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FAQs about オーディオドラマ「五の線3」:How many episodes does オーディオドラマ「五の線3」 have?The podcast currently has 262 episodes available.
September 02, 2022145 第134話このブラウザでは再生できません。陸上自衛隊兼六駐屯地内の一室で三好は男と向かい合って座っていた。「そうです。我々はいざというときの即応体制を整えるためにいます。水際対策はあくまでもそちらの仕事。我々の存在は保険と考えてください。」「と言うことは、自衛隊としてはその危機が目前にまで迫っているとの認識なんですか。」「何度も言うように我々が動かないに越したことはない。そちらの仕事の内で完結するのが国益としては良とされることではないでしょうか。」「確かに。」「ただ最悪の場合、我々は動きます。そのために準備をする。それだけです。」二人の前に金沢の住宅地図が広げられている。蛍光ペンで印が付けられていた。「この6拠点にロシア系の人間が集中的に住み込んでいる。で良いですね。」「はい。」「火器類を運び込んだ形跡などは。」「そこまで把握できていません。」「5月1日のテロ計画との関連性は?」「それもわかりません。」「警察として踏み込む予定は。」「今のところそれはありません。」「なぜ。」「特定の人種を狙い撃ちにした強制捜査、すなわち人権弾圧とされかねない。」「人権弾圧との批判を恐れて、自国民を危険にさらすのですか。」「…。」「政治があなた方にそう言ったのですか。」「いいえ。」「じゃあなぜそんなことを。」「人権派の活動家が勢いづきます。」小寺は腕を組む。「うーん…よくわかりません。たかが活動家じゃないですか。」「たかが活動家?」「はい。ただ煽り散らかすだけしか能が無い連中。直接的な脅威はありません。」「なるほど自衛隊は奴らをそう見てらっしゃると言うことですか。」「公安特課は違う見方をしていると?」小寺の目を見た三好はふうっと息を吐いて続ける。「ご承知の通り我々公安特課に対する世論の風当たりは強い。現下のこの状況でそうような強硬手段に出ると、それをネタに人権派が勢いづきます。戦前特高警察の復活だ。とうとう本性を現したと。」勘の良い小寺はこの三好の言を受け、何かに気づいたような表情を見せた。「なるほど。立憲自由クラブのような反米右翼思想の連中には役立たずと罵られ、人権派の連中にも攻撃される。左右両方から袋だたきですか。」「そのとおりです。」「短期的にはたいした影響はないが、中長期的に世論に悪影響をもたらしますね。それは。」「国民の信頼があって成り立つのが治安機関。それが我々の行動によって国民を分断するきっかけをつくる。そうなったら目も当てられません。」「かつての自衛隊もそれに似た存在でしたよ。表に出たら戦争をする気だ、軍靴の足音が聞こえると騒がれ、表に出なければ税金泥棒、タダ飯くらいの役立たず。」「それがここ数年でその自衛隊を取り巻く環境はずいぶんと変わったというわけです。」「それはお宅ら警察もそうでしょう。」「ご尤も。だからこの場を設けることができてる。」二人はにやりと笑う。「反米保守や革新派の活動家の動きについては、公安特課のお仕事です。そのハンドリングはお任せします。そちらはそちらで押さえ込みに専念してください。」「はい。」「我々としても独自のルートで得られた情報の提供を惜しみません。」「ありがとうございます。」「さっそくですが情報があります。」小寺は一枚の写真を三好に見せる。「三好さん。あなたこの男をご存じですね。」写真を手に取ってそれを見る。ずいぶんと頭を禿散らかした不潔感さえ感じさせる風貌の男ではないか。「失礼、あなたがご存じの方はこちらの方でしょうか。」こう言ってもう一枚の写真を手渡された三好は思わず声を出した。「え?矢高?」「はい矢高慎吾。」二枚の写真を見比べる。一方はスポーツ刈りの精悍な出で立ち。もう一方は見るも無惨な禿げ散らかしようで不潔感すら感じさせる風貌。「対照的な印象のこの二枚の写真。同一人物です。」「え!?」「見事な変貌っぷりです。」「え?どうして…。」「作戦に関わることなので詳しくは話せません。私があなたにこのタイミングでこの写真をご覧に入れたには理由がございまして。」「なんでしょう。」「矢高慎吾。こいつだけは公安特課はノータッチでお願いします。」小寺の目つきが変わった。「現在、県警の岡田公安特課課長の協力者として活動する三好さん、そして同じく岡田課長の部下である富樫さん。おふたりはこの矢高と面識があり、かつて能登署勤務時にツヴァイスタンについての監視行動を水面下で行っていた仲でしたね。」三好は何も言えない。この男どこまで調べているのだ。「あなたや富樫さんがこの矢高と偶然接触するようなことが発生したとしましょう。その時は絶対にこいつを追わないでください。」「なぜ。」「我々の作戦行動の妨げになります。」三好は口をつぐんだ。「警察と自衛隊。この二つの組織で決定的に違う点を三好さんはご存じでしょうか。」「なんでしょう。」「6年前まではただ火力の強い警察的な存在でした。我々は。ですが今の我々は違う。」「改正自衛隊法ですか。」「はい。ちまたでは自衛軍創設と反米右翼の連中は叫んでいますが、名称なんかどうでもいい。実質的運用の部分で我々はすでに軍と同等の存在です。」「ここでその話を持ち出すと言うことは、我々公安特課の存在が作戦遂行上邪魔であると判断された際は、実力で排除される可能性もあると。」「はい。そのときの作戦判断によりますが。」「しかしそんな強硬手段は許されるでしょうか。」「許されるかどうかは改正自衛隊法によって裁かれます。我々は第一義的にこの改正自衛隊法の下にありますので。」「実質的な軍法会議ってことですね。」「はい。よくご存じで。」三好はため息をつく。「自衛隊と警察の法的な関係性は未だ整備がされていない点が多々あります。あまりにも強引な運用はせっかく積み上げた自衛隊の評判を落としかねませんよ。」小寺はにこりと笑った。「おっしゃるとおりです。なのでここは自衛隊と警察でしっかりと役割の線引きをしておいた方が良いと思うのです。」「そうですね。」「とにかく矢高慎吾。こいつは私らの管轄とします。三好さん。あなたも富樫さんも公私に関わらず奴と接点を持たないでください。」「そのようにします。」「またあなたら以外の公安特課の人間が奴と接触をした。そのような事があれば、すぐに私に報告ください。」「いや待って。自衛隊は矢高をマークしているのでは?」「24時間監視しています。ですが奴の携帯での連絡だけは傍受できずにいます。」「携帯の傍受…。」「はい。」自衛隊情報部の実力は侮れないと耳にしていたが、ここまで徹底しているとは正直考えてもいなかった。すでに作戦行動は始まっているのか。三好の背中が寒くなった。並べてあった矢高の写真をしまった小寺はふうっと息を吐いた。「もしもその6つの拠点全てに既に火器が大量に運ばれていたとしたら…。」「われわれ警察では対応不能です。」「踏み込んでも返り討ちに遭ってしまう。ですか。」「はい。拠点がひとつふたつならSAT投入に躊躇いはありません。ですが6拠点となると我々には無理です。」小寺は頷く。「自衛隊には対テロ部隊が存在すると聞きます。」小寺ため息ついて「そのような名称の部隊は自衛隊に存在しません。」「...。」「ですが我々の力をもってすれば、脅威を排除できるものと判断しております。」「心強い限りです。」「この日のために死に物狂いで訓練をしてきましたから。」6年前の鍋島事件や朝倉事件時にはこうはいかなかった。三好も小寺も隔世の感を禁じずにはいられなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...more14minPlay
August 19, 2022144.2 第133話【後編】このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「申し訳ございません…。」岡田を前に富樫は目を合わせることができないでいた。「んなこともある。」岡田は彼の肩を叩いた。「相馬さん管理の下、光定を泳がし関係者の尻尾を出させる策、完全に裏目に出ました。」「…。」「本当に申し訳ございません。」「もういいってマサさん。」県警本部内にある公安特課の指揮所。今のここには富樫と岡田の二人しか居なかった。「当の相馬は。」「気になることがあるとかで、石大病院から離脱しました。」「そうか。」「しかし…なんで…。」「んなもん決まっとるでしょう。やっぱり居るんですよモグラ。」「マルトクにモグラ。」「公安特課厳重監視の下、光定の部屋に忍びこんで消音化された銃で、腹と頭に二発撃ち込んで退散。その行動は目撃者は居らず、院内のカメラにもその様子は映り込んでない。外部の犯行なんてありえんだろう。」「はい。」「問題はどいつがモグラかってことや。」富樫は黙った。岡田は当初から警察内部のモグラの存在に気を遣っていた。富樫による椎名監視の様子はケントクないでしか共有されないようになっている。すべての情報は岡田で止まり、必要があれば彼から直接特高に渡す仕組みだ。しかしそれがなぜか、岡田をすっ飛ばして特高に筒抜けになっていた。「北署マルトクよりケントク。」指揮所に所轄からの無線が入ったため、それに富樫が応える。「こちらケントク。」「郊外のショッピングモール駐車場で、PMの遺体発見との報。」「なに?」「PMの名前は佐々木統義。本部捜査一課警部。」「佐々木!?」「はい。ショッピングモールに駐車中に車の外からこめかみに一発。即死と思われる。」「なん…やと…。」「天宮殺しの現場に千種が愛人であるとして侵入。現場の書斎で捜一の警部が対応。お引き取りいただいた…。その後、古田と接触した千種は車に轢かれて死亡…だったよな。」「はい。そういう奇妙なことがありました。」「その千種の対応をした警部ってどんなやつだ。」「佐々木統義(のりよし)。古株デカです。自分もかつて何度か絡んだことあります。いわゆる昔気質な奴です。」113「その佐々木、この天宮の奥方の件も勿論、臨場してるんだろうな。」「でしょうね。」「にしても千種のときのこいつの対応が気になるんだよなぁ…。」「関係者以外立ち入り禁止。なのに千種をほいほい現場に入り込ませ、そこで話し込む。あり得ませんからね。」「やっかいごとを引き受けたくない人間が、だ。」113「佐々木統義…。」「岡田課長はご存じで。」「…まぁ…。」「…どんな印象でしたか。」「印象?」「はい。佐々木警部にどんな印象をお持ちでしたか。」岡田はため息をつき何も無い壁を見つめる。「厄介なヤマにはなぜか居らん不思議な存在。」「ほう。」「何かの力が働いとるんかと思うぐらい、あいつにはややっこしいヤマは回ってこん。」「結果、目立った成績を上げることも無い。」「うん。」「その分失点もないので、いまのポジションをキープしとる。」「俺の正反対。正直うらやましいとさえ思っとったよ。」「いままでややっこしいヤマが回ってこなかった佐々木が、なぜか今回の天宮殺害に臨場した。」「そうなのか?」「はい。そこでいつものように無難に処理しとりゃ、こっちにも奴の情報は入ってこんかった。」「というと?」「そいつがあろうことか千種の対応をした。」「佐々木がか?」富樫はうなずく。「厄介ごとはとにかくスルーする性分の奴がか?」「関係者以外立ち入り禁止の現場。そこに取り乱した千種が現れ、まんまと現場に入り込まれた。部屋の中で説得を試み、なんとかお引き取りいただいたようだったと、捜一の捜査員からの私にタレコミがありました。」「臭いな。」「はい。」「天宮殺しの現場に侵入した千種は死に、奴の相手をしとった佐々木も死んだ…。」「はい。」岡田は頭を抱えた。「手に負えん。」「課長…。」「もう俺らの手に負えんぞ…。」「課長どうしたんですか。ここで…。」「正直もう訳がわからん。俺らを取り巻く情報が多すぎる。佐々木死亡、光定死亡、天宮死亡、曽我死亡、全国各地で起こるテロまがいの事件、犀川のテロデマ事件、妙な動画、鍋島能力、古田さんの認知、椎名と特高のつながり、モグラ、不審船、んで5月1日の金曜にはテロの予定。その日を目前に妙なロシア系の人間が大挙して金沢駅周辺に住み着く。俺らに残された時間は…。」岡田は時計を見る。いまは4月29日水曜、18時を回ったところだ。「明日の午前中には何らかの判断を百目鬼理事官に仰がんといかんし…。」「あと18時間でしょうか。」「あー情報が渋滞しとる…。」「課長、こんな時こそひとつひとつです。」「ん?」「自分、情報の交差点に居ります。始終いまの課長の状態です。」「あ…。」「光定でやらかしたワシがこう言うのも何なんですが、起こってしまったことは悔いても仕方が無い。ワシらはあくまでも犯罪を未然に防ぐのが指名。いまのところわれわれの最優先事項は5月1日の金曜のテロ事件です。」「そうや。」「当面はそれに集中しましょう。佐々木の件はきっと別の誰かが対応してくれます。」「…。」「課長?」「あ…あぁそうやな…。」釈然としない態度の岡田を見て富樫は改まった。「はっきり言います課長。もう無理です。もうケントクはキャパ超えています。」「…。」「事実、課長の処理能力が追いついとりません。」岡田は何も言えない。「DDOS攻撃みたいなもんです。ここまで来たらもう我々を意図的に混乱に陥れとるとしか思えません。一連の事件とそれに伴う情報の渋滞は。」「確かに。」「敵のことががよくわからんがに、どうやって戦えっいうんです?」「無理だな。」「だから戦えそうなところだけ戦うんです。光定は5月1日にテロを起こす予定であると我々に知らせてくれました。とりあえずその予定者であると思われるビショップとナイト。こいつらを厳重監視しましょう。」「そうだな。」「で同時に他のキング、ルーク、ポーンの手がかりを探すのです。」「併せてロシア系の大量人員に対する対応やな。」「はい。それに集中しましょう。」「外国人部隊は三好さんが動いてくれとる。」「三好ですか…。大丈夫ですか、あいつひとりで。」「心配ない。心強い人間がこちらに接触してきた。」「心強い人間?」「ああ。」「誰ですか?」「それは言えない。」「中央署からケントク。」「こちらケントク。」「朝戸に動きあり。」岡田は富樫にうなずく。「どういった動きか。」「古田顧問捜査官と接触。ふたりは同じ宿に滞在している模様。」「え…。」二人は絶句した。「こちらケントク。いつからだ。」「今日の昼頃からです。」「待て、朝戸は昨日の光定の言から居場所を特定しとる。べったり誰かが張りついとるんじゃないんか?」「張り付いています。張り付いていますが昼まで報告が入りませんでした。」「なんじゃそりゃ。」「申し訳ございません。」「二人の現在の状況はどうか。」「朝戸は宿に。古田捜査官はひとり宿の近くを歩いている様子。」「人員を増やせ。朝戸だけでなく古田捜査官も監視しろ。」「了解。」無線を切った富樫は思わず手で顔を覆った。「なんでここで古田さんが…。」...more13minPlay
August 19, 2022144.1 第133話【前編】このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「事故じゃなくて殺された。」「事件として明るみになっていない…。」「証拠はあるし、誰が犯人なのかも特定済み。」「法の裁きでは時間がかかる。」「だから別の方法で…。」宿に戻っていた古田は夜の帳が落ちた外の喫煙所で、タバコを吸いながらひとりごとを呟いていた。タバコを吸う音「で、一色は事件の本質である本多と仁熊会、県警の闇に一度にメスを入れ、それらに社会的制裁を与えようとした…。」確固たる考えと実績。この二が一色という男の基盤をなしており、なおかつ彼には警察幹部という立場があった。だから一見夢想とも思える世直し劇の実行にも一定の信憑性を持って受け入れられることが出来る。だがその一色ですら村上の反撃に遭い、その計画は頓挫した。「いやいや…なんで朝戸を一色なぞらえとるんや、ワシ。」タバコの火を消した彼はポケットに手を突っ込んで、歩き出した。「あいつはただのテロリストや。」古田は振り返って宿を仰ぎ見る。「ははははは!」「なんかあるじゃないですか。ウォシュレットすると、その刺激でどれだけでも出てくるみたいな。」「そんな話、初対面の人間にします!?」127「ワシのゲス話にも付き合える、心の広い中年男性にしか見えんがやけどなぁ…。」再び古田は歩き出した。仮に朝戸のテロ事件も一色と同じような世直し的意味合いを持って実行されたとしよう。しかしそれでどう世直しが図られたというのか。妹をひき殺したのはあくまでも最上の息子だ。だがこの息子本人には制裁が科せられていない。もみ消そうとした最上本人は殺害という方法をもって処罰されたが、殺害の隠蔽をしたのは最上の力によるものだけではなく、警察の組織体質からくるものでもある。この警察組織の改革のきっかけも作らず世直しの意味合いは見いだせない。また最上を殺害するのになぜノビチョクという入手困難な化学兵器をわざわざ使用したのか。入手困難ゆえ時間がかかるが調べればそのルートは特定できる可能性は高く足がつきやすい。またノビチョクの使用には一定の注意が必要であり、その保管、運搬にも気を遣わなければならず、素人である朝戸がそこに介在する合理性を見いだせない。「朝戸が自分の意思でノビチョクを使ったと考えるのは、ちょっと無理がある。…となると誰かが朝戸にノビチョクを使えと入れ知恵したか…。」朝戸の背後に何者かがいる。しかしその存在はなぜノビチョクを朝戸に斡旋したのか。どうしてその存在はノビチョクを手に入れることが出来たのか。「ノビチョクという化学兵器をあの場所、あのタイミングで使用させること自体に意味があった?」このときリュックを担いだロシア系の男が現れた。午前にもマッチョなロシア系の男と遭遇したが今度の彼はどちらかというと華奢な体つきだ。一瞬目が合ったが、今度の彼は古田に愛想しない。むしろ気配を消しているようにも思える。彼は携帯をいじりながら、集合住宅の民泊の中に吸い込まれていった。「何なんやあいつら…。」ふと古田は足を止めた。「あ…そうや…。」「ツヴァイスタンの仕業じゃない…と。」「はい。」「どういうことや。」「イギリスの事件にツヴァイスタンのエージェントが関与していた実績だけです。今回もツヴァイスタンの仕業じゃないかって騒いでいる人たちの根拠っていうのは。単なる憶測ですそれは。根拠にならない。」「そんなもんや、世論っちゅうモンは。」「都内の病院でテロ。被害者も多数。犯人に憎しみしか抱きません我が国の国民は。そんな結果を得てツヴァイスタンになんの得があるっていうんです。」「得…。」「ええ。テロというものは政治的目的を完遂するための手段に過ぎない。あの国と我が国は最近は友好ムードが流れています。それもあの国が我が国の安全保障体制の強化を脅威に感じるようになり、反日よりも親日のほうが得るものが多そうだと判断し始めたからです。」「ほうや。」「せっかくその基礎工事が出来つつあるというのに、ここでそれを壊す利点があの国にどうしてあるのか。ちょっと考えればツヴァイスタン犯行説なんかとるに足らないものだとすぐわかるはず。」「そんな正常な判断が我が国の国民ができんくなっとる。それを顕にしたのが今回の事件の本質ってか?」「はい。」「なるほど。」「みんな肝心のことを忘れています。」「なんや。」「先日の犀川のテロデマ事件の犯行予告です。」「ウ・ダバか。」「はい。」「ウ・ダバはあの声明で現在のツヴァイスタンを弱腰と断罪しています。なぜかと言えばツヴァイスタンが最近、我が国と接近しているからです。仮に今回のテロ事件がツヴァイスタンによるものならば、ウ・ダバはあの国と再びかつての共闘関係になり、今回の行動を称賛することでしょう。ですがウ・ダバはなんの反応も示していません。もちろんツヴァイスタンによる犯行声明がまだであるということも理由のひとつでしょうが、おそらく自身の関係者の犯行であるためだんまりを決め込んでいるんでしょう。」「なぜ黙る。」「ノビチョクという神経剤が使用されたということで、ツヴァイスタンに疑いの目が向けられているからです。ツヴァイスタンに監視の目が行き、仮にあそこに何らかの精細が課せられるとなれば、ウ・ダバとしてはざまぁみろってところでしょう。だから現在のところ様子見なんです。」22古田は自分の頭をぴしゃりとたたいた。「あー…やっぱワシ頭どうかしとる…。相馬とこんなやりとりしとったんやった…。」「レフツキー・ヤドルチェンコ。」「ん?」「ウ・ダバの協力者と思われるこの男が密かに東京に潜伏しています。これがウ・ダバ犯行の可能性のひとつです。」22「ウ・ダバ…。まさかこいつら…。」気づくと古田の足取りが速くなっていた。一刻も早くこの場から距離をとりたい。その気持ちが彼をそうさせているのだろうか。「朝戸慶太自身がウ・ダバである可能性も捨て切れん…。」なんだこの感覚は。ありとあらゆる場所から敵意を感じる。いま自分が歩く住宅街、いや町全体が圧倒的な威圧感を醸し出している。絶体絶命。今の古田には、恐怖という感情しか沸いてこない。気づくと古田は駆け足になっていた。「この朝戸、一昨日に東京からこの金沢にやってきた。宿泊先は東山の宿だ。」「…あんた、どこのモンや。」「…どこの人間だろうが、お前には有益な情報だろう。行動は起こしておいたほうがいいと思うぞ。」121「あいつ…あいつもまさか…こいつら同様、ウ・ダバやったんか…。」心拍は上昇、息が上がり妙な汗が首筋に流れる。「まて…ワシ、どこに向かっとる…。」彼はふと足を止めた。と同時に体中から汗が噴き出した。そこに4月の夕風が古田の体にそよそよと吹き付ける。清涼を纏うことができた彼は辛うじて平静を取り戻すことが出来た。「ここから逃げてワシはどこに居くっちゅうんや…。」振り向くと向こう側に自分と朝戸が宿泊する民泊、ロシア系と思われる人間が数多く止まるアパート民泊がある。「時間の使い方は古田さんの勝手ですが、それにこちらを巻き込むようなことはお控えください。」117「ワシは公安特課や…。あいつらがもしもウ・ダバとかならワシが監視せんでどうするんや…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...more12minPlay
August 05, 2022143 第132話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「…わかった。」佐々木死亡の報が陶にもたらされたのは4月29日の夜になった頃だった。「注意を怠るな。」電話を切ると陶は天を仰いだ。「佐々木統義警部補。こいつは俺の石川の分身だ。」「本部長の…。」「ああ石川における…な。こいつを貴様に紹介する。俺の分身だと思って気軽に話してくれ。きっと貴様の力になるはずだ。」118「キャプテンの分身が死んだ…。」佐々木は陶の石川における工作のハブ役を担っていた。捜査一課である彼は同部署に数名の協力者をつくり、彼らをたくみにコントロールし、チェス組と言われる仁川、光定、空閑、朝戸、紀伊のハンドリングをしていた。そしてかれらが暴走をしないようその監視を行っていた。明後日、5月1日金曜。この日の夕刻に朝戸が金沢駅でヤドルチェンコらとテロを起こす手はずとなっている。あと二日。あと二日で重大な局面を迎えるというときの主力戦力の喪失。陶の喪失感は想像を絶するものだった。「一旦自由の身になってアルミヤプラボスディアの動きに目を光らせたいのです。5月1日。ここで石川の部隊が金沢駅で何らかのテロを起こします。やつらはそれで今手一杯です。おそらくマルトクも何かしらの兆候を見つけてそれを阻止するよう動いているでしょう。石川部隊、マルトクこの両者が睨み合う中、奴らだけノーマークとなるのはまずいです。」116「アルミヤプラボスディア…。」受話器を手にした陶は電話をかけ始めた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー携帯バイブ音助手席に置かれた携帯電話が震えた。非通知の表示がされている。ーお構いなしの直電。相当焦ってると見た。イヤホンを装着した椎名はそれをそれを膝上に起き、通話ボタンを押した。--・-- -・--・ ・・-・- ・-- --・・ ・・--・ ・・・ -・・ ・・ ---・- ・-・-- ・・ --・-- -・-・ ・・-・ ・・- ・- ・---・ --「アルミヤプラボスディアニ チュウイセヨ」椎名はマイク部分を指でなぞる。「ナニガアッタ」「トウホウノ エス サツガイサレタ」「イツノコトダ」「サンンジカンマエ」椎名は時計を見る。時刻は18時半。高橋勇介を名乗る電話を会社で受けたのは昼頃だ。「タカハシユウスケカラ デンワアッタ」「コロサレタノハ ソイツダ」「イシカワノ ハブカ?」「ソウダ」「タイミングガ ワルイ」「ゲンザイ ゲンバハ コンラン トウホウカラノシジハダセナイ」「リョウカイ コチラノウゴキハ マカセテクレ」「リョウカイ イチニンスル クレグレモ チュウイサレタシ」電話を切った椎名はそれを再び助手席に置く。ー実の兄が殺されてもまったく感情を出さない。ーさすがプロ。ーいや、それとも…。ーま、どこかで確かめてみよう。ーそれまではあんたの言うとおり一任されますよ。高橋さん。椎名の車は郊外のネットカフェに滑り込んだ。車のドア音歩く音自動ドア「いっらしゃいませ。」「個室開いてますか。」小声で「なんで来たんですか。それらしい人間がマークしてますよ、この店。」「心配ない。いつもの部屋空いてる?」端末を操作し部屋の空き状況を確認した店員はこくりと頷く。「迷惑はかけないよ。」ドア閉める音個室に入った椎名は荷物を置き、部屋の隅にあるコンセント口に手を伸ばす。カバー部分を指でつまみ、上下左右に揺らすとそれは簡単に外れた。外れた場所は空洞であり、隣の部屋と繋がっていた。隣の部屋から携帯電話が差し出された。椎名はそれを受け取り、自分の持っていたものを向こう側に渡す。続いて向こう側からメモ用紙が送られてきた。紙を広げる音「всё чистоオールクリア…。」「その部屋の中は調べ済みです。盗聴器も何もありません。安心して話せます。」となり部屋から声が聞こえた。「そうか。」「矢高さんが公安特課の攪乱をしているとのベネシュ隊長からの伝言です。」「三時間前に陶の石川におけるハブ役を殺害したそうだな。」「はい。」「残念ながらそのハブ役は公安特課の人間ではない。捜査一課だ。」「その件は矢高さんの本来の仕事じゃありません。」「行きずりの犯行だとでも?」「矢高さんは矢高さんの考えが合ってのことでしょう。」「では彼は具体的に何を。」「公安特課の古参に古田という人物がいます。70過ぎの老人ともいえるベテランです。この人物とチェス組の朝戸を引き合わせるよう誘導しました。」「それがなぜ公安特課の攪乱になると言うんだ。朝戸はテロの実行部隊。テロが未然に防がれる恐れがあるではないか。」「古田は暴走しています。」「なに?」「例のアレの影響を受け、公安特課の捜査から外されました。」「例のアレか…。」「はい。石川大学病院のルートのほうです。」「光定の人体実験か。」「古田は捜査から外されたことに不服だそうで、何かしらの功を立てて周囲を見返そうと必死です。」「功を焦っているか…。」「はい。そこにテロ事件の実行予定の人物をぶつけ、その古田の暴走を煽り混乱を巻き起こす算段のようです。」「最終的に潰し合えばそれでよいということか。」「はい。」「だがそれはリスクが高い。もしも古田が暴走しなかったらどうする。テロは実行されず計画はぱあになるぞ。」「その煽りに矢高さんは傾注する。そのための佐々木殺害だとも聞いています。」「佐々木…。佐々木というのかその三時間前に殺された男は。」「はい。この佐々木がチョロチョロ動いているのが目障りだったようです。」「深謀遠慮の仁川さんにしては随分と短絡的に見えますが。」「いやいやいや、高橋さんのことを思ってのことですよ。」「勇介にひとことはありますか。」「心配いりません。お任せください。」124「まぁ俺も目障りだったんだがね。」「ベネシュ隊長からまだあります。」「なんだ。」「自衛隊の情報部隊に注意されたし。」「自衛隊?」「はい。オフラーナ系の公安特課の情報は矢高さんが目を光らせてますので、その動きは察知できます。」「うん。」「オフラーナ系のチェス組によるテロの決行は明後日の18時。光定公信が公安特課に転んだと思われる状況から、ある程度は奴らはそれをつかんでいると判断して良いでしょう。」「だな。」「ただその中で公安特課の連中がわれわれトゥマンをマークしている節が全く見えないんです。」「というと。」「あえて泳がされているのではないかと思えるほど、我々に触れる捜査をしている形跡が見えない。」「なるほど。公安特課と自衛隊の情報部で役割を分担していると。」「はい。我々トゥマンは自衛隊情報部の監視対象になっている可能性があります。」「だとしたら日本の情報機関の動きというのも、なかなか優秀であるな。」「はい。」「秘密警察には秘密警察。軍には軍。やるじゃないか。」「したがって十分に注意をされたいとのベネシュ隊長からの伝言です。」「問題ない。任せてくれ。」「頼もしいお言葉です。ベネシュ隊長は仁川少佐に全幅の信頼を寄せています。」「Заслуженный. 光栄だ。」「あとこれを。」壁の向こう側から洋型の封筒がねじ込まれた。「プリマコフ中佐からです。」仁川はそれ開き、目を落とした。同志少佐。君のように深く謀を巡らせることができる人材が、日本という東方の国には数多く存在する。そのことを君から聞かされたとき、私は絶望と共に光明を見いだした。なぜなら君が我が共和国人民であるからだ。君がこの遠大なる作戦を私に提案してきたのはいつの頃だっただろうか。私は君の時空を超越した作戦内容を聞き、心躍らせずにはいられなかった。作戦はすぐに私から参謀本部へご提案申し上げた。共和国人民としての模範的価値観に基づいた君の深謀に舌を巻く彼らの様子を見たとき、私は同志少佐を部下に持ったことを誇らしく思った。あれから6年。同志少佐の作戦は実行に移され、今まさにその成功を見ようとしている。同志少佐よ。作戦が成功の暁には、日本で共に祝杯を挙げよう。そして堂々たる威厳を持って凱旋しよう。英雄のひとりとして君の名前はベルゼグラードの戦勝碑に刻まれることだろう。同志少佐。今こそ撃鉄を起こせ。反共主義者に鉄槌を下すのだ。我が祖国に栄光あれ。「これは人目に触れると不味い。」こう言って仁川はそれを壁の向こうに返した。「焼却処分を命ず。」「はい。」「中佐には仁川、命に代えてもこの作戦成功させますとお伝えしてくれ。」「かしこまりました。」「ベネシュ隊長とは今後はこの携帯を使えば良いのだな。」仁川は先ほど渡された携帯を触る。「はい。メッセージアプリも音声通話も他には漏れない仕様となっています。」「これで矢高とは連絡は取れないのか。」「矢高さんですか?」「ああ。隊長に確認してくれ。」「はい。」ここらへんでおしまいだと言い、仁川はコンセント口の蓋を閉めようとした。「Слава Отечеству.祖国に栄光あれ。」「…。」「少佐?」「Слава Отечеству.祖国に栄光あれ。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more16minPlay
July 22, 2022142 第131話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「はい。夜の警邏中に発見しました。」朝の港町は騒然としていた。事情聴取を受けるのはこの港町の駐在、矢高慎吾。「発見時からのこの状態でしたか。」「はい。」港の浜に立つ彼の前には横たわる2体の遺体があった。「過去にこの浜から姿を消した特定失踪者がいますので、毎晩巡回を怠らないようにしとりました。」「昨日の晩は特に変わったことはありませんでしたか?これらの遺体を発見するまでに。」矢高はしばらく考える。「いえ。特には。」「そうですか…。」「あ。」「なんです?」「いや、気のせいです。」「何でも良いです。気になったこと教えてください。」「言われてみれば、珍しいものを見たかもしれません。」「珍しいもの?」「はい。たばこ吸っとる人居ました。」ーえ…?「ほらあすこの民宿あるでしょう。」矢高は指さす。「ここらの人は夜は基本外に出ません。台風が来るとかでどうしても船の様子を見ないかん時くらいしか、夜に外出んがです。」「…。」「けど昨日の夜はあそこの宿泊客ですかね。そとでたばこ吸っとる人居ったんです。多分宿の主人にも止められたと思うんですが。」ーこいつ見とったんか…。「んにしても物騒ですね。ふたりとも殺られた形跡ありますから、どこかにホシが潜伏しとる可能性がありますね。」このときの矢高は聴取する佐々木から目をそらし、海の方を見つめた。ーお前だ。お前しか居らんやろ。矢高。ーにしてもひとりでふたりをこうもあっさりと返り討ちにあわせる…。ー相当の腕の持ち主なんか?「矢高巡査部長のおっしゃるとおりです。帳場を開いて対応する必要があります。」矢高への聴取をひととおり終えた佐々木は彼に背を向けた。その瞬間、彼は得も言われぬ感覚を背後に覚えた。姿は見えないが何か獣のようなものがこちらを見ている。ひとつではない。そこかしこに視線を感じる。佐々木の死線は前方を捉えているが、すべての感覚は背中にあった。ーなんや…この感覚は…。プレッシャーに耐えかねて佐々木は振り返る。矢高が付近の住民と何やら話し込んでいた。佐々木の様子に気がついた彼は敬礼をして、佐々木に敬意を払った。ー気のせいか…。帰路につこうと再び振り返る。すると昨日宿泊していた民宿の姿が目に入ってきた。主人がこちらの方を見てたばこを吸っている。昨日の自分を見ているようだ。宿の主人が煙を吐き出して、その吸い殻を地面に落とし足で踏みつける。すると民宿の影から2名の漁師風の男が現れた。「な…に…。」おもわず佐々木は動きを止めた。現れた漁師風の男らは佐々木の様子をよそに、駐在所側に駐車されている軽トラに乗り込んでその場から走り去っていった。気のせいか宿の主人がこちらに向かってほくそ笑んだように見えた。「まさか…この町は…。」佐々木はしばらくその場から動けなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「あのときに感じた恐怖ともいえる感覚を、俺はいま受けとるわけなんやが…。」目を開くと仁川征爾の写真がそこにある。「決して直接的な威嚇はせん。すべてが遠回し。わかる人間だけにはわかるように…。静かに林のように…。」「継承者がいるなら彼をして研究を続ければいい。だから転んだ光定は消した方が良い。」「えぇおっしゃるとおりです。」「深謀遠慮の仁川さんにしては随分と短絡的に見えますが。」「いやいやいや、高橋さんのことを思ってのことですよ。」「勇介にひとことはありますか。」「心配いりません。お任せください。」124「仁川が勇介の何を思って任せろ言うとるか正直わからん…。」「勇介はオフラーナの協力者。オフラーナは鍋島能力の実用化を目下のところ最優先事項としとる。仁川の発言、額面取りに受け取れば、鍋島能力の実用化の最短ルートは光定抹消であると判断したと言うことやが…。」「空閑は本当に鍋島能力を継承したんですか。」「ええ。」「証拠はありますか。」「いいえ。」「でも継承していると?」「はい。」「あなたなりのなんらかの根拠があっての判断ですか。」「あーそれですか、それはすいませんクリエイティブのことは理屈で説明できることばっかりじゃないんですよ。それに関しては感覚的なもんです。」「空閑の言っていることは確からしいと?」「うーんそうですねぇ。」124「あまりにも感覚に頼りすぎとるんやって…。大事な決定であるにもかかわらず…や。」「何をするにも慎重を期する仁川の発言とは思えんがや…。」「ここにきて雑なんやって…。」佐々木は髪をかき上げる。「その雑さが妙に怖い…なんか、奴の手の内で転がされとるような気がしてしょうがないんや…。」「矢高慎吾。」「矢高?」「はい。ご存じでしょうか。」「あ、いや…。」「能登署を辞め、以降行方知らずのこの矢高、先日の千種の事故死の時、ひょっこり現場に姿を現した。」「なんだそのもの言い。佐々木、おまえその矢高の知り合いなのか。」「はい。」「どういう関係だ。」「同じ穴のムジナですよ。」「同じ穴のムジナ…。」116「仁川…こいつ矢高と同じニオイがすれんて…っちゅうことは、こいつも同じ穴の…。」手にしていた仁川の写真を彼は懐にしまった。「…杞憂であってくれればそれでいいんやが。」そのときである。一発の銃弾が運転席側のガラスを貫通し、佐々木のこめかみを穿った。助手席にもたれかかった彼はピクリとも動かない。静寂な時間だけがそのまま流れていった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「よくやった。」車を運転していた矢高は電話を切り、そのままハンドルを握る。「さすがに少佐に直接コンタクトはマズい。佐々木警部。」「10年前から変わってない…どこか自分の力を過信してるきらいがある…。」「その点、古田の方がまだマシだ。」彼の運転する車は県警本部の前を通過した。「やはり一色という男が異常だった…だけか…。」矢高の車はかつて本多善幸事務所が入っていたビルの前で信号待ちとなった。「それとも政治が水面下で我々を牽制していた…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more13minPlay
July 08, 2022141 第130話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「第2小早川研究所?」「はい。」「…わかった。すぐに調べる。」「もうひとつ気になることが。」「なんや。」「物忘れ外来の予約、問い合わせが昨日から激増しとるみたいです。」「はぁ?」「石大病院だけじゃなく、県内の同種の外来窓口も同様。他県はわかりません。」「認知症が流行っとるってか?」「現状を見る限りまさにそういう状況です。」片倉は頭を抱えた。「どいや…認知症がうつるって聞いたことねぇぞ。」「似たものにクロイツフェルト・ヤコブ病ってものがあるらしいです。」「それ狂牛病やろ。」「はい。」「ってかあれは狂牛病の肉とか内臓食ったらうつるってやつや。んなそれっぽい肉が流通しとるなんて話は聞いとらん。」「光定はもとは脳神経の医師。石大病院の物忘れ外来の担当のひとりが光定。その貴重な戦力が現在欠けてしまったのも相まって、あの病院は混乱状態です。」ふと昨日の百目鬼とのやりとりが思い起こされた。「急に認知症のような症状が出た...ですか。」「あぁ疼痛を抑えるための催眠治療を受けた直後から。」「トシさんはその疼痛に?」「いや、アイツは高血圧と狭心症だ。」「じゃあ。」「片倉。石川大学病院だぞ。トシさんがかかってんのは。」「でもなんでトシさんに催眠治療なんか。」「だから言ってるだろうが。石川大学病院だって。」「あのぅ…理事官。自分、ちょっと頭の整理がつかんがです。」「天宮。」「天宮?」「天宮なんだよ。その難治性疼痛を抑える催眠療法を施したのが。」99「まさか …。」「どうしました?」「いや…いままでまさかまさかって言って、結局そうでしたって事ばっかや。」「片倉班長?」「そうだ。ちなみに天宮はツヴァイスタンのシンパだ。催眠と聞いて片倉、ピンとこないか。」「瞬間催眠。」「そう。」「え…まさか…。」「石川大学病院がその今川が言っていた外注先と考えられないこともない。」「もしもそれが本当にそうやったとしたら…。」「患者を適当に見繕って、瞬間催眠の人体実験を行っていた可能性がある。」「MKウルトラ異聞にある瞬間催眠。その人体実験ですか。」「ああ。」「その対象の一人が、その今川と面会した男の父親。」「そして古田登志夫。」99「人体実験の結果や。」「え?人体実験?」「まずい。んなもん俺らの手に負えん。マサさん、あんたはそれにはタッチすんな。相馬にもそう伝えてくれ。デリケートな案件や。上層部に指示を仰ぐ。」「はい。」富樫との電話を切った片倉の顔からは血の気が引いていた。「瞬間催眠の元請けが東一の第2小早川研究所…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「聞いたことがない。」「ですがあるはずです。」「存在しないものにガサ入れなんてできっこない。」「何言ってんですか。東一の事務方だった石大の病院部長がその名前を口にしてるんですよ。」「じゃあそれが存在する証拠は。」「だから…。」「ダメだ。」「もう何でも良いでしょう。とりあえず踏み込むんです。」「片倉っ!」「…。」「落ち着け。今そんなことやってみろ。それこそ思う壺だ。」「誰の。」「いろいろ。」「はぁー…。」「非常にデリケートなんだ。今回のヤマ、ステークホルダーが複雑に絡み合っている。」「…俺の段階でもそうなんですから、理事官のポジションはさらに面倒くさいことになってることは理解しています。ですが。」「ですが、なんだ。」「いま行動を起こさんととんでもないことになりそうな予感がするんです。」「デカの勘的なやつか。」「はい。」「でもそれはできない。」「ぐぬぅ…。」「軽挙妄動は慎め。いままでの仕込みがすべてパアになる。俺らマルトクだけならいい。だがさっきも言ったようにこのヤマは桁違いにでかい。」「…わかりました。私が軽率でした。申し訳ございません。」「分かってくれればいい。だが第2小早川研究所については別ルートで調べておく。いざと言うときに直ぐにガサ入れるようにな。」「ありがとうございます。」百目鬼は鼻の付け根の辺りをつまむ。疲れのためか目がかすんでいた。「で、どうしますか理事官。」「うん?あ、あぁ…認知症の流行か…。もしもその元が第2小早川研究所による人体実験の副産物だったとしたら…。」「光定公信は死亡。その病気を発症する源らしきものは今回で排除されたんで、被害の拡大は考えにくいかと。」「そうなんだが、その副作用に対する正しい対応法は闇の中のまま。やっかいだぞ。」「確かに。」「古田への正しい対応法も正直よくわからんからな。」「弱りましたね。」「あぁ弱った…。」「直らないんですよね、認知症。」「そうらしい。ただ進行は遅らせることはできる。現状は従来通りの認知症患者に対する対応をしてもらうしかないだろう。」「しかし予約が殺到しとる状況です。」「すぐに死ぬとかの話じゃ無いだろう。」「はい。そのような話は聞いていません。」「だったら申し訳ないがゆっくり順番ついて診察をお願いするしか無い。これが元で医療崩壊には至るなんてことはないだろう。」「ですが周りの人間が疲弊します。」「…。」「厚労省の協力を仰ぐことはできないでしょうか。」「…やってみる。」電話切る音ため息「なんてやっかいな病気なんだ…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー髪をかき上げる佐々木の目には仁川征爾の写真が映っていた。「仁川征爾。下間芳夫ら工作員によって拉致され、ツヴァイスタンで秘密警察要員として育成。主な任務は日本語教育、亡命・移民者の管理監督。その勤務態度は極めて優秀。自分の意思に反してのツヴァイスタン生活であったが、ツヴァイスタン労働党籍を得、生活基盤を確立。将来は安泰かと思えたが、命がけの亡命。何があった…。」仁川の写真をポケットにしまい、佐々木は車の座席を倒す。そして何の愛想も無い車の天井部分を見つめる。「我が国を混乱に陥れる工作要員として、オフラーナからの密命を帯びて奴はこの国に帰ってきたと勇介は言うが、本当にそうなんか?」佐々木はそっと目を閉じたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー10年前 夏金沢市内某喫茶店「元気そうだったよ。」「勇介ですか。」「うん?」「あ、いや…。」「あぁそうだった。今と昔、名前が違うんだったな。」「はい。」「なんて名前だったんだ。」「…高橋勇介です。」「ほう…。」「何の変哲も無い普通の名前です。」「いまは陶晴宗。山口あたりの武将みたいな名前だしな。」「立派な名前です。」「名に恥じない仕事ぶりだよ。」「そうですか。だったら良かった。」佐々木と向かい合って座る男は、紅茶に口をつけた。「あの…朝倉本部長。陶管理官が石川に来るなんてことは…。」ティーカップをゆっくりと置き、朝倉は息をつく。「現状では難しい。」「…そうですか。」「優秀な人間を石川に限って取っかえ引っかえとは流石にいかん。」「一色課長ですね。」「そうだ。赴任早々、ただ者では無い気配を醸し出している。奴は優秀だ。こういう人間にはここで実績を作って中央でさらに羽ばたいてもらわねばならん。」「ですが一色課長の鬼捜査には、現場から不満が。」「知ってる。だがそれはあくまでも組織内部だけの話。外向けには一切の苦情も受け付けていない。」「しかし目の光らせ方が半端じゃありません。この県警の中のことで知らぬ事は一つとしてないって具合です。」「…。」「本部長。私とあなたの間に建前は不要です。私はあなたの影です。」朝倉は佐々木をじっと見つめた。「こんなに監視の目が厳しい環境だからこそ、例の件を首尾良くやる。さすればその実績を持って貴様の弟の件、何とかできるかもな。」佐々木は唾を飲み込む。「上陸作戦ですね。」朝倉はうなずく。「今度の新月のときに富来の海岸から誘導する手はずになっとります。」「漏れは無いか。」「ありません。さすがの一色課長にも感づかれていません。ただ…。」「ただ何だ?」「引っかかることがありまして。」「なんだそれは。」「生安に矢高という男が居るんですが、ここ最近、夜な夜な海岸線に出没するんです。」「ほう。」「この間の上陸の際も、上陸ポイントから500メートル先の居酒屋で呑んどったのを確認しています。」「監視してるな。まさか一色の手下とか。」「いや、それはないでしょう。」「どうして言い切れる?」「そもそも接点がありません。奴は所轄署と交番を行ったり来たりしとる何の特徴も無い人間です。」「そういう特徴も何もない人間が本当のところ怖いんだ。」「杞憂です。矢高の周囲は調べ済みです。ただ。」「上陸監視をしている可能性は否定できない。か。」「はい。」「年齢は。」「40です。」「特徴が無いのが特徴…。」「はい。」「誰に指示されること無く、単独で監視してる感じか?」「はい。」朝倉は腕を組んだ。「邪魔だな。」「はい。」「消えてもらうか。」「よろしいですか?」「うん。」「ではこちらで手はずを整えます。」「こういうものは早めに対処しておくに限る。」「はい。」「これで抜かりないな?」「はい。」「ではよろしく。」「勇介の件。」「…。」「前向きにご検討くださいますようお願い申し上げます。」「もちろんじゃないか。」それから数日後の夜。佐々木は能登方面のとある小さな港町の民宿にあった。「あー酔った。ちょっと夜風に当たってくるよ。」「お客さん。あんまり外に出んほうがええよ。」「なんで?」」「人攫いが出る言う噂ある。」民宿の親父が佐々木と目を合わせないように言う。「人攫い?」「悪いことは言わん。出るにしても玄関先で涼む程度にしとき。」「わかったよ。」ー拉致事件は2000年を境に収まったはずやが、ここら辺の住民はそれを依然として警戒しとるってわけか…。外に出た佐々木はそこでたばこに火をつけた。たばこの音ー目の前は漆黒の闇。ー当たり前か…。目の前は海やもんな…。ーポツンポツンとある住宅の明かりが、かろうじてあたりをなんとなく照らすって具合。ー未だに人攫いを警戒してもおかしくない。ー逆を言えば、それだけ人気が無いってことだ。ーで…。佐々木の目の先には暗闇の中に赤く丸い光を灯す建物が映っていた。矢高のいる駐在所である。明かりがついている。パトカーも自転車も止まっている。ー奴はこの人気の無い暗闇を夜な夜な警邏しとるってわけや。「ご苦労さん。」佐々木がたばこの火を消すと音も無く2名の人間が暗闇から現れ、矢高の休む駐在所に向かっていった。「攫うよりこちらの方が簡単でね。」こう言うと佐々木は民宿の中に引っ込んだ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more20minPlay
June 24, 2022140 第129話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら自販機の音「話が違いますよ。」「申し訳ない。」病院の自販機コーナーで、距離を保ちつつ話す病院部長の井戸村と相馬があった。「完全にこちらの落ち度です。」「確実にこちらにも飛び火します。」「…。」相馬は気まずそうに黙った。「まだあちらからは何のコンタクトもありません。」「そうですか…。」「おそらく私はこの責任で職を解かれます。」「代わりのお仕事はこちらで…(斡旋します)。」言葉を言い切る前に相馬は胸ぐらをつかまれ、そのまま自販機に背中をたたきつけられた。「身の安全は保証するって言ったよな…。」「…。」「公安特課ってのは口ばっかりのはったり野郎の集まりか!?」「…。」「病院で厳重管理の人間をみすみす殺されるような監視行動しか出来ない連中が、この国に及ぶ危険を水際で回避?笑わせるな!」「…。」何も答えない相馬を前に一方的に怒りをぶつけている自分の存在を気づかされたのか、井戸村は彼の胸ぐらからその手を離した。「申し訳ございません。」「くそっ!」「あっ部長!」声をかけてきたのは部下の坊山だった。「なんだお前。休めって言っただろうが!」「休んでました。休んでましたが、こんなことになって家でぼーっとしとれんでしょう。」「だから尚更休んでろって言ってんだよ。危ねぇだろ!」「部長。」「なんだ!」「自分だけが重い十字架背負ってる的な設定、もうやめましょう。」ーえ?今なんて言ったこいつ。「あの、そういうのもう良いですから。キモいっす。」ーキモい?うそ…こんな強いキャラだった?坊山…。「結局、誰も代わりやってくれんのですよ、仕事。俺が休んだらその分仕事が溜まるだけ。休めって言うのは簡単ですが、まずは気軽に休める環境を作ってくださいよ。」ーあ…俺、普通にディスられてる…。「光定先生の件は警察に任せましょう。自分らが出来ることはありません。」「そ、そうだな。」「これを相馬さんが東一にどう報告するか知りませんが、言っときますけど、これについては当院は一切関係ありませんからね。」「承知しております。」ここで坊山はため息をついた。「大体ね。全部おたくのせいなんですわ。」「ウチのせい?」「そうやろうが。」「おたくの天宮先生がすべての元凶なんッスわ。なんか知らんけどウチと東一とのコネ作るとかなんとか言ってさ。」ーおい…坊山、相馬さんは東一の人間じゃ無くって…。「拝聴いたします。」「あのジジイどういった経緯でうちの病院に来たんか知らんけど、東一じゃいらん先生のくせに、こっちに来たらやったら威張り散らしてぃや。ほんでいっちょ前に文科省とか厚労省にコネあるとかいって、政治やり始めたやろうが。」「…。」「ったく…うちの連中もあほねんて。ほんなジジイの言うこと真に受けて手もみですり寄るんやから。」ー確かにそうだ…。「ほんな用無しになったジジイにどんだけ力あるんやっていうんや。ほっときゃよかってんわ。相手にせんときゃ、しょんぼりそのまま引退やってんわ。ほんねんになんとか甘い汁吸おうってスケベ根性出しやがってぃや。」ー強い。強いぞ坊山…。ワードが強い。「その結果がこれですわ。毎年必ず複数名の天下りを受け入れる病院になってしまった。で、その天下りがうちの主要ポストを占めるようになった。誰得ですかこれ。」「…天宮先生と懇意になった人たちでしょう。」「そう。仕事の出来不出来ではなく天宮憲行とその取り巻きに取り入ることが上手な人だけがうまい汁を吸えた。うちの病院自体には何のメリットも無い。」「中央とコネクションを作れたんですから、何のメリットも無いというのは些か違うような気がしますが。」「何もないの。」「どうして?」「覚醒剤ってメリットある?」「覚醒剤?」「目が覚める、妙にやる気がでる、集中力が上がる。って面に光を当ててシャブを使う事って肯定できますか?」「いや…それは…。」「接種した人間のみならず、その周辺も腐らせる。良いとこなんて何もないでしょう。」「…確かに、今起こっている結果を見れば、反論はできません。ですがシャブに例えるのは行き過ぎかと思いますよ。現に今日までにおたくの病院は何らかの利益を得られたはずです。」坊山は肩をすくめる。「これだから現場の苦労も知らん、口ばっかの人は困るんだ。」「おい坊山、いい加減にしないか。」「あんたの事ですよ。病院部長。」「え…俺…。」ーえ?俺?ここでなんで?「俺は許せんのだよ。国立大学って名の下で国を滅ぼす研究をしてる輩が。そして知らなかったとはいえその片棒を担いで、今まで人より良い生活をしてきた自分がよ。」108「じゃあ聞きます。あれ国じゃなかったら良かったんですか?」「え?」「国家存亡の片棒を担いだのが悔やんでも悔やみきれんみたいな言いぶりですが、あんたがやってきた天宮連中の環境整備、十分、病院の労働環境を滅ぼしてんですけど!」「なん…だ、と…。」「うまいこと回ってるように見えてるでしょう。病院。ね。」井戸村は答えられない。「うまく回ってる姿しか見えないようにしてんですよ。私ら中間管理職が。」「…。」「任せるって言っといて、気が向いたらチェックして、このようにしろって指示した覚えはないってキレるでしょう。」「俺が、か。」「はい。」金槌か何かで打ち付けられたような衝撃が、井戸村の頭に走った。「ですがもう我慢できません。」「ま、待て坊山落ち着け…急にどうしたんだ…。」「気に食わないんです。」「何が。」「部長、あんた私のことを救いたいんですよね。」「あ、あぁ…。」「ヤバい連中に襲われるかもしれないから、休めって言いましたよね。」「言った。」「じゃあなんで昨日俺をあのタイミングでわざわざ談我に呼んだんですか。」「え?」「俺や楠冨の事を本当に心配するなら、なんで有無を言わさずそのまま姿をくらませって言わないんですか?」「とにかく俺は俺なりのやり方で事態の収拾を図る。その間はお前ら2人に危険が及ぶ恐れがある。だから休むんだ。有給とか欠勤とか言ってられん。とにかく俺との接点を消せ。わかったな。」108「順序が違うんですよ。過去の話を延々開陳する方がなんで先なんですか?こっちはそんなことはどうでもいいんです。身に危険が及ぶっていうなら、その人の安全確保が最優先されるはずでしょ?」「…。」「ほら黙った。それが気に食わないんです。」妙な汗が井戸村の体からほとばしる。「これが結果です。東一天下りを受け入れるっていうシャブ漬けになってしまった当院の末路です。」井戸村が肩をがっくりと落とした。「あーすっきりした。」自販機で飲料を買う音それを飲む「さ、これで仕切り直し。部長、訳わかんねぇ組織から自分の身を守る的なことは自分らでなんとかしましょう。あんまり人を当てにしとったら足下すくわれます。」「自分ら?」「はい。」「いいのか…俺も…。」「光定先生の件も大変ですが、大変な事が同時に起こっとるんですよ。ここ昨日から。」坊山はA4ペラを井戸村に見せる。「おい。なんだこれは。」「昨日から物忘れ外来の予約が激増しています。はっきり言って異常です。」「は?なんで昨日から。」「わかりません。今日も朝から問い合わせの電話が止まりません。」「こんなもんウチだけで裁くのは無理だ。他のところ紹介しろ。」「ところが他の病院の物忘れ外来も同様のようです。」「なんだって…。」その場にいた相馬の表情が険しくなった。「なんか俺ピーンってきたんです。」「何だ。」「そこで昨日の話ですよ。」「研究の詳細は私も知りません。国の威信がかかる重要な研究だとだけ私は聞かされています。もしもそれがそんなオカルト研究だとしたら、この国は滅ぶでしょうね。間違いなく。」108「第2小早川研究所…。」「ま、とにかく非常事態なんです。気に食わないっていってられんのですよ部長。」「お…おう、そうだな。」「なんで相馬さん、そこんところ酌んでください。」「はい。わかりました。」こんなところでぼやぼやしている暇はないと急かされ、井戸村は彼と共に自部署へ戻っていった。「第2小早川研究所…。」つぶやいた相馬はその場で立ち尽くした。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more13minPlay
June 10, 2022139 第128話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「お疲れ様です。」「お疲れ様です。」石川大学病院の当直室。その部屋の前にある男に声をかける者があった。「この部屋の中に対象がいる。」「俺らはこの対象の身の安全を図る。で、いいですね。」「定期的に中の様子を見てくれ。もしものこともあるから。」「自死ですか。」男は頷く。「報告関係は富樫のオジキまで。」「オジキですね。了解。」男がこの場から姿を消したのを確認して、彼は両手にゴム手袋を装着した。ノック音返事が無い。再度ノック「光定先生。警察です。」ドアが開かれる音「交代でこれからしばらく先生の部屋にいます。何かあれば何なりと申し付けください。」「…は…はい…。」「いま一度部屋の中を調べたいのでご協力願います。」彼はゴム手袋をはめている両手を光定に見せる。「盗聴器とか付けられていないか一応確認せよとのことですので。」「あ…はい…。」部屋に入ると男は即座に鍵をかけた。「え?」消音化された銃弾は光定の腹部を穿ち、続いて彼の頭部を撃ち抜いた。それは全く無駄のない流れるような出来事だった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「おかしい…出ない…。」相馬は富樫に電話をかける。「はい。」「あ、富樫さん。おかしいんです。」「何がおかしいんですか。」「光定、電話に出ないんです。」「え?相馬さんの電話にですか。」「はい。何度かかけてるんですが。」「わかりました。すぐに現場に確認します。」「お願いします。」電話をかける富樫呼び出し音*1「はい冴木。」「対象と連絡が取れない。すぐに部屋の中を確認されたし。」「了解。」電話を通じて冴木側の音が聞こえる。ドアをノックする音光定の名前を呼ぶ声現場の状況が手に取るようにわかった。「応答ありません…。」「中、見てくれ。」「了解。」失礼しますと言って冴木は扉を開いた。「あっ。」「どうした。」「…。」「どうしたんや。」「…死んでます。」「…は?」「腹と頭を打ち抜かれています。」「え!?」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイヤホンを押さえていた指をスマホの画面に降ろした佐々木は、それを滑らせる。「よくやった。」「ブツは現場近くの便所のタンクの中です。」「回収は任せろ。」「お願いします。」髪を掻き上げた佐々木はエンジンをかけ、車を走らせた。呼び出し音「どうした。」「光定の件、完了しました。冴木が良い仕事をしました。」「やはりその目に狂いはないな。」「恐れ入ります。」「で。」「はい。専門官には捜一に手を回して頂いて、ブツの回収をお願いしたく。」「造作もない。任せろ。」「冴木にはマルトクの継続監視を命じます。」「こちらも万全の体制で冴木をフォローする。」「ありがとうございます。」「ところで。」「はい。」「仁川は何か言っていたか。」「勇介にひとことはありますか。」「心配いりません。お任せください。」「恐ろしい男よ。」「はい。」「ま、佐々木、おまえも同等に恐ろしいがな。」「いえ彼が象だとすれば私はそこいらの犬ころです。」「そこまでか。」「はい。」「…。」「なので専門官。重々お気を付けください。」「わかっている。」「では、また報告いたします。」「長いな…。」「お待たせしました。なんですか。」「大丈夫ですか。周り。」「…大丈夫です。誰も居ません。」「光定、完了しました。」「完了…ですか?」「はい。完了です。」「…ということは専門官は…。」「はい。紀伊主任。あなたの申し出を了承しました。」「あ…あぁ…。」「どうしました?」「あ…あの方は…やはり…自分のことを…。」「信頼なさってますよ。」「ありがとうございます!」「あのー感謝の意は私じゃなくて専門官にお願いします。」「いや、あなたあってこそです!」「あの、自分は組織の人間として当たり前のことをやっただけです。」「いやそんなことはない。」「おべっかはもう良いでしょう。」「あなたには感謝しきれません。」「ま、とにかくこれで仲間内の結束力は高まったわけです。紀伊主任、あなたはあなたの役割を特高内で果たしてください。」「はい。」「あなたのプロとしての仕事ぶり、期待してますよ。」「あなたには感謝しきれません…ね。」きびすを返した片倉はポケットをまさぐった。あるはずのものが無い。すれ違う職員のひとりに彼は声をかける。「わりぃタバコ一本恵んでもらえる?」「あ、はい…。」「あなたには感謝しきれません。」「へ?」喫煙所への到着を待たずに、彼はそれに火を付けた。「どうしたらあんなこと言われるようになるんかねぇ…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more11minPlay
May 27, 2022138 第127話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら「え?ノビチョク事件のホシ?」「はい。」「…名前は。」「朝戸慶太。1977年東京生まれです。」「なんで古田さんがそのホシを抑えてんですか。」「わかりませんよ。とにかくマルトクには秘密にしてほしいって依頼なんです。」神谷がタバコをくわえると、側に居た若い者がすかさず彼のそれに火を付けた。「ふぅー…。で、野本さん。あなたの役回りは。」「この朝戸慶太の身の回りを洗う。2日間で。」「わかった。こっちでやりましょう。」「助かります。」「この件はこちらで預かります。報告の是非はこちらで判断します。」電話を切った神谷はタバコの火を消した。「おい一郎。」「はい。」スキンヘッドの顔に傷跡がある大男が返事をした。「この男、江國に調べさせてくれ。写真はあとでおまえのほうに送る。」「かしこまりました。」「リミットは24時間。24時間であるだけのネタをこっちまで送ってくれ。」一郎と呼ばれる大男は数名の手下を従えて部屋から出て行った。「あれ?どうしたの。もう少し楽にしてよ。」目の前の雨澤がずいぶんと小さくなっているのを神谷は指摘した。「あ…自分、これが普通なんで。」神谷と雨澤を取り囲むように先ほどの辰巳のような強面の男たちがずらりと立ち並んでいる。そうここは仁熊会。熊崎仁がこの部屋のかつての主だった場所だ。「オヤジは長い間不在でね。その留守を俺が預かってるって感じなんだ。この事務所。」「事務所…。」「うん事務所。いいでしょ。和の雰囲気で。」部屋の壁には日章旗が掲げられ、そのすぐ側に大きな神棚がある。その対局には日本刀のようなものと、不惜身命の筆文字の軸があった。「あ、はい…。」ー何が和の雰囲気だよ、知らねーって…。誰が見ても伝統的なヤクザ事務所でしょー。勘弁してよー。オヤジって言ってるし…。オヤジってあれでしょ。組長でしょ。オヤジの長期不在ってあれでしょ。ムショってことでしょ。で、なに?あの日本刀で指詰めたりとかすんの?何なの神谷さんって…。さっき東京の江國に調べさせろって言ってたけど、あの江國ってウチの社長のこと言ってんの?まさかウチの会社ってここのフロント企業とか?「多分、いま雨澤君が思ってること、半分は正解だよ。」「へ?」「とにかくここは今、俺が仕切ってる事務所なの。だからここの人材は君が好きに使って良いよ。」「はい?」「ほら見た目はこんなだけど、みんな結構良い奴なんだ。」周りを囲む面々を見る。掛け軸に不惜身命とあるが、それはただのスローガンではないことが彼らの面構えが示している。いい人なのかもしれない。人間根っからの悪人ってのはそうはいない。だが彼らの圧は半端ない。無理だ。この圧は気質で受けるプレッシャーとは異質のものだ。死線を生きる連中しか耐えることが出来ないものだ。「言っとくけど今はうちらのような商売は世間からの風当たりが強いわけ。だから気質の人に迷惑はかけることは絶対にない。もしもそんなことしたら一発で俺らみたいな生き物は食いっぱぐれる。だだから雨澤君。それは心配しないでくれる?」「…じゃあちらの事務所はどんな事業を?」「民間防衛会社。」「?」「ほら民間軍事会社って聞いたことある?」「あぁなんかニュースとかで。」「あれと似たような会社。ブラックウォーターとかワグネルとか有名だけど、そこみたいに傭兵みたいなことはやっていない。ウチは顧客からの依頼を受けて、情報を集めて悪い奴らが悪いことをできないようにしてる。」「顧客って…。」「いろいろ。守秘義務があるからね。」「…。」「ま、今の時代ドンパチするよりももっと効率的に抑止できる方法があるってこと。」「カシラ…よその人間にすこし喋りすぎでは…。」側に居たリーゼント頭の男が言葉を挟んだ。「あん?」「あ、いや、その…。」神谷の凄みに彼はひるんだ。「雨澤君はさ。死線をくぐってんだよ。」「え?」「あれは同業だ。」「同業?」「あぁ。同業を見抜いてさ、しかもそいつを巻いてさ。」曽我のマンションでの一部始終を伝えると彼は雨澤に右手を差し出した。「自分、卯辰と申します。生まれ持った危険察知能力が、雨澤さんあなたには備わっているようです。」「…なんか、神谷さんにもそんなこと言われたような。」「ほら雨澤君、握手握手。ハンドシェイクぜよ。」神谷に促されて雨澤は彼と握手を交わした。「神谷君。早速だけどさっきの江國社長からの仕事、この次郎と一緒に取り組んでくれない?」雨澤は卯辰に連れられて仁熊会が入るこのビルの3階に移動した。「ウチは民間防衛会社です。自分はその中で情報処理部隊を預かっています。」こう言って卯辰は小さな部屋の扉を開いた。「え?」雨澤は驚いた。扉の大きさに反して、広大な面積のフロアが目の前に飛び込んできた。「このビルは仁熊会の持ち物です。3階のフロアはすべて私ら情報処理部隊に割り当てられています。」広大なフロアであるが、すべてのデスクがパーティションで仕切られ、個人の様子が容易に見えないように工夫されている。「アニキ。ご苦労様です。」強面の職員が立ち上がって卯辰に挨拶した。「おう。ごくろうさん。」卯辰が歩いていることに気がついた職員は皆、立ち上がって彼に対して挨拶をする。「この手の職場とは思えない雰囲気でしょう。」「あ…まぁ…。」「ま、みんな任侠の世界の出身ですからどうしても抜けないんですよ。」「え、えぇ…。」ガラス張りの個室に通された雨澤はそこで卯辰と改めて対面した。「あらためまして私、仁熊会の情報処理部隊の責任者をやっています、卯辰と申します。」名刺を受け取った雨澤はそれに目を落とす。仁熊会 情報処理部長 卯辰次郎とある。「さっきカシラの部屋にいた頭つるつるの一郎って奴覚えてます?」「え、えぇ。」ー覚えてるも何も一番凄み合った人じゃん。「あいつ俺のアニキでして。」「アニキ?」「はい、実の兄なんです。」「え?そうなんですか。」「はい。見てくれが対照的なんで意外に思われるんですが、同じ卯辰なんですよ。名字が。なんでややっこしいんで、ここじゃ俺のこと次郎。んであっちのほうは一郎で呼んでください。」「あ…はい…。」強面つるっぱげ、長身の大男の一郎に対して、この次郎は髪はリーゼント、しかし背は低く腰も低い。漫画に出てくる対照的な設定の兄弟そのものだ。「この会社のトップは神谷のカシラです。その下に一郎が統括する営業部。自分が統括する情報処理部があるって感じです。」ーカシラ…やっぱり神谷さん若頭ってことですか…。「で、雨澤さん。あなたは今からここのスタッフを自由に使って、江國社長からの仕事を出来る限り早く完了させるんです。」ーよく考えたらなんか変だ…。俺は江國社長の会社の社員。神谷さんの言うことを聞けって社長に言われて、結局社長の仕事をさせられてる…。しかも地方のヤクザ事務所で…。何なんだこれ…。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more13minPlay
May 13, 2022137 第126話このブラウザでは再生できません。再生できない場合、ダウンロードは🎵こちらトイレに行くと言って席を立った古田は、奥にいるセバストポリの店主、野本と接触した。「どういった男ですか。」「最上さんのホシと目される男や。」「えぇっ!」「しーっ。」普段感情を表に出さない野本であるが、この古田の発言には流石に驚かされた。「ただ今はパクるタイミングじゃない。」「逃亡の危険性は。」「いろいろ話してみたところただの素人や。」「素人がノビチョクなんて物騒なものを手に入れられるんですか。」「そこが気になるところ。ほんで野上さん、あんたに頼みたい。」「なんでしょう。」「朝戸慶太。昨日東京からここ金沢に来た。奴の過去と交友関係を洗ってほしい。」古田はメモを野本に手渡す。「朝戸慶太ですね。わかりました。これ、特高の片倉さんの協力を仰いでもいいでしょうか。」「特高か…。」古田は難しそうな顔をした。「なにか不具合でも?」「時間の使い方は古田さんの勝手ですが、それにこちらを巻き込むようなことはお控えください。」117「…いや、それはやめておけ。」「ですが東京の人間を調べるには、現場、特高の力を借りるのが一番手っ取り早いですよ。」「うーん…。」「奴がホシだってのは、特高は知ってるんでしょう?」「知らん。」「あ…そういうことですか…。」野本は古田が表に出せない動きをしているのを察した。「しかしホシを前にして悠長なこともしてられませんし。」「そこを元外事のあんたにお願いしたいんや。」野本は頭を抱えた。ー年々、古田さんの要求が無茶になってきてると思ってたけど、これはさすがに無理だぞ…。ー俺一人の力であんな一般人のことをすぐに調べるなんてできっこない。ー事態が事態だってのに、ここで特高の協力を仰がないなんて考えられんだろう。ーまさか古田さん。功を焦っているとか?ーだとしたら不味い…。「野本?」「あ、はい。」「頼めるか。」「まぁやってみます。」「どれくらいで調べられる。」「2日ください。2日あればおおまかなことは調べられます。」「さすが天才野本。」「天才?」「あぁあんたは天才や。」「なんですかその小学生みたいな褒め言葉。」「悪い気せんやろ。」「まぁ。」「あの朝戸、死んだ妹の墓参りがメインの訪問って事で昨日、金沢に来たらしい。」「そういう設定なんですね。」「そうや。その設定を忠実にこなしとる。」「設定をこなす?というと…。」「本当に妹の菩提を弔いに寺におった。ちなみにそこでワシはあいつと接触した。」古田は野本に寺での一部始終、そして朝戸と同じ宿に泊まっていることを野本に説明した。「なるほど…。妙なこともあるものですね。」「おいや。」「で、大丈夫なんですか。」古田は自分の頭を指した。「これか。」「はい。倒れるほどの頭痛ってのはちょっと…。」「ダメやと思う。」「え?」「ははっ冗談。多分疲れや。」「…まぁそれならいいんですけど。」「朝戸の細かい話はこれから聞き出して、あんたに送る。それを参考に調べのほう、すすめてくれんけ。」「了解。」朝戸の席に古田が戻ってきた。「大丈夫ですか。トイレ結構時間かかってたんで、まさかまた倒れてるんじゃないかって思いましたよ。」「いやーさっき倒れたのが良い方に作用したのか、こういったらなんですがびっくりするくらい出まして。」「びっくりするくらい出た?」「ええ。いままでたまっていたものが。」「ははははは!」声を上げて朝戸は笑った。「なんかあるじゃないですか。ウォシュレットすると、その刺激でどれだけでも出てくるみたいな。」「そんな話、初対面の人間にします!?」朝戸は笑いをこらえるのに必死である。「嫌いじゃない?この手の話。」「いや…まさか…旅先でこんな…。」「あ…。」お互いが笑った。「いやぁまぁそのそっち系の話なら自分もネタありますよ。」「え?本当に?」古田は喜々として朝戸の話を聞き出そうとした。「お楽しみ中ごめんなさいね。」野本がランチを持ってきた。プレートの上には大きなチキンソテー。その横にポテトサラダと千切りキャベツが添えられている。これらを白ご飯とコンソメスープでいただく食事だ。「ご飯のおかわりは自由です。必要なら声かけてください。」目の前に食事が出され、自分たちの会話がいかにこの場にふさわしくないか、それを肌で感じた二人は静かにそれを食べ始めた。「うっ…。」突然古田の動きを止め、俯いたため朝戸は箸を止めた。「え?藤木さん?」「…。」「ちょ…。」「うまい。」「え…。」「やっぱうまいなぁ。」「何その古典的なやつ…。」「いやぁ朝戸さん。自分、ここのご飯の炊き具合が本当に好きなんですよ。ちょっと硬めで粒がひとつひとつてて立ってて、かといって、水分をしっかり含んでてもちっとして。」「はぁ。」「で、この米とおかずがバッチシ合う。何杯でもいける。」「確かに。」「どんなにおかずがうまくっても、主食が残念だと台無しになっちゃうじゃないですか。でもここのご飯は裏切らない。今日はチキンソテーですが、多分ハンバーグでも鯖の塩焼きでも刺身でもから揚げでもなんでもいける。」「そうですね。ってかご飯だけでいけますよ。」「そうでしょう。」「実は昨日の夜、駅の回転寿司に行ってみたんです。」「はい。」「確かにおいしいんです。東京の回転寿司と比べて別物です。」「ですよね。」「でもいまの藤木さんの話を聞いて思いました。ネタの良さもそうなんですが多分米とか、水とか全部の平均値が高いんですよね、ここの食事は。」「あーそれあるかも。」「本当にうまいものって結局のところ東京に集まると思うんです。」「うん。」「だけどそれを味わえるのは、あそこでそれなりの地位や経済力を得た一握りの人間。彼らはその本当にうまいものを知ってる。でも僕ら庶民はそれをしらない。一方、ここ金沢では東京でしか味わえない本当にうまいものほとんどの人は知らないけど、大多数がレベルの高い食事を常日頃から摂取してる。食の平均点が高いんでしょうね。」「あーそうかも。仮に東京は基礎点数が50点のところ。一部のひとが100点をたたき出して平均を伸ばしている。」「はい。」「一方、ここの人は基礎点数がすでに70点あるって感じですね。」「そうそう。」「なるほど、面白い考察ですね朝戸さん。」「いまの世の中と同じですよ。」ー来たか…。「と言いますと?」「ごめんなさい。これ以上はせっかくの食事を台無しにしてしまう。」「妹は事故で死んだんじゃない。殺された。」「警察のお偉いさんの息子がひき殺した。証拠は持ってる。誰なのかも特定している。警察に直談判したけど取り合ってくれなかった。」「法的措置も検討したけど時間がかかる。だから別のアプローチを考えている。」125ーまぁあの住職の話が本当やとすると飯は不味くなるわな。ーしかしここで会話を途切れさせるのもよくないし…。ーあれ?ちょっと待て…。朝戸が食事を続ける中、古田は箸を止める。ーあれ…?さっきの住職の話…ワシ、なんか昔聞いたことあるような気がするんやが…。「妹は事故で死んだんじゃない。殺された。」「警察のお偉いさんの息子がひき殺した。証拠は持ってる。誰なのかも特定している。警察に直談判したけど取り合ってくれなかった。」「法的措置も検討したけど時間がかかる。だから別のアプローチを考えている。」125ー事故じゃなくて殺された。ー事件として明るみになっていない…。ー証拠はあるし、誰が犯人なのかも特定済み。ー法の裁きでは時間がかかる。ーだから別の方法で…。古田は目を瞑った。聞いたことがある。そう。直接自分に誰かが同じようなことを言っていた。「一色…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more14minPlay
FAQs about オーディオドラマ「五の線3」:How many episodes does オーディオドラマ「五の線3」 have?The podcast currently has 262 episodes available.