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BC074『ロギング仕事術』


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今回は、倉下の直近の新著『ロギング仕事術』を著者自身が紹介しました。

本の内容の直接的な紹介というよりは、この本の背後にあった想いを多めに語っております。

本の主題

「記録をしながら、仕事をしよう」という新しいワークスタイルを提案しています。

そのワークスタイルによって、

* 行為実行中の注意の舵が取れるようになる(短期の効能)

* 情報が保存され、再利用可能になる(中期の効能)

* 「考える」が起こりやすくなる(長期の効能)

といった「うれしいこと」が起こりやすくなります。

倉下が考えるに、この「うれしいこと」は現代において切実にその必要性が高まっている要素です。なので、仕事のやり方を変えたい、仕事をもっとうまく進められるようになりたいという方は、ぜひ「記録をしながら、仕事をする」をやってみてください。

三つの想い:その1

で、本書では実用性を主軸において、倉下特有の理屈めいた話はまるっと抜いておりますが、三つの考えたことが背景にあります。

一つは「原初のライフハック」としての記録です。さまざまなライフハックを見てきましたが、「記録すること」を使わないものなどほとんどありません。特に何かしらの効果を上げているものは皆一様に「記録をどう使うか」という点を持っています。

最終的にできあがるノウハウの形が違うのは、どのような記録を、どんな風に残すかという点が違っているからです。それが違うのは当然でしょう。それぞれの人が違った傾向を持っているからです。むしろ、そうした形の違うメソッドが出てくること自体が、「ライフハック的」だと言えます。ライフハックは、原理主義というよりはブリコラージュのマインドセットがあるものなのです。

そこで本書では、あらゆる記録の起点となるようなベーシックなスタイルを提案しました。この記録から始めて、あとは個人の趣味嗜好に合わせてアレンジしてけば、最終的に「その人の方法」になるような、そんなテンプレート/フレームワーク感のあるノウハウをセットアップした次第です。

この思想を支えているのは、「たいそうな方法でなくてもよい。当たり前の方法で構わない(むしろその方がよい)という観点です。おどろきを感じるような、斬新な「方法」があれば、自分が抱えている問題をまるっと解決してくれるような気がしますが、それは幻想です。むしろ、他の人がごく当たり前に利用している方法を、自分の中にも(自分なりの形で)定着化させることが、一番まっとうなルートです。というか、それ以外にはない、とすら言えるかもしれません。

当たり前の、ライフハックを。

それが2020年代のライフハック観です。

三つの想い:その2

二つ目は、「考えるを取り戻す」です。

非常に大雑把な話になりますが、他人を「管理」したければ相手に考えさせないのが一番です。そうして「言う通りに」行動させれば、管理の手間は最小化します。逆に言えば、そうした状態のとき、自分は「考える」という行為を剥奪されているわけです。それって、ほんとうに好ましいのでしょうか。

また、適切に「仕事」をするためには、どうしてもいろいろ考えなければなりません。毎日がまったく同じ動作だけで成立する仕事ならばそれでもいいでしょうが、手順ややり方を改良していくことは仕事の質を向上させる上でも必要ですし、「なんのための仕事か」といったことを考えることは、成果の方向性を定めるのにも有効です。

そうやって考えることをしていると──管理の方向性に逆らうことになるので──面倒なことも起きてくるわけですが、それでも5年、10年のスパンで捉えたときに、そうした思考の有無は大きな違いを生むだろうと思います。

さらに言えば、組織的な管理とは別の意味で、私たちは「考える」を奪われつつあります。速度反応を求める昨今情報環境のせいです。

「考える」ためには、少なくとも時間と注意が必要です。刹那的に反応を繰り返しているだけでは「考える」ことはできません。情報機器、ITツールなどを無防備に使っていれば、どんどんその「考える」機会が喪失されていくでしょう。

自分の手で記録を書く、という行為はほとんど無理やりにその時間と注意を取り戻させてくれます。むしろ、そこまでしないと確保すら難しいというのが現代なのかもしれません。

三つの想い:その3

最後の三つ目が、「自分を知る」です。倉下がセルフ・スタディーズ(自分の研究)と呼んでいるものです。

最新の情報や世界の動向にどれだけ詳しくても「自分がどんな人間であるのか」が分かっていなければ、人生の決定は難しく、また下した決定に納得感を得るのは難しいでしょう。

そこまで大げさな話でなくても、「どんな情報整理ツールを使ったら嬉しいか」ということも、自分についての理解が浅いとまったく決められません。そういうときほど、他人の欲望に影響を受けやすくもなってきます。で、混乱が深まっていくわけです。

選択肢が多い時代であればあるほど、自分のことをわかっておくことの有用性は高まります。自分はどんな人間であって、どんな人間ではないのか。そんな当たり前のように思えることですら、私たちはよく知っていないのです。だからこそ、自分の記録を残すのです。「自分の研究」ためのフィールドワークのようなものです。よく観察し、ときには質問し、その結果から分析を行うのです。

その価値は、ほんとうにもっとずっと後になって、じわじわと実感されることでしょう。おそらく最強の「コスパ」はここにあります。

さいごに

というようなことを背後に考えながら、それでも「実用性」を一番念頭において『ロギング仕事術』を書きました。よろしければ読んでみてください。



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