今回は、文化心理学についてお話します。
ピンと来ないかもしれませんが、「心理学」という言葉は皆さんご存知かもしれません。我々人間の心を対象にした学問です。これまで実は、ある一つの大きな前提がありました。
それは、人間の心の構造は人類共通だという前提です。住む場所や話す言葉は違っても、心の構造は皆同じはずだという前提が広く心理学の研究者の間で共有されてきました。
ところが1990年代くらいからこの前提に待ったをかける人々が現れてきました。彼らは、人の心の構造には地域差があると言うのです。特に、北米地域と東アジア地域には大きな違いがあると主張しました。北米地域というと、カナダやアメリカにあたります。東アジアというのは、中国、韓国、日本を念頭に置いた地域のことです。特に、この二つの地域の間には大きな差異があると言うのです。心理学は、元々様々な実験をして、その主張を立証する学問ですが、これまで地域差について様々な実験が行われてきました。その中でやはり差がありそうだということが分かってきました。そうした流れから最近では、「文化心理学」という独立した学問分野が出来上がってきました。
より具体的にイメージしていただくために、心理学の実験をここでやってみたいと思います。これからあるクイズを出します。皆さんは答えを考えてみてください。
【クイズです。「私は××である」という自由作文を、直感的に5つ考えて下さい。】
正式には、このクイズでは20個の文章を書いてもらいます。今日は時間の関係で5個にしました。実はこの文章に地域差が顕著に出ると言われています。それが心の構造の違いから来ると文化心理学では主張されています。ちなみにこのクイズをアメリカ人、カナダ人にやってもらうと次のような答えが多く出てきます。
「私は誠実だ」「私は好奇心が強い」「私は愛情深い」などです。
一方でこれを日本人にお願いすると、少し違ったタイプの答えが急に増えます。
「私は○○会社の○○課長である」「私は○○大学の出身である」「私は三児の母親である」。
これらの違いが分かりますか?北米の方達というのは、自分がどうかという自己完結の答えになります。一方で日本人の回答は、他人がいないと定義出来ない回答です。
つまり、自分を定義するときに、自分だけで完結するのか、もしくは他人の存在が当たり前のようにそこにあるかの違いです。
もちろん、これは単なる傾向ですから中にはアメリカ人タイプの方もいらっしゃるかもしれません。
では、もう一つ実験を用意してきたのでやってみましょう。
本当は皆さんに二枚の写真をご覧頂くのですが、今日はみなさんに写真を思い浮かべていただいてやってみたいと思います。
思い浮かべて頂きたい写真は、5人の子どもが並んでこっちに向かって写っている写真です。全員上半身だけです。そのうち真ん中にいる一人の男の子だけがカメラの方にちょっと近寄って大きく写っています。こんな写真を想像して下さい。
次の写真は、先ほどの写真と登場人物も配置も全く同じです。違いは一箇所だけで、表情です。まず一枚目は、真ん中の男の子、そして後ろの4人いるのですが全員がにこっと笑っています。二枚目は、真ん中の男の子は引き続き同じ表情でにこっと笑っています。しかし、後ろの4人は渋い表情です。
【では、クイズです。それぞれの写真の真ん中の男の子の今の気分を想像してみて下さい。】
この答えをアメリカ人に聞くと、回答は「両方とも彼はハッピーだよ」という回答が多いです。一方で日本人に聞くと、一枚目の全員にこっと笑っている方は「彼はご機嫌」という答えですが、後ろの四人が渋い表情をしている方は「微妙」となります。
アイトラッキング装置をご存知ですか?目がどこを向いているかを示す装置になります。それをつけてやってもらうと、アメリカ人は二枚とも真ん中の男の子だけを見ています。日本人は全員の表情をぎゅっとスキャニングします。つまり、男の子の気分を考える時に、男の子と周囲の人間の関係に注意を払っているわけです。よく「空気を読む」と言いますが、まさにそのような行動をとっているということです。
自分と周囲の人間との関係の捉え方に大きな違いがあるということです。文化心理学では、これを「自己観の違い」といいます。「自己観」とは、自分というものの考え方です。人生観の観と自己をくっつけた言葉ですが、明日は引き続きこの自己観についてお話してみたいと思います。
では、今日のまとめです。
北米と東アジアでは人の心の構造に大きな違いがあることが見えてきました。