ブックカタリスト

BC002『独学大全』


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面白かった本について語るPodcast ブックカタリスト第2回。

今回は、『独学大全』について語ります。

ブックカタリスト第二回の倉下メモ

*本のリンクはすべてAmazonアフィリエイトのリンクです。

▼読書猿さんについて

くるぶしさん。Twitter IDは @kurubushi_rm

ブログは「読書猿Classic: between / beyond readers

著作は、以下の三冊。

『アイデア大全』(フォレスト出版)

『問題解決大全』(フォレスト出版)

『独学大全』(ダイヤモンド社)

マシュマロの回答をまとめたScrapboxプロジェクト。

◇marshmallow-rm

▼異例のビジネス書

最近のビジネス書は「わかりやすく、すぐに読める」ものが好んで出版される傾向があった。図解や漫画でわかるといったものが好まれるという認識。そこに『アイデア大全』(2017年)は殴り込みをかけた。「わかりやすく、すぐに読める」ものは、どうしても具体的なノウハウやTipsだけが扱われ、そうしたものを生み出してきた知識の系譜への記述は軽んじられる。あるいは無視される。

個人的には、野口悠紀雄さんの『「超」整理法』は、既存のノウハウについて分析しながらも新しい知見を提出しているという意味で、論文的な書き方がされていたが、しかしそういう本が後に続くことはなかった。「成功したすごい人のノウハウ」として、再現性が検討されることもなく出版されていった。

それって何か違うのではないか、という思いが『アイデア大全』からは感じられる。その意味で、『アイデア大全』の出版はエポックメイキングであったはずだが、その実その後に続いたのはいわゆる「大全もの」の氾濫だった。たしかにそれらには「教養的」な情報が記述されているが、きわめて断片的で散り散りでしかない。

そうした状況を読書猿さんがどのように感じていたのかはわからないが、嬉しさよりももどかしさや憤りの方が強かったのではないかと予想する。

そのエネルギーが『独学大全』では爆発している。鈍器と評されるページ数と、3000円という価格設定。ビジネス書では異例である。にも関わらず、権威あるアカデミズムで評価されるような難解な文章が踊っているわけではなく、むしろ文章は読みやすく、さまざまな工夫が仕掛けられている。つまり、ビジネス書という体裁は(土俵ギリギリいっぱいではあるが)はみ出していない。そこが本書の異例中の異例なところであろう。

▼これからの仕事術

『独学大全』は、個人はどうしたって自分を思い通りに動かせないことがスタートになっている。これまでは、「今までのあなたはダメだったかもしれないが、この本のノウハウを実行すればすごいあなたに成れますよ」と説いていたことに比べると大きな変化な変化だ。

もちろん、これまでの言説の問題は、その「この本のノウハウを実行すれば」ですら、「自分を思い通りに動かす」必要があるという点で、これを乗り越えられないから基本的にうまくいかない。そもそもそれができるなら、そうしたノウハウは必要とされていないはずである。

もう一つの問題は、画一性の前提であり、それは多様性の否定である。たった一つの、しかも具体的に提示される方法を「その通りに」やってうまくいくほど、人間は均質ではない。本来それは具体性を通じて抽象性に至る道を提示すべきなのだが、なにせ「わかりやすく、すぐに読める」ものではそうした知的作業は好まれない。結果として、「わかりやすいけど、ぜんぜん自分には役立たない」ノウハウ書が山のようにできあがる。

『独学大全』は、きちんとその前提を踏まえている。つまり、人間は自分すらもままならないのだ、と。しかし、少しずつ歩みを進めていくことならできるのだ、と。一進一退どころか、二退三退しつつも、前に進む意志を持ち続けることはできるのだ、と。

この変化を私は経済学と行動経済学の対比と同様に捉えている。つまり、完璧な「経済人」と現実的な人間との立ち振る舞いの違いは、仕事術においても同様に理解されてしかるべきなのである。

『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』はまさにその観点に立って書かれているし、 戸田山和久さんの『教養の書』『思考の教室』も、ダメダメな人間を起点として何ができるのかが検討されている。

▼個人の知の営みについて

最近の書籍で、個人の知の営みについて語った本のリスト。

『これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得』

『在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活』

『知的生活の設計』

『勉強の哲学』

それぞれに異なる特徴があり、読んでいて楽しい。知的生産の技術的に参考になる話も多い。

▼本を読むことについて

「本を読む」という行為は、個人の頭の中だけで行われる上、執筆やアイデアと違ってその結果が直接表に出ることがないので、他の人がどうやって本を読んでいるのか(本を読むとはどういう知的営為を指すのか)が案外にわからないことがある。

少なくとも、小説のように頭から最後まで読んで、著者が構築した世界に浸りきる、ということだけが「本を読む」ことではないことは間違いない。以下の本でそれを確かめられる。

『知的生産の技術』

『本を読む本』

『読んでいない本について堂々と語る方法』

人と人の付き合い方にバリエーションがあるように、人と本の付き合い方にもバリエーションがある。



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