暗だ。しかも、車のライトで照らしても、暗闇が消えることはなかった。光を通さない、特殊な闇のようだ。
「あの先は確か東長寺があって、そこには福岡大仏があるはずだよな。博多側にある、『福岡』の名が冠された仏像だ。ハンの者の側にとっては、大きな得点になる場所なんじゃないのか?」
「アタシらもそげん思うて、何べんか、あの闇の中に入ってみようとしたとばってん……光も届かんけん、どげんしようもなか」
光も届かないのでは、「陰の玉」をぶつけることはできなかった。
「ねえ博君、あの暗闇の中で、仏の輪ば探し当てたら、御利益で闇が消え去って、福岡大仏に陰の玉ばあてることができるっちゃない?」
「なあ、さっきから思っていたんだけど」
博が、ふと思いついたように身を乗り出し、ハンの者に尋ねる。
「どうしてハンの者もカタハネも、渡辺通りを通るのを避けるように移動しているんだ?」
渡辺通りは、福岡で一番の繁華街、天神の目抜き通りだ。西鉄福岡駅も三越も大丸もパルコも、ぜんぶ渡辺通り沿いにある。言われてみれば、確かにカタハネもハンの者も、横断はするけれど、決して渡辺通り自体を通り抜けようとはしなかった。
「渡辺通りは、ハンの者もカタハネも、入られん、不可侵の聖域になっとるとたい」
「渡辺さんは、確かに博多商人じゃあるばってん、今の福岡市の発展の礎ば築いた人たい。福岡も博多も関係なく、街の発展に尽した人やけん、この騒動に、渡辺通りば巻き込むわけにはいかん。そいけん、筥崎さんが、聖域として封印ばしんしゃったとたい」
カタハネたちは、繁華街の中に入り込んで、「店の看板」に陰の玉をあててゆく。「博多ラーメン」や、「博多人形」など、博多の名を冠した店だった。福岡部にありながら「博多」の名前を冠する店舗は、カタハネ側にとってのポイントになる。陰の玉に集まった怨念が、カタハネたちのゴミ収集車に吸い込まれてゆく。
「思い切り博多側に飛ばせ!」
玉は東に向かって遠く飛び、落ちた先は博多駅前だ。ハンの者はうまく連携し、「福岡センタービル」や、「ANAクラウンホテルプラザ福岡」に玉をぶつけた。博多駅前にありながら「福岡」を名乗る施設は、ハンの者側にとってのポイントになる。
カタハネの車とハンの者の車が、競い合うように東へと向かった。
「博多市の怨念は、博多のお祭りや行事ごとの時には大量に発生する。ばってん、それ以外の時にも少しずつ、一日の人々の活動が終わった深夜に、地面の下から沸き上がってくるとたい。その怨念ば効率よく集めるための手段たい」
ゴミ収集車に自分たちの力の一部を託して、夜のゴミ収集と一緒に博多市の怨念を回収していたのだという。
「アタシらハンの者と、カタハネが対峙して、まさに一触即発やった。そん時に、筥崎の神さんが仲裁に入ってくれたとたい。それから、陰の玉ば使った、この羽片世界での『玉せせり』がはじまったわけたい」
「陰の玉で玉せせり?」
「博多人形店」や「博多ラーメン」の店に陰の玉をぶつければカタハネ側が怨念を獲得し、逆に「福岡」の名前のついた店や施設にぶつければ、ハンの者が怨念を得るというわけだ。
「玉せせりが行われた1月3日から毎晩、夜明けまで争いよるとばってん、決着がつかんで、毎晩追いかけっこばしよるとたい」
「また、お告げがあったとたい」
「お告げって、どんな?」
「玉せせりの陰の玉ば使って、怨念ば集めんしゃい。それば筥崎さんに収めたら、怨念は消え去る……。そげん告げられたとたい」
ゴミの収集が滞っているのは、カタハネたちとハンの者がゴミ収集車を使って、玉せせりの「陰の玉」に集まる「博多市の怨念」を、奪い合っていたからだった。
「陰の玉が無くなった理由はわかったとして、どうして博多市の怨念を奪い合うのに、ゴミ収集車を使わなきゃならないんだ?」
「福岡市は、全国でも珍しか、夜のゴミ収集ばしよる。それがなぜか、知っとるね?」
「それは、昼の収拾で渋滞を引き起こさないようにでしょう?」
「それは、表向きの理由たい。夜のゴミ収集が決まる過程には、アタシらが大きくかかわっとるとたい」
せいもん払いのときに、博多市の怨念を集めて十日恵比須神社に飾り山を奉納したハンの者たちが、再びかなめ(加隈亜衣)と博(佐藤巧)の前に現れた。彼らによると、右側に羽をつけ「博多にわか」のお面をつけた集団はカタハネと呼ばれ、博多市を実現させるために怨念を集めているのだという。ハンの者たちによって、怨念を昇華されたカタハネは怒り、ゴミ収集車を使って争っていた。それはあるお告げがあったからだというのだが…。
「いつのまにか、博多の裏の羽片世界に入り込んでしまったみたいだな」ゴミ収集車を追いかけ続けるうち、不気味な光に囲まれていた。そのとき、ゴミ収集車の一団が、背後の道路を猛スピードで爆走していった。車にしがみついているのは、右側に羽があり「博多にわか」のお面をつけた者たち。「せいもん払い」騒動で出会った「ハンの者」とは違うようだ。博がかなめを引っ張る。手をつないだ、その瞬間、あの「声」が聞こえてきた。――かなめと博よ、ハンの者たちば勝利に導いてくれんね――
博多の街から消えたごみ収集車を探すことになったかなめ(加隈亜衣)と博(佐藤巧)。夜の街をあてもなく探している中で、何気ない会話から「夜のごみ収集は、大都市では福岡くらい」だと博が言う。博多から出たことがないかなめには、「三社参りが全国的な風習じゃない」と知った時以上のショックだった。その夜中のゴミ収集がうまく機能せず、道路までゴミ袋であふれ、都市機能が麻痺してしまってるのだ。
年始があけて月曜日の六日、祇園地区再開発プロジェクトの会合が開かれる日だった。ところが、予定されていた時間になっても、委員たちが姿を見せない。かなめは、ふと傍らの窓から、博多の街を見下ろした。「な、なんねこれ!」博多駅前の大博通りは、大渋滞していた。しかも、空にはカラスの大群が舞い飛んでいる。「福岡市中から、ゴミ収集車が消えっしもうたとげなたい」ただでさえ通常よりも収集の間隔が空くのに、年末の大掃除だとかお正月の鉢盛で出たゴミだとかで、いつも以上にゴミは増えるのだ。それが回収されていないのだ。
筥崎宮の正月大祭「玉せせり」で、陰の玉がなくなる騒動が起きて、博(佐藤巧)とのデートも中途半端に終わってしまい、おばあちゃんの家に帰ったかなめ(加隈亜衣)。おせちに飽きたというかなめのために、おばあちゃんは「めんたいフランス」を焼いて出してくれた。「何と何が相性が良かかは、ぶつけてみらんとわからんもんね」そう言って、思わせぶりにかなめを見るおばあちゃん。一方、正月の間はゴミ収集がないから、台所はゴミで溢れていた。あと2日、ため込んでおかなければならない。
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