「天才的な技能を持った個人が、すごいものをつくる」というのが旧来のデザインの世界では多く、それに対して近年は「チーム開発」に光が当たることが多くなってきていた。事業会社のプロダクト開発の文脈ではプロダクトがサステナブルに育成されていくことが大事であり、それにはプロダクトマネージャーなどと連携が必要になるからである。しかし、最近さらにアップデートが起きた。数ある課題のなかで特に価値が高いモノを見つけてチームを一気に前進させる、という関わり(=天才的な突破力)で、チームを動かすことができるようなCDOなどの立場を担うデザイナーの登場である。この流れは実はある程度不変的なもので、サッカーの世界でも天才的なプレイヤーが重視された時代から、トータルサッカーの時代へ、そして今はチームを前提としながらも個人の突破力が大切にされている。これに対して、「研究者のあり方にも重なる部分がある」と安斎。安斎の師匠である山内祐平先生は、プレイヤーとしての腕力もすごいが、それだけではなく、マネージャーとして、チーム力や突破力で攻めていく先生でもある。山内先生は「どういう研究テーマであるとこれからの社会に必要か/予算がおりるか」という嗅覚に非常に優れた人で、予算をドンと取ってきて、そして研究者を束ねて研究を行い、大きなテーマの潮流を作ることを得意としている。「自分の手で殴りたい」という欲求と「チームで突破する」というやり方のバランスをうまく取っていくことが大切である。