ブックカタリスト

BC046「オープンさと知的好奇心」


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今回は、倉下が二冊の本を取り上げました。

* 『OPEN(オープン):「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る (NewsPicksパブリッシング)』

* 『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~ (光文社未来ライブラリー)』

一見異なる本から、関連する「トピック」を取り出すというシントピカル・リーディングの実践です。

シントピカル・リーディング - BCBookReadingCircle

『OPEN(オープン): 「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る』

書誌情報

* 原題

* 『OPEN:The Story of Human Progress』

* 著者

* ヨハン・ノルベリ

* 『進歩: 人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)

* 翻訳

* 山形浩生

* 森本正史

* 出版社

* NewsPicksパブリッシング

* 出版日

* 2022/4/29

* Amazonリンク

* https://amzn.to/3cSOMNa

開かれたグループ・組織・文化が持つ力を明らかにする。

『子どもは40000回質問する~あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力~』

書誌情報

* 原題

* 『CURIOUS:The Desire to Know and Why Your Future Depens on it』

* 著者

* イアン・レズリー

* 『CONFLICTED~衝突を成果に変える方法~』(光文社)

* 翻訳

* 須川綾子

* 出版社

* 光文社(光文社未来ライブラリー)

* 出版日

* 2022/5/11

* Amazonリンク

* https://amzn.to/3QsaBkl

人間を人間たらしめている能力である好奇心。それを深めることが、人生を豊かにし、また情報化社会で活躍するために必要である、と説く。

オープンさと好奇心

倉下は「開く・開かれている」という概念に興味があります。関心軸の一つと言っていいでしょう。

そして、「閉じているよりは、開いている方がいいだろう」とイノセントに考えております。青年期にインターネットの洗礼を受けた経験があるからに違いありません。『伽藍とバザール』といったお話も大好きです。

一方で、何でも開けっ広げにすればそれでいいだろうとも思っていません。誰しもが、心の内側に篭もれるドアを必要としてるでしょうし、細胞は細胞膜でおおわれていますし、なんといっても「私」は、私という閉じた存在です。「閉じ」というのは必要で、もっと言えばそれが基本的な在り方で、だからこそ逆向きのベクトルを持つ「開く」が有用なのだと言えるのかもしれません。

そんなことを考えていると、そもそもどういう状態であれば「開いている」と言えるのかも面白い問題だと言えます。人間存在は一つの閉じた系ではあるものの、一方で人間の知識は外部の環境とセットで機能するわけですから、そこは開いていると言えます。この閉じと開きの微妙な関係が私の興味をそそるわけです。

今回は二つの本を通じて、その「開いている」を考えてみました。一つは、一つの組織や文化としての「開き」。たとえば、科学は開かれた営みですが、陰謀論は閉じられた試みです。その二つで使われる単語が似ていたとしても、行われている営みはまったく反対の性質を持つのです。

一人の人間の知識や能力や視点は限られている。だから、いろいろな人を集めた方がいい。そして、ただ集めるだけでなく、その中でさまざまな意見交換や能力の習得が行われた方がいい。そういった最近ではごく当たり前のように感じられる──これは私のバイアスでしょう──事柄が、人類の歴史をさかのぼって論証されていきます。

『OPEN』における重要な指摘は、そうした自由な交流や精神が現在盛んに盛り上がっているのは、ほとんど奇跡に近い出来事である、という点です。それはきちんと守っていかないと、簡単に崩れていってしまうものなのです。さらに、その精神性は別段「西洋」と深いつながりがあるわけではない、という指摘も面白いものです。グローバリズムと西洋化を切り離したことで、西洋至上主義とは違った形でその普遍性を浮かび上がらせようとしています。

知的好奇心は育む必要がある

『子どもは40000回質問する』では、そうしたオープンさを個人のマインドセットに見出します。私なりの読み方をすれば、好奇心があるとは、心が開かれている状態です。他者に向けて関心を持ち、外部に向けて関心を持つ。それだけでなく、その対象を自分の内側に招待するような、そんなマインドセットが好奇心です。

そのような状態のとき、私たちの心は「閉じていながらも、開かれている」という不思議な状態に置かれます。自分の底に他人がいて、他人の底に自分がいる。まるで西田幾多郎の哲学です。

おそらく「確固たる自己」というのは、他人をまったく無視するものではなく、他人を視野に入れながらも維持されるアイデンティティが確立されている状態のことなのでしょう。「分人」の考え方を拝借すれば、たとえ誰と会っていても、共通して立ち上がってくる「自分」というものがある状態。それがしなやかなアイデンティティではないかと想像します。

付け加えて言えば、『子どもは40000回質問する』の重要な指摘は知的好奇心は育む必要があり、また基盤となる知識がなければ創造力も思考力もろくに機能してくれない、という点です。言い換えれば、誰かが「自由に」考えられるようになるためには、一定の「押しつけ」(という名の教育)が欠かせないことになります。

これだけみると、あまりにもパタナーリズムな感じがするかもしれません。しかし、たとえば「子どもの自由にさせよう」と思い、周りの大人が一切母国語を教えず(=話さず)、子どもが自分の「言語」を立ち上げるに任せているとしたらどうなるでしょうか。その子どもが、「自由に」考えられるようになるでしょうか。

この点からも、「開く・開かれている」というのがそんなに簡単な話でないことがわかります。

何も手を加えないことが「開く」ではありません。そうではなく、「開かれた状態」に持っていくことが「開く」なのでしょう。ということは、その前段階として「閉じる」ことが必要になります。ここが難しいところです。



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