米ウォール・ストリート・ジャーナルは、OpenAIがOracleから今後およそ5年間で総額3000億ドル相当のコンピューティングを購入する契約を締結したと報道しました。契約は2027年開始を想定し、必要電力は4.5ギガワット──フーバーダム2基超に相当、約400万世帯の消費電力規模という巨大案件です。Oracleは最新四半期で将来契約収入を3170億ドル積み増したと明かし、株価は最大43%急騰。会長のラリー・エリソン氏の純資産も一日で約1000億ドル増え、世界首位級に浮上したとの観測が相次ぎました。
足元の業績面では、OracleのFY26第1四半期でRPO(残存履行義務)は前年同期比+359%の4550億ドルに拡大。サフラ・キャッツCEOはアナリスト説明で「3社と4件の複数年・数十億ドル規模の契約」を締結したと述べ、AI関連の受注がOCIの成長ドライバーになっている構図を示しました。
この超大型契約は、OpenAIが進めるAIデータセンター構想「Stargate」の一環でもあります。2025年7月、OpenAIはOracleと米国内で4.5GWの追加能力を開発すると発表。StargateはソフトバンクとOpenAIがリードし、4年間で5000億ドルの投資を掲げます。日本語の公式ページや国内報道でも同趣旨が確認されています。
設備の立地については、OracleがCrusoeらと組み、ワイオミング州など複数州での建設が進む見込みと報じられます。CrusoeはワイオミングのAIデータセンター計画を公表しており、テキサス州アビリーン拠点の拡張可能性も指摘されています。加えて、ワイオミング、ペンシルベニア、テキサス、ミシガン、ニューメキシコなどでの計画が伝えられています(報道ベース)。
もっとも、このディールは双方にとって大きな賭けです。OpenAIは2025年6月時点でARR約100億ドルと伝えられる一方、WSJは「2029年まで赤字見通し」と報道。Oracle側もAIチップや発電設備を含む巨額投資を前倒しする必要があり、S&Pのデータを引用する形で、同社のデット・トゥ・エクイティ比率がMicrosoftの約33%に対し約427%と高水準である点が指摘されています。
マクロでは、モルガン・スタンレーが2028年までにデータセンター設備・ハードウェアへの累計支出が約3兆ドルに達するとの見通しを示しており、今回の契約はその巨大な資本循環の象徴とも言えます。AIの計算需要は拡大を続ける一方で、電力・資金・人材という3つの制約が各社の成長速度を決める局面に入りました。OpenAIはMicrosoft独占体制からの“緩やかな脱却”を進め、Oracleはマルチクラウド連携とAI特化投資で一気に存在感を高める──この力学が、次の数年のAIインフラ地図を塗り替えていきそうです。
今回のエピソードは以上で終了です。また次回お会いしましょう。