<第1セクション【伝統楽器とワールドミュージックの融合「A Root 同根生」】>
本日は先月の24日に「台北霞海城隍文化節」の一環としておこなわれた「島語音樂會(島の言葉コンサート)」についてのリポート。このイベントは台北霞海城隍廟、中華文化總会が主催、台北市政府、台北市文化局、台北市観光伝播局、台北市民政局などが共催する形で行われた。
このコンサートの企画・プロデュースは、ドラマ『茶経(邦題:ゴールデンリーフ)』や映画『孤味(邦題:弱くて強い女たち)』など、金鐘奨(Golden Bell Awards)や金馬奨(Golden Horse Film Awards)でも度々ノミネートされている映画音楽家で、才能ある若手ミュージシャン、バンドのプロデュースも手掛ける柯智豪(ブレア・コー)さん。柯さんはこのコンサートについて次のように説明。
「島語音樂會」は、台湾が多様性に富んだ島であり、この島では、スペイン語、オランダ語、閩南語、客家語、原住民語、日本語等、様々な言葉が話されてきた。時代の変遷とともに、言葉は人々の考え方、概念に影響を与え続けてきたし、それぞれのエスニックグループの象徴ともなってきた。音楽を通じて、様々な言語の存在が見える形にしたい。また、より多くの人に大稻埕の歷史や文化を知ってもらいたい。
24日の「島語音樂會」のステージに登場した8組のミュージシャンの中から、特に印象的だったバンドを2組紹介。今年の金曲奨(Golden Melody Awards)に4部門でノミネートされた「A Root 同根生」。今、最も勢いのある「台湾味」が濃厚なバンド(このアルバムのプロデューサーでもある上述の柯智豪さんが最優秀アルバムプロデュース賞を受賞)。歌のテーマは台湾の民間伝承に登場する神明や霊魂を扱ったものがほとんど。2作目のアルバム『邊緣轉生術』では、台湾の妖怪たちが主人公だ。バンドの楽器も將笙、柳琴、中阮、月琴といった「國樂」と呼ばれる伝統楽器をベースに、人の声(芝居の口上や歌)が加わり、強烈なリズムと電子音楽、ワールドミュージックやジャズの要素が融和した唯一無二の世界を表現。言葉も台湾語、客家語、台湾華語に英語や日本語も混ざる。
今回初めて生演奏を聞いたが、強い衝撃が走った。話題のセカンドアルバムの『邊緣轉生術』から『八寶公主 Princess Bubble』(4:07)をOA。
冒頭から日本語が聞こえるし、私も最初は消化しきれない感覚を持ったが、とにかく音楽的には様々な要素が詰まり、それでいて見事に融和している。
「A Root 同根生」は2015年に宜蘭の同郷の楊智博(ボーカル&笙)、小緑こと林琬婷(柳琴、中阮、月琴)、鄭皓羽(ベース)、林喬(キーボード)によって結成。バンド名は「尋根(ルーツ探し)」の意味。2022年からは、ボーカルの魷魚こと游怡婷、ドラマーのDKこと陳渝平も加わって、『邊緣轉生術』のアルバム制作にも参加、サウンドも大幅に厚みを増した。
笙とボーカルを担当し、「A Root 同根生」の精神的支柱でもある楊智博さんは、「以前は楽器が主役だったが、ボーカルが参加したことによって、伴奏がどういうことかを学んだ。ボーカルが聴こえていなければならないが、かと言って楽器は飾り物ではない。それが面白かったし、大きな挑戦でもあった」と雑誌のインタビューで答えている。
また柳琴、中阮、月琴担当の林琬婷さんは、さらに踏み込んで「元々中国伝統楽器の伴奏というのは非常に形式化されて面白くないものだった。したがって、演奏方法や演奏の音量のコントロールについて一から考え直さなければならなかった。あるいは同じパターンの繰り返しで聴く人に飽きられないようにする必要があった。」と述べている。
これから台湾を代表するバンドとして台湾国内だけではなく、日本をはじめ海外でのフェスティバルでも活躍するバンドであると確信している。私のイチオシバンドの「A Root 同根生」、是非今後とも注目していただきたい。
<第2セクション【海は繋がっている「查勞・巴西瓦里」】>
次に紹介するのは花蓮出身のアミ族のシンガーソングライターの查勞・巴西瓦里(チャラウ・パシワリ)さん。チャラウさんは、スペインでマダガスカル出身のKilemaさんと知り合ったことをきっかけに2014年に制作・発表した『坡里尼西亞』で、翌2015年の第26回金曲奨で最優秀原住民語歌手賞と最優秀原住民語アルバム賞をダブル受賞している「金曲歌王」。このアルバムのモチーフは、南洋(オーストロネシア)言語族の出発点となったとも言われる台湾から、数千年前に丸木舟でインド洋の最西端マダガスカルを目指した祖先をイメージしたものだという。
台湾の第一人者のシンガーソングライターのチャラウさんだが、実は歌手として実績を残す前は、長らく野外イベントのPA(音響)を担当していた。したがって、現場でお世話になったミュージシャンやバンドも多いはずだ。台湾を代表するインディーズバンドの一つ「四分衛樂團(Quarterback)」のバンドマスターでギタリストの「虎神」さんもその一人。
2019年のことに、虎神さんがプロデューサーとなり、チャラウさんをアフリカ大陸の東、インド洋に浮かぶマダガスカルまで一緒に音楽旅行を企画した。この時の旅行での経験を素材に制作したのがアルバム『SALAMA』だ。このSALAMAという言葉、アミ語では「遊ぶ」という意味だが、マダガスカルでは「こんにちは」という意味になるそうだ。言語のつながりは面白い。
查勞・巴西瓦里(チャラウ・パシワリ)さんのアルバム『SALAMA』からタイトル曲『SALAMA』をOA。
<第3セクション【台湾は皆さんの「Promised Land」】>
実はこのイベントには私もギタリストの大竹研さんとのデュオを組んで出演。台湾には「国語」あるいは「台湾華語」と呼ばれ、共通語となった「北京語」や、閩南系漢人の母語である「台湾語」、客家人漢人の母語である「客家語」、台湾に元々住んでいた台湾原住民の母語である各「原住民族語」に混じって、かつてこの島でも話されていた「日本語」も、このイベントの企画者が「島語」=「島の言葉」の一つとしてカウントしてくれたこと、その意味を考えながらのステージだった。
「台湾華語」や「台湾語」,「原住民族語」の中には、「歐吉桑(おじさん)」「歐巴桑(おばさん)」「便當(べんとう)」「看板」「阿撒力(あっさり)」「歐兜麥(オートバイ)」「阿里阿多(ありあと=「ありがとう」が転訛)」「歐伊西(おいしい)」など枚挙にいとまが無い。もちろん、これは日本が統治した50年間に定着し、現在まで継承されてきたものもあるが、この数十年の日本の流行語とともに台湾に新たに入ってきた言葉もある。多くの日本語が既に台湾の言葉の一部となり、ひいては日常生活の一部ともなっている。日本と台湾の間の歴史や、日本語を使い、継承してくれた先人たちの人生に、私は想いを馳せずにはいられない。
自分が今ここで暮らし、歌を歌わせてもらえているのも、先人たちが残してくれた積み重ねがあったから。この島、この土地、ここで暮らしてきた、そして今暮らしている皆さんに感謝を込めて、最後に『島語音樂會』当日の会場で拾った音源から、この番組の主題歌『Promised Land』をOA。