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December 21, 2016第10课语法(肯定否定,现在过去式复习大家好,欢迎收听nikki的电台~~(最近麦克风噪音问题后期还没有学会处理。。)期待接下来nikki换新的麦克风吧��好啦,喜欢nikki的可以关注新浪微博:丢三落四的nikki文稿有些会上传新浪微博。...more27minPlay
December 21, 2016逃げはじ最終回小賢しい痛み離れている売り上げなんでもいい気がします合わせて提案復活寝室相談チュー任せてください選べる早く食べちゃってください逃げる深呼吸 しんこきゅう...more10minPlay
December 16, 20161Q84——第二章天吾(5)細(ほそ)い針金(はりがね)のような硬(かた)い髪(かみ)は、前髪(まえがみ)のあたりがわずかに白(しろ)くなりかけている。髪はもつれ、耳が隠(かく)れるくらいだ。不思議なことにその長さは、一週間前に床屋(とこや)に行くべきだったという程度に常に保(たも)たれている。どうしてそんなことが可能なのか、天吾にはわからない。ときどき冬の夜空で星が瞬(またた)くように、眼光(がんこう)が鋭(するど)くなる。何かあっていったん黙(だま)り込(こ)むと、月の裏側(うらがわ)にある岩(いわ)みたいにいつまでも黙っている。表情もほとんどなくなり、体温(たいおん)さえ失(うしな)われてしまったみたいに見える。 天吾が小松と知り合ったのは五年ばかり前だ。彼は小松が編集者をしている文芸誌の新人賞に応募し、最終選考に残った。小松から電話がかかってきて、会って話をしたいと言われた。二人は新宿の喫茶店(今いるのと同じ店だ)で会った。今回の作品で君が新人賞をとるのは無理だろう、と小松は言った(事実とれなかった)。しかし自分は個人的にこの作品が気に入っている。「恩を売るわけじゃないが、俺が誰かに向かってこんなことを言うのは、とても珍しいことなんだよ」と彼は言った(そのときは知らなかったが、実際にそのとおりだった)。だから次の作品を書いたら読ませてもらいたい、誰よりも先に、と小松は言った。そうしますと天吾は言った。 小松はまた、天吾がどのような人間なのかを知りたがった。どういう育ち方をして、今はどんなことをしているのか。天吾は説明できるところは、できるだけ正直に説明した。千葉県市川市(ちばけんいちかわし)で生まれて育った。母親は天吾が生まれてほどなく、病(やまい)を得(え)て死んだ。少なくとも父親はそのように言っている。兄弟はいない。父親はそのあと再婚することもなく、男手(おとこで)ひとつで天吾を育てた。父親はNHKの集金人(しゅうきんじん)をしていたが、今はアルツハイマー病になって、房総半島(ぼうそうはんとう)の南端(なんたん)にある療養所(りょうようじょ)に入っている。天吾は筑波大学(つくばだいがく)の「第一学群自然学類数学主専攻(だいいちがくぐんしぜんがくるいすうがくしゅせんこう)」という奇妙な名前のついた学科を卒業し、代々木(よよぎ)にある予備校(よびこう)の数学講師をしながら小説を書いている。卒業したとき地元(じもと)の県立高校(けんりつこうこう)に教師(きょうし)として就職(しゅうしょく)する道(みち)もあったのだが、勤務時間が比較的自由な塾の講師になることを選んだ。高円寺(こうえんじ)の小さなアパートに一人で暮らしている。 職業的小説家になることを自分が本当に求めているのかどうか、それは本人にもわからない。小説を書く才能があるのかどうか、それもよくわからない。わかっているのは、自分は日々小説を書かずにはいられないという事実だけだった。文章を書くことは、彼にとって呼吸をするのと同じようなものだった。小松はとくに感想を言うでもなく、天吾の話をじっと聞いていた。 なぜかはわからないが小松は、天吾を個人的に気に入ったようだった。天吾は身体が大きく(中学校から大学までずっと柔道部(じゅうどうぶ)の中心選手だった)、早起きの農夫(のうふ)のような目をしていた。髪を短(みじか)く刈(か)り、いつも日焼けしたような肌色(はだいろ)で、耳はカリフラワーみたいに丸くくしゃくしゃで、文学青年にも数学の教師にも見えなかった。そんなところも小松の好みにあったらしい。天吾は新しい小説を書き上げると、小松のところに持っていった。小松は読んで感想を述べた。天吾はその忠告(ちゅうこく)に従って改稿(かいこう)した。書き直したものを持っていくと、小松はそれに対してまた新しい指示を与えた。コーチが少しずつバーの高さを上げていくように。「君の場合は時間がかかるかもしれない」と小松は言った、「でも急ぐことはない。腹(はら)を据(す)えて毎(まい)日休みなく書き続けるんだな。書いたものはなるたけ捨てずにとっておくといい。あとで役に立つかもしれないから」。そうします、と天吾は言った。 小松はまた、天吾に細(こま)かい文筆(ぶんぴつ)の仕事をまわしてくれた。小松の出版社が出している女性誌(じょせいし)のための無署名(むしょめい)の原稿書きだった。投書(とうしょ)のリライトから、映画や新刊書(しんかんしょ)の簡単な紹介記事から、果(は)ては星占(ほしうらな)いまで、依頼があればなんでもこなした。天吾が思いつきで書く星占いはよくあたるので評判(ひょうばん)になった。彼が「早朝(そうちょう)の地震に気をつけて下さい」と書くと、実際にある日の早朝に大きな地震が起こった。そのような賃仕事(ちんしごと)は、臨時収入としてありがたかったし、また文章を書く練習にもなった。自分の書いた文章が、たとえどのようなかたちであれ、活字(かつじ)になって書店(しょてん)に並(なら)ぶのは嬉しいものだ。 天吾はやがて文芸誌の新人賞の下読(したよ)みの仕事も与えられた。本人が新人賞に応募する身でありながら、一方でほかの候補作(こうほさく)の下読みをするというのも不思議な話だが、天吾自身は自分の立場の微妙さをとくに気にするでもなく、公正(こうせい)にそれらの作品に目を通した。そして出来の悪いつまらない小説を山ほど読むことによって、出来の悪いつまらない小説とはどういうものであるか、身(み)に滲(し)みて学(まな)んだ。彼は毎回百前後(ひゃくぜんご)の数の作品を読み、なんとか意味らしきものを見いだせそうな作品を十編(じゅうへん)ほど選び、小松のところに持っていった。それぞれの作品に感想を書いたメモを添(そ)えた。最終選考に五編が残され、四人の選考委員がその中から新人賞を選んだ。 天吾のほかにも下読みのアルバイトがいたし、小松のほかにも複数の編集者が下選考にあたった。公正を期していたわけだが、わざわざそんな手間(てま)をかける必要もなかった。少しでも見所(みどころ)のある作品は、どれだけ全体の数が多くてもせいぜい二つか三つというところだし、誰が読んでも見逃(みのが)しようはなかったから。天吾の作品が最終選考に残ったことは三度あった。さすがに天吾自身が自分の作品を選ぶことはなかったが、ほかの二人の下読み係が、そして編集部デスクである小松が残してくれた。それらの作品は新人賞をとれなかったが、天吾はがっかりもしなかった。...more12minPlay
December 16, 20161Q84——第二章天吾(4)小松という男にはどこかはかり知れないところがあった。何を考えているのか、何を感じているのか、表情や声音(せい おん)から簡単に読みとることができない。そして本人も、そうやって相手を煙に巻くことを少なからず楽しんでいるらしかった。頭の回転(かいてん)はたしかに速い。他人の思惑(おもわく)など関係なく、自分の論理に従ってものを考え、判断を下(くだ)すタイプだ。また不必要にひけらかすことはしないが、大量の本を読んでおり、多岐(たき)にわたって綿密(めんみつ)な知識を有していた。知識ばかりではなく、直感的(ちょっかんてき)に人を見抜(みぬ)き、作品を見抜く目も持っていた。そこには偏見が多分に含まれていたが、彼にとっては偏見も真実の重要な要素のひとつだった。 もともと多くを語(かた)る男ではなく、何につけ説明を加えることを嫌(きら)ったが、必要とあれば怜悧に論理的に自説を述べることができた。そうなろうと思えばとことん辛辣(しんらつ)になることもできた。相手の一番弱い部分を狙い澄まし、一瞬のうちに短い言葉で刺(さ)し貫(つらぬ)くことができた。人についても作品についても個人的な好みが強く、許容(きょよう)できる相手よりは許容できない人間や作品の方がはるかに多かった。そして当然のことながら相手の方も、彼に対して好意を抱(いだ)くよりは、抱かないことの方がはるかに多かった。しかしそれは彼自身の求めるところでもあった。天吾の見るところ、彼はむしろ孤立(こりつ)することを好(この)んだし、他人に敬遠(けいえん)されることを——あるいははっきりと嫌(きら)われることを——けっこう楽しんでもいた。精神の鋭利(えいり)さが心地よい環境から生まれることはない、というのが彼の信条(しんじょう)だった。 小松は天吾より十六歳年上で、四十五歳になる。文芸誌(ぶんげいし)の編集一筋(へんしゅうひとすじ)でやってきて、業界ではやり手としてそれなりに名を知られているが、その私生活について知る人はいない。仕事上のつきあいはあっても、誰とも個人的な話をしないからだ。彼がどこで生まれてどこで育ち、今どこに住んでいるのか、天吾は何ひとつ知らなかった。長く話をしても、そんな話題は一切(いっさい)出てこない。そこまでとっつきが悪く、つきあいらしきこともせず、文壇(ぶんだん)を軽侮(けいぶ)するような言動(げんどう)を取(と)り、それでよく原稿がとれるものだと人は首をひねるのだが、本人はさして苦労もなさそうに、必要に応じて有名作家の原稿を集めてきた。彼のおかげで雑誌の体裁(ていさい)がなんとか整(ととの)うということも何度かあった。だから人に好(す)かれはせずとも、一目(いちもく)は置(お)かれる。...more8minPlay
December 10, 20161Q84—第二章天吾(4)原稿: 小松という男にはどこかはかり知れないところがあった。何を考えているのか、何を感じているのか、表情や声音(せい おん)から簡単に読みとることができない。そして本人も、そうやって相手を煙に巻くことを少なからず楽しんでいるらしかった。頭の回転(かいてん)はたしかに速い。他人の思惑(おもわく)など関係なく、自分の論理に従ってものを考え、判断を下(くだ)すタイプだ。また不必要にひけらかすことはしないが、大量の本を読んでおり、多岐(たき)にわたって綿密(めんみつ)な知識を有していた。知識ばかりではなく、直感的(ちょっかんてき)に人を見抜(みぬ)き、作品を見抜く目も持っていた。そこには偏見が多分に含まれていたが、彼にとっては偏見も真実の重要な要素のひとつだった。 もともと多くを語(かた)る男ではなく、何につけ説明を加えることを嫌(きら)ったが、必要とあれば怜悧に論理的に自説を述べることができた。そうなろうと思えばとことん辛辣(しんらつ)になることもできた。相手の一番弱い部分を狙い澄まし、一瞬のうちに短い言葉で刺(さ)し貫(つらぬ)くことができた。人についても作品についても個人的な好みが強く、許容(きょよう)できる相手よりは許容できない人間や作品の方がはるかに多かった。そして当然のことながら相手の方も、彼に対して好意を抱(いだ)くよりは、抱かないことの方がはるかに多かった。しかしそれは彼自身の求めるところでもあった。天吾の見るところ、彼はむしろ孤立(こりつ)することを好(この)んだし、他人に敬遠(けいえん)されることを——あるいははっきりと嫌(きら)われることを——けっこう楽しんでもいた。精神の鋭利(えいり)さが心地よい環境から生まれることはない、というのが彼の信条(しんじょう)だった。 小松は天吾より十六歳年上で、四十五歳になる。文芸誌(ぶんげいし)の編集一筋(へんしゅうひとすじ)でやってきて、業界ではやり手としてそれなりに名を知られているが、その私生活について知る人はいない。仕事上のつきあいはあっても、誰とも個人的な話をしないからだ。彼がどこで生まれてどこで育ち、今どこに住んでいるのか、天吾は何ひとつ知らなかった。長く話をしても、そんな話題は一切(いっさい)出てこない。そこまでとっつきが悪く、つきあいらしきこともせず、文壇(ぶんだん)を軽侮(けいぶ)するような言動(げんどう)を取(と)り、それでよく原稿がとれるものだと人は首をひねるのだが、本人はさして苦労もなさそうに、必要に応じて有名作家の原稿を集めてきた。彼のおかげで雑誌の体裁(ていさい)がなんとか整(ととの)うということも何度かあった。だから人に好(す)かれはせずとも、一目(いちもく)は置(お)かれる。 ...more8minPlay
December 06, 20161Q84—第二章天吾3「電話でも簡単に話しましたけど、この『空気さなぎ』のいちばんの美点(びてん)は誰の真似もしていない、というところです。新人の作品にしては珍しく、<傍点>何かみたいになりたいという部分がありません」、天吾は慎重に言葉を選んで言った。「たしかに文章は荒削(あらけず)りだし、言葉の選び方も稚拙(ちせつ)です。だいたい題名からして、<傍点>さなぎと<傍点>まゆを混同(こんどう)しています。その気になれば、欠陥(けっかん)はほかにもいくらでも並べ立てられるでしょう。でもこの物語には少なくとも人を引き込むものがあります。筋全体(すじぜんたい)としては幻想(げんそう)的なのに、細部(さいぶ)の描写(びょうしゃ)がいやにリアルなんです。そのバランスがとてもいい。オリジナリティーとか必然性(ひつぜんせい)とかいった言葉が適切なのかどうか、僕にはわかりません。そんな水準まで達していないと言われれば、そのとおりかもしれない。でもつっかえつっかえ読み終えたとき(言葉がスムーズに発せられないで途中で何度かとまる。 「 - ・え-・え読む」)、あとに<傍点>しんとした手応(てごた)えが残ります。それがたとえ居心地(いごこち)の悪い、うまく説明のつかない奇妙な感触であるにしてもです」 小松は何も言わず天吾の顔を見ていた。更に多くの言葉を彼は求めていた。 天吾は続けた。「文章に稚拙(ちせつ)なところがあるからというだけで、この作品を簡単に選考(せんこう)から落としてほしくなかったんです。この何年か仕事として、山ほど応募原稿(おうぼげんこう)を読んできました。まあ読んだというよりは、読み飛ばしたという方が近いですが。比較的良く書けた作品もあれば、箸(はし)にも棒(ぼう)にもかからないものも——もちろんあとの方が圧倒的に多いんだけど——ありました。でもとにかくそれだけの数の作品に目を通してきて、仮(かり)にも手応(てごた)えらしきものを感(かん)じたのはこの『空気さなぎ』が初めてです。読み終えて、もう一度あたまから読み返したいという気持ちになったのもこれが初めてです」「ふうん」と小松は言った。そしていかにも興味なさそうに煙草の煙(けむり)を吹(ふ)き、口をすぼめた(窄める、口、傘とか)。しかし天吾は小松との決して短(みじか)くはないつきあいから、その見かけの表情には簡単にだまされないようになっていた。この男は往々(おうおう)にして、本心とは関係のない、あるいはまったく逆の表情を顔に浮かべることがある。だから天吾は相手が口(くち)を開(ひら)くのを辛抱強(しんぼうづよ)く待った。「俺も読んだよ」と小松はしばらく時間を置いてから言った。天吾くんから電話をもらって、そのあとすぐに原稿を読んだ。いや、でも、おそろしく下手だね。<傍点>てにをはもなってないし、何が言いたいのか意味がよくわからない文章だってある。小説なんか書く前に、文章の書き方を基礎から勉強し直した方がいいよな」「でも最後まで読んでしまった。そうでしょう?」 小松は微笑んだ。普段は開(ひら)けることのない抽斗{ひきだし}の奥からひっぱり出してきたような微笑みだった。「そうだな。たしかにおっしゃるとおりだ。最後まで読んだよ。自分でも驚いたことに。新人賞の応募作を俺が最後まで読み通すなんて、まずないことだ。おまけに部分的に読み返しまでした。こうなるともう惑星直列(わくせいちょくれつ)みたいなもんだ。そいつは認めよう」「それは<傍点>何かがあるってことなんです。違いますか?」 小松は灰皿(はいざら)に煙草を置き、右手の中指(なかゆび)で鼻のわきをこすった(擦る)。しかし天吾の問いかけに対しては返事をしなかった。 天吾は言った。「この子はまだ十七歳、高校生です。小説を読んだり、書いたりする訓練ができてないだけです。今回の作品が新人賞をとるっていうのは、そりゃたしかにむずかしいかもしれません。でも最終選考に残す価値はありますよ。小松さんの一存(いちぞん)でそれくらいはできるでしょう。そうすればきっと次につながります」「ふうん」と小松はもう一度うなって(唸る)、退屈そうにあくびをした(打哈欠)。そしてグラスの水を一口飲んだ。「なあ、天吾くん、よく考えろよ。こんな荒っぽいものを最終選考に残してみろ。選考委員の先生方はひっくり返っちゃうぜ。怒り出すかもしれない。だいいち最後まで読みもしないよ。選考委員は四人とも現役の作家だ。みんな仕事が忙しい。最初の二ページをぱらぱら読んだだけであっさり(简单的样子)放(ほう)り出(だ)しちまうさ。こんなもの小学生の作文並みじゃないかってさ。磨(みが)けば光(ひか)るものがここにはあります、なんて俺が揉(も)み手(で)をしながら熱弁(ねつべん)を振(ふ)るったところで、誰が耳を傾(かたむ)ける?俺の一存なんてものがたとえ力を持つにしても、そいつはもっと見込み(前景)のあるもののためにとっておきたいね」「ということは、あっさりと落としてしまうということですか?」「とは言ってない」、小松は鼻のわきをこすりながら言った。「俺はこの作品については、ちょっとした別のアイデアを持っているんだ」「ちょっとした別のアイデア」と天吾は言った。そこには不吉(ふきつ)な響(ひび)きが微(かす)かに聞き取れた。「次の作品に期待しろと天吾くんは言う」と小松は言った。「俺だってもちろん期待はしたいさ。時間をかけて若い作家を大事に育てるのは、編集者としての大きな喜びだ。澄(す)んだ夜空(よぞら)を見渡(みわた)して、誰よりも先に新しい星を見つけるのは胸躍(むねおど)るものだ。ただ正直に言ってね、この子に次があるとは考えにくい。俺もふつつかながら(思慮や能力が足りず,行き届かないさま。未熟。)、この世界で二十年飯(めし)を食(く)ってきた。そのあいだにいろんな作家が出たり引(ひ)っ込(こ)んだりする(脱身)のを目にしてきた。だから次がある人間と、次があるとは思えない人間の区別くらいはつくようになった。それでね、俺に言わせてもらえれば、この子には次はないよ。気の毒だけど、次の次もない。次の次の次もない。だいいちこの文章は、時間をかけ研鑽{けんさん}を積(つ)んで上達するような代物(しろもの)じゃないよ。いくら待ったってどうにもなりゃしない。待ちぼうけのまんまだ。どうしてかっていうとね、良い文章を書こう、うまい文章を書けるようになりたいという<傍点>つもりが、本人に露(つゆ)ほどもないからさ。文章ってのは、生まれつき文才(ぶんさい)が具{そな}わっているか、あるいは死にものぐるいの努力をしてうまくなるか、どっちかしかないんだ。そしてこのふかえりっていう子は、そのどっちでもない。見ての通り天性(てんせい)の才能もないし、かといって努力するつもりもなさそうだ。どうしてかはわからん。でも文章というものに対する興味がそもそもないんだ。物語を語りたいという意志はたしかにある。それもかなり強い意志であるらしい。そいつは認める。それがナマのかたちで、こうして天吾くんを惹(ひ)きつけ(吸引)、俺に最後まで原稿を読ませる。考えようによっちゃたいしたもんだ。にもかかわらず小説家としての将来はない。南京虫のクソほどもない。君をがっかりさせるみたいだけど、ありてい(实话实说)に意見を言わせてもらえれば、そういうことだ」 天吾はそれについて考えてみた。小松の言い分にも一理あるように思えた。小松には何はともあれ編集者としての勘が具(そな)わっている。「でもチャンスを与えてやるのは悪いことじゃないでしょう」と天吾は言った。「水に放り込んで、浮かぶか沈むか見てみろ。そういうことか?」「簡単にいえば」「俺はこれまでにずいぶん無益(むえき)な殺生(せっしょう)をしてきた。人が溺(おぼ)れるのをこれ以上見たくはない」「じゃあ、僕の場合はどうなんですか?」「天吾くんは少なくとも努力をしている」と小松は言葉を選んで言った。「俺の見るかぎりでは手抜きがない(没有偷工)。文章を書くという作業(さぎょう)に対してきわめて謙虚(けんきょ)でもある。どうしてか? それは文章を書くことが好きだからだ。俺はそこも評価している。書くのが好きだというのは、作家を目指す人間にとっては何より大事な資質(ししつ)だよ」「でも、それだけでは足りない」「もちろん。それだけでは足りない。そこには『特別な何か』がなくてはならない。少なくとも、何かしら俺には読み切れないものが含まれていなくてはならない。俺はね、こと小説に関して言えば、自分に読み切れないものを何より評価するんだ。俺に読み切れるようなものには、とんと興味が持てない。当たり前だよな。きわめて単純なことだ」 天吾はしばらく黙っていた。それから口を開いた。「ふかえりの書いたものには、小松さんに読み切れないものは含まれていますか?」「ああ。あるよ、もちろん。この子は何か大事なものを持っている。どんなものだか知らんが、ちゃんと持ち合わせている。そいつはよくわかるんだ。君にもわかるし、俺にもわかる。それは風のない午後の焚(た)き火(び)の煙(けむり)みたいに、誰の目にも明らかに見て取れる。しかしね天吾くん、この子(こ)の抱(かか)えているものは、この子の手にはおそらく負(お)いきれないだろう」「水に放り込んでも浮かぶ見込みはない」「そのとおり」と小松は言った。「だから最終選考には残さない?」「そこだよ」と小松は言った。そして唇(くちびる)をゆがめ、テーブルの上で両手を合わせた。「そこで俺としては、言葉を慎重に選ばなくちゃならないことになる」 天吾はコーヒーカップを手に取り、中に残っているものを眺めた。そしてカップを元に戻した。小松はまだ何も言わない。天吾は.........more17minPlay