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オーディオドラマ「五の線」をPodcast配信するためのブログです現在「五の線リメイク版」のブログへ移行中です。1ヶ月程度でこのブログは削除されます。移行先 https://re-gonosen.seesaa.net/... more
FAQs about オーディオドラマ「五の線」:How many episodes does オーディオドラマ「五の線」 have?The podcast currently has 149 episodes available.
October 23, 201938,12月20日 日曜日 18時32分 古田宅このブラウザでは再生できません。「鍋島惇。」「まさか。なんでここであいつが出てくるんや。」「ふっ、なんでって、しゃあねぇやろ。高校時代の同級生やからな。しかも奴さんは高校時代の戦友と来たもんや。繋がってしまったからにはどうしようもない。」「でも、この鍋島は熨子山のヤマと関係あるんか。」「さぁ、それは分からん。そいつはこれからの捜査次第で関係性が出てくるかもしれんし、まったく関係がないかもしれん。とにかく、一色の周辺を洗っとったらこんなもんが出てきましたってことや。」「トシさん…あんた情報集めてくるのは良いんやけど、頭こんがらがってこんか。」「だら、これが仕事やろいや。」4年前、金沢市内のとある私立病院をめぐって横領事件が発生した。経理担当の病院職員が診療報酬を水増しして国に請求し、その差額分を横領するというものだった。この捜査にあたっていたのが古田であった。被疑者である病院職員はすぐさま逮捕されたが、その使徒がなかなか判明しなかった。当初はギャンブルですったとか、散財したとかその男は話していたが、裏が取れなかった。古田のスッポン捜査で被疑者の周辺を虱潰しにあたっても彼が散財した形跡を見つけることはできなかった。そこで疑念を抱いたのが当時捜査二課課長として赴任してきて早々の一色だった。現金だけが領収書もレシートも目撃者も無く跡形もなく消えている。しかもその横領金額は5億円。何回かに分けて横領されていたことはわかるが、忽然とその大金が消えていることが腑に落ちない。ひょっとすると闇社会への資金還流ではないかと目星をつけた一色は、金沢市内で一大勢力を誇る指定暴力団、神熊会の家宅捜索を行うために裁判所へ令状を請求した。しかしその捜索を行う直前に事件が発生した。神熊会の構成員である男が何者かに殺害されたのだ。そしてその数時間後には先程の横領事件の舞台となった私立病院の理事長の息子が殺害された。立て続けに発生した殺人事件。被害者に仁熊会の構成員もいる。そのため捜査二課による仁熊会への家宅捜索は中止となった。変わって捜査一課が仁熊会と私立病院の捜査にあたることとなり、二課はそれらから手を引くこととなった。まもなくして若い男が出頭。この2つの殺人事件はどうやらこの男による犯行のようだった。殺害の動機はむしゃくしゃしたからやったというもの。駐車場に車を止めようと思ったら、男がそこに止めるなと因縁をつけてきたので、邪魔だったからナイフでメッタ刺しにした。その後、車で逃走中にたまたま見た男がこれまたムカついたので、後をつけて人気のないところで刺殺したというものだった。被害者に仁熊会の構成員がいることから、暴力団の抗争が何らかの形で関係していると思われたが、出頭した男はカタギだった。とってつけたような動機と残忍な犯行。精神鑑定が要される事案かと思われたが、犯人の自供は理路整然としており、それを裏付ける物証もあった。それに犯行現場に居合わせたという目撃者もいる。そのため裁判所は精神鑑定を要求することなく、この事件は早々に結審した。この犯人には無期懲役の判決が下された。スッポンの異名を持つ古田はその後も心に引っかかるものがあり、再度、その殺人事件の現場を見たという目撃者とコンタクトを取ろうと試みる。しかしその目撃者はすでにどこかへ引っ越しており、行方は分からなかった。事件から2年経ち、古田は夜の片町で行きつけの居酒屋で一杯引っ掛けて帰宅しようとしていた。通りをはさんだところにある高級クラブの前に一台の高級車が横付けしている。誰かを待っているようだ。運転席には男の姿が見えた。間もなくクラブからひとりの男が出てきた。運転手の男は車から降りて、店から出てきた男を車に迎え入れた。その瞬間、古田の動きが止まった。この運転手、2年前の殺人事件の目撃者に似ている。運転手はサングラスをしていた。そのため顔の全貌がわからない。しかし体つきや顔の骨格が古田が記憶する目撃者の外見と似ている。間近まで迫って、運転手の様子を探ろうとしたが、彼は熊崎を車に乗せるとその場から立ち去った。後日、このことは捜査二課で報告された。二年前の事件の目撃者が仁熊会の関係者だとすれば、変わり身を立てて犯人を出頭させた疑いがある。当時捜査二課課長だった一色は再度慎重に捜査を行うよう上に働きかけた。しかしすでに裁判は終了し犯人は刑に服している。それを自らの手で掘り起こして、傷口に塩を塗り込むようなことはやめるべきだと、彼の訴えは取り上げられなかった。「この写真はそのあとにマル暴が別件で仁熊会本部の前で撮った写真や。丸サングラス、コケた頬、少し釣り上がった口元、がっしりとしたガタイ。片町で熊崎を迎えに来た男と同一人物や。つまり2年前の殺しの目撃者に似た男。」「確かこいつが『鍋島』って言われとるんやったな。」「おう。年に何回か仁熊会の本部に来るが「鍋島」っちゅう名前以外、どういう素性の人間かは誰も知らんっちゅう謎の男。仁熊会の人間ですら素性を知らん人間やさかい、それ以上マル暴でも調べられんかった。」「んで、この鍋島と2年前のコロシの目撃者の一致もできんかった。」「ああ。ほんでこのリストや。」そう言って古田はおもむろに一枚の紙を片倉の前に差し出した。「当時、鍋島っちゅう姓を語る人間を片っ端から調べた。この石川県に本籍と住所を持っとる奴全部な。」片倉はそのリストを手にとってしばらくながめた。「トシさん…。ここには惇って奴、おらんぞ。」「ほうや。やから、分からんかったんや。」「と言うと?」「つまり、鍋島はここの人間じゃない。よそ者や。」「...まてまて、トシさん。あんたが言っとることを整理させてくれ。一色の高校の同級生に鍋島惇という男がおった。その鍋島は2年前の殺しの目撃者に似とった仁熊会に出入りする「鍋島」って言われとる男と顔が非常に似とる。同じ名字で顔が似とる。ほやけど鍋島っちゅう名字で惇っちゅう名前の人間は、ここ石川県におらん。戸籍と住民票を見る限り。それだけのことやろ。」「ほうや。」「あの…トシさんそれじゃあ、何にもならんよ。」「…片倉ぁ、お前わかっとらんなぁ。」「何が」「わしはさっきまで北高におったんやぞ。」「…あ。」「あそこはしっかりしとる。当時の入学書類とかもしっかり保管してあったわ。」「鍋島の入学書類か。」古田は片倉の肩を小突いた。「こいつには驚かされたわ。」古田は当時の戸籍抄本のコピーを片倉に見せた。「あいつ残留孤児3世や。」「なんやって?」「1972年の日中友好条約の締結を受けて鍋島の母親と祖父母が帰国。その後母親は日本人の男と結婚。そこで生まれたのが鍋島惇や。」古田は話を続ける。「どうやら鍋島は中学卒業と同時に、この石川県に来たみたいや。それまでは各地を点々としとる。それもおそらく鍋島の幼少期に両親が離婚したことが原因やろうな。あいつは母親に引き取られとる。」「それなら、その母親と直接会って鍋島のことを聞き出せばいいがいや。」「ほんなうまくいかん。鍋島の母親は入学時までは一緒に住んどったみたいやけど、高校の途中で中国へ戻ってしまったんや。子供を置いてな。ほやから、その後の消息は分からん。鍋島惇とその祖父母が石川県に残ったってことや。」「そうか、それなら卒業と同時に就職っていうのも理解できるな。」「ああ。」「各地を点々か。おそらくいろんな酷い目に会ってきたんやろうな。」「そうやろうな。元を正せば同じ日本国民。戦争が理由でかってに中国人扱いや。」「こっちやったらあんまり聞かんけど、都会のほうやったら残留孤児のマフィア化なんてもんもあるそうやがいや。」「そこや。」「北高からこっちに来る間に、自衛隊に照会したんや。鍋島惇について。」「おう。」「間違いなくあいつ入隊しとる。ほやけど1年で除隊しとる。」「なんやって…。」「その後の消息は不明。ひょっとするとそれから流れ流れて、地下組織に潜り込んだかもしれんな。」古田の仮定の話は続く。「仮にそうやとしよう。話は振り出しに戻る。あの手の奴らはこっちのシノギの人間と性質が違う。」「おう。」「手段を選ばんことだってある。」「ってことは。」「病院の横領にまつわる殺人事件にあいつが関わっとっても不思議じゃあない。」「その仮定に沿うなら、仁熊会との関わりもあっておかしくないな。」「それと、今回の熨子山の件。俺はどうも腑に落ちんがや。」「なにが。」「あの一色やぞ。頭脳明晰で難解な事件をことごとく解決するあいつや。こんなに分かりやすく『私がやりました』って証拠を残して連続殺人事件を起こすなんていうのが信じられんがや。」「確かに…。こいつが例のレイプ事件の報復やったとしても、計画的とは言えん。証拠が多すぎる。」「そこでこう考えることはできんやろうか。」「なんや。」「仮に2年前のコロシの目撃者がこの鍋島やったとしよう。んでこの鍋島が一色の剣道部の同期の鍋島やったとする。」「うん。」「一色と鍋島は知らん中じゃない。」「そうや。」「一色はその気になれば鍋島と奴と関係のある仁熊会にメスを入れることができる。その力を背景に鍋島を脅した。」「え?何?まさかトシさんは一色が鍋島に熨子山事件を依頼したってか?」「…ほうや。」「…一色がトシさんに言った言葉か。方法はあるって…。」少々話が飛躍をしている。片倉はそう思ったが長年、スッポン捜査を実行し結果を出してきた古田の推理を無碍に否定することはできなかった。今回の事件は証拠が多い。証拠から判断すれば犯人は一色だ。百歩譲っても重要参考人。とするならば推理などは必要ない。一色の手がかりを掴んで奴を確保すればよいだけ。しかし、その作業は捜査本部が現在やっている。ならば、こちらは捜査本部とは別の角度からこの事件の捜査するのもよいだろうと片倉は自分の考えを整理した。「片倉ぁ。わしは今回の事件に北高の交友関係が密接に関わっとるニオイがするんや。」「なんでや。」「考えてみいや。剣道部の同期のひとりでこんだけ話が膨れる。あいつの同期は12名。そのうち最も親しかったのが鍋島、佐竹、村上、赤松。」片倉は目の前の卒業アルバムの写を並べ直した。そして一色を中心に鍋島、佐竹、村上、赤松の4名を彼を挟むように配置した。5人の顔写真が平行に並んだ。「わかった、トシさん。この五つの線を洗いなおしてみよう。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more18minPlay
October 16, 201937,12月20日 日曜日 18時10分 古田宅このブラウザでは再生できません。「部長と穴山と井上の接点というのは、こんなところや。」「ふーん。…やるかやらないか…それが問題ってか…。」「ああ。」「んで、殺っちまったってか…。」片倉は手にしていたノートを一旦畳んで、天を仰いだ。「よしトシさん。要点を整理しよう。」「ん?」「一色は穴山と井上に何かしらの制裁を加えたかった。」「うん。」「そしてその制裁にはスピードが必要やった。」「そうや。」「仮に今回の事件がその制裁やったとせんけ。憎き豆泥棒(性犯罪者)は死んでめでたしめでたし。ほやけどスピードって点でどうや。」「そうやなぁ、決して早いとは言えん。」「穴山と井上を首尾よく殺したんはいい。だが、その後の桐本由香と間宮孝和はどうなる。こっちの方は一色と接点が見いだせん。」ふたりとも黙ってしまった。「片倉、ワシも初めは今のお前のように考えた。でも接点とかこだわっとると、なかなか自分の中のストーリーが展開していかんがや。」そうならそうと先に言えと言わんばかりの憮然とした表情で、片倉は古田を見た。古田は片倉の顔を見て失笑し、話を続けた。「すまん。まぁ聞いてくれや。さっき北高に行ってきたんや。」古田は背広のポケットから幾重にか折りたたまれた何枚かのコピー用紙を取り出して、畳の上にそれを広げた。「卒業アルバムの写や。全部で12枚ある。」そのコピー用紙一枚毎に一名の卒業生の顔写真がコピーされていた。それぞれ写真の下に名前と生年月日、そして当時の住所が記載されている。当然その中には高校時代の一色の顔写真もあった。「こいつらは何や。」「一色の部活動の同期連中や。」「部活の同期?それが何の関係があるって言うんや。」「まぁそう結論を急ぐなや片倉。いいか捜査っちゅうもんは、ひょんなところから手がかりが生まれてくるもんや。そのためには一見無駄と思える現場も手当たり次第当たる必要がある。」古田は12枚のコピー用紙の中から、一枚の紙を手にとって片倉の方に手渡した。「おまえ、こいつに見覚えないか。」渡されたモノクロの顔写真を見て、片倉はしばらく考えた。しかし思い当たる節はない。「じゃあこの写真は。」そう言って、古田はプリントされた別の写真を彼の前に差し出した。その写真は、遠いところからズームを使って撮影されたのか、荒い画像であった。丸型のサングラスをかけた男が車の側に立っている。セダン型の高級車の横で誰かを待っている様だ。「この丸サングラスの男と卒業写真をよーく見比べてみてくれ。」一方の顔の大部分がサングラスによって隠されているため顔の特徴を見出しにくい。しかし少し釣り上がった口元。頬のコケ方。これらは類似するのではないか。片倉は自分の頭の中で、卒業写真の方の男にサングラスをかけさせた。「あ…。」「ん?」「トシさん…こいつ…」「思い出したか。」片倉は唾を飲んだ。「鍋島惇。」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more6minPlay
October 09, 201936,12月20日 日曜日 18時28分 県警本部前このブラウザでは再生できません。「あれか。」アイドリングをしていた車のエンジンが切られ、中から男が二人現れた。ひとりは身の丈180センチはあるかと思われる体格のよい30後半か40前半の男。彫りの深い彼の顔つきと体格はどこか日本人離れした様子だった。一般的には男前と言われる部類の容姿を持っている。ゆっくりとした動作のひとつひとつが、直江に威厳を持たせていた。一方、もうひとりの男は彼と対照的だった。身長165センチほどの彼は小太りだった。胴長短足の典型的な日本人の体型をしている。高山の表情はどこか柔和であり、他人の警戒感を解きほぐす不思議な魅力を持っているようだった。親しみを覚えるその表情は、おそらく彼の肉付きの良さそして垂れ下がったその目つきからくるものなのだろう。直江と比べて、高山のほうが年齢は若く見えた。「おおっ寒い。」高山は車の外に出た途端、身震いをした。直江は彼の言葉に耳を貸さない。彼は少し身をすくめるだけで、そのまま県警の正面玄関の方へと足を進める。直江と高山とでは歩幅に歴然とした差がある。高山は直江に離されまいと小走りに続いた。正面玄関から手に鞄を持った痩身の男が現れると、玄関前に立っている警官が機敏な動作でその男に敬礼をした。彼それに軽く応えては正面に待たせてある黒塗りの車両に乗り込もうとした。「朝倉本部長ですね。」自分の名前を呼ぶ声に朝倉は振り向いた。「東京地検特捜部です。」直江と高山の二人がコートを着た姿で立っていた。「東京地検特捜部?」「はい。ちょっとお話を伺いたいことがありまして。ご協力くださいませんか。」「わたしに?」「ええ、そうです。」警戒している朝倉の様子を察したのか、高山が朝倉に一枚のメモを渡した。柔和な彼の表情に少し緊張を解されたのか、朝倉は素直にそれを受け取った。メモには市内のホテルの名前が書かれていた。「…わかりました。これから行きましょう。」朝倉は渡されたメモを両手で丁寧にたたんでそれをポケットにしまった。「どうぞ、車に乗ってください。」「いいえ、私たちも車で来ています。後ほどホテルのロビーでお会いしましょう。」そう言って直江と高山はその場を後にした。朝倉は待たせてある警察車両に乗り込んで、そのドアを閉めた。「ふーっ。」深く息をついた瞬間、彼の胸元が震えた。朝倉は胸元から携帯電話を取り出して誰からの着信かを確認した。朝倉はその名前を見るやいなや、深く座っていた体勢を一旦あらためて、背筋を伸ばしその電話に出た。「お疲れ様です。朝倉です。お久しぶりです。えぇ…。そうですね…。はい。えぇ。はい…。当然、私の責任です。今回の判断はあくまでも私の独断です。ですから責めは私が全て引き受けます。ええ、ええ、はい。そうですねおっしゃるとおりだと思います。そうです。どうしてあんな人間をこっちに派遣したのか…解せません。」朝倉を乗せた警察車両は、県警本部から金沢駅までまっすぐに走る片側4車線の道路を軽快に走る。車窓から北陸特有のボタ雪が降っているのがわかった。北陸の雪は北海道などと比較して、気温が高く、空気中に水蒸気を多く含むため、ベチャッとした雪質の時が多い。水分を多く含むため、それが降る様子はボタボタと落ちてくるようで、こちらの方ではボタ雪と呼ぶ。そのボタ雪が窓ガラスに張り付いては溶けて水となり流れ落ちる。そのさまを見ながら朝倉は電話の向こう側の相手と話をしていた。「いまから特捜と会います。えぇ…。要件は分かりませんが…。えぇ、分かりました。また詳細がわかりましたら報告します。」電話を切ると朝倉は運転手に共通系無線の音量を上げるように指示した。無線の通信内容は当然、熨子山連続殺人事件の捜査に関する内容のものが飛び交っていた。「本部より各所。現在までの検問状況をすべてデータで送れ。」「了解。こちら大聖寺中署、熊坂の検問状況を今から送る。」「了解。こちら津幡東署。倶利伽羅の検問状況を今から送る。」ー現場の捜査員の判断を優先せずに、データを吸い上げてそれをすべて自分たちで分析か。機動的とは言えんな…。無線の様子を聞いていた朝倉は、心のなかで松永を始めとする捜査本部の手法に苦言を呈した。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more9minPlay
October 02, 201935,12月20日 日曜日 17時20分 古田宅このブラウザでは再生できません。県警本部から車で10分離れた金沢駅の近くに古田が住むアパートがあった。築15年。古田は離婚後、この木造二階建ての質素な作りのアパートに引っ越してきた。2DK、畳式の間取りは、古田ひとりが生活するには充分のスペースである。このうちの一部屋は古田の趣味でもある仕事部屋に割り当てられている。捜査に関する資料を外部に持ち出すことは禁じられているが、個人的に書き留めたメモ類であるとして古田はそれらを自宅に保管していた。無論このメモを見ることができる者は彼以外にない。古田のメモ魔ぶりは県警内部の一部では有名だった。聴取する古田の手には必ずメモ帳があり、話し手の一言一句も逃さぬように書き留めた。捜査に対する執念深さもそうだが、このメモ魔ぶりが彼をスッポンの異名を持たせる所以でもあろう。古田は部屋に吊り下げられた電灯のひもを引っ張ってその部屋の電気をつけた。「こらぁすげぇわ。」灯りによって明らかになった室内の畳に散乱するメモ帳やノートの量に片倉は立ちつくして驚嘆した。「トシさん。これ、どれから手ぇ付ければいいんや。」片倉は半ばあきらめ口調で古田にいった。「先ずは今回のガイシャから行ってみようか。」そう言うと古田は畳の上にどっかと腰をおろし、一枚の分厚いノートを片倉に差し出した。ノートの表紙には7月備忘と記されている。古田のメモは今まで誰も読んだことがない。門外不出の捜査資料だった。片倉と古田は旧知の仲ではあるが、今回初めて古田の虎の巻を読むこととなった。「三年前のことがここに書いてある。」「レイプのことか。」「ほうや。7月19日あたりを読んでみぃ。」片倉は古田に言われたとおり、ページを捲りその部分を読み始めた。「なんかわからんが、とにかくそのあたりの部長は様子がおかしかったんや。部下に出す指示も精彩を欠いとった。捜査らしい捜査もされとらん有様やった。ほやから、こっちからちょっと休憩でもしましょうかと誘ってみた。」「トシさんがか。」片倉は驚いた。協調性という言葉からは縁遠い存在であった一色が、部下である古田の呼びかけに応じて休憩をとるなど彼の常識からは考えられない行動だった。手元のメモを読むと場所は県警本部喫煙所とある。「は?喫煙所?」「ほうや。」「え?喫煙所って、あいつタバコ吸うんか?」「まぁ読んでみぃま。」そう言うと古田は自分のタバコに火を付けだした。三年前 7月19日 雨 16時13分 最近の一色の様子がおかしいことを気にしていた古田は、彼に休憩を勧めた。いつもなら大きなお世話だ、そんなことを気にする暇があるなら仕事をしろというのが一色という男だ。しかしこのときは違っていた。彼は古田の勧めにすんなりと応じた。「トシさん、ちょっと喫煙所にでも行かないか。」「え?ワシ…もですか?」「ああ。」「っちゅうか…課長、タバコ吸うんですか?」「そんなに驚くなよ。」今まで一色がタバコを吸う姿を見たことがなかった古田に、驚くなというのは無理な話だ。二人は県警本部内にある喫煙所に入った。中には二人以外の誰もいなかった。「悪いがトシさん。一本恵んでくれないか。」古田はタバコの箱をそのまま一色に渡した。一色はその中から一本抜き取り、何のためらいもなくそれを咥えた。古田はすかさずライターで火を起こす。一色は右手でその火を囲いながら自分の顔を近づけ、二度ほど吸ったり吐いたりして火がついたことを確認し、おもいっきり紫煙を吸い込んで吐き出した。古田はその慣れた仕草に再度驚いた。「それにしても一体どうしたんですか課長、最近様子が変ですよ。らしくない。」そういうと古田もタバコ咥え火をつけた。「トシさんあんた、大事な人がレイプされたらどう思う。」「え?」唐突な質問に古田は困惑した。そしてその意図を測りかねたので、一般的な切り返しをした。「課長、捜査に私情は禁物なのは、あなたが一番ご存知のはずですよ。」「あぁ…そうだな…。」「ええ。」「だが捜査じゃないんだ。」「捜査じゃない?」「ああ。」「え…?」古田は一色の意図が分からなかった。一色は背広のポケットからおもむろに二枚の顔写真を取り出して、目の前のテーブルの上に並べた。「ひとりは穴山和也。もう一人は井上昌夫。こいつらがホシだってことはもう調べが付いている。」古田はその写真を手にとって穴山と井上の顔を見た。そしてしばらく考えた。「あの…課長。このホシはどの事件と関連しているんですか。」「事件にはなっていない。」「は?」「俺の交際相手をレイプした野郎だ。」「え…。」古田は絶句した。そしていつものように自分の感情を表に出すことなく、淡々と古田に話しかける一色の様子が非情にも感じられた。「それは…。」「被害者は親告していない。だから事件にもなっていない。だがホシは割れている。おれはこのやり場のない怒りをどこに向ければいいんだ。」一色に掛ける言葉を古田は見いだせなかった。「ったく…。被害者保護って何なんだ。法治国家って何なんだ。なぁトシさん…。」こんなに感情を顕にした一色を古田は見たことがなかった。普段は雄弁に物事を語らない一色だったが、この時ばかりは違っていた。古田が話を聞き出そうとする前に、彼の方から言葉を発する。古田は相づちを打つ程度のことしかできない。「強姦は性の殺人のようなもんだ。殺された人間がどうやって私はヤラれたって言うってんだ。死人に口なしなんだよ。」「おっしゃるとおりです…。」「で、殺した当の本人は普通に生活を営んでいる。なんの咎めを受けることなくだ。一方ヤラれた人間は生涯殺され続ける。…不条理だ…世の中は。」「…何とかして被害者からの親告をうけるということはできないんでしょうか。そうすれば、そいつらに法の裁きを…。」「無理だ。被害者は今とてもそんな状態にない。それにトシさんもこの手の事件のことは知ってるだろ。」知っている。警察の仕事をやっていればそれぐらいのことは常識だ。取り調べや裁判の過程において当時の状況を克明にされることで、忌まわしい記憶を呼び覚ますなどのセカンドレイプの問題もある。「考えてみてくれ、そもそもこの国の性犯罪の刑事罰が軽すぎるんだ。今回のような集団強姦罪でもせいぜいで4,5年だ。それにブタ箱に放り込んだところであいつらは再犯率が高い。ムショから出ることは飢えた狼を再び羊の群れに放つのと同じことだ。」「ええ、おっしゃるとおりです…。」「ゴミクズめ。」古田は感情が昂ぶりつつある一色の様子を見て、もう一本のタバコを差し出した。一色は軽く手で頂く合図をして再びそれを咥えて火をつけた。大きく煙を吐き出した彼は少し落ち着きを取り戻したようだった。「泣き寝入りはさせない。」「しかし、課長。現状の法体系では被害者による親告がないことには、この手の犯罪に警察としては打つ手がありません。」「知ってる。でも親告は無理だ。」「んならこの腐った法律を変えるとかせんとどうにもなりません。」「それじゃあ時間がかかるんだよ、時間がかかると証拠もなくなる。しかも結果が出るとは限らない。」「ではどういう方法が?」「方法はある。やるかやらないかそれだけが問題だ。」ここで一色の携帯電話が鳴った。古田の記録はここで止まっていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more14minPlay
September 25, 201934,12月20日 日曜日 17時30分 フラワーショップアサフスこのブラウザでは再生できません。開発が進んでいるとは言え熨子山の麓に位置する田上は、金沢の中でも雪深い地区であった。車の窓から外を眺めるとアサフスのある一帯は一面銀世界となっていた。アイドリングしたままの車内にいる佐竹はアサフスに入店する機会を伺っていた。駐車場には彼の他に1台、客のものと思し召しき車両が止まっていた。客が店を離れるのを待ちながら、ふと彼は思った。ーさっきもこの店に来て、今またここに来るなんて不自然じゃないか?冷静になって考えて見れば、佐竹のこの気づきは至極当然のこと。先程は旧友に会いに来たついでに、社交辞令的に花を購入した。その理由は対応してくれた女性店員があまりにも魅力的であったためだ。彼女に接近するきっかけを得ただけで急に馴れ馴れしく接しようというのは不自然極まりない。不自然な言動はかえって相手に疑念を抱かせることになる。それにアサフスは桐本由香の死をうけて、日常を保っている状態ではない。こんな時に手土産持って、再度お伺いというのは空気を読めない行動の最たるものではないか。先程と同じく客がいなくなるのを見計らって店に入ろうとしたが、ここで佐竹は浮き足立っている自分と向きあって立ち止まった。功を焦るあまり必敗の地へ誘われ、見事討ち取られた先人たちの姿が、ふと彼の脳裏に浮かんだ。ー焦るな佐竹は自分に言い聞かせた。しかし一方で自分の行動を擁護する自分がいることにも気づく。兵法に「天地人」という言葉がある。天の時、地の利、人の和。地の利や人の和というものは自分の行動や努力如何で何とかできるもの。言い換えれば人智が及ぶ範囲。しかし天の時となるとそうはいかない。こればかりはタイミングだ。佐竹には今、赤松という味方と地元金沢という地の利がある。奇しくも今日は12月20日。世の中がカップルムードに染まるクリスマスの直前である。この点で今は天の時と捉えようとする自分がいた。山内美紀はクリスマスを共に過ごす相手がいないことは事前に赤松から聞いている。ーどうする。そうこう考えているうちに、客が店から出てきた。ーええい、ままよ。とりあえず彼は助手席に置いてあった、ケーキを手にしてアサフスへ向かった。「こんにちは…。」はっきりしない声色で発せられたかれの挨拶は、気持ちの整理がついていない様子を表している。その彼の声を聞いて店の奥から応える声が聞こえた。山内美紀のものではない声を耳にして、佐竹は一気に落胆した。声の主は赤松の母親の文子であった。佐竹を見た文子は意外そうな表情だった。「あら、ひょっとして…佐竹くん?」「ええ…。」高校時代に佐竹は赤松の家にときどき遊びに来ていた。その度に文子とも話をした。部活動のこと、勉強のこと、先生は怖くてかなわないなど。文子は面倒見が良い女性で、剣道部の仲間が遊びに来ると彼らの話に耳を傾けいつも茶と菓子を出し、彼らをもてなしてくれた。そんな彼女は剣道部の連中にとっては第二の母親のような存在でもあった。佐竹にとって文子との再会は高校卒業後以来のことだ。「久しぶりねぇ、元気しとった?」「ええ…まぁこのとおり、ぼちぼち生きています。」「何年ぶりになるかしらねぇ。」「高校卒業以来ですから、18年ぶりですかね。」18年の歳月が皺を刻みこんだ文子の表情を作り出していた。「で、どうしたん?剛志け?」「ええ、ちょっと渡したいものがあって…」文子はそう言う佐竹の手元を見た。左手に洋菓子屋らしき印刷が施された紙袋を下げているのを確認した。「あらぁ、どうしたん佐竹くん。久しぶりに来たと思ったらお土産なんて。」「いえ、別に…」このやりとりから分かるように、文子は先ほど佐竹がアサフスに来店したことは知らないようだ。「あの…赤松は?」「あぁ剛志は今外に出とるんよ。そうやねぇあと15分ほどしたら戻ってくるんじゃないかしら。」「そうですか。」佐竹は文子と話しながら店の様子を探った。店には文子以外の誰もいない。佐竹がお目当ての山内美紀もいないように見受けられた。「ここじゃなんやし、家にでも入ってゆっくりしていって。…って言いたいところやけど…いまちょっと家の中バタバタしとって…。」ーしまった、変に気を遣わせると邪魔者になってしまう。「あ、いえ、僕は大丈夫です。赤松がいなんだったらこいつを皆さんで召し上がってください。」そう言うと佐竹は手に持っていた袋を文子に差し出した。「いややぁ、佐竹くん、困るわぁ。」文子は遠慮しながらも佐竹が差し出す袋を受け取った。「仕事のちょっとした合間にこいつでも食べて元気を出してください。」佐竹の顔を見てにこりと笑を浮かべ文子は言った。「ありがとう。」文子の笑みをみて佐竹はどこかほっとした。「じゃあ僕はこれで。」そう言って佐竹は店を後にしようとした。「佐竹くん。」背後から文子が呼んだ。「佐竹くんは一色くんと連絡とっとるん?」思いもかけない問いかけに佐竹の体は硬直した。ーえ…いま、何て…「佐竹くんやったらひょっとして一色くんと連絡取り合っているかもって思って。」ーなんで…。一色なんか…と?「あ…いいげん。ごめん。ちょっと聞いてみただけなんやわ。」「…。」「佐竹くん?」「…俺は…あいつとは一切連絡とっていません。」そう言って佐竹は、足早にアサフスを後にした。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more11minPlay
September 18, 201933,12月20日 日曜日 17時12分 金沢駅このブラウザでは再生できません。はくたか13号が金沢駅に進入してきた。時刻は17時12分。到着時刻は17時13分であるから定刻通りだ。東京から北陸までの電車での道程は一般的に新潟周りの路線が選択される。東京から越後湯沢までは上越新幹線。その後特急はくたかに乗り換える。はくたかに乗り換えてしばらくして、雪のため運行ダイヤが乱れるかもしれないとの車内アナウンスがあったが、日本の交通インフラは世界に冠たるものだ。電車は金沢駅のホームに滑り込む。最終的には一分の狂いも無く金沢に到着することができた。学生風の若者は携帯音楽プレーヤーのイヤホンからシャカシャカと音を漏れさせながら、窓からホームの様子をのぞき込んでいる。ビジネスマン風の男はおもむろに携帯電話を取り出しどちらかにメールを送っている。この車両乗降口に直江はいた。彼が立つ3両目と4両目の連結部の乗降口には彼を含めて三人の男が立っていた。ひとりは疲れたスーツを着たサラリーマン風の男。もうひとりは直江とともに金沢にやってきた高山であった。電車が止まり、ドアが開いた。人気のないホームにアナウンスが響く。「終点金沢、金沢です。お忘れ物のないようにご注意ください。ご乗車ありがとうございました」直江と高山はサラリーマン風の男の後に続いた。二人は無言のまま改札口まで向かった。金沢駅の改札口は有人であった。改札を抜けると目の前に駅ナカのコンビニが見えた。「直江さん、腹減りませんか。」「そうだな、あそこで何か買ってホテルで食うか。」そう言うと二人は駅の構内の隅に陣取ったコンビニに入り、弁当とお茶をもってレジに並んだ。直江が先に会計を済まし高山が続く。二人は駅の外に出ると身を屈めた。12月の金沢の夕風が二人の体を冷たく包んでいた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more6minPlay
September 11, 201932,12月20日 日曜日 17時03分 金沢駅付近このブラウザでは再生できません。混み始めた幹線道路に一台のトラックが走行している。ウィンカーを出すタイミングとハンドルをきるタイミングが極端に短く、大きな車体を乱暴に操りながら車の間を縫うようにそれは走っていた。傍目から見ればかなり乱暴な運転である。「あの…」助手席にいた美紀が不安そうに口を開いた。が、運転席の赤松は無言である。「危ないと思います…。」美紀がそういうのも無理もない。赤松がハンドルをきる度に車体が傾き、遠心力で彼女の華奢な体がシートの座面を滑るほどである。赤松は彼女の言葉に反応を示すこと無く、ただひたすら前を向いて無言で運転している。焦っている様子はない。無表情に近かった。普段は美紀に気さくに話しかけ、丁寧な運転をする彼であるだけに彼女は不安になった。ヒヤッとするたびに両足に精一杯の力が入ってしまう。「…社長。わたし、何か失敗しましたか。」信号待ちとなり、ふと助手席に座っている美紀の顔を見ると、目に涙を浮かべ今にも泣き出しそうだった。それを見て赤松は我に帰った。ーしまった…。桐本さんの娘さんのことがあったってのに、俺といったら…。「すまん…。」信号が青になった。発信するときの彼のクラッチの繋ぎはいつものようにスムーズなものになっていた。「君には一切関係の無いことや。俺が悪かった。謝る。」赤松の頭は母の文子から聞かされた、父親の死の真相でいっぱいだった。いや、真相かどうかは分からない。母の推測も多分にある。赤松は父が自分の知らないところで闘っていたことは初めて知った。しかも誰にも相談せずに、一人で抱え込んでいたようだ。そのために事故を装い、この世から葬られた可能性があるという事まで知った。ー親父…何で…。今日は凄まじい勢いで自分の周辺に変化が起きている。未だかつて無い激動の一日だ。自分の様子がおかしくなるのも無理もない。店に帰れば、妻の綾は塞ぎ込んだまま。近所の桐本家にも弔問にいかねばならない。この両者にはいったいどう言葉をかけていいか、分からない。そうこう考えるだけで、精神的にまいって来てしまう。そこに父の死の謎という大きな問題がふって湧いて来た。旧友である一色は連続殺人事件の容疑者。数年ぶりに訪ねて来た友人佐竹に、今自分の隣に座っている美紀はどうかと工作中。これほどまで自分の分身が欲しいと思った事はないだろう。車が兼六園下の交差点で止まった。車窓から外をずっと眺めていた美紀がふと言葉を発した。「今日は、天気が悪いのに人が結構いますね。」赤松は美紀が見ている方を見た。そこの兼六園下の交番前には複数のアベックが手をつなぎ、信号待ちをしている。ふと、赤松の頬に一筋の流れるものがあった。ー桐本さんの娘さんも、今日はこうなるはずだった。外は降雪のため非常に寒い。しかしアベック達は一様に笑顔である。 手と手を握りしめ、寒さに身をすくめながらも愛し合う者同士、共有する時間を満喫している。山内美紀は彼の様子を見て何も言えなくなった。降雪のため、普段より静寂さが増した車内には沈黙だけが続いていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more8minPlay
September 04, 201931,12月20日 日曜日 17時16分 民政党石川県支部このブラウザでは再生できません。村上は民政党石川県支部の三階にあるホールの外にいた。受付に置かれたパイプ椅子に腰をかけて彼は携帯電話を触っていた。ホールの中では本多善幸が支援者に対して、国土建設大臣就任の挨拶を先ほどから述べている。「村上君。」パリっとした身なりの小柄な男は村上の前に立って声をかけた。「あっ専務。」村上は慌てて携帯電話をしまい、彼の前に直立不動に立った。声をかけてきたのは本多善幸の実弟、本多慶喜だった。「ああ、いい、いい。君も疲れているだろ。座ってなさい。」そう言うと男は村上の隣に座った。「恐れ入ります。」「とうとうここまで来たな。」「はい。」「やはり今日は多いな。」「はい。先生に対する期待の現れです。」慶喜はふっと笑みを浮かべた。「いや、地元選挙区で兄貴の代わりに飛び回ってくれた君を始めとする、優秀なスタッフがいたからこそだと俺は思う。」「ありがとうございます。」「あのな、小松空港で兄貴と話をしていたんだ。そろそろ我が党も新しい候補者を出さんといかんってな。」村上は本多慶喜の言葉を聞いて身構えた。「君も知っているだろう。石川3区の件だ。」石川3区は奥能登の珠洲市から金沢市北部に隣接する津幡町や内灘町までの能登地区を中心としたエリアである。小選挙区制が導入されてから、与党民政党は勝ち続けた。特にこの石川3区においては負けなしの実績を誇っている。しかし、近年の不況を背景に現政権の経済制作に不満を持った国民の支持は野党政友党へとシフトしてきており、次期総選挙においては、この石川3区でも民政党が苦戦を強いられるのは間違いないと考えられていた。現在の石川3区選出の議員は高齢で今期をもって引退する事を既に表明している。そこで以前からこの選挙区の民政党の候補者を誰にするかという話題は上がっていたが、未だその結論は出ていない状況だった。「あそこは今度は相当大変な選挙区になる。できれば従来の枠にはまらない話題性のある候補者がいいという事になってきている。」「そのようですね。」「そこで畑山君が良いのではないかと私は思っている。」「…畠山さんですか…。」「なんだ、不服か。」慶喜は怪訝な顔をした。ーまた慶喜の暴走が始まった。畠山は本多善幸の最古参。東京第一大学卒業後、旧大蔵省に入省。10年間同省で勤務後、民間のシンクタンクへ転職。その後本多の秘書となった。現在48才。その卓越した政策立案能力は民政党の代議士の間でも一目おかれる存在であり、現に同党の代議士から引き抜きの誘いがあったほどだ。このような華々しい経歴と能力、若さを兼ね備えた人物が、次の総選挙で立つ。順番としては妥当だ。「不服ではありません。順番として最も適切な人物です。」そう言った村上の表情は、明らかに先程と比べて曇ったものとなっていた。ー話題性も何も無いじゃないか。従来通りの学歴・キャリア重視だよ。「君も知っている通り彼は非常に頭がいい。そして民間経験も豊富だ。しかし、だ…。」「人心掌握の面で難有りですな。」慶喜は自分の意図するところを、憚ること無く続けて言い放った村上の顔を見た。そしてしばらく黙り村上と目を合わせないように続ける。「君の言うとおりだ…。そのため彼を立てるとなるとその補佐役が見つからんのだよ。」ーいかん。この流れは俺にその補佐役をしろとでもいうような流れだ。「畠山さんは非常に頭がいい。しかしあの方は相手に対して自分より頭が悪いと判断すれば、見下してしまう嫌いがあります。選挙を勝ち抜くとなるとそういった姿勢はいけません。選挙民だけならいざ知らず。自分の手足となって動いてくれる秘書についてはなおさらです。彼の特性を理解して、彼の代わりに選挙民に頭を下げて選挙活動が出来るくらいの度量をもった人物でないと補佐役は務まりませんね。私もあの人にさんざんいびられた口ですので、その大変さはよく知っています。誰が彼の補佐役が務まるか…。」「君だ。」先程から村上と目を合わせないようにしていた慶喜は、村上の目の前に立ち、彼の目を見て言い放った。「は?」「君にその役を引き受けて欲しい。」ーほらきた。そんな大変なお役目はごめんだ。「兄貴は君の仕事ぶりを評価している。厳しい戦いを強いられる石川1区で勝ち続けられたのは、君の力によるものが大きいと言っているんだよ。だから、その力をもって次の選挙で政友党を駆逐してもらいたいんだよ。」村上はしばらく考えるフリをした。はじめからそのような損な役回りは受けかねると決めていた。第一、選挙に大した協力もしていない慶喜が、善幸の実兄であると言うだけで細かいことに口出ししてくることが気にくわない。民政党石川県支部の後援会組織でも畠山の評判はすこぶる悪い。善幸自身も政策能力は評価しているが、政治家向きではないと以前自分に漏らしていた。おそらく畠山が慶喜とその周辺をとりこもうとして動いているのだろう。「畠山さんの件、先生は了承されていらしゃるのですか。」「いや、君がこの件を承知してくれれば話ができる。」ーやっぱりか。これだから外野ってのは困る。好き放題言うだけだ。政治ごっこに付き合ってる暇はない。「残念ですが、私は善幸先生の秘書です。先生のご命令なら従いますがこの件はそうではありません。いくら慶喜さまのご依頼と言えども先生の了承無しの単独行動はいたしかねます。」村上の返答を聞いて慶喜は憮然とした表情であったが、しばらくして不敵な笑みを浮かべた。「村上くん。君の同級生に佐竹という男がいたな。」突然の話題の転換に村上は不意をつかれた。「君の経歴に興味があって調べさせてもらった。高校の同級生だな。」「…はい。」「今でも時々連絡を取り合っているのかね。」ーなぜ、こんなことを聞く。「ええ…まぁ…時々ですね。」「佐竹くんの当行での仕事ぶりは優秀だ。そして君も優秀だ。金沢北高は優秀な人間の集まりだな。」「ありがとうございます。」ーなんだ、突然気持ち悪い。「わかるよな。」「…いえ、おっしゃる意味がわかりませんが。」「鈍いな。彼の出世だよ。」会場では善幸の演説が終了したのか、満場の拍手が彼らふたりのいる場所まで漏れて聞こえていた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more12minPlay
August 28, 201930,12月20日 日曜日 16時50分 金沢市香林坊このブラウザでは再生できません。石川の流行と活気の集積地である香林坊に佐竹はいた。クリスマスという時期はだれかに何かをプレゼントする時期。ただそう言う理由だけで先ほどまで女性に人気のプレゼントについて調べていた。ネットが教えてくれたのは彼女らがもらって嬉しいプレゼント第一位は指輪だということ。彼氏や意中の人から貰うという前提があるのだが…。ほんの数時間前に佐竹はアサフスで山内美紀という女性に出会った。彼はこの女性に一方的に惹かれた。ついさっき初めて会って、ひと言言葉を交わしただけの関係。こんな関係性で貴金属類のような高価なプレゼントを渡すのは相手にとって押し付けがましく、重い。嫌われる事てきめんである。バッグや財布等といったものも同じだ。その他に何か気の利いた良いものはないかと佐竹はこの香林坊に来たのだが、ヒントは得られなかった。つまり佐竹にとってそういったプレゼントを渡すのは時期尚早であるという事である。香林坊にきてようやくその事に気づいた彼は、クリスマスを控えて活気づく街を眺めながら歩いていた。一軒の洋菓子店の前を通りがかった。古くからあるような店構えで、若年層や最近の流行に媚びる様子は見受けられない。「洋菓子・ケーキ」と飾りっけのない丸ゴシック体のような書体をペンキかなにかで直に書いた様な看板がかけられていた。―せっかくだからケーキでも買って帰るか。そう思って佐竹はその洋菓子店に入った。店には誰もいなかった。店内は外観とは違ってこぎれいであり、ショーケースの中には隙間なく整然と数種類のショートケーキとシュークリームが置かれていた。そのギャップに佐竹は少し期待をした。―ひょっとして隠れた名店発見か。佐竹は「すいません」とやや大きな声を出して店の者を呼び出した。すると年老いた女性がゆっくりとした動作で店の奥から出てきた。老いてはいるが、どこか品を感じさせる女性だった。佐竹はショーケースの中にあったショートケーキを三つ注文した。するとその老女は話しかけてきた。「誰かにあげるんけ?」「いや、自分ひとりで食べますけど。」「ほうですか。お客さん甘いもん好きですか。」「いや、そんなに食べない方ですけど、何か久しぶりに食べたくなって。」「んなら、これおまけしときますわ。」そういうと老女はショーケースの中にあったシュークリームを二つ取り出し、一緒に紙箱の中に入れた。「冷蔵庫に入れといたら明日まで保ちますから、試しに食べてくださいな。」佐竹は遠慮をして一度断ったが、好意でやってくれているサービスを無下に断るのもいかがなものかと考えたのか、すんなり頭を垂れて感謝の意を表した。店の外に出ると、再びちらほらと雪が舞ってきていた。ーしかし弱ったなぁ…。こんなにたくさんのケーキ、俺食えないぞ…。自分の車が止めてある駐車場に行く道すがら、香林坊の店々からクリスマスソングが流れてくる。ー誰かに分けるってもなぁ…。ふと両親の姿が思い浮かんだ。佐竹は就職を機に一人暮らしを始めた。一人前に給料をもらう歳になったら、身の回りの事は自分でやれという両親の方針によるものだった。盆暮れには一応実家に帰っているが、それ以外で両親と顔を合わせることは基本的になかった。親には特に孝行らしいこともしていないので、意表を突く形でこれを持って行っても良いと思った。しかし、彼の脳裏によぎるものがあった。山内美紀の存在である。この香林坊にやって来た主たる目的はケーキを買う事ではない。彼女に渡すさりげないプレゼントを物色するために来たのだ。―そうだ、こいつを何となく渡してみるか。理由はどうとでもなる。先ほど赤松には花代をサービスしてもらった。そのお礼として、店のみんなで食べてくれという事ならば渡しやすい。佐竹は両親には悪いと思いながらも、この考えは我ながら妙案だと思い、駐車場へと向かった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more8minPlay
August 21, 201929,12月20日 日曜日 16時42分 熨子山連続殺人事件捜査本部このブラウザでは再生できません。「大変です。」ひとりの捜査員が血相を変えて勢い良く捜査本部に入ってきた。「何だ。手がかりが見つかったか。」自分の頭の中をツリーのように書き出したホワイトボードと向かい合って座っている松永は右手に持ったマーカーをくるくると回しながら、ぶっきらぼうに言った。「いえ、新たに被害者が出ました。」松永の手が止まった。「何だと。」「先ほど七尾中署から連絡があり、顔面を鈍器のようなもので複数回殴打された遺体を発見とのことです。」「顔面をか。」「はい。死因と身元を特定するために、現在、金沢の石川大学医学部付属病院へ遺体を搬送中とのことです。」「いつ到着予定だ。」「18時半ごろです。」「詳しい犯行現場は。」「七尾市街地のとあるアパートの一室だそうです。」「第一発見者は。」「分かりません。電話での通報です。『人が死んでいる』と言って一方的に電話を切ったそうです。男の声だったようです。」松永はゆっくりと立ち上がって拳を強く握りしめた。そしてその拳を目の前のホワイトボードめがけて叩き付けた。―奴だ。一色が通報したに違いない。「くそっ!!」捜査本部の捜査員たちは手を止めて、松永の方を見た。「矢継ぎ早にコロシか。そうか、捜査を攪乱するつもりだな。おもしろい。やれるもんならやってみろ。お前がコロシをすればする程、手がかりは多くなる。」松永はホワイトボードに貼付けてある一色の顔写真を睨みつけて、独り言を言っていた。「関。」「はい。」「指名手配だ。」「了解いたしました。」「奴の行動範囲は俺が思っていたよりも広範のようだ。全国の警察の協力を仰げ。」「はっ。」続けて松永はそばにいた捜査員に指示を出した。「おい。」「はっ。」「熨小山付近と金沢市全域に重点的に配置していた警備人員を石川県境に移せ。犯人を石川県内に封じ込めろ。県境の主要道を封鎖するだけでは手ぬるい。犯人逃亡のルートになる可能性がある道という道は押さえろ。」「了解いたしました。」―必ず尻尾を掴んでやる。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【公式サイト】http://yamitofuna.org【Twitter】https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVMご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。すべてのご意見に目を通させていただきます。場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。...more5minPlay
FAQs about オーディオドラマ「五の線」:How many episodes does オーディオドラマ「五の線」 have?The podcast currently has 149 episodes available.