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FAQs about オーディオドラマ「五の線3」:How many episodes does オーディオドラマ「五の線3」 have?The podcast currently has 262 episodes available.
January 20, 2023155 第144話このブラウザでは再生できません。「本部から各局 ケントク捜査員冴木亮の逃走事案につき 6時47分 6時47分鞍月1丁目1番地中心の10キロ圏警戒態勢を発令する。 実施署は金沢北、金沢南、松任、野々市、津幡中央、川北、寺井、辰口 の各署とし同一に体制はいずれも甲号とする。」「ケントク岡田から相馬。」「はい相馬。」「いまの無線の通りだ。相馬も冴木亮の警戒に当たって欲しい。」「わかりました。」「いま何やってる。」「石大病院の様子を伺っています。」「人体実験の件か。」「はい。」「あまりそれには首を突っ込むなとの指示のはずだが。」「上層部の調整はいかがでしょうか。」「厚生省との調整を図っているとだけは聞いている。それ以外情報は無い。」「酷い状況です。」「…そんなにか。」「外来は混乱しています。全然捌けていません。連携先に協力を仰いでいるようですがうまくいっていないようです。」「くそったれ…。」「冴木の件了解しました。すぐに動きます。しかしこの石大の状況はなんとかしないと…。」「暴動に発展する…ということか?」「可能性は十分にあります。怒号が飛び交っています。」「マジか…。」「警察が万が一に備えた方が良いかもしれません。」「わかった。」「あともうひとつ気になる事が。」「なんだ。」「マスコミがいません。」「ん?」「こんな騒動が起きてるってのに、マスコミの姿がありません。」「なぜ?」「それはこちらが聞きたいくらいです。」「…ったく…しょうもない話は取り上げるくせに、肝心なときに機能せんよ…。」「どういう事情か分かりませんが、この状況は世間に知ってもらうのが一番だと思います。」「しかし混乱を助長することになりやしないか。」「おそらく石大が連携先の協力を取り付けられていないのは、この状況が世の中に知られていないからじゃないでしょうか。この状況を見て黙殺する医療機関なんてないでしょう。むしろこれを見て、我関せずを貫く医療機関はむしろ患者から捨てられる。」「そうだな。」「なので自分、さっき匿名でちゃんフリに動画送りました。ネットやSNSはここから火がつくと思います。あとは地上波です。」「よしそれはこっちで対応する。」「では自分は冴木確保に動きます。」「すまない。」無線を切った相馬は電話をかける。「お疲れ様です相馬です。」「あぁ…。」「どうしたんですか。元気がありませんよ片倉班長。」「いま病院なんだよ。」「え?」彼は自分の周囲を見る。まさか片倉がここにいるというのか。「あの、自分も病院ですが。」「は?どこの。」「石大病院です。班長は。」「警察病院。」もしや片倉がここにいるのではと思ったが、その期待は瞬時に砕かれた。「ちょっと色々あってな。詳しい話はまた今度ってことで。…で、なんや。」「石大病院が大変なことになっています。」「どう。」「例の人体実験の被害者と思われる患者が押し寄せています。」「…そうか。」「岡田課長には私から暴動に備えた方が良いのではと進言しました。」「そんなにか。」「はい。患者は別として、その家族の不満は相当のものです。」「ふうむ…。」「上の調整はどうなっていますか。」「それは俺まで下りてこんげんわ。」「と言うと?」「察庁とかの話。」「でもこれヤバいですよ。」「ほうやな。」「どうすれば良いでしょうか。」「相馬。お前岡田に言ってんろ。警察は準備した方が良いって。」「はい。」「お前としてはそれで十分や。お前はお前の事だけを考えてベストを尽くせ。」「あ…はい…。」「その為にお前を岡田にレンタルしとるんや。お前は岡田を信じて動け。」「…。」「岡田はやる男やぞ。」「…わかっています。」電話を切った相馬は顔を上げる。外来に押し寄せた群衆と病院職員が押し合いへし合いしていた。「責任者出せ!受付すら出来んってどういうことなんや!」「一体どれだけ待たせるのよ!」「近くの医者に行っても予約してもらわんとの一点張りやからここに駆け込んどれんに、ほったらかしかいや!」患者の群衆からは苦情の怒号が投げられる。「あーうるさい!うるさい!黙れ!静まれ!静まれー!」病院職員の一人が群衆に叫んだ。先ほどまですいませんだとか、申し訳ございません。お待ちください、順番ですからと丁寧な言葉遣いを駆使して、なんとかその場を制止しようとしていた病院側だったが、ここで強い言葉を発する者が現れた。「順番やって言っとるがいや!順番つけば診る!」「こんなに人居るげんにいつになったら診てくれるんや!」「んなもん知らんわ!こっちはあんたら診れる先生、ひとりしか居らんがや!ほやから他当たった方が良いぞって言っとるやろうが。」「ひとり?ひとりしか居らんがか?」「おいや。あんたらもテレビで見たやろ。あんたら診る先生が死んでしもうたんや。」「どいや大学の附属病院やろうが。それっぽい人間たくさん居るやろうが。」「あのな。あの人が主力なんやって。雑魚ばっか集めたって役に立たんわ。それに普通の状況でさえ人が足りんげんぞ。そこにこんなバーゲンセールみたいにいっぺんに来られても、対応できる訳ねぇやろ。」「だからてったいとかは学生でも出来るやろって話しとるんや。」「いくら手伝いつけても診る先生居らんかったら話ならんやろうが!何遍言わせるんや!順番付けって!順番に診るー!どんだけ時間かかるか分からんけど。」病院側が強い言葉を発することで、群衆の反応がエスカレート。最悪の事態に発展することも想定された。しかしやがて自然と群衆は列を形成しだした。「ん?どした?」群衆の中に携帯を見ている者が散見される。彼ら彼女らはそれを見るや冷静さを取り戻し、順番をつくよう他者にも働きかけているようだった。「なんか分からんけど、一先ずヨシ。…で良いんかな。」場を後にしようとしたとき、電話をする相馬の姿が彼の視界に入ってきた。「あの野郎、この騒ぎもちゃっかり東一に報告しとるんけ?クッソ…チョロチョロしやがって。」吐き捨てると、携帯が鳴った。「病院長…。なんねん…こっちはそれどころじゃないんやって…。」渋々彼はそれに出た。「お疲れ様です。坊山です。」「よくやった。」「へ?」「何言ってんだ。坊山、お前が場を静めたんだろう。」「え?あ…あぁ…。まぁ。」ー情報はやっ…。遠くに見える相馬は電話を終えており、こちらに向かってガッツポーズをした。「なんじゃありゃ。」「どうした?」「あ、いえ…。」「プロも最大級の評価をしていたぞ。」「は?プロ?」「あ…いや…。ま、と、とにかく…よくやった。ありがとう。」「あ、いえ…。」電話切る音シャツの袖口で自分の額を拭った坊山の視界からは相馬の姿は無くなっていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「脳神経の先生が死んだタイミングで、その診療科に患者が殺到。」「はい。行って良いですか。」「…。」「デスク。」「今回はパスしよう。」「え!?」「もう無理。人がいない。」「私がいます!」「お前が出て行ったら、もう完全に余力が無くなっちまう。」「安井さんの制作部は健在です。」「安井さんは無理なの。」「何でですか。」「いろいろあるんだよ。それには首突っ込むな。」「じゃあ外部委託すればいいでしょ。」「どこにだよ。」「例えば椎名さんとか。」「椎名…。」「はい。」「でもあの人編集の技術者でしょ。記事とかいけるの?」「一応、私のゲラみてここは良い、ここは駄目って結構的確な指摘します。」人差し指でトントンと机の上を叩く黒田はフロアにあるテレビを眺める。「それにしてもこんな大きなネタ、なんで地上波、取材行ってないのかな…。」「わかりません。」「旧来メディアの凋落で、テレビも大分人員削られてるみたいだけど、それにしてもなんだよな。」「と言いますと?」「いや、ここ数日の報道ぶりを調べたんだ。そしたらさ昨日のほら熨子町のネットカフェの爆発事件。」「ええ。」「あれキー局で放送してないの。」「えっ?」「でかい話じゃん。画的にも映えるしネタ的にもかなりでしょ。」「はい。」「それが石川の放送局止まりなの。」「なんで?」「わかんない。石大の光定先生死亡の件もなんだよ。」「変ですね。」「だから今ひとつなんだ。地元でも。で、いまのこの石大病院の取り付け騒ぎ的なやつもさ、今度はろくに取材すら来ていないって感じでしょ。どうなってんのって。」「私、そっちを調べてみます。新聞、テレビにもツテありますんで。それならここから電話とかでできますから。」「じゃあ頼むよ。」「はい。」黒田の携帯が鳴った。画面の表示されるそれを見て彼は席を外した。「おつかれさまです。片倉さん。」「至急対応して欲しいことがある。」「…なんでしょう。」「京子の奴、特集とかなんかの仕事、外部委託しとるやろ。」「よくご存じで。」「それいつ流す。」「今日の夜流して完了です。」「止めてくれ。」「え?」「今すぐそれの配信を止めて欲しい。」「アーカイブもですか。」「おう。」「まさかこれにもサブリミナルが?」「わからんが念のため。」「サブリミナルを仕込んでたウチのスタッフは今は警察です。今の時点でそういった仕込みは出来ません。それにすでに片倉さんに言われたとおり、そのアーカイブは全部ストップしています。サブリミナルによる影響排除は完了しています。」「まだ可能性がある。」「片倉さん。あなたの娘さんの仕事ですよ。」「既に止めたアーカイブの中にも京子の仕事はあったと思うが。」「しかしこれには彼女は並々ならぬ思いがあるようで。」「その並々ならぬ思いが仇となって返ってくるかもしれんぞ。」「可能性だけをあげつらって、彼女の思いを潰すのは…。」「逆もしかり。思いだけをあげつらって、危険に目を瞑るのはいかがなもんか。」「ぼんやりしすぎです。」「…。」「もっとはっきりした脅威を示してください。」「椎名賢明。」「既に名前もご存じでしたか…。」「極めて危険な人物や。」「…極めて危険?」「黒田。お前を真に信頼できる協力者として打ち明ける。」「…どうぞ。」「椎名賢明は仁川征爾や。」「仁川征爾…?」「覚えてないか。」聞いたことがある名前だ。黒田が記憶を呼び起こすのに時間は不要だった。「…まさか…。」「そう。6年前、下間悠里が成りすましとった仁川征爾。その本人や。」「うそでしょ…。」「本当。」「え…でも…ありえない…。仁川はツヴァイスタンに拉致されたままのはず...。」「はぁー(ため息)」二人の間に沈黙が流れた。「仁川征爾はすでにこの日本に亡命している。」衝撃的な情報は黒田の言葉を失わせた。彼はこの後に話される片倉の言葉に耳を傾ける事しかできなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more19minPlay
January 06, 2023154 第143話このブラウザでは再生できません。着信バイブそれは一度の震えで止まった。病室のドアを開く音靴の音「容態は。」「安定しています。今は眠っています。」「そうか。」「極度の疲労が原因かと。」「特高はこれからどうするんだ。百目鬼理事官。」「若林警視正が片倉の後を引き継ぎます。」「大丈夫なのか。」「問題ありません。松永課長の人選です。朝倉事件時、石川で活躍した人物です。私がこうして上杉情報官と直接お会いできるのも若林警視正の調整力の高さです。」「…そのようだ。」パイプ椅子を引く音 座る椅子に座った上杉は片倉の眠るベッドの横に装着されたガードを握った。「年配だな。」「片倉ですか。」「ああ。」「能力がすべてです。年は関係ありません。」「…。」「石川には70代の捜査員もいます。」「…ダイバーシティ。」「いかにも。」「聞こえは良いが、その実慢性的な人員不足に悩まされている。」「おっしゃるとおりです。」「お互い予算だけではいかんともしがたいな。人材確保というものは。」「はい。」「防諜機関でありながら、敢えてスパイを受け入れ、それを正規のスタッフとして使わねばならん。」「それほどまでに内調も人員が不足しているということですか。」「そっち(警察)は潜入される方だが、こっち(内調)は敢えてだ。そこのところ間違いの無いように。」「御意。」「人材確保は急務だ。」「このヤマが終わったら、採用のほうに行きたいもんです。」「何か妙案が?」「無いことはないです。」「ま、そのときは知恵を貸してくれ。」「はい。」さてと行ってベッドガードから手を離した上杉は立ち上がった。「今日だろ。」「これからです。」「大体の流れは予想できるが、後で報告を入れてくれ。こちらで調整する。」「はい。」何があっても冷静沈着。感情を表に出すことなど決して無い。冷淡にも思えるが、インテリジェンスの世界のトップであるポジションの彼がそうであることは、指揮下で動く人間にとってはむしろこれ以上のない信頼でもある。病室を後にする上杉を見送った百目鬼は呟いた。「感情を捨てた人のはずなのに、こうやって捜査の最前線までふらっと顔を出し現場の信頼を得る。並の人間にはできることじゃない…。」片倉の方を見ると彼が目を覚ます気配はない。「じゃ行ってくるわ。気が向いたら顔出してくれ。」こう言って百目鬼も病室から早々に退散した。ドアを閉める音百目鬼が去って10秒程たっただろうか、片倉は目を開いた。そして上杉が握っていたベッドガードに触れる。「手汗でびしょびしょやがいや…。」テッシュをとる音「まぁ感情は捨てきれるもんじゃねぇって事や。」片倉は訝しげな表情でベッドガードを拭いた。「雲の上の存在であるにも関わらず、不意を突くように捜査現場まで足を運ぶ。そして百目鬼理事官には冷静沈着であるぞと振る舞い、寝たふりの俺には緊張しまくっとるんやぞと心の内をさらけ出し、早く戻ってこいと暗に言う。どんな感情コントロールしとるんや。恐れ入るわ…。」拭いたそれをゴミ箱に捨てた彼は枕元の携帯電話を見た。「トシさんから?」古田の離脱は岡田からの報告で知っていた。「んー…。」かつての部下である岡田から休めと言われ「はいわかりました」と素直にその言いつけを聞く。そんな個性を古田が持ち合わせていないことは、付き合いの長い片倉は知っている。スッポンのトシ。そう呼ばれた古田のことだ。捜査から外されても独自のルートでその真相を解明するよう動くだろう。しかし捜査を外されたといえども古田は岡田の部下だ。ついさっき古田の上司、岡田はケントクをすっ飛ばして特高が椎名の管理をしているのはないかと疑いをかけてきた。その疑念を晴らすことはできたように感じたが、ここでまた特高の長である自分が岡田をすっ飛ばして、彼の部下である古田と直で連絡を取り合うと、二つの部署の間に新たな亀裂を生じさせかねない。「今は無理や…トシさん。」古田の着信を片倉は黙殺した。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー朝のルーティンをこなす椎名冷蔵庫を開ける音「しまった…。」常備しているはずの牛乳がまたもない。ため息をついた椎名は面倒くさそうに外に出た。コンビニの音ドアを閉める音備品棚に手を伸ばした彼は、そこから携帯電話を取り出した。電話発信音「おはようございます。少佐。」「おはよう矢高。現状を報告されたい。」「朝戸がボストークに接触。」「無事接触できたか。」「明日の爆破について指南完了です。」「そうか。」「ただちょっとモタつきまして。」「モタついた?」「はい。そのとき公安を二名連れて来てしまいました。」「ボストークにか。」「はい。なのでこの二名についてはその場で処理しました。」「つじつま合わせは大丈夫か。」「現在のところ問題はない状況です。」「しかしいずれ明るみになる。」「はい。ですが例の時刻までは引っ張ることは可能かと。」「くれぐれもヤドルチェンコにそのことを悟られないように。」「念を押してあります。」「俺はこれより単独任務に移る。決行の時まで俺とは基本連絡は取れない。」「ベネシュ隊長との連絡はいかがしますか。」「通信は使えない。ベネシュ隊長もそうだが、冴木も同様だ。」「御意。では使いの人間を送るようにします。」「頼む。」今電話をしている携帯とは別の、椎名のポケットに入っているものが震えたため、それを彼は取り出した。冴木からのメッセージには、椎名が入った便所の前に公安が待ち伏せしている。椎名が退出後、その中を改めるようだとあった。椎名はそれに了解と返事をしてそれをしまった。s「差し支えなければお教えいただけますか。」「何を?」「少佐のその任務です。」「…極秘である。」「…。」「それ以上の情報が必要であるか?」「いえ。十分です。」「Слава Отечеству.祖国に栄光あれ。」「Слава Отечеству.祖国に栄光あれ。」流す音トイレから出ると中年男性がそわそわとした様子で、そこに立っていた。おそらく自分の退出を待つ望んでいたのだろう。彼に会釈をした椎名は牛乳を手にしてレジに向かう。「274円です。」「ディンギで。」ディンギ音「Этот магазин недоступен только сейчас. たった今からこの店は使えない。」エタット マガジン 値DOSツペン とるこ せいちゃすこう言って椎名は携帯電話を店のレジ係に渡した。「Спасибо.」「Пожалуйста.」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「こちら椎名班。コンビニトイレに特に変わった様子はありません。」「念のためコンビニそのものも改めてほしい。」「了解。」背もたれに深く身を委ねた冴木は大きく息をついた。ドアを開く音「おはよう。」岡田が部屋に入ってきた。「おはようございます!」「あれ?」立ち上がる冴木を見て岡田は要領が掴めない表情を見せた。「マサさんは?」「休憩されています。」「あ、そう。」「30分ほど休むっておっしゃって出て行かれましたが、すでに1時間は経ちました。」「…疲れてんだろう。」「そのようです。」「君は?」「あ、自分冴木と申します。」「冴木?」「はい。」「どこかで見たような…。」「光定公信の警備担当でした。」「あ!なんでお前がここにいるんだ。」「光定班の班長から中に戻れって言われまして。」「待て、こっちにはろくに調べの報告も入ってきてないぞ。」「しかしそんなことを言われても、自分は班長に言われたとおりにここに来たので…。」岡田はため息をつく。そして鼻息荒く冴木の前にある無線機器を操作し、そのマイクに口を近づける。「本部から光定班。」応答はない。「こちら本部。光定班班長、応答せよ。」またも応答がない。「本部から光定班。」「はい!光定班。」「班長か。」「いいえ、自分は班長ではありません。」「班長に用がある。班長と繋いでくれ。」「班長はいま調べ中でして…。」「至急だ。とにかく繋げ。」「あ!はい!」「なに呆けたこと言ってんだ…。」待つこと数分「光定班から本部。」「班長。これはどういうことだ?」「申し訳ございません。班長の行方がわかりません。」「はぁ!?」「自分は班長ではありません。班長は調べ室の中にいるものと思っていたのですが、いらっしゃらないんです。」「おい、お前さっきから調べ調べって言うけど、班長は何の調べやってんだ。」「冴木の調べです。」「…え?」岡田はとっさに振り返る。先ほどまで話していた冴木の姿はその部屋には無かった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more16minPlay
December 23, 2022153 第142話このブラウザでは再生できません。最上殺害の実行犯は朝戸であると告げてきたあの男はいったいどういう立場の人間なのか。そもそも自分が山県久美子の監視をしているのは公安特課のごく限られた人間しか知らない事実。そうなると中の人間の線は薄い。「どうやって公安特課からネタを仕入れることができる言うんや…。」古田は煙を吐く。「…当初から言われとったしな、モグラの存在…。」ーモグラを使ってまでマルトクの内情を知りたい存在。それは何か…。「監視対象やろうな。」古田は少し離れたところにあるアパート型の民泊を見つめる。気のせいか先ほどからそこから出て行く人間が多いように感じる。「時間の使い方は古田さんの勝手ですが、それにこちらを巻き込むようなことはお控えください。」117古田はため息をついた。携帯バイブ音「はい古田。」「例の男現れました。」山県久美子の監視をさせている協力者からの電話だった。「来たか。」「ビルの前で、携帯を触ってます。」「久美子の出勤を待っとるんか。」「そうだと思います。」「対象A。」「はい?」「以後奴をAと呼ぶ。」「A…。」「とにかくこのAを久美子に近づけるな。」「近づけるなって言っても、あっちが一方的に近づいてきたら…。」「大声を上げる。」「へ?」「火事や!って言えばいい。騒ぎになる。」「でもそんなことしたら自分が。」「こっちでうまいこと処理する。任せろ。」こう言っておきながら古田は本当にそれでいいのかと自問した。朝戸はあの東京で起こったノビチョク事件の実行犯であるとの情報。これが本当であれば、今後何をするか分からない危険な存在だ。その危険人物の監視を、自分の協力者だけに頼るのというのは問題ではないか。「いや待て…。」「へ?」「やっぱりお前はそのまま監視で良い。」「あ、わかりました。」電話を切った古田は再びタバコをくわえた。火を着けて吸う音「やっぱりワシひとりで抱えるのはマズい。」電話を手にした彼はある人物の電話番号を表示させる。そして意を決したように発信ボタンを押下した。呼び出し音電話切る「いや止めや…。なんしとれんて…ワシ…。」古田はため息をつき、電話を胸にしまった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「ご苦労様です。」富樫が詰める公安特課の指揮所に男がひとり入ってきた。「うん?」「岡田課長に言われて来ました。」「岡田課長から?」「はい。富樫さんには少し休息が必要。しばらくの間、交代してやってくれって。」男は紙コップに入ったコーヒーを富樫に差し出す。「しばらくの間とは。」「2、30分程度です。」「あぁ本当に休憩って事ね。」「はい。」それは助かると言ってコーヒーを手に富樫は席を立った。「あれ…。」「なんです?」「お前さん、確か…。」「はい。光定死亡の際、その警備担当だった冴木です。」「…。」「何か?」「いや…。」「いま私のこと疑ったでしょう。」「…。」「でも自分、岡田課長に言われてここに来ています。」「…そのようやな。」「そのようとは?」「…。」ぱっと見どこにでもいるような優男。色白で長袖シャツの袖口から見える彼の手首は女性のように細く、そして白い。この冴木が公安特課の目をかいくぐって、光定公信を殺害せしめた人間にはとても見えない。「聴取は?」「その程度でいいのかなって感じでした。」「え?」「光定公信の警備をしてたのは自分。その間に事件が発生した訳です。」「そうや。」「なのにちょちょいって聴取されて、持ち場に戻れですから。」「え、そうなん?」「はい。」「だから自分もやりにくいんですよ。しばらく謹慎させられてほとぼり冷めたら復帰ならまだしも、速攻現場復帰でしょ。怪しまれますよ。」「誰がその判断を?」「自分の再配置の判断は岡田課長と聞いています。だから岡田課長に言われて来たと言いました。」「お前さんの調べは?」「自分の調べは光定班の班長でした。」ふうんと言って富樫はコーヒーに口を付けた。「アレじゃないですかね。」「アレ?」「人員不足。」「…そうやろうな。」再びコーヒーを飲む。「ろくに休みもないじゃないですか。」「ああ。」「だから期待したんです。これで俺、休めるなって。」「今の俺らには喉から手が出るほど欲しいもんやしな…。」「だから30分の休憩とってください。岡田課長の計らいだと思いますよ。」「そうやな…。」ドアを閉める音部屋を出た富樫を急な眠気が襲った。今まで張り詰めていたものが一気に緩んでしまったのか。彼はそのまま仮眠室に向かった。「朝戸班から本部。」「はい本部。」「ボストークに変わったところはない。」「本当にちゃんと調べたのか。」「え?」「調べろと言ってから間もない報告。徹底的な捜査がされているとは思えない。」「それは…。」「普段は営業していない店が気分で営業。そこに旅行者朝戸がふらり来店。偶然を装ったものだとすれば、店のすべてを改める位の徹底的な捜査がされてしかるべきだと思うが?」「ですね。」「バンかけと併せてあらためて報告されたい。」「りょ、了解。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「指揮所からボストーク。」「はいボストーク。」「足りない。店の中を徹底的に調べろ。」「徹底的にとは?」「徹底的と言えば徹底的だ。」無線は切られた。「なんだこれは。」ボストークのマスターは電話をかけた。「なんだ。」「公安が妙なこと言ってまして。」「どう妙なんだ。」「調べが足りない徹底的にしろとだけ。具体的な指示も何もないんです。」「…。」「どう思います?」「お土産だな。」「お土産?」「ああ、調べましたっていう何らかの成果が欲しいってことさ。」「え?それって…。」「忖度だよ。」「アレですか。ねつ造ですか。」「いや、とにかくお土産が欲しいってだけさ。」「でもそんなことしたら、捜査をミスリードすることになりませんか。」「そういうところあるんだよ。あそこは。」「馬鹿か…。」「しかし何をお土産にするか…。」「拳銃一丁出しますか。」「銃とクスリは無しだ。ややっこしくなる。」「じゃあ…。」「それとなく匂わせて、核心には迫らない何か。」二人は沈黙した。「そうだ。」「何です?」「店にプリンターってあったか?」「ウチにですか。」「ああ。」「ありますよ。」「じゃあ今から送る写真印刷して、店のどこかに貼ってくれ。」「はい?」「で、その様子をカメラで撮って指揮所に送るんだ。後はこちらでうまくやる。」しばらくして矢高から写真が送られてきた。「なんだこれ…」それを見たマスターは眉をひそめた。プリンター音「これでいいのか?本当に…。」A4サイズに印刷されたそれを店の奥の目立たないところに貼り、その様子を写真に収めた。シャッター音「こちらボストーク。妙なものを発見。今送る。」「了解。」彼はそれを送った。しばらくして指揮所から無線が入った。「これ以外に何もないか。」「ない。」「わかった引き上げろ。」「了解。」「本部から朝戸班。」本部から朝戸班全員に聞こえる無線が流れた。ボストークのマスターはそれに耳を傾ける。「内灘海岸の不審船漂着との報あり、朝戸班は直ちに2名の人員を現地に派遣されたい。」「こちら朝戸班。了解。」「朝戸班指揮所からボストーク。」「はいボストーク。」「今の無線の通りだ。悪いがふたりとも内灘に急行されたい。」「了解。」マスターは壁に貼っていた先ほどのA4用紙を取り外しながら呟いた。「にしても気持ち悪いもん印刷させるよな…。」あらためてそれを手にして眺める。「なんで目の写真なんだよ。」紙をぐしゃぐしゃにする音「手際よすぎるぜ…矢高のダンナ。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more15minPlay
December 09, 2022152 第141話このブラウザでは再生できません。古田は目を覚ました。枕元のにある腕時計を手にすると、それは8時を示していた。「え!?」前日の疲労の度合いが何であろうと、いつも朝5時には目が覚める。それが今日は3時間も寝過ごしてしまった。彼は飛び起きて、部屋に唯一ある窓を開け外の様子を見た。今は4月30日木曜。4月29日水曜は古田にとって激動の一日だった。古くからの友人、公安特課の富樫に朝っぱらから休んでじっとしてろと言われ傷つき、ぶらぶら外を歩いていたら妙な男と接触。彼から東京のノビチョク事件のホシが朝戸慶太であるとリークされ、その朝戸が潜伏していると思われる東山へ向かう。東山周辺で朝戸を探っているときに偶然、本人を発見。彼を追って行くとある寺に行き着いた。そこでその寺の住職が登場。住職は聞きもしない朝戸の身の上話を古田に披露。挙げ句、古田のことを警察の人間だと見抜く。すると彼はその場で気絶。目が覚めると朝戸が目の前に。朝戸が自分を宿まで運んでくれたとのことで、その礼にボストークセバストポリで昼を一緒に過ごした。話す限りノビチョクなんてとんでもない化学兵器を使用して、人を殺すような人間に見えない。ごく普通の中年男性。むしろこんな老いぼれに気を遣う心優しささえ感じさせる。しかし心のどこかでこの社会に対して何らかの闇を抱えているのは分かった。そして宿に戻り周辺を散策。すると宿の周辺から敵意というか威圧というか、妙な圧迫感を感じた。最近、ロシア語的な言葉を話す人間が大挙してこの辺りに滞在している。ここで古田は国際テロ組織ウ・ダバの存在を疑うこととなったのだった。古田はカメラバッグからおもむろに一眼レフカメラを取り出した。そしてそれを窓の外に向けて構える。「特に動き無し…か。」昨日の夜、宿に戻った古田は今手にしているカメラに暗視レンズを装着。近くの集合住宅型の民泊施設の様子を覗っていた。時折外に出て行く人間はいたが、それらが皆一人。複数名で行動するものは居なかった。彼らの動きは22時を持ってパタリと止まっていた。「ワシが見る限り外に出て行って、そのまんま帰ってこんって奴はおらんみたいや…。みんなちゃんと帰ってきとる。」「酒盛りみたいな事すりゃ、それなりに騒がしくなるようなもんやけど、そうじゃないしな…。」「あいつらあの中でなにやっとるんや…。」引き戸を開ける音居間の扉を開くとテーブルを拭き上げる宿の主人の姿があった。「おはようございます。」「あぁ、おはようございます。」朝食出すのでお待ちくださいと言われ、古田は手近な場所に座った。8畳程度の部屋には古田ともう一人。彼はスマホに目を落としながら朝食を食べている。真っ白なご飯に味噌汁。卵焼きにキャベツの千切りとスライスハムとソーセージ。梅干しと昆布の佃煮、納豆もある。なんとも正しい朝ご飯ではないかと思わず古田は笑みをこぼした。「はい、朝ご飯です。」改めてうれしさがこみ上げた。湯気を立ち上らすご飯と味噌汁。輝かんばかりの存在感だ。もうこれと梅干しだけで何倍でもご飯がいけそうだ。古田の表情を察したのか主人は言葉を付け加える。「ご飯と味噌汁のおかわりはご自由におっしゃってください。」この主人の言葉は古田の心を躍らせた。ふと先に食事をしている彼を見る。すると彼はこちらの方を向いてにっこりと頷いてくれた。ーこれはワシに思う存分行けってことやな…。よし。古田は合掌した。「いただきます。」まずは何はともあれご飯だ。箸でそれをつまんだ古田はそれを目の前に引き寄せて様子を見る。シャッキリとしており、水気を十分に含んでいるためだろう、一粒一粒が輝いて見える。そこに豊かな湯気が立ち上る。古田はそれを口に放り込んだ。そして二度三度噛む。刹那一陣の風が拭いたような気がした。「うまい。」味噌汁を飲む音「あぁ…。」ふと先客を見る。彼は主人にお代わりを頼んでいた。ーそうだ。そうなるわな。絶対にそうなる。いや、そうならないはずがない。古田は完全に朝食と自分だけの世界に入り込んでしまった。「ごちそうさまでした。」なんだこの多幸感は。どうして宿の朝食というものはもうも旨いのか。同じ食事を同じ朝に自分の家で食べてもここまで満足しない。この仕組みを説明できる人がいるなら、教えて欲しい。ここが分かればそれで商売できるはずだ。「あの、ワシをここまで運んでくれたあの方、もうここ出ちゃいました?」食事を終えて部屋を出る古田は主人に尋ねた。「あぁあの人ですね。1時間ほど前に出て行かれました。」「早いですね。」「朝の散歩っていう人結構いらっしゃいます。」「なるほど。」「チェックアウトしたわけじゃないので、戻ってきますよ。いつになるかは分かりませんが。」「あ、わかりました。ありがとうございます。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーードアを開く音「待っていたよ。入りな。」彼は男を店の奥に招き入れた。「ナイトだな。」男はうなずく。「大丈夫か。誰かに付けられてないだろうな。」「分からない。」「分からない?」「はい。」「…そういうのは困るんだ。」「俺はプロでも何でも無いんだ。」「まぁ…。」マスターため息。「朝飯は食ったのか。」「少しだけ。」「食っていけ。用意する。コーヒーは飲むか?」「はい。」「タイミング良いよ。ちょうど今淹れたところだ。」朝戸の前に大きめのマグカップでコーヒーが出された。「ありがとうございます。」「それとこれ。」QRコードが表示されたスマホの画面を朝戸は見せられた。「何ですかこれ。」「こいつ読み取って、そこブックマークしておいて。」朝戸は言われたとおり自分スマホをかざしてそれを読み込んだ。すると飛んだのはとある商品のキャンペーンサイトだった。「何です…これ…。」「お前さんだけのためのウェブサイトだよ。」「ん?」「ほら一番最後にシステムメンテナンスってところがあるだろう。」朝戸は画面を一番下までスクロールする。たしかに真ん中に小さめのその文字があった。「それは隠しリンクだ。その中にお前さんの欲しいものがある。」「ここから先、見ても良いんですか?」「いい。だが見るだけにしておけ。決してそこから先は行くな。」朝戸はシステムメンテナンスの文字をタップする。すると画面の中央にGOと書かれたボタンのようなものがあるだけのページになった。「起爆装置だ。」「起爆装置?」「あぁ。明日こいつを使え。お前の望む派手目のことが起こる。」朝戸の目つきが変わった。そしてほくそ笑む。「いいか。実行の時までは絶対にこのボタンは押すな。その時になったら躊躇わずに押せ。」「わかった。」「後は存分に暴れろ。」「任せてくれ。」ドアが開かれる音「やってる?」男二人が店に入ってきた。瞬間、マスターの目つきが変わった。ーやってる?じゃねぇよ…。やっぱり付けられてるじゃねぇか…。ーこんな店に朝から大のおっさんが雁首並べて「やってる?」なんかあり得んよ。「営業時間は昼は11時から15時。夜は18時から26時って口コミサイトに書いてあったんだけど、ほら。」男は奥に座る朝戸の方を見る。「お客さんが入っていったから、まさかと思ってさ。」「たまに気が向いたときに開けてるんですよ。」「へぇ。」「ささ、どうぞ。」マスターは男二人をカウンターに座らせようとした。「あー奥の方が良いかな。」「奥ですか?」「うん。あのお客さんと同じのボックスの方が良いな。」ーうーん。グイグイ来るな…。「あ、どうぞ。お好きな席に。」「ありがとう。」男二人は椎名朝戸の対角の席に座った。「いやぁ人気の店って聞いてたから、ラッキーだわ。」「ありがとうございます。」「ところでこの店のボストークって名前、何語?どういう意味?」「ロシア語で東って言う意味です。」「ロシア語?え?何でロシア語?」偶然店に入ってきた割には質問攻め。一方の男がマスターと会話をし、もう一方の男は朝戸と店内の様子を観察する。ー完全にアレだなこいつら…。妙な空気感になった店の様子を察した朝戸は席を立った。「お会計お願いします。」「ありがとうございます。」「ディンギで。」「はいお願いします。」ディンギ音「ありがとうございました。」店から出て行った朝戸を目で追った男二人はお互いを見合った。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「対象、店を出ました。」「変わった様子は。」「特にありません。」「しばし待機せよ。」「了解。」朝戸観察班の班長はしばらく考える。そしておもむろに無線のマイクに口を近づける。「朝戸班から本部。」「はい本部。」「朝戸にバンかけしようと思います。」「なぜ。」「いまボストークという店に入って出てきました。」「ボストーク?」このボストークで椎名は片倉京子と接触を図っていた。ここでまたもボストークという単語を聞くことになり、富樫は驚いた。もしやこの店も先のネットカフェ同様、椎名の妙な行動の拠点となっているのではないか。「はい。駅前のカフェのような店です。営業時間外に店に入って、しばらくして出てきました。」「営業時間外に?」「はい。気分で店をやってる時があるとかで、朝戸はコーヒーを飲んでそのまま店から出て行きました。」「臭いな。」「いいですか?」「よし頼む。」「了解。」「あ、あと。」「何でしょう。」「ボストークの中も調べろ。」「了解。」班長は無線の周波数を変えて話しかける。「こちら指揮所。ボストーク聞こえるか。」「はい。こちらボストーク。」「店の中を改めて報告されたい。」「了解。」「よし。俺らは対象のバンかけだ。」車の中から班長ともう一人のスタッフが飛び出した。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーータバコを吸う音「ふぅー。」「ぐ…う…。」「おっと。」サイレンサーで打ち抜く音横たわった遺体から無線機を取り出したマスターは、イヤホンを装着する。携帯呼び出し音「私です。」「どうした。」「訳あって公安二名消しました。」「え?」「遺体はこちらで処理します。」「わかった。だがこれからどうするんだ。」「ヤドルチェンコに頼んでなんとかします。」「いや、ここでヤドルチェンコとなるとさらに公安を引き寄せてしまう。」「ではどうすれば。」「わかった。ここは俺に任せてくれ。」「申し訳ございません。矢高さん。」「はぁ…。てか何があった。」「朝戸ですよ。」「朝戸?朝戸がどうした。」「公安連れて来やがりまして。」「あぁそういうこと。」「はい。」「まぁ素人だから、そういうこともあるだろう。」「にしてもですよ。」「こちら指揮所。ボストーク聞こえるか。」「あ、ちょっと待ってください。」「はい。こちらボストーク。」「店の中を改めて報告されたい。」「了解。」「なんだ。」「店の中改めろと言ってます。」「適当に返しておけ。こちらで調整する。」「しかし消した二人をどうすれば…。」「それ含めて俺がやる。マスター、あんたはこのことをヤドルチェンコに悟られないようその場を取り繕ってくれ。」「わかりました。」「ではまた。」矢高はため息をついた。そしてスマホの画面に指を滑らせ、テキストを入力する。「公安特課二名欠員。対応されたい。」しばらくして了解との返事が返ってきた。それをしまった矢高はひとり呟く。「冴木ひとりに頼る状況がこうも続くのは良くない…。」神妙な面持ちで彼は車のハンドルを握った。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more21minPlay
November 25, 2022151 第140話このブラウザでは再生できません。現在時刻は2時半。陶は携帯電話でパソコンの画面を撮影した。シャッター音スマホに指を滑らせる音マウス音「シャットダウンと…。」席を立ち上がった陶は部屋全体を見回す。誰もいない。「よし…。」スイッチ音ドア閉める音革靴の音響くドアが開く音(遠くで)「ん?」陶は立ち止まった。背後でドアが開く音が聞こえた。いま自分が消灯して出てきた部屋の方だ。ーまさか…誰かいたのか…。汗のようなものが陶の首筋に流れた。そしてそちらの方に振り返る。「…気のせい…なのか…。」しばらくその場に立ち尽くした彼はきびすを返して元の方に進み始めた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー夜の街の音「おつとめご苦労様でした。松永課長。」「いやぁ…シャバの空気はいいもんだな。」「いまどちらですか。」「警視庁の前。コンビニ寄ってから察庁に行くよ。」「あれ?お迎えは?」「あぁ百目鬼が迎えに来るって言ってきたが、直ぐ横だろ。いいよ、断った。」「直ぐの復帰、大丈夫ですか。少し休んでは?」「いやそれは無理。片倉が倒れたって連絡が入ってさ。」「片倉さんが?」「あぁ。疲労らしい。」「それは…。」「知らないうちに情勢は随分と変わってるみたいだ。」「それはこちらもです。」「なんだ?」「目標、ここに来てボロ出しました。」「やったか…。」「仲野を唆していました。」「…ロシアがらみか。」「はい。我が国におけるアルミヤプラボスディアによる作戦行動を止めるには、そこと深い関係のあるロシアの力を借りるしかない。そこで議員の中でも最もロシアとのパイプをもつ仲野に動けと。」「なんで自衛隊を使わないんだよ…。」「そうすると手柄をすべて与党に持っていかれますよ、と。」「あぁ…そういうことね…。」「またついさっきのことですが、目標は下間悠里の写真を携帯で撮影し、それをどこかに送っていました。」「悠里の写真を?」「はい。」「…わかった。それについてはこれから情報を整理してすぐに調べる。」「よろしくお願いいたします。」「関。」「はい。」「時間は無いぞ。」「理解しています。」「上杉情報官は。」「全体の状況はほぼ把握しています。」「よし。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー金沢駅近くのビジネスホテル。この一室に空閑は居た。電気を消しベッドに横たわるも、先ほどから妙な汗が止まらない。併せて発熱もしていないのに体の節々が痛み、手足を虫が這いずり回るような感覚がある。これでは到底眠ることなど出来ない。何度も寝返りを打っては立ち上がる。うろうろと部屋の中を歩き回って、また横になるの繰り返しだ。今は4月30日木曜日。時刻は午前3時だ。5月1日まで24時間を切った状態。少しでも休息は取らなければならない。かと言ってじっと横になっていることもままならない。無為に時間を過ごしてしまっている自分に腹立たしい思いだった。バイブ音携帯電話が光った。それを手にした空閑は立ち尽くした。頭髪を真ん中で分け、丸眼鏡をかけた男がスウェットのようなものを着てこちらを見ている写真が表示されていた。「インチョウ…。」その画像に次いで椎名からのメッセージが届く。「収監されたときの下間悠里だそうだ。」「…。」「Вы собираетесь спасти Юрия, не так ли? ユーリを救うんだろ?」「Конечно. もちろん。」「じゃあ明日に備えて今日一日は英気を養え。いまのお前にはやることはない。明日に向けてお前はやるだけやった。」「休むと言っても…。」「休むのも仕事のウチだ。俺はお前の体調が心配だ。」「体調?」「ああ。」「何のことだ?」すこし間を置いて椎名から返信がきた。「その感じなら問題なさそうだな。」「どういうことだ?キング。」「とにかくいまお前は動かない方が良い。公安の目が光っているから。」部屋のカーテンを開き外の様子を見る。午前3時というこの時間でも、向こう側のホテルには明かりがついた部屋があった。どういう人間がどういう活動をしているかなんかわからない。ましてや人を欺いてなんぼの公安警察が、どういう形で今の自分を監視しているかわかりっこない。カーテンを閉めた空閑は椎名の意見を素直に聞くことにした。「…わかった。」「今どこだ。」「金沢駅近くのビジネスホテル。」「窮屈かもしれないがそこに一日引きこもってくれ。朝戸の管理は俺の方でする。」「リモートでの管理も可能だが。」「やめておこう。通信も割れるかもしれない。俺が別ルートで奴の管理をする。」「わかった。」「では当日。」机の上に携帯を置いた空閑は、そのままベッドに横たわった。そして目を瞑る。一瞬にして彼は深い眠りについた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーバイブ音点灯した画面を見ると時刻は午前3時だった。「なんだ…こんな時間に…。」ベッドの中から手を伸ばしそれを手にする。そこには若林という名前が表示されていた。咳払いをして彼はそれに出る。「私だ…。」「局長。お楽しみのところ申し訳ございません。」「馬鹿言え、こんな時間まで楽しめるか。時間を考えろ。」「あっ申し訳ございません。局長のことですからてっきり。」「ふふっ。」「ふふふ。」「で、なんだ。」局長と言われるこの男は空いた右手で隣に手を伸ばす。「全部聞かせていただきました。」「えっ。」男は何度も右手でその辺りをまさぐる。そこにあるはずの女性の体の感触がない。飛び起きた彼は部屋の電気を付けた。「警察のお偉方ってのは、どうしてこうも色に弱いのでしょうかね…」「おい…若林…お前…。」「警備局長になってもこの詰めの甘さ。組織改編をしても結局は人が運用します。その人が、しかもその要職にある人がこうだと、税金の無駄使いと言われても仕方が無い。」「ま、待て…。」ドアを叩く音。「開けろ!」「監察ですよ。」「若林…お前俺を…。」「何言ってんだ。国を売ろうとしたお前に比べてどっちがマシなんだって話だよ。」ドアがぶち破られる音が電話越しに聞こえるタバコを吸う音「若林です。局長の件終わりました。」「よくやった。」「しかしこうも色が効くとは。」「朝倉と同じだ。俺が干されて油断した。」「あぁ…。」「人間の性ってもんはそうは帰られんさ。」「同族が集まるわけですからね。」「ああ。」職員から何かの報告を受けた若林は、彼に撤収しろと合図を出す。それに敬礼で応えた職員は駆け足でその場から立ち去った。「ところで片倉が倒れた。」「えっ!?」「なので若林、お前は特高の応援に行ってくれ。」「あ、はい。ってか大丈夫なんですか。片倉さん。」「疲労だ。いまは病院で休んでいる。」「しかし自分に特高が務まるでしょうか。」「問題ない。百目鬼も居る。」「…。」「どうした?」「奥様には?」「おいおい。ややっこしいことは無しだ。」「冗談です。」「…冗談も言えん状況だぞ。」「気づけばオールスターじゃないですか。」「だろう?」「…しくじれませんね。」「だな…。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more14minPlay
November 11, 2022150 第139話このブラウザでは再生できません。枕元の携帯電話が光ったため、椎名はうっすらと目を開きそこに目を落とす。日付が変わった4月30日の午前1時半だった。ーなんだこの夜中に…。彼は自分の動きを悟られないように、布団を被ったままそれを操作する。空閑からのメッセージだった。「ルークから聞いた。石川の警察電話が不通になる障害が発生している。」「ほう。」「この計画は聞いていないが。」「ヤドルチェンコの仕込みじゃなくて?」「ヤドルチェンコ?」「うん。」空閑からの返信が止まった。ー空閑…どうした…。「派手にかますよう奴に頼んだって言ってたろ。」相変わらず彼からの返信が無い。ーおい…なんだこれは…。「大丈夫か?」「すまん。ちょっと頭痛が…。」ー頭痛?「鍋島にしてもらった。」「えっ?」「俺を鍋島そのものにする催眠をかけてもらった。」「なんだ…それ…。」「話すと長くなる。とにかく俺はあいつの手で鍋島能力を手に入れた。」「待て。鍋島能力ってまさか。」「そう。ルークが欲しがっていたやつさ。」ーで、頭痛か…。ーナイトと一緒だな。ーなるほど頭痛は鍋島コピーの共通症状ってことか…。ーこれで空閑が本当に鍋島能力を手に入れたならまだ良いんだが、どうも思ったような効果を得られていないみたいだしな…。「すまんキング。ヤドルチェンコってなんだ?」ーえ?椎名は改めて空閑の異常さを感じとった。ーヤドルチェンコの存在が記憶から消えてるのか…。「君は何度も彼と連絡を取り合ってるはずだけど。」「携帯を見ても連絡を取り合った形勢がないんだが。」ーそりゃそうだ…。残らないように連絡取り合ってるんだから。「待ってビショップ。それで本当にあさって大丈夫なんだろうな?」「どういうこと?」「そのヤドルチェンコがキーマンなんだけど…。」「は?」ーマジかよ…。こいつは想定外だ…。ーしかしここで妙にこいつに混乱されると、余計に面倒くさいことになる。「わかった。後は俺が代わりに奴とコンタクトをとる。ビショップ、君はゆっくり休んでくれ。」「ゆっくりもしてられない。」「どうして。」「妙な奴らが俺の周りをウロついている。」ーそうか…公安は空閑も抑え始めたか…。ーならばここは空閑とヤドルチェンコとの接点を切ってしまう絶好の機会と言うことか。「警察がウロつくなら尚更動かない方が良い。」「しかし…。」「普通にしてろ。普通にしてる分には奴らはなにも仕掛けてこない。」「今の状態が普通じゃないんだ。」「どういうことだ?」「虫みたいなものが体を這いずり回ってる。」ーえ…。「いまこうやって携帯を持っている手も、足も虫だらけなんだ。」ーそれ…シャブ中によくある症状だろ…。「頼む。」「キング。」「助けてくれ。」光定は朝戸に彼の妹と瓜二つの容貌をもつ山県久美子の写真をあてがって、その精神状態の平静を保たせていた。朝戸の喪失感の源である妹の代替物をもって心の穴を埋めたと聞いたことがある。ならばこの空閑も喪失感の元になるものの代替物を示すことが出来れば、副作用を抑えることが出来るのかもしれない。ー空閑の精神的支柱は…。椎名は空閑と初めて接点を持ったときの記憶を呼び起こした。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー5年前「今日からは俺と山田が交代でお前の面倒を見ることになった。」「田中さんは?」陶は首を振った。「それは残念です…。」「だがおかげでコソコソする必要がなくなったってわけだ。」椎名は指で机の上をたたき出した。「・・-・・ ・・- ・・-・ -- ・・- -・-・・ ・-・-・・ 盗聴器。」「-・・-・ ・-・-・ -・ ・・ ・- ・-・ --・-・ ・-・-・・ / ・・-・・ --・ -・・・ ---・- ・・ --・-・ -・ ・-・-・・問題なし。取り外した。」「証拠を見せろ。」パスケースのようなものを胸元から取り出した陶はそれを机の上に置いた。「これでどうだ。」「双頭の鷲…。」「そうツヴァイスタン人民共和国オフラーナの旗章だ。」「なるほど。」「もしもこの部屋に盗聴器が仕掛けられているなら、盗撮カメラももちろんそのままだ。だとすれば今、おれがここでこれを見せることは…。」「自殺行為。」「そう。だからその辺り理解してくれ。」「わかった。」椎名は立ち上がった。「それにしても急な緩和具合だな。」「俺が手を回した。」「はっ…まるでザルだ。いままでの警戒態勢は何だったんだ。」「協力者はまだまだいるんだ。」「キャプテンよりも上にか?」「上かどうかは分からんが、同格程度の人間はいる。」「浸透具合も相当なもんだ。」「下間一族の働きによるところが大きい。」「下間…。」「キャプテンからはいずれ亡命を装って日本人がやってくると聞かされていた。その時は俺がそのエスコート役になるよう指示をされている。」「逮捕後も君は彼のコントロール下にあると言うことか?」「任務に忠実と言ってくれないか。」「すまない。敬服する。」「ありがとう。」「お前の活動を全面的に補助するにはこうやって面と向かって話す機会が必要だろう。そのためのこの場の設定だよ。」「なるほど。」陶は4枚の写真を彼の前に並べた。「これは?」「君に協力してくれる人間たちだ。」その中の一人を陶は指さした。「空閑光秀。」「くがみつひで…。」「こいつは下間悠里の忠実な部下でな。」「ユーリの…。」「…悠里と面識あるのか?」「まぁ。」「それなら話は早い。この空閑は悠里に心酔した人間だ。悠里から逮捕される前に一連の工作について聞かされていた男だ。悠里は日本でインターネットコミュニティのコミュというものを運営していて、協力者予備軍を集めていた。空閑はそこの事務局の人間。」「つまり協力者予備軍の管理をする人間ということか。」「そうだ。」「俺は空閑を使って任務を遂行していけば良いと言うことだな。」陶はうなずく。「とにかくこいつは悠里の信者だ。こいつは悠里を解放させることがすべてだ。空閑を抑えていればこの連中は手足のように動くはず。」「わかった。」「ちなみに空閑の他には紀伊、光定、朝戸だ。」「紀伊、光定、朝戸…。」「紀伊は最近、警察に新設された公安特課の精鋭部隊、警視庁公安特課機動捜査班のスタッフ。光定は鍋島能力の研究者。朝戸は鍋島能力の実験体だ。」「鍋島能力の実験体?」「そうだ。実験に関する詳細はまた別の機会にお前に教えるが、この朝戸は光定によって完全に制御されている、いわば人形のような存在だ。つまり我々の鉄砲玉になり得る存在と考えてくれて良い。」「わかった。」「因みにお前はここで俺らの調べを受けた後、石川のほうで解放される。」「石川?」「ああ。悠里たちが失敗した石川だ。」「なぜ石川。」「悠里らの残党が多く残っているその地にお前を敢えて据えて、様子を見るんだよ。」「意外と徹底してるんだな。」「まあな。」「ここでは石川に行った後、お前がどのように空閑と接点を持つのかも綿密に打ち合わせておきたい。」それからしばらくして仁川は椎名賢明として石川で生活をすることとなった。ーまずは最寄りの牛丼屋を使え。そこからお互いで接点を持つ方法を探ってくれ。椎名は自宅近くの牛丼屋に入った。「牛丼並盛りで。」待つこと数分。注文の品が目の前に出された。なんだこのスピード感は。ツヴァイスタンではこんなことあり得なかった。店側の対応の良さに若干の戸惑いを感じながら、備え付けの箸を手にした時のこと、聞き覚えのある言語が左隣から聞こえた。「Вы король? お前がキングか?」ーキング…。俺のコードネームか…。「Да. そうだ。」「Я епископ.Люк рассказал мне о тебе. 俺はビショップ。ルークからお前のことを聞いている。」ールーク…。なるほど…チェスか…。「Вы собираетесь спасти Юрия, не так ли? ユーリを救うんだろ?」「Конечно. もちろん。」「Я позабочусь об этом. 俺に任せろ。」人目を盗むように左隣の男は一枚の紙切れを椎名に渡し、店から姿を消した。牛丼を掻き込んだ椎名は店のトイレに入った。メモを開く音「金沢市郊外のネットカフェ…。」店の名前を頭に入れた椎名はそれを便所に流した。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー空閑の精神的支柱は下間悠里…。「助けてくれ」というメッセージを最後に空閑からのものはない。症状が落ち着いたのか、それとも症状が酷くなり連絡すら出来ない状況にあるのか。ーここで自殺なんてのは勘弁だ…。布団を頭から被った椎名は目を瞑る。ーダメ元で朝戸みたいに悠里の写真でも奴に送ってみるとか…。「下間悠里が逮捕されたときの写真って手に入るか?」陶に送ったこのメッセージの返信はすぐだった。「手に入る。」「至急俺まで送ってほしい。」「わかった。」「いつ送ってもらえる?」「1時間もかからない。」「できる限り早急に頼む。」「わかったすぐ送る。」ーここで空閑にコケられたらいろいろ計算が狂ってくるんだわ…。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーTwitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more17minPlay
October 28, 2022149 第138話このブラウザでは再生できません。いつものように頭から布団を被った椎名は、その中でスマホの画面に指を滑らせていた。「ん?」陶からのメッセージが画面に表示された。ー紀伊倒れる…。椎名は即座にそれに返信をする。「何を使った?」「ノビチョクを使った。」「大丈夫か?バレないか?」「心配ない。いま手の者に処分させているところだ。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー町の雑踏ハイヒールの足音「お姉さん。」自分を呼ぶような声が聞こえたため、彼女はそちらに振り向いた。突如として物陰から男が現れたと思った瞬間、羽交い締めにされた彼女はそこに引き込まれる。大声を出そうとするも、もう一人の男が自分の口を手で覆ってきた。刹那、首筋が何か鋭利なもので切り裂かれるような感覚を覚えた。と同時に今まで感じたことがない部位で風を感じた。気づくと自分の視界に噴水のように湧き上がるような液体が見えた。この間ものの数秒の話。彼女の意識は遠のき、そのままそれが戻ることはなかった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「確認を怠るな。」「もちろんだ。」またも画面に通知が表示される。今度は冴木からだ。矢高の連絡先を伝えるメッセージだった。ーどれどれ…山田正良のこと矢高慎吾。こちらの方はご機嫌はいかがかな…。椎名は指を滑らせる。「お久しぶり。」しばらくして返信があった。「お久しぶりです。流石の活躍ぶりですね少佐。」「いま高橋君と話してた。」「高橋勇介ですか?」「うん。」「懐かしいですね。」「うん。」「さては奴の分身が殺された件でしょうか。」「山田君。君の仕業だろう。」「はい。」「どうして佐々木を消した?」「あなた様に直接コンタクトを取り出したからです。」「…。」「チェス組の連中や、陶自身が少佐とコンタクトをとるのは自然です。」「同志だもんな。」「はい。しかし佐々木はただのお目付役。チェス組が無事5.1テロを成功させれるよう、その支援をするだけの影の存在。決して表に出てはならない。」「うん。」「そんな影が出しゃばって少佐と直接接点を持った。」「出過ぎたわけだ。」「佐々木の動き。何かを感じ取った故の行動ではないでしょうか。」「だと思う。わざわざ高橋勇介の名前で電話をかけてきたんだから。」「無駄に勘のいい人間は邪魔以外なんでもありません。そこで奴にはご退場いただいたわけです。」「手際がいい。」「お褒めにあずかり光栄です。」メッセージのやりとりをする画面の上部に陶からのものが表示された。「今確認が取れた。」椎名はそれに了解と返して、矢高とのやりとりに戻った。「ルークは陶によって消された。」「え?ルークとは陶の特高における有力なエスでは?」「内ゲバだよ。」「あぁ…オフラーナお得意の。」「チェス組のクイーンとルーク。この主力を壊れた人形のようにぽいぽい捨てる。思い切りがいいというか。短絡的というか。」「私にとってオフラーナの粛正は、恐怖以外のなにものでもありません。」「俺は慣れてる。」「自分は生理的に無理です。」「あそこの掃除は徹底してる。ルークに毒を盛った人間の始末も完了済みだそうだ。」「あぁ…。」「どうした?」「無慈悲すぎます。そこがオフラーナの無理なところです。」「あぁそういうことか。」「はい。ただの駒としてしか見ていない情報機関特有のあの雰囲気がどうも性に合わないんです。」「だから君は軍を選んだといういう訳か。」「いいえ。」「?」「少佐。あなたがいらっしゃったからですよ。」この矢高からのメッセージを椎名はしばし見つめた。「5月9日の戦勝記念日には凱旋と行きたいものだ。」「ベルゼグラードですね。」「ああ。」「私もお供してよろしいでしょうか。」「もちろんだ。」「Слава Отечеству.祖国に栄光あれ。」「Слава Отечеству.祖国に栄光あれ。」椎名は電話の画面を暗くして、それをそっと置いた。そして誰にも聞こえないようにひっそりと呟く。「全部殺す。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「こんな夜遅くに何の用事ですか。陶専門官。」「またもノビチョクが使用された由。」「え?また?」議員会館の自分の部屋にあるソファで横になっていた仲野康哉は眠り眼をこすって飛び起きた。「今度は現役警察官に被害が。」「え?この間は警察OB、今度は現役?」「はい。」「なんで警察ばかりが。」「わかりません。ですが我々治安組織に対する重大な挑戦と捉えて良いでしょう。」「ふうむ…。」「仲野先生はロシアと深いパイプがあります。どうでしょう。今こそ先生のその人脈を利用して、独自にロシアからの協力を取り付けるよう動くというのは。」「私がロシアに協力を仰ぐ?」「はい。」「何の協力を仰ぐんですか。」「私が言うのもどうかと思いますが、日本の治安機関はダメです。こうも立て続けに化学兵器によるテロ事件を許してしまうほどですから。」「内調がそれ言いますか。」「はい。わたしはちゃんとした治安機関をこの国に作りたいのです。」「ちゃんとした治安機関とは。」「先生が精通するロシアという国をお手本にすれば、なんとなくイメージできるでしょうか。」「…。」「ロシアの情報機関と連携をする用意は私にはあります。」「待て。」「はい。」「陶専門官。君はアルミヤプラボスディアによる我が国への何らかの作戦行動が近いのではないかと、私に言いましたね。」「はい。」「アルミヤプラボスディアはツヴァイスタン人民軍に深いつながりを持つ民間軍事会社。ツヴァイスタン人民軍はロシア軍とも緊密に連携をしています。ロシアと連携をすると言うことは、アルミヤプラボスディアと手を結ぶと言うことにもなりませんか。」「いいえ。」「ではどう捉えれば?」「ロシアに止めてもらうのです。」「アルミヤプラボスディアをロシアに止めてもらう?」「はい。ツヴァイスタンの旧宗主国ロシアに手綱を締めてもらう。そのための調整を私がロシア情報部と行います。」「君がひとりで?」「はい。」この時仲野の携帯が震え、何らかの情報を彼に伝えたようだった。彼はおおきく息をついた。「どうされました?先生。」「あ、いや…。あの、陶専門官。君はロシアという国のことをよく知らないようです。」「と言いますと?」「そんなことをしてみなさい。奴らはそれに乗じて我が国を乗っ取ります。」「…。」「なぜソ連が崩壊し、いまのツヴァイスタンがあるか。それを考えたことがありますか。」「いえ。」「そんなにロシアラブならツヴァイスタンなんて国をやめてとっとと元の姿に戻れば良い。でもそうなる様子は一つも見えない。なぜ?」「なぜでしょう。」「ツヴァイスタン自身がロシアに愛想を尽かしているんです。表向き一枚岩を装ってる旧東側ですが、その裏で実は微妙なんですよ。」「…。」「このタイミングで旧宗主国がツヴァイスタンの連中に再び俺らの指導下に入れと偉そうに迫る。それはツヴァイスタンからの反感を買うだけの行動になることでしょう。」「先生。」「はい。」「先生が今おっしゃった考えは平時においては正しいのかもしれません。しかしいまは平時ではありません。有事です。」「有事…。」「そうです。有事では力こそが正義です。利害調整は力によって成されます。いま必要なのはツヴァイスタンを制御し、いざとなれば物理的にアルミヤプラボスディアを止めることが出来る力です。」「だからなぜそこにロシアが介在する必要があると言うんです。我が国には自衛隊という実力組織もある。」「自衛隊にできますかね?」「え?」「戦後一度も実戦を経験したことがない自衛隊が、百戦錬磨の奴らを止めることが出来ますか?」「それができるようにここ6年間、死に物狂いで防衛整備をしてきたんだろう。」「はぁ…。」「なんだ陶専門官。」「だからそれだと与党政友党に手柄持って行かれるでしょうが。」仲野は言葉を詰まらせた。「万年野党をいつまで演じるつもりなんですか?」「…。」「すぐそこに政権与党になるチャンスが転がってるんですよ。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー都内某病院救命救急センターの待合室にひとり座る百目鬼がいた。奥の自動ドアが開き、医師が姿を現した。百目鬼は立ち上がった。「容態は安定しています。」医師のこの言葉を聞き百目鬼は安堵の表情を見せた。「片倉さんからは有機リン系の神経剤らしきものの検出はされていません。」「では?」「極度の疲労が原因かと。」「…。」「片倉さんのほうは休めば回復します。」「紀伊の方は?」医師は首を振る。「意識はありません。呼吸も弱くなってきています。時間の問題かと。」百目鬼はベンチに座り、そのままそれに垂れかけた。「どうする…。頭とその補佐役が同時に欠けたら特高は機能不全だ…。」そのとき百目鬼の携帯が鳴った。「はい百目鬼です。」彼は覚醒したかのように突如すっくと身を起こした。「松永課長が復帰…。」「なるほど今回のノビチョク使用で疑いが晴れたと…。」「はい。…わかりました。すぐにお迎えに上がります。」電話を切った彼は思わず呟いた。「天は俺らを見捨ててはいなかったぞ…。片倉。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more17minPlay
October 14, 2022148 第137話このブラウザでは再生できません。「まぁ座れ。」言われるがままに紀伊はそこに座った。「回りくどいことは無しや。直球で行く。」「…。」「ビショップは空閑。空閑光秀。金沢の進学塾の経営者兼講師。ほうやな。」目の前に座る片倉とは彼は目を合わせず無言である。「黙秘か…。」あきれた顔で彼の様子を見た片倉はため息をついた。「紀伊、お前には期待しとってんけどなぁ…。残念だよ。」「…。」「ま、どうせ一生しゃべるつもりないんやろ。ほうやろうからこっちからしゃべらせてもらうわ。」こう言って片倉は両足を目の前の机の上に乗せる。「クイーンは光定公信。ナイトは朝戸慶太。ビショップは空閑光秀。んでキングは椎名賢明ってわけか。まるでチェスやな。」「…。」「チェスやとしたら他にはルークとポーンが居るはずや。お前はどっちや?」「…。」「警視庁公安特課機動捜査班のお前がまさかポーン、つまり使いっ走りの歩兵と言うことはねぇやろう。」「…。」「ルークはお前や紀伊寛治。」「…。」「そうやとしたらなんか見えてくるもんがある。」「…。」「ポーンは不特定多数の市民や。」片倉のこの言葉に紀伊の表情にわずかな変化があった。「ぶっ壊せ。ぶっ潰せ。」「…。」「これお前らの仕業ねんろ。あ?」「…。」「さっきの電話のやりとりでピンときたわ。椎名がキングって聞いた瞬間な。椎名の奴、個人的に動画編集の仕事を請け負っとるやろう。ちゃんねるフリーダムの制作責任者がゲロしたわ。なんやら金積まれてそいつが協力しとったらしいな。ぶっ壊せ動画をサブリミナルでぶち込むのに。」「…。」「んでそれだけだと今ひとつとでも思ったんやろうかね。椎名はウチの娘に直接接触した。」「…。」「5月1日のテロに関係するんか?」「…。」「椎名賢明。この男の詳細を紀伊、お前は知ってのことなんやろうな。」この時初めて紀伊は片倉の顔を見た。しばしの間無言の状態が続いた。「はぁ…紀伊…。お前調べる側はまあまあ優秀やと思うけど、調べられる方はどうもセンスがない。」「…。」「目は口ほどにものを言う。お前、椎名の正体を知らんままあいつと行動を共にしとったって訳か…。」「正体とは…。」「言える訳ねぇやろ。だら。」「…。」「ま、いいわ。」こう言って片倉は席を立った。「俺の離席が多いのを良いことに派手にやり過ぎたな、紀伊。」「…。」「ここ数日間、お前の行動はつぶさに監視させてある。どう言い訳しようがお前の企みの大体はわかる。」「う…。うう…。」俯いた紀伊がうめき声のような者を発した。「おいおい、これからやろうが。早くも完落ちとか、肩すかすような真似はやめ…。」「はぁ…はぁ…はぁ…。」紀伊の様子がおかしい。「おい、どうした。」異変に気がついた片倉は俯く彼の抱き起こす。彼の口からは唾液が漏れ出し、その呼吸は荒い。「おい。しっかりしろ!紀伊!」体を揺さぶり名前を呼ぶも、紀伊の体は脱力しきり、目は白目をむいている状態。明らかに異変が生じていることを感じとった片倉は記録係に救急車を呼ぶよう指示を出す。「おい!しっかりしろ!紀伊!紀伊!」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー電話の音「はい公安特課富樫です。あ、片倉班長。岡田課長ですね、お待ちください。」うなずく富樫を見て岡田はそれに出た。「岡田です。」「なんや通信障害って。」「分からんがです。警察携帯で通話できんのです。」「…テロの類いか。」「分かりません。」「調べてこっちに報告してくれ。」「はい。」「で何や。」「椎名の件です。」「…椎名がどうした。」「特高、うちらを差し置いて独自に椎名の管理しとるんでしょう。」「は?何のこと?」「惚けんでください。こっちは捜査員二名が犠牲になったんです。」「捜査員二名犠牲?」「あれ…まだそっちまで話、行ってませんか。」「おう。ってか何や、何があったんや。」「はぁ…。」「あのー岡田が言っとることの半分も理解できてないんやが、俺。」富樫を見ると彼は口をへの字して、肩をすくめてそれに応えた。「本当に何も知らんがですか。」「知らん。ってか何があった。」「…。」「ってかなんでそっちも椎名なんや。」「…え?」「わかった。なんかお前の物言い、俺の方に何か知らん疑いをかけとる感じやしこっちからお前に報告するわ。」「あ…えぇ…。」「キングが誰か分かった。」「え?」「キングは椎名や。んでルークはウチの捜査員、紀伊寛治。」「ええっ!」岡田も富樫も声を出した。「そのルークなんやけど、俺の調べ中に容態が急変。いま病院に救急搬送されたところや。」「なんで?」「知らんわい。急に息が荒くなって白目むいてよだれ垂らし出した。」「なんだ…それ…。」「岡田、お前椎名が何やって言うんや。」岡田は先ほどのネットカフェでの爆発事件の一部始終を片倉に説明した。「捜査員二名が死亡…。」「はい。」「当の椎名は?」「いま自宅です。」「伊藤拓哉の行方は。」「掴めていません。」片倉はため息をついた。「まさかほんなことになっとるとは…。」「ここ数時間で石川の情勢はめまぐるしく動いとります。」「そのようやな…。」「で、その椎名なんですがどうも我々石川の公安特課をすっ飛ばしておたくの人間と連絡を取りあっとるようやったんです。そこで片倉班長に直接ぶつけてみようということで、今回の電話です。」「まぁお前の言うとおり椎名が怪しい行動しとるとすっと、ウチの紀伊がその受け皿になっとった可能性があるってわけや。」「はい。」「ただそこがちょっと首をかしげる点でな。」「どういうことです?」「紀伊が倒れる前、気になる事言っとってぃや。」「なんですか。」「どうも紀伊自身は椎名が仁川征爾やってことを知らんかったみたいなんや。」「え?」「え?やろう。」「じゃあ紀伊はどうやって椎名と接点を持ったんですか?」「わからん。俺はてっきり紀伊がどこかで椎名が仁川征爾やって事を聞きつけて、奴と何らかの接点を持とうとしたんじゃないかって思ったんやろうと踏んだ。けどどうも違う。」「椎名賢明というただの一市民と特高職員が、個人的に接点を持つってのはどうも合点がいきませんね。」「ほやろ。」「石川の公安特課の職員が椎名と接点を持つなら未だしも、東京の特高職員ですから。」「あいつが仁川が東京で保護されとった時代に、それに何らかの関わりがあったって言うんなら納得がいくんやけど…。」ここで片倉は黙り込んだ。「あの…班長?」「…保護されとった時代…。」「何か心当たりが?」「いや、なんでもない。」片倉が石川の公安特課を差し置いて、独自に椎名の管理をしていたのではないかという岡田の疑念はこの段階で完全に晴れていた。反面、椎名の存在が脅威としてしか映らなくなっていた。「班長。椎名のガラ抑えましょう。」「…。」「奴の周りで人が立て続けに死んどります。」「だな。」「良いですか。」「待て。」「なぜ。」「5月1日金曜の対応は明日、4月30日木曜の午前に判断される。もしも椎名がキングとしてそのチェス組の司令塔をやってるとすれば、まだこれから何らかの動きを見せるはず。その瞬間を抑える方向で行こう。」「しかし…。」「この件は俺が百目鬼理事官に判断を仰ぐ。それまでは今まで通り監視を怠るな。」岡田は唇をかみしめた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「と言う状況です。」片倉の電話での説明を聞き終えた百目鬼は席を立った。そして室内をうろうろと歩き出した。「モグラは紀伊だけじゃない。」「は?」「先ほど病院から連絡があってな。紀伊に有機リン系神経剤の典型的な症状が見受けられるらしい。」「神経剤?」「そう神経剤。」「え…まさか…。」「わからん。ただノビチョクも同じ有機リン系の神経剤だ。」「え…どのタイミングで…。」「知らん。しかしもしも紀伊の症状が本当に神経剤によるものだとしたら片倉、お前のところの誰かがそれを盛ったってことになる。」「え、でも…どうやって…。」「なにか思い当たる節はないか。」片倉は記憶をたどる。電話を切った紀伊がこちらに振り向いた。驚きのあまり彼は手にしていた紙コップを床に落とした。拾い上げたそれの中は空だった。「ひょっとして…。」「どうした。」「理事官、ちょっと自分も気分が悪くなってきました…。」「え?」「あれかもしれません…。紀伊が飲んだコーヒーかなんかやと思います…。」「おい、片倉?」「か…み…コップ…。」片倉はその場で崩れ落ちた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more16minPlay
September 30, 2022147 第136話このブラウザでは再生できません。玄関ドアの音部屋に入ってくる音「あ!帰ってきた!」画面を見ていた富樫は大きな声を出したため、岡田もつられてそれを見る。「ひとまず…よかった…。」その場に居る二人とも安堵の表情を見せた。「椎名の車が見当たらんっちゅう現場の報告から、多分タッチの差で難を逃れとるやろうと思っとりましたが、これでひとまず安心ですね。」岡田は口をつぐむ。それを見た富樫はしまったという表情を見せた。「ウチから二名だ。」「そうでした…軽率な発言申し訳ございません。」岡田は両手で顔を覆う。そしてしばらく室内をうろうろと歩き、足を止めた。「まさか…椎名がネットカフェを爆破させた…とか…。」「え?」「椎名のガラ抑えろ。」「自宅にいることを抑えてるのに?」「いい。ニンドウでここまで引っ張ってこい。」「マジで言っとるんですか課長。」「…。」「椎名はいつでもパクれます。現にいまこうやって奴の動きをつぶさに監視しとるんです。」「ネットカフェの中はどうなんだ。」「…。」「ネットカフェから自宅までの間もロストしていたぞ。」「それは…。」「偽造免許の伊藤拓哉が椎名の部屋の隣に来た途端これだ。ウチの捜査員二人は吹っ飛び、民間人の重軽傷者多数。なのに爆心地の一番近くに居た伊藤は忽然と姿を消し、椎名はすんでの所で難を逃れた。」「…ですね。」「全部これ、椎名の計算通りだったとしたらマサさん。どう思うよ。」富樫は何も言えない。「もうダメだ。特高にすべてを問い質す。」「その方が良いかもしれません。」「特高が椎名と何かよくわからん関係なんなら、今回のこの爆発事件の責任の一端は特高にある。」「はい。」ふと岡田は考えた。特高周りの動きでほかにも怪しい点がある。片倉京子が椎名と直接接点を持っていた点だ。片倉京子は言うまでも無く片倉肇、特高班長の娘。古田からの情報によれば、自分が抱えている特集の手伝いを椎名にお願いしているとのこと。片倉特高班長の娘である京子との接触は単なる偶然だったのか。それとも特高班長である片倉と何かを通じ合うための偶然を装った出来事なのか。時を同じくして特高から派遣されてきたのは、京子の恋人である相馬周。相馬と京子との交際は片倉公認である。椎名と京子が直接接点を持っているところに、相馬と木下がニアミスするように出現。一瞬、浮気の現場を目撃してしまったと焦ったが、実はあれもケントクを欺くための特高の巧みな指示によるものだったのではないか。考えれば考えるほど疑念が沸き起こる。気がつくと岡田は携帯を耳に当てていた。不通音「あれ?」耳からそれを外し、画面に目を落とすと通話に失敗しましたとの表示が出ている。「なんじゃこれ。」もう一度通話ボタンを押すも、同じ表示である。「課長どうしました?」「なんかうまく電話できんげんけど。」「え?」今度は富樫が片倉肇に電話をかける。不通音「課長。ワシの方もです。」「こちら本部。現在通信障害が発生し、管内の携帯電話がつながらない状況が発生している。当面の間、各員は無線、若しくは固定電話の通信手段を採用されたい。障害復旧の目処は追って連絡する。以上本部。」「何これ…。」「気味悪いですね…。」こう言って岡田は固定電話の受話器を持ち上げた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「班長は外出中です。」「そうですか…。」「石川のケントクは班長の携帯ご存じなんでしょう。そちらに直接連絡を取られたら…。」「通信障害が発生していまして。」「通信障害?」「はい。石川の管内のすべての携帯電話が不通になってます。」「それは大変だ。」「なので班長から折り返し石川の岡田まで連絡がほしいのです。」「わかりました。伝えます。」「至急で。」「了解。」電話を切る音「どうした?」電話を切った特高スタッフに紀伊が声をかけた。「石川の岡田課長が片倉班長に連絡を取りたいと。」「え?携帯知ってるだろ。」「なんでも石川の管内の携帯、全部不通のようです。」「マジか。」「はい。」ーえ?通信の遮断って予定にあったっけ?しかもこのタイミングで…。「とりあえず班長に連絡とります。」「あ、待て。」「え?」「班長には俺から連絡とる。お前は石川のその通信障害のことをもう少し詳しく調べろ。」「あ、はい。」「紀伊主任。コーヒーお持ちしました。」紙コップに入ったそれを手にして、席を立った紀伊は別室に入った。そしてそこで携帯をかける。「はい。」「なんだ電話通じるじゃないか。」「何言ってるんだルーク。どういうことだよ。」「いや、いま石川の警察内の携帯電話が不通だって話が入ってきててさ。」「携帯が不通?」「あぁ、でそんなプランってあったっけ?って思ってビショップ、お前に確認したくって。」「ないよ。偶然だろ。ってかどこのキャリアだよ警察の携帯って。」「イツモ。」「イツモ?俺のこの携帯もイツモだぜ。」「え?」「え、待てよ。イツモの障害じゃなくて警察携帯の障害なんじゃないのそれ?」「かもな…。」ールークの奴…ちょっとした異変に動揺しすぎだ。何か変なことがあったら直ぐに誰かに確認をとろうとする。こうも決行直前であたふたされるとこっちの身動きがとれなくなっちまうじゃないか。「ルークも信用できない。だから用のないこの二人を同時に消す絶好の機会だと思わない?」119ー然もありなん。ーでもどうやってルークを消す?「なぁクイーンは始末したんだろ。」「あぁ。」「落ち着けよ。偶然だろう。たまにあるだろう通信障害なんて。」「あ、あぁ…。」「なんか不安になるよ。最近のお前と連絡とってると。」「不安?」「あぁ不安になる。一番冷静沈着でなければならないポジションだろうよ。特高警察なんだし。」明かりをつけて室内を見渡す。長机に椅子。自分以外にこの部屋には誰もいない。外部と連絡を取るときには、常にそこに人気がないか確認している。「その選ばれし特高警察である俺が動揺するようなことが起こってる。どうしてそう考えられないんだ。」「なんだその言い方。」「いいか、お前らの方だ気をつけてもらわないといけないのは。俺らの協力なしには何も為し得ないポジションにあるんだぞ、お前らは。」そう言って紀伊は手にしていたコーヒーに口をつける。「随分、お高くなったもんだなルーク。」「それはこっちの台詞だ。」「とにかく確認をしてほしい。ひょっとしたらキングの奴、まだ明らかにしていない計りごとを持ってんのかもしれない。」「もしも今回のその通信障害が意図的に引き起こされてものだとしたら、確かにその線も気になるな。」思っていたよりコーヒーは温い。彼はそれを一気に飲み干した。「そうだろう。」「椎名賢明…。」「そう、ツヴァイスタン人民共和国の工作員、椎名賢明。」「本当の名前は何なんだろうな。」「知らん。俺もキングというあだ名しか教えてもらっていない。」「キングの思うように俺らはただ動いてるだけ…なんてことも考えられるってわけか。」「それでもいいんだ。結果が俺らの望むものであれば。」「確かに。」「ただ予期せぬ事が起こると、対応ができなくなる。それだけは避けたい。」「わかった。確認してみる。」「頼んだぞビショップ。」電話を切り部屋から出ようと振り向くと、そこに片倉が立っていた。思わず紀伊は手にしていた紙コップを床に落とした。「椎名賢明がツヴァイスタンの工作員?」「え…。」「椎名賢明はキング?」「…。」「今、頼んだぞビショップって言ってたよな、紀伊。」片倉は床に落ちた紙コップを拾い上げた。「ここじゃ何だから、場所変えようか。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more14minPlay
September 16, 2022146 第135話このブラウザでは再生できません。椎名がネットカフェの個室に入ったと報告が入って1時間半。彼に張り付く現場捜査員から変わった様子などの報告は未だない。「そういやいつ頃からやったけ…。週に一回はネットカフェ。これが椎名のルーティンになったんは。」ホットコーヒーに口をつける息をつくマウスの音しばし無音「ワシをすっ飛ばして頭越しに直でやり取りする警察の誰かさんもさることながら、身近で世話してきたワシに悟られんように特高とコンタクトとっとった椎名にもがっくり来ました。」59「あいつがワシをすっ飛ばして、特高とコンタクトとるとしたらこのネットカフェを利用するタイミングが一番可能性が高い…。」富樫はとっさにマイクを口に当てる。「富樫から椎名班。」「こちら椎名班。」「椎名は個室に入ったとの報告であるが、そこには隣部屋とかあるのか?」「はい。個室は6室。椎名が入る部屋は角部屋でして、隣部屋は一室あります。」「その部屋は使用中か。」「え?」「その部屋が使用中ならそこの利用者調べてくれ。」「確認して報告します。」ドアを閉じる音部屋に岡田が戻ってきた。「いやぁ凄いわ…。」「どうしたんですか。」「これ見てみ。」岡田は携帯の画面を富樫に見せる。「なんですかこの残念な頭のおっさん。」「よく見てみろ。」「え?よく見るんですか?」「うん。」「凄まじい散らかしっぷりですね。こんな具合になるくらいやったら、ワシならいっそ坊主にしますけどね…。なんちゅうかみっともない…。」富樫は黙った。「気づいた?」「はい…。」「誰かな?」「…確か…矢高とか言ったような…。」「そう。その通り。矢高慎吾。マサさん、あなたとは能登署で一緒やったことがあると思う。三好さんも。」「どうしたんですか、この矢高がなにか?」「ウチの捜査員がこいつと直接接触するようなことがないように徹底してほしいんやわ。」「…なんで?」「いろいろあって言えん。」「…。」「もしも偶然接触したとしても、すぐに退け。もちろん公私ともに。」「教えてください。どうして矢高が。」「心強い人間からの指示。」「心強い人間?」「心配ない。心強い人間がこちらに接触してきた。」「心強い人間?」「ああ。」「誰ですか?」「それは言えない。」133「ほら今マサさん、この写真見て矢高やってすぐに分からんかったやろ。」「いや、あまりにも汚い頭やったんでそっちに目が行ってしまって。」「プロっぽくないか?」「あ…。」「見た瞬間、その汚らしい禿げ散らかした様子で頭の中がいっぱいにさせられる。」この岡田の言葉に富樫は思わず身をすくめた。「ヤバい奴やぞ、こいつ。手一杯の今の俺らには対応は無理や。ほやからここは心強い人間の指示の通りにしよう。そいつががっつり対応してくれる。」「はい。」「すぐにケントク全員に知らせてくれ。」「わかりました。」キーボードの音富樫はすぐさま県警の公安特課全捜査員対象に矢高の画像を送る。次いで無線で矢高との接触を持たないよう指示を出した。「仮に電話等で向こうから接触があれば、深入りせず至急ケントク富樫まで報告されたい。以上ケントク。」「椎名班からケントク。」「はいこちらケントク。」「椎名の隣部屋は現在空室です。つい10分前までは利用されていたようです。」「その部屋調べてくれ。ついでにどんな奴がその部屋に居ったかも。」「はい。」「どうしたマサさん。」「いや椎名の奴いつものネットカフェに居るんですが、よく考えたら、こいつがワシをすっ飛ばして特高の誰かとコンタクトをとるとしたら、このタイミングが一番やと思ったんです。」「なるほど。」「個室でセキュアなネット環境。そして施設備え付けのPC。ワシらの監視をかいくぐれる。」「椎名のPCは遠隔でマサさんが中を見れるが、店の備品は簡単にそんなことできっこないもんな。」「はい。」「で、なんで隣部屋を?」「なんとなく気になりました。」「どう気になった。」「今まで我々を欺いて特高と接点をもってきた椎名です。椎名ひとりの考えで奴の周りがまわっとる訳じゃありません。特高の中の誰かが奴を手引き若しくは指南しとる可能性もある。となると裏を読む必要があります。」「ネットカフェで誰かとコンタクトをとるとしたら、まぁ普通はネット、携帯、SNSとかやな。そいつらを遠慮無く使えるのが椎名にとってネットカフェの良さやしな。」「だがそこであえて真逆の方法を使うことでワシらの裏をかくとも考えられませんかね。」「…隣部屋に特高の誰かが居た。」「もしくはそのエスが居た。」「椎名がこの店に入る時、いつも。」岡田が言うように、もしも椎名がこのネットカフェを利用し始めた当初から、いつも特高が独自に椎名と接触していたとしよう。石川の公安特課の極秘任務である、椎名の行動監視。これが何の意味も持っていなかったことになってしまう。公安特課による監視行動は、特高の本当の意図を公安特課から隠匿するためだけに命じられた任務だったとの意味合いを持ってくる。「だとしたら何で?何でって話ですよ岡田課長。」「だよな。」「椎名班、隣部屋に入りました。」無線の声が富樫と岡田のモヤモヤとした気持ちを吹き飛ばした。「怪しいものが無いかひととおり調べてくれんか。」「了解。」「ちなみにさっきまでその部屋を使っとった奴は?」「伊藤拓哉という男です。」「伊藤拓哉?」「ちゃんとした店でして、会員証を作る際に本人確認をしてたんです。そのファイルはしっかりデータで保管されていました。いまそちらに免許の写しを送りますので検証をお願いします。」富樫のパソコンにそれが届いた。「きたきた。」マウス音口ひげを生やし、縁が厚めの眼鏡ををかけている男の写真だった。「なんかぱっと見やと、中東系のハーフかってぐらいの顔立ちやな。」「はい。ひげも眼鏡も自然です。」「単なる男前か…。」ダブルクリック音富樫は写真を拡大縮小して、顔の特徴をつかもうとする。「ケントクから椎名班。」「はい椎名班。」「この伊藤の情報は他にはないかどうぞ。」「椎名と同じく常連です。来店頻度は3週間に1回程度です。使用する部屋はまちまちです。いつも個室というわけではなさそうです。」「考えすぎか…。」「それならそれで良いんですが…。」「一応、この伊藤の照会とっておいて。」「了解。」富樫は無線を使って紹介センターに連絡を取りだした。「こちら椎名班。」富樫が無線対応中のため、岡田がそれに応えた。「はいケントク。」「ひととおり調べたが、特に不審な点はありません。床にはマットのような者が敷かれてますが、めくりあげても何もありません。」「もう一度椎名の部屋と隣接する壁側を重点的に調べてくれないか。」「壁側ですか?」「あぁ何か小さな穴のようなもんとか、何かを受け渡しできそうな隙間とかないかな。」「穴のようなものは確認できませんでしたが…。」「念のためや。もう一回頼む。」「わかりました。」「課長。」振り返ると顔を青くした富樫がいた。「どうした。」「この免許証、偽造です。」「え?」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「よし、もう一回壁側調べるぞ。」「もう一回ですか?」「ああもう一回だ。小さな穴とか隙間みたいなもんがないか見るんや。」「今度は叩いてみますか。」「だら。んなことしたら隣に丸わかりやろ。」一畳半程度の狭い個室の中で立派な体躯の男二人が壁に手を当てて何かを調べる様子は、端から見ると滑稽に映った。「あ。」「なんや。」「穴あるじゃないですか。」「まじか。」どれどれとしゃがみ込むとそこにはコンセント口があった。「確かに穴言うたら穴やな…。」こう言ってそれに触れると、ガタリと右に少しだけずれた。「まさか。」再びコンセント口を動かそうとしたときのことである。爆発音ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「偽造?」「はい。該当する番号は別人のものです。」「と言うことはこの伊藤…。」「ビンゴかもしれません。」とっさに岡田はマイクを持つ。「ケントクから椎名班。」返事がない。「ケントクから椎名班。」「…。」「ケントクから椎名班。聞こえますか。」「…。」コールサイン「本部から各局。先ほど19時半頃、熨子町付近で爆発音がしたとの報あり。付近のPBは直ちに現地に急行されたい。」「こちら北署。今、最寄りのPBからPMを派遣した。」「了解。現場を把握次第本部まで報告されたい。」「北署了解。」「え…。」「ケントクから椎名班。」「…。」「ケントクから椎名班!」「…。」「ケントクから!」「課長。例のネットカフェは熨子町です…。」無線を力なく落とした岡田はその場で崩れ落ちた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「仮に電話等で向こうから接触があれば、深入りせず至急ケントク富樫まで報告されたい。以上ケントク。」「こんな感じです。矢高さん。」後部座席に座る男は停止ボタンを押して、それを横に置いた。そこには縁の厚い眼鏡と、つけ髭のようなものもあった。「公安特課としては我々のことはノータッチで行くんだな。」「別の情報部預かりということでしょう。」「自衛隊か。」「でしょうね。」運転席の矢高はルームミラーを確認する。「問題ないですか?」「問題ない。尾行については公安特課の方が一枚も二枚も上手だ。」「ですよね。」「ただ油断はできない。素人じゃないからな。」「で、少佐の件どうします?」「俺と直で連絡を取りたいってやつか。」「はい。ベネシュ隊長は問題ないって言ってました。」矢高は返事をしない。「どうしたんですか?」「苦手なんだよ。」「少佐が、ですか?」「うん。」「え?でも矢高さん、少佐の面倒を東京で見てたんでしょ。」「面倒、見てたのかね…俺。」「違うんですか。」「なんか逆にこっちが監視されてるような気がしたよ。正直。」「そうなんですか。」「ああ。」「どんな人間の懐の中に入り込むことが出来るあなたにも苦手なものがあると言うわけですか。」「あの方の場合、むしろこっちが逆に取り込まれそうな気がしてさ…。」「それが少佐の凄さなんでしょう。」「まぁな。」コールサイン「本部から各局。先ほど19時半頃、熨子町付近で爆発音がしたとの報あり。付近のPBは直ちに現地に急行されたい。」「こちら北署。今、最寄りのPBからPMを派遣した。」「了解。現場を把握次第本部まで報告されたい。」「北署了解。」後部座席の男は携帯無線機にイヤホンジャックを差し込み、それを耳に装着する。「自分、公安特課に戻ります。」「その方が良さそうだな。」「番号どうします?」「いいよ。少佐には伝えてくれ。」「了解。」車はとあるスーパーマーケットの駐車場に止まった。「佐々木の始末といい、少佐との連絡役といい優秀だよ君は。」「ありがとうございます。」「俺ももう少し若ければなぁ。」「矢高さんにはトゥマンの目って大事な役割があるじゃないですか。」にやりと笑った矢高は彼を降ろした。「もうしばらくだけ陶のハンドリング頼むよ。冴木。」ルームミラー越しに冴木の姿が消えるのを確認し、彼もまたこの場を後にした。...more19minPlay
FAQs about オーディオドラマ「五の線3」:How many episodes does オーディオドラマ「五の線3」 have?The podcast currently has 262 episodes available.