~ニシダ家の団欒 2025夏~
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『ただ君に幸あらんことを』感想
RNほっしー
まず始めに、この度はニシダさんが執筆されたこの本を贈っていただいたこと、感謝申し上げます。二篇読ませていただきました。
感想はメールでは送りきれないため、この形で送付いたしますが、
ここに書かれた内容は、一部を切り取りもしくは全文、
ラジオやSNSなどにて使用されても構いません。
『国民的未亡人』は、主人公の夫・榊の人物像を少しずつ解明していくにつれ、主人公・美紘の気付きを経て、じわりとにじり寄る悲哀と絶望、それから拭えないもやつきの感覚を読者に与える作品と感じました。読む前に心配したのは、著者の顔を知っていると、声や顔つきがチラつくのではということでしたが、冒頭数ページで無用な心配だと知りました。ひたすら細かい情景描写や主人公の自然な女性らしい仕草は、全くニシダさんの風体を思わせません。そしてその細かく、冗長ではとすら言えるほどの情景描写は私の頭に、物の位置、空の色、空気の湿り気や人の肌の匂いまで全てを再現させるようでした。注釈かのようにどんどん出てくる描写に加え、息が詰まるような句点の少なさに、私は最初読みづらさを感じてしまったのですが、段々と主人公の感情の移ろいに共感するように、重く馴染んでいきました。
内容に入ります。穏やかで、そして特別派手でないが美しい家での主人公の朝支度から始まり、テレビクルーとのやり取りとインタビューを終えた時点でも、私はこの主人公の人間性がよく掴めずにいました。主体的か受け身なのかすらよく掴めない、が、どちらかというと容易くないという印象の持ち主です。過剰なまでに用意した多種の清涼飲料水群は、配慮の塊としてよりも、外面を整えておき余所行きの気遣いを見せることで下手に内面に触れさせないようにするための膜のようなものを感じたのです。私生活についてあまり喋ってくれない同僚のようなものでしょうか。夫で故人である榊のことについても一緒に、容易く教えてはくれなそうです。主人公目線の小説の話であるにも関わらず、「この人なんか喋りにくいな」と思っていました。読後の今にして思えば、この妙な違和感こそが話全体の空気感と結末を司っていたのです。美紘が夫のことを愛していたということだけは、疑いようのない事実と受け止めていました。ただし、彼女が話してくれるのはひたすらに外向けの『大スター榊』の表面だけで、彼に対しても人間味を感じさせてはくれません。それでも淀みなく質問に答えてくれるのは、心からの尊敬と愛があるからで、榊について探らせてくれないのは夫との宝のような思い出に指紋をつけさせたくないということなのだろうと考えていたのです。結果的に見てもそれは一部間違いではありま
せん。彼女は間違いなく夫を愛している。少なくとも自覚している中ではそうなのです。美紘が「榊は不倫をしていた」と突きつけられたあたりから、段々と彼女の感情が開示されていくようでした。それからは私が知りたがった榊について、彼女も知っている限りを教えてくれるようになります。それだけ、この持ち込まれた話題は彼女にとって衝撃的で、風船という膜をつつき割られ水が弾け出たような出来事だったということでしょう。同時にそれは彼女が榊の全てを知る人物では無いという事実を示します。怒り、悲しんだ末の行動に、榊という人物について他人に聞いて情報を集めるという選択をとったことからも、彼女達の関係は良好であったとしても、こちらが深堀りするほどの中身が無いことを知らしめてきました。そして彼女が私に教えてくれた榊の知る限りのことは、既に余所に出された表面的な榊恭司の情報がほとんど全てだと改めて知ることになるのです。私が触れたかった宝のような思い出はただ一つ、恭司がリンゴをむ
いてくれたこと、そして尻をすりガラスに押し付けるおどけた仕草、その一連の流れだけでした。他の宝、言わば平凡な日々のことは埋没してしまい、もう取り出せない。理想的な振る舞いの榊は思い出せるのにも関わらず。彼女が収録の時の出演者や私に、宝のような思い出を話してくれなかったのは、明かされた通りその「宝」自体を見つけてはいなかったからでした。彼女の自覚する愛の本質は、自分が考えていたものと性質が異なっていた。それに気づいた彼女本人と私の失望が重なり、雨に合わせて暗く淀みます。元々息苦しく感じていた文体が、その虚脱感を伴い、独特の雰囲気を形成します。彼女が掴みづらい人間性だという感触は、結局ここまで来ても拭ってくれません。掴みづらいとか依然に、彼女が妻であることで生まれる厚みというものがそもそも存在していなかったからでした。かわりに、人間味が薄いと最初は思われた榊恭司のあたたかさ、人情が彼の魅力として次第に伝わり、主人公美紘との対比として際立っています。彼女
達の間には、生者と死者の隔たりだとか、眩しいスターと平凡な一般人との差とかよりもまず、そもそも夫婦として寄り添いあってはいなくて、お互い寄りかかったつもりでいて膜で阻まれたままだったということです。そして今後も寄り添い歩く努力はお互い二度とできません。生前に本質的には妻として生きられてはいなかったと美紘が気づいた今、彼女は夫を偲ぶ立場である未亡人として使命的に生きていけるのか?絶望の中一人、自責感や今更すぎる坂本家の妻としての意識、確かな思慕、払えない悲哀に苛まれて自問自答を続ける彼女について、掴めなかった美紘という人間について、ここでようやく私の想像の中で具体的な造形を帯びて、美しく寂しい姿を映し出してくれました。そしてその姿は私にとって、取り返しのつかないものを持った一般的な未亡人のものだとはっきりと感じさせたのです。
※概要欄に入りきらないので、国民的未亡人の感想文のみ掲載します。
https://www.mbs1179.com/la/
https://twitter.com/lani1179
[email protected]
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